閑話 男女



※ストロングタイプ狩りではなく、閑話の投稿になります。

『第599話 宴』の最後の方の『いや、まあ、その後にも色々あったのだが、本筋では無い為、省略』の省略した部分です。


途中、視点が主人公からアスリンチームへと変わります。

ご注意ください。









 神殿でのガチャを終え、新しい戦力を得た祝いを兼ねた夕食会を済ました夜のこと。


 アスリンチームの女性3人を潜水艇へと返し、

 俺を除く男達4人の寝床として発掘品の巨大戦車を取り出して中へと案内。


 驚くアルスをあしらいながら、後のことは森羅に任せて戦車から出ようとした時、




「おや、中はこんな風になっていたのですか?」




 戦車内に唐突に響く、無駄に美声なくせに、どことなく人を苛つかせる口調。




「質実剛健な作りですが、華やかさが足りませんな」




 急に戦車内に入ってきたのは、音楽を聞きたいと女性達に連れていかれたはずのトライアンフ。



「トライア! どうして君がここに?」



 アルスの疑問ももっともだろう。

 たとえ演奏したのが1曲だけだったとしても、あまりにも早い帰還。



 しかし、そのおよその答えは足元にいる白兎と白志癒の雰囲気で何となく分かる気がする。


 白兎がお手上げとばかりに両の手の平?を上に。

 白志癒が肩を落として大きくため息。

 

 ウサギ2機が言いたいことは実に明白。



 即ち、『コイツがまたやらかしました』………と。



「何したのさ!」



 すぐさま厳しい口調で詰問するアルス。

 しかし、当の本人は恍けた様子で、



「特に改めて話すようなことは…………アイタッ! ………わ、わかりましたから!」



 白志癒に向う脛を蹴られて、ようやく正直に話す気になるトライアンフ。

 本当にコイツはどうしようもない。



「そのですね、音楽を奏でろと言われましたので………」


「………で?」



 アルスの口調も心なしか冷たい。



「まずは最初に、貴方達の中で一番の美人へと曲を捧げさせてくださいとお願いしました所、ヒスイさんやコハクさんも含め、皆さん、大層お怒りになり………」


「だから! 何で! 君はそう人を争わせようという方向に持って行こうとするの?」


「いやあ、皆さん、お美しい方ばかりでしたので、こういった質問をするとどう答えを返してくれるのか、気になりまして………」


「ああ…………、やっぱり、あの時止めるべきだった…………」



 トライアンフのやらかしに、アルスはショックを受けてその場にしゃがみ込む。



「なんて、アスリン達に謝ろうか…………」


「気にし過ぎじゃないか? コイツのやらかしはコイツのせいだぞ。マスターのお前が全部抱える必要はないさ」



 落ち込むアルスを俺がフォロー。



「…………そうかな?」


「そうだよ。第一、向こうもそんなに気にしていないかもしれない。その場は怒ったのかもしれないけれど」



 俺の慰めに、少し表情を和らげるアルスだったが、すぐさま当のトライアンフがぶち壊す。



「ハハハハハ、その時は激オコでしたな。特にコハクさんなんか、平手打ちをくれた上で、次に余計な口を叩いたら、酸化剤をぶち込んで喉を錆びつかせてやると、真顔で宣言してくれました。いやあ、女性というのは怖い怖い」


「「お前、ちょっと黙れ!」」



 全然反省の色が見えないトライアンフへ、俺とアルスの怒号がハモった。










「ふむ………、なかなかに厄介なモノだな。人を揶揄う癖が抜けない………か」



 俺達の事情を聞いたレオンハルトは、ウンウンと頷きながら、



「いっそ、晶脳を弄ってみるかね? アルスさえ良ければ、熟練の藍染屋を紹介するが?」


「そうするしかないのかな~?」



 レオンハルトの提案にまんざらでもなさそうなアルス。

 意味ありげな視線を被告人へと向ける。



「ひいいいいいい!! か、改造されてしまう、ワタクシが! 何卒ご勘弁を!」


 

 そんなアルスの反応に、怯えた様子を見せるトライアンフだが、当たり前だが誰も庇おうとする者などいない。


 いっそ、晶脳を真っ新にした方が世のため人の為ではなかろうか?


 これが皆の共通した認識であろう。

 



「いいかい? トライアンフ。次、女性陣に失礼なことをしたら………」


「はい! 肝に銘じておきます!」


「本当に分かってる? 僕の堪忍袋も無限じゃないからね」




 アルスが懇々と説教しているが、果たして効果があるか全くの不明。




「それにしても…………」



 ふと、頭を過るのは、トライアンフが女性陣に持ち掛けた条件。

 

 アルスのパラセレネやレオンハルトのロベリア、ラナンキュラスは外で待機中。

 

 潜水艇にいる女性陣はアスリン、ドローシア、ニル。

 それに女性型機械種の秘彗と胡狛。


 その5人の中で一番美人というと………… 

 秘彗は俺の中では可愛い妹カテゴリーだから…………



「一番の美人は、胡狛かな?」


「ふむ? 違うな…………そこはアスリンだろう」



 何気ない独り言であったが、それを聞きつけたハザンがなぜか異議を唱えてくる。



「外見が幼過ぎる。可愛いとは思うが、美人というと少し違うな」


「ああ、なるほど。確かにそういう括りだとそうなるか」



 顔の整い具合なら、胡狛が上だが、俺達の年代からすると外見年齢は少し年下。

 

 俺達の年頃の好みだと対象が同年代から少し年上くらいになるのは良くあることだ。

 俺達のような少年が、明らかに年下の外見である胡狛を美人と呼ぶにはやや違和感を感じるのも分かる気がする。




「アスリンねえ………、俺としちゃ、あんまり気の強いのは好きじゃねえな」



 俺とハザンの会話に今度はガイが口を挟んでくる。



「俺ならアスリンよりはニルの方が良いな」


「ガイ。お前、ニルみたいな子供が好みなの?」


「好み……つうか、話してて面白いだろ、アイツ」


「あっそ………」



 ガイの感覚だと、彼女というよりは女友達を選ぶ感覚か。

 確かにニルはとっつきやすくて話しやすい。

 女性慣れしてなさそうなガイにとっては、気難しいアスリンよりもニルの方が相性は良さそうだ。



「ふむ………、次は私だな!」



 ガイまで参加してきたとなると、黙っていないのがレオンハルト。


 意気揚々と俺達の輪の中に入って来て、堂々とした態度で宣言。

 


「あの中なら、私はドローシア嬢を推そう。なぜなら………」


「一番胸がデカいからだろ?」


「流石、我が友ヒロ。私のことをよく分かっているな」



 俺の答えにレオンハルトは満足そうな表情。


 別に俺じゃなくても、お前の普段の言動を聞いていれば、誰でも分かるぞ。


 しかし、これで男4人の意見出て、皆バラバラ。

 各人好みは異なる模様。


 あと、答えていないのは………



「……………で、アルスは?」


「ええ? 僕?」



 俺が話を振ると、予想もしなかった様子で驚くアルス。



「いや、話の流れから、お前に順番が来るのは分かってるだろうが」


「え~……………、そんなこと急に言われても…………」



 アルスは俺から詰められて困り顔。

 元々女顔で柔和な顔立ちだから、そんな表情をすると俺がイジメているみたいにも見える。


 だが、これは男同士の会話のお約束。

 そんなことでは追及の手を緩めない。



「ちなみに黙秘は許しません」


「う~ん……………」



 俺が逃げ道を塞ぐと、アルスは観念した様子で口を開く。



「そうだね………、アスリンは綺麗だし、ドローシアは凛々しくて、ニルは可愛い。コハクさんもヒスイさんも可憐で…………、皆美人でいいんじゃない?」


「アルス! 何、玉虫色の答えを言いやがる!」



 アルスの日和具合にガイが怒りの声をあげた。



「優等生ぶるんじゃねえ! 1人だけ良い子ちゃんぶりやがって!」


「ちょ、ちょっと止めてよ………」



 ガイが生身である左手でアルスの頭を抑えにかかる。


 手をバタつかせて抵抗するアルスだが、体格に勝るガイには勝てず、



「痛いって!」


「だったら、お前も正直に好みを言え!」


「そ、そんな…………」



 アルスに組み付き、ギュウギュウと締め上げるガイ。

 真面目な優等生に絡む不良といった光景。

 

 見方によればアルスのピンチではあるが、相方であるハザンも、アルスの従属機械種である白志癒やトライアンフも動かない。

 友達同士のじゃれ合いみたいなモノだから、これぐらいは許容範囲。



「分かった! 分かったから………、言うよ! えっと………じゃあ、アスリンで!」


「ああっ! 『じゃあ』ってなんだ! 適当に言ってんじゃねえぞ!」


「ぐえええ……、ちょっと、ガイ! 僕、きちんと答えたよね?」



 アルスは苦し紛れに一番差し障りが無さそうなアスリンの名を挙げたがそれは悪手。

 こんな面白いネタをこのまま済ます俺達ではない。



「いや、答えて無い。お前の言葉には魂がこもっていないんだ。もっと心からの性癖を解放しろ」


「ヒロ? 魂? 性癖って?」



 俺の指摘に目を白黒させて戸惑うアルス。

 さらにレオンハルトも乗っかり、



「ハハハハハッ、今のアルスの答えは、私でも適当だと分かる。では、アスリンのどこが素晴らしいのか答えられるかね? ちなみに私は巨乳の話題なら1時間は語り続けられるぞ」


「微妙に聞きたいか聞きたくないかの境界線だな、ソレ」



  

 馬鹿げた話題で騒ぐ男衆。

 明日、更なる激戦の地へ向かう者達の会話とは思えない。

 

 でも、間違いなく俺達の男同士の絆は深まったように思う。

 きっとそれは、この街を出た後も貴重なモノであるに違いない………

 



 

 ちなみに問い詰めていくと、アルスの好みはかなり年上であることが判明した。

 途中からハザンが参戦し、ミエリさんの大人の魅力に憧れていたらしいことが暴露されたのだ。



 すぐに俺が彼女が既婚者であることを話してやると、アルスは珍しくショックを受けていた。


 合掌。


 






【潜水艇 居住空間の寝室内】



「アイツ………、本当、失礼だよね!」



 シャツ1枚、パンツ1枚という姿のニルがベッドの上で足をバタつかせながら、憤懣極まりない様子で愚痴を漏らす。


 年頃の少女とは思えないはしたない恰好ではあるが、秘彗と胡狛はリビングルームで待機中。

 この部屋にはチームメイトのアスリン、ドローシアしかいないのだから多少気が緩んでいても仕方がない。

 


「いくらニルルンが可愛くても、女性型機械種相手だと、分が悪いに決まってるじゃん!」


「そうですよね…………、おまけに日々のケアを怠らなくても、その美しさは陰ることはありませんし、食べ過ぎで太ることもない。怪我をしてもパーツを取り換えれば傷も残りません………、はあ………」



 ドローシアは軽く自分の腹部に手を触れながら嘆息。

 

 機械種と戦う為に鍛え上げられた肉体。

 当然ながら、女性特有の柔らかさとは無縁。

 さらにそこまで目立つものではないが、それでもアチコチに傷跡も残っている。



「狩人業と美容を両立させるのは大変ですね。それこそマダム・ロータスのように機人にでもならなければ………」


 

 狩人家業は女性にとっては過酷な職業。

 

 何しろ仕事場が街の外なのだ。

 トイレやお風呂はもちろんのこと、設備の整っていない野外での生活はどうしても体調管理が難しくなる。


 毎日のお肌や髪の手入れから、バランスの取れた食生活。

 女性の美を保つ為の気配りなど望めるわけがない。

 さらにレッドオーダーとの戦闘で一生残る傷を負う可能性だってある。



「中央では女性狩人相手の美容エステが流行っていると聞きますが………」


「へえ? それいいね! 中央へ行ったら、ニルルンも利用しようっと!」



 また1つ、中央へ行きたい理由ができたとニルは機嫌を直してニコニコ。



「うふふふふ! これ以上ニルルンが綺麗になっちゃったら大変だなあ~、モテ過ぎても困っちゃうよね?」


「何言っているんだか………」



 調子の良いニルの態度にドローシアは呆れ顔。



「毎度言うけど、ニルがモテた所なんて見たこと無いけどね」


「ドローシアの目は相変わらず節穴だね。今回の宴会でもニルルンが一番注目されていたじゃん? ヒロ達もニルの艶姿に首ったけだったんだから。うっふん……」



 ベッドの上で科を作りながら、ちょっと色っぽいポーズを決めるニル。

 

 当たり前だが、同性であるドローシアには何の感銘も与えない。



「アホくさ。勝手に言ってなさいよ」


 

 ニルの戯言を切って捨てるドローシア。


 そこで話を終わらせるつもりであったのだが、ふと、何かに思い当たり、



「そう言えば、ニル。貴方、ヒロさんに随分アプローチしていたみたいだけど本気なの?」


「へ? ヒロ?」


「そ。私達の運命はあの人が握っているんだから、機嫌を損ねるようなことはしないでよね……………、そりゃあ、上手く行ったら玉の輿なのは分かるけど」


「ニルルンがそんなヘマする訳ないじゃん。さり気ないボディタッチで順調に好感度を稼いているんだから………、上手く行けば、来月辺りにはヒロの蓮花会への電撃移籍もあるかもよ」


「嘘つけ。アンタ、全然相手にされていないでしょーが」


「ニハハハハハ………、まあね。少々手強いのは間違いないね」


「ヒロさん、奥手みたいだから、積極的に行き過ぎなんじゃない?」


「う~ん……………、そうかな~………、でもその分、あのタイプは一回手を出させたら、情に訴えてズルズル行けそうな気もするんだけど………」



 ニルはムウッと顔を顰めながら、目下、最も将来性が高いと思われるターゲットについて寸評を口にする。



「都合の良い理由をあげているんだけど、なかなか手を出してくれないんだよね。彼女はいないって言ってたから、何のハードルも無いと思うのに………」


「単にニルが好みではないからじゃないの?」


「ムッ! …………それはあるかもしれないけど、ちょっと好みから外れていても、手を出せるチャンスがあるなら出すのが男だよ。しかも命の恩人なんだから、多少こっちにエッチな要求してきても誰も文句は言わないのに………」


「まあ、私やアスリンの胸には興味あるみたいだけどね」


「…………………フンッ! ニルルンの胸もチラ見してきたし!」



 張り合うドローシアとニル。

 そんな2人の会話に、今まで黙っていたアスリンが口を挟む。



「ニル。悪いこと言わないわ。ヒロは止めておきなさい」


「ほへ? ……………なんで?」



 ニルは驚きながらアスリンの方を振り返る。



「絶対優良物件じゃん。顔は平凡だけど、性格は悪くないし………」


「そうですよ、アスリン。普通、あそこまで才覚を見せる狩人って、どこかおかしな所があったり、増長していたりするじゃないですか。でも、ヒロさんはあの通りビックリするぐらい普通の人。問題があるように思えませんが…………」



 アスリンの発言に異を唱えるニルとドローシア。


 しかし、アスリンは真面目な顔で2人を諭す。



「何言っているの? 貴方達も見たでしょう、彼の戦いぶりを。竜種に飛びかかって怪我一つせず確保したのよ。しかもそれを大したことでは無いとでも言うように、私に下げ渡してきた。アレは絶対に白の教会………、鐘守が放っておかないわ」


「げっ! 鐘守!」

「ああ、それですか………」



 アスリンの言に納得がいった顔を見せる2人。


 さらにアスリンは言葉を続け、



「彼は間違いなく赤の死線に辿り着くでしょうね。そして、その傍らには鐘守を2,3人連れていても不思議ではないわ。ニル、貴方、鐘守相手にヒロを取り合える?」


「う……………」



 自信過剰なニルも、人類の至宝たる鐘守相手だと、いつもの調子で返せない。



「私ならいくら有望な狩人の為でも、感応士としての才能と天上の美貌を備える彼女等の横に立ちたいとは思わない。絶対に惨めな気持ちになるのは分かっているから」


「そうですよね。鐘守には敵わないですものね」



 ガックリと肩を落とすドローシア。

 同じ女性ではあるが、鐘守相手に張り合おうなんて思えるわけがない。


 向こうは白の教会の代弁者にして、高位感応士。

 さらに皆、極上と言っても良い程の美女、美少女ばかり。

 初めから相手になるはずもない。



「ふみゅう~、ニルルンも可愛いけど……………」



 ニルはベッドからヒョイっと降りて、寝室内に置いてある鏡台の前に座る。


 秘彗や胡狛から教えてもらった、鏡に映る人間の髪型を自由に変更できるという発掘品。

 ドレッサーテーブルにあるボタンを操作して、鏡に映る自分の髪を銀髪に変更。


 

「銀髪にしてみても、駄目か~………」


 

 白銀色に染まった短めでモアモア癖っ毛の髪。

 さらに、ボタンを操作して、ロングヘアーやツインテール等への髪型変更も試してみたが、到底鐘守に近づけたとは思えない。


 髪を銀髪にしたからといって、いきなり美人度が増すわけでは無いから当然。

 少しばかりエギゾチックな雰囲気を醸し出すことができるがそれだけだ。


 銀髪ロングにしようが、銀髪ツインテールにしようが、鐘守の神秘的な美貌には敵うはずもない。

 


「やっぱり鐘守には勝ち目無いなあ~」



 鏡台の前でニルもお手上げとばかりに降参宣言。

 残念ながらヒロは自分の手が届かない殿上人であると理解した模様。



「となると、残りは、アルスにハザン、ガイかあ…………、ヒロがいなければ絶対に目を付けた優良物件だけど、どうしても見劣りしちゃうなあ」


「ニルは理想が高すぎ。アルスさんはカッコいいし、ハザンさんやガイさんも頼もしいじゃないですか?」


「まあ、アルスはカッコ良いよね。でも、ハザンはムッツリそうだし、ガイは馬鹿でしょ。扱い易そうではあるけれど………」


「本当にニルは点が辛いね…………、ニル的にはアルスさんは及第点なんだ?」


「まあね。だけど、あのタイプは攻めづらいんだよね。ニルルンがアピールしても、あっさり流されそうじゃん」


「アハハハハッ! 想像つく。ニルが『うっふん♡』って言っても、素で『咳? 風邪ひいたの?』って聞いてきそう!」


「それでもヒロを除けば一番の優良物件には違いないね。機械種使いだし。次、狙うとしたらアルスかなあ? ………でも、ここまで散々ヒロにアプローチしてきたし~…………節操無しって思われそう」


「アルスさん、真面目そうだからニルには荷が重いんじゃない?」


「アレは真面目っていうより、女の子よりも他のことに興味がある感じかな? 多分………」


「偶にそういう男の人っているよね。自分が強くなることだったり、復讐だったり…………、私的には、余計なモノには目もくれず、一途に目的を追う人は、無条件に尊敬しちゃうなあ~………、何となく、ハザンさんとか、ガイさんとかそんな感じがするんだよね」


「ニルルンは逆かな。真っ直ぐな人よりも、多少フラフラしている人の方がこっちが肩凝らないし。そこへ行くと、ヒロはフワッフワッだね。ニルルンと相性いいかも…………、やっぱりヒロは惜しいなあ~………」



 ニルとドローシアの男談義が続く中、



「優良物件と言えば、レオンハルトがいるけど?」



 そこになぜかレオンハルトを差し込んでくるアスリン。


 だが、ニルは苦いモノを一気飲みしたかのように顔を顰め、 



「げえええ!! アイツ変態じゃん。人前で巨乳、巨乳って………」


「あれはフェイクよ。女の子を遠ざける為の。ほら、言ってたじゃない。婚約者がいるって」


「ええ? そうなの?」



 アスリンからもたらされた情報に驚くニル。

 そんなニルに、アスリンは丁寧な説明をつけ加える。



「彼って、征海連合の幹部の御曹司で機械種使い、しかも戦機号令をマスターした『コマンダー』よ。さらに背が高くて美男子っていう超ハイスペック。普通にしてたら女の子が群がって来るでしょ。多分、それがうっとおしいんでしょうね。だから変人を演じているのよ」


「アスリン、それ本当ですか?」



 あまりのアスリンの断定口調にドローシアは疑問を投げかける。


 すると、アスリンがさっきまでの勢いが嘘のように、曖昧な笑みを浮かべて、



「さあ? 私も何となくそう思っただけよ」


「ふにゃああ!! 何それ! 本気でそうかな? って思ったじゃん!」


「アスリン………、それは無いですよ」



 ニルとドローシアは共に抗議の声を上げる。

 しかし、アスリンは気にしない様子で言葉を続け、



「でも、アタシの勘だけど、イイ線言ってると思うわ。気になるなら、彼にアプローチしてみたら? ドローシアならもしかしたら愛人にしてもらえるかもよ」


「………………いいです。彼みたいな人、好みじゃありません。私はもっとガッシリとした頼もしい人がタイプなので」


「あらら…………、ならハザンやガイに狙いをつけるのね?」


「それも、ちょっと…………、今はライバル関係ですから」



 少し困ったような表情のドローシア。

 チームも違えば所属する秤屋も違う。

 恋人関係になれない訳では無いだろうが、普通に考えてハードルは限りなく高い。



「今はこのチームで中央を目指すことしか考えていません。ニルは知りませんが………」


「ああっ! 自分だけ狡い! ニルルンも一緒なんだからね! ………ちょっとつまみ食いするかもしれないけど………」



 後半、口をモゴモゴさせるニル。


 身持ちの固いドローシアに比べ、ニルは少々緩め。

 だけどフラフラしながらも、きちんとチームのことを考えて行動してくれている。


 

「ありがとう。絶対に3人で中央を目指しましょう」



 改めて、2人に感謝の言葉を述べるアスリン。


 そして、


 


「『力』は手に入れた。後は『イバラ』を取り返しに来たアイツを迎え撃つだけ………」




 アスリンがそう呟くと、ドローシアとニルの表情が一瞬で引き締まる。


 安全が確保された場所であるのに、まるで戦場の中にでもいるように。


 それこそ、すぐ近くに敵が潜んでいるかのように…………




「何度も言うようだけど…………、いつ離れてもいいからね。アタシの巻き添えになんてならなくていいのよ」



 

 凍り付いた空気をあえて読まずに、アスリンは努めて優しい声で告げる。


 すると、その言葉を撥ねつけるかのようにドローシアが強い口調で言い返す。



「いいえ。もう決めたことです。アスリンとともに夢を目指すと! だからそんなことは言わないでください。私はずっと付いていきますからね!」



 また、ニルも普段よりも真面目な雰囲気で言葉を付け足す。



「ニルルン達はアスリンに賭けたんだよ。確かにオッズは高いかもしれないけど、その分リターンは多いはずだし………」


 

 そこで、突然、ニパッと明るい笑顔になって、



「ニャハハハッ!! ニルルンは一発当てて、左うちわの生活を夢見ているのだ! その為にはアスリンの脛を齧らせてもらう予定なんだから! 絶対に離さないぞ!」


「……………もう一度言うわ。ありがとう。貴方達が仲間で本当に良かった」



 ほんの僅かに目元を涙で滲ませたアスリン。

 そんなアスリンを優しい目で見守るドローシア。

 ワザと明るく振る舞おうとするニル。



 こうして少女達3人の結束は深まった。


 しかし、明日、彼女達を待ち受けているのはさらに危険が増した地下35階。

 さらにそれを乗り越えたとしても、何年か後には必ず訪れる死神の訪れ。


 果たして、彼女達は絶対の死地を切り抜けることができるのだろうか?


 それは、まだ、誰にも分からない………………





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