第554話 腕試し1



 街から遠く離れた夜の荒野。


 遥か空から降り注ぐ月光と薄ぼんやりと輝く白鈴の光だけが辺りを照らす。



 夜の荒野は機械種インセクトの支配下だ。

 最弱のレッドオーダーにして、最凶のレッドオーダー。

 体長30cm未満の機械種の中では極小のサイズ。

 子供でも武器さえあれば容易に破壊することができる程度。


 しかし、数が増えればその脅威は倍々ゲーム。

 白鐘の届かぬエリアであれば無尽蔵に増えていく。


 数千、数万、数億ともなれば、その数による圧力は超高位機種にも劣らない。


 周りを囲まれてしまえば、どのような高位機種でも長時間対抗することは難しい。

 押し寄せる機械種インセクトの津波に飲み込まれ、ジワジワとマテリアルを消費させられて、いずれは障壁を食い破られることとなるだろう。


 故に夜の荒野は機械種インセクトが我が物顔で飛び回る虫の園。

 超重量級ですら侵せぬ最弱にして最小の機械種達の夜会。



 だから人間は日が暮れたら外に出ようとはしなくなる。

 白鐘の恩寵の元に集まり、日が昇るのを待つしかないからだ。


 だが、人間の手の中には、機械種インセクトに対抗する幾つかの手段がある。


 その一つが『白鈴』。

 直径3cm程度の小さな球状の物体。

 これを作動させることにより、一定の範囲にセーフエリアを作り出すことが可能となる。

 白鈴から発する波動が機械種インセクトを遠ざけるのだ。


  

 今、この荒野の辺りを白く照らし、機械種インセクトを遠ざけているのもその『白鈴』の効果。

 


 そして、一時的に機械種インセクトを排除した範囲内で、激しく火花を散らしながらぶつかり合う2機の機械種。




 1機は全高15mに達する巨躯を持つ巨人。


 頭から張り出した角。

 翼竜のごとき翼と尾。

 虎や熊などの肉食獣めいた爪。

 

 その姿は正しく大悪魔。

 それも最高位に属する魔王に準じる力を持つ存在。


 その機種名は機械種アークデーモン。

 マスターより与えられた名は豪魔。



 もう1機は身長180cm程の人型。

 

 群青色の武者鎧。

 仮面を被り、刀を構えた武人。

 月光に煌めく刃は神を切る『髪切』。

 

 それは伝説を越え、神話となった英雄の姿。

 『空』を極め、『間』を掌握した神出鬼没の武神。


 その機種名はミソロジータイプ、機械種シャナオウヨシツネ。

 俺や仲間からは今まで通り『ヨシツネ』と呼ばれているが。




 俺の目の前で行われているのは、新たな力を手に入れたヨシツネの腕試し。


 肉弾戦においては我がチームの最大戦力とも言える豪魔との模擬戦。


 実力が近いモノ同士の真剣勝負。

 果たしてどちらの軍配が上がるのか…………




 ボオオオオオオオオオオッ!!!




 豪魔はその巨大な腕を縦横無尽に振り回してヨシツネに襲いかかる。


 ヨシツネは軽やかなステップで躱し、時には障壁を展開して攻撃をいなす。



 攻める豪魔に守るヨシツネ。

 


 本来2機の特性を考えれば逆であろう。


 神速と転移を組み合わせた機動に、一撃必殺の技を持つヨシツネは本来アタッカー。

 

 巨人型に迫る上背と堅牢無比な防御力、銃弾を無効化するAMFを持つ豪魔はタンクが役割。


 しかし、この模擬戦の目的は、ランクアップしたヨシツネの能力を確かめる為。

 

 あえて不利な状況を作り出して、そのポテンシャルの限界を確かめることが今回の課題。


 


 ガチィィィィィッン!!!




 豪魔が振るった剛腕がヨシツネの展開した重力障壁を叩く。


 豪魔の計算された攻撃の組み立てが、ヨシツネの逃げ道を塞ぎ、その足を止めさせた。


 その上でのはち切れんばかりの凶悪なパワーを乗せた強烈な一撃。


 真上から叩きつけられたソレは、地上でふんばるヨシツネを押し潰さんと圧力をかける。 


 さらに豪魔は、自身に備わる最上級の重力制御を以って、重力障壁に干渉。


 縫い合わされた布を解くように、重力障壁を霧散させようと力を注ぐも、




「ぬう? 硬い…………」



 

 豪魔の口から呻き声が漏れる。


 あまりにも重力障壁の構成が固く、霧散どころか弱めることすらできそうにない様子。

 これはヨシツネの重力制御はランクアップしたことで特級となり、豪魔の重力制御を上回る為だ。


 通常同級のスキルであれば、出力が大きい方が勝つ。


 中量級のヨシツネと、超重量級の豪魔ではその出力差は歴然。


 だが、たった1ランクの差が何倍以上の出力を持つ豪魔の重力制御を跳ね除けたのだ。


 これは攻める方より守る方が優位になる点もあるだろう。


 この重力障壁をただ上から抑えつけているだけでは解除は不可能。



「ならば…………」



 豪魔は呟きを残して、その巨体を異空間へと滑り込ませる。


 それは空間制御を用いての短距離空間転移。


 その移動先はほんの僅か………全長15mを越す豪魔にとっては。




 ボフォッ!!



 地上数十メールの空中に大魔神の巨躯が出現。


 周りの空気を押し退け、3,4階建てのビルにも匹敵する質量が夜空の月を隠すように現れる。



「これはいかがか?」



 豪魔は空中で両手を組み、ハンマーを叩きつけるように真下へと急降下。


 さらに重力操作も加え、何百トンもある豪魔の機体が何千トンとなって、ヨシツネの頭上へと落ちてくる。


 それは小隕石となんら変わることの無い威力を発揮するであろう攻撃。


 たとえ重力障壁を張ったところで持ちこたえられるわけもない暴威。



 カチャ………



 しかし、ヨシツネは避けようともしない。

 

 ただ落ちてくる巨大な豪魔の機体を迎撃せんと刀を構えるだけ。


 自信の何十倍もの大きさの機体を、刀一本でどうにかなるはずもないのに。




 あれ? 空間転移で回避すれば良くね?




 今回は模擬戦の立会人であるはずの俺だが、ふと湧いた疑問に頭を捻る。


 だが、次の瞬間、思い当たることがあり、その疑問は氷解。



 おそらくヨシツネが空間転移で回避しようとしないのは、同じ空間制御を持つ豪魔が転移を妨害する可能性を考えてのことだろう。


 障壁の解除と違い、空間転移の妨害は制御レベルよりも出力がモノを言うからだ。


 ただ波動を発して空間を波打たせるだけだから、制御レベルが上であるはずのヨシツネでも、この場での空間転移は難しい。


 さらに豪魔の空間転移をヨシツネが妨害できなかったのも出力差のせいであろう。

 

 多少の妨害など、超重量級の生み出す出力を以ってすれば力技で突破できる。


 この辺りが超重量級の優位な点なのだから。



 

 ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!




 落ちてくる巨大な青白い鉄塊に対し、ヨシツネは刀を真上に構えて刺突。


 直径1mを越える豪魔の両拳と『髪切』の先端が激突。


 轟音が鳴り響き、火花が散る。

 

 眩い閃光が走り、稲妻が舞い踊る。


 この瞬間に、星が割れたのかと思う程のエネルギーが迸った。


 それは超威力を秘めた破壊力のぶつかり合い。

 

 例えるならロケット同士の正面衝突に等しい現象。


 ただし、どちらも衝突エネルギーに自壊することなく、ただ力比べとばかりにせめぎ合っている状態。




「嘘! 互角?」



 俺の口から驚きの声が飛び出す。


 15mを越す鉄巨人の攻撃はわずか数ミリの厚さの刃先で受け止められたのだ。


 まるで落ちてくる隕石を棒一本で支えているような奇妙な光景。


 パワーであれば超重量級である豪魔の方が確実に上であるはずなのに。


 しかも、あの細い刀があれだけの重量物とぶつかって折れもしないとは………




 物理的に言えば在り得ない状況。


 しかし、現実に起こっているのだから認めざるを得ない。


 一体どのような現象が働いているのか…………





 ドシンッ!!




 2機のぶつかり合いは、豪魔が下がったことで一旦終了。


 その巨体を覆う装甲の合間から蒸気を噴き出して機体の冷却を行う豪魔。


 ヨシツネが豪魔の戦意が消えたこと確認して構えを解く。


 やがて、向かい合っていた2機は、それぞれゆっくりと戦闘態勢を解除。

 

 お互いに通常モードへと移行したことを確認し、フッと砕けた雰囲気を纏い始める。



「お見それしましたな、ヨシツネ殿。まさかここまでとは………」


「いえ、かなり際どい所でした。あと数秒続けられたら危なかったでしょう」


「ふむ………、衝突エネルギーを空間制御で異空間に逃しましたか? あの戦闘の最中にそこまで微細なコントロールを行えるとは………、流石は『空間制御(特級)』」


「主様より名を賜った、この『髪切』があってこそです。この刀なら耐えられると確信しておりましたので」



 互いに力量を確かめ合ったヨシツネと豪魔。

 間に流れる雰囲気は激戦の後とは信じられないくらい穏やかなモノ。


 豪魔が機械種アークデーモンにランクアップしてから、戦闘力についてはヨシツネを上回っていたが、今回の件でどうやら抜き返された模様。

 しかし、元々仲の良い2機だから、その辺には全く拘りが無い様子。



「お疲れ様、お二人さん。どっちもなかなかの健闘ぶりだったぞ」



 頃合いを見計らって2機へと近づき、立会人としての感想を述べる。



「豪魔は相変わらずのパワーだな。お前の全力を活かすことのできる戦場を用意できないことが申し訳なくなるくらいだ」


「誠に恐れ多い………、我としては十分に暴れさせていただいております」


「はははは、いずれもっと暴れてもらうことになるだろうな。それとヨシツネ。空間制御も重力制御も以前とは段違いにパワーアップしたな。これからも先陣を任せることになるだろうから、早く機体の性能に慣れてくれ」


「ハッ! 拙者の全力を持ちまして、必ずや頂いた力を使いこなせるように致します!」



 俺の言葉に、共に膝をついて頭を下げる2機。

 

 どちらも真面目組だから、いちいち反応が大げさだ。



 パタパタ


 そんな2機に今度は自分の番とばかりに白兎が耳をパタパタさせながら近づいていく。


 そして、後ろ脚で立ち上がって、耳をフリフリしながら先ほどの模擬戦について論評を語る白兎。


 ヨシツネには超重量級相手の立ち回りを、豪魔に対しては空間転移発動のタイミングをそれぞれアドバイス。


 自分達より格上である筆頭の言葉故に、ウンウンと頷きながら聞き入るヨシツネと豪魔。


 これも普段からよく見る光景。

 長い付き合いである3機だから、その分気安い関係を構築できていると言える。



 『白兎』、『ヨシツネ』、『豪魔』。



 3機ともメンバーの中では俺に長く仕え、破格の戦闘力も備えたチームの中核。

 俺が居ない所でも信頼して任せることができる重鎮。


 やはり、チームの実力者として互いに仲が良いことは何よりだ。

 いくら戦闘力が高くても、皆と慣れあわず喧嘩ばかりしていては、安心して任せることが…………




「おい、レジェンドタイプ。ちょうど良い食べ頃になったかもね。どうだい? 僕とも一戦してみないか?」



 

 穏やかな雰囲気を空気を読まずに口を入れてくる奴が1機。


 ヨシツネと豪魔のぶつかり合いに巻き込まれないように造られた後方の安全地帯で、森羅達とつまらなさそうに観戦していたはずのベリアル。


 いつの間にか毘燭や秘彗が構築した結界を抜け出て、こちらまでやってきた様子。

 


 夜の闇に一際輝く絶佳の美貌。

 薄っすらとした光を纏い、文字通り輝ける貴公子といった風情。

 

 しかし、浮かべる表情は物騒極まりない。

 極上の獲物を見つけた肉食獣…………いや、捧げられた生贄を前にして、絶好の玩具と見る魔王の姿か。



 緋王クロノス戦で失った頭の双角も、胡狛の手で暴竜の牙を使って修復済み。

 

 角の形は変わらないけれど、内に秘める圧迫感が一層増したような気がする。


 まるで空を覆い天を焦がすと言われた空の守護者、機械種テュポーンの力の一部が宿ったかのように………… 





「フフフ、きっと君にとっては得難い経験になるはずだよ。それは間違いなく我が君の為にもなることさ。悪い話じゃないだろう?」



 にんまりとした笑みを浮かべて、甘露を濃密に煮詰めたような甘言を口にするベリアル。

 


「大丈夫だよ。きちんと手加減するから。また左腕を失うなんて無様な姿を晒すことはないさ。君がよほどヘマをしない限り………ね。まあ、怖いのなら無理にとは言わないよ。そのクソウサギの腹の下に隠れるなら、僕も無理に勝負を挑んだりなんかしないけど?」



 さらに挑発的な物言いを繰り返す。



「おい! ベリアル!」


「我が君……………、僕は単にレジェンドタイプの腕試しに協力してあげるって言ってるだけだよ」


「…………それにしたって、言い方があるだろ」


「その辺は僕の仕様だね、諦めてほしい」



 俺の注意に悪びれる様子も無いベリアルに、



「…………では、ベリアル殿。一戦お手を煩わせてもよろしいか?」



 ヨシツネからの受諾の返事が届くと、



「へえ?」



 その返事に、ベリアルはピクンと片眉だけ上げて、


 

「いいね。面白くなりそうだよ」



 万人を魅了する蕩けるように華やかな笑みを浮かべた。

 











 向かい合うヨシツネとベリアル。

 

 俺のチームの次席と、チーム最高戦力の組み合わせ。 

 

 どちらも俺のチームの重要なポジションに入るが、お互い接点の少ない2機。


 生真面目なヨシツネに、享楽的なベリアルでは相性が良いはずがない。


 それでもヨシツネは次席としてベリアルに話しかけることはあるし、ベリアルもヨシツネには一目置いたような扱いをする。


 まあ、ヨシツネは、俺に対しぞんざいな口を利き、時には攻撃も仕掛けるベリアルのことを、決して良く思っていないだろうが。



 

 さて、この戦いはどうなるか…………



 白兎や豪魔と共に観戦しながら、今回の模擬戦の展開を予想。




 腰の愛刀を抜いて、八相に構えるヨシツネ。


 自身の亜空間倉庫から三又の槍を取り出して、肩に担いでいるベリアル。



 ヨシツネがランクアップする前なら、その力量差は如何ともしようが無かった。


 しかし、今のヨシツネはミソロジータイプ。


 臙公や紅姫、緋王や朱妃がブルーオーダーされた際に割り振られることが多い型。


 その範囲は広い為、どこまで性能が上昇しているのか判別しづらいが、それでも以前の何倍も強くなっているのは間違いない。


 機械種の中でもトップレベルにあるベリアルとの実力差は、どれくらい縮まっているのであろうか?



 つーか、ベリアルのあの曰くありげな三又の槍は何だろう?

 あんな武器、緋王クロノス戦でも見せなかったくせに………


 

 まるで悪魔が持つようなおどろおどろしい装飾が施された槍。

 魔王が保有している以上、ただの槍であるはずが無いのであろうが………



 ベリアルが持つ槍を訝し気な目で見つめる俺を他所に、相対する2機は戦闘開始まで秒読み段階まで来ていた。

 


「行きますぞ、ベリアル殿」



 まずはヨシツネがベリアルに対して宣言。



「いつでも来いよ、レジェンドタイプ」



 対するベリアルは馬鹿にしたような口調で返す。



「拙者はもうレジェンドタイプではありませんが?」


「僕に一矢でも報いることができたのなら、名前を呼んでやるよ」


「その言葉、お忘れなきよう」


 

 更なるベリアルの挑発にも声を荒げずに応対するヨシツネ。


 そして、グッと体勢を一瞬低くしたかと思うと、



 

 ビュンッ!!




 先に攻撃を仕掛けたのはヨシツネ。


 目も止まらぬ速度で詰め寄り、ベリアルに向かって刀を振り上げる。


 それは真正面からの上段切り降ろし。


 鉄を断ち、水を切り、風を薙ぎ、空間すらも切断するヨシツネの斬撃。


 まともに喰らえばたとえ魔王であろうと致命傷は免れないはず………



 

 んん?

 ベリアルの奴、避けようともしない?


 

 思考を極限にまで加速させながら2機の勝負を見守る俺の目には、ベリアルが薄笑いを浮かべている様子が映る。


 自身の武装である三又の槍で防御しようとする素振りさえ見せない余裕。

 

 その超然とした姿は魔王に相応しいモノだが、今のままでは一本取られてしまうのは間違いない。




 緋王クロノス戦で見せた近接戦モードにもなっていないみたいだし………

 どういうつもりだ?



 元々近接戦においては、最高峰の実力を持つヨシツネだ。

 その技量はレジェンドタイプの枠を飛び越え、緋王や朱妃の位にまで到達している。

 

 それがさらにパワーアップしたのだから、ベリアルにとっては近寄らせれば不利になるはずなのだ。

 いかに魔王とて、伝説級を越え神話級となったヨシツネの剣技には対抗できない………

  


「かあっ!」



 裂帛の気合と共に、ヨシツネが刀を振り下ろす。


 ベリアルの頭上に振るわれようとする『髪切』。

 先の戦闘においては『空間障壁』や『時乱流』を滅し、緋王クロノスの左腕を刎ね飛ばした至高の刃。


 なにせ時空神を傷つけたのだ。

 魔王だって通用するであろう。

 

 しかし、ベリアルは余裕の笑みを崩さず、まるで自身にその刃を受け入れるかのように…………… 





 ダンッ!!




 突然、ヨシツネがその場から地面を思い切り蹴って飛びのいた。


 なぜか、半ばまで振り下ろした刀を急制動。

 その上で、無理やり機体を捻って後方へとジャンプ。

 

 それはあまりにも急な方向転換。

 体勢を崩しながらの緊急避難のごとき後退。



 その直後、




 ダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!

 ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!

 ダンダンダンダンダンダンダンダンッ!!!!!

 ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!




 ヨシツネが居た場所に四方八方から銃撃が襲う。


 完全無欠のクロスファイア。

  

 いや、クロスどころか、包囲網からの集中攻撃。

 

 ほんの数瞬、飛びのくのが遅ければハチの巣になったかもしれない程の弾幕。




「フフフ………、随分と勘が良いじゃないか?」



 ヨシツネの身も蓋も無い逃げっぷりに、ベリアルは気を良くした様子で問いかける。



「でも、美しさの欠片も無いその無様な姿は、我が君の配下としては相応しくないかもね」



 さらに弾むような声でヨシツネを嘲る。


 猫がネズミをいたぶるような、そんな響きを含む口調。



「その次席の地位も返上したらどうだい? レジェンドタイプ?」



 月明りの下、満面の笑みを浮かべて嘲弄の言葉を投げつけるベリアル。


 そして、周りにはいつの間に何十もの機影が浮かんでおり、



「銃座?」



 思わず、俺が口にした感想。


 それは正しく戦艦や戦車に取り付けられているような銃座。

 1m近い銃口を備えており、まるで宙に浮かぶ機雷のごとくこの戦場を囲むように展開していた。

 

  

「限定召喚『炎獄の爪群』………だよ。まあ、大した威力は持っていないけど、虫けらを追い払うにはちょうど良いのさ」



 俺の漏らした感想に、ベリアルは自慢げにつけ加えてくる。

 

 その顔は自分の力量を認めてもらいたいと意気込む年相応な少年に見えた。


 しかし、すぐさま表情を酷薄なモノへと変え、体勢を整え直したヨシツネへと向き直る。



「さあて、レジェンドタイプ。君は火に焼かれる虫けらか、それとも…………」



 ベリアルの周りを漂う銃座が一斉にヨシツネへと銃口を突きつける。


 一つ一つが重量級をもバラバラにするほどの威力と連射能力を備えた機銃を備えた銃座群。


 それがざっと数えるだけでも50機以上。

 

 いかに回避に優れたヨシツネでも、あれだけの一斉掃射を避けきれるだろうか?


 


「この試練を潜り抜けて、マスターに仕えるに相応しい実力を示すことができるかな?」



 

 ベリアルは楽しくて仕方がないといった感じの屈託のない笑顔でそう宣った。




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