【#1】小説家になれない男の人生を実況してみた@神様

いも

#1

ここは天界。

老若男女無性両性さまざまな神様たちが暮らすゴージャスなワンダーランドだ。

生物や環境に干渉する神様はごく一部。

ほとんどの神様は暇で暇で仕方がなかった。

エンターテインメントに飢えているのだ。


そんな中、人間の人生を見ながら感想を喋っている様子を映像化する、"人生を実況してみた"という動画が神様インターネットで流行の兆しを見せていた。


***************



 どうも~!God morning! 神様だよ~!

 今日は、神様ならではの目線で、下界の人間を実況してみようと、思います!

「ただいま……」

 おっと!さっそく今回のターゲット登場だ。

 浅田浩紀あさだひろき26歳。男性。誰もいない自宅に帰ってきてこの一言。

 少し猫背でいつも暗い表情の彼は、今日も平常運転のようです。

(まじであいつ消えてくんねえかな)

 おおっと、突然のバイオレンス!心の中でとは言え恐ろしいのが出ました。

 そう、今回の彼は独身一人暮らしゆえあまり喋りません。なので神様の力である"心を読む力"によって聞こえる声もキャプチャーしております。これにより、地味な絵面が続き過ぎない動画作りが可能となっております!

 さてそれにしても、なぜこんなにもくたびれている上に殺伐としているのか。

 彼の現在を軽く補足しておきましょう。

 大学を卒業後、一度は就職したものの、早々に言い渡された転勤辞令に耐えかねて辞職。現在は本屋さんで絶賛フリーター中です。

 本屋さんの業務は過酷の一言に尽きる。立ち読みした本を元の位置に戻さないお客。レジ打ちの店員を人だと思わない対応のお客。簡単な業務ばかりだからと従業員を増やさない上司。なのに一人で頑張っても上がらない給料。

 どれを取ってもいいことなんて無い、というのは浅田くんの言葉。

 本が好きだからと始めた仕事に日々不満ばかりが積もっていく。

 そんな中今日は、常連のお客に「ポイントカードはお持ちですか?」と聞いただけで舌打ちされたことに怒っているようですね。

 さて、動きがあったようです。

(さて、小説書かないとなぁ……)

 Tシャツに短パンと、もはやあとは寝るだけと言わんばかりのラフなフォームに着替えてきました。そうして向かうは、お菓子のゴミが生活感を物語るシンプルな黒い机だ。脇のゴミ箱に机の上のゴミを放り投げて、いま、着席です。

 ところで心の声で"小説"という言葉が出てきましたが、そう、何を隠そうこの浅田くんは、小説家になりたいという気持ちがあるんですねぇ!いつか面白い小説をヒットさせて優雅に印税生活。うざったらしい客どもを見返してやろうと常に考えているのです。

 気合を入れるために奮発して購入したちょっと高級な文章作成ソフトを使う彼は、パソコンで執筆活動をしています。

 パソコンのスイッチを押し、起動を待っている間に何をす……おおっと!ここでスマホを手に取ったぁああ!

 残念、浅田くん!本日もスマホを手に取ってしまいました。

 お気に入りのスマホゲームのログインボーナス取得巡りに、ブックマークしたエロ動画サイトから始まるネットサーフィン。現在時刻は午後9時12分。午前1時までには寝てしまう彼が執筆に充てられる時間は毎日4時間弱。にもかかわらず直近1週間での彼のスマホ操作時間は合計で15時間を超えています!1日平均2時間オーバーです!

(ログボしょぼ。もうやめようかなこのゲーム)

 そういいながら連続ログイン338日目のボーナスアイテムを受け取っていくぅ!神様的にもやめた方がいいと思いますが、彼はおそらくもうやめられないところまできてしまっているぅ!

 さあ気付け、浅田浩紀!もうパソコンは起動している。ようこそというメッセージはとっくに消えて、ネットで拾ってきたエッチな女の子が壁紙のトップ画面が表示されている!小説を書くためのパソコンたぞ!せめてネットはパソコンですればいいだろう!?残念ながらこちらの祈りは届かないようで……ん?

(……)

 なにやら真剣な顔つきになって、スマホの画面を無心で見つめています。これは、ゲームの画面を見ているわけではなさそうです。軽く画面をスクロールさせて、何かをタップした。そしてティッシュの箱を手繰り寄せて……あっ


~1時間後~


 この動画は未成年の神様にも優しい全年齢対応となっております!これからも神様インターネットのコンプライアンスを遵守した適切な動画を発信してまいりますのでチャンネル登録よろしくお願いします!!

(ふぅ……そろそろ小説書くか)

 まったくこの1時間は何だったのか、ビックリするほどが遅い浅田くんです。

 トイレから戻ってきて、ついでに冷蔵庫に寄ってチョコ菓子を持ってきました浅田くん。包みを開けて中身を頬張りながらようやくパソコンに向かいました。

(とりあえず、続きから……)

 書きかけの小説ファイルを開いて、さらっと流し読みを始めました。

(結構書いたんだよなあ……)

 総ページ数32枚は文字数にして10,952文字。それなりに高級な文章ソフトであるため、そのような情報を確認するのはとっても簡単です。おかげで彼は、『大して書き進めたわけでもないのに累計文字数が多いことに満足する』という謎めいた悦の入り方を覚えてしまったのです!

「続きは……」

 さあ、確認しています。最終更新日は8日前です。その日は書きかけだった文章に納得がいかず、4行削除したのち2行追加しています。つまり進行度で言えばマイナスの状態です!結構書いたよな~とか言っている場合ではありません。

(どうしようかな……)

 悩んでいます。

(何て書こう)

 ふわっとしている!書くことすら決まっていなかったようです。登場人物の気持ちになっていないため、物語の進み方が自分の頭の中にしかないタイプの人のようです浅田くん。その結果、大まかな話の道筋をあらかじめ立てても、なかなか繋げることができません。

(変えるか)

 おおっと!続きが書きづらいのか?文章を消していく!バックスペースを押す指が動かない!

(いやでも)

 と思ったら、消すのは勿体ないのか、取り消しコマンドを連打していくぅ!やっぱり消さない方針でいきたいらしい!

(でもなあ)

 また消すぅ!どっちなんだ!というか、この部分そんなに悩むところなのか!?ぱっと見たところ、一区切りついたからこの次どうする的な場面です。とりあえず誰かに喋らせておけばいいのではないのでしょうか!?

「この設定書きづらいな……」

 作品の否定!3年前にふっと思いついてから夢中で書き足していった自慢の世界観を自ら全否定です!あなただけは信じてあげて!その世界の人々も、神様的には生きてますよ!

(……)

 さあ、何も考えていません。心の声を聞こえるようにしているはずなのにビックリするほどの静寂が辺りを包み込みます。

(……もう)

 あっ!

(今日は)

 ダメですって!

(やめておこう……)

 

「ピッ」




プレイ〇テーション4ォォォォォオオオオ!!!






 ついに起動してしまいました!!禁断の!あぁもう戻れません!

 ここから浅田くんは、眠りにつくその瞬間までハンターです!!

 いや~今日もダメだったか~惜しかった。ファイルを開いたところまでは良かったんですけどね。


 はい、では皆さん。ここまでご視聴ありがとうございました!

 この先も浅田くんの人生には、一般道の凸凹アスファルトのような、山あり谷ありの激動の人生が待ち受けているのですが、今回はひとまずここで一区切りとさせていただきます。

 また浅田くんの人生の続きを見ていくのか、それとも別の人生を見ていくのか、それは分かりませんが、誰かしらの人生実況をこれからも続けていく予定です。

 それではまた、別の動画でお会いしましょう!God Bye!

 

 あっ、チャンネル登録と高評価、お願いしまーす!




人生☆実況チャンネル@神様  チャンネル登録者数 10人


【#1】小説家になれない男の人生を実況してみた@神様

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