第604話 狩り4



 二度目に現れたストロングタイプの女性型2機。


 人気の高い女騎士系の姫騎士と女僧侶系の聖女。

 

 しかし、自分と相性が悪いという理由で、ベリアルが勝手に攻撃を加えて完全破壊。

 

 ベリアルの命令違反に等しい行動を叱りつけ、二度とこのようなことはしないと約束させたのだが…………



 その10秒後にまたも出現したストロングタイプの集団。


 その中に女性型2機の姿を発見したと思ったら、ベリアルは即座に約束を破棄。

 再び破壊せんと攻撃を仕掛けようとしたので、とうとう俺の怒りと拳が火を噴いた。




「酷いよ、我が君。いきなりぶん殴るなんて………」



 上半身を起こしながら、涙目で俺へと訴えてくるベリアルに、



「お前の方が百倍酷いんだよ! いきなり約束を破るな!」



 ゴチンッ!


「ふぎょっ!」



 もう一発拳を落として黙らせる。



「…………ったく」



 力技で何とかベリアルの攻撃をギリギリで阻止した俺。

 

 コイツの約束を迂闊に信じた俺が馬鹿だったというしかない。

 俺の目的を考えれば、この場ではこれ以上ベリアルに頼るのは危険であろう。 

 


 俺に殴り倒されて床に転がるベリアルを見下ろしながら、どこかにいる白兎へと命令。



「白兎! コイツを縛り上げておけ!」


 フルフル!

『りょーかい!』



 すると、白兎がすぐさま現れてベリアルを『梱仙縄』で拘束。

 ジタバタと抵抗するベリアルを嬉しそうにグルグル巻き。



「止めろ! 離せ!」


 パタパタ

『はいはい、悪い子は仕舞っちゃいましょうね』



 芋虫みたいになって床に転がるベリアルの上に乗りながら白兎はご満悦そうな様子。

 ベリアルをやり込める場面が一番生き生きとしているような気がする。



「ソイツを見張っておいてくれ」


 フリフリ

『は~い!』


「コラ! クソウサギ! 今すぐにこれを解け!」


 ピコピコ

『やだもんね~! 君の今日の出番はもう終わり。だからここで大人しくしてなよ』


「なんだと! そんなわけあるか! 僕はまだまだ我が君の役に立つんだ!」


「やかましい! これ以上壊されてたまるか! 白兎の言う通り、ここで大人しくしておけ!」



 騒ぐベリアルを一喝。

 もうコイツに構ってなどいられない。



 色々事情はあるかもしれないが、ここまで清々しく約束を反故にされたら、とてもこの場での戦力には数えられない。


 やはりベリアルは『嘘と虚飾の化身』。

 さっきの話も本心からそうだったのか、疑わしいことこの上ない。


 ベリアルはどこまで行っても魔王なのだ。

 ここは白兎の監視の元、拘束しておくしかないだろう。


 俺は俺でやらないといけないことがあるのだから!



「絶対に女性型を確保するぞ!」


 フルフルッ!

『マスター、頑張って~!』


「ああっ! 我が君! そんな奴等なんかより………」



 まだ言い縋ろうとするベリアルを無視して、現れたストロングタイプの集団に向かってダッシュ。


 そして、走りながら七宝袋から取り出すのは、捕獲用宝貝『九竜神火罩』。


 

「狙いは巫女系………」



 まずは最も価値の高い巫女系を確実に捕獲する。

 それには『九竜神火罩』を使うのが一番。



「いっけえええぇぇ!!!」



 駆けながらのサイドスローでの投擲。

 巫女系に向かって一直線に飛んでいく7cm程のロケットペンダント。


 それはあっという間に2m強の大きさに膨れ上がり、パカンと2つに割れて、パクッと小柄な巫女系の機体を一飲み。


 玄室内に展開された『魔女の森』の効果に驚き戸惑っている隙をついてのこと。

 ストロングタイプ8機の中で巫女系が一番端にいたのが幸いだった。

 


「よっしゃああ!! ゲットだぜ!」



 巫女系を飲み込んだ『九竜神火罩』を引き戻し、そのまま白兎の方へ投げ渡す。


 これで確保は完了。

 白兎とベリアル(グルグル巻きだが……)から取り返せる存在などいない。

 さらに『九竜神火罩』から巫女系を救い出すのは不可能。



「これで俺の手に巫女さんが…………」



 皆の憧れ、麗しの巫女を手に入れたことに思わず顔が緩み、笑みが零れる。


 

「すぐ従属して……………、んん?」



 不意に頭を過った、手に入れた巫女系の使い道。



 基本4種の攻性マテリアル術に幻光制御や重力制御、空間制御も扱う多彩な能力。

 おまけに召喚特性を備えた亜空間倉庫を持ち、そこそこの機動力と回避力、さらに機械種カグラ・ミコとなれば、それなりに前衛で戦える格闘能力を秘める。

 

 まさにバランス型、万能機種。

 だが、それだけに器用貧乏になりがちで、中途半端な仕様だとも言える。


 中堅の狩人ならこの1機で十分であろう。

 従属機械種の中ではあらゆる場面で活躍してくれるエース級となるに違いない。


 しかし、超高位機種を含む俺のメンバー達の中ではどうだろうか?


 当然ながら、近接能力ではストロングタイプ騎士系、剣風、剣雷には敵わない。

 多少肉薄できるかもしれないが、それだけだ。


 攻性マテリアル術では、ピュアダブルである秘彗はもちろんのこと、毘燭にさえ出力では劣る。

 

 また、胡狛のように罠や整備知識に特化している訳でもない。

 メイド3機のように家事ができるわけでもなく、そもそも戦闘でも辰沙達の方が遥かに強い。


 唯一、稼働中の機械種を収納できるという『空間特性』は有用だが、機械種カグラ・ミコ自体の機体の貧弱さがネックとなる。

 もし、俺の仲間を収納中に、機械種カグラ・ミコが破壊されてしまったら、その仲間も別の次元へと消えてしまうのだ。

 

 いくらストロングタイプだと言っても、ガチガチの前衛型程頑丈な訳でもない。

 俺が相手にしてきた色付き達との戦闘中の、たった一発の流れ弾で大破するレベル。


 危なっかしくてとても仲間を預けられないであろう。

 

 となると、一体どの仕事をさせるのか?

 どのようなポジションに置くのかを悩んでしまう。


 

  

 う~ん………………

 とにかく捕まえてはみたものの、実の所、使い道は少ないのかもしれない。


 俺にとっては可愛い女性型というのはそれだけで価値はあるのだが、それでも、ただの置物だと可哀想。


 従属機械種はすべからくマスターの役に立ちたいと願っているのだ。

 自身の能力不足で戦闘にも出してもらえず、役目も与えられないとなれば、苦しむのはその従属機械種。

 不幸になるのが分かっていて、仲間にするのも気が引けてしまう………


 

 ひょっとして、晶石合成の材料として使った方が有用かもしれないな。


 上手く行けば『召喚特性』を引き継げるかもしれないし、バランス型故に満遍なく能力をアップさせることができそうだ。

 秘彗や胡狛、辰沙や虎芽、玖雀の誰に合成しても、役に立つのは間違いない。

 

 

 まあ、その辺は後で考えるとして……………



 思考を加速させながら、捕まえた巫女系の使い道について悩んでいた俺の元へ、

 



 ダッ!

 ダッ!




 残りのストロングタイプ7機の内、侍系の機械種サムライマスターと、女侍系の機械種サムライナデシコが刀片手に鋭く切り込んできた。

 

 共に反応速度に優れる機種だからこその素早い判断。



 機械種サムライマスターが右から逆袈裟。

 機械種サムライナデシコは左から刺突。


 疾風のごとき神速の踏み込み。

 稲妻のごとき鋭い剣裁き。


 正しく疾風迅雷。

 それも2機が寸分狂いなく連携しての動作。

 常人では反応もできずに切り裂かれ、貫かれて終わるであろう攻撃。


 ストロングタイプの近接系は、その名の通り強者(ストロング)なのだ。

 人間で言えば、何十年も訓練した達人が辿り着く境地。



 だが、瀝泉槍を構えた俺はそれ以上。

 訓練した程度では決して届かぬ英雄の域。



 また、この場はレッドオーダー達の攻性マテリアル術が制限される俺達の陣地。

 故に、侍系の最も恐るべき必殺剣、空間斬が使用できないのだ。

 ならば、俺が負ける道理など全くない!



 

 シャンッ!!!




 まずは一突き。

 機械種サムライマスターの持つ刀よりもリーチに勝る槍での刺突。

 振りかぶった刀が振り降ろされる前に、右手での片手突きで首を刺し貫いてそのまま横薙ぎ。

 侍系の頭部が兜ごと宙に舞う。

 

 

 そして、こちらへと刀で突いてくる機械種サムライナデシコの攻撃は身体を捻って回避。

 皮一枚の距離で剣先を避け、そのままの勢いで俺と一瞬の交差するタイミングを見計らって………



 スィンッ!!


 

 左手の『幽玄爪』ですれ違いざまに斬首を敢行。

 初撃であれば誰であろうと見破れるはずもない暗器での一閃。



 しかし、




「え………、躱された!?」



 手ごたえ無く空を切る不可視の刃。


 俺の『幽玄爪』での攻撃が躱されてしまった。

 

 首を刎ねられて沈む侍系を尻目に、機械種サムライナデシコはギリギリで『幽玄爪』の攻撃を回避した模様。

 バッと機体を翻し、俺と距離を取る形で見えるはずの無い刃の一撃から逃れたのだ。



「マジか?」



 これまで躱されたことなどない攻撃をストロングタイプ程度に回避され、些かショックを受ける俺。



 確かに全力ではなかった。


 何せこれから仲間にするかもしれない女性型の機体だ。

 出来るだけ壊さないよう慎重な攻撃を心がけた為、本気の一撃とは程遠いモノであったのは間違いない


 けれども、なぜ見えない刃を感知できたのか?


 俺の振るった拳を大げさに避けただけなのかもしれない。

 しかし、それでも、機械種サムライナデシコの回避はまるで見えない刃が見えていたような動きだった。


 白兎でさえ見えない不可視の刃をどのような手段で見抜くことができたのか?

 



「一体どうやって?」




 思わず口から飛び出る疑問へと、答えるように俺の視界に入る、パラパラと舞い散る何本かの髪の毛……………




 あ………………

 なるほど。


 『幽玄爪』の刃が、先に機械種ヤマトナデシコの長い髪の毛に当たったのか。



 すぐさま俺の疑問が氷解。

 不可視の刃とて、物体として存在するのだから、当たれば感知されるのは当然。

 


 機械種サムライナデシコの鋭い踏み込みによる刀の一突き。

 そして、俺に回避されたことでの急制動。


 その行動によって機械種サムライナデシコの腰まである長い髪が振り乱され、偶然、俺が振るおうとした『幽玄爪』の刃に触れたのだ。


 自身の髪がいきなりスパっと切れたら、流石にナニカあると分かる。

 おまけに機械種なのだから、振り乱した髪が触覚の1つになりうる。

 そうした感知により透明なナニカが迫っていると判断、即座に回避を試みたのであろう。


 特に回避力に優れた機械種サムライナデシコだからこそ、俺の一撃を回避できたと言える。


 

 う~む………

 『幽玄爪』の意外な盲点と言うべきか。


 不可視の刃による奇襲も絶対ではないということであろう。

 今ここで知れたのだから、却って幸運であったのかもしれない。



 また、俺が慎重過ぎたのも原因。


 女性型に余計な傷をつけないよう、精度を求めて剣速を緩めた為、回避できる余地を与えてしまったのだ。

 俺がある程度割り切って、全力で『幽玄爪』を振るっていれば、避けられることなどなかったに違いない。

 

 


「…………………イカンね。女性には散々甘いって言われているのに」




 右手の瀝泉槍の柄で自分の頭をコツンと小突くと、『戦場に立てば男も女も関係あるまい。互いに刃を向き合ったのなら全力で相手せよ』と厳しいお言葉が頭の中に響いてくる。



 全く以ってその通りだからぐうの音も出ねえ………


 瀝泉槍からのお叱りの言葉に、心の中で頭を下げる。




「………だから、もう手加減無しで行くぞ」




 瀝泉槍を左手に持ち替え、ビッと下段に構えた。


 そして、視線を8m先まで離れた機械種サムライナデシコへと向ける。

 


 薄灰色の長髪。

 細面で端正だが、感情の色が全く見えず、死者のような生気のない顔立。

 墨汁をぶちまけたような黒を基調に灰色の花模様が散る着物。

 喪服にも見えるデザインだが、女侍系を包む禍々しい雰囲気からまるで地獄から這い出てきた亡者のようにも見える。


 怪談にでも出て来そうなおどろおどろしい姿。

 それでいて、目の光だけは猛々しく赤く輝く。

 どんな逆境にも負けないという強い意思と、人間を殺すという純粋な殺意だけが感じ取れる。


 レッドオーダーでありながら、危うげな美を宿した女剣士。


 刀を正眼に構えて俺を迎え撃とうとする姿は、その機種名通りサムライであり、ナデシコなのだ。

 

 俺の敵として不足など在るはずがない。

 初心に帰り、挑戦者の意気込みで挑ませてもらう。

 



『縮地』



 一歩足を踏み出して縮地を発動。

 

 機械種の知覚でも捉えられない瞬間移動で、敵の目前へと降り立ち、


 グッと沈み込んだような低い体勢から、右手での神速のクイックドロウを披露。


 太ももに装着したレッグホルスターから『高潔なる獣』を引き抜き、まだ反応し切れていない機械種サムライナデシコへ向かって銃弾を撃ち放つ。




『猿握弾』



 ドンッ!

 ドンッ!



 マズルフラッシュが2度閃き、3メートル先の敵機体の右手と腰にそれぞれ命中。


 空間を固定する『空間凝固剤』が振り撒かれ、ほんの数秒、機体の動きを拘束。


 

 機械種サムライナデシコの動きを止めたことを確認すると、すぐさま銃を仕舞いこみ、右手で導引を結びながら口訣を唱える。




「機械種サムライナデシコよ! 動くことを禁じる、禁!」



 ビクッ!




 俺が行使した『禁術』によって、完全に行動を封じられた機械種サムライナデシコ。


 本来なら『猿握弾』だけでも十分であったかもしれないが、これも念には念を入れてのこと。


 なお、先に『禁術』を使おうとすると、俺が口訣を唱えている間に5回は切られるだろう。

 どんなに早口で唱えても、2秒はかかるのだから当たり前。




「この隙に……………」

 



 七宝袋から取り出すのは、蒼石2級。

 ストロングタイプの適正級である準2級が無いのでこれで代用。




 ここで首を刎ねるのは簡単。

 だが、『幽玄爪』の弱点に気づかせてくれた、ある意味恩ある相手。

 それに、全力では無いとはいえ、闘神であり、英雄の武を備える俺の一撃を躱した逸材。


 元々、ストロングタイプチームの前衛は剣風、剣雷の2機だけなのだ。

 ちょうどもう1機増やしたいと思っていた所。


 剣風、剣雷が重装備タンク型なのだから、次は回避盾を揃えるべきだろう。

 また、秘彗や胡狛の護衛としても、女性型だから都合が良い。




 カシャーンッ!!!




 青い光が瞬き、レッドオーダーを浄化する波動が撒き散らされる。


 適正級以上の蒼石によって、機械種サムライナデシコは即座にブルーオーダー。


 薄灰色の長髪は濃紺色に。

 黒と灰が入り混じった着物は、涼し気な薄青色をベースとしたものへと変化。

 また、着物の模様として、流水をイメージした流れるような白のラインが入る。


 端正な顔立ちはそのままに、生気溢れる凛とした上品な美貌へ早変わり。

 歳は辰沙よりほんの少し下程度。17、8歳ぐらいであろうか。

 お淑やかそうな雰囲気の中に、一本芯が通っているような強さを感じる。


 

「……………うむっ! これぞヤマトナデシコ…………、いや、サムライナデシコだったな」



 秘彗は魔法少女。

 胡狛は技術系少女

 辰沙は中華風美女。

 虎芽は現代風少女。

 玖雀は和風少女。 


 だとすれば、この機械種サムライナデシコは和風美女であろう。


 これまで俺のチームにはいなかったタイプの女性型を手に入れることができたのだ。

 







「とりあえず収納しておこう」



 瞳に灯る青い光をチカチカと点滅させている機械種サムライナデシコを七宝袋へと収納。



 今は戦闘中だ。

 従属契約を結ぶのは戦闘後にすべきだろう。


 

「さて、残りのストロングタイプは…………」



 8機出てきたうち、先に捕まえた機械種カグラ・ミコ、そして、機械種サムライマスターと機械種サムライナデシコを除けば、戦闘型はあと1機ぐらいしかいなかった。


 あとの4機は戦闘力を持たない内政系や補助職系であったはず…………


 罠として出現した集団の半分が戦闘型じゃないなんて、なかなかに笑える話。


 確か、官僚系、会計士系、運び屋系、教師系の4機だったはず………

 



 官僚系のストロングタイプ、機械種チュウオウカンリョウ。

 ノービスタイプは機械種チホウコウムイン、ベテランタイプは機械種コッカコウムイン。


 俺的には最強はチホウコウムインだと思うのだが…………


 組織管理や運営に長けた事務屋として、役所や会社等で使われている機種。

 時には都市運営を任されたりしているケースもあり、権力者が求めることも多い。




 会計士系のストロングタイプ、機械種アリスメティシャン。

 ノービスタイプは機械種アカウンタント、ベテランタイプは機械種タックスアカウンタント。


 文字通り、財務管理や会計を任すことのできる経理担当機種。

 チームの規模によっては歳入・歳出や財務表を提出しないといけないこともあるので、ある程度の大きさになったチームや、クラン等が抱えていたりする。


 


 運び屋系のストロングタイプ、機械種トランスポーター。

 ノービスタイプは機械種キャリアー、ベテランタイプは機械種ポーター。


 機種名通りの運び屋そのまま。

 商人系程ではないが、それなりに広い亜空間倉庫を持ち、戦闘能力は皆無であるものの、耐久性や回避力がかなり高い。

 自機のみではあるが、重力障壁や空間障壁による防御行動も可能で、ある程度戦闘に巻き込まれても生還できる仕様となっている。

 何よりレッドオーダーから狙われにくいという特性を持っており、一流以上の狩人から引っ張りだこの機種でもある。



 

 教師系のストロングタイプ、機械種ティーチャー。

 ノービスタイプは機械種レクチャラー、ベテランタイプは機械種インストラクター。


 子供や学生にモノを教えることに特化した指導役機種。

 上流階級の家庭教師として使われているケースも多い。

 また、護衛を兼ねることもあるから、僅かながら戦闘力も保有する。

 だが、あくまで内政系の枠を超えない程度であるが………

 

 しかし、教師系には亜種が複数あり、機種によっては戦闘型ストロングタイプにも匹敵するほどの戦闘力を持つこともあるらしい。


 例えば、機械種グレイトティーチャー・オーガヒル。

 不良染みた外観で教導能力自体は高くは無いが、トラブル対処能力が高く、どんな難題にも体当たりで取り組む熱血漢。


 例えば、機械種ゴールデンエイト・ティーチャー。

 似合わない長髪の冴えないデザインだが、生徒への熱い指導が有名。

 問題を抱えた生徒を更生させることが得意だという

 生徒に危険が迫ると、ハンガーのような形をした武器を召喚して戦うという噂が………


  

 

 まあ、それはともかく。




 内政系はどれもすぐさま必要なモノではない。

 事務作業は森羅と秘彗でやってもらっているから、官僚系も会計系も今のところは必要無い。

 もっとチームが大きくなるか、クランでも立ち上げたら別だろうから、一応保管しておくつもりだが。



 運び屋系はダブルである秘彗並みの亜空間倉庫を持つであろうが、俺には七宝袋があるから不要。

 だが、晶石合成の材料としては面白いかもしれない。

 広大な亜空間倉庫に生還能力と踏破力はなかなかだ。

 また、レッドオーダーから狙われにくいという特性も有用。

 そのうち仲間にするかもしれない内政系や補助職用に晶石だけは取り置いておくことにしよう。


 

 教師系も不要。

 孤児院に寄付しようかとも考えたが、内政系であっても最低10億円以上するストロングタイプだ。

 トラブルの種にしかならないであろう。

 これはさっさと売り払ってマテリアルに換えてしまうとするか。




 …………そうと決まれば、さっさと捕獲作業に入るとしよう。



 思考加速を打ち切り、ストロングタイプ集団の残りへと向き直る。



 20m程先には未だまごついている内政型4機。

 いずれも何もできずに立ち尽くすだけ。

 こうなれば、ストロングタイプと言えど、狩られる獲物でしかない様子………



 あれ? 1機足りない。


 内政型以外にもあと1機、戦闘型が残っていたはず。


 パッと見、騎士系みたいな恰好であったが………、どこいったかな?




 パタパタッ!

『マスター! 上!』


「んん?」



 飛んで来た白兎の警告に顔を上げると、



「あれは…………、竜騎士?」



 天井付近まで上昇している1機の騎士が視界に入る。


 西洋甲冑に身を包み、手には大型の槍を構えたストロングタイプ。

 足に装着したブースターから炎を噴き出し、宙に滞空する姿は正しく竜騎士系、機械種ドラグーンナイト。


 騎士系の亜種であり、ベテランタイプの機械種ナイトから分岐する一形態。


 特徴的なのは竜を模した兜と足に装着されたロケットブースター。

 

 竜騎士だけあって、竜に乗って戦うことが得意だが、単独であっても飛行可能。

 

 ブースターを使った『ジャンプ』で急上昇。

 そこから再度地上へ向かってロケットブースターで急加速。

 獲物へと急降下突撃を行う対地攻撃能力に優れた飛行型。

 もちろん、空中戦においても強い貴重な空戦機種。

 空を縦横無尽に飛び回り、飛竜さながらの活躍を見せる天空の騎士。

 



「またまたレア機種か! これはツイているな!」



 天井を見上げながら、新たな獲物に歓喜する俺。



 しかし、竜騎士はそんな俺の様子など歯牙にもかけず、ただ地上の敵を睨みつけながら槍を向けてくる。


 どうやら侍系達とやり合っている間に、竜騎士は色々と準備を整えた様子。


 大型の槍を腰に構え、足のブースターにエネルギーを注ぎ込んで点火。




 ブフォオオオオオオオオオオオオオ!!!!



 

 猛烈なアフターバーナーが轟き、40m以上高さから急降下攻撃を敢行。


 狙いはもちろんこの場では唯一の人間である俺。


 天空から振り下ろされる超加速からのランスチャージだ。

 

 普通の人間であれば反応すらできずに刺し貫かれるのみ。




 だが、この俺は普通という言葉からは最も程遠い人間なんだよ!




 迫りくる機械種ドラグーンナイトの突撃に、再びレッグホルスターから『高潔なる獣』を抜き放つ。


 狙いを付ける必要はない。

 馬鹿みたいに一直線に向かってくるのだから、ただ銃口を上に向けて引き金を引くだけ。


 使う弾丸は猛烈な突風を放つ『猛猪弾』。

 瞬間風速ならこれに勝る手段は無い!




 ボフォオオオオオオオオオオオオ!!!!




 何物をも吹き飛ばす衝撃波が急降下してきた竜騎士に直撃。


 下へと向かう運動エネルギーと、上へと弾き飛ばそうとする衝撃に挟まれ、急降下するスピードは急減速。

 

 まるで一瞬、重力が無くなったかのように空中で静止する竜騎士の機体。

 地上10m程の高さで無防備な姿を晒す。



「取ったああああ!!!」



 もちろんそんな隙を逃す俺ではなない。


 直ちに床を思い切り蹴って跳躍。


 さらに途中で二段ジャンプを行い、勢いをつけながら、宙を漂う竜騎士の首目がけて槍を一閃。




 ザンッ!!!




 空中で交差する俺と竜騎士。


 瀝泉槍の穂先で作り出した斬影は、竜騎士の首をサックリと通り過ぎる。


 少し遅れて、機械種ドラグーンナイトの頭部と胴体が空中で二つに分離。


 


 トンッ!       ドシンッ! ドンッ!




 俺が地上へと降りったった数秒後に、それら2つは仲良く床の上へと落下した。






『こぼれ話』

赭娼や橙伯、紅姫や臙公等の色付きは、同ランクの機種よりも高い能力持ちますが、非常に扱いにくいという性質を持ち合わせています。


ですので、これ等の機種を従属させようという機械種使いは、事前に藍染屋で晶脳の調整を行い、扱い易くしてから従属契約を結ぶことにしている場合が多いようです。


ただし、機械種使いの中には、これ等の調整を邪道と捉え、あえて扱いにくいまま従属させているケースもあります。

その方が元色付きとの絆が深まり、より機械種としての実力を引き出せるという噂があるからです。

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