第601話 狩り1



「ガミンさんは無事。でも犠牲者アリ………か」



 ストロングタイプ狩りの為に、俺は白兎と秘彗を連れてアルス達が寝泊りする玄室を出立。

 新たな玄室を発見し、すぐさま中の敵を殲滅して、今まで七宝袋の中で待機させていたヨシツネ、天琉、豪魔、浮楽、ベリアルを呼び出した。


 そして、情報共有を行っていた際、ベリアルからすぐ下の階に色付きが2機いるという情報がもたらされる。



 予想もしないバッドニュース。

 たった1階層に人類の大敵たる色付きが2機も滞在しているのだ。

 すぐ近くにラスボスが2体いますと告げられたようなモノ。

 しかもその場所にはガミンさん達先行隊がいるはずなのに。



 慌てて打神鞭にて、ガミンさん達の状況と居場所を占った所、出てきた結果が『ガミンさんは無事。でも先行隊に犠牲者アリ』。



 珍しくシンプルに情報を提示してきた打神鞭の素直さに驚きつつ、得られた情報を噛み砕きながら吟味していく。



「そりゃあ、ここまで活性化が進んだダンジョンを探索しているのだから、犠牲者が出ていてもおかしくないだろうな………」



 先行隊はタウール商会を除く、各秤屋の精鋭が集められているはず。

 その中には鉄杭団の団長や、蓮花会のマダム・ロータスも参加しているという。


 中央の一流狩人チームにも勝る戦力であろう。

 だが、それでも犠牲者が出てしまう程、活性化中のダンジョンは危険なのだ。



「でも、ガミンさんが無事ならいいか…………」



 思わず口に出てしまう素直な感想。

 自分でも少々薄情かなと思ってしまうが、これが俺の本音。


 犠牲者が出ているのは悲しい事だが、先行隊の中で顔見知りと言えるのはガミンさんぐらい。

 正直、顔を見たことも無い他の秤屋の狩人が任務中に亡くなったとしても、『ご愁傷さまです』以外の感情など起こりようがない。

 もうすでに仲間に近い感情を抱いてしまっているアルス達なら話は別だが。


 元々狩人は稼ぎが多い分、常に命の危険が伴う職業なのだ。

 そして、彼等も自分でそんな危険な道を選んだ。

 俺が哀れに思うことも、心を痛めることも無用であろう。

  


「それよりも、ガミンさんの居場所の方だけど………、意外に近いな…………」



 打神鞭からのもう一つの追加情報。

 メールに添付されたガミンさん達先行隊のいるであろう場所の地図。


 それは地下34階から35階へと下る階段から至近と言っても良い辺り。


 これならば、現在俺達が宿泊している玄室から2~3時間程で到着できるだろう。

 ガミンさんの居場所を占った結果としては最良の答えが返ってきたといえる。


 さらにご丁寧にメールに送られた地図の端には、『助っ人を4人求む。期限:5日以内』とあった。

 有難い追加情報なのではあるが、断片的過ぎて、イマイチ状況が掴めないコメント。



「そこまで切羽詰まっていないのか。でも、犠牲者は出ているのに………、一体何が起こっているんだか………」



 これだけの情報では、現在のガミンさん達先行隊の状況は想像できない。 



 助けを求めているのは分かっているが、なぜ『期限:5日以内』なのであろうか?

 

 少なくとも現在進行形で窮地に陥っているなら、『期限:5日以内』という表記にはなるまい。


 考えられるのは、戦闘で犠牲者が出てしまい、捜索の為の人手が足りなくなった……、


 若しくは、ガミンさん達先行隊では歯が立たない強敵が居て、増援を求めている………


 しかも『助っ人を4人求む』とはどういうことか?


 なぜ『4人』なのか? 今の俺達は人間だけなら8人だが、4人と絞っている意味は?

 


「分からんなあ………、どっちせよ、明日の午前中には到着できるだろうけど」



 ガミンさん達が今にも全滅しそうになっているわけではないことが分かっただけでも御の字であろう。


 明日、予定通り地下35階に辿り着きさえすれば、全てが解決するのだから。



「今はストロングタイプ狩りに注力させてもらうとするか」





 






 広い玄室内の中央に宝箱の形をした『アラームボックス』を配置。


 あとはいつでも敵が湧いてきても良いように陣形を組んで待ち受けるだけ。

 

 各メンバーへと役割を割り振り、それぞれにやるべきことを明確にし指示。



「天琉、しっかり秘彗を守るんだぞ」


「あい! マスター!」


 

 俺の言葉に、頬をプクッと膨らませて元気良い返事を返す天琉。


 機体的に一番脆い秘彗には、護衛として攻守に優れた天琉を置く。

 秘彗は敵へのデバフに集中してもらう為、基本その場を動くことはできない。

 故に万能の防御壁たる光の盾を構築できる天琉を傍に付けるのだ。



「ヒスイはテンルが絶対に守るからね!」


「………………まあ、いいですけどぉ………」



 ニコニコ顔での天琉の宣言に、極めて複雑そうな表情を見せる秘彗。

 乙女的にはキュンッと来そうなシチュエーションだと思うのだが、どうやら秘彗的には天琉に守られるポジションがあまりお気に召さない様子。


 特に最近、天兎流舞蹴術を修めた秘彗だ。

 同門であり、弟ポジションの天琉に守られるということ自体が、些かプライドをチクチクするのであろう。



「秘彗。今回の作戦はお前が肝だ。万が一があってはいけないんだから護衛は必須。我慢してくれ」


「いえ! そんな………、マスターのご命令に、決して不満があるわけでは………、その………」



 俺のお願いに、驚いた様子でアタフタし始める秘彗。

 頭の上の三角帽子をずり落としそうになりながらも、モゴモゴと言い訳に終始する。



「何と言いますか………、護衛の必要性は分かりますし、テンルさんが強いのは分かっているのですが…………、でも、私も強くなって………、守られているばかりでは………」



 人差し指同士をモジモジさせて恥ずかし気に語る秘彗は思春期の少女そのもの。


 しかし、そんな少女が自分が抱える想いを語る中、

 全く空気を読まない勢いで口を挟む能天気な天使が1機。



「あいあいあい! ヒスイにはテンルが強い所をいっぱい見せてあげるからね!」


「むっ! ……………テンルさん、絶対、後で煩く自慢してくるから嫌なんですぅ。本当に子供っぽいんだから………」



 天琉の自信満々のセリフに、秘彗は唇を尖がらせて不満を述べる。



 いやいや、つい、さっき、天琉相手に自慢話をしてたの、秘彗だろ!


 

 思わず、心の中で秘彗へツッコミ。


 自分のことを棚に上げて何を言っているのやら。


 どうやら秘彗は、自分が天琉相手にマウントを取るのは良いが、逆に取られるのは真っ平御免らしい。


 良いライバル関係とも言えなくもないが、どうにも子供っぽい意地の張り合いにも見えなくも無い。


 これが微妙なお年頃というモノであろうか?

 本当に秘彗は天琉が絡むと、外見相応の幼い反応を見せてくるなあ………

 

 


 

 

「ヨシツネ、浮楽。お前達の役目は現れる敵への迎撃だ………、と言っても、できるだけ機体を壊さないようにしてくれ。最悪でも晶石は確保してほしい。もし、ストロングタイプが出てきたら最優先だ」


「ハッ!」

「ギギギギッ!」



 恭しく跪きながら首を垂れるヨシツネ。

 お道化たように大げさな礼を見せる浮楽。



「もちろん俺も前に出て戦うが、俺と相性が悪そうな敵はお前達に任せるからな」


「承知致しました」

「ギギギギギッ!」



 敵への対処は俺とヨシツネ、浮楽で行う。

 ここで出てくるレッドオーダー達、特にストロングタイプは従属させる可能性があるのだから、破損が少ない状態で機体を確保しなければならない。

 精密攻撃が得意な2機なら問題無くやり遂げてくれるだろう。



「あと、女性型は絶対に確保したい! 分かったな!」


「ハッ! 拙者にお任せを。一撃で首を刎ねて御覧に入れましょう」

「ギギギギギギッギギッ!」



 俺の念を入れた要望に、ヨシツネと浮楽は力強く返事。


 斬首戦闘はヨシツネの得意技。

 連続した空間転移で飛び回り、背後から絶死の刃を振るうヨシツネから逃れられる者などそうはいない。


 また、浮楽も空間転移と高速移動を得意とする高機動型。

 近~中距離をカバーする多彩な攻撃を以って敵を翻弄。

 新しく覚えた天兎流鉄鎖絞殺術の技の冴えを見せつけてくれるはず。


 彼らであれば、俺の期待に応えてくれるに違いない。

 





「豪魔は重量級以上を頼む。ストロングタイプ狩りの邪魔にならないよう早めに排除してくれ」


「お任せを」



 見上げながらの俺の依頼に、短い返事の豪魔。

 その言葉は簡潔ながらズシンと腹の底に響くぐらいに重く感じる。


 全高15m以上の超重量級の機体は、ただ立っているだけで押し潰されそうな錯覚を覚えてしまう程の威圧感を振り撒く。


 大魔神の名に相応しい重厚な装甲に、巨大な重機を思わせる太い四肢。

 角、爪、翼などの異形が相まって、『破壊』の二文字を具現化したような存在に思えてくる。

 

 豪魔であれば、どのような敵が現れたとしても、強靱な体躯と超重量級の強大なパワーを持って粉砕してくれるであろう。

 物理だけで言えば、俺を除けば、我がチーム最大の力を持つのがこの豪魔なのだ。




 

「白兎。周りの警戒とイザという時のフォローは任せた」


 フルフルッ!

『任されました!』



 後ろ脚で立ちながら、耳をピンと立てて応える白兎。 

 

 白兎の仕事はバックヤードからの監視と援護。


 何が起こるか分からないダンジョンだ。

 誰かが強制的にこの場にエントリーして来ないとも限らない。

 

 また、思いの外、苦戦するメンバーが出てきた時に駆けつける役目。

 広い視野と即応性を持つ白兎でなければ就けないポジション。


 



「ベリアルはこの場で予備戦力として待機。もし、敵が増えすぎた時は一掃してもらうかもしれんからな」


「任せてよ。一切合切を灰にしてやるから」



 俺の言葉に軽く笑みを浮かべて応えるベリアル。

 

 思わず背筋がゾクゾクする程の艶やかな微笑。

 目を細め、口元を歪めているだけなのに、壮絶なまでの美と空恐ろしくなる程の非情さが迸る魔王の笑み。



「まあ、お前の力なら余裕だろうが………」



 予想を超えて敵が出現し過ぎてしまった時、頼りになるのはベリアルの火力。

 戦況を一度リセットするぐらい朝飯前であろう。


 ただ不安があるとすれば…………



「いいか? 手を出すのは俺が命令した時だけだぞ。あと………、念のために言っておくが、味方への誤射はたとえ冗談でも許さんからな」


「避けられない方が悪い…………、あ、ごめん。絶対にしないから」



 俺の表情の変化を見て、慌てて言い直すベリアル。

 

 最近、俺の顔色で、言って良いことと悪いことの判別ができるようになってきた様子。


 コイツを乱戦になるかもしれない戦場に出すのは些か不安ではあるが、今回は未知の罠を利用した作戦行動なのだ。

 ベリアルを手元に置いて、いつでも超火力を使用できる状態にしておきたい。



 メンバーの成長が著しい我がチームであるが、未だベリアルの最大火力を上回る者はいない。


 特に多数相手の瞬間火力は全機械種の中でも最高峰。

 核撃を操る粒子制御と、事象を捻じ曲げる虚数制御の組み合わせは凶悪の一言。


 魔王の名は伊達ではないのだ。

 その戦闘力も扱いにくさも全ての機械種の中でトップクラス。


 だが、それを使いこなしてこその機械種使い。

 超一流を目指すのであれば決して避けては通れない道であろう。

 





「よし、皆。準備は良いな。アラームボックスを発動させるぞ」



 皆への指示を終え、玄室の中央に置かれた『敵をランダムに呼び出す罠』、アラームボックスへと近づき、



「秘彗、全体へのデバフは俺が指示を出すからそのタイミングに合わせてくれ。アラームボックスが不発というケースもあるし、玄室内に展開した『隠蔽陣』の影響で効果を現さない可能性もあるからな」


「はい、承知しました。ご命令をお待ちしています」



 ダブルになったことによって、秘彗が覚えた『固有技』2つのうちの1つ。

 『魔女の楔』程ではないが、対象が範囲である為、多数の相手には非常に有効な手段となりうる。


 今回のストロングタイプ狩りのキーとも言える大技。

 折角の初のお披露目なのに、無駄打ちはあまりに勿体ない。




「では、始める!」




 アラームトラップに手をかけ、その蓋を開け放つと、





 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!





 けたたましい警報が玄室内に鳴り響く。


 目覚まし時計のベルのごとき甲高い金属音。


 そして、その音は30秒少々鳴り続け、不意にピタリと音が止んだと思うと、






 ソレが現れた。






 玄室の中央の空間が裂け、漆黒の鎧を纏った巨人がこれまた黒い炎とともに出現。

 

 全高9m以上。

 重量級上限ギリギリの巨体。

 邪悪を煮詰めたような凶相に全身から刃物が生えたような凶悪なデザインの装甲。

 鋭い鉤爪を持つ両手には、それぞれ武器を構えており、右手には鞭、左手には手斧。

 いずれも黒炎を纏っているかのように黒い蒸気を噴出させている。

 

 絶望を具現化したようなその姿は正しく炎熱地獄の大悪魔。

 見たモノを恐怖のどん底に陥れる災害の化身。




「機械種バルログ…………」




 俺がポツリとその機種名を呟くと、確かにその大悪魔はニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。

 

 この度の生贄であろう人間が、正しく己の機種名を認識していたことに喜びを感じているのだ。


 その方が間違いなく恐怖するであろうから。

 ちっぽけな人間が己の姿に恐れ慄き、泣き喚いて命乞いする光景が何よりの好物なのだ。

 


 デーモンタイプ中位、重量級の機械種バルログ。

 レッドオーダーとして現れる機種の中では特に残酷で残忍な性格と言われている。


 人間を苦しめ、痛めつけること喜ぶ外道。

 ただ殺すのではなく、出来るだけ長い間生かしたまま嬲ろうとする、人間にとっては最悪の相手。




 ゴゴゴゴッ!!




 機械種バルログの手斧を持つ方の手がゆっくりと俺へと伸ばされる。


 手斧と言ってもその大きさは刃の長さは1m以上。

 ギロチンの刃を突きつけようとしているのに等しい。


 機械種バルログの目はこれから行われる血生臭い宴への期待に染まり、口元には残忍極まりない笑みを張りつかせている。


 俺をまな板の上の食材であるかのように切り刻むつもりなのであろう。

 その場合はまず、動けないように四肢から落とし、俺の悲鳴を楽しみつつ、解体作業に入ろうとするに違いない。




 もちろん、そんなことにはなるはずがないのであるが…………

 

 

 

 

「ああっ なんだ、お前?」



 俺の隣にいるベリアルから、メンチを切られた不良のような唸り声。



「我が君に汚い手を近づけるな、殺すぞ!」



 不躾に伸ばされた機械種バルログの手を見て、苛ついた様子で声を荒げるベリアル。


 普段なら、何も言わず一睨みで相手を焼却したに違いない。

 

 しかし、事前に俺から言い含められているので、手を出せずに苛つきだけを見せたのだ。

 

 その反応は俺から見れば精々イキッた感じの中学生。


 だが、その不機嫌さを直にぶつけられた機械癒バルログにとっては雷が直撃したかのような衝撃を受けた模様。

 


 ビクッ!



 身長160cmぐらいしかない小柄なベリアルの声に、ピタリと動きを止める全高9mの巨躯を誇る機械種バルログ。


 まず、その顔の浮かぶのは困惑。

 さらにだんだんと引き攣ったような表情へと変化。


 赤く邪悪に輝く目がピカピカと不規則に点滅を繰り返す。

 それは機械種が激しく動揺している様子を現すシグナル。


 あまりに信じられないモノを見て、当惑している様子が見て取れる。


 呼ばれて飛び出て、生贄と思った人間の傍に自分を遥かに上回る魔王がいたのだから、気が動転して当然。




 だが、俺達にはそんな機械種バルログを気遣う必要など欠片も無い。




 ドンッ!!!




 重量物が落下したような重い響きが玄室内を木霊する。


 今まで気配を消していた豪魔が機械種バルログを背後から強襲。

 頭を片手で掴み、そのまま床へと押さえつけたのだ。


 1.5倍近いの体格を持つ豪魔からすれば、機械種バルログなど子供同然。


 

 

 ゴアアアアアアアアアアアアッ!!!!




 豪魔に床へと完全に押さえつけられた形となった機械種バルログが叫ぶ。


 さらには全身から蒸気を噴き出し、何とか抵抗しようと身じろぎするも、

 

 

「ふむ………、大人しくせよ」



 グイッ!!



 ガアアアアアアアアアアアアアアア!!



 豪魔がその後ろ首を掴み、そのまま締め上げるとたちまち動きを止めざるをえなくなる機械種バルログ。

 やんちゃする小熊を押さえつける母熊みたいな光景。


 おそらくは虚数制御を用いての拘束術であろう。

 中級ではあるが、直接掴んで波動を流し込めば、自分より格下の機種の動きを阻害するのは容易い。


 

「マスター、この者、どうされますか?」


「う~ん、そうだな~」



 機械種バルログを抑えつけたまま、豪魔がこの機種の処遇について問うてくる。



 機械種としてのレベルはストロングタイプと同等。

 だが、重量級のパワーを鑑みれば、戦力はその2倍以上であろう。


 もちろん剣風や剣雷よりも強いし、純粋な戦闘力であれば辰沙や虎芽をも上回るであろう。


 しかし、その程度だ。

 街に入れず、ダンジョンや巣でも場所によっては運用が難しくなる大きさであることを考えると、仲間にするには不適当。



「強いのは強いが、わざわざ従属する程ではないな。さっさと処分してくれ」


「承知」



 ゴキンッ!!!



 あっさり機械種バルログの首をへし折る豪魔。



 中央でも『悪夢の再現』『最悪の重量級』とも呼ばれる機械種バルログ。


 デーモンタイプお得意のAMFに加え、

 生半可な攻撃では傷一つつかない重装甲、

 重量級に相応しい大出力のマテリアル機器、

 巨体の割りに俊敏で、なお且つ、巨大な武器を縦横無尽に振るう近接戦闘術。

 さらに知恵も周り、時には下位悪魔型の軍勢を率いることある指揮官型。


 高慢で格下を侮り過ぎるという性格以外は弱点らしい弱点が無いのだ。

 ドラゴンタイプに匹敵する強機種であることは間違いない。

 

 だが、豪魔と比べるとその力量差は歴然。

 超重量級と重量級という体格差に加え、機械種のレベルとしても豪魔の方がずっと格上。

 同じデーモンタイプとして、あらゆる面で豪魔が上回るのだから、機械種バルログに勝ち目などあるわけがない。



「邪魔にならないよう片付けて…………と」



 首をへし折られて活動を停止した機械種バルログの機体を七宝袋に収納。

 従属するつもりはないが、これを秤屋で処分すればかなりのマテリアルに変換できるであろう。

 仲間と違って、マテリアルはいくらあっても困らない。


 

「でも、この一機だけか? アラームボックスで現れるの………」



 辺りに視線を飛ばしながら、期待外れといった感想を述べる。


 折角使用したアラームトラップで、重量級1機だけというのはあまりに寂しい。



 そんな不満染みた声を漏らす俺の足元で、耳をパタパタ揺らす機械種ラビットが1機。




 パタッ! パタッ!

『マスター、気をつけて! たくさん来るよ!』


「え?」



 白兎の警告に、慌てて目を凝らして玄室内を見渡すと、




「あ………」




 視界に入ったのは、先ほど機械種バルログが現れたような空間の揺らぎ。


 それがパッと見、10個。


 どうやら団体さんのお出ましのようだ。




「来るぞ! 秘彗! やれ!」


「はい!」



 俺の声に、秘彗が杖を構えて、事前に準備していた『固有技』を始動させる。



「行きます! 『青き月よ! 深き闇よ! 常世を侵し、幻妖で満たせ!』」



 秘彗の唇から紡がれる摩訶不思議な呪文。

 正式には『固有技』を発動させる為の起動コード。



「『古き盟約に従い、顕現せよ! 其は我らが故郷、魔女の森』!」



 秘彗のローブ模様が『揺らぐ炎』から『落葉』へと変化。

 ローブの表面に落ち葉模様が浮かび上がり、まるで夏から秋へと衣装替えしたかのような姿となる。 


 そして、秘彗が構えた装飾華美な杖の先から青白い光が放たれる。


 玄室内を漏れなく照らす呪詛の眩光。


 その瞬間、部屋全体が森に包まれたような錯覚に陥った。



 誰も足を踏み入れない鬱蒼とした森の奥深く。

 呪いの魔法に長けた魔女達が住まうとされる古の森。

 その場ではいかなる勇者も聖女も力を発揮できずに朽ち果てる。

 ただ、魔女と魔女が認めた者達だけが力を振るえる結界に包まれた幻想世界……


 

「成功しました! これでこの場では私達以外の攻性マテリアル機器の発動が難しくなります!」



 これぞダブルとなった秘彗が覚えたもう一つの固有技。

 範囲型マテリアル封印術『魔女の森』。


 秘彗の言うように、この玄室内では、敵の攻性マテリアル機器の発動が抑制されるのだ。

 これにより、秘彗より格下である機械種のマテリアル機器を用いた遠距離・範囲攻撃がほぼ不可能となる。

 いわば、攻撃呪文を封じた状態。 


 味方には影響を与えず、敵のみを弱体化させるデバフの極致。

 これで圧倒的に有利な立場でストロングタイプ狩りを行うことができる。




「来たか!」




 俺達の目の前に忽然と現れる十の機影。


 いずれも中量級の人型。

 ただし、恰好は様々。

  

 大剣を構えた破騎士が1機。

 俊敏そうな工作員が1機。

 戦斧を担いだ大柄な闘士が1機。

 片手剣を持った軽装の魔法戦士が1機。

 東洋系の服を着た風水師が1機。

 長弓を持つ射手が1機。

 黒いローブを纏った呪術師が1機。

 筋骨隆々なデザインの格闘家が1機。


 貴族服に黒マント着た骸骨のように痩せた男性型が1機。

 大剣を持った蛮族スタイルの狼男が1機。

 

 

「……………ストロングタイプが8、残りは………何だ?」



 ストロングタイプはそれなりに有名な機種ばかり。

 だが、残り2機の外観に見覚えが無い。



「機械種クドラクに機械種ベルセルクでしょう」


 

 ヨシツネが刀を抜き放ちながら、現れた敵を見分。

 俺の疑問に答えてくれた上、説明も付け加えてくる。



「機械種クドラクの方はなかなかに手強い相手です。流体で構成された機体を持ち、晶石の位置を自由に移動させます。倒し切るのがなかなかに難しい」


「なるほど、ブラッドサッカータイプか」


「拙者が対処致しましょう。制限されているとはいえ、万が一、『霧化』されると厄介ですから」



 ギラリと『髪切』を煌めかせ、ヨシツネが鋭い視線を機械種クドラクへと飛ばす。



 だが、ヨシツネから視線を向けられた機械種クドラクも、共に現れたストロングタイプ達も未だ俺達を襲う様子も見せず、ただその場に立ち尽くし、狼狽した姿を晒している。


 おそらくは秘彗の『魔女の森』によって己のマテリアル機器が封印されたことに戸惑っているのであろう。


 いきなりアラームボックスに呼ばれたと思ったら、自分達の力の源であるマテリアル機器が制限されたのだ。


 いくら機械種であってもそんな状況は想定外。


 さらに俺達の戦力も想像の範囲外。



 魔を2つ重ねた魔法少女。

 天軍の指揮官たる主天使。

 死へと誘う道化師。

 悪魔型最上位の大魔神。

 英雄を越え神話へと到達した軍神。

 傲慢を司る7大魔王の一画。

 

 自分達の倍以上の戦力を持つ個体が6機が待ち構えている戦場。

 もうそれは完全な死地。

 彼等は突然屠殺場に放り込まれたしまった哀れな家畜なのだ。

 


「まあ、その立場には同情しないこともないけど………」



 刀を抜いた臨戦態勢のヨシツネの横に立ち、瀝泉槍を下段に構えて敵を見据える俺。


 

「さっさと獲物として狩らせてもらう!」



 ダンッと足を踏み込み、レッドオーダーの群れへと駆け出した。





『こぼれ話』


 辺境ではストロングタイプを見かけることは滅多にありませんが、中央に行くと、大きな街なら数機程常駐していることが多くなります。

 さらに赤の死線であれば、狩人チームのほとんどが所有しており、一般兵のような扱いで運用されています。


 辺境にストロングタイプが回ってこない原因はコレになります。

 半分消耗品のような形で消費されていくからです。


 ただし、ダブルとなると扱いは士官級になり、破壊されないよう大事にされます。

 また、トリプルともなれば、レジェンドタイプと同様、エース級の扱いです。

 

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