第550話 教導



 白兎、ヨシツネ、胡狛をボノフさんに預けてお店を出る。


 修理が完了した四鬼の機体は、とりあえず一旦持ち帰ることにしたので、秘彗の亜空間倉庫に放り込んだ。

 直接従属契約を行うか、ボノフさんの提案通り従機に落とすかは決めていないが、どちらにしてもブルーオーダーが必要。

 適正級の蒼石は2つしかないから、残り2機は3割の悪魔に挑戦するつもり。


 もちろん俺がやるのではなく、バッツ君にお願いする予定だが………

 


「後で孤児院に寄ってみるか………」



 次に向かうのは教官の所。

 

 俺達は街中を通り過ぎて、閑散とした町外れへと向かう。


 俺と同行するのは天琉に秘彗、それと剣雷。


 先に秤屋へ寄らないのは天琉が一緒に居る為。



 万が一、天琉の素性がバレてしまえば大騒ぎになりかねない。


 フードを被り、街中をうろつくだけなら、単なる子供としか見られないだろうが、秤屋に入れば確実に好奇の視線に晒される。

 

 新進気鋭の狩人が明らかに場違いな子供を連れていれば、機械種ではないかと疑われるに決まっている。

 そこから天琉が機械種ドミニオンと見抜かれたら目も当てられない。


 機械種アークエンジェルの時点でボーダーラインぎりぎりであったのだ。

 機械種ドミニオンとなった天琉はその存在を知られるだけで大問題。


 戦闘力もさることながら、その攻撃範囲と飛行能力がエグ過ぎるから。


 空高く飛行すれば誰も追いつけず、高高度から光の翼をはためかせれば、幾百の光の槍が地上へと降り注ぐ。

 

 街一つ壊滅させるなど朝飯前。

 もちろん、白鐘の恩寵があるから、実質不可能なことではあるが、この場合その能力があることの方が問題なのだ。


 辺境最大の街と言えど、常駐する飛行型機種の数は少なく、機械種ドミニオンに対抗できる機種などいるはずもない。

 そんな機種が何の枷も無く、街中をうろつくなど許されることではない、と言う意見が必ず出てくるであろう。


 個人的にならガミンさんやミエリさんも大目に見てくれるかもしれないが、話が公になれば、公人として対処せざるを得なくなる。

 確実に調査が入り、厳重に調べ上げられた挙句、場合によっては何重にも制限がかけられる。


 もし、天琉に加害スキルが入っていたなら、その場で御用。

 そうでなくても、監視の目が強まるのは間違いない。




「教官に会うのが初めてなのは、剣雷だけだな?」


 コクッ


 俺の問いにコクンと頷く剣雷。

 


「世話になっている人だから、多少口が悪くても喧嘩を売ろうするなよ。向こうはかなりの年月を人間社会で過ごしている大先輩で、この街を守っているガーディアンでもあるんだ。その辺りには敬意を払ってくれ」


 コクコクッ



 俺の護衛として張り切っている剣雷。

 真面目な騎士系だけに、教官の挑発的な物言いがカチンッと来る可能性もある。

 先に釘を刺しておかないと、不幸な出会いにもなりかねないから。


 

「あい! テンルは会ったことがあるよ! バンバンバンって撃ち合った!」


「はいはい、その辺は白兎から聞いているさ」


「それでね! 収束制御を封じられちゃって……、でも、テンルがビュンって、弾いて、ダンッ! って『兎山靠(うざんこう)』でぶっ飛ばしたんだ!」


「分かった、分かった…………」



 天琉と廻斗が打神鞭の口車に乗せられて街の片隅に誘導された時の事。

 ここに迷い込み、教官とドンパチやらかしたのだ。


 ちょうど教官が悪漢達とやり合っていた最中であったらしく、それを覗き見していたことで、敵と思われて戦闘になってしまったという。

 勝負自体は決着しなかったようだが、教官相手に肉薄し、その実力を高く認められた様子。


 

『次来る時はあの小僧を連れて来てくレ。何、ちょっとしたアドバイスをくれてやるだけダ』



 珍しく嬉しそうに話す教官。

 一体天琉のどこがその琴線に触れたのであろうか?

 機械種同士の戦闘についてレクチャーしてくれるとのことであったが、このお子様に何を教えるつもりなのだろう?

 

 しかし、当時の天琉は機械種アークエンジェルで、今はその上位機種である機械種ドミニオン。

 もうすでに教官よりも能力的には強いはず。

 果たしてそのアドバイスというのは…………



「マスター、到着致しました」


「んん? 着いたか…………」



 見ればいつもの閑散とした空き屋が立ち並ぶ廃墟の一画。


 奥に開けた空き地があり、その前で立ち尽くす人影が一つ。



「教官!」


「ヒロ………カ。強大な力を持つ機種が3機も近づいてきたから、警戒していたガ…………」



 テンガロンハットに薄汚れたトレンチコート。

 その上からポンチョを着た昔ながらのガンマン姿。

 ただし、顔は包帯でグルグル巻き。

 袖や裾から見える手足にも巻かれており、外見からは全くその素性が見えてこない。


 この人………機械種がこの廃墟に住む機械種ガンマン。

 貧しい子供達に生きていく術を与え、度を過ぎた悪漢を狩る心優しきアウトロー。



「フム……、よく見れバ、天使の小僧に一度見た魔法少女系カ。どちらも随分と力を増したから分からなかったゾ…………、デ、そっちが噂に聞くストロングタイプの騎士系だナ」


「はい! 剣雷といいます」


 コクッ


「あと、もう1機、剣風という騎士系もいるんですが………」


「騎士系が2機カ…………、2機がかりなら真正面からは相手にしたくないナ」


「ご冗談を…………、今日は遠征の結果のご報告と、前におっしゃっていました天琉を連れて来ました」


「そうカ…………、では、こっちで話を聞こウ………、あア、ちなみに、絶対に正面は通るナ。命の保証はできないゾ」


「ええっ! ………はい、気を付けます」



 多分、罠を仕掛けてあるんだろうな。

 

 俺達は恐る恐る道に端に寄ってから教官の元へと向かった。






 





「なるほド、遠征は大成功ということカ」


「そうですね。こうして天琉も秘彗もランクアップしましたし。それに皆、無事に街へと帰ることができましたから…………」



 射撃場に使っている空地へと移動して、今回の遠征の結果についてサラっと報告。


 射撃場にはまだ誰もおらず、ガランとした光景。

 まだ、時間が早いのであろう。


 これから夕方近くになると仕事を終えた子供達が集まってくるのだ。

 だいたいこの時間であれば教官とゆっくり話をすることができる。

 


「でも、ヨシツネは左腕をやられて修理中で………」


「ほウ? アイツが手傷を負うような相手カ。興味があるナ」


「えっと………、もう倒しましたからね」



 どうも教官は強者に強い関心を持っている様子。


 口癖のように死にたがっているようなセリフを呟くから、自分を破壊してくれる相手に興味が向くのであろう。

 

 最愛のマスターを失ったファントムであれば、致し方ない事なのであるが。



「そういえば、教官…………、その…………、天琉にレクチャーをしてもらうという件ですけど…………」



 傍に控えていた天琉を前に出して、話題を変える。



「ウン? そうだナ………」



 俺の前に立つ天琉をじっと見下ろす教官。

 その目は天琉の戦闘力を見定めようとする戦士の目。


 対して、天琉はポケッとした顔で教官の顔を見上げている。

 包帯姿のガンマンに間近で見降ろされたなら、普通の子供なら怯えていただろうが、天琉は気にする素振りも見せず、



「あい? おじちゃん、何か用?」


「………………誰がおじちゃんダ?」



 明らかにムスっとした反応を見せる教官。

 流石におじちゃん呼ばわりは気に入らないようだ。


 しかし、天琉はそんな教官の様子にもどこ吹く風で、



「あ~い? ……………なら、おばちゃんなの?」


「誰がおばちゃんダ!!!」



 声を荒立てて、グワシッ! と天琉の頭を真上から鷲掴み。


 珍しく教官の感情的になった姿だ。

 狂的に大笑いする姿は見ても、あれだけ感情を乱した教官は初めて。


 しかし、天琉は全く分かっていない感じで、

 

 

「あい? おばちゃんじゃなければ、おじいちゃん? それとも、おばあちゃん? 」


「一度頭をかち割ってやろうカ? コイツ………」



 頭を鷲掴みされたまま不思議そうな顔で答える天琉に、教官も呆れたように呟く。



「す、すみません! 教官。コイツ、まだまだお子様で…………」


 

 慌てて間に入って取り成す俺。


 全く、天琉の奴…………

 いつもはあまり感情を見せない、一匹狼のアウトローであるはずの教官を、何でここまで怒らせるんだよ!



 






「すまんナ。子供相手に少し私も感情的になり過ぎタ」


「いえ、こちらこそすみません。あまり教育が行き届いておらず………」



 教官が申し訳なさそうに謝罪し、俺もペコペコと頭を下げる。


 当の天琉は秘彗に引っ張られて、後ろでお説教を受けている最中。


 だが、横目で見るに、ウンウンと頷いているだけで、全く反省の色を感じない。

 顔こそ珍しくキリッとしているが、あれは完全に聞き流している顔だ。



「アイツめ、後でしばく!」


「なるほド、従属機械種の教育に苦労しているようだナ」



 俺の呟きを聞いて、教官は何となく天琉の普段の行動を察してくれたようだ。



「ふム、ちょうど良イ。あの小僧と1戦やらせロ。私が少々躾けてやろウ」


「ええ? ……………大丈夫ですか? 以前よりも天琉はパワーアップしていますけど?」



 前の戦いで良い勝負だったならば、今の天琉の戦闘力はその数倍。

 はっきりいって教官でも荷が重いと言わざるを得ない。


 もう通常のストロングタイプどころか、ダブルであっても相手にならないのだ。

 いくら辺境一の銃使いだとしても、機械種ドミニオン相手では勝ち目なんて無いだろうに。


 しかし……………



「ヒロ。これは教官として言っておくガ、機械種同士の勝負の結果は機体の能力だけでは決まらン。戦い方次第でどうにでもなル。覚えておケ」



 包帯の隙間から見える青い光をギラリと輝かせ、機械種ガンマンはそう宣った。









 本来は射撃場として使っている空地。

 

 向かい合うは機械種ガンマンと、機械種ドミニオンの天琉。


 両者の距離は20m程。


 試合開始時の出だしにより、射撃戦にも近接戦にも持ち込めるであろう距離。


 勝敗条件は有効打を5発与えるか、相手を戦闘不能に追い込むか。

 共に晶石を収めている頭部への攻撃は禁止。

 この条件であれば、たとえ大破しても藍染屋に持ち込めば修理できる。


 また、天琉には『光の翼』の発動は禁止しておいた。

 こんな街中で発動されたら目立って仕方がない。


 まあ、この距離では発動する時間なんてないだろうけど。




「さテ、以前の勝負の続きと行こうカ?」


「あい! テンルは負けないもんね! もう1回『猛兎硬爬山(もううこうはざん)』でブッ倒してやるんだから!」



 自然体で構えすら取らない機械種ガンマン。


 対する天琉は、半身となり、右手の拳を腰に引き、左手の拳を前に出した八極拳の構え。


 カタツムリコートは脱ぎ棄てて、背中の翼を収納した近接戦スタイル。

 どうやら天琉は射撃戦ではなく、格闘戦を挑む模様。



「では、いきますよ。それっ!」



 俺は手に持った石を軽く真上に投げる。


 5m程、宙に昇った石は重力に引かれて、そのまま地面へと落下………



 コツッ



 地面に落ちた石が軽い音を立てた瞬間、



「あいっ!」


 ドシンッ!



 右足を思いっきり踏み下ろした瞬間、天琉の姿が描き消えた。


 ………いや、いきなりあの体勢からトップスピードへの超加速。


 真正面から機械種ガンマンへと猛ダッシュ。


 まるで地面を滑るように20mの距離を一瞬で駆け抜ける。


 これぞ天兎流舞蹴術の『兎歩(うほ)』。

 

 野を駆ける兎のように目も止まらぬスピード。

 そして、軽やかに攻撃を躱す兎のごとく、敵の攻撃をすり抜ける歩法。


 白兎曰くの無敵時間の再現。

 僅かな時間だけその機体を幻想空間に紛れ込ませる超常の技。



 相対する機械種ガンマンは超スピードで迫る天琉に対し、反応を見せない。


 銃すら抜かず、ただコートのポケットに手を突っ込んだまま。



 え?

 教官は一体何を………



 思考を加速しながら、機械種ガンマンが動きを見せないことに不自然さを覚える俺。


 まさかあのラズリーさんですら、手古摺った天琉の近接攻撃を真正面から受け止めるつもりなのか?

 どう考えても教官の機体は耐久力に秀でているように見えないけど………



 俺の疑問を他所に、天琉は機械種ガンマンへと接近。


 繰り出す技は、天兎流舞蹴術、七極拳の中段突きである………



「あい! 『兎歩衝捶(うほしょうすい)』!



 その短い脚を思いっきり地面へと踏み出し、



 ドシンッ!!



 地響きすら感じるような重い音を鳴らし、腰に構えた右拳を突き出そうとして、



 ズボッ!



 まるで落とし穴を踏み抜いたかのように足元の地面が崩れた。



「あい?」



 そして、天琉はお間抜けな声だけを残して、機体丸ごとそのまま地面の下へと消えていった。


 


「フンッ! 私も舐められたものダ。前と同じく真正面から来るとはナ………」



 目の前に開いた落とし穴へと近づきながら、コートのポケットから中型の銃を取り出す機械種ガンマン。


 それをおもむろに構え、銃口を穴の中に向けて発射。



 ドンッ!

 ドンッ!

 ドンッ!

 ドンッ!

 ドンッ!



 辺りに銃声が響き、それに応えるように穴の中から『あいっ! あいっ!』という声が聞こえてくる。




「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! 教官! それはあまりにも………」



 あまりの教官のえげつなさに、止めに入ろうと駆け寄ってく。



 いやいやいやっ!

 教官が罠を張るのは何となく予想していたけど、落とし穴に落とした挙句、そこを狙い撃ちにするのはやり過ぎでは!



「大丈夫ダ。撃ち込んだのは瞬間粘着剤だからナ。傷つけてはいなイ」


「ええ?」



 穴の中を覗き込めば、確かに白いモノにベッタリ塗れた天琉の姿。

 もう機体の半分以上が粘着剤とやらに埋もれてしまっている様子。

 突き出した脚がピクピク動いているから一応大丈夫みたいだけど。



「…………この穴、事前に掘っていたんですか?」


「いヤ、攻撃の瞬間、マテリアル錬成器で足元の地下の地盤を緩くしただけダ。アイツの近接攻撃は強い踏み込みがキモのようだったからナ」


「まあ、八極拳は震脚(足の踏み込み)が基礎ですけど…………」


 

 実際は七極拳の兎震脚というらしい。

 ウサギが地面を脚でトントンと叩く仕草の再現とのことだが………


 本当にもうどうでも良いことだ。



「なるほど、マテリアル錬成器にはそういう使い方があるんですね」



 俺も一度やられたことがあるな。

 攻撃の瞬間はどうしても足元がおろそかになるから、カウンターとしては有効な手段なのであろう。



「こういった搦め手もあるということを天琉にはしっかり教えておかないと………」

 

「問題はそこではなイ。前回、アイツは俺の銃弾をすり抜ケ、真正面から俺をぶっ飛ばしたガ、今回も全く似たような攻撃方法を取ったことが良くないんダ」



 教官は俺の方を向いて、指導する口調で話を続ける。



「前にも通用したからと言っテ、同じ相手に同じ手段を取るのは言語道断。あの小僧は戦闘経験が浅いから、どうしても似たような戦法を取ってしまうのだろウ。その辺を治していかないと今回のように痛い目に遭うゾ」


「は、はい」


「『巣』の攻略時もそうダ。毎回遭遇する敵は違う個体だガ、巣の主がその戦闘を見ている可能性があル。その場合、巣内の陣営にその情報が流レ、すぐに対策を打ってくるケースも起こり得ル」


「それは………厄介な」


「あとハ………あの小僧には戦術スキルをいれているのだろウ?」


「それはもちろん」


「全然活かしていないナ。知識としてはあるが、全く使おうとしなければ宝の持ち腐れダ。その辺も教育しておケ」


「あ、はい」


「今回はそれぐらいダ…………、さテ、そろそろ時間ダ。後片付けをしておかないとナ」

 


 そう言うと、教官は天琉が落ちた穴へと近づき、その中へと呼びかける。



「おイ、小僧。いつまで遊んでいル。さっさと出て来イ」


「……………………」


「機体に張り付いた粘着剤なド、どうにでもなるだろウ? お前のその殻を破れバ?」


「……………………」


「お前の機体に纏わりついたモノごと破レ。そしテ、新たな姿をマスターへと見せつけてみロ」


「……………あいっ!!」



 ピカッ!!!



 突然、天琉が落ちた穴の中から光が噴き出す。


 まるで虹の間欠泉のように激しい奔流。


 キラキラと輝く光の飛沫を辺りに散りばめながら、穴の奥から飛び出す機体が1機。


 130cm程度の小さな機体。

 おかっぱ金髪に中性的な顔立ち。

 絵画に描かれた天使のごとき凛とした美しさ。

 その背中の翼は中位天使の証である4枚。

 そして、その機体を包むのは、いつもの青いラインが入った白い貫頭衣ではなく、



 幼い少年のような機体にピッタリと張り付く金属鎧。


 胸当て、肩当て、胴周り、籠手、具足……


 全てが雪のように白く輝く銀色。

 

 頭には兜は無いが、その代わりに額に巻かれた黄金のサークレット。

 まるで支配者が被る王冠のようなデザイン。



「て、天琉?」



 それは正しく機械種ドミニオンに相応しい様相。

 敵を粉砕し、主の威光を知らしめる主天使の再臨。

 粘着液に塗れてピクピクしていた姿などもうどこにもない。



 2度もランクアップしたのにもかかわらず、変化したのは翼の大きさや枚数だけ。

 その姿形が変わらないのはなぜかと思っていたけれど、まさかこんな風に変わるなんて…………

 幼い容姿に変化はないが、今までの簡素な白ローブと違い、荘厳ささえ感じる気高い姿。


 言うなれば白銀の鎧に身を包んだ幼い少年騎士。

 ただし、その身こそ小さいが、幾万の敵を撃ち滅ぼす戦闘力を秘めた光の王子。



「こ、これは…………」

 

「ランクアップした情報が機体に行き渡っていなかったのだろウ。晶脳内に生まれた情報体を本人が気づかず開かなかったせいだナ」


「うわ…………、なんかどこかでありそうな話………」


「急激にランクアップした弊害ダ。戦闘経験に情緒が追いついていなイ。まあ、いずれ解決する問題だガ…………」


「ありがとうございます! 教官」



 俺が礼を言うと、教官はぶっきらぼうにパタパタと手を振って返す。


 そして、要は済んだとばかりに、そのまま射撃場の奥の納屋へと消えていく。


 おそらくはそろそろ集まってくるであろう訓練生達の準備を行うのだろう、


 相変わらずの不愛想な感じだが、そんな仕草が実に良く似合っていた。


 …………もしかしたら照れ臭いのかもしれないけど。










「天琉、どうだ?」



 穴から出て、ぼーっと突っ立っている天琉へと話しかける。



「あい…………、なんかキラキラしてる」


「そりゃ………、本当にピカピカ光ってんな!」



 日光を反射しているだけかと思えば、鎧の表面が輝いているみたい。

 


「マスター、この鎧の表面に光の槍と同質の力を感じます。おそらく光子制御で光を固めて覆っているのでしょう」



 横から秘彗が説明。


 

「この防具は元々、テンルさんがランクアップした際に使えるようになった亜空間倉庫に入っていたのだと思います。私の杖もそうでしたから………」


「あい! なんか入ってた!」


「入ってたじゃない!」



 コツンッ と天琉の頭を小突く。



「なんで自分のモノなのに気づかないんだよ! 整理整頓スキルは入れているはずなのに…………」



 教官の言うように、入れたスキルを活かそうとしていないから、あんまり役に立っていないんだよなあ。



「まあ、これで天琉の防御力がアップしたということか。でも、これだけピカピカ光っていると、眩しくて仕方がないな」


「あ~い~…………、じゃあ、仕舞う!」



 シュルッ



「おおっ………、白ローブに戻った?」



 天琉の機体を包んでいた白銀の鎧が消え、いつもの白い貫頭衣姿に変わった。

 

 ボノフさんが改造で描いてくれた青いラインもそのまま残っている。



「あい! やっぱりこっちの方が良い!」



 自分の姿を見回し、ニコニコ顔で宣言する天琉。



「だって、おばちゃんが書いてくれたんだもん。テンル、この白と青が好き!」


「ふう…………」



 無邪気な笑顔で自分の意見を主張する天琉にため息一つ。


 まあ、そう言われると、こっちも無理強いしたくないし………


 いや、待てよ。



「天琉、その服、大事なんだよな」


「あい! 大事!」


「だったらそのまま戦闘すると破けちゃうかもしれないから、戦闘中は鎧の方に変えておくのはどうだ?」


「……………あ~い! うん、分かった! そうだね、大事なんだから、ビュンビュンする時はピカピカの方にする!」



 満面の笑みでそう答える天琉。


 全く、チョロイ奴だ…………



「さて、あんまり長居すると邪魔になるから、そろそろ退散することにするか」



 教官が入っていった納屋に声をかけて、この場を離れる俺達。


 一度ガレージに戻って、上機嫌の天琉を置いてから秤屋へと向かうとしよう。



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