第534話 関係



 廻斗達が倒した機械種エルダードラゴンロードの残骸を七宝袋へ収納。

 車を置いた場所へと戻り、潜水艇の寝室へと移動。


 白兎、秘彗、胡狛は俺と一緒に潜水艇の中へ。

 残りは外で見張りをさせる。



「ラズリーさん、白露の様子はどうですか?」



 普段俺が使っているベッドの上にはパジャマ姿の白露。

 未だ目を覚まさぬ眠り姫の状態。



「半日は過ぎたと思いますが、大丈夫なんですか?」


「かなり負担が大きかったのでしょう。目を覚まされるのはもう少し時間がかかりそうです」


「そうですか……………」



 白露の寝姿をじっと見守っているメイド姿の女性。

 機械種パーフェクトメイド/マーシャルアーティスト/デストロイヤーのトリプルであるラズリーさん。


 ベッドの横に置いた椅子に座りながら、時折白露の寝汗を拭いてあげている。


 その様子は幼い子を見守る慈母のよう。

 年若い外見のラズリーさんに失礼な表現かもしれないが。



「あんまり良い夢を見ていないようですね」


  

 お行儀良い姿勢で眠る白露の表情を見ての感想。

 とても安眠できているようには見えず、悪夢にでも悩まされているかのように表情を歪ませている。

 

 気絶する直前が暴竜と相対した時なのだから、その時の場面が焼き付いているのかもしれない。


 あそこまで強大な暴力の化身を目の前で見たのだ。

 トラウマレベルで夢に出て来てもおかしくない。



 何かできることは無いだろうか?

 でも、別に怪我とかじゃないから、仙丹でも治せない。


 もし、悪夢を見ているのだとすれば、俺の仙術で良い夢に変えてあげられるはずなのだが…………



 エンジュ達と旅をしていた時、凄惨な場面を見て気絶したユティアさんの枕元に潜ませた『獏』と書いたお札。

 悪夢を食べてくれるというおまじないであったが、きっちりと効果を現してくれたのだ。


 しかし、そのお札は枕の下に差し込まなくてはならない。

 ラズリーさんがずっと見守っている最中にそっと差し込むのは難易度が高い。


 眠っている女の子の枕に手を伸ばすなんて、はっきり言って不審な行動でしかない。

 こればっかりは上手く説明できる自信は無いし…………


 

 うーんと眉を顰めて悩む俺。


 そんな俺の様子を見て、一緒に付いてきた足元の白兎が耳をピコピコ。



 ピョンピョン


  

 弾むように白露が眠るベッドに近づいていき、



 ピョンッ



 その枕元へとジャンプ。



「ハクトさん?」


 パタパタ



 問いかけるラズリーさんに『任せておいて』と耳を振るう白兎。


 そして、白露の枕元でコロンとひっくり返り、四肢を天井に向けて、



 ピョコッ ピョコッ ピョコッ ピョコッ



 と、仰向けになりながら空中を脚で掻くという奇妙なダンスを踊り始めた。



「何やってんだ? 白兎」


 フリフリ


「んん? 癒しの舞? お前、そんな技使えたっけ?」



 舞というより、炭火で炙られている烏賊の真似みたい。


 まあ、白兎なら何が使えても不思議ではないが…………



 ピョコッ ピョコッ ピョコッ ピョコッ


 

 仰向けでひたすら四肢を動かし、空気をかき混ぜる白兎。


 美少女の枕元でひっくり返ってお遊戯する白ウサギに見えなくもない。


 幻想的なのかそうでないのか悩むところだ。



 

 しかし、そこは俺が信頼する筆頭従属機械種兼宝貝の白兎。


 1分も経たないうちに白露が浮かべていた苦しそうな表情は消え失せ、スヤスヤと静かな寝息を立てるようになった。



「おお………、流石は白兎」


「これは………どのような仕組みなのでしょうか?」



 感嘆する俺と困惑するラズリーさん。

 

 

「ひょっとして空を掻いていた音がヒーリングミュージックになったのでしょうか?」


「多分、そんなところじゃないですかねえ………」



 これについては言葉を濁すしかない。

 おそらくは白兎に備わった霊獣としての力だと思うけど。


 だが、結果だけ見れば大成功。


 白露の寝顔は穏やかになり、時折笑みを浮かべているようにも見える。

 きっと良い夢でも見ているのであろう。



「…………では、俺はこの辺で」



 ラズリーさんに一声かけて寝室を出ようとする。

 幼い少女とはいえ、無防備に寝ている所に異性が近くにいるのは良くないだろう。



「白兎は引き続き様子を見てやってくれ」


 パタパタ



 白兎の耳を揺らす音を背中で聞きながら寝室を出た。






 そして、白露が目を覚ましたのはそれから1時間程後のこと。







「ヒロ……………」


「ああ、ヒロだよ」



 ベッドの上に腰かけた状態の白露。

 寝起きでまだぼーっとしているようだが、俺の姿を確認すると、その目の焦点が俺へと集中。

 

 目に光が宿り、人形のように整った相貌がフワッと溢れる生気に満たされる。

 太陽を浴びて蕾から開花する花のように。



「……………良かった。無事だった…………」



 泣き笑いのような表情を浮かべながら、安堵の言葉を口にする。

 万感の思いが零れ落ちるかのような表情。

 

 最悪の未来を想像していたのかもしれない。

 だが、俺の姿を見てようやく安心できた様子。



「この通りピンピンしている。仲間達も皆無事だぞ、ほら!」



 俺の足元にいた白兎を持ち上げて見せてやる。

 

 白兎は白露に向かって耳をピコピコ。


 特に意味が無い行動だが、それでも仲良く遊んでいた仲である白兎の姿を見て、白露はほっと胸を撫で下ろす。



「ハクトちゃん…………、そうですか。皆さんが無事で本当に良かった」


「それより起きて大丈夫なのか? かなり疲労していたみたいだけど」


「…………ありがとうございます。でも、もう大丈夫…………、ツユちゃんは立派な鐘守なんです! これぐらいへっちゃらです!」



 顔色はあまり良くないが、それでも気丈に振る舞おうとしている様子。

 途中で無理に言葉遣いまで変えて大丈夫をアピール。



「まあ…………、あんまり無理はするなよ。どうせ今日はここで泊まりだ。ゆっくり身体を休めておけ」


「………………………」


「んん? どうした?」



 なぜかじっと無言で俺の顔を見つめてくる白露。


 そして、しばらくすると、



「プッ! …………クスクスクス」



 いきなり噴き出して、クスクスと笑い始める。



「む! 何で人の顔を見て笑う」



 なんと失礼な。

 俺の顔がそんなに面白いか?

 差して特徴の無い普通顔のつもりだが。



「ご、ごめんなさい。つい…………、今まで見ていた夢でのシーンを思い出しちゃいまして」



 謝罪の言葉を口にしながらもまだ笑い顔の白露。

 どうやら思い出し笑いのようだけど。



「夢?」


「はい。実は夢でヒロが出て来まして…………」


「俺が?」


「なぜか大きくなった白兎ちゃんに乗って空を飛んでいるんです。でも、ヒロは『高い所が怖い!』って、みっともなく泣き叫んでいて…………」



 コソッ………


 ガシッ!!


 ピコッ!!



 こそっと逃げ出そうとした白兎を頭から鷲掴み。

 白露から見えない位置で捕まえたまま、ギリギリとその頭を締め上げてやる。



 コラ…………

 絶対にお前の仕業だろうが!

 良い夢を見せてくれたのはいいが、なぜ俺の情けないシーンを白露に見せる必要があった?



 パタパタ

『今日イチ、面白い場面だったので…………、つい、ラビットチューブに動画を上げてしまいました』



 コイツ…………

 人の見せたくない場面をわざわざ夢で見せようとは………



 ギシギシギシ!


 情状酌量の余地無しと見做してさらに白兎の頭を強く締め上げる。



 フリッ! フリッ!

『ギブアップ! ギブアップ!』


 

 白兎が白旗を上げているが完全無視。


 白露の位置から見えない足元で行われる制裁場面。

 

 しかし、俺の挙動を不審に思った白露が声をかけてくる。 



「ヒロ?」


「ん? ああ…………何でもないよ、白露。…………そうか、夢で見たのか。情けないシーンだけど白露の夢に出演出来て光栄だね」


「でも、ツユちゃんとしてはもっとカッコ良いシーンが見たかったです。せっかくヒロが夢に出て来てくれたのですから…………」


「悪いけど俺にそんなカッコ良いシーンは似合わないよ。俺は劇で言うなら多分三下役。精々笑いが取れるお調子者ってとこだ」



 俺の今までの行動を俯瞰すればそんな所であろう。

 物語上で言えばヒーロー役にはなり得ない。

 こんな情けなくて根性無しがヒーローを張れるわけがない。


 もし、そう見えているのならば、それは俺の着ている衣装が豪華すぎるせいだろう。

 

 『闘神』スキルと『仙術』スキルと言う衣装が。


 衣装を脱いだ役者としての俺は名前も知られぬモブなのだ。

 矮小な夢しか持たず、姑息で自分のことしか考えない卑怯者。


 だからそんな俺がカッコ良いわけがない。



 しかし、白露の意見は異なるようで、



「私にとってヒロは…………とってもカッコ良い人です」



 そっと伸ばされる手。

 俺の手と重なったと思うと、ギュッと握りしめられる。


 ふんわりと柔らかく、そして、小さくて暖かい。


 でも、思いを伝えたいかのように力が込められている。


 

「ヒロは私が困っている所に颯爽と現れて、あっという間に解決してくれました。本当に、物語に出てくるヒーローみたいに…………」



 こちらを見つめている白露の目が潤む。

 どこか熱っぽく感じてしまうのは起き抜けだからであろうか………



「すっごく強くて、色んなことを知っていて、とっても優しくて…………、こんなカッコ良い人は、私、ヒロ以外に知りませんよ」


「…………………」


「鐘守と言っても、私の席次は下から数えた方が早いです。それにこんな子供の容姿ですから、私の『打ち手』になりたいという狩人もあまりいません。それでもヒロは私の役に立ちたいと言ってくれた。それがとっても嬉しかった………」


「…………………」


「しかも、ですよ。相手が空の守護者と分かっても、ヒロは私を見捨てなかった。絶対に撤回して逃げ出すと思っていたのに…………」


「…………………」


「だから、私、この人だけは生きて返さないとと思いました。死ぬのは私一人だけで十分だと。でも、ヒロはそんな私の思惑すら見抜いて………」



 白露の言葉にに涙声が混じる。

 感情が高ぶって来て、俺の手を握りしめる力が強くなる。



「こんなちっぽけな私の為に、空の守護者に立ち向かってくれた…………、私のヒーロー……………」



 白露の熱い吐息交じりの告白。

 その目に映るのは憧憬であろうか? それとも………


 ただ俺を慕う好意的な視線が俺を貫く。


 幼い少女だが、未成熟ながら整った美貌は天上の芸術品。

 いつものお転婆な様子ではなく、落ち着いた態度で接されると、不覚にも動揺してしまう自分がいる。


 触れたら壊れそうな儚い容姿。

 光に溶け込むような銀糸の髪。

 銀の鈴を鳴らしたような心地よい声。


 まさに白銀の妖精。

 保護欲が刺激されて、思わず抱きしめたくなる程の可憐さ。


 ここまで想われているなら、その手を握り返し、君のヒーローでいると宣言するのが主人公の役割なのであろうが…………


 

 


 ………しかし、俺にそんな資格など無い。




 俺が強いのは『闘神』と『仙術』スキルのおかげだ。

 俺が色んなことを知っているのは『打神鞭の占い』のおかげ。

 俺が優しく見えるのは、下心があるからだ。

 

 それに、


 白露の為に頑張った訳じゃない。

 俺の為に頑張ったんだ。

 自分の身を守るために。

 君を行き止まりの街に行かせない為に。


 だから俺はヒーローなんかじゃ…………



 白露からの想いに耐えきれず、思わず視線を下へとずらす。



 俺に期待するのは止めてくれ。

 期待に応えられなくなった時の反応が怖いから。


 俺をヒーロー扱いするのは止めてくれ。

 俺がヒーローで無くなった時にどんな言葉をぶつけられるのか怖いから。


 

 そもそも鐘守である君と一緒にいるという選択肢は俺には無い。

 この身は君に対して大きな秘密を隠している。

 その秘密は君にとっては決して許されるモノではないだろう。

 さらには白の教会という俺の敵かもしれない集団に取り込まれるわけにはいかないのだ。


 だからここはいつもの俺の信条を通すしかない。

 




「……………………」


「……………………」



 俯きながら黙り込む俺。

 ただ俺の手を握りしめている白露。


 お互いに言葉を続けられず、しばらくの間、寝室を沈黙が支配する。


 俺はすでに『保留』と『現状維持』を選んだ。

 白露は俺の答えを待つつもりなのだろうが、俺からは何も答えてあげることはできないのだ。


 だから沈黙が続く。


 そして、その沈黙が数分続いた後、

 


「ごめんなさい、ヒロ。私が勝手に色々言ってしまって…………」



 白露からの謝罪の言葉。



「ヒロはもう……………でしたね。ふふふ…………、もし、出会ったのが私の方が早かったら……………、それでも無理かなあ…………」



 少しだけ目線をあげれば、微かに微笑む白露の顔が見えた。

 

 目には零れそうな涙を溜め、今にも泣き出しそう。


 でも、涙を流さぬよう少しだけ上を向いて、



「お風呂、借りますね。寝汗をかいてしまったので…………」



 そう言うと、ラズリーさんの手を借りながらベッドから降りて寝室を出ていく白露。



 そんな白露に声をかけることもできず、しばらく俺は寝室の中で下を向いたまま。


 色んな感情が頭の中を駆け巡る。

 


 『安堵』『後悔』『罪悪感』『やるせなさ』『諦め』



 それらがごちゃ混ぜになって、やがて俺はポツンと問いかけの言葉を口にする。



「……………なあ、白兎。俺、間違って無いよなあ?」



 意味の無い確認。

 でも、誰かに答えてほしかったのだ。



 その問いに対し、白兎から返ってきた返事は、

 


 パタパタ

『それよりも頭を締め付けるの、止めてくれませんかねえ。そろそろ頭の形が変わりそうなんですが』











 風呂から出てきた白露は、もういつもの白露だった。



「エッヘン! これでツユちゃんもコード取得者ですよ!」



 腰に手を当て、無い胸を張りながら大声で宣言。




「それも『空の守護者』のコードです! 白月様ですら手に入れていない超レアコード! これを本教会に届ければきっとツユちゃんの席次も爆上がりです! ひょっとしたらひな壇に上がれるかもしれません!」



 リビングルームに白露の甲高い声が響き渡る。


 随分とテンション高めの白露。

 もちろん先ほどのアレコレを吹っ切る為の空元気なのかもしれない。


 …………ひな壇って何なんだろうね?



「うぷぷっ! もしかして、もしかするとベスト20入りもありえるかも! そうすればもっと多くの人にツユちゃんの魅力が広がります! ヒロ! そうなったらツユちゃんは大人気の鐘守になっちゃいますので、サインが欲しいなら今の内ですよ!」


「いらん! …………その前に、白露。バスタオル一枚巻いただけでリビングルームに出てくるのは止めろ」



 そうなのだ。

 白露はなぜかバスタオル1枚巻いただけの姿。

 幼い少女ということもあり、そこに色っぽいモノは何一つ感じられないが、些か白露の未来が心配になってくる動向だ。


 まさか俺を誘惑している訳ではないだろうに………



「おやおや? ヒロはこんな幼女のあられもない姿が気になるのですか?」



 白露は俺の注意にニヤッとした悪戯っぽい笑みを浮かべ、



「まさかまさかとは思いますが……………」



 つかつかと俺に近づいてきて詰め寄ってくる白露。



「ツユちゃんの色っぽい風呂上がり姿に見惚れちゃいましたか?」


「んなわけあるか!」


「フフンッ! 口では何とでも言えます。今になってツユちゃんが惜しくなってももう遅いんですよ!」


 

 俺の目の前でフンッ!と胸を張る白露。


 バスタオル1枚しか隔てていない胸は全く膨らみが見えない。

 そんな子供のような体形に欲情する俺ではないが、ここまで開けっ広げにされると気恥ずかしさが先に立つ。 


 バスタオルから伸びる手足はビックリするほど細くて白い。

 艶やかな肌は最高級の大理石のように滑らかに見え、

 濡れた銀色の髪は艶めかしく輝き、白露の美しさを飾り立てる。

 

 そして、俺の胸辺りから見上げてくる白露の顔。


 透き通るような青い目、銀細工で拵えたような長い銀の睫毛。

 風呂上がりで上気した柔らかそうな頬。

 さくらんぼを2つに割ったような小さな唇。


 幼いながら間違いなく美少女であり、誰もが羨む美女になることを約束された容姿。

 あと10年経っていたなら、俺は血の涙を流して白露に答えなかったことを後悔したかもしれない…………

  


 ふと、思い出されるのは暴竜戦への旅の途中での白露とのやり取り。

 

 いずれ中央で再開してお互いの成長ぶりを確かめるという約束。

 これほど美しい少女なら5年後、10年後ならどれほどの美女になっているのか。

 もし、その時になって同じようなシチュエーションを持ち掛けられた時、俺は耐えられるのであろうか?



 そんな未来を想像しつつ、今の白露には似合わない行動を注意する俺。



「あのな~、俺はお前のはしたない恰好をだな………」


「ヒロ、ちょっとだけ顔が赤いですよ」


「!!! コラッ!」



 慌てた様子を見せる俺に対し、白露は手を口に当て、まるで嘲笑うかのようなポーズでトンデモナイ妄言を言い放つ。



「フフフ、こんな子供の私に顔を赤くするなんて、やっぱりヒロは幼女に興奮する変態さん…………、これはこれは意外な秘密を握ってしまったかもしれません。このことをバラされたくなければ、この可愛い可愛いツユちゃんに『最推し!』の投票を…………」


「……………ラズリーさん」


「はい、ヒロ様。お目汚ししてしまい申し訳ありません」



 さっと白露の背後に現れたラズリーさん。

 俺に謝罪をしつつ、バスタオル1枚の白露の臀部に手を伸ばし、



「みぎゃああ!! ラズリー! 痛いです! そ、そこをそんな風に引っ張るのはちょっと洒落になりません!」


「馬鹿のことをして、馬鹿なことを言う白露様にはちょうど良いお薬です。さあ、こちらに来ましょう」


「ヒロ! ヒロ! 助けてください! この傍若無人な鬼メイドはツユちゃんを拷問にかけるつもりです! 幼気な少女がピンチですよ! 今こそヒーローの出番です!」



 涙目で俺に助けを求める白露だが、



 スッ……… ビシッ!

 


 俺は指を2本立てて首を掻き切る仕草の上、親指を下に向けて振り下ろす。

 所謂『地獄に落ちろ』のポーズで返してやった。



「ああああああああああああああ!!! そんなああああああ!!!」


「はいはい、白露さま。大人しくしないと、『すごく痛い』が『とんでもなく痛い』なってしまいますよ」


「ぎゃああああああああああああああああ!!!」



 そのままラズリーさんにもう一度浴室に連行されていく白露。

 地獄へと引きずり込まれる亡者のような悲鳴を残し、浴室へと消えていった。



 そんな白露に対し、思わず合掌。


 大人しく成仏してくれよ、白露。




 ………………多分、このような関係が俺と白露にはベストなのだと思う。

 

 今はまだ。



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