第533話 合流


 輝煉に乗って空を疾走。

 上空数百メートルを超高速で駆け抜ける。


 空に敷かれた見えない道を走るがごとく、

 蹄を鳴らし、大気を裂きながら、弾丸のようなスピードで突き進む。 



 ただいま白露達と合流する為に、荒野の空を飛行中。



 俺の右手には瀝泉槍。 

 左手は輝煉の背にある取っ手を掴み、まるで天馬に乗る騎士のような恰好。


 瀝泉槍を握っているおかげで、高所の恐怖を感じることは無い。

 また、吹き付ける冷たい風も、輝煉が纏う力場障壁に散らされて、そよ風一つ届かない。


 すでに輝煉に乗り込み飛行してから数時間が経過しているが、なかなかに快適。


 元々騎乗を想定された設計なのであろう。

 その背は大型バイクにでも跨るような形で座れるようになっている。

 また、大きさ的にもあと3、4人は後ろに同乗させることができそうだ。


 緊急時の高速移動手段としては最優良。

 ほとんどの攻撃は電磁バリアによって防ぐことができるし、輝煉自体の攻撃力も超高位重量級機械種に相応しいモノ。

 単騎で軍勢相手に突撃する時も、戦いたくない敵から離脱する時にも役に立ってくれるだろう。

 

 

「さて、あとどのくらいだろうね?」



 疾走する輝煉とほぼ同じスピードで、俺達の前を飛行している白兎を見ながら呟く。


 見ての通り白兎は先導役。

 白兎の進む先に白露達がいるのだ。

 

 白兎は廻斗と繋がっており、どれほど離れてもその位置を感じることができるし、お互いに会話することも可能。

 

 白兎によれば、廻斗と浮楽はすでに白露達と合流を果たしており、今は『白木魚』を使った陣地で籠城中。

 

 差し迫った危険は無いとのことだったが、早めに合流するに越したことは無い。

 

 ここは白鐘の恩寵が届かぬ敵地。

 レッドオーダーの支配地、空の守護者と呼ばれる暴竜の狩り場なのだから。

 

 ……………その主はもう倒した後なのだけれど。



「とはいえ、スカイフローターがここまでいないのは意外だったな………」

 


 通常であればスカイフローターが雲霞のように襲ってきそうな状況だが、先の戦いでこの付近のスカイフローターはほぼ全滅状態なのであろう。

 おかげで空中戦をせずにここまで進むことができた。


 少々の数にどうにかなる戦力ではないが、この状況でドックファイトをすれば以前と同じようにこの俺自身が乗り物酔いをする可能性が高い。

 白兎と輝煉がいる以上、大抵の敵は鎧袖一触なのだが、飛行する術を持たない俺がいる。


 万が一、空中で放り出されでもしたら一大事。


 『猿握弾』を使っての空中ジャンプもあるが、基本的に人間は空を飛べるようにできていないのだ。


 紐無しバンジージャンプは勘弁してほしい。

 地上に墜落して地下深く埋まってしまうのはもう御免だ。



「おっ! 白兎が高度を下げた。そろそろ近いのか…………」



 前を飛ぶ白兎の機体の向きが下へと向かう。

 それは明らかに地上へと着陸する角度。


 近くまで来たら地上に降り立ち、車で進む予定なのだ。


 向こうに白露やラズリーさんがいるから、このまま近づくわけにはいかない。

 多少面倒ではあるが、知覚されないくらいに離れた場所から地上で進まなくてはならない。

 


 地上に向かって降下し始めた白兎に従い、輝煉も足先を下方へと向けて高度を下げる。


 下降するに連れグングンと地上が近づいていく。

 ジェットコースターの何倍も迫力のある急降下。

 普段の俺なら悲鳴をあげていたかもしれないが、瀝泉槍が俺の精神をしっかりガードしてくれている。

 


 そんな疑似アトラクションもわずか数分で終わりを告げた。


 

「よっと…………、到着」



 輝煉が地面に降り立つと同時にその背から飛び降りる。


 

「じゃあ、皆を呼ぼうか」



 七宝袋から早速、表に出しているメンバーを取り出す。


 ヨシツネ、森羅、天琉、秘彗、毘燭、剣風、剣雷、胡狛。


 代わりに白露達には見せられない輝煉を収納。



「輝煉。良い乗り心地だったぞ。また今度遠乗りを頼む」


 カツンッ!


 

 そして、輝煉の姿が七宝袋の中へと消えると、次に取り出すのは車と潜水艇のセット。

 


「よし! 皆、乗り込め! 廻斗達と合流するぞ!」


 


 そして、車で進む事30分少々。




「キィキィキィ!!!」

「ギギギギギギギッ!」




 荒野に不自然な形で盛り上がった地面。

 まるで人工的に作られた丘にも見える地形。


 その地表の一部にボコッと穴が開き、中から飛び出してきた機械種が2機。

 

 それは俺が良く知る小猿型軽量級1機と道化師の姿をした中量級1機。


 機械種グレムリンの廻斗と、機械種デスクラウンの浮楽。



「廻斗! 浮楽! 無事だったか?」



 車を停車させて飛び出す。

 無事なのは分かっていたが、それでもこの目で見てようやく安心できる。


 別れてからたった半日のことだが、もう何週間も前のように思えてしまう。

 海外旅行から帰国した子供をを迎えたような心持ち。


 

「キィキィ!!」


「おお、よく頑張ったな」



 胸に飛び込んでくる廻斗を撫でまわしながら褒めてやる。

 

 他人が聞けばただ『キィキィ』という鳴き声だが、俺や機械種には何となく廻斗の言いたいことが伝わってくる。

 どうやら白露と合流するまで色々とトラブルがあったらしい。


 

「ギギギギギギギッ!」


「うんうん。そうかそうか…………」



 浮楽も興奮しながら金切り音で話しかけてくるが、流石にこちらは聞き取ることができない。

 多分、俺に何かを報告してくれようとしているようだが…………

 


「ヒロさん! よくご無事で……………」


「ラズリーさん!」



 廻斗と浮楽と再会の喜びを交わしていると、ラズリーさんが俺の姿を見つけて駆け寄ってくる。



「お怪我は? 被害はございませんでしたか?」


「この通りピンピンしてます。メンバー達も多少破損がはありましたが全員無事です」


「暴竜相手に……………、本当にヒロさん達は規格外なのですね」



 いつものお澄まし顔に少しだけ困惑気味の微笑を浮かべるラズリーさん。


 俺が成し得た成果に何と答えて良いのか分からない様子。 

 途方もない成績を上げた生徒をどう褒めて良いのか分からない女先生みたいなシチュエーション。



 守護者と戦って生還する。

 しかも鐘守を逃がす為という、退却戦の殿の任を全うしてだ。


 それだけで白の教会が諸手を上げて表彰してくれる程の戦果。

 『打ち手』と認めるに誰の文句も出ない程の英雄的な行動。

 


 ただ、実際は足止めどころか、守護者を討ち取ってしまっているのだけれど。


 ぎりぎり撃退までなら受け入れてくれるだろうが、討伐までは流石に許容範囲外だろう。

 だから俺の戦果として表に出せるのは、あくまで暴竜のねぐらから叩き出したところまで。


 その辺りは上手く白露やラズリーさんに説明しないといけない。

 


「それより白露は大丈夫なんですか?」


「はい…………、まだお眠りになられていますが…………」



 ラズリーさんはチラリと視線を盛り上がった丘へと向ける。


 その仕草から白露はあの中で眠ったままのようだ。


 どうやらあの丘はラズリーさんの錬成制御で作り出した疑似的な防空壕なのであろう。

 『白木魚』と組み合わせれば、この辺りのレッドオーダー相手には十分。


 だが、幼気な少女を休ませるには最適とは言えない場所なのは確か。



「潜水艇の寝室に移動させましょう」



 暴竜相手に干渉を行ってから半日近く経つがまだ目を覚まさない。

 やはり相当負担のかかる術であったに違いない。

 どこまで効果があるか分からないが、休むならベッドの上の方が良いに決まっている。



「…………お言葉に甘えさせていただきます」



 そう言うと盛り上がった丘へと近づき、スルッとその中へと沈み込んでいくラズリーさん。

 そして、1分とかからずに、眠ったままの白露を抱えて戻ってくる。


 

 スウスウと寝息を立てている白露。

 流れるような銀髪に滑らかな白い相貌。

 天使と見紛おう愛くるしい寝顔。


 しかし、時折辛そうに眉を顰めており、決してスヤスヤと安眠しているわけではない様子。

 力を使い果たして気絶したのだ。

 早くゆっくりと休めるベッドに寝かせてあげるべきだろう。



「遠慮せずにあのベッドを使ってください」


「何から何まですみません」



 ラズリーさんは申し訳なさそうに頭を下げてから潜水艇と向かおうとして、



「あっ! そうでした。ヒロさん、向こうにカイトちゃんやフラクさんが倒された機械種の残骸が置いてあります。もうすぐ日が暮れますので早く回収してあげてください」


「廻斗達が? ……………はい、分かりました」


「きっと、驚かれますよ」



 最後にほんの少し悪戯っぽい笑みを浮かべて、白露を抱えたまま潜水艇の中へと入っていくラズリーさん。



「残骸? 廻斗達が?」


「キィキィキィキィ!」

「ギギギギギ!」


「見てからのお楽しみ…………だって?」



 やけに嬉しそうな2機に連れられて数キロ離れた場所へ移動。

 

 俺に同行するのは秘彗。

 残骸を回収する為の建前として付いてきてもらう。

 残りの白兎達は護衛の為に車に残しておいた。



 そして、廻斗達に案内された地にあったモノは……………




 

 横倒しになった4,5階建てのビルくらいありそうな巨体。

 漆黒の鱗模様の装甲に強靱そうな四肢。

 近くに転がる断たれた首は、そのまま龍を祭る神社やお寺に飾る像としても使えそうな大きさ。

  


 


「ドラゴン…………」






 間違いなく堅牢無比な空中要塞と称えられるドラゴンタイプ。

 しかも全長20mを越す超大物。

 

 行きがけに一度遠目で見た機械種エルダードラゴンだろうと思う。

 だが、あの時は気づかなかったが、この大きさは通常のエルダードラゴンでは在り得ない。

 おそらく落ちている首を足せば全長25mはあるだろう。

 なれば通常種ではなく……………



「これは……………機械種エルダードラゴンロードです」


「!!! 亜種でもなく、ロード種…………」



 秘彗から目の前の残骸の機種名を聞き、思わず天を仰ぐ。 




 『機械種エルダードラゴンロード』



 ドラゴンタイプ上位である機械種エルダードラゴンのロード種。

 伝説でしかないドラゴンタイプ最上位、機械種ドレイク、機械種リュウジンを除けば、竜種の最高位と言えるだろう。


 通常の機械種エルダードラゴンであれば、機械種グレーターデーモンや赭娼、橙伯と同格。

 しかし、ロード種ならばワンランク上がり、格で言えばレジェンドタイプと同等レベルとなる。


 けれどもそれはあくまで格の話。

 こと戦闘力になれば中量級と超重量級の差は歴然。


 同等レベルであっても超重量級の戦闘力は中量級の数倍以上。

 しかもドラゴンタイプともなればその戦闘力は破格。

 竜麟による絶大な防御力と系統別では最大級の出力を持つ竜種。

 

 あのヨシツネと天琉のタッグですら、レベル的には格下の超重量級である機械種レッサードラゴン相手に手こずったのだ。

 その遥か格上の機械種エルダードラゴンロードともなれば、レジェンドタイプでも手に余る。


 機械種アークデーモンとなった豪魔でも苦戦する相手。

 あのベリアルとて油断はできない敵。

 

 

 

「まさか…………これを浮楽とラズリーさんが?」



 

 状況的に考えられる推測を口にしたが、自分でもなかなかに信じられない。


 俺の言葉を聞いた秘彗も困惑顔。


 浮楽やラズリーさんの実力を知っていてもなお、信じがたいと思ってしまう程手強い相手なのだ。



 いかに浮楽が元橙伯で、中央に悪名を轟かせる賞金首でも単独では勝ち目が無い。


 それはストロングタイプのトリプル、ヒーロータイプと呼ばれるラズリーさんがいても同じ。

 

 それぞれレジェンドタイプに匹敵する2機が死力を尽くせば、追い払うまでならできるだろう。

 それでも倒し切るのは非常に困難。


 何せ相手は飛ぶのだ。

 不利になればさっさと逃げるだけ。


 竜種を倒すには一撃で飛行能力を破壊するパワーが必要不可欠。

 よほど運が良くても中量級である浮楽やラズリーさんには不可能と思える。


 なにせほとんどの攻撃をその身に纏う竜麟で減衰させるのだ。

 生半可な攻撃では装甲の表面で弾かれて終わり。


 さらに言えば、もし、運良くクリーンヒットで飛行能力を破壊できたとしても、倒し切るまでに浮楽とラズリーさんはそれなりの破損は免れない。

 地上で暴れ回る竜種にトドメを差すことはそれだけ難しい。


 しかし、目の前の浮楽に破損は見られないし、ラズリーさんも同様。


 一体どのようにして機械種エルダードラゴンロードを倒したと言うのだろう?


 

 疑問の目を向ける俺に、



「ギギギギギ!!」



 浮楽が金切り音で捲し立て、



「キィ~、キィ、キィ!」



 廻斗が照れくさそうに機械種エルダードラゴンロードを倒した経緯を説明。



「ええ! 廻斗がやったの」


「キィ!」



 詳しく話を聞くと、初めはラズリーさん達が機械種エルダードラゴンロードに追われていた所に遭遇したらしい。


 そこへ浮楽が飛びかかり、竜種を足止め。

 まずは白露を抱えたラズリーさんを逃がした。


 しかし、多彩な技を持つ浮楽でも機械種エルダードラゴンロード相手には有効打が与えられず、攻撃を引きつけて回避するのが精々。

 

 せめてラズリーさん達が安全な場所まで逃げる為の時間稼ぎに徹していたという。


 だが、このままではジリ貧と察した廻斗が一計を案じた。


 廻斗はわざと機械種エルダードラゴンロードに飲み込まれに行ったのだ。



 機械種エルダードラゴンロードに飲み込まれた廻斗の機体は一瞬でかみ砕かれ、口内の粒子加速砲で焼き尽くされた。


 けれど廻斗の機体は9つの復命を持つ。


 復活の起点となるのは廻斗のネクタイ、宝貝『八卦紫綬衣』。


 ちょうど喉辺りの隙間に入り込んだ八卦紫綬衣を起点に廻斗の機体が復元。


 機械種エルダードラゴンロードにしてみれば、気管に突然小石が出現して挟まったみたいなモノ。


 さらに廻斗は八卦紫綬衣の収納庫に仕舞いこんでいた手投げ爆弾を取り出して自爆。


 それを3回繰り返した上に、天兎流舞蹴術の奥義を以って内側から食い破って外へと脱出。


 そこへ浮楽が己の最大の力を振り絞って斬撃を繰り出した。



「ギギギギギギッ!」


「キィキィ」



 しかし、疲労していたこともあって、首半ばまでしか断てなかったそうだ。


 廻斗が内側から破壊し、竜麟が剥げた場所であっても、浮楽の力では両断できなかった。


 倒し切れず、竜種の反撃を待つばかりとなった絶体絶命のピンチ。


 そこに現れたのは白露を匿う安全地帯を作り上げて戻ってきたラズリーさん。


 竜種の首に喰い込んだ浮楽の武器を思いっきり蹴飛ばし、その勢いを以って機械種エルダードラゴンロードの首を切断することに成功。


 3機の力を合わせてようやく倒すことができたらしい。




「キィキィキィ!」

「ギギギギギギギッ!」



「そりゃあ、大殊勲だけど……………」


「キィ?」



 俺の前でフワフワと飛ぶ廻斗を両手で捕まえ、そのネクタイを捲る。


 その白い機体に刻まれた星の数は5つ。


 それはつまり廻斗の4つの命が失われたということ。



「……………………」



 俺にとっては機械種エルダードラゴンロードの残骸が手に入ったことは嬉しいが、廻斗の命が失われたかもしれないと考えると素直には喜べない。

 いくら1日経てば戻るとはいえ、廻斗が4回破壊されたのは間違いないのだ。



「キィキィ?」



 まんまるオメメをキョトンとさせて俺の顔を見つめる廻斗。


 おそらく俺がもっと喜んでくれると思っていたのだろうが…………

 


「………………よくやったな、廻斗。竜種の喉を内側から破るなんて大したもんだ」


 

 廻斗の頭を撫でながら褒めてやる。



 本来なら危ないことはしないよう注意するべきだったかもしれないが、従属機械種にとってマスターの役に立つことは己の存在意義でもある。


 仲間の危機に自分の能力をフル活用しただけ。

 廻斗に非は無いばかりか、廻斗のおかげで助かったのだ。


 それに危ない役目を負わせておいて、危ない事をするなと言うのも矛盾だろう。

 ここは素直に褒めてあげるべきだ。



 また、『なぜ白兎を通じて連絡してこなかったのか?』の問いも飲み込む。

 

 廻斗達が機械種エルダードラゴンロードと戦闘になった時、おそらく俺達は飛空艇で暴竜を追っていたタイミング。


 その段階で救護要請を受けても駆けつけられるのは数時間後。

 とても間に合わないばかりか、下手をしたらこちら側が混乱し、最悪の事態に陥っていた可能性がある。


 それを恐れて廻斗は連絡してこなかったのであろう。



 結果論ではあるが、もし、廻斗の救護要請を受けて、俺達が引き返していた場合、どうなっていたか…………



 暴竜はスカイフローター達を集めている最中だった。


 そこへ俺達が突然現れたことで、暴竜は驚き戸惑い、集めたスカイフローター達をロクに活用もできないまま、白兎の波動砲によって大打撃を受け、飛空艇の突撃を許したのだ。


 あの時、あの瞬間でなければ、あそこまで作戦は上手く行かなかったであろう。


 そして、俺達が引き返していた場合の最悪は、何万というスカイフローター達を率いた暴竜の反撃。


 暴竜によって統率された空を埋め尽くす飛行軍団との対決。

 

 もう勝ち目など在るわけがない。

 廻斗の適切な判断によって最悪が回避できたのだ。


 暴竜戦には参加していなくても、廻斗の殊勲は誰もが認めるものであろう。



 

「それにしても凄い。竜種の機体を内側からとはいえ、こんな小さな廻斗がブチ破ったのか。流石は白兎の弟子だな。何と言う奥義だったんだ?」


「キィキィキィ、キィキィ!(ごっちゃんです! 決まり手は『ぶちかまし』です)」



 返ってきたのは相撲用語。

 勝利インタビューを受ける力士のような神妙な態度で答える廻斗。


 そう言えば、廻斗の天兎流舞蹴術の等級は『十両級』だったな。

 ひょっとしたら、今はもう少し昇格しているかもしれないが。

 


「そんな決まり手、相撲にあったっけ?? …………まあいいか。今度、俺にも見せてくれよ」


「キィ~!」


「それに浮楽もがんばってくれたみたいだな。よく任務を果たしてくれた。見事だ」



 浮楽へ振り返って、労をねぎらう。

 

 離れてしまったラズリーさんの追跡し、前衛系ストロングタイプに追いつける速度を出せるのは、白兎を除けば浮楽ぐらい。

 あらゆる場面で活躍できる対応力に秀でた機種であればこそ、この任を真っ当できたのだ。



「ギギギギギギギギ!!」



 俺に褒められた浮楽は喜びのあまりその場でタップダンスを始める。



「キィ! キィキィ!」



 すると廻斗が『混ぜて!』とばかりに参入。


 2機は仲良く手を繋いで燥ぎ回る。

 嬉しそうに鳴きながらグルグルと。

 まるでタンゴを踊っているようだ。



「ふう………………」



 そんな2機の喜ぶ様子を見ながらそっと嘆息しながら、今回の作戦について振り返る。



 打神鞭の占いにて、暴竜戦のキモは戦力配置だと出た。

 故に、白露を抱えたラズリーさんの護衛として、廻斗と浮楽を派遣したのだ。


 杏黄戊己旗を使えて、白兎と遠距離で会話できる廻斗。


 スピードとテクニック、技の多彩さで敵を翻弄する遊撃手の浮楽。


 この2機なら大丈夫であると安心しきっていたが…………



 実際の所、かなり危ない状況であったのかもしれない。

 

 ダイナソアタイプぐらいであれば、浮楽単体でも切り抜けられただろうが、機械種エルダードラゴンロードはどうにもならない。

 一度目にしていた以上、竜種が出てくる可能性を考える必要があったのだ。


 

 しかし、では、どうしたら良かったのかについては答えが出ない。



 白兎、ヨシツネのどちらかを一緒に派遣していれば万全だった。

 だが、どちらが抜けても緋王クロノスを倒すことはできなかったのは間違いない。


 かと言って、剣風や剣雷、秘彗や毘燭では足が遅すぎる。

 とても浮楽の移動速度には付いていけない。

 森羅か胡狛に巨大戦車を操縦させても、浮楽のスピードの方が何倍も上。


 天琉であれば機動力も戦闘力も問題無いが、暴竜との空中戦が想定されている中だ。

 天琉をメンバーから外す選択肢は取れなかったであろう。


 同様に輝煉も無理。

 輝煉の戦闘力と自動防御ユニットなければ、神殿へ突入したメンバーも、迎撃要員として残ったメンバーも、絶対に無事では済まなかったから。


 当たり前だが、豪魔やベリアルも論外。

 守護者相手に最高戦力を外すなんてことはできない。

 


「結局、まだ足りないのか。ここまで戦力を集めて…………」



 もう中央の狩人チームでも滅多にいない戦力を集めたチームのはず。

 赤の死線の化け物連中の中にあっても、決して見劣るモノではない。


 けれども、俺が目指す安心・安全のためにはまだ足りないのだ。

 だからもっと戦力を増やさなくては…………




 横たわる機械種エルダードラゴンロードの遺骸に視線を移す。




「これは予想外の成果だ。コイツを修理すれば…………」



 望外の成果と言っても良い。

 空中庭園に続いて竜種まで手に入るとは本当に運が良い。


 

 機械種エルダードラゴンの遺骸など中央でも手に入れることが難しい希少品。

 おまけにロード種ともなれば、数十年に一度世に出るか出ないかのレベル。

 さらに破損が少ない状態という条件が付くと奇跡的と言う他ない。



 じっくり機械種エルダードラゴンロードの遺骸を見分しながら思考を続ける。



 首を断たれてはいるが、それ以外は傷は無さそうだ。

 ならばそこまで修理するのは難しくないはず。


 部品取りをしてメンバーを強化する方法もあるが、機械種エルダードラゴンロードという超高位機種を仲間にできるチャンスはなかなか無い。

 


「でも、これをボノフさんのお店に持ち込むのは難しいぞ」



 全長25mの巨体はボノフさんのお店の倉庫には入らない。

 あそこは重量級までなのだ。

 この街でも超重量級を修理できる藍染屋は2つしかない。

 さらにその2つでも、この大きさでは入庫できるかどうか…………


 超重量級として想定されるのは10m~20mまで。

 それ以上は滅多に人の世に出ることが無いから。



「ボノフさんにお願いすれば、俺のガレージで出張修理とかやってくれるかもしれないけど……………」



 ボノフさんには色々とお願いしないといけないことが多い。


 優先順位を考えるなら、ヨシツネの修理が第一だ。

 機械種エルダードラゴンロードは後回しにせざるを得ない。

 


「修理するなら五色石を使うか。かなり先になるだろうが」



 クールタイムが終わるまで最低でも1ヶ月半以上はかかるだろう。

 

 逆に言えば時間さえあれば修理できるのだ。

 機械種エルダードラゴンロードをブルーオーダーできる蒼石準1級は1個保有しているのだし。



「これで我がチームにも、豪魔に続いて超重量級がもう1機増えることになるな。これならば………」



 横たわる巨大な竜種の遺骸に手を置き、まだまだ足りない戦力を増やせるかもしれないことに、ほっと安堵しながら、



「頼もしい仲間が増える。でも…………」



 なぜか、増やしたら増やした分だけ、不安も大きくなるような気がして、



「本当に、どこまで増やしたら、俺は安心できるのだろうか?」



 漠然とした不安を胸に、誰にとも言えない問いを口にした。 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る