第555話 腕試し2




 ダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!

 ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!

 ダンダンダンダンダンダンダンダンッ!!!!!

 ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!



 夜の闇を引き裂く閃光と火花。

 激しい銃声と硝煙の匂いが交差し、戦場独特の環境を作り上げる。



 ベリアルが召喚した『炎獄の爪群』から放たれる銃弾の嵐が、荒野を駆けるヨシツネを追い回す。



 ガキンッ! 

 ガンッ!

 


 時折、刀を振るって銃弾を弾き、空間制御で作り出した障壁の盾で防いではいるが、相手は秒間千発を越える弾群。

 しかもヨシツネを囲むように四方八方から放たれているのだ。


 刀一本で対抗するには無理があるし、空間障壁では銃弾全てを防ぎきれない。


 空間障壁は物理相手には無敵だが、どうしても一方向への盾という形でしか発動できない。


 多重に空間障壁を並べて隙間を埋めることはできるのだが、それだと制御が難しくなりその場から移動困難となる。

 さらに消費も倍増するから、消耗戦とならざるを得ない。


 格上のベリアル相手には決して取れない手だ。

 だから、ヨシツネとしては逃げ回りながら、隙を伺っての一撃を狙うしかないのであろう。

 



「あははははははっ!!! いつまで逃げ回っているんだ? レジェンドタイプ!」



 自分の出した武装に追い回されるヨシツネを嘲笑うベリアル。

 


「ほらほらほら! もっと一生懸命逃げないと、穴だらけになるぞ!」



 Sっ気満々で実に楽しそうな表情。

 三又の槍を両肩で担いだリラックススタイル。


 とても模擬戦の最中とは思えない完全に舐めきった態度だ。



 しかし、対戦相手であるヨシツネは50にも及ぶ機銃による集中砲火を受け、とても攻撃する余裕なんて無い。

 ただ、ひたすらに銃撃を躱し続けているだけで精一杯。


 だからベリアルがあのような姿を見せるのもおかしくは無いのだろうが………



「いや、アイツはそんなタイプじゃない」



 ベリアルは尊大で傲慢な奴ではあるが、相手に対して何の採算も無く隙を見せるような奴ではない。

 短慮に見える行動を取ることもあるが、大抵は裏で緻密な計算を行っている。

 

 俺のチーム内のことだと、白兎にその目論見を潰されることも多いが、それはあくまで例外。

 非常に計算高く、先の先まで読んで布石を置くタイプなのだ。


 油断しているように見せながら、その実、ナニカを誘っていることも十分にありうる。



 パタパタ

『多分、ヨシツネが切り札を出すのを待っているんじゃないかな?』


「そうですな。よほどヨシツネ殿の刀を警戒しているのでしょう」



 俺の足元から白兎が耳を振るって推測を述べ、頭上から豪魔が補足。



「なるほど、確かに緋王クロノス戦を見ていれば、絶対に警戒しているはずだな」



 あれだけ理不尽な活躍を見せた『髪切』だ。

 ベリアルだってその場にいたのだから、最警戒対象であろう。



 フルフル

『どうやらヨシツネ、切り札を一枚切るみたい』


「え、マジか?」



 白兎達と言葉を交わしている間に、ヨシツネはこの場を打開する為の決断を行った様子。


 逃げ回るのを止めてピタリと停止。

 刀を脇構えし、ぐっと体勢を低く取る。


 それは獲物に狙いを付けた狼のごとき姿勢。

 繰り出されるのは敵の包囲網を食い破る秘奥であろう。


 あと一秒も経たないうちに動きを止めた所へ銃弾が殺到する死地。

 しかし、ヨシツネはただ冷静にベリアルの方向をじっと睨み、囁くように一言呟いた。




『無限八艘飛び 幻舞踊』



 

 次の瞬間、ヨシツネの機体が一瞬ブレた。

 そして、そのブレは刹那の内に何重ものヨシツネを作り出す。


 いや、十を超え、二十、五十、百………


 あっという間にヨシツネと同じ姿形の者達がまるで分身の術のように五百機以上も出現。

 夜の闇に蝶の群れが飛び立つがごとく、一斉にその場から飛び上がって戦場に散開。


 辺り一面、ヨシツネが姿で埋め尽くされたような光景が戦場に展開。

 今までヨシツネ1機 VS 50機以上の機銃群という戦いが、あっさりとその数を逆転。


 その差は十倍以上。

 瞬く間にヨシツネに有利な戦場を作り出した。




「何?」




 流石のベリアルも思わず面食らった模様。

 追い詰めたと思ったら、ヨシツネの分身が戦場を飛び回る光景が飛び込んできたのだ。


 どこを向いてもヨシツネが見える。

 どれも刀を構え、鎧兜で着込んだ武者姿。

 全て同一、外見からその差異が全く見分けられない。



「クッソ! 舐めるな! 全部撃ち落としてやる!」



 ダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!

 ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!

 ダンダンダンダンダンダンダンダンッ!!!!!

 ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!



 『炎獄の爪群』の銃弾がばら撒かれ、無数に増えたヨシツネへと降りかかる。


 だが、いずれも命中した様子も見せずにただ通り抜けるだけ。



 ヨシツネの『八艘飛び』は、発動時間を限りなくゼロに近づけた短距離空間転移の連続技。

 存在するように見えてもこの空間にはほぼ存在していないのだ。

 

 寸分狂わぬ同一時間に全てのヨシツネを同時に攻撃しなければ、攻撃は当たらない。

 50機以上の機銃と言えど、あれだけの数のヨシツネを一度に捕らえるのは難しいだろう。



「いや! いくらなんでもあの数は……………」


 ピコピコ

『あれ、ほとんどが幻影だよ』


「幻影? ……………なるほど、確かヨシツネは幻光制御が最上級にランクアップしていたな」



 空間転移を極めているヨシツネだが、あそこまでの連続転移は不可能。

 白兎の言う通り、幻影を駆使しているのであれば、あの数も頷ける。


 そして、あの数であれば、ベリアルの猛攻を凌ぐだけでなく………




 ドカンッ!!




 ベリアルが展開していた『炎獄の爪群』の1機がヨシツネの斬撃によって真っ二つに。



 ドカンッ!

 ドカンッ!

 ドカンッ!



 無数に散らばるヨシツネ達が、それぞれ刀を振るい、宙を舞う機銃の群を打ち落としていく。


 魔王が繰り出した機銃は1機1機が中位機種に等しい戦闘力を持つ。

 だが、ランクアップしたヨシツネにとってはたった一振りで倒せる雑魚敵でしかない。

 

 さらに数で言えば、幾百に分裂したヨシツネの方が上なのだ。


 数で攻めたベリアルだが、今度は逆にヨシツネが数で押している形。



 実際はヨシツネは本当に分裂しているわけではなく、そのほとんどは幻影か、空間転移の残像でしかないんだけど…………


 少なくとも機銃を切り捨てた瞬間はヨシツネはそこに存在している。

 だが、瞬時に別の場所に転移しているから、そこを狙うのは至難の業。



 ドカンッ!

 ドカンッ!

 ドカンッ!



 次々と『炎獄の爪群』を破壊していくヨシツネ。


 だが、魔王の奸計は『炎獄の爪群』を展開した時から始まっていたようで、





 バサッ……………



 

「なっ! これは………」



 

 『炎獄の爪群』の1機を切りつけたヨシツネの動きが止まった。


 『炎獄の爪群』を切り裂いたと思ったら、中から砂のような物体が飛び出し、ヨシツネの持つ刀にへばりついたのだ。



「砂鉄?」


「あはははははっ! 正解。…………まあ、正確には磁力を持たせた砂だよ」



 ベリアルはしてやったとばかりの満面の笑み。

 


「防御フィールドを展開して磁力を遮断できる機体と違い、武器はどうしても金属部分が剥き出しとなるからね。ちょっとばかり仕込ませてもらったよ」


「………………」



 ベリアルの説明に渋い顔のヨシツネ。

 すでにトンを越えるの量の砂鉄が刀にへばりつき、今の状態では武器として使うのは不可能。

 だが、ヨシツネにとって『髪切』は唯一の武装…………


 これを手放せば、全くの徒手空拳。

 いかにヨシツネでも魔王相手に素手では勝てない。



「さて、どうする? その刀と一緒に心中するか? それとも素手で僕に挑んでいるかい?」



 ニヤニヤと嫌らしい笑みでヨシツネに対して揺さぶりをかけるベリアル。



「お得意の空間転移で逃げてみるかい? 僕の妨害を乗り越えられるつもりならね、ハハハハハッ!!」



 ベリアルは三日月のように唇をひん曲げて笑顔を作る。

 美少年にはあるまじき悪魔ごとき嘲笑。


 完璧に主人公の前に立ち塞がる敵役の態度とセリフ。

 絶世の美少年と言う部分で割り引いても、悪役以外の何物でもない。


 全く以って性格の悪い奴だ。

 対峙しているヨシツネが和風ヒーローっぽい装いだから、どこをどう見てもベリアルが悪者。

 チーム内でのただの模擬戦のはずなのだが、どうしてもヨシツネを応援したくなってくる。



「さあさあ! 考えている時間は無いぞ! ほら、残りの『炎獄の爪群』がお前を狙っているのだからな!」



 ベリアルがバッと手を上げると、宙に漂う機銃群が一斉にその銃口をヨシツネへ向ける。


 対してヨシツネは感情を見せず、ただベリアルの出方を伺っている。


 ベリアルが手を振り下ろせば、幾千の銃弾が降り注ぐであろう。

 

 すでにヨシツネの刀は砂鉄に覆われ、使用するどころか動かすこともできない様子。


 飛び回っていた幻影もいつの間にか消え、ただの1機となったヨシツネには選択肢は2つしかないのだ。


 即ち、ここに留まるか、刀を捨てて回避するか。


 どちらを選んでもヨシツネの敗北は濃厚となる。


 それだけにベリアルは楽しくて仕方がないとばかりの表情でヨシツネを煽る。



「…………そうだね。以前、我が君が見ていたあの映画になぞらえて『3分だけ』待ってあげようか?」


「………………」


「その3分であの少年少女は奇跡を起こした。なら君も頑張って奇跡を起こしてみたらどうだい?」


「………………」



 ここで『天空の城 ラピュ○』ネタかあ…………


 そう言えば、1回目に見た時はベリアルは参加しなかったが、天琉に強請られて2回目を見た時はベリアルも一緒にいたな。


 あのベリアルが元の世界のアニメのシーンをなぞらえたことを言い出すなんて、ちょっと面白く感じてしまう。


 正しく今のベリアルは実に悪役っぽいから、そのセリフは似合っていると言えなくもない。



「では、3分をかぞえよう………」



 と、ベリアルがそう宣った直後、



 ダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!

 ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!

 ダンダンダンダンダンダンダンダンッ!!!!!

 ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!



 展開していた『炎獄の爪群』の銃口が一斉に火を吹いた。


 何千の銃弾がただ1点に集中したピンポイント射撃。

 爆弾が爆発したかと思う程の爆風が舞い上がり、ヨシツネが居た辺りを黒煙が包む。




 アイツ!

 3分どころか、10秒も待っていねえ!!

 嘘つきにも程があるぞ!!



 あまりのベリアルの嘘つきっぷりに思わず目を剥いてしまう。



 やはり虚飾と虚言を司る魔王であるベリアル。

 アイツの言葉は一斉合切信用ができないこと改めて確信させられた。



「いや、そんなことよりヨシツネは…………」



 超重量級をも物量で倒せそうな銃弾の数ではあるが、使われたのは通常弾だ。


 超高位機種になれば、その程度では致命傷を負うことは滅多に無い。


 ヨシツネも幾分かの破損は免れないだろうが、流石に大破することはあるまい。



 …………ベリアルがトドメとばかりに追撃しない限り。



 もちろん今のベリアルならわざわざそんなことはしないと思うけど………


 でも、絶対とは言い切れないから、勝負がついたのであれば制止しないと………

 

 

 

 フルフルッ!

『まだ、まだだよ! まだ終わっていない!』



 足元の白兎が興奮しながら耳をフルフル。

 


 パタパタ

『ベリアルの妨害を強引に突破して、間一髪、空間転移で逃れたみたい』


「ええ? じゃあ、どこに…………」


 ピコピコ

『今は亜空間に潜航中。でも、そんなに長く籠ってられないだろうから、すぐに出てくると思うけど』



 どうやらヨシツネは愛刀『髪切』を手放し、回避を優先したようだ。


 空間転移は非常に精密な演算を要求される高度な能力。

 空間制御が特級であろうと、自らの機体や武装以外と一緒に転移するのは難易度が高い。


 例外的にヨシツネの奥義である『空間大転移』であれば、一軍丸ごと転移させることも可能。

 だが、発動には数分の時間を要す為、この場では使えない。


 また、自身の亜空間倉庫への収納も同様。

 自身が完全に体積を把握している武装ならともかく、初見のモノを収納するにはどうしてもタイムラグが存在する。

 

 その容積を把握するのに、動かない一定以下の大きさの固定物なら数秒。

 しかし、水のような不定形物や形を変動させる軟性の物体はその解析に1分以上かかることもある。


 故にヨシツネはへばりついた砂鉄ごと刀を収納できなかったのだ。

 

 だからヨシツネの刀はあの場に置いておかれてしまったはず。


 つまりヨシツネは今、無手の状態。

 武器が無い状態でどうやって魔王相手に戦うつもりなのか………



「フンッ! そろそろ出てこないとこちらから空間を揺り動かして叩き出すぞ!」



 ベリアルは三又の槍を構えながら、ドスの利いた脅し文句を言い放つ。


 その脅しが聞いたと言う訳ではないのだろうが、ベリアルの背後の空間が揺らめき始め、



「さあて、どんな面で僕の前に現れるつもり…………」



 背後へと振りかえり、手の中の槍の矛先を向けようとした時、



「!!!」



 ベリアルの顔が強張った。


 それは珍しく狼狽した姿であったのかもしれない。




 ベリアルが目にしたのは、何もない空間から現れたヨシツネ。


 着こんだ鎧から立ち上る煙は何発か銃弾が当たった跡であろう。


 多少ぎこちなさを感じさせる動きは、ベリアルの妨害を無理やり突破して、亜空間へと逃げ込んだ影響か。


 明らかに負傷し、疲労困憊した姿。

 今の状態のヨシツネであれば、得意の近接戦であっても、余力を残すベリアルには勝てなかったに違いない。

 

 



 ヨシツネの手に構えられた、節くれ立った巨木の枝にも見える1.5m程の砲塔がなければ。


 それは俺がヨシツネへと褒美で与えた発掘品のロケットランチャー砲。

 

 鐘守が見れば間違いなく聖遺物と認定するであろう凶悪な威力を秘める武装。


 光の針を振り撒き、触れたモノを塵へと帰す。


 刻まれた名は『貫き還るモノ』。





「……………おい、それは卑怯じゃないか?」




 憮然とした表情で問うベリアル。




「これは拙者がマスターより賜ったモノ。すでに拙者の一部です」




 ただ事実だけを口にするヨシツネ。



 

 10m程の距離を置いて睨み合う2機。


 目には見えずとも2機の間で火花が散っているのが幻視できる。




「そういや、ヨシツネが『貫き還るモノ』を持っていたのを忘れてたな」




 自分で与えておきながら、あまりの出番の薄さにその存在がすっかり頭から抜けていた。

 

 なにせ、今まで出番があったのはたった2回。

 

 野賊の本拠地で遭遇したレジェンドタイプ 機械種ダルタニャン戦と、最初の紅姫の巣で出てきた機械種バジリスクに使っただけ。


 どちらも1撃で相手を消滅させた。

 おかげで何も手に入らなかったけど。


 威力が高すぎて使い所が難しい。

 獲物を塵に還されたら、得るモノも得られないから。




「ベリアルも、アレを見たのは初めてのはず…………、でも、一目見ただけでその厄介さを見抜いたのか。流石は魔王…………」




 いくら魔王でもあの距離で『貫き還るモノ』を躱せない。

 そもそも回避するのが非常に困難な武器なのだ。

 

 発射されたが最後、盾となる相当量の物体を出して防ぐか、空間転移で遠くに逃げるしかない。

 

 もちろん盾となったモノは原子に分解されるから、修復は不可能。

 ベリアルが持つ従機や戦車の一部を出せば盾にできるだろうが、間に合うかどうか分からない上、成功しても文字通り身を切ることと同義。 


 また、空間転移で逃げようにも、ヨシツネに妨害されるのは分かり切っている。


 そもそも空間制御であればヨシツネの方が上なのだ。

 出力では上回れど、ヨシツネの前から逃げ出すことは難しい。



 辛うじて空間障壁を防ぐことはできるのだろうが、あの誘導弾は速度は遅いものの、かなりの時間滞留して相手を狙い続ける仕様。

 一方向だけ遮っても、回り込んでくるから相当にタチが悪い。

 

 つまりあそこまでの近距離で構えられた時点でベリアルの負けが確定した。


 …………もちろん模擬戦という前提の話だ。


 ベリアルのことだから、形振り構わずならば取りうる手段はいくらでもあるだろうけど。 




 それに、実際にはヨシツネが『貫き還るモノ』を発射することは無い。

 あくまで撃つことが可能であることを見せつけただけだ。

 しかし、それでも模擬戦においてヨシツネが詰みの状況にまで持ってきたのは一目瞭然。




 しかめっ面でヨシツネを睨みつけているベリアル。

 

 微動だにせず『貫き還るモノ』をつきつけたままのヨシツネ。



 

 そうした状態が続いたのは1分少々。


 沈黙を破ったのは、ベリアルから。


 忌々し気に顔を歪めながら口を開く。

 



「……………フンッ! 今日の所は一本取られたとしておいてやる」


「………………手合わせ、ありがたく。良い勝負でした」


「言っておくが、お前に負けたんじゃない。我が君がお前に与えた品に負けたんだ。そこを忘れるなよ……………、ヨシツネ」


「承知致しました、ベリアル殿」




 


 こうして深夜の荒野で執り行われたヨシツネの腕試しは終了。


 その本領たる『炎の戦車』の全容を見せず、ただ一部を限定召喚しただけのベリアルであるが、それでも格上であるはずの魔王から一本取ったのだ。

 

 新たな力を得たヨシツネの力量は、緋王に十分対抗しうるものであることが分かった。


 これから苦難の道を進むであろう俺を支えてくれる大きな力となってくれるだろう。




「さて、ヨシツネ殿の健闘を称えねばなりませんな」


「ああ、豪魔。そうだな、俺も行こう。白兎も来るだろ?」



 模擬戦が終わったので、大金星を挙げたヨシツネに声をかけるべく豪魔が動く。

 当然、俺も一緒に行くし、白兎も来るだろうと思っていたが、なぜか白兎はその場を動こうとせず、



 フルフル



「んん? どうした、白兎。一緒に行かないのか?」



 パタパタ



「…………あ、そう。負けたベリアルを煽って来るって? あんまり揶揄い過ぎるなよ」



 ピコッ! ピコッ!



 白兎は嬉しそうにピョンピョン跳ねながら、地面に座り込み不貞腐れているベリアルの方へと向かっていた。





 俺と豪魔でヨシツネの健闘を称えていると、やがて聞こえてくる騒がしい喧噪。



『煩いぞ! クソウサギ! 誰がム○カだ!』 

『最近負けキャラが板についてきただと? やかましい!』

『その耳を引っこ抜いてやる!』

『チョコマカ逃げるな!』




 荒野の一画でまたも始める魔王とウサギの追いかけっこ。

 もう俺のチームのお約束と言っても良い光景だ。


 


「なんだかな~」


「流石は白兎殿。拙者はまだまだでございます」


「白兎を見習わなくていいからな、ヨシツネ。お前は真面目組でいろよ」


「ハッ! ………………はあ?」



 俺の命令の意図が読めず、戸惑う様子で返してきたヨシツネの声は、いつもよりも実に人間臭く聞こえた。



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