春と、桜。と、雪。(仮)

k

 わぁ、綺麗な人だ……。

 由紀は、歩いていた足を止め、その人を見つめる。

 病院の中庭に立つその男性は、桜の樹を見上げている。

 春の爽やかな風に、彼の茶色がかった髪がふわりと揺れる。

 病的なほど真っ白な肌に、髪と同じに茶色っぽく、切なげな目。そして、不思議なまでに整った顔。

 だが、由紀が綺麗だ、と思ったのは、整った容姿だけではなく、雰囲気だった。桜の樹を見つめ佇む、大袈裟に言って神秘的なほどの美しさと、脆く壊れてしまいそうな儚げさに、目を引かれた。

 桜の妖精みたい。子供っぽいなぁ、と思いながらも、由紀は幼い頃に大好きだった花の妖精達に考えを巡らせる。キラキラしていて綺麗で、キャラクターの中で一番好きだった桜の妖精。


 またふわりと風が吹き、由紀は何の為にここにいるのか思い出す。

 止まっていた時が動き出し、急いで病院への階段をのぼっていく。


 静かで少し暖かくなった春の風で、桜の花びらが舞い落ちる──。














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春と、桜。と、雪。(仮) k @AonoHibiki

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