第667話 二足4



 パルティアさん達を見送った後、お礼の品として頂いた人型戦車をガレージ内へと搬入。


 メンバー達に見せびらかす為に、ガレージのど真ん中に立たせてみた。


 すると、いつもの『お騒がし組』達がすぐに群がり、人型戦車を囲んでワイワイと騒ぎ出す。



 天琉と浮楽、廻斗は、早速、頭や肩の上に昇って喝采を上げ、

 秘彗と玖雀はそんな3機が転げ落ちないかと見上げながら心配そうな表情でワタワタ。

 白兎は人型戦車の足元付近に鼻をくっつけてフンフンしながら機体をチェック。

 虎芽は天琉達の所までよじ登ろうとして、辰沙に『パンツが見えますよ!』と止められていた。



「メンバー達に好評で何よりだな」



 そんな馬鹿騒ぎを眺めながらの独白。

 自分でも嬉しそうな表情を浮かべているなと自覚しつつ、それでもニヤニヤと笑みが零れるのを止められない。


 折角のパルティアさんからのプレゼントだ。

 やはり皆にここまで喜んで貰えると、これを受け取って良かったなと思える。


 初めは微妙な贈り物だと思わなくも無かったが、一度自分の手で動かしてみると愛着が湧いてくる。

 そして、この力強い鋼鉄の人型兵器が思う存分に暴れるさまを見てみたくなってくる。


 扱いにくい兵器だからこそ、陽の目を当てさせてやりたいとも思う。


 男の子の夢が詰まったロマンの塊。

 それが俺の手の中にあると考えただけでも、ワクワクドキドキが鳴りやまない。


 

 こんな素敵な贈り物をしてくれたパルティアさんには感謝しかないな。

 ブルハーン団長から、と言っていたけど、あの様子だと多分、この人型戦車を選んだのはパルティアさんであろう。

 

 よく考えれば、俺の偽装に用いてはどうだ? みたいな提案、あの頑固で実直なブルハーン団長が思いつくはずが無い。

 となれば、この提案を考えたのは鉄杭団の参謀であるパルティアさん。


 美人でスタイル抜群なだけでなく、頭も良い。

 あと、おそらく青学や緑学、黄学にも精通しているのであろう。

 まさに才色兼備を地で行く人だ。


 

 また、どこかで会えると良いな。

 それまでに、この人型戦車を使って活躍して、『大変役に立ちました』って報告したい。

 きっと喜んでくれるだろう………

  


 だが、そんな未来の話に気分を良くしている俺の耳に、空気を読まない不躾な質問が滑り込む。

 

 

「我が君、これ、役に立つの?」



 少し興が削がれて、ムッとしながら声の主を振り返ると、

 そこには流麗な眉を顰め、不機嫌そうに唇をとんがらせたベリアルの姿。



「いつも僕達が相手にしているような敵だったら、盾にもならないよ。むしろ邪魔じゃないかな?」



 ベリアルはガレージの中央に立つ全高5mの鉄巨人へと冷たい視線を向けつつ、ポンポンと駄目出ししてくる。



「しかも、不格好だし、ずんぐりしているし、短足だし………、我が君に相応しい乗り物だとは思えないなあ」


「カッコ良いだろ、あのデザイン! あのシンプルで武骨なフォルムがいいんだよ!」


「そうかなあ~、我が君の趣味はイマイチ理解できないや………」



 俺の反論に首を傾げて納得がいかない感じのベリアル。


 芸術の極致、美の化身のような姿のベリアルからすれば、あの人型戦車の鈍重そうなデザインは相容れないものであろう。

 だが、世の中、多様性が叫ばれる世情なのだ。

 実用性や機能美を尊ぶ見方があっても良いはず。



 しかし、この人型戦車に対して否定的な味方をするメンバーは他にもおり、



「マスターのご趣味は構いませんが、実戦でコレにマスターがご搭乗なさるのは、私としては推奨できません」



 俺とベリアルの会話に胡狛が割り込む。


 一瞬、ベリアルの眉がピクンと動くも、胡狛へと遠慮する形で一歩引いた。


 普段のベリアルから考えられない行動だが、胡狛が話そうとしている内容が自分の意見に沿うモノと判断した為だろう。


 

 胡狛の表情は怖いくらいに真剣。

 人型戦車が持ち込まれてから、ずっと意見を述べようとしていたのであろう。

 ここぞとばかりに、人型戦車のデメリットを挙げてくる。

 


「まず、1つ。敵に狙われやすくなります。2つ、マスターがコレにご搭乗されるとなると、ビショクさんやヒスイさんが展開する障壁の範囲が広がり過ぎてしまいます。人型戦車ごと囲わないといけなくなりますので。これではイザと言う時の防御力が担保できません。3つ…………、どう考えても、マスターはコレに乗らない方が強いからです」


「まあ…………、それは分かっているけど………」


「それさえご理解いただけているなら、私からはこれ以上何も申しません」

 


 言いたいことを言ってスッキリした感の胡狛。

 最後にニコッと笑って後ろに下がる。



 美少女の笑顔なのに、なぜか怖いと思ってしまった。


 『笑顔というのは実は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である』


 ふと、そんな漫画で呼んだ一説が頭に浮かんでしまった程に。




「うむむ………」



 胡狛からの進言に考え込む俺。


  

 ぐうの音も出ない程に論理立てて、『あくまで趣味の範囲にしておけ』『実戦では使うな』と言われてしまった。 


 確かにもっともなことだと思う。


 巣やダンジョン内で使用するのはリスクが高すぎる。

 悠久の刃の最大戦力である俺の力を、わざわざ制限するなど愚の骨頂でしかない。

 それで万が一、メンバーの誰かが大破してしまったら目も当てられない大惨事だ。



「まあ………、仕方が無いな。この辺は趣味と割り切るか。中央ではこの人型戦車を使った格闘技大会とかもあるし…………、あれはもっと後年の話だったけなあ?」



 魔弾の射手ルートでの未来視の中でもかなり最後の方の情報。

 もしかしたら俺が猟兵を引退した後だったかもしれない。


 機械種同士を争わせる『機械種対戦メタリックバトル』の余興として、重二足同士の模擬戦が行われたことがあった。


 それが好評を得て、翌年、重二足の操縦者を集めての大会が開催。

 『重二足対戦ヘビーフットバトル』の名で定期的に行われるようになった。




「戦場で使うのは諦めよう。そもそもコイツは優良機といっても、所詮は一般機。ディー・ディーが乗る『黒曜オブシディアン棺桶・コフィン』のような特別機じゃない。どれだけ使いこなせたって、ストロングタイプより少し強い程度が精々だ。俺達が目指すモノはもっと先にあるはずだし………」



 

 そう、俺が人型戦車の使い道について結論付けようとすると、


 

 

「あい? マスター、コレ、使わないの?」




 人型戦車の頭上に乗る天琉が不思議そうな顔で問いかけてくる。




「こんなに強そうだよ! テンルよりも大きいし!」


「お前と比べたら、大概の奴は大きいだろ! ……………それに、コイツはデカいけど、それだけだ。パワーで言えば辰沙や虎芽にも勝てんだろうし、遠距離攻撃も粒子加速砲が二連と銃だけ。速度も遅いし空も飛べないとなると、戦場でも使い道が………」


「あ~い~? だったら合体させれば?」


「は? 合体?」


「あい! アニメで見たよ! ロボットが一杯集まって合体するの! そうしたら、ドドンッ! って強くなるんだよ!」



 無邪気にアニメで見た話を嬉しそうに語る天琉。

 白兎配信による合体ロボットアニメの影響であろう。

 

 無数にあり過ぎてどれのことなのかも特定できない程に、現代日本には合体ロボットアニメが溢れている。

 そんなアニメを見て天琉がそう考えるのも無理はないのかもしれないが。



「強くなるって…………、一体何と合体させるんだよ。もう1機人型戦車を買わなきゃいけないだろ。そんな無駄遣いをするつもりは無いぞ」


「あ~い~! 天琉が合体するから大丈夫!!」


「え?」



 天琉の言葉が理解できず、ポカンと口を開けた間抜け面を晒す俺の前で、



「あい! 合体!」



 天琉は元気良くかけ声を放ち、自身の背中の4枚の翼を大きく広げて、人型戦車の頭上から飛翔。

 そのまま人型戦車の背後に回ってその背中にペタンと張り付いた。



「あーいー! テンルウイング!」


「おお!」



 人型戦車に純白の翼が4枚生えた………ように見える。


 人型戦車の大きさに比べると飾り程度でしかないが、それでも、天琉の飛行能力を考えれば、決して運べない重量ではない。

 しかも天琉には『運搬(中級)』のスキルを入れているのだ。

 バランスを取りながら持ち上げて飛行するぐらい朝飯前であろう。


 天琉が背中に張り付く………、いや、合体するだけで、人型戦車は飛行能力を手に入れたのだ!



「…………しかし、ただ飛ぶだけじゃあデカい的だぞ。やはり攻撃力も無いと………」


「あい! なら、もっと合体する!」



 俺が呟いた人型戦車の課題に対し、天琉はすぐさま解決方法を提示。

 足りない者は足せば良いという力技。



「ヒスイ! お願い!」


「ひょえ? 私ですか?」


「右手に乗って! ヒスイサンダー!」


「え? それって…………」


「あ~い! マスターに良い所を見せるの! お願い!」


「う~ん~………、テンルさんったら、仕方が無いですねぇ」



 突然の天琉からのお願いに、難色を示す素振りを見せるものの、

 結局、頼まれると嫌とは言えずに引き受けてしまういつもの秘彗。


 だが、その顔にほんの少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべているように見えるのは気のせいだろうか?



 秘彗は自身に備わるマテリアル重力器を発動させて浮遊。

 人型戦車の右腕にある突起物の所まで上昇、そこへと両膝を揃えてチョコンと座る。

 秘彗らしいお行儀良くお上品な座り方。

 そして、杖を亜空間倉庫から取り出し斜め上に向けて、



「えっと………ヒ、ヒスイサンダー!」



 恥ずかし気な仕草で、天琉から命名された『ヒスイサンダー』を実行。

 杖の先から小規模な紫電が瞬き、バリバリと音を立てた。

 

 今のは軽いデモンストレーションでしかないが、秘彗が修める功性マテリアル術は多彩にして強力。

 人型戦車に秘彗が合体すれば、それだけであらゆる種類の砲撃が可能となる。



「おお! ネーミングはともかく、これで不沈金剛に遠距離砲撃が………」


「ちょっと待ったガオ! それぐらいで驚いてもらっては駄目だガオ!」



 俺の感嘆の声をかき消すように突然虎芽が吼え、



「まだソイツには敵を切り裂く直接攻撃力が足りないガオ。それを埋めるのはこのトラメだガオ! …………とうっ!」



 何を思ったか、いきなり人型戦車の左腕部分にピョンと飛びつき、ガバッと両腿で腕部分を挟み込んで自身の機体を固定。

 そして、上半身だけギュッと捻ってこっちを向いて、両手を前に突き出しながらその爪を長く伸ばして猫………虎のような引っ掻きポーズ。



「これで直接攻撃力もばっちりだガオ。名付けて『トラメクロー』だガオ!」



 どうやら虎芽は自分が人型戦車の左手となり、近接攻撃を担当する模様。

 確かに虎芽のパワーを以ってすれば、大抵の敵は薙ぎ倒せるのだろうが……


 ミニスカ履いた女の子として、その掴まり方はどうなんだ?



 案の上、同僚の見過ごせない格好に、お姉さん格の辰沙が注意を飛ばす。



「トラメ! 女の子がそんな掴まり方しちゃいけません! パンツが見えてますよ!」


「おっと、パンチラはNGなんだったガオ………、コレでどうだガオ?」



 辰沙に叱られて、人差し指の爪で頭をポリポリ。

 ふと、思いついたようにお尻の虎尻尾をクルッと動かし、曝け出された微妙な部分を隠す。


 それはそれでエロい恰好なのだが、全く気にしない様子で虎芽はドヤ顔。


 もうパンチラとか、女性の嗜みとかそう言う前に、コイツは一度ラズリーさんに指導教育を徹底してもらうべきではないだろうか?

 完全にパンチラ要員かラッキースケベ要員に成り下がってしまっているような気がする。

 男として美少女の痴態を見るのは楽しいが、それが自分の従属機械種だと思うと、マスターとしての責任を感じてしまう。



「まあ、虎芽の再教育プランは後で考えるとして………、これで不沈金剛の直接攻撃力が上がった………のか? 虎芽の爪じゃあ、武器としての長さが短すぎないか?」


「ガオ? …………僕の爪だけじゃ足りないのなら、ケンフウランスやケンライソードにするかガオ?」



 人型戦車にプランと掴まりながら、悪気無く同じストロングタイプのダブルを巻き込もうとする虎芽。

 剣風、剣雷に向かって無邪気に『こっちに来て!』と両手をブンブン。

 

 いきなり話を振られた剣風、剣雷はもの凄い勢いで首を横に振り、全力で遠慮したいという意思を表明。


 あの虎芽の言い方だと、剣風、剣雷自身が武器扱いだ。

 流石に人型戦車の手に握られてブンブン振るわれるのは2機とも御免だろう。


 虎芽からだけではなく、先輩である天琉からも『あい? ケンフウ、ケンライ、一緒に合体しよー!』と誘われるも、『武器扱いは絶対にNO!』という態度を崩さない。



 すると、天琉は剣風、剣雷の勧誘を諦め、



「じゃあ、代わりにレーダーを増やす! クジャク!」


「はい、テンルさん、チュン!」



 天琉に声をかけられた玖雀は素直に頷き、背中の翼をバサッと広げて人型戦車の肩へと飛び乗る。



「レーダー役、承ります、チュン!」


「あい! ありがとー! クジャク」


「折角のテンルさんのお誘いですから、チュン。精一杯がんばります、チュン」


「あーいー! これでクジャクレーダー、完成!」


「チュン!」



 天琉が嬉しそうに声を上げると、

 玖雀も元気良く『チュン』と鳴く。


 なんか幼い姿の2機が人型戦車の上でイチャイチャ。


 背丈が近く、共に背中に翼があっておかっぱ頭。

 髪の色が金髪と紺色という違いはあるが、横に並ぶとお似合いのカップルであるかのように見える。


 どちらも愛らしい外見に楽し気な笑みを浮かべた微笑ましい光景。

 児童雑誌の表紙を飾れそうな構図。


 

「む………」 



 ふと、気づけば、なぜかソレを人型戦車の右腕から眺める秘彗の顔がムスッと膨れていた。

 見方によれば秘彗がお似合いカップルに嫉妬しているようにも見える光景。 

 


 いつの間にか、我が悠久の刃の中で複雑な人間関係が発生したのだろうか?



 普段、しっかり者のお姉さんである秘彗と脳天気な弟っぽい天琉。

 そんな天琉に彼女ができて、弟を取られてしまった姉のような気分……という感じであろうか?

 

 まあ、どこまで行っても従属機械種同士なのだから、惚れた腫れたが発生する訳じゃないのだろうけど。


 

 俺の思考が横道に逸れる中、天琉は人型戦車の頭上に乗る浮楽と廻斗にも役割を割り振り、



「カイトは………カイトファン○ル!」


「キィ!」


 

 廻斗は亜空間倉庫の自動浮遊射手を取り出し、『任せて!』とばかりにドンと自分の胸を叩く。



「フラクは、フラクミサイル!」


「ギギギギ!」


 

 天琉に言われて、手の平から金属製の杭を何本も作り出す浮楽。

 空中に並べて一斉掃射の構え。



「あい! これで完璧! どんな敵でも怖くないよ!」


「そうか? …………しかし、攻撃力はともかく、防御力が足らんぞ」



 天琉、秘彗、虎芽、玖雀、廻斗、浮楽の6機が合体した人型戦車の姿。

 色々とツッコミどころは置いておくとして、今の所防御担当が見当たらない。

  

 自信満々の天琉の宣言に、思わずその辺りを突いてみると、



「あい? ………じゃあ、ビショクバリアを追加する!」


「拙僧ですかな? ………残念ながらもう拙僧が乗り込む場所が無さそうで」



 遠回しに辞退を申し出てくる毘燭。

 確かに頭や肩は玖雀、浮楽、廻斗が占領。

 右腕には秘彗、左腕には虎芽。

 背中は天琉が張り付いているから、間違いではないが。



「あ~い~~~…………、キレンシールド?」


 ブルルルッ!



 天琉が悩んだ末に輝煉に振ると、当の本人は不機嫌そうに鼻を鳴らして返して来るだけ。


 プライドの高い輝煉のことだ。

 盾扱いしたら機嫌を悪くするに決まっている。



「あ~~~~い~~~~」



 毘燭や輝煉に断られて珍しくお悩む天琉。

 難しい宿題を前に並べられた小学生のような顔。


 しかし、そんな天琉を助けるべく、仲の良い浮楽が自分に任せて、と胸を張り、人型戦車の防御力強化を提案。



「ギギギギ!」



 人型戦車の上から浮楽が号令。


 すると、どこからともなく現れる浮楽が従えるサーカス団員。


 空中ブランコ隊員A。

 空中ブランコ隊員B。

 カウボーイ姿の投げナイフ使い。

 鞭を持った調教師。

 猛獣の被り物。


 いずれも浮楽によく似た可愛らしい少女達。

 浮楽の妹達と言われても違和感が無いほどに。



「ギギギ!」



 そして、浮楽が命令すると、従機であるサーカス団員達が一斉に動く。


 それぞれ人型戦車に飛びついてよじ登り、その機体を隙間無く覆うように張り付く。


 人型戦車を山肌に見立てて昇るクライミングみたい。

 違うのはそれ以上上に昇ることなく、その場に張り付くことが目的なことであろう…………


 防御力強化の案に対してのサーカス団員達のこの体勢。


 まさかまさかと思うが……………

 


「おい、浮楽。これに何の意味がある? お前、もしかして………」



 思わず浮楽を問い詰めると、



「ギギギギギ!」



 その場で自慢げに胸を大きく張って答える浮楽。

 

 だが、当然ながらその言葉を理解することができず、

 

 フルフル


 俺の足元に寄って来た白兎が翻訳。



 つまり、『これこそ、人型戦車の強化装甲【フラク従機アーマー】だ』と………

 



「見栄えが悪すぎる!! 幼い少女を肉盾にするな!」


「ギギギ、ギギギ?」

 フリフリ



 俺のツッコミに、浮楽は首をカクンと90度横に倒しキョトンとした顔で『従機だから別に良いのでは?』との返事。

 

 全く分かっていない感じの表情。

 幼い少女の外見を持つ従機を人型戦車の装甲にすることに、何の良心の呵責も感じていないのは間違いない。



 コイツ………

 アライメントが善に傾いたんじゃなかったのかよ!

 なんという鬼畜な提案をしてきやがる!



 思いがけない浮楽の邪悪さに身震いする俺。

 

 幼い少女の外見と言っても従機なのだから、それはあくまで外装だけ。

 しかし、それでも『フラク従機アーマー』を認めるのは俺には無理。

 装甲代わりに少女で外装を覆った人型戦車など乗りたくない!


  

「却下だ。そんな装甲、認められるわけないだろ」


「ギギギギ!? ギギギギギギギッギギギ!!」

(なぜ? サーカス団員は身体を張って子供達を喜ばせるのが仕事なのですよ!」


「身体を張る意味が違う! サーカス団員なら芸で子供達を喜ばせろ。肉盾になった場面を子供達に見せるのはトラウマだろうが!」


「ギギギギギギ!」

(肉盾ではなく、従機盾だから大丈夫!)


「お前、いつか、従機に反乱を起こされても知らんからな」


 

 以上、白兎を通した俺と浮楽のやり取り。



 よく見れば、人型戦車に張り付くサーカス団員、浮楽の従機達の顔には、傍若無人な浮楽の命令にどこかウンザリとしたような表情が浮かんでいるのだ。

 酷い主人を持つと従機は苦労する模様。


 しかし、まさか『月光曲芸団』がこんなにもブラック企業であったとは………

 一度浮楽へは労働基準法やコンプライアンスの精神を叩き込んでやらんといけないな。




「ふう…………、というわけで、お遊びはお終い。天琉、合体はもういいぞ」


「あい? なんで? 折角、合体で強くなったのに?」



 俺の人型戦車の強化案終了宣言に、疑問の声をあげる天琉。

 しかし、異を唱えようが、俺にこれ以上話を続けるつもりは無い。



「それを強くなっているとは言わん。合体して頭数を減らしてどうする? 合体することで爆発的に強くなるならともかく………」



 そうなのだ。

 ロボットアニメでの合体は、そうすることで普段は使えない必殺技が使えるようになったり、新たな能力が生まれたりするからこそ、意味がある。


 人型戦車にメンバー達がひっついても相乗効果があるわけじゃない。

 逆に戦いづらくなるだけであろう。



「はいはい! 解散解散。その人型戦車は七宝袋に収納するから全員降りろ」



 手をパンパンと叩いて、皆へと指示を飛ばす。


 すると、すぐさま人型戦車から降りるメンバー達。


 一部、不満そうに頬をプクゥと膨らますメンバーはいるも、基本、俺の命令には誰も逆らわない。


  

「さて、メンバーが増えたことでガレージの中が狭くなっているからな。こんなデカいモノ出したままになんてしておけない」



 ガレージの中央にそびえ立つ人型戦車へと近づき、片付けようと手を伸ばした所で………



「あれ? 何でだろ? 宝貝の気配がある………、かなり薄いけど………」



 なぜか人型戦車に、俺が乗り込んだ時はなかったはずの宝貝の気配が薄く生じているのを感じ取った。





『こぼれ話』

従機に『自分の意思』があるのか?

偶に機械種使いの間で流れる問い。


しかし、この問いについてはもう答えが出ています。

『自分の意思は無い』と。あくまで本体の指示に従って動くだけの操り人形であると結論づけられています。


しかし、自分の意思があるかのように従機が振る舞う場合があり、それ見た人間がそう誤解してしまうケースがあります。

所詮、そのような振る舞いも本体がそう命じているのに過ぎないのです。


ただし、この従来の説を覆すような事例があるという噂もあります。

従機が本体を討ち滅ぼし、主従が逆転したという話が………

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