第605話 集計



「これで打ち止めか……………」



 

 竜騎士を下した後、残りの戦力を持たないストロングタイプ達へと切りかかり、全て一閃の元、首を切り落として全滅させた。


 また、ヨシツネ、浮楽、豪魔達もそれぞれ相手にしていたレッドオーダー達を殲滅。

 玄室内に出現した敵は一機残らず全て片付け終えた。


 

 しかし、その後は、しばらく経っても敵が現れる様子が無く、些か拍子抜けした感じで立ち尽くしていた俺達。


 どうやらストロングタイプ8機の出現を最後に『アラームボックス』の効果は切れてしまった模様。


 まあ、目的は十分果たせたのだから、これ以上欲張っても仕方がない。



「しかし、思っていたより出てきたな。もし、間違えて発動させていたら、アルス達だけでは全滅は避けられなかっただろうな」



 超重量級2機を含んだ38機との連戦だ。

 しかも、この辺境では出てくること自体がおかしい高位機種ばかり。

 従属機械種達を全部使い潰して、数人逃げ切るのが関の山であろう。



「もう警戒いいぞ。皆、よくやってくれた」



 フルフル

『は~い』

「ハッ!」

「ギギギギッ!」

「承知」

「ねえ! 我が君! いい加減、コレ解いて!」



「秘彗、結界解除を。お疲れ様だったな。天琉、よく秘彗を守ってくれた。偉いぞ」



「はい………、お役に立てて何よりです」

「あい! テンル、偉い偉い!」

「ちょっと! 僕のこと、無視しないでよ!」



 床に転がる芋虫魔王の声は無視しつつ、撤収作業へと移る俺達。


 玄室内に散らばるレッドオーダーの残骸を集めてもらい、片っ端から七宝袋へと収納していく。



 原型を留めたまま氷漬けとなった機械種ストームジャイアント。

 頭部、胴体、脚、尾と綺麗に解体された機械種ティラノサウルス。

 3つの頭と6本の腕を全て切り落とされた機械種シュラ3機に、半壊状態の機械種ヤシャ2機。


 晶石だけを取り出す必要も無いから、そのまま収納。

 後で秤屋にて換金したいのだが、ある程度質と量を調整しないと怪しまれる可能性がある。

 

 小出しにするか、それとも中央に辿り着いてからにするか………


 どちらにせよ、当面保管しておくしかないだろう。


 あとはストロングタイプだが…………


 

 

「えっと……………、秘彗! そっちはどうだ?」


「はい! もう少しお待ちください」



 

 倒したストロングタイプを一か所に集めて見分中。


 ほとんどの機種は首を切断されている状態。

 だから秘彗と天琉の2機で、切り離された首と胴体を合わせて貰っている所。




「あっ! テンルさん、そっちじゃありません! それは破騎士の首です。侍系じゃありません」


「あ~い~? そうかな? でも兜、被っているよ」


「ほら、デザインが違うでしょう。そこの………面頬が付いている方が侍系ですよ」


「あい~……… これ~?」




 子供2人が生首を抱えて、胴体に合わせて回る…………


 見方によっては非常に問題のある光景だな。




「テンルさん! なんで教師系の胴体に竜騎士の首を置こうとするのですか!」


「だって、こっちの方がカッコ良いし…………」


「そういう問題じゃありません!!」




 若干、人選ミスったかな? とも思わなくも無い。

 でも、天琉がやりたがったのだ。

 それに付き合わせられる形で秘彗も参加することとなった。




「あはははははっ! 頭を三つ並べて付けたらスッゴク強そう! あいあい!」


「真面目にやりなさい!!」




 まあ、あっちは秘彗に任せておくか。

 なんか楽しそうだし…………

 

 

 結局、確保できたストロングタイプは以下の通り。



 騎士系亜種、破騎士、機械種バスターナイト

 工作員系、機械種シャドウスネーク

 闘士系、機械種バーサーカー

 風水師系、機械種レイラインルーラー

 魔法戦士系、機械種ウォーロック

 射手系、機械種シューティングスター

 呪術師系、機械種ジュジュツマスター

 格闘家系、機械種チャンピオン

 巫女系亜種、舞巫女、機械種カグラ・ミコ

 侍系、機械種サムライマスター

 騎士系亜種、竜騎士、機械種ドラグーンナイト

 官僚系、機械種チュウオウカンリョウ

 会計士系、機械種アリスメティシャン

 運び屋系、機械種トランスポーター

 教師系、機械種ティーチャー

 

 合わせて15機。

 思った以上の成果と言えよう。



 工作員系は、所謂盗賊タイプに属する補助系。

 どちらかというとダンジョンや巣等よりもシティアドベンチャーに秀でた機種。

 人間がたむろする施設や工場への侵入、拉致された人間の救出作戦、最終兵器の調査・破壊任務等々。

 交渉や演技、変装等を得意とし、罠設置や破壊工作等もやってのける。

 戦闘もそれなりに得意であり、スキルも豊富。正に器用万能。

 しかし、団体行動が苦手という欠点があり、それ故、中規模以上の狩人チームや、猟兵団では使われることが少なく、ソロの狩人や、街の合法、非合法組織が従属させているケースが多いらしい。

 ノービスタイプは機械種エージェント、ベテランタイプは機械種スパイ。

 


 風水師系は魔術師系の一つに当たり、広範囲で持続時間の長いマテリアル術を得意とする機種。

 ストロングタイプともなれば、街一つ包む程の大掛かりな結界や対軍用の大規模破壊攻撃なども行使可能。

 ただし、発動にそれなりの時間がかかり、それだけにダンジョンや巣の攻略には不向き。

 主に野外で活動する猟兵団や、都市国家の軍が秘密兵器として抱えていたりする。

 ノービスタイプは機械種ジオマンサー、ベテランタイプは機械種フウスイマスター。

 


 魔法戦士系は、機種系統名通り、攻性マテリアル術と近接戦闘を両方熟すマルチプルプレイヤー。

 どちらも高い基準でスキルを備えており、離れては基本4種のマテリアル術で攻撃、近づけば剣で切りつける。

 正しくオールラウンダー。ただし、どちらも本職には敵わず、決定力に欠けると言われている。

 しかし、従属機械種の数が少なければ、単機で出来ることの多い魔法戦士系は大変有用。

 ストロングタイプともなれば、たった1機で全ての戦闘が事足りるという。

 機種の名のごとく、1機で戦闘(ウォー)を終わらせる(ロック)者なのだ。

 ノービスタイプは機械種マジックバトラー、ベテランタイプは機械種ルーンバトラー。

  


 呪術師系は、機械種相手のデバフ(敵の弱体化付与)に特化した魔術師系。

 一応、基本4種の攻性マテリアル術ぐらいは使用可能だが、やはり機械種を無力化することがメインで使われることが多い。

 あまり市場で出回ることが少ないレアな機種でもある。

 そのデバフは機械種の能力を低下させ、時には行動不能に陥れる凶悪なモノ。

 機械種を出来るだけ傷つけずに捕まえたい狩人達に人気が高く、また、格上の機種にもそれなりに効果を与えるので、ガチの攻略組からも引く手数多。

 ただし、いくら敵を弱らせようとも、呪術師系自体の攻撃力は低いので、強機種との組み合わせが必須。

 単独ではその真価を発揮できず、パーティー編成によってその戦力が大きく上下する機種でもある。

 ノービスタイプは機械種ソーサラー、ベテランタイプは機械種カースメイカー。





「まだ、どれを従属させて、どれを晶石合成に使うか、決めていないが………」



 『九竜神火罩』で捕まえた機械種カグラ・ミコは一旦首を刎ねて活動を停止させた。 


 『九竜神火罩』を開けた瞬間、自身の亜空間倉庫に収納していたと思われる、機械種ヘルハウンドと機械種ヘルキャットを呼び出し嗾けてきたのだ。

 すぐさま隣に控えていたヨシツネが一瞬で2機を切り伏せ、機械種カグラ・ミコは俺自身が手を下した。

 

 女侍系のように蒼石2級を使って従属させようかとも考えたのだが、コイツの価値は晶石合成に使う方が高い気がしたのだ。

 俺の性格から言って、一度仲間にしてしまったら、もう晶石合成の材料になんて使えない。

 だから、保留するという意味でも首を刎ねるしかなかった。

 

 稼働中のままでは七宝袋に収納できないし、レッドオーダーが俺の命令に従って素直にスリープするはずもない…………


 いや、浮楽はレッドオーダーの時から俺の命令には従っていたけれど。

 でも、あれは色んな偶然が重なってのことだから………

 




「先に倒した忍者系もあったな………、2機のうち、1機は俺に所有権があるはずだから…………」



 計16個16種のストロングタイプが手に入ったこととなる。

 しかも、一つも被らなかったのだから、なかなかに良い引き運ではないだろうか?


 

 前衛系(破騎士、闘士、格闘家、侍、竜騎士)が5機、

 後衛系(射手)が1機、

 補助職系(工作員、運び屋)が2機、

 魔術師系(風水師、呪術師)が2機、

 複合職系(忍者、巫女、魔法戦士)が3機、

 内政系(官僚、会計士、教師)が3機。



 実にバランス良く揃えることができたと言える。

 さて、この中のどれを秘彗達ストロングタイプへの晶石合成の材料とするのかが悩ましい所。


 

 まずは、毘燭、剣風、剣雷をダブルにする予定。

 だが、未だどの職業を追加するかが決められない。



 一応、幾つかの目算はあるのだけれど…………



 例えば、毘燭ならば格闘家系か風水師系、それに射手系。

 格闘家系なら回復呪文が使えて素手戦闘でも戦えるモンクになるであろう。

 風水師系なら大規模な結界や防御陣に秀でた守護神に。

 また、射手系を追加して、後衛に置いたまま遠距離攻撃能力を持たせるというのも玄人好み。

 毘燭の能力構成から射手系を追加すれば、重力弾の砲撃を覚える可能性が高いからだ。



 剣風、剣雷は前衛系一択。

 しかし、どの系統を伸ばすのかが些か決めかねている状態。


 破騎士、竜騎士はオーソドックスな進化となる。

 破騎士なら攻撃力が爆上がりし、竜騎士なら空戦能力が身に付くはず。

 

 剣技を伸ばす為の侍系や、複合職になるが魔法戦士系という線もある。

 侍系なら必殺の空間斬を覚えるだろうし、魔法戦士系なら攻性マテリアル術を幅広く会得するに違いない。

 

 闘士系なら、パワーと耐久力が上昇。

 さらにバーサーカーの代名詞たる『狂化』を覚えれば、短時間ではあるが紅姫をも上回る力を得ることができるだろう。

 

 格闘家系は攻撃力と防御力、耐久力が底上げされる。

 剣と格闘術を扱う剣闘士さながらの猛者になるであろう。

 屋内での超至近距離戦エキスパートの完成だ。



 

「それに………、まだまだ先になるだろうが、秘彗と胡狛、メイド達をどうするかなあ~………」



 

 これもまたまた悩ましい部分。

 今はダブルである秘彗や胡狛、メイド3機も順当に行けば、いずれトリプルとなる要件を満たすはず。

 その時の為に追加する職業の晶石を残しておかなくてはならない。



 メイド3機を今後の戦闘に出すか、出さないかでその方向性が大きく変わる。

 

 俺のチームが大きくなっていけば、必ず中の仕事を専門に行う機種が必要になってくるからだ。

 今は森羅がメインで処理してくれているが、いずれ内政専門の人員の補充は必須となる。


 故にメイド達に内政系の職業を追加すれば問題解決。

 俺のチームの組織基盤はより強固になるに違いない。


 もし、メイド達を戦闘に出すつもりなら、辰沙や虎芽はそれぞれすでに保有している職業の重ね持ちで長所を伸ばすパターン(辰沙には闘士系、虎芽には格闘家系)と、

 弱点を補うパターン(スピードが遅い辰沙には竜騎士や忍者系、遠距離攻撃が苦手な虎芽には魔法戦士系や射手系)がある。

 

 玖雀は長所を伸ばす工作員系か、攻撃力が低いという短所を補う侍系が推し。

 また、運搬力と生存能力を上げる為に運び屋系も面白いかもしれない。




 今後、メインで活動してもらうことが決まっている胡狛や秘彗は、どうしても戦闘力の上昇が必須となる。

 その為に追加する職業を厳選しなくてはならない。 



 胡狛は工作員系か、忍者系であろう。

 どちらも胡狛の罠スキルを伸ばし、且つ、ある程度の戦闘力が確保できる。

 今のままだと、機械種オークに奇襲されたら余裕で負けるレベル。

 こうやって危険な場所に連れて歩くのだから、最低限の戦闘能力は持たせるべきだ。

 

 まあ、胡狛については、実は教師系なんかも似合いそうではあるが………




 秘彗はこのまま魔術師系を伸ばすか、それとも近接戦能力を備えさせるかが課題。


 破騎士    身の丈に似合わぬ大剣を装備させるのも魅力的。

 侍系     着物姿も似合うと思う。

 魔法戦士系  剣で戦う魔法少女を見てみたい。

 格闘家系   拳で戦うのもいい感じ。

 射手系    マジカルシューターを名乗らせたい。

 竜騎士    槍に乗って空を飛ぶ魔法少女も素敵。

 闘士系    斧を振り回す魔法少女というのも新感覚。

 忍者系    魔法少女+忍者少女!! 何と言う贅沢な……

 舞巫女    魔法少女に巫女を加えるだと………、もう最強じゃん!

 


 まあ、冗談はさておき、



 これらのどの職業を追加しても、戦力向上につながるのは間違いない。

 近接戦闘能力や補助系スキルを習得させれば、より幅広い範囲の活躍を見せてくれるであろう。


 だが、折角魔術師系のピュアダブルにしたのだから、同じく魔術師系の職業を追加して、マテリアル術を極めさせたいという気持ちもある。



 今回入手した魔術士系は2機。

 


 風水師系を入れたら、今以上の大規模攻性マテリアル術に秀でることとなるだろう。

 大陸有数の戦略級魔術師系の誕生だ。

 だが、ダンジョンや巣で役に立つかというと、また別の話。

 『砦』や『城』の攻略には大変有用だろうけど。



 呪術師系なら、秘彗の『固有技』である『魔女の楔』と『魔女の森』の効果は激増するに違いない。

 もう紅姫どころか朱妃や緋王にまで届くレベル。

 龍も巨人も天使も、神や魔王さえも秘彗の前には弱体化を免れない。

 


 だが、魔術師系を入れてしまうと秘彗の機体の貧弱さが改善できないままとなる。

 


 いかに秘彗が『天兎流舞蹴術』を習得していたとしても、その機体は完全後衛機種。

 そもそも近接戦闘を前提としていないのだ。

 前衛に出すことなどできるはずもなく、万が一、奇襲を受ければ一撃で大破することもありうる。

 


 今後、敵のレベルも上がり、秘彗の安全を考えるとやはり前衛系か、最低でも複合職を入れないと…………

 

 若しくは、今回の天琉のように、信頼できる護衛をピッタリ付けておくかの2択であろう。

 

 胡狛と含めて、護衛してもらう為に、腕の立つ前衛系の女性型を揃える方が先だろうか……… 




 

「おっと…………、そうだ。その為にブルーオーダーしたんだよな。今のうちに機械種サムライナデシコと従属契約を結んでおくか」



 戦闘中だったからと、とりあえず収納していたマスター登録を待つ女性型1機。

 その場の思いつきで貴重な蒼石2級を使ってブルーオーダーしてしまった女侍系。

 だが後悔なんてしていない。

 

 あの美しい女武芸者の姿を見たら、蒼石2級なんて安い安い。


 

「よっと………」 


 

 胸ポケットに指を突っ込み、中の七宝袋から女侍系の機体を取り出す。


 

 両目を青く点滅させたマスター認証待機状態で現れる機械種サムライナデシコ。



 濡れたようにしっとりとした艶を持つ濃紺色の長い髪。

 新雪のごとく真っ白で滑らかな肌。

 小づくりで細面の美しい相貌。

 薄青色の着物を着た、時代劇にでも出て来そうな武家のお姫様のよう。



 まだ未稼働の状態であるとはいえ、思わず見惚れてしまいそうな凛とした佇まい。

 ただ、突っ立っているだけなのに、俺の目を引き付けやまない存在感に溢れている。



「従属されるのですか?」


 

 出現した機械種サムライナデシコの姿をぼーっと眺めている俺へとヨシツネが質問。

 

 すぐに我に返り、慌てて取り繕った理由を話す。


 決して、その場の思いつきであることはバレてはならない。



「ああ、女性型の前衛系が欲しかったからな。秘彗や胡狛の護衛に使うつもりだ」


「確かに我々男性型だと入りにくい所もありますからね」


「それに、今後、女性の同行者ができた時を考えると、女性型で近接戦闘ができるタイプが必要となるだろう」


「………………主様。護衛なら辰沙さんや虎芽さんがおりますが?」


「メイドは強そうに見えないだろ。価値と見かけの脅威度を考えれば、辰沙と虎芽は護衛にならん。襲ってくる奴等を増やすだけだ」


「ハッ! 申し訳ありません! 拙者が浅慮でございました!」



 俺の答えに、ヨシツネは即座に膝をついて謝罪。


 相変わらず、イチイチ大げさな奴だ。



「とにかく、機械種サムライナデシコは従属させて仲間にする…………、最近、また『お騒がし組』が増えてきたからな。多分、コイツは『真面目組』になるだろうから、混沌に堕ちないよう気にかけてやってくれ」


「ハッ! …………………はあ?」



 反射的に返事をしたものの、『お騒がし組』と『真面目組』の意味が分からず、ポカンとした表情を見せるヨシツネ。

 

 まあ、『お騒がし組』とか『真面目組』とかは、俺が勝手に思っているだけだからな。











「お前の名は………………刃兼(はがね)だ。これからよろしく頼むぞ」


「はい。早速の名付け、ありがとうございます。全身全霊を以って、お館様に忠誠を誓わせていただきます」



 床の上に正座して、三つ指付きながら頭を下げてくる刃兼。

 

 和風美女だけあって実に奥ゆかしい感じの振る舞い。


 しかも、こんな美女に『お館様』と呼ばれると、ちょっと色んな部分が反応しそうになる。


 う~ん…………

 秘彗とも胡狛ともメイド3機とも違うタイプ。

 やはり女性型は多様な属性を揃えたいものだ。

 


「うむ。其方の忠誠、有難く思う。精進せいよ」


「はい。この刀に賭けて………」

 

 

 刃兼はスッと静かな動きで手を伸ばし、目の前に置いた刀の柄に軽く触れながら答える。


 女侍系だけあって、一つ一つの動作が洗練されている。

 まるで上級武士階級の娘さんのような雰囲気。

 


「一応、この場にいる面子にだけでも紹介しておくか。コイツが筆頭従属機械種の白兎だ」


 パタパタ

『よろしくね』


「はい、筆頭様。よろしくお願いいたします」


 

 耳を揺らす白兎に対し、刃兼は落ち着いた様子で挨拶を交わす。


 普通なら耳を疑うような俺の紹介を刃兼は何の疑いも無く受け入れているようだ。



「こっちが次席のヨシツネだ」


「ハッ! ………ただいま主様より紹介いただいた次席のヨシツネと申します」


「次席様、こちらこそ…………、次席様も刀をお使いなのですか?」


「そうですね、まだまだ未熟なれど……………」



 嘘つけ。

 お前が未熟なら、この世界の99.999%以上は全く素人じゃねえか。



 ヨシツネの謙遜ぶりに、思わず心の中でツッコミ。



「一度手合わせ、願えますでしょうか?」


「主様が許せばいつでも」



 刃兼の申し出に対し、鷹揚に返すヨシツネ。


 こと話が己の武芸になると、割とピリッとした空気を出すことも多いが、今回は余裕があるせいか、穏やかな雰囲気のまま。

 ヨシツネにとってみれば、ストロングタイプの前衛系と言えど、実力差からすれば入部してきたばかりの新人に等しい。

 まずは、俺のチームの前衛を飾るに相応しいかどうか、軽く腕試ししてやろうという感じであろう。



「ゴウマである。よろしく頼む」


「……………よろしくお願いします」



 超重量級の豪魔相手には、少しばかり戸惑う様子を見せる刃兼。


 やはり機械種にとって機体の大きさは分かりやすい判断基準。

 しかもデーモンタイプの最上級ともなれば、ストロングタイプの数十倍の力量を秘めるのだ。

 動揺を隠せなくても無理はない。



「やっほ~、テンルだよ! こっちはフラク!」


「ギギギギッ!!」


「コラ! テンルさん。もう少し行儀良くしないと駄目ですよ! ………………あ、すみません。私、ヒスイと言います…………」


「ハガネです。ご丁寧にどうも………」



 天琉以外には腰の低い秘彗と、奥ゆかしい性格なのであろう刃兼が互いに頭をペコペコ。

 なんか、日本人同士の挨拶っぽい風景。



 そうして、皆が自己紹介を済ませる中、



「おい! 端女。この僕が訓辞をくれてやる。ありがたく聞け! …………二度とは言わんから、この僕の言を一言一句聞き逃すなよ」



 随分と低い位置から偉そうな口調の一方的な宣言が飛んでくる。



「いいか! お前の役目は我が君の前に現れる、雑魚の露払いだということを忘れるな! それすらできないようなら、存在価値が無いと知れ! あと、不用意に我が君に近づくなよ。もし、今後、馴れ馴れしい態度を取るようなら、僕自ら引導を渡してやるから覚悟しておけ!」



 ただ自分に都合の良い戯言を垂れ流すベリアル。

 高飛車な物言いだが、白兎の『梱仙縄』によってグルグル巻きにされて床に転がったまま。

 

 普段なら、迸る魔王の威に打たれ、刃兼は身を硬直させていたであろう。


 かつての毘燭や剣風、剣雷がそうであったように。


 だが、芋虫状態で騒ぐ魔王に威厳なんてあるはずがない(正確には『梱仙縄』によって『威』が抑えられている)。


 告げられた理不尽な宣言に、刃兼は困惑したような表情を浮かべて俺の方へと向き直る。



「お館様。この方は?」


「あ~…………、魔王型のベリアルだ」


「魔王型!」



 刃兼はその機種名に驚き、大きく目を見開く。

 これまであまり表情を動かさなかったが、流石に魔王の名を聞いては、無心ではいられない様子。



「魔王型を従属されているとは………、流石はお館様。しかし、何ゆえにこのような状態で?」


「お仕置きの最中。あんまり気にするな」


「お仕置き………ですか?」



 俺の答えにチラリと視線をベリアルに戻す刃兼。


 すると、ベリアルは柳眉を逆立て、在ること無いことを捲し立てる。



「オイコラ! 女! 誤解するなよ! これは愛する我が君との特殊なプレイなんだ! 決して、僕が叱られている訳じゃないからな」


「んなわけあるか! 勝手なことを言うな!」


「フフンッ! 我が君はちょっと照れているだけなのさ。あまり人には言えない趣味だからね」


「!!! そうでしたか………、お館様は縛るのがお好き………」



 ベリアルの言葉に、何かを考え込むような素振りを見せる刃兼。

 抜けるような白さの肌がほんの少し紅潮しているようにも見える。


 それはまるで艶事話を恥ずかしがる乙女そのものの姿で………



「あああああああああああああああああ!!!! やめんか! 俺を陥れるな! 折角手に入れた新人に余計なことを吹き込むんじゃない!!!」



 クッソ! 

 余計な口ばかり叩きやがって、ベリアルの奴…………

 さっさとスリープさせて、七宝袋に収納しておくべきだったな。




 こうして、ストロングタイプ狩りは終了。

 

 手に入れたのはストロングタイプ15機を含めた多数の残骸。


 そして、新しく仲間にした機械種サムライナデシコの刃兼。


 また新たな力を手に入れたのだ。


 これだけでもこのダンジョンの依頼を受けて正解だったと思える。









「ふう………、ようやく戻って来れた。なんだかんだで3時間か。寝れてあと4時間ぐらいだな」



 アルス達が寝泊りしている玄室へと帰着。


 すでにヨシツネや天琉、豪魔や浮楽、ベリアルに刃兼も七宝袋へと収納済み。


 白兎と秘彗という出発した時と同じメンバーで戻って来た。



 まず、俺達を迎えたのは、玄室の扉前に飾られた色とりどりの5本の旗………



「ん~……………、何回見ても、面白いな。もし、他の狩人がこの扉の前を通りかかったらなんて思うんだろ?」



 『何の祝勝会をやっているんだ?』と思わず2度見してしまうぐらいの奇妙な絵面。

 見ているだけで思わず笑みが零れる。



 俺の『杏黄戊己旗』を模した薄黄色の旗を中心に4本の旗がはためいている。


 白地に青白い渦を巻いた旋風、アルスチームの団旗。

 

 水色の背面に下から上へと突き上げる拳が描かれた、ガイの団旗。


 薄桃色の下地に女物の靴が踏みつけている図柄、アスリンチームの団旗。


 薄い墨汁を垂らしたような灰色の海に青い帆船が浮かぶ、レオンハルトの団旗。


 


 狩人にとっての団旗はチームとしての象徴であり、少なくとも秤屋にチーム登録しているなら、いつでも必ず携帯しているモノだ。


 持ち運びが便利なように棒部分は伸縮するタイプ。

 旗の大きさは携帯用ならだいたい30cm程度。 


 そんな小さな旗が5本も一つの玄室の扉にぶら下がっている光景は、明らかに異常事態。


 様々な狩人が混在する中央ならともかく、この辺境でなら在り得ないことであろう。


 そもそもバスの中ですら狩人チームは揉めやすいからパーティションで区切ってあるのだ。

 

 所属も違う狩人チームが5つ揃って一つの玄室に寝泊りなんてできるわけがない。

 


「でも、今の俺達では、別に不思議なことじゃないよな………」



 すでに幾つもの死線を潜り抜け、同じ釜の飯を食った仲だ。

 俺がチームトルネラの皆に感じる親しみに近い感情を彼等に抱いてしまっている。


 未来視も合わせれば、家族同然で何年も一緒に過ごしたエンジュ達程では無いけれど。 



「4つの秤屋の5チームが勢ぞろいか…………、一体、運命さんは俺に何をさせようというのかね」



 

 そして、この先に何が待ち受けているのか……………

 



「全ては明日になれば分かること………か」




 今考えてもどうしようもないことは明日に考えれば良い。


 とにかく、今日の俺の仕事は終わったのだ。

 たった4時間ではあるが、今はゆっくり休みたい。



 気を抜いた途端、グッと疲れと眠気が押し寄せてくる。

 体力は無限だが、俺の精神は雀の涙ほどしかない。


 体が精神に引っ張られるかのように、気が付くとフラフラと揺れ出す俺の身体。

 


 もう限界。

 早く寝床に入って横になりたい……… 



 白兎が玄室の扉を爪で引っ掻き、中で待機する従属機械種へと事前に決めていた合図を送り、不審者ではないことを知らせた後、扉を開けて中へと入る。


 

「お早いお帰りでしたな、マスター」



 皆を代表して毘燭が前に出て迎えてくれた。


 森羅は戦車内、胡狛は潜水艇内だからであろう。


 背後で廻斗、剣風、剣雷、輝煉が並んで一礼。


 まるで、自分が偉くなったと錯覚してしまうような扱い。


 また、毘燭達だけでなく、アルス達の従属機械種達も一斉に姿勢を正して、俺へと敬意を払う様子を見せてくる。


 自分達のマスターではないのに、ここまで仰々しい態度の原因の大半は、俺の横を歩く白兎の存在。



 パタパタ

『皆、お留守番、ご苦労さま』



 白兎が皆に向かって軽く耳を振るえば、立ち並んでいた従属機械種達がさらにビシッと直立不動。


 

 重量級のジャビー、デュランも、

 ジョブシリーズのセイン、シルバーソード、パラセレネ、ラナンキュラス、ストラグルも、

 元赭娼であるロベリアさえも、

 

 完全に重役を迎える平社員のような有様。

 いつの間にか白兎は、俺のメンバー達だけでなく、他の者の従属機械種からも目上の立場と認識されている模様。


 

「トライアンフと白志癒は戦車の中か………」


「そうですな、入ったきり、出てきておりませんので」



 アイツのトラブルメーカーぶりを見ると、その方が安全だな。

 白志癒が居れば、抑えつけてくれるだろうし。

 


「特に変わったことは?」


「ございませんでした。皆様もゆっくりとお休みになられていますな」


「そうか……………、じゃあ、俺も寝るわ」


「おやすみなさいませ。後のことは拙僧達にお任せを」


 フルフル

『マスター、おやすみ~』


「ああ、おやすみ…………」



 白兎達に生返事を返し、眠い眼を擦りながら、置いてあるいつもの車両へと乗り込む。



「ふああ……………」



 自然と漏れ出る欠伸を噛み殺しつつ、運転席を倒してゴロッと横になり、いつもの天井を見上げながらゆっくりと目を瞑った。



 さあ、今日も頑張った。

 その分、明日は良いことがありますように……………


 

 どこかの誰とは分からない存在へと祈りながら身体の力を抜くと、ものの数秒で眠りにつくことができた。






『こぼれ話』


従属機械種をバランス型で揃えるか、特化型で固めるかは、機械種使いの永遠の課題でもあります。


バランス型を多く揃えると安定度が増し、特化型を多くすると突破力が上がると言われています。


なので、安定した収入を確保したい機械種使いはバランス型重視。

紅姫討伐をメインに据える機械種使いは特化型を重視します。


ただし、特化型ばかりとなると、奇襲や罠でパーティが分断されるなどして、弱点を狙い撃ちされる可能性が高まります。


結局、バランス型と特化型を上手くコントロールしながら配置することが一番重要であるようです。

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