第620話 大将戦



 副将ルガードさん VS 大将闇剣士。


 試合開始からしばらくは両者とも互角の戦い。

 前半は闇剣士が優勢で推移。

 そして、後半戦はこちら側が間違いなく有利な戦況であったはず。

 

 身体能力増強薬『アンプ』を使用しての超人化。

 自身の得意な戦場を構築する為、空中に設置した『足場』。

 空気抵抗を減少させる減圧フィールドの展開。

 鋼線やスラスターを利用した超高速移動。


 圧倒的なスピードと変則的な軌道で闇剣士を翻弄。

 的確な読みと多少の被害でも動じない果敢な攻めが、一方的な試合展開を作り上げた。

 

 瞬く間に6本に増えた敵の腕を潰し、

 あと一歩という所まで追いつめたと思いきや……………


 

 闇剣士は潰された腕をすぐさま再生。

 その上で、背後から蜘蛛の脚のごとき長い腕を何十本と生やし、

 それぞれの手に握った形状の異なる剣でルガードさんを迎撃。


 

 空間を埋め尽くす程の斬撃に、流石のルガードさんも躱し切れず、




「ルガードさんっ!!」




 リングサイドから身を乗り出して叫ぶ俺。



 全身に無数の斬撃を受け、その刃で切り刻まれたルガードさんは、



 右腕を手首の先から、

 左腕は肩の先からスッパリと切断。


 また、下半身も膾切りにされた上、臍の上辺りで腰を両断。

 

 頭部と胸部だけという、胸像のような姿となって、





 ドンッ!!!




 ボロ雑巾のように床へと叩きつけられた。




「ルガードさんっ!!」



 

 どうにもならないということは分かりつつ、もう一度叫ばずには居られない。


 ほんの短い間だったにも関わらず、強烈な印象を残してくれた偉大な先輩。

 彼から受けた訓辞は今でも俺の心の内に残っている。


 狩人としての矜持と、人間の強さを俺に示してくれたのだ。

 

 こんな所で散って良い人であるはずがない!




「ルガードさんっ!!!」




 三度目の呼びかけ。

 だが、当然ながら、これ以上ないほどズタズタにされたルガードさんの遺体から返事が返ってくるはずも無く…………



 

 ボフンッ!!



「え?」



 ボフォオオオッ!!



 俺の見ている前で、遺体と思っていたルガードさんの上半身が飛び上がる。


 体に仕込まれたスラスターを噴射させ、闇剣士と距離を取るような位置へ移動。



 スチャッ!!



 さらに身体から細長い刃を何本か突き出して、身体を固定。


 

 ジャキンッ!!



 さらに手首を切り飛ばされた右腕の前腕部分からこれまた刃を生やし、


 闇剣士を睨みつけながら、油断無く構えを取るルガードさん。



「……………48本か」



 鋭い鷹のような目で敵を観察。

 まるで次はどのように攻めようかと冷静に分析を行っているかのよう………


 手足のほとんどを失い、上半身だけとなったに関わらず、未だその猛々しい戦意はそのまま。

 

 前腕から生やした刃を目の前に、

 スラスターを調整しながら、ゆっくりと戦闘態勢を取り、



「少々痛手を被ったが、勝負はまだまだこれからだ」



 ルガードさんは不敵な笑みを浮かべて、

 スラスターを一気に噴射すべく、エネルギーの注入を開始し始める………




 


 いやいやいやいやいやいや!!!


 ちょっと、何でこの人、こんな状態になっているのに、戦いを続けるつもりなんだよ!!!


 もう手足を全部無くしているのに、それでも臙公へ挑もうとするなんて、この人、ちょっとヤバくないか?


 この状態になっても生きていることに驚きだけど、それでも戦おうと思うその精神性が信じられない。

 

 赤の死線にいる狩人は、皆、こんな感じなのであろうか?

 なら、『赤の死線に行きたくないポイント』を加算せざるを得なくなるぞ。




「ルガードさんっ!! もういいです! 早くギブアップしてください!!」



 堪らなくなって、リングサイドからルガードさんへと声を飛ばす。



「……………………なぜだ?」



 チラリと俺に視線を向けて、疑問を返して来るルガードさん。

 本当になぜ降参を勧めてくるのか分からないといった表情。



「その状態で疑問を返してくることに自体にドン引きです! もう十分ですから、後は俺に任せてください!」


「俺がギブアップを使うと、お前が使えなくなるぞ」


「…………その時はこの勝負自体が負けですよね。アスリンやレオンハルト、ガミンさんが無残に殺されるのに、俺だけが生き残るつもりはありません」



 いくら姑息で小狡いと自覚している俺でも、その状況でノコノコ自分だけ助かるのは耐えられそうにない。

 俺の為に申し出てくれた彼等を見殺しに、この先、この世界を生きていくなんてちょっと考えただけでも生き地獄だろう。


 まあ、本当にどうしようもなくなった時は、全てをひっくり返してやるつもりだが。



「だから安心して、ギブアップしてください。従機を2機撃破して、闇剣士が隠していた力を暴いてくれたんですから、もう戦果としては十分でしょう」


「……………………」



 俺の言葉を吟味するかのように黙り込むルガードさん。

 

 この不器用な先輩の翻意を促す為、俺はさらに言葉を連ねる。



「貴方はこの先も必要な人です。ここで倒れるより、生き抜いて俺のような後輩を導いてやってください。きっとその方がレッドオーダー達を痛い目に合わせてやれます」


「分かった…………、降参しよう」



 低いながらも良く通る声で降参を告げる。

 色々と葛藤はあったのかもしれないが、それでも俺の言い分に一分の理を認めてくれた様子。

 


 こうして、俺がバルトーラの街で出会った、2人目の師匠と言うべき先輩狩人のこの度の戦いはここで終了。


 大将である俺へと次の勝負を託して。


 









「胡狛! 頼む!」


「お任せください。応急処置になりますから、戦闘は無理でしょうが、歩けるくらいにはしておきます」



 上半身だけとなったルガードさんを後方で待つ皆の元へと連れていく。


 ルガードさんが生身なら毘燭の役割なのだが、ここまで機械化されているなら、整備士系でもある胡狛の分野。



「必要なら確保してあるストロングタイプの残骸を使っても良い」


「…………では、機械種ティーチャーのモノを使わせていただきます。内政型ですが、構造が人間に近く一番馴染み易いと思われます。これならば作業時間もそれほどかかりません」



 武人であるルガードさんには似合わない機種ではあるが、どうせ一時的なモノ。

 仮の身体にしか過ぎないのだから、内政系でも問題あるまい。



「じゃあ、胡狛。後は頼む、…………では、ルガードさん。あとは胡狛の指示に従ってください。腕は超一流ですからご心配なく」


「何から何まですまない」


「いえいえ。色々教えていただきましたので」


「…………………ヒロ。もう一つ伝えておかなくてはならないことがある。あの闇剣士の斬撃だが……………、一部に空間攻撃が混じっていた」


「…………………やっぱりそうですか。あれだけの高位機種ですから、使えて当然と言うべきでしょうね」



 あまり聞きたくなかったとも言える闇剣士の情報。


 だが、通常の臙公を超えた戦闘能力を持つ剣士型なのだ。

 己の刃に合わせて空間斬を放ってきてもおかしくはない。


 超高位機種の中量級は空間攻撃を利用してくることが多い。

 これが重量級以上ならマテリアル空間器を攻撃に使用することは少ないのだけれど。


 

「その全てがそうではないだろうが、下手に受けるとお前の槍も危ないぞ」


「ありがとうございます。知っていると知らないでは大違いでした」


「後は頼む」


「任せてください」



 奥へと運ばれていくルガードさんを見送っていると、



「あのルガードが負けたか…………、この目で見ていてもなかなかに信じられないねえ」


「勝つ時もあれば負ける時もある。それが闘いというもんじゃろ」



 俺と同じようにルガードさんを見送るマダム・ロータスとブルハーン団長。


 2人並んで先ほどの試合の感想を口にする。



「あの闇剣士、全盛期の私でも厳しいね。正直、1人で挑む相手じゃない」


「同感じゃな。強大なレッドオーダーには人数を以って当たるのが基本。それをさせない為に嫌らしいルールで縛るもんじゃから、今まで無敗というのも不思議ではないのう」



 俺も同感。


 ブルハーン団長が言うように、元々狩人や猟兵は複数人で行動し、敵に挑むのが基本形なのだ。


 レッドオーダー相手に格闘漫画よろしく1対1での勝負なんてナンセンス。


 敵の攻撃が届かない位置から砲撃を加え、弱ったら人数で囲んで袋叩き。


 そうして初めて人間はレッドオーダーと戦える。


 そもそも色付きは人間が1対1で勝てる仕様にはなっていない。


 誰がラスボス相手に仲間を募らずソロで立ち向かおうというのだ。


 この仕組まれた戦いは、初めから俺達人間が勝てるようになっていないアンフェアなゲーム。


 それを何百年と続けて来てたのだから、この闇剣士がもたらした人類側の被害は相当なモノであろう。


 

「で、どうなんだい? 白ウサギの騎士様が見る勝率は?」


「え…………」



 突然、マダム・ロータスが俺に話を振って来る。


 

「勝てそうかい? アンタが負けたなら後は無いんだ。展望ぐらい聞いておきたいねえ」


「……………勝負は時の運と言いますから」



 ここで『絶対勝ちます!』とか言えないのが俺の性分。

 

 勝てる確率は高いとは思うのだが、如何せん、俺に不利な条件が揃い過ぎている。



 まず、闇剣士には俺が唯一傷を負う可能性のある空間攻撃がある。


 そして、向こうの剣技は宝貝の力を引き出した俺を上回るかもしれないこと。

 なにせ、48本の腕から攻撃が繰り出されるのだ。

 槍一本では防ぎきれない。

 武術の腕だけでその差をひっくり返すのは難しい。


 さらに闇剣士のスピードや反応速度に対応できない可能性がある。

 空気抵抗の壁を破れない今の俺では、超高速戦闘に持ち込めないから。


 おまけに、相手は強い敵と戦えばより強くなるという仕様。


 最強であるはずの俺と相対した時、その仕様はどこまで闇剣士を強くするのであろうか?


 もし、限界を超えて強くなり、その上で空間攻撃を使いこなすとなると、いかに『闘神』である俺でも厳しいと言わざるを得ない。


 もちろん、なりふり構わないのであれば、俺の勝ちは揺るがないだろうが。

 しかし、やはり皆の見ている前では、あまり突飛な手段を取りにくいのも事実。

 

  

 俺は嘘をつくのが嫌いだ。

 だから『全力を尽くします!』とも言えない。

 だって、全力では無いのだから。

 

 故に、このような言い方しかできなかった。

  


「ハハハハハッ、それは間違いない! じゃあ、皆で白鐘様にお祈りするしかないね。ハハハハハッ!!」


 

 だが、弱気にも取れそうな俺の物言いがツボに嵌まったのか、マダム・ロータスは大笑い。



「面白くは無いぞ、マダム・ロータス。ヒロが負けたら儂等は一生ここに閉じ込められたままじゃ。そんな運に頼られてものう………」


「何言っているんだい? アンタもさっき、『勝つ時もあれば負ける時もある』とか言ってただろ?」


「それはそうじゃが……………」


「ん~~、ん~~………、その時は、あの詩人が言っていたように、ルールを弄ってもらって、皆で一斉攻撃を仕掛けるしかないね。囚われた者はもう諦めるしかないけど。でも、うちのアスリンや征海連合のお坊ちゃん、あの馬鹿を見殺しにはできないしねえ………」



 どうやら、マダム・ロータスやブルハーン団長も、もし俺が負けた時のことを考えてくれていたらしい。

 『創界制御』に秀でたトライアンフなら、この1対1の試合を強制するルールをある程度誤魔化せるのであろう。

 

 しかし、それをすれば闇剣士が何をするのか分からない。

 

 その身に宿した従機がまだまだいる可能性が高いのだ。

 おそらくはどちらかが全滅するまで行われる殲滅戦となるだろう。

 

 

 ガミンさんがここにいない今、先行隊をまとめられるのはこの2人だけ。

 万が一のことを考えると、もしもの時はこの人達に任せるしかない。

 



「ヒロッ!」


「んん? ………アルス! もう大丈夫なのか? ………それにハザンも、ガイも………」



 呼ばれて振り返れば、アルスやハザン、ガイの姿がそこにあった。


 アルスやハザンの顔色はあんまり良くないが、それでも2本の足で立って歩いている。

 

 どうやら毘燭と白志癒の治療は上手く行ったようだ。



「うん、もう大丈夫…………とは力強くは言えないけど、それでも歩くのには支障は無いよ」


「俺は少々眩暈がするくらいだな。やはり血を流し過ぎた。地上へ帰ったら肉系ブロックをたくさん食わねばな」


「それ、ハザンが肉を食べたいだけだよね? 血を作るのはむしろ赤身魚系や豆系ブロックがいいんだって」


「むう………、妥協してマグロブロックにするか」



 いつもの和やかな雰囲気を振り撒くアルスチームの2人。


 両名とも完全ではないが、一時に比べたら劇的な回復と言えるだろう。

 少なくとも誰かに背負ってもらわなくても、このダンジョンを脱出するくらいはできそうだ。



「ガイは……………、ちょっと痛々しいな」



 白志癒に眠らされていたはずだが、もう起きてきたのか?

 でも、その恰好を見るともう少し寝ていた方が良いのではないかと思う。 


 右腕が失われているのもそうだが、全身包帯塗れでアチコチをテーピングされている姿はまるでミイラ男。

 さっさと入院しろと言いたいくらいの重症患者に見えるが………



「しょうがねえだろ、コイツが『もしコレを解こうとしたら背中に兎の刺青を入れる』って脅してきやがるんだ」


 フルフル

『さもあらん。むしろ、解こうとしてくれた方がウサギが増えて良い。きっと女の子にモテるぞ』


「嫌に決まってるだろ! そんなもんで女の子にモテるわけがねえぞ!!」


 パタパタ

『何を! ウサギの良さを知らぬ小童が!』



 俺の目の前でガイと白志癒が睨み合う。


 床にチョコンと据わる白志癒と、包帯不良少年がお互いガンを飛ばし合う光景はなかなかにシュール。


 多分、ガイが無茶な動きをしないようにと、白志癒が包帯でグルグル巻きにしたのであろう。

 ああやっておけば、少なくとも暴れたりするのは難しくなるから。



 しかし、ガイと白志癒の組み合わせなんて珍しい。

 それに、何でコイツ等、いつの間に仲良くなってんだ………

 

 

 あれ? 何か違和感。

 ガイが白志癒の言葉を理解しているような…………



「それよりも、ヒロ。次の戦いだけど…………大丈夫?」



 ふと湧いてきた疑問を深堀しようとした時、

 アルスが控え目な様子で『大丈夫?』と問いかけてきた。


 視線を移せば、当然ながら不安そうな表情。

 そして、それはハザンも同様。


 また、今まで気にしていなかったが、俺を囲む先行隊の人員達が皆、俺の一挙一動に注目しているのが分かる。


 俺を見つめる目に映る感情は、一様に不安と期待をミックスさせたモノ。


 難攻不落の紅姫の巣を2つ攻略した前代未聞の成果を上げ続ける新人狩人。

 ストロングタイプを多数従属させ、発掘品で身を固めた『白ウサギの騎士』。


 しかし、敵は何百年も活動し続ける中央の賞金首、『強者へと挑む闇剣士』。

 あのバルトーラの街最強の狩人、ルガードでさえ敗れた超高位機種。



 俺が負ければ、この世界に永遠に閉じ込められたままか、ルールを破っての全面戦争。

 

 どちらにせよ、多数の死人が出るのは避けられない。


 俺が闇剣士を倒せるならそれに越したことは無い…………のではあるが。



 先ほどマダム・ロータスとの会話で出てきた、あまりにも自信無さげな俺の答えと態度。

 街で流れる『白ウサギの騎士』の噂とはかけ離れた姿。


 俺がバルトーラの街で響かせた雷名も、実は従属させたストロングタイプに頼り切ってではないのかと疑う者もいるはずだ。

 そうなのであれば、この勝負、初めから勝ち目なんかないのではないか………と。



「僕はヒロが強いことを知っているけど……………」



 アルスはそんな皆の気持ちを慮って俺に質問をしてくれている様子。

 

 だとしたら、俺が返すべきは、勝利を確信させる力強い言葉なのかもしれないが…………

 


 

「まあ、何とかなるでしょ」




 返したのは、気軽な一言。

 とてもこれから命を賭けた試合に臨む者とは思えない軽い言葉。



 そんなこと俺の知ったことではない。

 士気向上なんて俺が最も苦手とする分野なのだ。

 

 その俺が気張って威勢の良いセリフを口にしたところで上滑りするだけ。

 きっと逆効果にしかなるまい。



 だが、目の前のアルスは、少々違う捉え方をしたようで、




「…………………ププッ!!」



 俺の言葉になぜか笑いを吹き出し、



「ハハハハッ、本当にヒロはヒロだね。いつもと同じなんで却って安心したよ」



 朗らかに笑うアルス。

 また、隣のハザンも破顔し、



「うむ、平常心を保つのも重要だからな」



 俺の言葉を好意的に捉えてくれて、



「なんでいなんでい! ヒロが勝つに決まってるだろ! 今までコイツと行動して、何を見てきたんだよ!」



 ガイは機嫌悪そうに口調を荒げて、アルスやハザンに文句をつける。



「ヒロなら、絶対に勝つ! きっと俺達の想像もつかないようなスゲエ試合を見せてくれるに決まってる! 誰も見たことの無いような、そんなスゲエ勝ち方で………『ボカンッ!』 イテッ!!!  ………コラッ! ヒロ! 何で殴る?」


「お前がハードル上げてくるからだろうが! これ以上要らんこと言うな!」



 ガイの頭に拳骨を落として叱り飛ばす。



 止めろよ! 

 俺は周りから期待されるのが大嫌いなんだよ!

 もし、試合がめちゃめちゃしょっぱいモノだったら、ガッカリさせちゃうだろ!



「つーか、俺はもう行く! のんびり観戦しといてくれ」


「頑張ってヒロ」

「頼んだぞ」

「スゲエ試合を期待してんだからな!」



 …………ガイの野郎。

 もう一発、殴っておけば良かった。



「マスター、ご武運を!」

「こちらは私達にお任せください」



 森羅と秘彗が俺の従属機械種達を代表してエールを送って来る。


 軽く手を上げてそれに応え、ゆっくりとリングで待つ闇剣士の元へと歩き出す。



 その途中、ふと気になって、ガミンさん達が閉じ込められている結界の方へと視線を向ける。



 まるで貴賓室のような場所で隔離されているガミンさん、アスリン、レオンハルトの3人。


 声は聞こえないようだが、それでも無事でいる姿を確認できる。



 ガミンさんは野太い笑みを浮かべ、グッと拳を突き出したポーズ。


 レオンハルトは貴公子然とした姿を崩さず、こちらを安心させるような微笑。


 アスリンは白兎を胸の前で抱え、やや不安そうな表情。



 もし、俺が負けた時は、彼等は闇剣士に殺される。

 おそらく、苦しめられた上で斬殺されるに違いない。


 だが、待ち受けているかもしれないそんな未来など感じさせぬ3人の態度。

 彼等には俺を信じてくれた恩があるのだ。

 たとえ俺が負けたとしても、決してそんな未来だけは避けさせねばならない。




 頼んだぞ、白兎!



 ピコピコッ!




 心の中で念じると、白兎は『任せて!』とばかりに耳を振るう。





 ああ、これでもう大丈夫。


 俺は何も気にすることなく、闇剣士を倒すことに集中すれば良い。



 


 異空間の中に侵入したと思ったら、唐突に始まった闇剣士とその従機相手の5番勝負。


 これから始まるのは、泣いても笑っても最後となる大将戦。


 相対するのは中央の賞金首、未だ誰も倒したことの無い魔人型。


 何百年と人間の強者を狩り続けた『強者へと挑む闇剣士』。




 さあ、お前を倒し、ルガードさんの仇を取る。

 そして、囚われの皆を解放し、さっさとダンジョンを脱出して、地上へ戻る!




 ダンッ!!




 刻み込んだ決意を胸に、俺は大将戦のリングへと足を踏み入れた。







『こぼれ話』


全身改造を施した改造人間と機人の差は何か?


機人は素体となった機械種の能力を十全に使用できます。

限界まで力を引き出すので、何倍も強くなります。


しかし、改造人間は脳だけは人間のままなので、

いくら強い機械種の機体をくっつけても、その力を十分に

引き出せません。

特に人間の脳では高位のマテリアル機器の制御ができず、

重力器や空間器の利用が大変困難。


ですが、現在中央では黄式晶脳器を使い、この2つの機器制御

を任せられないかという実験が行われています。

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