第674話 模擬戦5


 浮遊島の中を進む俺と白兎。


 まだまだ散歩を終わらせるには中途半端な時間。

 とりあえず山の麓にある機械種生産工場を目指してみる。

 

 城からの直線距離は約1.5km程。

 ただし浮遊島は起伏が激しく道らしい道が無いので、歩いて行こうとすれば20~30分くらいかかる。

 散歩にはちょうど良い塩梅であろう。


 それに人の手が入っていない森の中を歩くのはなかなかに楽しい。


 太陽を遮る背の高い木々。

 時には樹齢何百年と思われるような巨木も存在。

 また、岩肌から流れる水が小さな川を形成。

 時には行者が修行していそうな滝にも出会う。


 自然公園と言うよりは秘境。

 冒険心を刺激され、なんとなくワクワクしてくる絶妙なシチュエーションと言える。



「いいねえ、自然の中は。心が洗われるようだ………」



 降りかかる木漏れ日。

 濃密な草木の匂い。

 小川のせせらぎ。

 枝葉が奏でる風の音。

 踏みしめる土の感触。

 

 都会っ子であった俺には、新鮮に思える環境。

 少し足を延ばした場所に、こんな自然の残る森なんてなかなかにあるもんじゃない。



「なんてったって、虫がいないのが最高」



 当然ながら、元の世界ならこんな森の奥にはウジャウジャと虫が一杯。

 カブトムシや蝶々くらいなら構わないが、蚊とか羽虫とかは大嫌い。


 この世界に生き物としての虫はいないが、レッドオーダーとしての虫は存在する。


 白鐘の恩寵が届かぬ外界にて、夜を支配する機械種インセクト。

 日が暮れるとどこからともなく現れる何千何万何億の群体。

 1機1機は弱くとも、倒しても倒しても後からいくらでも湧いてくる。

 たとえ天を焦がし地を揺るがすような超高位機種でも、無限に現れる機械種インセクトの群れを倒し切ることは叶わない。


 しかし、そんな機械種インセクトも結界で閉じられた空間内には発生しない。


 

「ここでは夜でも機械種インセクトが出てこない。本当に地上の楽園………、いや空中の楽園か………」

 

 

 空中庭園も浮遊島にも機械種インセクトを近づけさせない結界のようなモノが張り巡らされており、たとえ夜になってもこの地に現れることはない。


 だが、結界の強度はそう大したことはないらしいので、スカイフローターに攻められると厄介。

 今は地上に直径2km以上の隠蔽陣を展開し、その上に浮いているからその心配はないが、浮かせたまま飛ぼうとするとこの隠蔽状態を維持するのは不可能。


 スカイフローター対策で低空飛行すれば、地上の人間に見つかる可能性があり、

 地上の人間に見つからないよう空高く飛ぶと、スカイフローターが襲ってくる。



「その辺、どうにかならないかなあ? この空中庭園を取り出すのに、毎回、地面に何キロにも渡って隠蔽陣を書くの、大変なんだよなあ……」



 歩きながらブツブツと勝手な感想を呟いていると、先導してくれていた白兎がピタッと立ち止まり、クルッとこちらを振り向いて耳をパタパタ。



 パタパタ

『毎回、地上に円を書いているのはボクなんだけど?』



 そうでした。

 直径2kmの円を書こうとすれば、その距離は2km×円周率の3.14で約6.28km。

 そんな長い距離、ずっと地面に線を書き続けるなんて面倒臭い作業、俺が自分でするわけがない。

 

 かといって、隠蔽陣を展開する為の地面への円を描く作業は、誰にでもできるわけではない。

 本来、陣を描く行為は、術者である俺がやるべきことであり、俺との結びつきの深い白兎だからこそ、俺の代わりができるのだ。


 だから、ここで白兎に臍を曲げられても困る。

 ここはきちんと白兎をフォローしておかはくては……

 


「白兎には苦労を掛ける。俺がひ弱なばっかりに……、すまないねえ……ゴホッ、ゴホッ」


 フルフル

『………まあ、いいけどね』



 そんな雑談を躱しながら、白兎に案内を任せて、森の中を進んでいると、



 ガンガンガンガンガンガンガンッ!



「んん? この音は?」



 金属と金属がぶつかり合う甲高い音が森の中に響いてくる。


 お互いに武器を打ち合わせているような連続した金属音。

 まるで激しい近接戦を繰り広げているような響き。


 

 少しばかり警戒を強め、胸ポケットから瀝泉槍を取り出そうとした俺だが、



 フリフリ

『あっちにヨシツネ達がいるよ。どうやら剣風達との訓練の真っ最中みたいだね』


「ああ、そうか」



 白兎からの報告を聞いて、警戒を解く。

 

 そう言えば、ヨシツネが浮遊島の中に開けた場所を見つけたらしく、そこで訓練を行いたいとか言っていたな。

 


「どれ、少し様子を見に行ってやるか」




 

 



 ヨシツネ達がいる所まで足を延ばすと、先に見覚えのある僧服が目に入った。



「毘燭。お前までいるのか?」


「おや? マスター、見学ですかな?」



 俺の声にゆっくりと振り返る中量級の人型。

 東方テイストを加味した和洋折衷な司教服。

 その手に持つのは見事な装飾が散りばめられた槍。

 僧帽にシンプルな仮面をつけた聖職者風の外見。

 

 僧侶系機械種ビショップと風水師系機械種レイラインルーラーのダブル。

 我がチームの参謀にして俺へのツッコミ役でもある毘燭。

 さらに治療と防御、結界術に優れたサポート力特化の後衛機。



「このフィールドの保護の為ですな。できるだけ自然を壊さないよう、結界を張り巡らせております」


「なるほど。それはお前にしかできないことだな」


「あと、万が一の救急役ですな。まあ、そのようなことは起こらないでしょうが……」



 そう言いながら毘燭がチラリと視線を向けた方向には、激しい剣劇を交わす、ヨシツネ、剣風、剣雷の姿。


 どうやらヨシツネ VS 剣風、剣雷の1対2で試合を行っている様子。



 2m近い大剣を2本振り回す剣雷。

 巨大な槍を構え、突撃を繰り返す剣風。


 2機とも何年も戦場を共にしていたような見事な連携。

 剣雷が真正面に立ち、剣風がその横を固めて攻撃を加える。


 どのような超高位機種とて、その攻撃からは逃れるのは至難………


 なのだが、彼等が相手にしているのは、その数少ない例外であるヨシツネ。

 全機械種中、トップクラスの剣の腕と回避力を持つ剣聖。


 2機の猛攻を軽々と躱し、

 避けづらい剣撃は刀を以って弾く。


 どうやら空間転移を使わずに相手をしている模様。

 それは剣風達も同様らしく、純粋に物理での攻撃に絞っている。


 剣雷の『雷双大剣』は電磁プラズマブレードを発生させておらず、

 剣風の『竜撃砲槍』はランスモードのまま。



 ピコピコ

『マテリアル術は使わないようにしているんだね』


「そうですな。流石に無制限で暴れられると、結界が持ちませぬ。全く………己の未熟さを痛感致します」



 白兎の確認に毘燭が答える。

 僧侶系らしい控え目で謙虚な態度。

 

 俺相手だとチクチク小言を飛ばしてくるのに、白兎にはその舌鋒を向けないんだよなあ………



「あの3機が全力で暴れたら、どんな超高位機種でも抑えるのは難しいだろうさ。気にするな」


「お気遣い、ありがたく。しかしながら、志高いマスターにお仕えする身の上、こんな所で立ち止まってもいられませんな。いつまた何時、緋王や朱妃………、守護者へと挑むかもしれませぬ故」


「………俺としては志は低いつもりなんだけどな。文句は勝手に俺にトラブルを押し付けてくる世界や時代、環境に言ってくれ」


「ハハハハ、そうですな。マスターご自身は不要な争いを好みませんでしたな。では、機会がありましたら、拙僧がマスターを代弁して、世界や時代、環境に文句を言ってやることに致しましょう」



 心底楽し気に笑う毘燭。


 本当に世界相手に文句を言える機会があるなら、遠慮なく俺を代弁して世の不条理を訴えてくれるだろう。

 ただし、目立つことを嫌う俺が、たとえそんな機会があったとしても、わざわざ文句を言えと命じることなんて絶対ないのであるが。


 分かってて言ってやがるな、コイツ。

 相変わらず煮ても焼いても食えない奴だ。



「はあ………、それはともかく、剣風達2機がかりでもヨシツネが有利か………、マテリアル機器が使用可ならどうだったんだろうね」


 フリフリ

『剣雷が【雷双大剣】の電磁プラズマブレードを振り回して、剣風が【竜撃砲槍】のキャノンモードで援護射撃ってとこかな? でも、ヨシツネが空間転移で飛びまくったらどうしようもないし、【八艘飛び】を出せば終わっちゃうよ』


「ああ、ヨシツネにはソレがあったな」



 空間転移で飛び回るヨシツネを補足するのは非常に困難。

 さらにヨシツネの必殺技たる『八艘飛び』の効果がエグすぎる。

 数百の幻影を展開した上、数十に分身しての同時攻撃を行うヨシツネの秘奥。

 ベリアルですら一時は追い詰めた必殺技。

 アレを出されたら今の剣風達ではどうしようもない。



「やっぱり、ミソロジータイプとストロングタイプのダブルでは、まだまだ差が大きいか」


 パタパタ

『多分、トリプルにならないと難しいんじゃない? それも、戦闘系を重ねさせてようやくヨシツネの足元に引っかかるかどうかだよ』


「そうだよなあ~」



 以前のヨシツネなら剣風達ももう少し善戦をしていたかもしれないが、今のヨシツネは緋王に近いレベル。

 しかも最高レベルの空間転移持ちで回避能力に優れた近接戦闘特化だから、まともに勝負したければ、相当な範囲攻撃で圧殺するか、物量で押すか、デバフを重ねてその脚を封じるしかない。

 

 敵に回ればこれ程厄介な機種はいないだろう。

 さらに言えば、光学迷彩能力を保有し、奇襲、騙し討ち上等の狡猾さも併せ持つのだ。

 敵になったら本当に手に負えない。



「おっと………、もう終わりか」



 白兎とそんな話をしている間に、訓練は終了した模様。


 目元涼やか、悠然とした自然体でこちらに歩み寄って来るヨシツネ。

 そして、酷く疲労した様子を見せる剣風、剣雷達。



「後輩の指導、ご苦労さん、ヨシツネ」


「ハッ! 主様こそ、こんな所まで足をお運び頂いて………、お目汚しな所をお見せしまして申し訳ありません」



 俺の前で膝をついて頭を垂れるヨシツネ。


 黒髪に色白の凛々しい若武者。

 ほぼ人間と変わらない外見であり、2枚目俳優そのままの美男子な容姿。

 俺から仮面を外す許可を貰ってから、ずっとその美麗な素顔を晒している。


 元々はレジェンドタイプであり、緋王クロノスの左腕を移植したことから、ミソロジータイプへとランクアップ。


 俺が従属させた2番目の機種であり、我が悠久の刃の次席。

 主に俺の護衛や前線指揮官、突撃隊長を兼ねる戦闘リーダー。


 

「相変わらず謙虚だな。そうは言うが、なかなかに見ごたえのある試合だったぞ。皆もお前の指導が身についてきたんじゃないか」

 

「ハッ、お褒め頂きありがたき幸せ………と言いたいところですが、まだまだでございます」



 俺の手放しの称賛にも、やはり謙虚な姿勢を崩さないヨシツネ。

 随分と辛口な批評を口にする。



「これはランクアップしたばかり故に仕方がないことですが、能力が向上した機体の動きに戸惑いがあるように感じます。本来であれば、もっと食い下がることができたでしょう」


「へえ? そう見るのか」


「まず剣雷殿は2本の剣の扱いに差があります。右よりも左の方がほんの少し動きが鈍い。これはランクアップ前に、右で剣を、左で盾を持っていた影響でしょう」


「ああ、なるほどね」



 ヨシツネの指摘に、剣雷へと目をやる。


 2m近い全身鎧を着こんだ巨漢。

 俺の視線を受けると、ピッと敬礼を返して来る。


 その動作がどことなくお洒落。

 なんとなく陽気な外人兵士めいたイメージを重ねてしまう。


 機械種パラディンに機械種バスターナイトを重ねた攻撃特化騎士。

 電磁投射剣を同化作用で取り込み、2本の雷双大剣で暴れ回るアタッカー。


 パワー信者であり、同じくパワー系の豪魔や辰沙、虎芽と仲が良い。

 また電磁投射剣を得てから、秘彗や天琉といった砲撃が得意な面子とも友誼を結んでいる様子。

 

 会話機能が無い割に皆とそこそこ交流を重ねているタイプ。

 まあ、ヨシツネが今言った欠点も、いずれは克服してくれるだろう。





「次は剣風殿ですが…………、竜撃砲槍に頼り過ぎです。3対1で戦う場合、間合いの状況から腰の剣を抜いた方が有利を取れる場合もありましょう。一つの技を磨き上げるのも良いですが、ソレに固執し過ぎてしまえば意味がない」


「へえ? そういう考え方もあるのか」



 剣風に視線を移すと、ピンッと姿勢を正して軽く目礼。

 その動きは訓練された兵士そのもの。

 

 こちらは、これもなんとなくだが、武骨で物静かな軍人のイメージ。

 醸し出す雰囲気にヨシツネ以上に生真面目さを感じる。


 剣雷よりは一回り小さいがそれでも全高185cm以上。

 竜を模した騎士兜に竜麟を際立たせたスケイルメイル。

 右手には3m近い大砲のような大槍を持つ、機械種パラディンに機械種ドラゴンナイトを重ねた竜撃騎士。


 竜鎧砲が同化作用で進化した『竜撃砲槍』を保有し、ソレを幾つものモードに変化させて戦う高機動飛行可変型騎士。

 一本気で努力家な面があり、1人で黙々と槍を振っていたり、戦術本を読んで研究していたりする。


 竜撃砲槍のメンテナンスの関係で胡狛と接点が多く、長々と話し込んだりしているケースを偶に見る。

 また、同じく真面目な性格である輝煉とも気が合う様子で、時折一緒に空を飛んでいることも。


 割と物事に固執するタイプのようだから、新しくなった『竜撃砲槍』に拘るのも分かる。

 しかし、ランクアップした直後の虎芽との模擬戦では、『竜撃砲槍』を囮とし、腰の剣で勝負を決めたのだから、決して融通が利かないといわけでもないだろう。



「まあ、どちらも慣れていけばそのうち解決する問題かな?」


「そうですね。こうした模擬戦はその為のものでもあります。やはり新しく手に入れた力を馴染まそうとすれば、実戦に近い模擬戦が一番の近道でしょう」

 

「ふ~~ん………、じゃあ、剣風と剣雷の『固有技』も早めに慣れさせといた方が良いかもなあ~」



 ヨシツネの話を聞いて、チラリと剣風、剣雷へと目をやりながら言葉を続け、



「『雷双大剣』も『竜撃砲槍』も恰好良いからな。早く使い熟して欲しい」


 

 何気なく呟いた俺の一言。


 そして、ソレが切っ掛けとなり、この場で模擬戦第2戦が決定。


 マテリアル機器の使用を解禁しての実践に近い形での開催。


 しかもハンデキャップとして、ヨシツネは空間転移禁止。


 それらの条件で『ヨシツネ VS 剣風・剣雷』が再び行われることとなった。

 

 

 

 


 

 

「ふむ………、マスターも罪なお人ですな。あの一言で、ケンフウ殿達がマスターに良い所を見せようと奮起しましたぞ。2機とも散々ヨシツネ殿に扱かれた後だというのに………」



 これから模擬戦を行う3機へと『加護』をかけ終えた毘燭。

 ゆったりとした足取りで俺達の元に戻って来て早速苦言っぽいセリフを宣う。



「いやあ、あそこまでヤル気になるとは思わなかった」



 毘燭の言葉に頭をポリポリ掻きながら少しばかり反省。

 

 従属機械種にとって、マスターの言葉の影響力は絶大。

 特にまだ新参と言っても良いメンバー程、俺の何気ない言葉に一喜一憂してしまう。 



「ヨシツネ殿がいかに回避に優れようとも万が一のことがありますからな。お気を付けを」


「すまん。お前が『加護』を覚えてくれて助かった」


「!!!……………、ハア………本当に罪作りなマスターですな」



 俺の言葉に一瞬機体をピクっと震わせ………、

 その後、軽いため息をついたかと思うと、どこか苦笑めいた態度を見せてくる毘燭。

 

 

 毘燭が剣風達に与えた『加護』とは、『現象制御』による一時的な『特性』の付与。

 

 特定の能力値を数%上昇させるような強化術とは違い、『加護』は傍から見ればトンデモナイ効力を持つ『特性』を与えるのが特徴。

 

 今回毘燭が付与したのは、小破以上のダメージを1回だけ防ぐという『特性』。

 毘燭によれば、『祝福ブレス』という名の『加護』であり『特性』であるらしい。



 毘燭がこの能力を習得したのは、奇しくも今と全く同じような状況であった、ヨシツネと刃兼との模擬戦の後。


 今後も似たような展開となり、万が一があるかもしれない状況が続くことを苦慮した毘燭。

 考えに考え抜いた末、晶脳に『祝福』の『加護』が閃き、身に着けることができたと言う。


 ただし、この『祝福』は毘燭が近くに居ればそこそこ長く続くのだが、離れてしまうとその効果時間は5分も持たない。

 毘燭がパーティー内にいないと実質使用するのが難しい『加護』でもある。


 また『祝福』の『加護』を与えるのは数分の時間を要する為、戦闘中の付与は困難。

 不意の遭遇戦等への適用は難しいが、紅姫の部屋に突撃する際には役に立つことであろう。

 


「では、マスター。拙僧はこれから結界の絞り込みと強化を行いますので……」 



これで話は終わりとばかりに、ヨシツネ達3機が向かい合う模擬戦の場へと振り返る。


 そして、手元の槍の穂先を前に向けてマテリアル術を行使。

 張り巡らせている結界の強度を調整、2方向部分の厚みを増し、それ以外の部分を薄くする。



「これで城の方角、そして、機械種生産工場の方角に戦いの余波が飛ぶことはありません。しかし、それ以外………、周辺の森などには被害が出るのは避けられませんぞ」


「ああ、それぐらいは構わない。森は俺が後で『宝蓮灯』を使って木行の術を行使する。それですぐに元通りになるさ」



 元々、ヨシツネ達がマテリアル機器を使っての模擬戦をしなかったのは、俺の所有物である浮遊島の景観を壊したくなかったから。

 しかし、『宝蓮灯』で強化した五行の術を使えば、森も山も修復するのは容易い。

 

 重要施設である『城』や『工場』に被害さえ出なければ別に良いのだ。

 

 後は………


 

 フルフルフル!

『余波が飛ぶ範囲にはうちのメンバー達は誰もいないよ!』


「なら、何の問題も無いな…………、では、ヨシツネ、剣風、剣雷! 始めてくれ!」



 白兎が耳を振るって周辺を調べ上げ、万が一流れ弾飛んでも大丈夫なことを確認して、試合の開始を宣言。





 バチバチバチバチバチバチ!!

 バチバチバチバチバチバチ!!




 その直後、剣雷が両手に持った『雷双大剣』から眩い電光を発生させる。

 

 剣身が縦に割れてできた数cmの隙間。

 その間に発生させた激しく輝くプラズマ光が、3m以上伸びて長大な光の刃を作り上げる。


 まるで俺の莫邪宝剣。

 それが剣雷の手に2本。

 

 これぞ剣雷の『固有技 雷双大剣』の真の姿。

 超高熱にて金属を焼き切る超電磁プラズマブレード。


 

 ブオオオオオオオオオオオッ!!!



 2本の長大な雷剣を嵐のように振り回しながら、ヨシツネへと突撃する剣雷。


 相手は格上、且つ、機動力特化。

 空間転移を使わないとはいえ、自分達を上回る速度を持つヨシツネ相手に待ちの姿勢は悪手。


 ここは先制攻撃をかまし、勢いのまま押し切る戦法に出た模様。


 

 ブンッ!

 ブンッ!

 ブンッ!

 ブンッ!



 文字通り雷のごとく激しい攻めでヨシツネへと斬りかかる。


 凄まじい速度で振るわれる『雷双大剣』。

 2本の電磁プラズマブレードが縦横無尽に暴れ回り、戦場に幾条の閃光軌跡を作り上げる。


 両手で長大な武器を振り回して暴れるなんて、まるでアクションゲームの無双乱舞。

 どのような大軍とて雷閃嵐の前には切り刻まれ焼き尽くされるのみであろう。



 俺も莫邪宝剣が2本あるならやってみたい………

 でも、調子に乗って振り回し過ぎて、また足を切っちゃうかもしれないから、やっぱり辞めておいた方が良さそうだ。



 

 雷神のごとき暴威を見せる剣雷に、ヨシツネは右手に『髪切』を構えながら半身の姿勢で迎え撃ち、



 ヒョイッ!

 ズバッ!

 ヒョイッ!

 ズバッ!



 右左と体捌きで剣閃を交わしながら、なんと刀で雷双大剣から伸びる超電磁プラズマブレードを切断。


 切られたプラズマ光は一瞬にして霧散。

 バチバチと火花を残して掻き消えていく。


 危なげなく剣雷が繰り出した剣撃の嵐を潜り抜けるヨシツネ。

 散り散りになる電光の残滓を涼しい顔で見送る余裕の態度。



「え? 切った?」



 剣雷の初っ端からの怒涛の攻めにも驚いたが、ヨシツネの意味不明な迎撃にも驚愕。



 当たり前であるが、『雷双大剣』から生える光の剣身は固体ではなく、発生したプラズマ光が噴き出している飛沫にすぎない。

 それは物理的な手段で切断できるモノではないはずなのだが………

 


 ブオオオオオオオオオオオッ!



 だが、斬り飛ばされたプラズマ光の剣身はすぐさま元の形へと復元。

 再びヨシツネへと襲いかかる。

 

 すると、ヨシツネも先ほどと同じように『髪切』でプラズマ光の剣身を切り飛ばす。

 回避できる攻撃は躱し、そうでない攻撃は『髪切』で迎撃。


 剣雷は『雷双大剣』を両手で振り回しての猛攻。

 大気が震え、光が爆ぜ、雷が轟く、剣撃の嵐。

 力自慢の若者が後先を考えず、全力で大暴れするかのような迫力。


 対するヨシツネは向かい来る攻撃を流水のような動きで回避。

 または疾風のごとき一閃で雷刃を切り裂く。

 その動きは正しく練達の武人。


 互いに一歩も引かない剣と刀のぶつかり合い。

 インファイトで殴り合うボクサーのごとき熱闘。


 だが、傍から見ている見学者としては、どう見てもヨシツネの方が有利。

 素人の俺ですら、そう判断できるくらいにその差は歴然。


 どう考えても剣雷の動きは防御を考えない猪突。

 逆にヨシツネは最小限の動きで隙が出るのを待ち受けている様子。


 そもそも剣の腕ではヨシツネの方が上なのだ。

 曲がりなりにも激しく打ち合う剣戟の形となっているのは、ヨシツネが普段より慎重な対応を行っているからに過ぎない。


 あえて受けの姿勢で臨むことで剣雷の実力を引き出す構え。

 これは実戦ではなく訓練なのだから当然。

 

 

「でも、あのままじゃ、長くは続かない………」


 パタパタ

『そうだねえ。剣雷、ちょっと、かかり気味』



 俺と白兎が勝負の感想を述べ合う。

 どちらも似たような内容なのが、この先の行方を暗示してしまっている。


 

 あの様子では剣雷が息切れ………、オーバーヒートするのも時間の問題。

 機械とて動けば熱が貯まるし、動力をフル稼働させ続ければ必ずどこかで無理が生じる。


 剣雷の攻撃は凄まじいモノではあるが、緋王レベルに達したヨシツネに届くレベルではない。

 それは剣雷も分かっているはずだが…………



 いや、この勝負はヨシツネと剣雷の一騎打ちではなく………



 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!




 ヨシツネと剣雷、2機のぶつかり合いに水を差すような砲撃が飛ぶ。


 雨霰と降り注ぐ光の弾丸。

 超荷電した粒子を超高速で撃ち出す粒子加速砲。


 それは剣雷が正面から突撃して作った時間を使い、後方に下がって空へと飛び上がった剣風の援護射撃。


 

 上空50m程の高さに留まり、キャノンモードへと変形させた『竜撃砲槍』を腰に構える剣風。


 竜を模した大砲から連続した粒子加速砲を次々へと発射。

 一発一発が並みの中量級など一撃で大破させるほどの威力。


 しかも超音速で飛ぶ砲弾もあれば、野球の投球スピード程度の砲弾もある。

 さらに真っ直ぐに飛ぶモノもあれば、やや曲線を描いて飛ぶモノのも。


 緩急、曲射を織り交ぜた砲撃。

 これを通常の手段で躱すのは非常に困難。



 この粒子加速砲の弾幕に剣雷の猛攻が加わるのだ。

 流石のヨシツネも2機の質の異なる攻撃は避けきれない。


 無尽に振るわれる剣雷の『雷双大剣』を掻い潜り、向かい来る粒子加速砲を切り払いながら、空へと飛び上がるヨシツネ。


 

 一定の距離まで上昇すれば、少なくとも剣雷の『雷双大剣』は届かない。


 そう判断しての上空への一時的な避難だったのだが………

 



 ガチャンッ!!



 

 空中の剣風が『竜撃砲槍』をキャノンモードからサーフモードへと変形させた。

 

 ヨシツネが空へと昇ったのを確認してからのクイックチェンジ。

 大砲の形をしていた『竜撃砲槍』はサーフィンボードに似た平べったい流線型の乗り物へと変化。

 

 すぐさまソレに飛び乗った剣風は、後方の噴射口から爆炎を吐き出させて急加速。


 これぞ、『サーフ(波乗り)モード』での必殺技、『波騎竜突サーフ・ドラゴン』。


 超重量級すら跳ね飛ばす凶悪な質量特攻兵器。

 これに乗った剣風を誰も止めることなんてできない!

 


 

 ボフォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!




 空へと上がったヨシツネに向かって突撃する剣風。

 そして、あえて弾速を落として撃った粒子加速砲の群に並ぶように突き進む。

 

 自身が撃ち放った粒子加速砲と並走しながら、風を切って爆走する『波騎竜突サーフ・ドラゴン』。


 まるで流星を従えて進むドラゴンのように………

 



「ぬっ! これは………」




 上空数十メートルまで上昇したヨシツネは、突撃してくる剣風、及び、粒子加速砲の弾幕へと鋭い視線を飛ばすと、




「『吼丸ほえまる』!」

 

 

 カツンッ!



 一言呟き、刀の鍔を軽く指で弾いて音を奏でる。


 すると、その音は波紋のように辺りに広がり、


 剣風とともに向かってくる粒子加速砲は…………消滅。



 刃兼戦で見せたマテリアル術を打ち消す効果あるらしいヨシツネの新技。

 

 

 だが、突撃する剣風の『波騎竜突サーフ・ドラゴン』まではどうにもできず、




 ビュンッ!!!




 ギリギリで機体を捻って、剣風の『波騎竜突サーフ・ドラゴン』を回避するヨシツネ。


 暴走する車を間一髪で躱したアクションシーンであるかのよう。

 正しく紙一重での回避という状況。

 


 だが、突撃を避けられた剣風はギュギュッと足元のサーフボードを傾けて急旋回。

 大波をサーフボードで削るような動き。


 仕損じたヨシツネへと追撃すべく急角度でターン。

 そして、体勢を崩したヨシツネの方へと向き直った所で………


 

 

 ガチャンッ!!




 再度、『竜撃砲槍』を変形。

 今度はサーフ(波乗り)モードからウイング(翼)モードへ。


 平べったい流線型のボードが分割。

 剣風の背中へと接合し機械的な2枚の翼へと変化。


 さらに剣風の両肩に小ぶりな砲筒が設置。

 これぞ加速力と旋回力に優れた空中戦仕様。

 翼を備えた竜騎士の誕生。


 

 シャキンッ!


 

 腰の剣を抜き放ち、翼をはためかせてヨシツネへと斬りかかる剣風。

 背中の翼とバックパックから噴き出す爆炎が、剣風の機体を一陣の『風』と成す。


 対するヨシツネは未だ体勢の整わないまま『髪切』にて迎え撃つ構え。

 その表情は険しく強張り、その視線は普段以上に強く鋭い。

 正しくこれから負けるかもしれない強敵を相手しようとしているかのごとく。



 カンカンカンカンカンカンカンカンッ!



 金属がぶつかり合う甲高い音が辺りに響く。


 空中にて近接戦武器で切り結ぶ両者。


 共に高機動飛行型でありながら、その場で滞空しながらの剣劇が続く。



 激しく撃ち込む剣風。

 さらに両肩の砲筒からもショットガンのごとき散弾が飛び出す仕様。

 おまけに背中の翼がビュンと動いて牽制攻撃を仕掛けてくる。


 刀で剣撃や弾丸を弾き、体捌きで回避を続けるヨシツネ。

 刀を振り回すことによって生じる遠心力すら利用して、回転演武がごとき激しい動きで肉薄。


 だが、その様子は遥か下から見ている俺の目でもヨシツネがやや不利に見える。



 もちろん剣の腕ではヨシツネの方が上だ。

 だが、体勢を崩した状態で始まったことで、完全に剣風の勢いに押されてしまっている状況。

 

 珍しくヨシツネが近接戦で苦戦しているシーン。

 過去を振り返ってみても、あのレジェンドタイプの機械種ダルタニャンとやり合った時以来ではないだろうか?

 

 しかし、そんな苦境にあって、ヨシツネの顔に浮かぶのは今まで以上に戦意に溢れた猛々しい笑み。

 普段は冷静沈着な癖に、こと戦闘が絡むと好戦的な性格が表に出てくる。


 これも強敵を求める武人の性か………

 俺には全く理解できない性質だけど………


 まあ、見ている分には面白い。

 俺のメンバー達が切磋琢磨して強くなっていく過程を見るのは大変楽しい。




「こりゃあ、どうなるか分からなくなってきたかな」


 フルフル

『そうだねえ…………、それによく考えたらヨシツネ、空間転移を封じた状態での高位機種相手の戦闘って、ほとんど経験が無いんじゃない?』


「あ…………、確かに」



 ヨシツネと言えば空間転移。

 その反則すぎる効果と使い易さは、どんな状況でもオールマイティに対応できる為、ヨシツネの戦闘は常にこれ有りきで進められる。

 ヨシツネの戦闘において空間転移は起点であり主軸。

 これを封じられては、さぞ戦いにくいに違いない。 


 しかもその上で空中戦にて激しい近接戦を繰り広げるなど、今までほとんどなかったこと。

 ヨシツネにとっても今の状況は初めてに等しい未経験の分野。


 今まで似たような状況で剣風、剣雷を相手に模擬戦したことはあっても、それはランクアップ前の話。

 しかも今回はマテリアル機器使用可という条件の元。

 剣風、剣雷の実力が高くなってきたからこそ、目の前の戦況が生まれたのであろう。



「図らずもヨシツネの訓練にもなったのかな?」


 フルフル

『それでも一時的なことだよ。ヨシツネは、こと近接戦闘に関しては天才だもん』



 

 という白兎の予言通り、



 シャンッ!

 シャンッ!

 シャンッ!


 カンッ!

 カンッ!

 カンッ!



 ヨシツネの白刃が幾線も閃き、剣風を軽々と弾く。

 早く、鋭く、正確なヨシツネの剣閃がたちまちのうちに剣風の剣撃を抑え込む。

 

 所詮は一時的な勢いに押されていただけ。

 技術も能力もヨシツネが2枚も3枚も上回るのだ。

 体勢を立て直せば、ヨシツネが負ける道理など無い。



 見ているうちに、剣風がだんだんと追い込まれていく展開へと移行。

 

 空中戦での近接戦闘という、あまりに稀な状況での一騎打ち。


 その勝敗が着くのはあと僅かと思えた所で………

 



 

 バチバチバチバチバチバチバチッ!!





 今まで蚊帳の外に置かれていた剣雷が動きを見せた。

 戦場が遥か上空に移動したことで何もできなかったはずの剣雷が起死回生の一手を打つ。


 両手に持つ『雷双大剣』を十字に重ね、その交差した部分に巨大なプラズマ球を作り出す。


 その大きさはすでに直径3m超。

 超小型の太陽を顕現させたような光景。


 あれがプラズマ投射剣で作り出すプラズマ球と同じモノなら、一体どれほどの熱量が注ぎ込まれているのだろう?


 

 もしかしたら、剣雷はこの時を待って準備していたのかもしれない。

 剣風が空中戦を挑んだのも、ヨシツネが剣雷から意識の目を遠ざけさせることが目的。

 

 ならば、今、剣雷が作り出すプラズマ球は、この試合を決定づける為の『王手』。

 ここまで盤上を整えた剣風と剣雷の連携は見事…………なのだが、


 

 しかし、1つ失策があるとすれば、俺達が今、剣雷が作り出したプラズマ球に気づいたように、ここまで目立つ超エネルギー体の存在をヨシツネが見逃すはずがないこと。


 どのような速度で打ち上げても、それを回避するのはヨシツネにとっては容易。


 しかも、味方である剣風への誤射を避けようとすれば、決定打とする為にはどうやっても無理が生じる………




 ドオオオオオオオオンッ!




 地上から太陽が打ち上がった。

 直径5mまで膨れ上がったソレは、砲弾にしては遅いと言わざるを得ない速度で上昇。


 思考加速を使わない俺でも十分に目で追える程でしかない。

 こんなモノ、打ち上げた所でヨシツネに当たるはずが………


 


「あれ?」


 ピコピコ

『あやや?』


「ふむ?」

 



 俺と白兎、結界維持に力を注ぐ毘燭も、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


 

 迫り来る巨大なプラズマ球に巻き込まれないよう、退避すると思われていた剣風が、これまで以上の勢いでヨシツネ相手に剣を振るい出したのだ。


 さらに今まで手を隠していたと思われる背中の翼に仕込まれた超小型ミサイルを至近距離でぶっ放す。

 おまけとばかりに両肩の砲筒から網目状のネットを発射。


 剣風の行動を見るに、完全に身を挺してヨシツネの動きを抑える構え。

 突然の剣風の猛攻に動きを封じられて戸惑うヨシツネ。




「え? まさか相打ち覚悟?」



 それしか考えられない。

 剣風がプラズマ球が着弾するまでヨシツネの動きを抑える。

 即ち剣風を巻き込んでの自爆特攻に近い作戦。

 毘燭が与えた『祝福』がそのダメージを無効化することが分かっているからできる反則技。


 このままでは勝ち目が薄いから引き分けを狙った?

 もしくは地上の剣雷はダメージを受けないから、それで模擬戦に勝ったと言うつもりであろうか?



 フルフル

『だとしたら後で叱らなきゃいけないね。模擬戦で使うような作戦じゃない』



 白兎が足元で耳をフルフル、少し怒ったような声で呟く。



 まず、『祝福』の効果を期待しての作戦なんて立てるべきではない。

 模擬戦であるから、時間をかけて両者へと『祝福』が与えられたのだ。

 それは万が一の致命傷を避ける為。

 その仕組みを逆手に取った作戦を取るなんて、悪用も良い所。



 それに自爆を前提とした作戦は俺のチームにはそぐわない。


 普通の機械種使いに仕える従属機械種なら当たり前の作戦なのかもしれない。

 従属機械種を磨り潰して成り上がるのが世の中の機械種使いの大半。


 だが、俺のチームで俺がそんなことを許すはずが無い。

 もし、そんなことをされたら、俺は精神に多大なダメージを受け、数年間引き籠る自信がある。

 

 もちろん、どうしようもないことがあるのは分かっている。

 万が一の時、チームメンバー達がそういった行動を取る可能性があることも。


 しかし、それを模擬戦で見せるのは頂けない。

 そんなの、俺がショックを受けるに決まっているから。


 そのようなことも含め、白兎はお怒りなのだ。


 この試合後、剣風達は白兎とヨシツネのお仕置きを受けることとなるであろう………


 

 


 地上から打ち上がった巨大なプラズマ球は、ヨシツネと剣風へと迫る。

 稲光を伴う強烈な光が上空の2機の姿を眩いばかりに下から照らす。

 

 何とかその場を逃れようとするヨシツネであるが、文字通り死兵と化して攻撃を続ける剣風から逃れきれない。


 

 やがて、2機の至近距離へと接近した巨大なプラズマ球は………





 バリバリバリバリバリバリッ!!





 いきなり破裂。

 中心部を爆破されたように四方八方へと飛散。


 その純白の烈光を辺りに振り撒き、

 火花を散らす電磁パルスがばら撒かれる。


 周囲が完全に白に染まる。

 今ばかりは天に鎮座する太陽を上回る光が辺りを支配。



 

「眩しい!」




 思わず目を閉じ、両手で両目を抑える俺。


 それでも瞼の裏に白が移り込む程の光量。


 一体どれほどのエネルギーが空でぶち撒けられたのであろうか?





「…………………どうなった? ヨシツネ達は無事か?」




 光が徐々に収まっていくのを感じ、足元の白兎へと問いかけると、




 フリフリ

『大丈夫………かな? これは一本取られたねえ』


「んん? どういう意味だ?」


 パタパタ

『見れば分かるよ』



 白兎の声に促されて空を見上げると、そこには少し疲れた様子で空に浮かぶヨシツネと、



 3mを超す巨大な盾で完全に身を隠した状態の剣風。


 竜の頭部を中心に飾り、竜麟を表面に、竜翼を左右に展開した『竜撃砲槍』の5つ目のモード。

 

 転職後しばらく経ってから発現したという『竜鎧盾壁ドラゴンシールド』。

 ベリアルの一撃すら防ぐ堅牢な防御壁を構築するシールド(盾))モード。



「ああ! そうか、アレがあったか!」



 どうやら、剣雷が打ち上げ、破裂させたプラズマ球の爆裂をシールドモードでやり過ごす作戦であった様子。


 それならばヨシツネをギリギリまで引きつけた作戦も頷ける。




「なるほど、地味過ぎて忘れていたぞ」


 フルフル

『元々、竜鎧砲もあんな感じだったからね。ランクアップして盾がどっかいっちゃったと思ってたから』



 俺と白兎がそんなやり取りをしている間に、ヨシツネがフワリと地上へ降り立つ。

 その機体に傷は一切見られないけれど、少しばかり疲労した様子が見て取れる。


 また、その凛々しい若武者の顔にしてやられたとばかりな苦笑を浮かべ、



「主様、見ての通り、一本取られました」


「ふむ? …………どうやらそのようですな」



 ヨシツネの申し出に毘燭が横から出て来て『特性』の状態をチェック。

 自身が施した『祝福』が消費されてしまっているのを確認して報告。



「剣風殿も剣雷殿もお見事でした。それぞれが自身の能力を把握した上で、役割を徹し、拙者を追い詰めた。最後の大技にはヒヤッとさせられましたが、それもまさかブラフであるとは………、もしかしたら、逆に拙者の方が教わることの多い試合であったかもしれません」



 弟子の躍進が喜ばしいのか、ヨシツネがやたら饒舌。

 


「彼等の課題としては、各々が単独で戦う場合、又は、他の者達と連携する場合の戦闘パターンを確立することでしょう。秘彗殿や刃兼殿との連携はすでに試しておりますが、次は天琉殿や豪魔殿、浮楽殿との連携も面白そうですね」


「まあ、その辺りはおいおい考えるとしよう。今は………」



 一旦ヨシツネとの話を打ち切り、視線を横へと移すと、




 コク

 コクコク



 

 今回の模擬戦の勝利者となった剣風と剣雷の姿。

 2機とも疲れた様子は見せつつも、どこか誇らしげ。



「素晴らしい勝利だったぞ、剣風、剣雷!」



 マスターの役目として、素晴らしい成長を見せたメンバーに称賛の言葉を贈る。



「剣風の『竜撃砲槍』のモードチェンジも恰好良かったし、剣雷の『雷双大剣』の破壊力も凄かった。しかも、あのヨシツネ相手に一本を取ったんだ。俺もお前達の成長を喜ばしく思う。これからも俺の為にその力を振るってくれ」



 バッ!

 バッ!



 2機とも剣を捧げた形の敬礼。

 騎士が主君に対して行うポーズ。


 直立不動の姿勢を保ちながらも、微妙にその機体が震えているのが分かる。

 俺の言葉に感動に打ち震えているのであろう。


 マスターの言葉は従属機械種達にとって、そこまで大きなモノなのだ。

 それこそ、その為に命を賭けても良いぐらいに。



 そして、俺が声をかけるべき相手はもう1人。

 


「そして、毘燭」


「おや? 拙僧ですかな?」


 

 突然、俺に声をかけられた毘燭。

 その様子は、いつものように風に流れる柳のごとく。



「ああ、周りに被害が出ないよう、良く結界を維持してくれた。見た所、ほとんど余波は外に出なかったようだし………」


「プラズマ球が弾けたときが一番危なかったですな。空で破裂してくれてある程度距離があったのは幸いでしたぞ」


「いつも裏方でお前が動いてくれるおかげで色々助かっている。これからも頼むぞ」


「……………お任せを。拙僧の力の全ては御身の為に」



 返って来たのは深いお辞儀。

 いつも以上に仰々しい態度ではあるが、不思議と今回、嫌味な様子は感じない。

 



「あとは………、ヨシツネ、お疲れさん。色々大変だったな」


「ハッ!」



 ポンとヨシツネの肩を叩くと、俺に対して深々と目礼。


 一瞬交差し合う目と目。

 それだけでなんとなく言いたいことが分かるのが不思議。

 

 俺とヨシツネの間であれば、これで十分。

 何せ白兎の次に古い付き合いだからな。



 そして、この度の模擬戦はこれにて終了。

 

 


 さあて、散歩の続きを再開しますか。

 色々寄り道ばかりであったが、目的地である機械種生産工場まであと一息だ。





『こぼれ話』

【固有技】には幾つかのタイプがありますが。以下の2つが大部分を占めます。


発動系の【固有技】:マテリアル機器を組み合わせ、強力なマテリアル術を発動。

武装系の【固有技】:武器や防具等が変形。最上級の発掘品並みの性能を持つ。


悠久の刃でいうと秘彗の固有技【魔女の楔】と【魔女の森】は発動系。

また毘燭の固有技【聖域】、刃兼の【飛燕一閃】【~舞】、胡狛の【機械仕掛けのビックリ箱】も発動系。


剣雷の【雷双大剣】、剣風の【竜撃砲槍】は武装系になります。




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