第614話 次鋒
「俺はまだまだ戦えるぞ!!! 引っ込んでなんかいられるか!!」
「やかましい! 全身打ち身だらけで骨折もしているのに、暴れるんじゃないっ!」
駄々をこねるガイを叱り飛ばす俺。
だが、この反骨精神溢れる不良少年はこれぐらいでは止まりはしない。
「放せ、ハザン!!」
「ガイ、大人しくしておけ。今のお前は戦える状態ではないぞ」
ハザンに抱えられていても、ガイは暴れるのを止めないのだ。
全身あちこちを骨折している重傷者の上、左腕一本しかないのに、なぜここまで元気なのだろうか?
闇剣士に挑まれた5番勝負。
先鋒戦、ガイ VS 大剣従機は、見事ガイの勝利に終わった。
しかし、負けてもおかしくなかったギリギリでの勝利であり、ガイは主武器である機械義肢を失った。
さらに『幽遠絽』で減衰させたとはいえ、敵の重力攻撃を正面から喰らって、今これだけ騒がしくできるのが不思議な程の重傷を負った状態という有様。
だが、それでもなお、この男は次の試合も出ると言って聞かないのだ。
試合で見せた頭脳プレーにちょっとだけ見直したというのに、やはりコイツはどうしようもない馬鹿だったようだ。
「こんなもん、唾つけときゃ治る!」
「この馬鹿者! それで治るわけ無いだろうが!!」
「ああっ! 俺は馬鹿じゃねえ!」
「お前は馬鹿の年、馬鹿の月、馬鹿の日、馬鹿の国に生まれた正真正銘の馬鹿野郎だよ!」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿言うな!」
「お前が馬鹿なことを言うからだ!」
騒ぐ馬鹿を俺とハザンで無理やり抑え込み、後ろのブルハーン団長に引き渡す。
「ガイ、良く仇を取ってくれたのう…………」
「団長、俺はまだ……………」
「もう良い。お前は十分に戦った。後のことは信頼できる仲間に任せておけ」
「…………オッス、団長」
命懸けで勝利をもぎ取ったガイを温かく迎えてくれるブルハーン団長。
反骨心マシマシのガイも団長の前に立てば、素直な一少年に早変わり。
流石にここまで言われてしまえば、大人しくするしかない。
「じゃあ、白志癒。ガイの治療は頼んだよ」
フルフル
『任せといて!』
アルスが白志癒へとガイへの治療を依頼。
少し時間はかかるが、これで歩けるぐらいには回復するであろう。
「さて、次は俺の番か…………」
ガイのことを片付け終わり、今度は自分の番とリング上で待つ敵へと視線を向けるハザン。
その目には強い敵意も激しい戦意も無く、かと言って、怯えや焦りの色も見られない。
ただ冷静に敵の戦力を見極めようとしている戦士の目。
命を賭けた勝負を前にも、ハザンは自然体を崩さない。
あるがままを受け止め、自分ができることを全力で取り組むのが彼の生き方。
ガイと違って、俺の生兵法なアドバイスなんて必要あるまい。
すでに彼は完成されているのだ。
そんなハザンに俺とアルスができることは、彼の勝利を祈り、激励の言葉をかけるくらい。
「頑張ってね、ハザン」
「ああ、この勢いを俺で止めるわけにはいかんからな」
「いきなり最初から攻撃を喰らうんじゃないぞ」
「ハハハハハッ、それは気をつけるとしよう」
俺とアルスからの激励に対し、いつも通りの落ち着いた口調で返して来る。
ハザンは右手にハンマーを、左手に盾を構えた攻防一体の戦闘スタイル。
さらに、ガチャ神殿で手に入れた発掘品の防具『万流衣』をその身に纏い、準備万端。
灰色と深緑色が交差したボディスーツにハザンの鍛え上げられた肉体がはっきりと浮かび上がる仕様に、頭をすっぽりと覆うマスク姿。
正しくアメコミのヒーローかと思わせる勇ましい恰好。
身を隠せる程の大楯を持った所なんか、まるでキャプテンアメリ○………
「あれ? その盾は?」
「同じ白翼協商の先輩から借りた。先鋒戦を見て必要だと思ったんだ」
「なるほどね…………」
俺の問いにハザンは簡潔に答える。
やはりハザンも事前に聞いていた情報に齟齬があったことを気にしている様子。
これから戦う敵が事前情報の通り近接戦一辺倒とは思えないのであろう。
敵が遠距離攻撃を放ってくるなら、盾は必須となるに違いない。
「敵は双剣使い………、ガミンさんの話だと、動きの素早い高機動型らしいが………」
「一番細い奴だから、ハザンがそのハンマーで殴れば一発だろうな」
「当てられたらな。そこまで持って行くのはなかなかに大変そうだ」
そう言いながらも、ハザンの顔に悲痛さは見られない。
何しろブーステッドを飲んだ強化人間だ。
生半可な攻撃ならすぐに回復する再生能力を持つ。
新人狩人の中では、俺を除けば最も生存確率が高いのはハザンであろう。
頭や重要部位を一撃で潰されなければ、そのまま戦闘を続行できるのが強み。
「できれば俺でルガードさんやヒロの露払いをしておきたいところだ。この通り、体力だけは有り余っているからな」
「無理するなよ。危なくなったらすぐにギブアップするからな…………、ガイみたいに駄々をこねるんじゃないぞ」
「大丈夫だ。俺はそんなタイプじゃない。危なくなったらすぐにリタイアするさ」
そう言ってハザンはリングへと向かった。
ハザンの相手は長さ1m強のショートソードを2本構えた『双剣従機』。
全高は2mと高いが、機体は細めで装甲も薄い仕様。
ガミンさんからの情報通り、パワーや耐久力よりも、速度や手数を重視した機種であろう。
ハザンとは全く正反対のパラメーターの振り方だと言える。
この対照的な敵の勝負は、果たして吉と出るか凶と出るか………
試合が始まり、先行を取ったのは『双剣従機』。
鏡のように磨かれた銀の剣身を十字に交差させたかと思うと、一瞬眩い光が弾け、
ビシュッ!
ハザンに向かって粒子加速砲が飛んで来た。
ちょうど剣身が交差した部分が瞬き、激しい熱量を伴うレーザーが放たれたのだ。
「ぬおっ!」
バシッ!!
構えた盾の表面で、光が弾ける。
偶然、盾を前に置いていたのが幸いし、一先ず直撃を避けられたハザン。
先輩から借りたという盾は日本の機動隊が持っているジェラルミン盾のような形状。
表面に対粒子コーティングを行っているようで、分厚い金属装甲をも一発で穴を開ける粒子加速砲の威力をほぼシャットダウン。
「……………まさか、いきなり撃ってくるとはな」
ハザンは盾を前に翳しながら、苦い表情で呟く。
やはり聞いていた情報とは異なる戦術。
先の『大剣従機』もそうだったが、初めから遠距離攻撃能力を持っていると仮定した方が良さそうだ。
ビシュッ!
ビシュッ!
ビシュッ!
次は続けざまに3連射。
2発はハザンの盾で弾けて終わり。
だが、もう一発は盾の端を掠め、ほんの少し盾からはみ出ていたハザンの肩へと命中。
「ぐうっ!」
当たった箇所から煙が上がり、ハザンの口から呻き声が漏れる。
収束制御で練り上げられた粒子加速砲は、ハザンが身に纏う『万流衣』の表面を叩き、下の肉に熱と衝撃を与えた様子。
「ハザンッ!!!」
アルスがリングサイドから身を乗り出し、悲痛な声を上げる。
「…………大丈夫だ、これぐらい大したことない。トライアンフの今朝の騒音の方がよっぽど効いたぞ」
対して、ハザンは至って冷静。
チラリと負傷箇所に目を落とし、何でも無いように軽口を叩く。
「粒子加速砲が直撃したのに、この程度か…………。この『万流衣』の防御力はかなりのモノだな」
ハザンは自身が手に入れた発掘品『万流衣』の感想を口にする。
その声にはやや自慢げな調子が含まれることから、まだまだ随分と余裕があるようだ。
事実、粒子加速砲が直撃した肩部分の衣が少し剥がれて血が滲んだ程度。
すぐに傷跡も無く再生し、剥がれた衣も徐々に修復、俺が見つめている間に完全に元通り。
生半可な機械種の装甲など、簡単に貫いてしまうのが粒子加速砲。
それを薄い布一枚でここまでダメージを抑えたのだから、ハザンが感嘆するのも無理はない。
この防具を次鋒戦前に手に入れることができたのは、望外の幸運であっただろう。
でなければ、先ほどの被弾で肩を貫通され、熱によって重度の火傷を負っていたかもしれない。
いくら再生能力があろうと、そこまでの重傷を負えば、再生に時間がかかる。
肩が負傷すれば、攻撃力はガタ落ち。
その間を攻められ続ければ後はジリ貧。
削り殺される未来しかなかったであろう。
「粒子加速砲は予想外だが、数発なら耐えられない程じゃない。あとは、何とか隙を見つけて…………」
盾で身を隠しながら『双剣従機』の隙を伺うハザン。
今度は目測を誤らないよう、巨躯を縮こませて粒子加速砲から身を守り、敵の射撃の合間を狙う。
しかし、『双剣従機』の射撃は断続的に続き、付け入る隙を見せないまま。
ビシュッ!
ビシュッ!
ビシュッ!
等間隔で粒子加速砲を撃ち続けている『双剣従機』と、それをひたすら盾で防御するハザンというの図式。
双剣を携えた剣士のくせに、敵に接近戦を挑まず、ひたすらレーザーを撃ちまくり、ハザンを近づけさせないような立ち回りを見せてくる。
観客が居ればブーイングの嵐が間違い無しの消極的な姿勢。
『金返せ』を言いたくなるようなしょっぱい試合内容。
しかし、それが命を賭けた真剣勝負での戦術と言われたらそれまで。
どうやら敵は徹底してハザンと距離を取りたい模様。
「チィッ! 剣士のクセして飛び道具に頼るなんて不逞な奴だ………」
敵の正々堂々とは程遠い戦い方に、愚痴を漏らす俺。
ハザン側に立つ俺とすれば、敵の戦術に愚痴の一つでも零したくなる。
慎重にも程があるぞ、コイツ。
それだけハザンの近接戦能力を警戒しているのかもしれないが。
ハザンもガイと同じくミドルの銃を持っているが、あくまでサブウェポンでしかない。
機械種が放つ粒子加速砲と撃ち合って勝てるはずが無いのだ。
ハザンも盾でカバーしつつ、接近しようと試みるが、双剣従機は粒子加速砲を撃ちつつすぐに移動して遠ざかる。
退き撃ちとでも言うのだろうか?
後退しながらの射撃は高度な技だが、敵にやられるとこれ程厄介だとは思わなかった。
徹頭徹尾、接近戦拒否の姿勢を崩さない『双剣従機』。
適度な距離を維持しつつ、粒子加速砲を断続的に連射するのみ。
敵の遠距離戦に終始する戦術に、ハザンは攻めあぐねている。
接近しようにも、相手の粒子加速砲の連射が厄介過ぎる。
盾で身を守りつつ、敵が放つ粒子加速砲の中を素早く突き進むのは難易度が高い。
かと言って、盾を放り投げて被弾覚悟で真正面から突っ込めば、いかに『万流衣』があろうと相当なダメージを貰ってしまう。
「クソッ! ちょこまかと…………」
ハザンから苛立ちの言葉が零れる。
打開策の見えない展開に焦りを隠せなくなってきた様子。
完全にこちらが不利な状況のまま膠着状態。
敵の方が素早く、さらに遠距離攻撃手段を持つともなると、打つ手が非常に限られてしまうのだ。
また、見ている俺やアルスも気が気でなくなってくる。
ハザンの劣勢にやきもきしながら、打開策は無いかと互いにアイデアを出し合う。
「少しでも距離を詰めないと、どうしようもないぞ。ある程度のダメージを覚悟して進むしか……………」
「でも、不用意に近づけば足元とか狙われる。あの盾もそこまで大きくないし…………」
「いっそ、ミドルの銃を出して、撃ち合いを演じてみるとか?」
「盾で身を隠しながら銃を撃つのって難しいよ。ハザンもあんまり銃は得意じゃないから」
だが、そんな簡単に打開策なんて見つからない。
しかし、それでも何かないかと ああでもない、こうでもないと言い合う俺達の耳に、
「マズいな……………、このままでは盾が持たんぞ」
俺達から少し離れた所にいるルガードさんから不吉な言葉が届く。
「ルガードさん? それは………」
「…………対粒子コーティングをしている盾だが、無限に粒子加速砲を防げるわけじゃない。それにあの『双剣従機』、粒子加速砲に僅かながらナニカを混ぜているようだ。コーティングをこそぎ落とすようなモノをな。あの分ではそう長くは耐えられない」
俺が問うと、返って来た思っていた以上にマズい状況。
それを聞いたアルスが慌ててハザンへと叫ぶ。
「ハザンッ! 盾が………」
「分かっている! …………、しかし…………」
ハザンからの苦し気な返事。
どうやらすでに構えている盾が徐々に削られているのを感じている様子。
しかし、今更どうにもできない状況。
ここで一か八かで盾を放り出して突撃するのは、あまりに無謀。
だが、このままでは盾が崩れ去るのは目に見えている。
結局、何もできないまま時間は過ぎ去り…………
盾は盾の役目を果たせなくなって崩壊。
彼の身体を守るのは、『万流衣』と鍛え上げられた肉体だけ。
そうなると、ただ激流に耐えるように防御態勢を維持したまま動けない。
一方的に撃たれるだけの的にならざるを得なくなる。
ビシュッ!
ビシュッ!
ビシュッ!
ビシュッ!
ビシュッ!
ビシュッ!
『双剣従機』の粒子加速砲はハザンの身体へと無数に叩きつけられていく。
「ぐおおおお!!」
ハザンが呻き声を上げながら光の矢の連打に耐える。
右腕で心臓部を庇い、左腕で顔面をカバーするのがやっとの状態。
胸に、
肩に、
腰に、
腿に、
腕に、
足に、
ひたすら光の矢が撃ちこまれ、その度に『万流衣』の衣が破けて血飛沫が舞う。
通常ならあっという間に八の巣だろうが、高位の発掘品防具である『万流衣』が何とか貫通を防いではいる様子。
しかし、その熱と衝撃は防ぎようが無く、『万流衣』の衣を削ぎ、ハザンの皮膚を裂いてダメージを積み重ねていく。
「ぐううううう!!!」
強化人間であるハザンの身体はある程度の再生能力を持つが、ここまで連射されると流石に再生が追いつかない。
一方的に嬲り続けられているようなもの。
このまま削り殺されるのは時間の問題…………
「ヒロ、このままじゃハザンの命が………」
俺に悲壮な顔を向けてくるアルス。
自分の相棒の命が風前の灯火なのだ。
無理もあるまい。
俺にとってもハザンは友人。
当然ながら無残に殺されていく様を黙って見ていられるはずもない。
ここでギブアップ権3つのうち1つを使ってしまうことになるが、ハザンの命には代えられない……………
「ハザン! もういい! ギブアップを………」
「ヒロ、待て」
「え? …………ルガードさん」
「ハザンをよく見ろ」
ルガードさんが俺を制止。
目線で促して来るその先へと視線を移せば………
「あれ?」
そこには粒子加速砲の嵐で滅多打ちにされていながらも、ファイティングポーズを取り続けるハザンの姿。
先ほどまでは両腕で自分の身を庇うのが精一杯の様子であったのに、いつの間にか身を守る構えすら取らず、堂々とその巨躯を晒している。
レーザーの雨にも小動もせず、まるで仁王像のように毅然とした姿勢。
「え? 一体何が……………」
ハザンは飛んでくる粒子加速砲を意にも介さなくなった。
事実、『双剣従機』が放つ粒子加速砲は、ハザンに些かのダメージも与えられないでいる。
何発もの光の矢がハザンに身体に突き刺さるも、『万流衣』の表面で弾けるだけ。
鉄を貫く熱量を秘めた粒子加速砲が、子供が道端で遊ぶ花火以下にまで成り下がったかのよう。
いや、粒子加速砲の威力が減じたとよりも………………
「あの防具に粒子加速砲への耐性が宿ったのだろう」
推測の途中でルガードさんから注釈が入る。
「ここまで急激に自己進化する発掘品はなかなかに珍しい」
「自己進化? …………つまり、粒子加速砲を受けまくったから、『万流衣』が耐性を持ったと? ………あの防具、そんな便利なモノだったのか」
「ああ…………、ただし、粒子加速砲の耐性を得る代わりに、何かの耐性が犠牲になった可能性もあるから、無条件に頼るのは考え物だがな」
ルガードさんからの分かりやすい説明。
どうやらあの『万流衣』は俺が思っていたよりも柔軟性に富んだ発掘品であるようだ。
「ハザン!」
「すまん、心配かけたな、アルス。だがもう大丈夫だ」
アルスの呼びかけにハザンが応える。
そして、床に落としていたハンマーを拾い上げて、
「では、今度はこちらからだ!」
マスクを被っている為、表情は分からないが、声の調子から随分と気合が入っている様子。
颯爽と自身の背丈の3分の2程の長さもあるハンマーを構え直し、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
雄叫びを上げながら、双剣従機へと吶喊を開始。
ビシュッ!
ビシュッ!
ビシュッ!
双剣従機も粒子加速砲を連射して牽制するも、すでにハザンにとっては蛙の面に小便。
飛んでくる光の矢にも躊躇うこと無くリング上を走り抜ける。
ジャキンッ!
ジャキンッ!
流石の双剣従機もここに至って近接戦は避けられないとして、ようやく両手に持った双剣の切っ先をハザンへと向ける。
闇剣士の従機に相応しい堂に入った構え。
接近戦を避けていた先ほどまでの姿勢から変換。
真正面からハザンを迎え撃つ模様。
双剣従機からすれば、一方的な試合から通常の勝負に切り替わっただけ。
しかも相手は先ほどまで滅多打ちにしたばかり。
外見から大きな損傷は見られないが、相手はそれなりに消耗しているはずなのだ。
強化人間とて、血を流せばスタミナが消耗する。
それは即座に回復するモノでは無い。
ならば決して分の悪い勝負では無いと判断。
本来なら機動戦を得意としている双剣従機であったが、今のハザン相手ならば真正面からでも問題無いと思ったのかもしれない。
だが一つ、双剣従機の想定外があるとすれば、ハザンが摂取したのはかなり高位のブーステッド。
中央でもなかなか見られない一品であり、その効力は容易く人間の限界を超えさせるもの。
素の基礎的能力がハザン程に鍛え上げられた人間ならば、ストロングタイプすら超えうるポテンシャルを秘める。
構えを見せた双剣従機に対しても、ハザンは僅かばかりの躊躇も見せない。
ただ自分の能力を信じて全力でぶつかるのみ。
走りながらハンマーを大きく振りかぶり、双剣従機へと向かって、
「くたばれ!!」
今までの鬱憤を晴らすような雄叫びと共に、その頭上へと振り降ろした。
ガチャンッ!!!
激しい金属音が響き渡る。
一瞬、振り降ろされたハンマーの衝撃波がリング上に撒き散らされたかと思う程の轟音。
だが、ハザンの渾身の一撃は、ギリギリで双剣従機に受け止められた。
顔の前で二本の剣を×の字に交差し、ハザンの怒りの鉄槌を防いだ双剣従機。
しかし、他の従機と比べるとやや細めのその両腕から異音と火花が飛び散っている。
限界を超えた加重に耐えきれなかった模様。
強化人間のパワーは機械種すら上回ることがあるのだ。
ギシギシギシギシギシッ!
長柄のハンマーと双剣がせめぎ合うリング上。
図らずも鍔迫り合いとなった両者。
「ぬおおおおおおおおおっ!!」
さらにハザンはそこから力を込める。
そのまま押し潰さんと全身の力をハンマーへと注ぎ込む。
やや劣勢の立ち位置となった双剣従機は何とか耐えるべく、己の機体に備わった駆動系をフル回転。
黒い機体から蒸気を噴出させながら、ハザンの圧力を押し返そうと抗いを見せ始めた所で、
バッ!
ハザンはいきなりハンマーを手放し、その場にしゃがみ込んだ。
双剣従機からすれば、突然姿が消えたように見えただろう。
そして、低い体勢から双剣従機の足元へとタックルを敢行。
下から上へと掬い上げるように足を抱え込み、双剣従機の機体をグイッと持ち上げて、
「どりゃああああああああああっ!」
ドシンッ!!!
そのまま床へと思いっきり叩きつけるスープレックス。
為すがまま床へと仰向けに転がるしかない双剣従機。
激しい衝撃と想定外の攻撃方法に機体を震わせ、両目の赤い光が不規則に点滅。
まさか持ち上げられて、床に落とされるなんて考えもしなかったに違いない。
だが、まだまだハザンの攻撃は終わらない。
「フンッ! フンッ! フンッ! フンッ!」
ドカンッ! ボコンッ! ガツンッ! バキンッ!
双剣従機に馬乗りとなり、マウントポジションから床に杭を撃ちつけるように連続した拳撃をその顔面へと振り降ろす。
全く容赦の無い一方的な攻撃。
これが人間同士の試合なら即座にレフリーストップが入りそうな状況。
だが、これは人間とレッドオーダーとの殺し合い。
躊躇する余地なんてあろうはずがない。
ザンッ!!
ザクッ!!
双剣従機も圧し掛かられた体勢から剣を振るいハザンへと切りつける。
だが、これまた抜群の防御力を見せる『万流衣』に阻まれて反撃と言えるほどのダメージが与えられない。
不利な体勢から繰り出す力の無い攻撃では『万流衣』を突破できない。
そして、何の遠慮も無く叩きつけられる鋼鉄のごとき拳。
反撃を諦め、手で防御しようにも数発で粉砕。
もうハザンの攻撃を留める手段など無い。
ひらすら顔面を殴られるだけ。
床と挟まれ、サンドイッチ状態で顔面に攻撃を集中させられたら、たとえ機械種でもあっという間。
やがて面が割れ、兜が砕け、中の晶冠が衝撃で破損し…………
ゆっくりと立ち上がったハザン。
頭部と潰され、残骸と化した双剣従機へと一瞥し、独白。
「ふう………………、俺の勝利だな」
苦戦はしたものの、最期は誰にも文句を言わせない完全な勝利をおさめることができた。
しかも、とても一戦が終わった後とは思えない、傷一つ見当たらないハザンとその身を包む万流衣。
今この場だけと切り取ってみれば、まるで楽勝であったかのように思える。
事実、ハザンの戦意に陰りは無く、体調も万全、装備にも破壊された盾以外に被害無し。
「さて、このまま次の試合に臨むとするか」
すでにハザンの心は次の試合に向いている様子。
不敵な眼差しで次なる敵、中堅である巨大な盾を持つ『盾剣従機』を、その視界に捕らえた。
『こぼれ話』
ブーステッドにはいくつか分類があり、『強化』『再生』『知覚』『異形』が主な成分となっています。
大抵、この4つの成分を一定の割合で配合されたモノが市場に出回っています。
ハザンが飲んだモノは、『強化8』『再生6』『知覚2』『異形1』。
非常に当たりの部類になります。
ちなみに黒爪が飲んだモノは、『強化4』『再生3』『知覚1』『異形3』。
血染めの姫は、『強化12』『再生12』『知覚11』『異形4』です。
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