第655話 街7
転職、模擬戦、宝箱、新人、機械種生産工場と、外で様々な用件を片付けた俺達。
しかし、街に戻って来てもやることは一杯。
優先順位を付けて1つずつやるしかあるまい。
とにかく今は仲間へと仕事を割り振り、課題を片付けることに専念する。
森羅、胡狛には秘彗と刃兼を護衛として伴い、早速街に買い出しに出かけてもらった。
俺は、ダブルとなった剣風、剣雷、毘燭。
そして、新たな姿となった豪魔、及び、新しい仲間であるタキヤシャをボノフさんに顔見せする為、店へと向かう。
ヨシツネとベリアルは万が一の時の為に七宝袋へと収納。
また、今回、白兎はまだ本調子ではないので浮楽、輝煉、天琉と一緒にお留守番。
その代わりに廻斗を連れていく。
フリフリ
『行ってらっしゃ~い。ボノフさんによろしくね』
「あ~い~! おばちゃんによろしくぅ~!」
「ギギギギギギ!」
白兎と天琉、浮楽の見送りを受け、ガレージ街から街中へと入る俺達一行。
少し進んだ先から、周りの人達から向けられる視線の数が半端ない。
ストロングタイプ騎士系以上の偉容を誇る剣風、剣雷。
さらに豪奢な司教服に東方テイストが加味された毘燭。
偽装スキルにて、機械種オクジョチュウに扮したタキヤシャ。
天を突く巨躯にしてゴッドファーザーばりの迫力を放つ豪魔。
もう何の一行なのか意味不明。
このまま街をあっさり制圧できそうな武力集団。
特に豪魔が発する圧力が凄い。
ただ歩いているだけなのに、周りの人達が一斉に距離を取ろうとしてくる。
豪魔の肩に乗る廻斗がほんのり愛らしさをアピールしてくれていなければ、もっと通行人達を怯えさせていたかもしれない。
さて、豪魔の人型は周りからどう見られるんだろうね?
周りの反応を見渡しながら、口の中だけで疑問を呟く。
もちろん、豪魔の義体である人型に相当する機械種なんて存在しない。
近いのはストロングタイプなら格闘系や喧嘩屋系であろうか?
しかし、豪魔が発する迫力は到底ストロングタイプには収まらない。
当然、本体には及ばない。だが、それでも内包する莫大なエネルギーに気づいている者もいるだろう。
場合によっては名の知られていないレジェンドタイプと思われているかもしれない。
しかし、今更だ。
すでに俺がダンジョンにて闇剣士を打ち倒し、紅姫を退けたという話は街に出回っている。
もう俺がレジェンドタイプクラスの機械種を従属させていても当然と思われているのだ。
故にタウール商会が俺を探ろうとしてきたのだろうし、他の勢力もさらに俺に注目してくるはず。
だからここでわざと目立つ豪魔を表に出し、情報の混乱を誘う。
本当に隠したいモノを隠す為、義体でしかない豪魔の人型を人前に晒して、欺瞞情報を振り撒く。
おまけに一応の偽装させたレジェンドタイプのタキヤシャも連れて。
別にタキヤシャがレジェンドタイプだと知れても構わないという思惑。
なぜなら、今の俺はレジェンドタイプの存在を秘匿しなければならないという段階を過ぎてしまったのだから。
街の中心部に入っても、通行人からの視線は増える一方。
その中で目立つのはやっぱり豪魔。
中量級ギリギリの大きさに、ほぼ人間に近い容姿。
やはり相当な高位機種に見られるだろう。
頭に角があるからキシンタイプと思われているかもしれない。
ああ、なんか、狩人っぽい通行人が俺達を見て噂している……
もう本当に今更なんだけど、注目の的になるのは少しだけ辛い。
「目立つなあ………」
「申し訳ございません。やはり我もガレージに残っていた方が………」
「いや、折角、豪魔が中量級になったんだ。お前には不自由をかけた分、街の空気を楽しんでもらわないとな」
ポツリと漏らした感想に豪魔が申し訳なさそうに謝罪してきたので、すぐさまフォロー。
悪目立ちするのは成果を上げ続ける狩人が背負った宿命と言える。
あと1週間と少しで試験期間も終わるのだ。
もう少しの我慢。
通行人から好奇の視線を浴びながら街中を進み、ボノフさんのお店前に到着。
「さて、ボノフさん。俺がプレゼントした機械種ミコの修繕を終えたかな?」
何気なく呟きながら、ボノフさんのお店の扉へと近づくと、
「何者です!? ご、強盗ならハルルが許しませんよ!」
バンっと扉を開けて飛び出してきた薄桃色の巫女装束を着た女性型が1機。
外見年齢は15歳前後だろうか?
紺色の髪を靡かせた美しい少女。
少しツリ目気味の狐顔。どことなく品の良さを感じさせる立ち振る舞い。
清廉さと可憐さを併せ持つ正しく巫女さん………、もちろんバイトでは無く本職の方。
しかし、その可憐な相貌を強張らせて、通せんぼするかのように両手をバッと広げて仁王立ち。
「むむっ!………、やっぱりストロングタイプの集団………、ボノフ様! お逃げください! ハルルが囮を務めますから!」
「え? ちょ、ちょっと………」
「くううぅぅ……、ボノフ様に従属されてからたった2日ではありましたが、ハルルは楽しゅうございました! 悔いなくここで散って見せましょう!」
「いや、だから………」
「ストロングタイプと言えど、このハルルが一歩も通しません! イザ、尋常に勝負!」
人の話を聞かない機械種ミコっぽい少女型。
俺の言葉を無視して臨戦態勢。
亜空間倉庫から護符状の触媒を取り出し、指の間で挟みながら機体内のマテリアルを練り上げる。
ここは街中でも中心部に近いから、白の恩寵の影響が強い。
俺がまだ何もしていない状況で攻撃を繰り出せるわけがない。
故にこの機械種ミコが発動しようとしているのは攻撃ではなく拘束技か防御技であろう。
だが、この至近距離でマテリアル機器を発動させるのは明らかに敵対行動。
しかし、俺の従属機械種である剣風、剣雷、毘燭、豪魔は動こうともしない。
また、廻斗も同様。
俺の実力を知っているからこその余裕。
状況からこの機械種ミコがボノフさんの従属機械種だろうと推測できることも大きい。
付き合いが長いからこそ、こうした応用が効く様になるのが機械種なのだ。
けれども、ここにはまだ俺との付き合いが短い機種が1機。
「貴方………、私のマスターに何をするつもりなの?」
グイっと、俺の前に出てきたのは先日従属させたばかりのレジェンドタイプ、機械種タキヤシャヒメのタキヤシャ。
恐ろしく冷たい目で敵意を見せる機械種ミコを睨みつけて、
「潰すよ」
無表情のまま、ただ一言、静かに呟いた。
ただし、その中に含まれるのは、俺の背筋すらゾクッとさせる程の殺気。
その手に薙刀も持たない姿ではあるが、機体内に備えるエネルギーはストロングタイプの数倍。
抑えていた出力を表に出せば、機体から発する圧力がビシビシと物理的な力となって振り撒かれる。
偽装スキルを使ってメイド型亜種機械種オクジョチュウに扮しているも、その中身は伝説の機種たるレジェンドタイプ。
たかがベテランタイプなど、片手一本で捻り潰せる程度でしかない。
しかもタキヤシャは加害スキルである『復讐』を保有しているのだ。
それはマスターを怖がらせたというだけで人間すら害することのできる禁断のスキル。
「ひぃぃぃぃぃぃ!! …………怖い! で、でも、ハルルは負けません!!」
完全に顔を引き攣らせ、足をガクガクさせながらも一歩も引かない様子を見せる機械種ミコ………、いや、ハルル。
レジェンドタイプを前にここまで言い切ることができるのは、従属機械種特有の忠誠心の現れではあるが………
「ハルル! 何、騒いでいるんだい? ご近所迷惑だよ!」
そんな中、声と共にお店から顔を出してくるボノフさん。
「い、いけません! ボノフ様! ここは危険…………」
慌ててボノフさんをお店の中へと押し込もうとするハルルであったが、
「…………おや? ヒロじゃないか? それに………、ケンフウとケンライ、ビショクだね。随分と立派になったじゃないか! それに新人さんが1機と………、肩にカイトを乗せているのは、ひょっとしてゴウマかい?」
ボノフさんが緊張感なく発した言葉にて、この騒ぎは終了した。
「ボノフ様! やはり危険です! この方達、戦力が高すぎます!」
すぐに店の中に招き入れてくれたボノフさん。
しかし、俺がプレゼントした機械種ミコ、ハルルは未だに俺達への警戒を解かないまま。
「明らかにおかしいです! こんな超高位機種達が揃うだなんて。絶対にクーデターとか企んでいる武装勢力とかですよ、コイツ等!」
「ハルル。ヒロのことはきちんと伝えたはずだろう?」
「……………あまりに突拍子も無さすぎて現実感がありません。正直、ボノフ様が騙されているとしか………」
「ハルル!」
「……………う、すみません」
ボノフさんに叱られてシュンとなるハルル。
これは従属させたばかりの経験の薄い機械種にありがちな反応。
晶脳の中だけの基礎知識でしか判断できないから視野狭窄に陥りやすいのだ。
現に他の従属機械種の機械種オークや機械種エスクワイアは通常通り。
確かに今の俺達の戦力はそう思われても仕方が無いくらいの、他と隔絶した強者連中なのだが。
「むむむむむ!」
ボノフさんに叱られても、俺達へと警戒の目を向けてくるハルル。
まるで子猫を守ろうとする親猫みたい………、
いや、お母さんを守ろうとする子供だろうか?
この様子だとすぐに警戒心を解くのは難しそう。
と、思っていたら………
「キィ!」
豪魔の肩に座っていた廻斗がフワフワ浮きながらハルルへと近づき、
「キィ~」
空中に制止して、ビシッとした挨拶。
右腕を横に、腰をピンと伸ばして膝を軽く曲げた見事な一礼。
胸のネクタイのせいか、妙に決まったポーズに見える。
この廻斗の礼儀作法に則った素晴らしい一礼に、ハルルは唖然。
気が抜けたようなポケッとした表情。
「キィキィキィ」
「な、なんです? この子………」
そこにすかさず廻斗が説得を開始。
紳士らしく丁寧でウィットに富んだジョークを交えながらの心の籠った訴え。
しばし、ボノフさんの事務所内に廻斗の『キィキィ』という声が響き渡る。
その度毎にハルルのハルルの固い表情が緩やかに。
「そ、そうでしたか…………」
「キィキィキィキィ………」
「なんと、そこまで………」
「キィキィキィ!」
「なるほど………、そんなご経験を…………」
「キィ~キィキィ!」
「まさか………、それほどとは、このハルル、目から鱗でございます………」
そればかりか、ハルルは少し申し訳なさそうな顔を俺に見せるようになり、
「申し訳ありません、ヒロ様。先ほどは失礼を………」
「あ~~………、あはは、いいよいいよ」
ハルルが全面的に謝罪。
俺は笑ってソレを受け入れてあげる。
廻斗の説得が見事に成功。
ハルルと和解が成立。
ボノフさんの従属機械種に警戒されたままというのは辛いから、助かった。
「お疲れさん。お手柄だぞ、廻斗」
「キィ!」
俺が褒めると嬉しそうに一鳴き。
白兎譲りの交渉力。
チーム随一の紳士力を誇る廻斗。
女性型相手にはめっぽう強い。
俺も教わりたいくらい。
ハルルとの話し合いが終われば、ようやく本題であるボノフさんへの顔見せが始まる。
それぞれのメンバーを前に立たせ、ボノフさんへのお目通りを行う。
「こりゃあ、随分と差が出たね。同じ騎士系でもタイプが違うとここまで変わるもんなんだねえ」
剣風、剣雷を並べて見たボノフさんの感想。
「竜麟の定着具合は剣風が上だね。やっぱり竜騎士を入れたからかねえ。でも、剣雷の方は電磁バリアを使うことができそうだ。練習させておくといいよ」
ポチポチと軽く機体や晶脳をチェックしながら、色々とアドバイスをくれる。
また、毘燭の番では、その場で『槍(上級)』スキルの購入を打診。
しかし、残念ながら前回天琉に購入した分が最後の一つであったようで、
「毘燭に槍スキルかい? 今在庫にあるのは中級だけだねえ。この辺境だと、主要武器の上級スキルは滅多に手に入らないよ」
「仕方ありません。では、中級を1つください」
「毎度アリ。その代わり、おまけに『演武(中級)』のスキルをつけてあげよう」
『槍術(中級)』を購入、おまけに貰った『演武(中級)』と一緒に即毘燭へと投入。
「どうだい? ビショク」
「…………これは凄い。思った以上にスムーズに槍が扱えますな。確か『演武』は『舞踊』や『跳躍』と同じ運動系スキル。まさか武術系スキルにまで影響を与えるとは………」
ボノフさんに勧められた通りにすると、ハッキリと目で分かる程の効果を発揮。
毘燭はその場で軽く槍を振り回しながら、驚きを隠せずにいる。
「特に『演武』は『槍術』スキルと相性が良いんだよ。ほら、ヒロ。こっちはテンルちゃんに入れてあげな」
「あ、すみません………」
どうやら天琉にも用意してくれていたらしい。
全く、ボノフさんには頭が上がらない。
次は豪魔の義体を触りつつ、
「ふむふむ………、確かに義体だ。出力は6割から7割ってとこだね」
「流石はボノフ殿。我が感じるのもその程度です」
「この晶脳の構成だと…………、その義体のままで亜空間倉庫の本体を動かせるんじゃないかい?」
「………………おお! 確かに」
「おっと、ここで外に出すのは止めておくれよ。事務所が潰れちまう」
また義体の扱いに慣れない豪魔へと適切な助言。
本当に凄腕過ぎる藍染屋だ。
この人、なんで辺境にいるんだろう?
「で、この子が新人さんだね」
「…………タキヤシャです。よろしくお願いします」
ポソポソと小さい声で話すタキヤシャ。
偽装スキルと纏っていた幻を解いたので、その姿は絢爛豪華なお姫様。
しかし、纏っている着物は派手なのに、本人は甚く物静かである様子。
仲間と話しているより小声なのは、若干人見知りのせいかもしれない。
本当に機械種達の性格はそれぞれ個性があって多様そのもの。
「まさか2体目のレジェンドタイプとはねえ…………、遠近両方戦えるバランス型かい?」
「あ、はい。得意なのは虚数制御を使った妨害術、それと多数の従機を呼び出す集団戦だそうです。他にも色々多彩なスキルが揃っていまして………」
「ふむふむ………、ヨシツネが指揮もできる隠密剣士なら、この子は単騎でも戦える指揮官+軍政官ってとこだね………、おまけに芸能系スキルも豊富。流石はレジェンドタイプ。スキルの多さは他に追従を許さないねえ……」
ボノフさんは興味津々とばかりにぼーっと立ち尽くすタキヤシャを観察。
タキヤシャの着物に触れたり、髪に差された簪を眺めたり、
何やらタキヤシャに質問をして、その答えに満足そうに頷いていたり………
辺境では滅多に見ないレジェンドタイプを堪能している模様。
ヨシツネとはまた違ったタイプなので、技術者魂に火が灯っているのだろう。
タキヤシャの方も、特に気にする素振りを見せず、淡々とボノフさんの相手をしてくれる。
事前にお世話になっている方だと言い含めていたこともあるだろうが、やはり基本的には控え目で素直な性格である様子。
『呪詛』や『復讐』に触れると少々おかしな具合を見せるけど…………
そんな感じで、しばらくボノフさんはタキヤシャに構っていると、ふと、思い出したように声をあげて、
「あ! そう言えば、ヒロ。昨日、防冠用の材料が届いたよ」
「え? …………早いですね。もう少しかかるかと思ってました」
ボノフさんが口にしたのは、俺が新人用にと処理をお願いしていた闇剣士の晶冠。
機械種の晶脳を守る『防冠』の材料とする為、2週間程かかると言われていたのだが、実質10日間で完了した計算となる。
もちろん早いに越したことが無いので、俺的には大変ありがたいこと。
「きっと、ヒロに首ったけのファンががんばってくれたのさ。で、どうする?」
「……………では、タキヤシャにお願いします」
ここで作業を行わない手は無い。
タキヤシャには俺の護衛をしてもらうつもりなのだから、蒼石や感応に対する防御手段として『防冠』は必須。
「あいよ………っと。防冠の組みから始めるから半日くらいかかるねえ。あと、それから、もう1個、『翠膜液』が手に入ったよ。ハガネにどうだい?」
「あ~~~………、じゃあ、それも。後で連れて来ます」
「あはははは、今日は大量だね。任しておきな!」
防冠に続いて、『晶石合成』の為の『翠膜液』も。
本当にボノフさんには頭が上がらないなあ………
さて、刃兼への追加職業は何にしようかね………
『こぼれ話』
レジェンドタイプを街で見かける大変珍しいことです。
それは中央でもあまり変わりません。
しかし、中央ではレジェンドタイプを従属させているという機械種使いがそれなりにいます。
その大部分はストロングタイプの外装を奇抜なモノに変更して、そう言い張っているだけのことが多いようです。
また、ストロングタイプのダブルやトリプルをレジェンドタイプだと誤認しているケースも。
質の悪い藍染屋が外装、及び晶脳(自分がレジェンドタイプだと思い込むよう)を弄って、情弱な機械種使いに売りつけていたりもします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます