第602話 狩り2



 俺は一番槍とばかりに駆け出した。

 右手に瀝泉槍を握り締めて。

 

 向かうはアラームボックスによって呼び出されたレッドオーダー10機。

 

 いずれも中量級の人型。

 今回の目的であるストロングタイプが8機。

 残念ながら全て男性型だが………

 

 そして、魔人型の機械種ベルセルクが1機、吸血鬼型の機械種クドラクが1機。


 彼等は秘彗による『魔女の森』の効果で、攻性マテリアル機器の発動が制限されているのだが、それでも決して油断はできない高位機種揃い。

 


 故に未だ狼狽して立ち尽くしている今がチャンス!

 体勢を整えられ迎撃準備を取られる前に潰す!



 しかし、敵もいつまでも呆けているわけではない。

 俺が駆け寄って来るのを見て、ストロングタイプの幾機かが反応。


 そのほとんどは前衛系。

 人間を遥かに勝る反射速度で、俺の突撃を迎え撃とうと各々の武器を構える。


 向こうからすれば、真っ先に飛び出し突っ込んでくる俺は、正に飛んで火にいる夏の虫。


 レッドオーダー達にとっては、ここは自分達より遥かに高位な機種が揃った地獄なのだ。

 そこへ唯一の人間であり、これらのマスターと思われる俺が自分から飛び込んでくる。

  

 これは千載一遇の大チャンス。

 彼等がこの地獄から逃れる道は、マスターである俺を倒す以外に無い。

 


 おそらくはそんなことを考えているのであろうが…………

 




 ザンッ!

 

 ザシュッ!




 いきなり敵前衛系2機、軽装の魔法戦士と大剣を構えた騎士の首が飛んだ。



 一瞬の隙を突き、空間転移で敵の背後に回ったヨシツネと浮楽が一閃。


 ヨシツネが魔法戦士系、機械種ウォーロックを、

 浮楽が破騎士系、機械種バスターナイトをそれぞれ首狩り。

 空間転移の発動さえも相手に気づかせないサイレントキリング。


 共に、高度な空間制御スキルを持ち、さらに隠身スキルも高い。

 ただの空間転移ではここまで鮮やかに斬首まで持ってこれないであろう。

 空間転移を活用した一撃離脱戦法に秀でたヨシツネ、浮楽だからこそできる戦術。




 ヨシツネ達が切り込んだことにより、敵陣営が慌てふためく。

 瞬く間に2機が葬られたことで、敵の戦意に揺らぎが生じた。



「だりゃあああああああ!!!」



 そこへ瀝泉槍を構えた俺が突撃。



 シャンッ!!!



 振るった瀝泉槍の一閃が魔人型、機械種ベルセルクを袈裟切りに。


 手に持った巨大な大剣ごと機体を斜めに両断。


 攻撃力特化の魔人型は何もできずに俺の手で破壊される。




「もう一丁!」



 ザンッ!


 

 返す刀で隣の大柄な戦士、機械種バーサーカーを切りつける。


 闘士系ストロングタイプは戦斧の柄で受けようと試みるも、俺が振るう瀝泉槍の刃によってあっさりと切断。

 ただ、そのまま一撃で撃破とはいかず、瀝泉槍の穂先は闘士系の肩部装甲を切り裂くに留まる。


 しかし、すぐさま3度目の攻撃へと移る俺。

 半身の体勢を取りながらクルンと槍を半回転させ、今度は掬い上げるような下からの喉突き。 

 

 回避力に難のある機械種バーサーカーはこれを躱せず、正面から喉を突かれてジ・エンド。

 胴体部の動力と晶石を収納する晶冠とを繋ぐケーブルを断たれて機能を停止。



「よっしゃあ!」



 瞬時に2機を葬り、喝采を上げる俺。


 最初の攻防で敵陣営の4機を仕留めた。


 これで残る敵はあと6機。

 うち、1機は戦闘型には見えないから、実質的の戦力は半減したことになる。

 これでもう組織的な抵抗はできまい。



「えっと、他の奴等は…………」




 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ!

 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ!

 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ!



 

 残敵の方へ視線を向ければ、宣言通り機械種クドラク相手にヨシツネが連続攻撃の真っ最中。


 目にも止まらぬ早業で何度も切り付け、機械種クドラクの機体を削るヨシツネ。

 その度に辺りに舞い散るドロッとした粘土状の破片。


 機械種クドラクの機体は粘質の高い流体状の物質で構成されている模様。

 切っても切っても泥を切りつけるがごとくあっという間に塞がってしまう。


 おそらく機械種クドラクは非常に高い斬撃耐性を持つ機種である様子。

 だが、ヨシツネは『そんなこと関係ねえ!』とばかりに切りつけまくる。


 機械種クドラクもなりふり構わず逃れようとしているようだが、圧倒的なスピードでヨシツネに即回り込まれ、完全にサンドバッグ状態。


 みるみるうちに体積を減らしていく機械種クドラク。 

 あの勢いならあと30秒も経たずに削り殺せるであろう。


 今のヨシツネにとっては相性が悪いのかもしれないが、所詮遥か格下の相手でしかない。

 晶石を壊さないように機体を表面から削っているので、時間がかかっているだけ。

 本来なら数秒で仕留めていてもおかしくはないのだ。




 浮楽の方は、工作員系ストロングタイプ、機械種シャドウスネークと、格闘家系ストロングタイプ機械種チャンピオン相手に戦闘中。

 

 たとえ2機がかりでも、実力からすれば浮楽の方が上なのだが、これまた俺の命令によりできるだけ機体を傷つけないよう戦っている為、やや優勢といった戦況で戦いは推移。


 しかし、浮楽は2機と接近戦を交わしながら、隙を見て袖の中から鉄輪や鉄鎖を投擲。

 まるで磁石が金属に吸い付くように敵の機体にガッチリと食いつき、それが重しとなって、徐々に敵の機動力を低下させていく。


 物理的なデバフを与えながらの浮楽らしい戦闘だ。

 時間が経てば経つほど浮楽が有利になるのだから、浮楽がストロングタイプ2機を仕留めるのも時間の問題だろう。

 



 ダンッ!!

 ダンッ!!



 

 玄室内に銃声が響く。


 敵の射手系ストロングタイプ、機械種シューティングスターが、天琉と秘彗に向かって砲撃を加えた模様。


 どうやらこの場のマテリアル機器を制限する結界が、秘彗によって展開されているモノと見抜いたのであろう。


 おそらくは錬成制御で生み出したのではなく、元々装填されていた銃弾を発射した模様。


 圧倒的に不利な状況を何とか覆す為の起死回生の一手だったかもしれないが、完全に無駄撃ち。



 護衛である天琉が光の盾で危なげなく防御したのだ。

 機械種シューティングスターが放った弾丸は空しく光の盾の表面で弾けて消えた。


 そもそもストロングタイプ程度の銃弾では、光の盾はおろか、天琉がその身に纏うAMFすら貫けない。

 機械種シューティングスターは最も相性の悪い相手に攻撃してしまったとしか言えない状況。


 

「あい! お返し!」



 銃弾を受けた天琉は即反撃。


 人差し指をピンと立てた右手を掲げ、頭上に光り輝く棒状の物体を2本生成。


 そして、天琉が指をクイッと曲げたかと思うと、その物体は2条の閃光となって玄室内を走り抜ける。


 それは正しく双流星。

 光子制御によって生み出される『光の槍』。

 あらゆるモノを貫き通す、天琉のメインウェポン。


 天琉から放たれた光の槍2本は、攻撃を加えてきた射手系と、その横でオロオロするだけの風水師系ストロングタイプ、機械種レイラインルーラーの心臓部を正確に貫く。

 

 遠近のどちらも得意距離であるオールマイティーな中位天使の天琉。

 たとえ射撃戦であっても、それ専門のストロングタイプに勝るのだ。




「残りはあと1機………」




 仲間が自分を除き壊滅する中、じっと杖を両手で持ち、何とか攻性マテリアル機器を発動させようとしている呪術師系ストロングタイプの機械種ジュジュツマスター。


 だが、どれだけ気張ろうが、同じ魔術師系の純ダブルとなった秘彗の出力は、通常の魔術師系ストロングタイプの2倍。

 到底、秘彗が構築する『魔女の森』に抵抗などできるはずもない。

 



「さっさと首を落として…………」




 俺が残る呪術師系へと足を向けようとした時、




 フルフルッ!

『次、来るよ!』



 どこかにいる白兎から警告が飛ぶ。


 俺の視界内にはいないが、確かに白兎が耳を振るって伝えてきたことが分かる。




「どこだ?」




 瀝泉槍を構え、玄室内を見渡すと、




「あれか!」




 玄室内の中央付近に巨大な空間の揺らぎが発生。


 そして、出現する全長20mに達しようかという巨体の人影。


 それは間違いなく2本の腕に2本の足を持つ人間の形をした………巨人。


 しかも紛うこと無き超重量級。

 

 さらにその姿は、ギリシャ神話の神を思い起こすほどの威厳に満ち溢れたモノ。


 黒いトーガを纏ったような外観。

 神殿に祭られている神像のごとき荘厳さの体現。

 これより上の階で遭遇した機械種フロストジャイアントや機械種ファイアージャイアントの野蛮な風体とは比べ物にならない洗練されたデザイン。

 


 

「機械種ストームジャイアント!」




 俺の口からその機種名が自然と飛び出す。


 未来視の中の魔弾の射手時代に、中央で一度だけ遭遇したことのある巨人型。

 当時の苦い記憶が蘇り、ただ叫ばずにはいられなかった。



 ジャイアントタイプ、上位、機械種ストームジャイアント。

 

 その機種名通り、嵐を巻き起こし、雷を降らす砲撃型機種。

 何の準備も無く野外で出会えば、一流の猟兵団とて逃げ出すしかない程の強敵。




 バチバチバチバチバチバチッ!!



 

 嵐の巨人の名のごとく、機体に雷を纏ってこの場に顕現。

 床から5m程浮き上がりながら、邪悪に染まった赤い目で俺達を冷徹に見下ろす。


 本来であれば、出現と同時に嵐が巻き起こり、雷が踊り狂う地獄となっていたであろう。


 元々野外で遭遇する機械種ストームジャイアントは、地上の攻撃が届かぬ遥か天空から烈風や雷を放つ災害の化身なのだ。


 巨人型に対抗できる飛行可能な高位機種がいなければ、要塞級戦車や陸上戦艦に搭載されている超長距離砲で狙撃するしか手が無い相手。


 当時の魔弾の射手では蒼破弾を砲弾として撃ちまくり、大赤字を垂れ流しながら逃げざるを得なかった。


 巨人型特有の高出力・重装甲に加え、長距離・広範囲攻撃を得意とする戦略兵器。


 しかし、秘彗の展開する『魔女の森』の効果によって、機体表面に電気を発生させるのが精一杯である様子。



 だが、その機体の大きさは脅威。

 攻性マテリアル機器は制限していても、全高20mの偉躯から繰り出される攻撃は、たった1発で高位機種を大破させるに十分な破壊力を秘める。


 機械種はデカいほど強いのだ。

 その巨大さは機械種のランクをも覆すこともありうる。

 今のこの面子であっても、油断すれば万が一がある相手………

 

 


 ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!




 呆然と新たな敵を見上げる俺の耳に、重く響く雄叫びが届く。


 それはいつも物静かな豪魔の吼え声。



 現れた嵐の巨人に対し、今まで後方に控えていた豪魔が殴り掛かった。


 

 ドシンッ!!!



 床から浮かぶ巨人型へ飛びかかりながら体重を乗せた強烈な右フック。

 猛スピードを出していたダンプが正面衝突をしたかのような爆音が轟く。


 嵐の巨人が張り巡らせていたであろう、力場障壁や重力障壁をぶち抜き、巨大な機体へと痛撃を与えた。

 さらに、打撃と同時に身を切るかのような超低温の冷気が迸り、辺り一帯の温度が急速に低下。



 ぶん殴られた機械種ストームジャイアントはその威力によろめき、マテリアル冷却器によって発生した凍気で機体の半分近くが一瞬にして凍り付く。



 物理的な破壊力とマイナス200度以下の極冷気の2重奏。

 豪魔の剛拳に超冷気を加えた多重攻撃。

 

 堪らず床へと膝をつく機械種ストームジャイアント。

 たった一発の先制攻撃が超大型巨人の出鼻を完全に挫く。



 全高20mの機械種ストームジャイアントに対し、機械種アークデーモンである豪魔の機体は全高15m少々。

 

 大人と子供程の差ではあるが、豪魔の方が明らかに格上。

 機体の大きさは負けていても、秘めるパワーは数倍にも達する。


 

 ボカンッ!!!



 さらに豪魔の振り下ろし気味の左フック。

 それは位置的な状況から機械種ストームジャイアントの腹部に命中。


 叩きつけるような豪魔の一撃は、少々の攻撃ではビクともしないはずの巨人の装甲を軽々と砕き、機体の中心でもある腰部を中破させる。


  

 これで完全に勝負は決まり。

 曲りなりにも人型である以上、腰部を破壊された機械種は機動力を失う。

 攻性マテリアルを制限され、さらに機動力を失ってしまえばまな板の鯉でしかない。



 ガアアアアアアアアアアア!!!



 しかし、まだ抵抗を続ける巨人。

 このままでは終わらぬとばかりに両手を振り回し暴れ回る。

 


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!



 直径2m超えの拳を何度も豪魔へと振り下ろす。

 体格差を利用してのハンマーパンチ。

 巨大な杭が地面へと打ち込まれるような轟音が鳴り響く。



 だが、全機械種の中でもトップクラスの防御力を持つ豪魔の前には無力。

 

 全く意に介さず、黙々と嵐の巨人へと攻撃を続ける豪魔。


 初撃や2度目の攻撃と違い、相手を無力化させることが目的の捕獲作業。


 動きを封じる為に関節部を破壊し、動力と繋がる駆動部位を冷気にて凍てつかせる。

 

 俺の意向を受けて、色々と手間をかけてくれている様子。

 未だ暴れる機械種ストームジャイアントを抑えつつ、機体の保全を考慮しながら動いてくれているのだ。

 相手が自分の背丈を上回る巨体であることから、完全に沈黙させるにはあと数分時間がかかりそう。




「ふう…………、アレは豪魔に任せるか」



 広い玄室内で殴り合う巨大ロボット2機。

 全長15mや20mの機械種など、有名なロボアニメに出てくるモビ○スーツに等しい。


 あの中に混ざろうなんて誰も思うまい。

 超重量級同士の肉弾戦など、人の手には余る領域。 

 



「やっぱり豪魔がいてくれて助かるな。超重量級には超重量級をぶつけるのが一番早い」


「フンッ! 僕なら一瞬だよ」


「お前の場合は一瞬で溶かしてしまうんだろ。それじゃあ意味が無いんだよ」



 いつの間にかベリアルが隣にいて、いつも通りブツクサと文句を呟く。


 全く、俺が他のメンバーを褒めると、すぐにイチャモンをつけてくるな、コイツ。


 ここまで何もしていない癖に、どうしてここまで偉そうな態度でいられるのであろうか。



「なんなら少しくらい手伝うか? かなり手加減してもらうけど」


「僕に相応しい相手じゃないね。あの程度ならアイツ等で十分さ」



 あくまで自分の出番ではないと言い切るベリアルに、何か一言言ってやろうと口を開きかけた時、




 ピコピコッ!

『またまた、敵襲! 今度は結構多い!』



 またも俺の耳に届く、白兎からの緊急連絡。



 そして、その数秒後に玄室内に現れたのは……………




 全高13mにも達する超重量級。

 長い尾を持つ二足歩行の恐竜型。

 それは最も有名な肉食恐竜。

 ダイナソアタイプ 最上位 機械種ティラノザウルスが1機。



 3つの顔と6本の腕を持つ全高8mの重量級鬼神型。

 それぞれの手に剣と槍と斧を持つ戦いの申し子。

 キシンタイプ 上位 機械種シュラが3機。



 頭に3つの角を生やした全高7mの重量級鬼神型。

 反り返った曲刀で武装した狂面の巨人。

 キシンタイプ 上位 機械種ヤシャが2機。

  


 天井ギリギリの空中に現れた黒い翼を持つ人型の中量級。

 黒いローブに身を包んだ見目麗しい中性的な青年風。

 だがその目は人間への憎悪に満ちた悍ましい赤。

 エンジェルタイプ 下位 機械種アークエンジェルが………11機!





「げっ!!」




 俺の口から思わず呻き声が漏れた。


 合わせて17機の団体さん。

 先ほどの10機に続けて、ここまで数が出てくるとは思わなかった。

 しかも超重量級や重量級が混じっており、ほとんどの連中が先ほどより格上。


 唯一、機械種ティラノザウルスだけはストロングタイプよりは格下の機種だが、それでも全高13m、全長20mにもなる超重量級。


 元ネタは恐竜の代名詞でもあるティーレックス。

 白亜紀の世で陸上生物の頂点にいた王者。

 諸説色々あり、その戦闘力が疑問視されることもあるが、その凶暴さは数々の恐竜映画でも取り上げられている。

 

 それが機械種となって俺達の前に現れたのだ。

 自分の方が強いという確信があっても、その偉容に心が打ち震えるのを感じてしまう。


 まあ、半分以上憧れやロマンを感じているだけだけど。





 また、機械種シュラは中央での『砦』や『城』で良く出没する強敵。

 一軍を率いていたり、門番を務めていたりと、所謂中ボス的な扱い。


 それが3機も同時に現れるなんて、なかなかにフザケタ状況。

 これならまだストロングタイプの戦闘型が10機出てきた方がマシかもしれない。




 同じく鬼神型である機械種ヤシャも手強い相手。

 近接戦闘能力に優れ、攻性マテリアル術も行使するオールレンジ対応型機種。

 さらに飛行や空間転移も行う隙の無い能力構成。  

 戦術にも精通し、複数で現れると息の合った連携を見せ、格上の機種すら翻弄することもあるという。

 

 知恵も回る重量級なんて、最も出会いたくない敵の類。

 たった2機だが、油断のできない相手だ。



 

 そして、一番危険なのが機械種アークエンジェル11機の大天使の群れ。

 主天使である天琉のランクアップ前の機種であるが、それでもストロングタイプを上回る高位機種。


 光の槍と光の盾を扱い、攻撃、防御とも優れた万能型。

 さらに高速飛行が得意な空戦機種。


 それが11機も揃うなんて厄介極まりない。

 空間の限られた玄室内だが、天井の高さは40mを超えており、その中を縦横無尽に飛び回られるとかなりマズイ。


 天使型は、堕天使型と同じくデバフに対する抵抗力が高い。

 秘彗の『魔女の森』の効果で、どこまで封じていられるのかが不明なのだ。

 大天使11機が玄室内を飛行しながら、光の槍をバンバン投擲してくるなど悪夢。

 


 機械種ティラノザウルスも、機械種シュラ、機械種ヤシャも厄介だが、機械種アークエンジェル11機の集団はそれ以上に脅威。

 逸早く片付けないと、部屋中に散開でもされたら、面倒臭いことこの上にない。



「クソッ! もうこれ以上天使型は要らん! ベリアル! やれ!」



 天使型ならその上位である機械種ドミニオンの天琉がいる。

 あえて従属する必要もあるまい。



「フフフフ………、僕もそれには同意かな。クソ天使はあのガキ1人で十分だね」



 俺の命令を受けて、爽やかな笑顔を向けてくるベリアル。


 楽しくて仕方がないとでも言うような機嫌の良さで俺の命令を受託。



「さて、飛び回る虫ケラは焼却しなきゃ………、僕のマスターの目に止まるだけでも不敬だよね」



 ベリアルが両手を前に出して、エアーピアノでも弾くように指を不規則に動かす。


 優美、且つ繊細な指が空で跳ね、白い蝶が踊るように繊手が舞う。

 まるで見えないピアノを用いて独演会でも開いているような幻想的な光景。

 聞こえないはずのピアノの音色が聞こえてきそうな気もしてくる。


 しかし、そんな準備動作はほんの数秒。

 ベリアルの周りに青白い烈光を放つ球体が10個以上生まれた。 

 焔の王を称えるかのように、その周囲をグルグルと回りながら。

 


「ほらよっ、消し炭になれ」



 ベリアルの言葉で一斉に飛び立つ青白い球体。

 それは何万度の熱量を秘めた超高熱エネルギー弾。


 砲口から誘導ミサイルが発射されたかのように、尾を引きながら大天使11機の集団へと襲いかかり、




 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 



 天井付近で大爆発。


 機械種アークエンジェル11機は各々光の盾で防御をしようとするも、生み出した盾ごと爆炎に巻き込まれて一網打尽。


 直撃は防ごうとも、周囲に発生した何万度の高熱までは防げない。

 完璧に制御された超高熱は、全くの無駄も無くその機体を蒸発させる。

 

 たかだか下位天使程度の力量では、どれだけ群れようとも魔王の攻撃は止められない。

 出現して僅か20秒も経たないうちに大天使全機がこの世から消え去った。






『こぼれ話』

ダンジョンや巣での超重量級との遭遇は最悪と言われています。

狭い戦場では距離が取ることができず、肉弾戦となると体格差がモロに響くからです。


しかも、ダンジョンや巣では入り口や低階層が狭いことから、超重量級の搬入が難しく、持ち込むのは重量級が限界です。


ですが、一流以上の狩人は、召喚特性を持つ魔術師系に超重量級を収納させて運用しています。

なので、召喚特性を持つ召喚術士系ストロングタイプ機械種デボアリストは大変貴重な機種となっています。

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