第675話 工場



「ようやく到着したな」


 フルフル

『いろんな所で寄り道したからね』



 ヨシツネ達と別れてから歩くこと10分少々。


 辿り着いた浮遊島の中央部。

 標高数百メートルの山の麓にある古びた神社。


 ここが俺達の目的地。

 この世に噂話レベルでしか存在しないとされる機械種の生産工場。


 人類が血眼になって探し求める白色文明時代の遺産。

 赤の帝国との戦争の切り札になるかもしれない秘跡。


 俺がこれを世間に公開すれば大混乱は必至。

 俺がこれを誰でも使えるよう一般開放すれば、俺はこの世界の英雄に成れるであろう………



 するわけないけど。

 なんで苦労して手に入れたお宝を他人に分け与えてやらんといけないんだ?


 こんなモノ、世間に公開したら、大揉めに揉めて、人間同士で争い合うに決まっている。

 おそらく、最終的には白の教会が出て来て、持っていかれるに違いない。

 代わりに美女・美少女な鐘守を2,3人置いていくかもしれないが、俺にとっては何の価値も………無いとは言わないが、側に置きたいとは思わない。


 まあ、白月さんや白露が出て来て、『どうしても譲ってほしい』と頼まれたのなら、この工場だけなら譲ってやらないことも無い。

 

 別に機械種の生産工場自体が必要不可欠というわけではないからだ。

 俺にとって大事なのは今いるメンバー達であり、彼等の整備を行うことのできる工場があればそれで良い。


 しかし、そこまで至った段階で、山のようなトラブルが俺に振りかかっているであろう。

 その時の俺が、今の俺と同じ判断をするかどうかは、分かるはずもないけれど。




 パンパンッ!



 とりあえず神社の拝殿前で二礼二拍一礼。

 この辺は自分は日本人なのだなあと感じてしまう一幕。


 

 ポフポフッ!



 白兎も俺と同じように二礼二拍一礼。

 ただし、白兎の前脚の裏には肉球がある為、音が『パンパン』ではなく『ポフポフ』。


 だが、お祈りの姿勢は普段とはかけ離れた真摯なモノ。

 霊獣を兼務していて当然と思わせる荘厳さを感じてしまう。

 

 しかしながら、全長40cmの白ウサギが両前脚の肉球をすり合わせて祈る姿はどこかユーモラスな雰囲気が抜けきれない。

 

 確か、以前、白の教会にお参りに行った時もそうだった。


 真面目な祈祷姿が醸し出す荘厳さと、その体形自体のユーモラスな可愛らしさ。

 そのギャップに、思わず笑みが零れてしまう……


 

 フルッ?

『何? どうしたの?』



 じっと俺が見つめていたことに気づいた白兎。

 クルッと俺を見上げて『何か用?』と耳を振るって尋ねてくる。

 


「いや………、ごめん。その両手の【肉球】を合わせた格好、可愛らしいなあって……」


 ピコッ!?


「んん? どうした、白兎………」



 俺が口にした白兎への『可愛い』という褒め言葉。

 自分が褒められるのが大好きな白兎のことだから、きっと大喜びするかと思いきや………



 フルフル

『そう………、ありがと………、マスター、工場への入口はあっちだよ』



 なぜか少し緊張したような様子を見せ、言葉少なく話題を断ち切り、そのまま工場へと向かおうとする。


 まるでその話題に触れてほしくないように…………



 あれ?

 白兎にしては珍しい反応。


 もしかして、褒め方が気に入らなかった?

 でも、今までそんなこと一度も………

 

 

 パタパタッ!

「マスター! こっちだよ」


「ああ………、今行く」



 少し腑に落ちないことはあったが、白兎に促されるまま、階段を上って拝殿の中へと入る。


 そして、拝殿の中の通路をしばらく進み、突き当たりの大きな扉の前で立ち止まる。



 ポチポチ



 扉の横のテンキーを操作し、暗証番号を打ち込んだ上、網膜認証を行って扉を開ける。


 するとそこは体育館程の広さがある巨大な工房。


 あちこちにクレーンや重量物を持ち上げる為のリフトが備えられており、

 部材を入れておくための移動棚や 変圧器のような機器等も並んでいる。


 まるで自動車整備工場のような風景。 

 ここは機械種の生産工場ではあるが、その設備を利用した機械種の整備工場でもあるのだ。

 


「マスター、ようこそいらっしゃいました」



 扉を潜った俺を迎え入れてくれたのは、


 整備服を着こみ頭にゴーグルを付けた技術者っぽい恰好の少女が1人。

 その後ろに立つ、着物を着て刀を腰に差した少女が1人。

 全高4mの高さを持つ黄金色の四足獣が1機。



 俺に声をかけてきたのはその中の技術者っぽい少女、胡狛。


 年の頃は14,5歳に見える容姿。

 黄色の髪をセミロングにした利発そうな美少女型機械種。


 罠師系の機械種トラッパーミストレスと整備系の機械種マシンテクニカのダブル。

 数々の罠に精通し、機械種の整備にも通じる内政系機種。


 しかも稼働年数120歳を誇る我がチームの最年長。

 本気で怒れば誰も逆らえない影の実力者。



「もっと早く来ることが分かっていましたなら、お迎えに上がりましたのに……」


「すまん。お前の仕事を邪魔するつもりは無かったんだが………」


「マスターのお相手をすること以上に大事なことはありませんよ。この身、この場所、この地に至るまで、全てがマスターのモノなのですから。お気になさる必要はございません」



 お澄まし顔でそう宣う胡狛。

 外見年齢にそぐわない落ち着いた所作で俺の心をくすぐってくる。


 胡狛程の美少女から、そんなことを言われてしまうと、つい、そうなのかな? とも思ってしまう。

 間違ってはいないのだが、それを真に受けると増長してしまうのが俺。

 

 ここはグッと堪えて軽く流すのが正解。



「あははは、そう言われたらそうだな。でも、気にするのは俺の性分なんでね…………、それよりも、刃兼と輝煉が一緒だったのか」


「はい。ハガネさんは護衛でついてきてくれました。また今日はここまでキレンさんに乗せてもらいまして………」



 ブルルッ!


 胡狛がそう言うと、『大したことでは無い』とでも言うように、輝煉が嘶く。



 ディバインビーストタイプ、機械種キリンの上位種、機械種オウキリンの輝煉。

 伝説上の存在である聖獣麒麟をモチーフにした重量級。

 雷と電磁力、空間と重力を操る機動力と防御力に秀でた機種。

 四聖獣という防御に高じた強化オプションを保有し、我がチームの防御の要と言っても良い存在。



「そうか。輝煉が運んでくれたのか。それは楽だったろうな」



 そのプライドの高さから、少し前まで俺以外の者を乗せようとしなかった輝煉。  

 だが、徐々に皆と打ち解け合ったこともあって、その制限は随分と緩くなってきた模様。



「輝煉、ご苦労さま。それに刃兼も………」


 カツンッ!

 

 ペコリ



 俺の言葉に蹄を鳴らす輝煉


 そして、深々とお辞儀する刃兼。



 刃兼は機械種サムライナデシコと機械種サムライマスターのダブル。

 先日、緋王タケミナカタの部材で強化したことから、現象制御も使用できるようになったサムライ巫女のような機種。

 

 近づけば刀で一閃、離れたら空間斬、

 敵が多ければ『藤花の舞』、巨大な敵なら『風祝の舞』と手数が豊富。


 胡狛の護衛にピッタリな万能振り。

 刃兼がいる限り胡狛の身は安全だろう。




 刃兼が胡狛を護衛しているのは、もちろん戦闘力の無い胡狛を守る為。


 技術や知識では俺のチームでも一番と言える胡狛も、戦闘力に関しては最低。


 最下級機種である廻斗や中位機種である森羅よりも下なのだ。

 機械種ゴブリンとやり合っても負けてしまう程度でしかない。



 この空中庭園や浮遊島に侵入者が出てこないとは限らない。


 万が一、侵入者があった場合は、玖雀や白兎が即座に察知するであろう。

 すぐに白兎が侵入者排除の為に動くだろうが、どうしても些かのタイムラグが発生する。



 その時、運悪く、胡狛が1機でいて、侵入者と遭遇してしまったら?


 別に運が悪くなくても、俺を狙っている奴がいたして、

 俺のチームの中で戦闘力が低く価値の高い機種を狙おうとすれば、自動的に胡狛に行きついてしまうのだ。


 

 他の機種であれば、たとえ臙公・紅姫クラスでもある程度時間は稼ぐことができる。

 胡狛の次に戦闘力の低い森羅であっても、奥の手を使用すれば数秒ぐらいは持たせる。


 その数秒の時間さえ稼ぐことができたのなら、空間転移持ちが多い我がチームの超高位機種が駆けつけられる可能性があるのだ。


 だが、胡狛にはその数秒の時間さえ稼ぐ戦闘力が無い。

 だからこそ護衛がどうしても必要となってしまう。


 これは空中庭園や浮遊島に限ったことではない。

 白の恩寵下の街の中であっても同様。


 故に胡狛に護衛は必須。

 故に俺は胡狛に職業を追加して、ある程度の戦闘力を持たせたいのだ。


 そして、その候補は、回避力が高い『忍者系』と生還能力が高い『斥候系』のどちらか。


 さて、街に帰ったらまずは晶石合成の為の『翠膜液』を探さなくてはならない。

 果たして俺が中央へと旅立つ前に手に入れることができるだろうか………










 胡狛に案内され、工房の奥へと進む俺と白兎。

 聞くと俺に何か見せたいモノがあるらしい。


 刃兼と輝煉を先ほどまでいた整備区画に残し、工房の奥、機械種の生産設備がある区画へと入る。

 


 工房の造りはどこも神社の境内を思わせる造り。

 柱や壁は木製のように見えるデザインであり、内装もどこか和風調。


 極めつけは、ここの機械種の生産を行う設備であろう。

 

 しめ縄と紙垂で囲われた25m×25mの広い空間。

 内側の壁は全て樹木の根を編んだような見た目。

 床には複雑な模様が書いてあり、どう見ても異界からナニカを呼び出す魔法陣。

 若しくはナニカを封印していそうな曰く付きの遺跡。



「前にも見たが………まるで悪魔を呼び出す儀式場みたいだな」


「長らく機械種がどうやって作られるのかは、学界でも謎でしたが、まさかこのような仕様になっているとは思いませんでした」



 それは俺も同感。

 機械種が何もない所から生み出されるモノだったとはな。



 つい先日、見学したばかりの光景が頭に浮かぶ。


 機械種とて機械なのだから、ベルトコンベヤーに部品がたくさん並び、

 基礎フレームへと組みつけていき、徐々に形にするような製造過程を想像していたのだが………


 意外や意外。

 

 機械種の製造を開始すると、床に描かれた魔法陣が輝き出し、奇妙な音が鳴り響いたと思うと、部屋の中央にポンっと機械種が現れたのだ。

 しかも完成品の状態で。

 


 おい、SF、どこへ行ったんだよ!

 と、思わず叫びたくなるような現象。


 

 ちなみに、この時に製造されたのは機械種ラット。

 残念ながらその機体は胡狛によって解体済み。

 通常の機械種ラットと差異が無いかどうか徹底的に調べられたのだ。


 結果は、通常機との差異は見当たらず。

 つまり、この機械種生産工場で造られた機械種は一般に出回る機種と同じモノであることが証明された。 


 尊い機械種ラットの犠牲によって。

 合掌………






「んん? あれって………」



 生産設備の周辺を眺めていると、ふと、気になるモノが目に入った。



「胡狛。アレが、あの後、この工場で生産された例の奴か?」


「はい。ハクトさんの希望もあり、機械種ラビットを10機程………」



 俺と胡狛が向けた視線の先には、工房の隅に並べられた10機の機械種ラビットの姿が………


 

 機械種ラットの製造後、俺はこの工場自体に興味を失い、細かいことは胡狛に任せて退去した。


 俺が立ち去った後、胡狛はもう何機が機械種の製造を行い、製造過程の仕組みを調べようとしたのだが………


 その時、その場に残った白兎が胡狛へと、機械種を製造するなら機械種ラビットにしてくれと交渉。


 特に拘りも無い胡狛はソレを了承。


 こうして機械種生産工場にて、10機の機械種ラビットが生まれてしまったのだ。



「…………ったく。どうすんだよ! 勝手に機械種ラビット10機も作って!」



 俺がジロリと白兎を睨むと、白兎は床に鼻をくっつけてフンフンし始める。


 そして、無軌道に部屋の中をモゾモゾと動き回る。

 まるで自分は無害なウサギだとアピールしているかのように。



「はあ………」



 ため息をついて、それ以上の追及を諦める俺。


 都合が悪くなるとウサギのフリをするのが白兎の悪い癖だ。


 この状態の白兎に言っても無駄と確信。

 ならば結局、この状態を受け入れるしかない。


 胡狛へと振り返って、聞きたいことを尋ねる。



「コイツ等、ブルーオーダーなんだよな?」


「はい。マスター認証待機状態のままの………素種になります」


「一応、ここって、白の恩寵外だろう? そのままでレッドオーダー化しないのか?」


「この工場内であれば大丈夫です。白の遺跡で偶に見ます『赤の威令』を防ぐ施設であるようです」


「ああ、なるほど。豪魔を見つけた施設でもそうだったな」



 思い出すのはエンジュ達と訪れた堕ちた街。

 白兎と一緒に見つけた地下施設からさらにエレベーターで降りた先。

 巨大な格納庫があり、その中に豪魔や白式晶脳器が置かれていたのだ。

 確か、あの施設も赤の威令を通さない仕様となっていたはず。


 でなければ、機械種保管用倉庫にも入っていない豪魔がブルーオーダーのままで居られなかったであろうから。



 

「マスターはこの工場を成長させるおつもりはありますか?」


「んん? …………そうだな」



 今度は胡狛から俺へと質問が飛ぶ。


 その表情は些か真剣。

 自分が管理する工場の行く末が気になるのであろう。



「…………今の所は無い。成長させる為には、色付きの晶石が必要なようだし。流石にコストとリターンが釣り合わない」



 打神鞭の占いで調べた所、機械種生産工場を成長させる為には『色付き』の晶石を捧げなくてはならない。

 

 最初は橙石、赭石でも成長するらしいが、生産できる機械種レベルが上がっていくと、やがて臙石、紅石が必要となり、最終的には緋石、朱石を突っ込まないと成長しなくなると言う。


 今の俺の戦力でいうと、下位機種を何機揃えても役に立たない。

 中位機種なら森羅達の部下にするという手もあるが、わざわざ機械種生産工場で生産しなくても中央に行けば普通に購入できる。

 工場で作り出した方がマテリアルは安上がりだろうが、その為に貴重な赭石や紅石を消費するのも馬鹿らしい。



「緋石や朱石が余るくらい手に入るようになったら考えるかもしれない。悪いがこの工場は当分このままだ」


「承知致しました………、身を弁えない質問をしてしまい申し訳ありません」


 

 ペコリと俺に頭を下げてくる胡狛。

 従属機械種の身でマスターへと問うにはあまりに過ぎた質問であると思ったらしい。


 しかし、もう分かり切ったことだが、俺はそんなことを気にするタイプではない。

 


「構わん。胡狛が気になって当然のことだ………、それよりも、他に見せたいモノってなんだ?」


「はい、こちらへどうぞ」



 胡狛に誘導されるまま、さらに奥の部屋へと進もうとした時、



「お、そうだ、白兎は………って、どこだ?」



 ふと、白兎のことを思い出してその姿を探すと、


  

 ピコピコ


 この工場によって作り出された10機の機械種ラビットの前で、耳をピコピコ揺らしながら佇んでいた。


 まだマスター登録していないから動くはずの無い機械種ラビット達10機。


 そんなラビットをじっと眺めている白兎。


 その機体から漂う悲し気な雰囲気。

 青の瞳は10機の動かない機械種ラビット達を映すだけ。


 もしかしたら、行き止まりの街に置いてきた白兎の弟子達のことを思い出しているのかもしれない。


 この街には白千世、白志癒という直弟子がいるけれど、彼等のマスターはそれぞれアルスにトアちゃん。

 いずれ別れなければならない運命。

 

 そして、この場に並ぶ機械種ラビット10機も俺が従属させないなら、ずっとこのままか、もしくは、どこかで売り払われることだってありうる。


 折角出会えた自分と同じ機種。

 しかし、一緒にいることはできない運命。



「白兎…………」


 パタパタ

『うん、今行くよ』



 俺から声に返事をした白兎。

 やがて、名残惜しそうにしながら1機1機に声をかけていく。



 フルフル

『…………じゃあね、


【混世兎王 白瑞】

【衝動のウサベルト】

【撃動たるカワウサギ】

【幻影のラビバンテス】

【暮れなずみ幽兎】

【命の鈴の十兎常寺】

【白昼のラビ月】

【直角の怒兎】

【マスク・ザ・ラビット】

【すんばらしいヒィッツカラビルド】


 ………僕の直弟子、十兎傑集の皆。また会いに来るから』




「コラッ! 白兎! 勝手に名前、つけんな!」



 また、版権がヤバそうな名前をつけやがって………

 機械種ラビットにつけるには御大層過ぎる!


 






 

 

「これか? お前が見せたいモノって………」


「はい………」



 さらに奥へ進むと、そこは格納庫のような造りとなった区画。

 

 おそらく製造された機械種を並べておく場所なのであろう。

 超重量級が何十機も置いておけそうな広さ。


 そんな場所にポツンと置かれた戦車が1台。


 全長15m、横幅6m、高さ4m。

 2本の砲筒が付き出した発掘品の巨大戦車。



「えっと、名は確か『八葉車』だっけ?」


「そうなのですが、今でもその名で呼ぶのが正しいのか分かりません」


「え? どういう意味?」



 胡狛の答えの意味が分からず、尋ね返す俺だが………

 

 

「まずはこちらを見て頂けますか?」



 俺の問いに直接答えず、胡狛は発掘品の巨大戦車へと近づき、その装甲に触れて何やら操作を行うと………

 


「うわっ!」


 パタッ!

『ひゃあ!』



 俺と白兎が同時に驚く。


 発掘品の巨大戦車の上に、これまた巨大な鉄腕が4本現れたのだ。


 戦車に接合しているわけではなく、腕は腕として独立して宙に浮かんでいる状態。


 まるで戦車の護衛機であるように、4本の腕は戦車を庇うような位置をキープ。


 しかもそれぞれが形の異なる刃物を持っており、大きさも合わさってその迫力は半端ない。



「こ、これは?」


「八葉車がランクアップしたようです。この腕はソレを受けて発現したオプションになります」


「オプション、って………」



 言うなれば、戦車に付随する腕型自動ドローンであろうか?

 アレが自由に動いて敵を迎え撃つならかなり強力なオプションと言えるだろう。


 だが、戦車に腕部分だけというドローンが出現。

 一体、何が影響して、どこから生まれたのであろうか?

 


 長さ4m近い巨大な腕。

 部位で言えばちょうど前腕部といった所。


 正しく巨人の腕なのだろうが………、見た感じ、どうにも細い。

 決して華奢な感じはしないものの、どこか女性的なフォルムに思えてくる。

 しかも、なぜか見覚えがあるようなが気がしてくるのだ。


  

「う~ん…………、一体どこでだろう? 巨大な腕を持つ女性型機械種かあ………」 



 おそらくは巨人は巨人でも、女型の巨人だろう。

 だとすれば、腕の長さから図るその全高は約10m、超重量級だ。


 超重量級の女型の巨人なんて滅多に………

 


「んん? もしかして………」


「はい。ボノフ様が黄式晶脳器に変換していただいた………紅姫カーリーの紅石の影響でしょう」


「あ、やっぱり………」

 


 道理で見覚えがあるはずだ。

 あの4本の腕が持つ武器で滅多刺しにされたのだから。


 あの時はまだ自分の身体が無敵だとは知らなかった。

 初めての超重量級を前に、莫邪宝剣を手放してしまい、もう完全にその威に飲まれてしまって………


 結果、ズタボロになるまでボコボコにされて、あの時ばかりは自分の生を諦めた。


 だが、そこまでボコボコにされてなお、俺の身体は傷一つつかなかったのだ。

 そして、そこで初めて俺は自分の身体が無敵に近いと確信できた……… 



「なるほど。紅姫カーリーの紅石を黄式晶脳器に変換して、この巨大戦車に搭載したから、この腕が発現したのか」


「マスターが討伐なされた空の守護者、及び朱妃戦の戦果もあり、ここでランクアップを果たしたようです。まさか入手して間もない発掘品の戦車が、こんなに早くランクアップするなんて聞いたことがありません」


「まあ、空の守護者自体が誰も倒したことが無いほどの戦果だったからな」



 空の守護者戦でもこの巨大戦車は活躍してくれた。

 向かい来る骸骨兵をぶっ潰しながら突っ走ってくれたのだ。


 俺達が緋王クロノスと戦っている間も、防衛戦で砲台として。

 朱妃イザナミ戦でも機械種ヨモツイクサや八雷神相手に撃ちまくった。


 そりゃあ、ランクアップして当然の戦果であろう。



「あと、もう一つ。こちらの主砲に新たな砲撃が追加されました」


「新たな?」


「はい、名を『カーリー・プラカーシュ』。おそらく強烈な熱閃を放つレーザー砲撃でしょう」


「ハハハハハ………、多分、それも真正面から喰らったことがある」



 もう渇いた笑いしか出ない。

 

 思い出されるのは、追い詰めた紅姫カーリーが額の目から放った熱閃。

 輻射熱だけで床や壁が融解・蒸発していったのだ。

 その威力はベリアルの砲撃にも匹敵するに違いない。



「まさか、ここで戦車がレベルアップするとはなあ………」


 

 巨大戦車に近づき、その装甲をポンと叩き、



「これからもよろしく頼むよ。『八葉車』」



 そう『八葉車』へと声をかけると、





【妾にもっと破壊と殺戮を捧げよ】





 なんか、物騒なセリフが返って来たような気がした。


 え? 多分、空耳ですよね?













 その2日後の朝。


 

「ふあああああ………………、あれ? 朝?」



 いつもの通り、潜水艇の中の寝室で眠っていた所、


 誰にも起こされたわけではないのに、ふと、目が覚めてしまった。



「…………げ? まだ7時か。起きるには早過ぎるぞ」



 枕元に置いてスマホの時計を見ながらボヤき、



「……………あ~、そう言えば、今日か。街の領主が開催するパーティは………。無意識のうちに気になってたのかなあ………」



 記憶の中からポンと出て来たスケジュールに、しばし苦い笑いが浮かぶ。



 領主の三男の救出成功の慰労会であり、ダンジョン活性化の終了、そして、闇剣士と闘鬼の討伐を祝う為でもある。


 白翼協商からはミエリさんや副支店長が参加するらしいし、アルスやハザン、レオンハルトやアスリン達ももちろん参加。

 街の要人達も集まるだろうし、秤屋の幹部達も出席するはず。


 ただし、最大の功労者である俺が参加しない。

 おそらく皆が一番注目しているであろう『白ウサギの騎士』は、その場にはいないのだ。

 

 聞けば、俺の欠席はギリギリまで隠されることになったらしい。

 まあ、最初からメインと言っても良い俺が参加しないなんて、領主の面子上、なかなか言えないだろう。


 こういった場合、『元々出席予定であったが、どうしても外せない急な用事ができてしまい欠席となりました』という感じでお茶を濁すのがセオリー。


 さぞかし、皆、がっかりするだろうが、俺には関係の無いことだ。

 上流階級っぽい人達が集まるパーティーなんて、絶対に居心地が悪いに決まっている。


 どうせ、注目されるのは最初だけ。

 客寄せパンダ以外の何者でもない。


 結局はアルスやレオンハルトみたいな美男子に人気が集まって、俺みたいなモブは部屋の隅へと追いやられるに違いない。

 そして、口さがない女の子達が俺に向かってコソコソ陰口を叩くのだ。


 『白ウサギの騎士が思ったよりもカッコ良くない』とか、

 『アルスやレオンハルトの方がその2つ名に相応しい』とか……



「フンッ! 絶対に行くもんか………」



 掛け布団を頭から被り、二度寝してやると決め込んだ瞬間……

 

 

 






 ザザッ………









 ムクッとベッドから起き上がる俺。


 当然ながら、苦虫を噛み潰したような苦い顔。



「ここで、『謎の違和感』が来るか~~………」



 ショックのあまり、ベッドの上で蹲る俺。



「はあ………、これは絶対にパーティーに参加しろってことだよなあ~」



 蹲りながら、頭をフル回転させて、その原因を推測。



「俺が本当に出席しないことを領主が怒って、中央行が取り消されるとか、かなあ? 若しくは、そのパーティーで重要な人物に出会う必要があるとか………」



 色々考えてみるも、結局、不確実な情報を元にした推測でしかない。

 

 俺がパーティーに出席しないことで、どんな不利益、不幸が待ち受けているかは、未来視を見ないことには分からないのだ。



「自分が不幸になるのが分かっている未来なんて、見たくはないんだけど………」



 とは、思いつつも、不幸にはなりたくないので見るしかない。


 ベッドの上で胡坐をかきつつ、目を瞑って集中。



 さあ、俺が領主のパーティーに参加しないことで、一体どんな不幸が待ち受けているのか、教えてくれ!






 ***********************************

【未来視発動】

(条件:領主が開催するパーティーの時間までに主人公が街に戻らなかった未来)

 ⇒当初の予定通り、開催日の2日後に街へと帰還。

(場所:バルトーラの街)

(時間軸:今よりも2日後)





 領主のパーティーが開催された日の2日後。


 俺達はバルトーラの街に帰って来た。


 何と言っても明日が中央行の試験の終了日。

 

 そして、明後日にはガミンさんが中央から帰って来て、俺に中央行の切符を渡してくれる手筈となっているのだ。



「まあ、すぐにこのバルトーラの街から出て行くわけじゃないけど………」



 中央行の切符を手に入れたら、すぐに街を出て行かないといけないというルールは無い。

 だから、1、2週間はこの街でのんびりと英気を養っても良いのだ!



 フルフルフル

『さっきまで空中庭園で散々英気を養ったのに?』


「街の中はまた別腹だ。お前だってボノフさんに会いたいだろう?」


 パタッ!

『会いたい!』



 空中庭園を浮かせていた暴竜の狩り場からこの街の近くまでは輝煉に騎乗。

 コスモラビット隊とともにスカイフローターを蹴散らしながら進み、街の近くで車に乗り換え。


 運転席に森羅、助手席に刃兼、後部座席に俺と白兎という配置。




「街に着いたら………、早くアルス達に連絡を取って、飲み会を企画しなきゃ。そこで宝貝の材料をお願いして………」




 等々、街に着いてからの予定を考えているうちに到着間近となり、




 フルフル?

『あれ? 街に近づいているはずなのに、ちょっとおかしい………』



 白兎が耳を震わせて異変を報告。



 また、そのすぐ後、森羅、刃兼も異変を訴え始め………




「急げ! 森羅、全速力だ!」


「承知しました!」



 滅多に出さないスピードで街へと帰還。


 そして、そこで俺が見たモノは……………






「え? …………なんで?」





 人っ子一人見えない廃墟。


 激しい空爆が行われた後のような惨状。


 建物は崩れ、道は陥没、あちこちに煙が立ち昇る戦場跡。


 しかも、その街であった場所では、幾千のレッドオーダーが我が物顔で徘徊。


 それは即ち、すでにこの街がレッドオーダーの手に堕ちた証拠。


 もう辺境最大の街、バルトーラの面影は無く………


 


「どうして!!! なんで!!!!  こんなことになっているんだあああああ!!!!」




 悲鳴に近い叫び声が『堕ちた街』に響き渡った……………

 

 





『こぼれ話』

機械種はどうすれば人の手で製造できるのか?

そういった研究が行われたことがありますが、成功した例はありません。


辛うじて、それぞれ違う機械種の部品を繋ぎ合わせ、1機の機械種とするようなこと可能ですが、果たしてソレを製造と言うのかどうか……


そもそも機械種は人類では理解できないオーパーツの塊と言えます。

マテリアル機器から機体に宿る特性まで、人智では及ばないことが多過ぎるのです。




※ストックが切れました。書き溜め期間に入ります。

次は未来視の続きから始まります。

また1ヶ月後に再開予定となっております。

よろしくお願いします。

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