第678話 滅び3



 堕ちた街の中で破壊を免れたらしい建造物。

 そこは以前、ボノフさんに連れて行ってもらった闇市の会場。

 タウール商会を構成する4つの組織の1つ、灰色蜘蛛の本拠地。


 生存者がいるかもしれないという希望を胸に抱き、慌てて駆け寄った所で飛んで来た制止の声。


 その声の主は、この建物を守るように立ちはだかった機械種ハーリティ。

 鬼子母神の名を持つ元赭娼。

 灰色蜘蛛のボスが従属させているこの街でも強者の位置に属する存在。


 建物の正門に立ち塞がるように佇む姿はまさに守護神。

 聞けば百年以上もこの建物を守り続けているという古参の強者。

 

 しかし、古強者というにはあまりに美しく艶やかな容姿。

 女性らしい豊かなラインがゆったりとした地味な尼僧姿からでもはっきりと分かる。

 

 はっと息を飲む程の女性的な魅力に溢れた姿。

 素晴らしいスタイルに目が引き込まれるのを何とか我慢しながら、俺が求める情報を引き出すべく交渉を試みる。

 

 彼女とは一度ボノフさんに紹介され挨拶を交わした間柄。

 故にこちらから『お久しぶりです』との言葉をかけた。


 

 機械種ハーリティは、俺の言葉に少しだけ驚いた様子を見せるも、すぐに表情を元へと戻し、改めて俺の素性を確認してくる。



「ヒロ様…………でしたね? 前人未到の実績を上げられた白ウサギの騎士」


「……………はい、そうです」



 機械種ハーリティの問いに素直に答える。

 

 ここで誤魔化す意味は無く、彼女には聞かねばならない質問が山ほどある。

 こちらの問いに答えてもらう為には、正直に話すほかは無い。



「なるほど………、後ろの2機を見ますに、その実力は疑う余地も無いようで」



 俺の答えに機械種ハーリティは合点がいった様子で頷き、


 すぐさま俺の背後へと鋭い視線を送る。


 そして、右足を一歩後へ。

 やや半身となり腕に抱いた赤ん坊を守るような構え。

 表情固く、機体を強張らせたその姿は臨戦態勢。


 俺の背後から近づいてくる俺の仲間(ヨシツネとベリアル+廻斗)を見たのだから当然の反応。



 だが、その反応は決して鷹揚とは言えないベリアルの癇に障ったようで、



「ああッ! 何睨みつけてやがるんだ、お前! 僕に文句でもあるのか!」



 俺の耳の飛び込んで来たベリアルの機嫌が悪そうな声。

 しかもガラが悪い中学生のような態度。



「我が君を誘惑すんな! この女郎が! 消し炭にするぞ!」



 どうにも子供っぽい脅し文句だが、それでもその言葉を発したのは魔王型のベリアル。

 元赭娼の機械種ハーリティとはいえ、その戦力差は大人と子供。

 

 機械種ハーリティの表情が固く強張る。

 また、赤ん坊を抱いた腕が怯えたように薄く震えた。


 しかし、それでも、この場は退けぬと気丈な態度を崩さない機械種ハーリティ。

 不退転の覚悟を示すように、ギッとベリアルを睨み返す。


 

 しかし、その態度はさらにベリアルの勘気に触れ、

 


「なんだ! その態度は! 舐めてんのか、僕を!!!」



 ベリアルの柳眉が怒りで逆立つ。

 機械種ハーリティの反応を不遜と見做し、今にを炎を噴き出しそうな勢いで食って掛かろうとした所で………



「落ち着いて下され、ベリアル殿」



 隣のヨシツネが割って入りベリアルを制止。



「向こうは何もしておりません。主様のお言葉に応えただけでしょう」



 だが、ヨシツネの言葉にもベリアルは聞く耳を持たず、



「黙れ、ヨシツネ! あのブクブク無駄に膨れた胸部がすでに我が君を誘惑しているんだよ! 分かれ! 我が君のピンチだ!」


「いやいや! それは流石に言いがかり過ぎるでしょう」


「何を言っているんだ! 我が君がデカい胸に執着しているのはお前も知っているだろうが! あれは我が君にとっては凶器なんだよ! アイツが凶器を持っているんだから、こちらから攻撃しても正当防衛に決まってるだろ!」


「ベリアル殿………、おっしゃっていることが無茶苦茶ですよ」


 

 暴論を口にするベリアルに、呆れた様子で窘めようとするヨシツネ。

 

 少しばかり機械種ハーリティの胸に目が行ったかもしれないが、俺もそれはベリアルが言い過ぎだと思う。



「コラ、ベリアル! 勝手に人をピンチにするな! ヨシツネ! 少しの間、ベリアルを連れて離れてろ!」



 この状況でコイツが傍にいたら聞ける話も聞けなくなってしまう。

 なにせ機械種ハーリティはようやく見つけた生存者。

 この街で起きたことを嘘偽りなく教えてもらう為には、向こうの心象を悪くするわけにはいかない。



「ハッ! 承知しました」


「何でだよ、我が君! 駄目だって、そんな奴と二人きりになったら……」


「こっちには廻斗もいるから大丈夫。それよりも、お前が騒ぐ方が心配なんだよ。ちょっとの間だけだから向こうに行っとけ!」


「キィキィ!」



 俺の言葉に廻斗が『僕に任せて!』とばかりに胸をムンと張る。

 しかしながら、そんな廻斗の宣言もベリアルにとっては何の意味も無い。



「そんな…………、嫌だ! 我が君と離れ離れになるなんて! そんな子猿より僕が一緒にいる方が良いに決まってる!」


「ベリアル殿。ここは主様の命令通り、離れますぞ」


「よせ! 止めろ! 僕を引きずっていくな!」



 俺の命令を受けてもなお抵抗する様子を見せるベリアル。

 だが、ヨシツネに力任せに引きずられてはどうしようもない。


 機体のパワーだけなら近接型であるヨシツネの方が上。

 もちろんベリアルが本気で暴れたらヨシツネでも抑えるのは難しいだろうが、それをすれば俺の拳骨が黙っちゃいない。

 

 だからこの場は大人しく下がるしかない。

 それでも未練たらしく騒ぎながら連行されていくのがベリアルなのだが。





「ふう………、すみません。騒がしくしまして」


「キィキィ……」



 ベリアルがヨシツネの手で見えなくなる所まで連行されるのを見送った後、

 改めて騒がせてしまったことを機械種ハーリティへと謝罪。

 廻斗と一緒にペコリと頭を下げる。 



「いえ………、もしかして、アレは魔王型ですか? そして、もう1機はレジェンドタイプ。それも覚醒済みの………」



 ベリアルとヨシツネがいなくなったことでほっと一息を付く様子を見せる機械種ハーリティ。

 そして、一息入れた所で俺へと振り返り、聞いて当然の質問を投げかけてくる。



「まあ、そんな感じです」



 これも隠してもしょうがないので正直に答えた。

 ヨシツネの方はまだ覚醒している訳では無いけど。

 

 ランクアップしたのは事実であろうが、おそらく正規の手段ではない。

 きっと白兎の混沌を受けてのバグみたいなものであろう。

 けれど、それを説明した所で理解できるはずがない。


 

「…………………」


「な、何か?」


「…………………」


「え? 何ですか?」



 正直に答えたのに、なぜか機械種ハーリティはこちらを値踏みするような目で見てくる。

 美女に見つめられるのは光栄だが、見つめ続けられているとどうにも落ち着かない。

 

 然して美男子でも無い俺の顔。

 そこまで興味深げに見られるモノでもないと思うのだが。



「…………もしかして、ヒロ様は1週間程前にここを襲撃してきた少女型機械種に心当たりはありませんか?」


「うえ?! …………な、なんのことでしょう?」



 突然、質問をぶつけてきた機械種ハーリティ。

 その身に覚えがあり過ぎる質問に、動揺を隠しきることができない俺。



 ………しまった。

 そう言えば、つい先日、まさにこの場所を浮楽に威力偵察させたばかりだった。


 浮楽の報告では、この機械種ハーリティとそのマスターである灰色蜘蛛のボス、グレインと戦闘になったと聞いている。

 しかし、最終的に決着はつかず、途中でタキヤシャが参戦して、勝負の行方は有耶無耶に。

 双方とも大きな損傷なく、灰色蜘蛛側もこちらを見逃す形で浮楽とタキヤシャの撤退を見送ったらしい。


 だが、敵対行動であったのは間違いない。

 そのことをここで追及されるなら、この機械種ハーリティからの情報収集は非常に難しいことになってしまう…………



「あ~~、その~~」



 何とか誤魔化そうと言葉を探していると、機械種ハーリティは薄く微笑みながら『お気になさらず』と返してきた。

 


「被害は軽微なモノでしたから。それに『手』を出したのはこちらが先。ヒロ様を色々探っていたのも、灰色蜘蛛が一枚噛んでいましたし…………」


「あ、やっぱりそうなんですか?」


「表向きは『泥鼠』が動いていましたが………」



 実際に依頼を出して俺を調べさせたのは『何でも屋』っぽい『泥鼠』で、

 『灰色蜘蛛』は資金を提供した………、そんな所かな。



「おまけにあの少女型には情けまでかけられました。ここでヒロ様を責める理由はありません」


 

 腕の中の赤ん坊を撫でながら、穏やかな表情で語る機械種ハーリティ。

 思っていた以上に友好的な反応でビックリ。


 確か、その戦闘では、浮楽が機械種ハーリティが大事にする赤ん坊……の形をした強化オプション『ピャンガラ』を見逃したと言っていた。

 おそらく、そういった事情も含めての好感度なのであろう。



「そうですか…………、それはどうも…………」



 う~ん…………

 威力偵察を嗾けておいて、なぜかその相手に感謝されている。

 なんか微妙な気分。



「えっと………、お尋ねしたいことがあるのですが、よろしいですか?」



 微妙な気分になっても、聞くべきことは聞かねばならない。


 胸ポケットから『真実の目』を取り出してかける。

 そして、メモ帳とペンを取り出してメモを取る振り。


 メモを取る振りをするのは、眼鏡をかけるという動作を不自然に思われないようにする為。

 『真実の目』は人間・機械種の嘘を見抜く能力を持ち、こういった時の情報収集には欠かせないモノ。

 

 この状況において機械種ハーリティが嘘をつくとは思えないが、それでも万が一のことを考えれば、ここで使わない手は無い。

 


 さて、俺が尋ねたいのは2つ。


 街が堕ちてしまった原因。

 そして、俺が親しくしてきた人達の行方。

 もしかしたら、この建物の中にいるかもしれないからだ。



 僅かばかりの可能性を願い、機械種ハーリティにこの2つを尋ねてみると、返って来た答えは、




「街が堕ちた………、白鐘が破壊された原因は正直分かりません。あの日、街で様々なことが起こりましたので………」



 と、前置きをしつつ、機械種ハーリティが語ってくれた内容は驚くべきモノであった。




 曰く、街に6枚の翼を持つ天使が複数舞い降りた。

 光の柱を空から放ち、次々と街を破壊していった。

 

 曰く、街の至る所で無差別テロが起こった。

 爆弾が破裂し、建物が燃やされ、銃が乱射された。


 曰く、水の巨人が街中に現れた。

 超重量級の巨人はさらに従機と思われる巨人を何機も生み出し、街中で暴れ回った。


 そして、白鐘が破壊された。

 これにより街の崩壊が決定的となった。


 街が混乱状態のまま、指揮を執る者もおらず……

 やがて街中にレッドオーダー化した機械種が溢れ、外からも侵入され、


 

 結果、街が堕ちた。


 それが2日前のことだという。


 

 

「……………」


「すべて事実です。あの日、領主の館で先勝パーティーが開かれる時間帯に、それ等が同時に起こりました。多少時間は前後していたかもしれませんが…………」


「……………」



 しばらく黙り込んだまま、機械種ハーリティからもたらされた情報を頭の中で整理。

 

 もう何と言って良いのか分からないことだらけだが、その中でどうしても聞き逃せない情報が一つ。



「6枚の翼を持つ天使と言いましたか?」


「はい」


「そいつが多数? 本当に翼は6枚でしたか?」


「私自身の目で確認できたのは2機だけですが…………、間違いなく翼は6枚でした」


「…………………熾天使型かよ」



 熱病に侵されて紡ぐ譫言のように、その機種名を呟く。

 あまりの絶望的な情報に、目の前が真っ暗になったような感覚に陥ってしまう。


 天使型の最上位機種。

 魔王型や竜型に匹敵する最高位機種。

 一度は人類を滅亡の一歩手前まで追いつめた大敵。

 熾天使型の中には『断罪』と名の加害スキルを持ち、白の恩寵を無視して街を滅ぼした機種も存在するという。

 

 その脅威だけが世に広がり、実物を知る者はほとんどいないが、間違いなく緋王であろう。

 神話や伝説に語られる最上位天使の名を掲げるレッドオーダーなのだ………



「何で? そんな超高位機種が…………」


「…………とても私の力では対抗することもできず、ただこの建物を守り、隠蔽するのが精一杯でした」


「こちらには避難民の方が?」


「はい。ですが、主に灰色蜘蛛の構成員とその家族です。申し訳ありませんが、ヒロ様がおっしゃられていた方はここにはいらっしゃいません」


「そうですか…………」



 もしかしたら、という淡い希望は潰えた。

 『真実の目』に【嘘】という表記が出ない以上、ここにボノフさん達がいないのは確実。



「あとは…………、街で魔人型、若しくは、吸血鬼型の紅姫が暴れたという情報を知りませんか?」


「魔人型? 紅姫? …………あいにく初めて聞いた内容です。おそらくこの建物にも知っている者はいないでしょう」



 俺が尋ねたのは、孤児院を襲撃した紅姫について。

 しかし、機械種ハーリティは残念そうに首を横に振るのみ。



「私達はあの惨劇からずっとこの建物に籠りきりなのです…………、お力になれなくて申し訳ないのですが…………」


「いえ、十分に助かりました」



 どうやら彼女から引き出せる情報はここまでの様子。

 また聞きたいことがあったらもう一度訪れるかもしれないが、これ以上ここに留まる理由も無い。


 それに離れたベリアルの様子も気になるし………



「では、俺は他を回ります」


「………本来なら『危険ですよ』とお止めすべきなのでしょうが、あの魔王型やレジェンドタイプがいるなら心配は無用でしょうね」


「はい。頼もしい奴等です…………、ああ、もちろん、廻斗もだぞ!」


「キィ!」


「フフフ、可愛い騎士さんですね」


「キィ~!」



 俺に頼りにされて嬉しそうに声をあげる廻斗。

 そんな様子を微笑まし気に眺める機械種ハーリティ。



「私達は救援隊が来るまでここで籠城致します。おそらくあと1週間程でこちらに到着するでしょう」


「随分と早いですね…………、まあ、それまでには俺達がレッドオーダー共を片付けていると思いますよ」


「それは………、魔王型とレジェンドタイプ、それにあの少女型2機がいるなら、容易いでしょうね」



 俺の宣言に機械種ハーリティは納得の表情。

 

 少女型2機と言うのは浮楽とタキヤシャのことを指しているのであろう。

 確かに、ベリアル、ヨシツネ、浮楽、タキヤシャの4機だけでも、この街に巣くうレッドオーダーを殲滅するのは朝飯前。



 ここに来てもう自重はしないつもり。

 街の探索を終えた後、全力でレッドオーダーの掃討にかかるだろう。


 もちろんベリアルも手伝わせる。

 すでにベリアルも開示してしまっているのだ。

 隠しておく意味は無い…………




 と言うのも、この街に復興軍が到着したのを確認したら、俺は『ヒロ』と『悠久の刃』『白ウサギの騎士』の名を捨てるつもりだから。


 まずは、打神鞭の占いを行使して、皆の行方を調べ上げる。

 そして、俺ができることをやり遂げた後、名を変え、姿を変え、この街を出てこっそりと中央に向かう。

 もちろん中央行の切符も無しに。


 無名の風来坊がいきなり中央の街へと入ることができないだろうから、また街の周辺に作られたスラムからのスタート。

 恐ろしく苦労することになるだろうが、それでもヒロのままで中央に行く訳にはいかない。


 なぜなら、ヒロはこのまま行けば『要注意人物』としてマークされてしまうから。


 

 当然だろう。

 前代未聞の成果を積み上げ、数百年誰も無しえなかった『闇剣士』を倒した超大型新人狩人。

 しかし、ちょうどその狩人が外に出ていたタイミングで街が崩壊。

 しかも、街が崩壊した理由が不明の上、訳の分からない事件が同時炸裂。

 その僅か2日後にその狩人が帰還。

 街から出た理由も、巣に潜った訳でも無く、ただ荒野で5日間程過ごしただけだという………



 さて、俺のことを何も知らぬ人々が、まるで事前にソレを予測していたかのような動きを見せたこの超大型新人狩人に向ける目はどのようなモノになるであろうか?


 もちろん、俺自身、今回の街の崩壊には何も関わっていないし、きちんと説明すれば分かってくれる人もいるであろうが…………



 あいにく、こういったケースだと、問答無用とばかりに四方八方から叩かれるのが世情。

 さらに対象が突き抜けた実力を見せた英雄の卵ともなれば、マスコミが黙っちゃいない。


 有る事無い事を記事にされて炎上間違い無し。

 さらに今まで表に出なかった嫉妬も合わさって、俺の境遇は酷いモノになるであろう。


 『超大型新人狩人』『英雄候補』からの転落。

 街が崩壊した際に怪し気な行動をしていた『要注意人物』としてマークされる。

 

 元々明確な後ろ盾が無い異邦人の俺だ。

 一度疑われてしまえば、ソレを解くのは非常に困難。


 

 これは俺に対する罰であろう。

 皆を守り切れなかった………俺への………





「では、ハーリティさん。俺達はここで」


「ご武運をお祈りいたします」


「ありがとうございます………、あと、グレインさんにもよろしくお伝えください」


「………………」


「どうしました?」


「いえ…………、はい、承知致しました。お伝えいたします【嘘】」


「え?」



 あれ?

 真実の目に【嘘】の表示が出た。


 つまり、俺の『グレインさんにもよろしく』という他愛ない挨拶を、機械種ハーリティは伝える気が無いということ。

 これは一体どういう意味だ?


 

 思わず機械種ハーリティの顔をまじまじと見つめてしまう。



 俺に対して【嘘】をついた機械種ハーリティ。

 その表情は憂いを帯びた悲し気なもの。

 まるで、マスターであるグレインの身に何かあったかのように………



「…………それでは、失礼します」

「キィ!」



 会話を切り上げ、軽く頭を下げてその場を離れる俺と廻斗。 



 先ほどの【嘘】の反応………、

 灰色蜘蛛のボス、グレインについて聞こうか迷ったが、どう考えてもツッコミ過ぎ。

 そもそも俺が会ったこともなく、どちらかといえば敵対関係にあった人物。

 機械種ハーリティでさえそこまで親しくないのに、完全な部外者である俺が不要に聞くべき話では無いだろう。


 さて、灰色蜘蛛の内部で一体何があったのやら………






「我が君!」


「おっと………」



 灰色蜘蛛の拠点である建物から数分離れた所でベリアルが飛びついてきた。


 まるで長く主人からはぐれていた大型犬。

 俺の袖を掴みながら、興奮した様子で捲し立ててくる。



「大丈夫? 変な事されてない? お尻とか触られなかった? パンツ脱がされてないよね?」


「なんでやねん」



 ベリアルの馬鹿みたいな確認に思わずツッコミ。

 

 心配する方向が斜め上どころか時空の彼方。



「やっぱりパンツが脱がされてないかどうか心配だよ! だから僕が確認してあげるね!」


 

 と言いながら俺のズボンに手を伸ばそうとするベリアルに対し、



「要らん! いい加減しろ!」


「グエッ!!」


 

 頭に一発拳骨を落として黙らせた。



「全く………油断も隙も無い」



 地面にへばりつくように轟沈したベリアルを眺めながらボヤいていると、



「主様…………」


「おお、ヨシツネか。すまなかったな。コイツのお守をさせて」


「ハッ!」



 いつの間にかヨシツネが俺の前に跪いていた。


 相変わらず神出鬼没な次席である。


 

「とりあえず聞いてきた情報は、皆と合流してから話すよ」



 機械種ハーリティから仕入れた情報を共有するのは後に回す。


 あまりにも取り留めのない話なので、まず一度自分の頭の中で吟味したい。

 話すのはきちんと整理できてからで良いだろう。


 俺達は足早に最後の目的地である白の教会へと足を進めた。

 



 


『こぼれ話』

熾天使型はレッドオーダーの中でも人類の脅威筆頭に挙げられています。


・空を飛んで移動する為、神出鬼没。

・白の恩寵を無視する加害スキルを持つ可能性がある。

・光子制御、現象制御等のスキルにより広範囲攻撃を保有。

・人類に対して特に容赦のない仕打ちを加えてくる。


これ等の脅威から、白の教会は特に熾天使型の討伐に力を注いでいます。

その為の情報収集から対熾天使型用の武器の開発等。

実際に討伐されたという話はほとんど聞くことはありませんが……


しかし、一部の者から『なぜ熾天使型だけを?』と疑問の声が上がることがあります。


かの『魔王型』や『神人型』もその脅威は『熾天使型』に劣りません。

似たような加害スキルを持ち、非道さについては上回る場合もある程。


それ故に白の教会の上層部の一部に、『熾天使型』を排除したい思惑があるのではないか?という噂があります。



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