第671話 模擬戦4



 刃兼の3戦目の模擬戦。

 

 その相手は我が『悠久の刃』の次席、ヨシツネ。


 まだ両者が出会ってから2週間も経っていないが、それでも何度か剣の指導を行っている師弟関係でもある。


 もちろんダブルに昇格した刃兼であっても勝てるはずの無い格上。

 

 しかし、その刃兼がヨシツネへの勝負を望んできたのだ。


 そして、ヨシツネ自身も承諾した。


 それを止めることなんて俺にはできない…………





「お手数をおかけします、ヨシツネ様」


「構いません。拙者も刃兼殿の戦いを見て血が騒いでいた所ですから」


「………意外です。ヨシツネ様でも、そんな風に高ぶることがあるのですね」


「フフフ……、貴方からどう見えているのかは分かりませんが、拙者はまだまだ未熟者。特に主様と一緒にいるとソレを良く感じます」



 一定の距離を置いて試合前の会話を交わす刃兼とヨシツネ。


 互いに刀に手を置きながら、軽く世間話をするような気軽な口調。


 だが、両者の目はこれから始まる戦いへの期待感に満ち溢れており、共に青い光を強く瞬かせている。


 どちらも珍しい『刀』を扱う近接戦闘型。

 果たして、どのような試合運びを見せてくれるのか………





「では、行きます!」


「初手は譲りましょう。どうぞ」



 本日三度の刃兼の試合開始宣言。

 

 刀を抜き放ち正眼に構える刃兼に対し、ヨシツネは未だ刀を抜かずに『初手を譲る』と言い放つ。


 その言葉に刃兼はギュッと目つきを鋭くして固く唇を結ぶ。


 だが、次の瞬間、フッと綻ぶような笑顔を浮かべて、



「では、ヨシツネ様。ご存分に味わってくださいませ」 



 両手に持った刀を振り上げ、



「『固有技 藤花の舞』!」



 気合の籠った声と共に、その切っ先を真下へと振り下ろした。



 ボフォオオオオオオオオオオオオオ!!



 刀の先端がなぞった空間から突如発生する藤の花群。

 視界一杯が紫色に染まる程の大量の花弁。


 それは津波のごとく向かい合うヨシツネへと襲いかかる。

 触れただけで金属を崩壊させる凶悪な『固有技』。

 現象制御による世界設定の一時的な改変。


 

 対するヨシツネは、迫りくる藤花の津波を前に、眉一つ動かさずに、



「ふむ? 強くなっているのは貴方だけではありませんよ………」



 仮面の奥からキラリと光る蒼瞳。

 その声にほんの僅かに楽し気な響きを含ませながら、


 たった一言を呟き、



吼丸ほえまる』」


 カツン



 腰に差した刀を少しだけ抜いてカツンっと音と立てて納めた。

 

 辺りに響く甲高い納刀音。

 まるで小動物が小さく吼えたような響き。

 

 たったそれだけの音が、ヨシツネの機体を飲み込もうとしていた藤花の津波を…………




『消滅』




 辺り一面を紫色に染めていた藤花の花弁、その一切が突然消え去った。

 

 まるでテレビの画面がカラーからいきなり白黒に切り替わったかと思う程の唐突な消失。

 現象制御で生み出されたはずの藤の花が、その痕跡を一片たりとも残さずに消えた。

 



「な………なんと?」




 周りで観戦中の俺達も驚いたが、一番驚いたのは技を打ち消された当の刃兼であろう。


 刀を振り切った体勢のまま、目を大きく見開き驚愕の表情。


 新たに手にした『固有技』、30機ものガシャドクロを崩壊させた奥義がヨシツネの僅かな動作で消し去られてしまったのだ。

 ヨシツネの実力はある程度分かっていたのだろうが、まさかここまでの格差があるとは思ってもみなかったに違いない。



「どうしました? それで終わりですか?」


「む………」



 余裕の態度を見せるヨシツネからの質問。

 その挑発染みた言葉に、すぐに我に返り、改めて刀を構え直す刃兼。


 

「まだです! これならどうですか!」



 そして、またも刀を大きく振りかぶり、目の前の空気を巻き込むがごとく、ブンっと音を立てて横薙ぎに払う。



「『固有技 風祝の舞かぜはふりのまい』!」



 ブフォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!



 振り抜いた刀の軌跡から飛び出す2匹の竜。


 荒ぶる旋風を纏う風竜。

 渦巻く流水で形作られた水竜。


 それぞれが超重量級の機械種さえ抑え込む力を持つ。

 たとえヨシツネであっても捕まってしまえば逃れるのは困難………



 だが、ヨシツネは、この攻撃にも然したる迎撃態勢を見せず、

 腰の刀の柄頭に手を置いたまま、またも意味ありげな一言呟いた。




「『蜘蛛切くもきり』」

 


 ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ!

 ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ!



 ヨシツネへと襲いかかる2匹の竜は、

 突然、空中から現れた八本の巨大な杭に串刺し。


 空間の裂け目から飛び出してきた長さ10m以上の節くれだった金属製の杭。

 外見は紛れもなく節足動物の足であろう。

 

 ヨシツネが呟いた技名が正しいのであれば、その正体は正しく蜘蛛の脚。

 それが八本、何の予兆も見せずに出現し、哀れな獲物へと振り下ろされた。



 オオオオオオオオ……

 ボオオオオオオオ……

 


 ウナギのように串打ちされ地面に縫い止められ、呻き声をあげる2匹の竜。

 ブルリと身体を震わせたかと思うと、次の瞬間、ただの一陣の風と水飛沫に変化。

 初めから存在しなかったかのように霞となって消えていった。




「ま、まさか………、これも………」



 

 刀を振り抜いたままの姿勢となっていた刃兼の機体がグラリと揺れる。

 自信を持って繰り出した己の『固有技』が、刀すら抜かせないまま防がれてしまったのだ。


 刃兼の顔は血の気が引いたような真っ青。

 そのショックは限りなく大きい様子。


 無理もあるまい。

 ダブルになったとはいえ、刃兼とヨシツネの差は橙伯と緋王並みの差があるのだ。


 そもそも相手になるはずの無い格差。

 一矢報いることができれば御の字と言った所であろう。


 だが、その一矢さえ報いることができなかったのだから、刃兼の失意も分からないでもないが………


 




 ヨシツネが繰り出した新たな技『吼丸ほえまる』に『蜘蛛切くもきり』。


 それはヨシツネ………、いや、源義経の愛刀『薄緑』の異名の一つ。

 元々、何度も改名を重ねて来た刀なのだ。


 刀が夜に蛇の泣くような声で吠えたので『吼丸ほえまる』と呼ばれ、

 熱病を引き起こす土蜘蛛を切り殺したので『蜘蛛切くもきり』とされた。


 その逸話から発生したヨシツネの新技。

 おそらくは朱妃イザナミを倒したことで得られたモノであろう。


 刃兼がダブルとなって強くなったとしても、ヨシツネだって強くなっていくのだ。

 同じ速度で走っているならその差は縮まらない。

 

 もちろん、頂点に近くなればなるほどその道は険しくなっていくので、いずれ近づくことになるのかもしれないが。


 しかし、疑問に思うのは、刃兼の現象制御で引き起こされた固有技をどうやって打ち消したのであろうか?

 現象制御はよほどの出力差が無い限り、同じ現象制御か虚数制御でしか打ち消せないはずなのに………







「これで終わりですか、刃兼殿?」


「………………」


「色々多彩な技を身に着けたようですが、拙者が見るに、貴方の本領はそこでは無いと思いますよ。いきなり慣れていない技を実戦で使用するのは危険です。それを知れただけでも僥倖。しかし、それで終わっては主様にわざわざ時間を取っていただいた甲斐が無い………」



 落ち込む様子を見せる刃兼に対し、ヨシツネは努めて優し気に声をかける。



「見せなさい。まだまだ貴方の力はこんなものではないはずです。貴方の新たな力を…………いえ、違いますね。貴方が磨き上げた刃を主様に披露するのです。己が持つ刃を信じなさい」


「!!! ……………分かりました」



 ヨシツネの言葉に、ようやく我を取り戻した刃兼。


 その瞳に強い光を宿し、力強く返事を返す。


 そして、抜いていた刀を腰の鞘へと納刀、

 グッと姿勢を低くした居合抜きの構えを取る。


 それは先の戦いで見せた神速の抜刀術。

 そこから繰り出されるサムライ系の奥義、空間斬。




「…………………」




 普段は物静かな様子の刃兼の顔は、怖いと思ってしまうくらいに真剣。

 まるで引き絞られた弓のようにピンと張り詰めたような体勢のまま、ヨシツネを睨みつけ………

 



「ヨシツネ様。もし、手元が狂い、晶石を破壊してしまった時は………、私も後を追わせていただきます」



 

 なんか物騒なセリフを言い出した。


 おいっ!!



「こ、こら! 刃兼! 誰がそんな危ない技を………」


「構いません。主様、大丈夫です。そんなことにはなりません」



 慌てて止めようとする俺に、ヨシツネが珍しく反論。



「ここは好きにやらせてあげてください。主様を放り出して、勝手にいなくなる拙者ではございません」


「そうは言っても………」



 できるだけリスクは避けたい俺だ。

 得るモノも無いのに、リスクを負うだけの行為は流石に認めにくい。

 

 ここでリスクを取って得られるモノは一体何なんだ?


 『達成感』? 『根性』?『精神力』?


 馬鹿馬鹿しい。

 そんな形の無いモノを得ようとして、命を賭けるのは馬鹿げているとしか言いようが無い。



 だが、チームの主力メンバー達がヨシツネのフォローに周り、



 フルフル

『マスター、大丈夫だって。ヨシツネがああ言っているんだから』


「うむ。筆頭殿の言う通り、ここはヨシツネ殿にお任せしましょう」


「好きにやらせてあげればいいじゃない? ここで死ぬならそこまでの奴だったんだよ」



 白兎、豪魔、ベリアルの3機が揃って俺へと意見。

 

 我がチームのトップ4の3機がこう言えば、流石の俺も一考。

 彼等は俺よりも思慮深く頭も良いはずなのだから、当然と言えば当然。


 

 一応、他のメンバー達を見渡せば、



 森羅、廻斗、剣風、剣雷、輝煉、虎芽は白兎達と同意見の様子。


 秘彗、毘燭、胡狛、玖雀はどちらかというと俺に止めてほしそうに見える。


 辰沙、タキヤシャは意見を出さずに中立っぽい。


 天琉はニコニコ、浮楽はギギギッと笑っているだけ………

 浮楽は俺がその意図を読み取れないだけだが、天琉の奴は多分、何にも考えていないのであろう。




「はあ………、こんな所で危ない橋を渡るなんて………、しょうがねえなあ!」




 頭をガシガシと掻き毟る俺。


 こういう体育会系のノリはあんまり好きではないのだ。

 甲子園で身体を壊してまで投げる投手を見ても、『将来のことを考えたら無理しない方が良いのに……』と思うのが俺。


 けれども、当のヨシツネがそう願い、白兎達が良しするなら、俺としても心情を改めざるを得ない。

 



「ヨシツネ! 最悪でも晶石だけは守れ! それさえ無事なら五色石で修理できる!」


「ハッ! お任せを!」


「刃兼! ヨシツネの漢気を組んで認めてやる! お前の力を俺に見せろ!」


「はい!」




 威勢良くそう返事をすると、刃兼はさらに深く低い体勢で構える。

 

 その姿は限界まで引き絞られた弓。

 若しくは、撃鉄を起こした拳銃であろう。


 飛び出すのは弓でも弾丸でも無く、空間の歪。

 時空をズラすことにより万物を切断する至高の刃。


 その難易度は高く、物理的な防御を切り裂く絶対攻撃なのであるが、

 弱点として真っ直ぐにしか飛ばないという欠点もある。


 砲弾内の粒子移動に干渉することで色々変化を付けられる粒子加速砲や、

 射程上の空気分子の密度を操作して軌道をコントロールできる電撃、

 重力子そのものを弄って形すら変形できる重力波とは違う。


 撃ち放った空間攻撃は止められない。

 だから万が一ヨシツネが回避し損なったらそこでアウト………



 まあ、全機械種の中でも最高位に回避に特化したヨシツネが避け損なうことはほぼ考えられないのだが。

 ランクアップ前でさえ、緋王ロキや超重量級の機械種フェンリルの多重攻撃を躱しまくり、損害を小傷程度に抑えて交戦していたのだ。

 

 ヨシツネにとっては真っ直ぐ飛んでくる空間斬を躱すことなど朝飯前。

 だからこそ、あそこまで自信を持って『大丈夫』と言い放ったのであろう……



 だけど、気になるのはヨシツネの声と目の光。

 顔は仮面を被ったままだから、表情を伺うことはできないが、

 どうにもそれ以上のナニカを刃兼に期待しているように見える。


 アイツもバトルジャンキーな所があるからなあ。

 頼むからこんな所で大惨事を起こさないでくれよ。




 皆が見守る中、刃兼がようやく動きを見せる。



 カチャ



 鍔を親指で押し上げ、刀の刀身がチラリと見えたと思うと………


 刃兼は桜色の唇を微かに動かし、その奥義の名を呟いた………




「固有技『飛燕一閃』!」




 思考加速した俺の目でも捉えるのが精一杯な程の剣速。


 刃兼が裂帛の気合を以って居合切りを披露。


 白刃が閃き、空を断ち、間を飛び、敵を斬る…………


 それ、即ち、空間斬。


  



 ……ィン




 

 辺りが一瞬静まり返り、


 ほんの微かに亀裂音が響き、





「……………お見事。避け損ないました。まさか迎撃すらできないとは………」





 そう言葉を発したのはヨシツネ。

 その手にはいつの間にか『髪切』が抜かれており………



 パカン

 


 ヨシツネの仮面が…………割れた。



 カタン



 

 割れた仮面は地面に落下し乾いた音を立てる。


 そして、露わになった若武者の素顔。

 20歳前後の凛々しい顔立ち。

 妙に色気のある涼し気な目元。

 色白で目鼻立ちがくっきりとした美男子。

 

 だが、その額には薄っすらとした切り傷が………


 


「なるほど………、空間斬を飛ばすではなく、その場に発生させますか。これは意外でした。初見で迎撃するのは不可能でしょうね」


「ヨシツネ様のご助言を受け、自分の晶脳内をくまなく検索したところ、この技が眠っておりました」


「おそらく、それは貴方の本来の『固有技』でしょう。確かに、これこそ侍らしい」


「ありがとうございます。ヨシツネ様にご指導いただけなければ、一生気づかなかったかもしれません」


「礼はこの度の無茶をお許しいただいた主様におっしゃいなさい。拙者はただ気づかせてあげただけにすぎません」


「はい!」



 交わされる師弟の会話。

 

 その話を聞くに、どうやらヨシツネはその事をある程度推測していたのであろう。


 これも自身の色を染め換えない強烈な個性を持つ緋王の部材を使った影響。

 道理でサムライらしからぬ技が最初に2つも飛び出てきたわけだ。

 これも、刃兼がブルーオーダーされたばかりで、まだ自分と言うモノをきちんと確立できていなかったせいだろう。




「お館様! 此度の模擬戦、ご配慮いただき御礼申し上げます。それから………申し訳ありません。私の我儘でヨシツネ様を危険に晒してしまい………、どうか私に罰をお与えください」


「んん? …………ああ」



 刃兼が駆け寄って来てその場で跪き、

 改めて俺に対して御礼を言うとともに処罰を求めてきた。



「……………まあ、従属させたばかりで、すぐさまランクアップさせて、新たな力を手に入れて………、こう立て続けだと情緒が少々不安定になるのは分かるからなあ」



 ここまで急にランクアップした例も少ないであろう。

 なにせブルーオーダーしてから2週間と少し。


 仲間との交流も社会経験もロクに積まないまま、

 自分より強い機種に囲まれて………


 機体を遥か格上の機種の部材を使って改造され、

 本来の侍系とは系統の異なる『固有技』を身に着けて………


 そりゃあ、焦りもするし、感情に振り回されるのも仕方がない。

 どちらかと言うと俺の配慮不足が原因と言った所か。

 

 

「罰は不要。今後気をつけてくれたらそれで良い。あとは………、その力を俺の為に役に立ててくれ」


「…………はい。全身全霊を込めて、お館様のお役に立つように精進致します!」



 頭を垂れ、俺へと改めて忠誠を誓う刃兼。



 うーん………

 時代劇の一幕のようなやり取り。


 しかもこんな美人を前に跪かせて偉そうな口を叩くと、まるで自分がお殿様になったような気分になって来るな。


 

 ふと、そんな他愛もないことを考えていると、




「ん? 白兎?」



 ピョンピョンピョンと楽し気に跳ねる白兎の姿が視界の端に入り、


 気になってその後を目線で追ってみる。



 白兎はピョンビョン跳ねながら、ヨシツネの方へと駆け寄り、何やら懐?から取り出したナニカを手渡し、



 フルフル!

『ヨシツネ、これ、はい! 絆創膏!』


「これは白兎殿、申し訳ない………、コレを拙者に?」


ピコピコ

『可愛いでしょ。ウサギ型絆創膏。一応、傷が早く修復する溶剤も塗ってあるよ』


「……………有難く頂戴いたします」


 

 なんか微妙に嫌そうな顔で絆創膏を受け取り、少々考え込みながらも自分の額にペタンと貼り付けるヨシツネ。

 実直なヨシツネには、白兎の押しつけがましい善意?を跳ね除けるのは難しかった様子。

 

 これは一種のパワハラ案件ではなかろうか?


 

 白兎はウサギ型絆創膏を受け入れてくれたことで、さらに調子に乗って、



 フリフリ!

『あと、コレ! 仮面が割れたでしょ。こんなこともあろうかと用意していた予備だよ!』


「…………白兎殿。これは……どう見てもウサギの仮面のように見えるのですが?」


 パタパタ

『ヨシツネに似合うと思って!』


「…………これは遠慮します」


 ピコッ!

『えー! 何でえええ!! 絶対に似合うって! これを付けたら女の子にモテモテになるよ! それにマスターもヨシツネは仮面を付けていた方が良いって言ってたし……』


「……………」


 フルフル!

『ほらほらほら! マスターの命令だよ! 他に仮面は無いんだしさあ。もう観念してコレを被るしかないんじゃな~い?』


「むむむ………」



 ヨシツネの周りをウサギの仮面を持ってピョンピョン跳ねる白兎。

 

 しかめっ面で立ち尽くし、ムムムッと悩む様子を見せるヨシツネ。




 なにやっとんじゃ、アイツは。

 しかも、俺が以前に命令したことを持ち出して、無理やり押し付けようとしてやがる。

 やり口が悪徳商人そのものだぞ。



 …………ウサギの仮面を付けたぐらいでモテて堪るか!

 もし、それで女の子が寄って来ても、ソレをモテているとは言わん!

 



 パタパタッ!!

『もういい加減、諦めて付けちゃいなYou(ヨー)! いっそ行きつく所まで行った方が楽になるってものSir(サー)!  きっとだんだん楽しくなるに決まってるっTea(テー)! ホラホラ………」

 

「コラ、白兎! 調子に乗るな!」



 ドンッ!!


 フリッ!

『むぎゅ!』



 流石に放ってはおけじと白兎へ制裁を加える俺。

 とりあえずHIPHOP調で踊りまくる白兎を足で踏んづけて黙らせた。



 だが、白兎は地面に機体のほとんどをめり込みながらも、めげずに耳だけを地上に出してパタパタと動かし、



 パタパタ!

『でも、ヨシツネには仮面が必要でしょ!』


「………………そう言ったけど、………もういいぞ。ヨシツネはそのままで良い」


「ハッ! ………よろしいので」


「ああ、構わん」



 ヨシツネの確認に了承を返す俺。



 元は俺がヨシツネの美形な素顔に嫉妬して、命令したことだからなあ。

 

 別にヨシツネが美形なことと、俺がモテないことに何の因果関係も無いのだ。

 気にする方がおかしい。


 今回、刃兼に仮面を壊されたことが良い機会になった。

 これからヨシツネは素顔でいてもらうことにしよう。



「承知致しました。これからは素顔でいるように致します」


「ああ、仮面のお前もカッコ良かったけど……、お前の素顔も………、プッ!!」


「??? どうされました?」


「いや、何でもない」



 白兎に渡されたウサギ型絆創膏を額に貼ったヨシツネ。

 映画俳優のような二枚目なのに、額のウサギ型絆創膏が実にシュール。

 思わず吹き出してしまいそうになったのは内緒。



「……………これでとにかく、タスクの1つが片付いた。さあ、次の課題へと移ろうか」


「ハッ! 準備致します」



 無理やり話題を変える俺に、いつものように仰々しく返事をするヨシツネ。


 そして、



 フルフル……

『そろそろ掘り起こしてほしい。でないと、また根が張って芽が出そうになるよ』



 いつものごとく地上を混沌に落としかねないのが白兎。


 

 すぐさま俺とヨシツネは慌てて白兎を掘り起こす。



 これもまた、俺達のいつもの日常であった。

 



『こぼれ話』

高位機種の部材を機械種の強化の為に使用することがありますが、あまりに両者に差があると逆に能力を落としたり、バランスが悪くなって暴走するケースがあります。


相性が悪くても同様。

しかし、両者に差があろうが、相性が悪るかろうが、部位によっては益となる場合があり、その辺りを上手くやるのも藍染屋の腕次第であるとも言われています。


また、部材を追加したことでの強化が表に現れるのに時間がかかるケースもあります。部材が機体に馴染むことによってその力を発揮するようになることもあるからです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る