第525話 時空
グシャッ!!!
輝煉の蹄が機械種ヘラの頭部を踏み砕き、
シャンッ!
ヨシツネの斬撃が機械種ハデスの首を刎ね、
ボフォオオオオオオオオオ
ベルアルの手刀が機械種ポセイドンの胸を貫き、内側から炎を巻き起こしてドロドロに溶かす。
機械種デメテルのデバフが無くなり、調子を取り戻したメンバー達は緋王クロノスの従機を打ち負かした。
鎧袖一触とは言わないが、各々の相手を危なげなく倒すことができた。
それはこのメンバー達が臙公、紅姫レベルの敵を単独で狩ることが可能ということ。
もちろん、相性があるから一概には言えないし、相手は限定的な力しか持たない従機。
通常の紅姫や臙公とひとまとめにするのは荒っぽ過ぎる判断。
それでも、破格の戦闘力を持つメンバー達なのは間違いない。
たとえ白兎がいなくても、俺のチームの陣容はまだまだ厚いままだ。
「よくやったぞ、お前達」
ヨシツネ、ベリアルの所まで戻り、2機に慰労の声をかける。
「残るは緋王だけだな」
チラリと後ろを振り返ると、未だ動かない緋王クロノスと、そんな緋王から俺を守るような位置に立つ輝煉の姿。
「全員で討ちかかれば、今度こそ倒せるはずだ」
もう隠れた敵はいないのだ。
敵は緋王1機だけ。
こちらには同格のベリアル。
成長著しいヨシツネ。
防御に長けた重量級の輝煉。
そして、最強の俺がいるんだ。
負けは無い!
瀝泉槍を握りしめ、緋王を睨みつける。
ヨシツネが破壊され、白兎が倒れた。
何度も勝利を諦めかけたが、何とか窮地を食い破ることができた。
アイツを倒せば、全てが終わる。
俺は緋王を倒し、茜石を手にして、白露の元に帰るんだ!
誰にも邪魔なんてさせない!
俺の激しい戦意は、まるで体全体から炎が立ち昇るかのように。
ボオオオオオオオオオオッ!!
そう。
ボウボウと炎が燃えるような音が聞こえるほどに…………
「主様、その…………」
「なんだ? ヨシツネ」
「お身体が燃えているようですが?」
「あ…………、忘れた。 ってか、ヘスティアを倒したのに消えないのか、これ」
今なお、俺の身体は灼熱の劫火に晒されている。
まあ、熱さもあまり感じないし、火傷する訳がないから実害が無いんだよな。
でも、ずっとこのままと言うのも困る。
「消えないなあ………」
再度、禁術を試してみるも、一瞬消えて、すぐに燃え上がってしまう。
これが聖火リレーの松明なら大変便利な仕様なんだが、自分がその松明になってしまうと全くの別問題。
ひょっとして、世界一周したうえ、オリンピック会場の聖火台に火を移さないと消えないのだろうか?
「我が君、ちょっと待ってて」
ベリアルが俺に近づいてきて、その手の平を向けてくる。
するとしばらくして、俺の身体から噴き出していた炎が鎮火した。
「おおっ! 消えた………」
「我が君の身体に付着した極小の機械種が炎を放射し続けていたんだよ」
「え? そんなのいたの?」
機械種ヘスティアの炎に紛れていたのだろうか?
確かにそんなモノがへばりついていたのなら、いくら炎を消しても意味が無い。
「数ミリの小さい奴だからね。気づかなくても無理ないよ」
「ふーん…………、助かったよ、ベリアル」
「大したことはしていないさ。ちょっとガンマ線を当てて焼却しただけだし」
「ほう…………、何? おいこら待て! それって、危ないヤツじゃないか!」
ガンマ線って、放射能のことだろうが!
そんなモノ、俺の身体に当てやがって!
「そんな危険なモノを俺に放射するな!」
「ええ~! どうせ我が君には効かないんでしょ」
血相を変えて怒る俺に、ベリアルは顔を少し顰める。
「それで死ぬんだったら、もっと最初の方に影響が出てるよ」
「馬鹿野郎! 今は影響が無くても、後々出てくるかもしれないだろ!」
「変な所に拘るね、我が君は」
「これが普通なんだよ!」
「我が君が普通って言ってもねえ………」
呆れ顔を見せるベリアル。
だが俺にしたらそこは譲れない所。
日本人なら放射能の恐怖は嫌と言う程叩き込まれているんだよ!
俺自身に影響が無くても、ずっと俺の身体に付着して、誰かを被曝なんかさせたら大変だろうが!
「……………ったく」
ベリアルには色々言いたいところだが、
チラリと横目で巨大な晶石の前に立つ緋王クロノスを確認。
左腕は失ったまま立ち尽くし、ただ、こちらを無表情で眺めているだけ。
「ここまで隙を見せているのに、何もしてこないのか………」
どうにも緋王の動向が理解できない。
従機を控えさせていて、奇襲させたまでは見事と言える。
しかし、従機を5機出した時点で自分は後ろに下がり、俺達に従機全てを倒されるまで何も攻撃してこなかった。
もし、機械種デメテルの飢餓の呪いが炸裂した時点で、全力攻撃を繰り出されていたら、それだけで全滅していた可能性だってある。
まさか戦況が読めない訳ではないだろうに…………
一度は神々の王となった時空神クロノスの名を冠する機械種が、戦術スキルを持っていないとは思えない。
さらに言えば、今も特に動きを見せない。
まるで俺達が仕掛けてくるのを待っているかのように。
「そう言えば、コイツ。最初は俺達に初手を譲るような発言をしていたな」
謎の違和感が連発して、俺が自縄自縛になっていたから、時間切れで向こうが仕掛けようとしてきたけれど。
「だが、あの位置に居られると、どうしても遠距離攻撃ができないんだよな」
緋王クロノスの背後には、決して破壊してはいけない茜石が鎮座している。
俺達が緋王を攻撃しようと思うと、必ず近接戦を挑まなくてはならなくなる。
その場合、待ち構えられて、さっきみたいな空間攻撃の嵐をカウンターで出されるとかなりマズイ。
下手に喰らえば大破を免れないし、俺自身ですら命を落とす可能性がある。
こちらの思惑としては、先ほどヨシツネが肉薄できたように、相手の攻撃直後を狙って接近するのが一番だ。
故に攻撃を誘ってみたが、なかなか向こうから動き出そうとしない。
「こちらが踏み込んでくるのを待っているのか?」
「多分そうじゃないかな? 向こうはかなり慎重になっているみたいだから」
ベリアルが俺の呟いた疑問に答える。
「…………やっぱりそうか?」
「そりゃあ、レジェンドタイプに腕を切断されるは、倒したはずなのに復活するは、人間であるはずのマスターが火だるまになっても平気で動いているは………」
自分の指をこれ見よがしに折り曲げながら数えていくベリアル。
そういう仕草をすると妙に子供っぽく感じてしまう。
「おまけに同じ緋王たる僕がいるからね!」
自慢げに微笑みを浮かべるその表情は、集めたトレーディングカードを自慢する小学生みたい。
「しかし、あまり時間はかけられないぞ」
この神殿の外では、豪魔達が竜牙兵の大集団相手に奮戦してくれているはずなのだ。
俺の持つマテリアルカードの半分を預けてきたからそう簡単には補給切れはしないと思うけど。
「そうだね、それに向こうがあえて時間稼ぎしている可能性もあるし」
「……………余計に悪い。今すぐに仕掛けるぞ」
ありうるな。
援軍を待っている。
若しくは、力を貯めているという可能性は否定できない。
「皆で囲んで叩く。それが一番確実だ」
「…………主様は後方に居られた方が良いかと」
ヨシツネから控えめな申し出。
それは俺の身を案じたのことであろうが。
「む…………、確かに空間攻撃が飛んで来たら、俺では防ぎようが無いが…………」
あの緋王はほぼノータイムで空間攻撃を放つ。
指を動かしただけで次元斬を飛ばすのだから、接近戦で使われたら即死する可能性があるのだ。
空間制御を持つ機械種なら察知できるが、俺では発動を感じ取ることができない。
僅かな違和感に気づかなければ、いつの間にか両断されていることもありうる。
しかし、この状況で俺という戦力を無駄にするのも頂けない。
先ほどのヨシツネが潰されたシーンを見て、怒りで我を失いそうになった俺だ。
あんな思いをするくらいなら多少の危険ぐらい飲み込む方がマシ。
「僕とレジェンドタイプ、そこの重量級が前衛を張るよ。我が君は少し後ろにいたらいいんじゃない。隙があったら攻撃できるし」
俺の不服そうな表情を見て、ベリアルが妥協案を提示。
今にも増してヨシツネとベリアルが俺を後方に残そうとしてくる。
それだけ危険な相手なのだからということなんだろう…………
「まあ、仕方無いな。分かったよ」
渋々ながらもメンバーからの案に頷く。
メンバー達にとって俺と言う存在は、最強の鬼札であり、取られてしまえば即座に負けが確定するキングでもある。
どれだけ強いと言っても『王の駒』や『キングの駒』で攻め上がる指し手はいないのだ。
リスクから考えても俺を後方に残したくなる気持ちも良く分かる。
「さて、陣形も決まったところで……………」
「ようやく決まったのかね?」
「……………チィッ! 今まで黙っていたクセに」
抑揚のない声が緋王から発せられた。
思わず、舌打ちと愚痴が出る。
「アンタ、どういうつもりだ? 名前を呼び捨てしたぐらいでいきなり攻撃してきたり、手札を隠して策を弄したと思ったら、従機に任せて高みの見物と洒落込んだり、俺達のやり取りを黙って見たり…………、どうにも行動に一貫性が無いぞ」
緋王が神々の王だとすれば、俺の言葉遣いは完全にアウトだろう。
それで激怒するなら、少しぐらいは本音を出してくれると思うのだけれど。
しかし、緋王は涼しい顔で俺の問いかけに答える。
「ふむ? 一貫性が無いと? 余は決められた通りに動いているだけだがね」
「決められた? 誰にだ?」
「余の晶脳に刻まれている通りだ。篩をかけた上で、絶望に立ち向かえるかどうか。我々の求める人間であるかどうかを見極める」
「見極めるって………、それに求めてる人間って何のことだよ?」
「さあな。…………もう時間切れだ。次のステージに移ろうか」
おしゃべりはここまでだと、会話を打ち切る緋王クロノス。
そして、こちらに一際強い視線を向けたかと思うと、
「出でよ、『時の嵐』」
その言葉を緋王が口にすると、その周りを囲むように靄が生まれる。
それは徐々に収束していき、2本の縄………いや、靄で構成された蛇の形を取る。
中でチカチカとした輝きを秘めた靄の集合体。
その長さは20m以上。
鎌首をもたげ、生きている蛇のような動きでこちらを威嚇している。
「あれは…………一度見たな」
「ハッ、拙者がこの『髪切』にて切り飛ばしました…………が、何なのかまでは分かりませぬ」
「あれは『時乱流』だよ」
俺とヨシツネの会話に割り込むベリアル。
「あの靄の中では時間の流れがバラバラなんだ。あれに触れられたらその部分がグシャグシャに分解されてしまうよ。構成している分子核の動きにすら干渉してくるからね。しかも時間制御でないと防げない」
「………………ヤバいということは何となくわかった」
「一応、力押しでも防ごうと思えば防げるんだけど、効率がもの凄く悪いんだよね」
ベリアルは眉を顰めて嫌そうな顔。
しかし、次の瞬間、何か企んでいそうな薄笑いに切り替えて、
「でも、どうしてもって、我が君が言うなら…………」
「ヨシツネ、お前の刀で切り裂けたはずだな? 行けるか?」
したり顔で言い募ろうとしたベリアルを無視して、ヨシツネに確認。
触れたら分解するはずの『時の嵐』を切り裂いた『髪切』。
なぜそうなったのかは不明だが、今はそれに頼るしかない。
「ハッ、お任せを」
「よし、ヨシツネを先頭にベリアル、輝煉がバックアップに付け!」
カツンッ!
「…………ぶう、分かったよ」
輝煉が高らかに蹄を鳴らし、ベリアルがぷくぅと頬を膨らませた不貞腐れた顔で了承。
「よし! 行くぞ!」
俺の号令を以って、3機は緋王に向かって走り出す。
少し遅れた形で後を追う俺。
相手は時属性を持った二匹の雲蛇を纏わせた時空神。
挑むのは、ヨシツネをトップに据えたスリーマンセル。
ヨシツネが2匹の『時乱流』を切り裂いた瞬間、ベリアルと輝煉が飛びかかる予定。
俺はそのさらに後ろにいて、隙を見つけてトドメを差す役目。
いかに強力な空間制御、希少な時間制御を持とうとも、完全に戦力はこちらが上。
さらになぜだか分からないが、ヨシツネの刀は緋王の攻撃を全てきり払うことができる仕様。
まともに正面からぶつかるなら、戦力でも数でも上回る俺達が勝つ!
「まず1つ!」
斬!
先頭を走るヨシツネに向かってきた時乱流の1つが切り下ろされる。
その首を『髪切』によって切り飛ばされ、身体を構成していた靄が一瞬にして霧散。
「2つ!」
斬!
時間差をつけて飛びかかる雲蛇だが、これも危なげなくヨシツネが迎撃。
頭を縦に割って、一刀両断。
「やった! 後は緋王だけ…………」
俺の口から歓声が漏れる。
これで緋王を守る2匹の守護蛇は消え失せた。
もう俺達を阻むモノは無い。
「貰った!」
ヨシツネが一足早く緋王に切りかかろうとした時、
ピタッ…………………
突然、ヨシツネの機体が動きを止めた。
まるでビデオ映像を一時停止したかのように。
「んん? レジェンドタイプ、何をやっている?」
ガチンッ!
俺の為に進路上に立ち塞がる空間障壁を割りながら接近していたベリアルと輝煉が立ち止まる。
「どうした! ヨシツネ!」
「………………」
不審に思った俺の声にもヨシツネは答えようとせず、止まったまま………
いや、ほんの少しだけ動いているように見える。
だが、その動きは非常に緩慢。
せいぜい1秒かけて1mm程度…………
「はっ! マズい! 遅延結界だ! あの緋王の周りは強制的に時間が遅延させられている!」
「何?」
ベリアルから飛んできた情報。
それは時空神が持っていておかしくない権能。
ニヤッ
緋王クロノスの顔に笑みが浮かぶ。
それは罠にかかったものを笑う狩猟者の顔。
そして、その残った右腕で持つ鎌を大きく振り上げ………
「『九竜神火罩』!」
俺は即座に宝貝 九竜神火罩を七宝袋から取り出してヨシツネに向けて投擲。
バクッ!
巨大化して大きく口を開き、ヨシツネをバクッと飲み込む九竜神火罩。
「戻れ!」
紐をグイッと引っ張り、ヨシツネを確保した九竜神火罩を引き戻す。
何とかギリギリで救助に成功。
チラリと緋王へ視線を移せば、鎌を構えたまま驚いている姿が見えた。
パカッ!
「こ、ここは? …………主様?」
九竜神火罩から取り出されたヨシツネは、何が起こったのか分からない様子。
こちらへと恨みがましい視線を向ける緋王を睨みつけながら、軽くヨシツネに説明。
「!!! なんと! 申し訳ありません! 拙者が…………」
「それはいいから!」
謝罪しようとするヨシツネを留めるも、沈痛な表情を崩さない。
この戦いにおいて、すでに2回も死にかけたことを気にしているようだ。
ヨシツネは高機動近接戦タイプで単騎戦力に優れたユニット。
空間転移を得意とし、空間攻撃も使うことのできる機動力と火力を両立させた機種。
しかし、防御の面においては回避が主であり、耐久力は決して高いとは言えない。
能力的には単独任務に向いており、集団戦においても先鋒が最適。
さらに勇敢、且つ、マスターに忠実。
つまり使い出が良すぎてどうしても死地に向かわせてしまうことが多くなるのだ。
性格的にもそれを厭わず、むしろマスターの為に喜んで突っ込んでいく。
今まで戦ってきた相手はほとんど格下だから気にする必要がなかった。
しかし、格上と戦う機会が増えていくと、どうしてもヨシツネが戦死してしまう可能性が高くなる。
白兎程飛び抜けておらず、豪魔よりも脆い。
天琉よりも前衛に立つことが多く、ベリアルよりも格下。
なぜか強化されてしまった『髪切』の攻撃力はかなりのモノだが、それとてヨシツネが格上と戦う機会を増やしてしまう原因ともなりかねない。
これはそろそろヨシツネの強化も考えなくてはならないな。
そんなことを考えながら、落ち込むヨシツネへとフォローを入れる。
「気にするな。お前のおかげでまた一つ、緋王の手を知ることができた。お前が突っ込んでいなきゃ、俺がひっかかったかもしれん」
「ハッ…………」
「『時乱流』とやらは、お前の手で倒せたんだ。あとはあの『遅延結界』を何とかすれば…………」
「ふむ? たかが2本、『時の嵐』を切り裂いたぐらいでいい気になられても困るな」
俺とヨシツネの会話に割り込む緋王。
「む?」
「………………」
此方に届いた起伏の少ない声に、俺もヨシツネも警戒態勢。
先ほどからコイツは口を開く度にナニカを引き起こす。
さて、今回はナニを見せてくれると言うのか……………
「では、この数の『時の嵐』を切ることはできるかね?」
そう挑発的な言葉を緋王が発した瞬間、
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
茜石を背に立つ緋王の身体から、無数の渦を巻いた煙が昇り始め、
「さて、勇者よ。良くぞこのステージにまで辿り着いた。ここから先は光明の見えない地獄ぞ」
チカチカ光る輝きを灯した煙で作られた蛇は40本以上。
まるでギリシャ神話におけるヒドラのように多頭の蛇がグネグネと踊り狂う。
いや、あそこまでの数ならすでに触手。
しかも1本1本が触れたら即死しかない死神の手。
「な……………」
口を開けたまま絶句状態になる俺。
1本や2本ならともかく、あの数は流石にマズイ。
さらに希少な時属性とくれば、空間攻撃と同じく俺に効く可能性もあるのだ。
時間制御を持たねば乗り越えられない遅延結界に、即死効果を持つ触手が40本。
一体どうやって乗り越えれば良いのだ!
「これぐらいで驚いてもらっては困る。まだステージは始まったばかりだというのに。やはり人間は我等機械種の足元にも及ばぬ矮小な存在だな」
俺達の驚愕した顔を見て、緋王からこちらを馬鹿にしたような発言が飛ぶ。
「ほれ、これを見て、もっと間抜けな顔を晒すが良い」
そう言いながら、顎をしゃくる緋王。
貴人には似合わぬ下品な仕草だが…………
「え?」
思わず自分の眼を疑った。
唐突に緋王の前にレッドオーダーが現れたのだ。
それも、先ほど俺達が倒したばかりの従機達。
冥神ハデス
海神ポセイドン
豊穣神デメテル
炉の神ヘスティア
神々の女王ヘラ
冥神ハデス
海神ポセイドン
豊穣神デメテル
炉の神ヘスティア
神々の女王ヘラ
5柱のギリシャ神話の神の名を持つ従機がそれぞれ2機ずつ。
合わせて10機が俺達の敵として現れた。
「はあ?」
緋王の言う通り、大きく口を開けて間抜け面を晒してしまった。
まさかの倒した敵の復活。
そればかりか倍の数となって現れた。
一機一機の戦力は俺達の方が上回るが、それぞれが紅姫・臙公並みの出力を持つ高位機種。
決して油断できる相手ではない…………はずなのに、10機に増えた。
「ヤバい…………」
単純な戦力差で上回られたのに加え、最悪なのが機械種デメテルの存在。
かの機種が使う『飢餓の呪い』は、機械種のマテリアル残量を減少させ、動きを阻害させる効果を持つ。
先ほどは速攻で片づけたから事なきを得たが、今度は呪いの使い手が2機。
ダブルで呪いを発動されたら一体どうなってしまうのか?
下手をしたら、ヨシツネもベリアルも輝煉も動けず、俺だけとなってしまうかもしれない。
前と同じく速攻で倒そうにも、機械種デメテルは並ぶ10機の一番後衛。
前衛を倒さねば手が届かず、今から全員で突撃しても呪いの発動の方が早い。
また、砲撃も茜石を背後にしているから不可。
生半可な威力ではあの10機には通用せず、全力でぶっ放せば、背後にまで被害を及ぼす可能性がある。
どうやっても呪いの発動を止めることはできそうにない。
まさか、こんな状況になるなんて…………
「どうだね? 驚いてくれたかね?」
相変わらず感情の籠らぬ声、全くの無表情で、絶句する俺に問いかけてくる緋王。
しかし、今の俺にはその問いの答える余裕などなく………
だが、緋王は気にもせずに、俺達に向かって宣言。
「ふむ………、どうやら余の期待通りの反応を示してくれたようだ。では、次のステージに行けるよう精々足掻いてくれたまえ」
緋王が語り終えた瞬間、10機の従機達は俺達への攻撃を開始………
そう思われた直後、ベリアルが動いた。
バキッ!!
バキッ!!
自分の頭に生える角2本を根っこから両手でへし折り、それを前に掲げて叫ぶ。
「我が双角を対価に烙印を下す!」
滅多に見ないベリアルの真剣な表情。
いつもどこか気だるげで、どこか余裕を持った態度から一変。
そんなベリアルから飛んだのは酷く物騒な言葉。
「汝等は『無価値なり』!」
その瞬間、ベリアルの手の中の角が粉々になって崩れ去り、
10機の中では最奥にいたはずの機械種デメテル2機が、
サアァァ……………
全身砂のようになって崩れていった。
「な、何を……………」
突然の現象に驚いて、仕掛け人であろうベリアルを見れば、歯を食いしばりナニカに耐えているような苦悶の表情。
「どうした? ベリアル…………」
「我が君、聞いて!」
ベリアルは俺の方を振り向きもせず前を見つめたまま、短い言葉で俺へと傾聴を促してくる。
「時間はあの緋王の味方だ」
「はい?」
「経過した時間と共に制限が解除されていくタイプだ。しかもただの緋王じゃない。空の守護者のバックアップを受けている…………、いや、アイツが空の守護者の本体って言えるのかもね」
「アイツが空の守護者の本体? 機械種テュポーンではなく?」
「セット………って言い方かもしれないけど。少なくとも、あの緋王は背後の茜石と繋がっている。そこから力を得ているんだ。それこそ無尽蔵と呼べるくらい。でなけりゃ、あれだけ高位の従機をポンポンだせるわけがない。ただし、制限があって最初からフルパワーを出せないようになっているだと思う」
「…………………なるほど。道理でなかなか向こうから手を出さない訳だ」
「このままだと、どんどん制限が解除されていってどうしようもなくなる。だから速攻でアイツを倒さないと…………」
「さっきのデメテルを砂にした技は使えないのか?」
「あれは僕の虚数制御でアイツ等の自壊プログラムを無理やり走らせただけ。基本的には格下殺し。しかも対価がいるから、僕の機体全部を犠牲にしても、あの緋王は無理」
「そんな危ない技なのかよ!」
ベリアル自身の機体の一部を対価にしないといけないのであれば、とても普段使いできるような技じゃない。
自分を傷つけて相手にダメージを与えるなんて、実に『闇属性』っぽい。
五色石で修復できるのだろうが、できれば使ってほしくない技だ。
「我が君! もう時間が無い! 残りの従機は僕が全部片付けるから、あの緋王をお願い! アイツと僕がぶつかったら余波で大変なことになる…………」
「分かった……………、でも、残り8機だぞ。1機が紅姫や臙公クラスの。お前1機では……………」
遠距離攻撃を制限されたベリアルの戦闘力は、緋王としては高くない。
あくまで砲撃を得意とする後衛機種なのだ。
いくら格下とは言え、接近戦で8機を相手にするのは無謀ではないか。
俺の言葉に、ベリアルは少し自嘲気味の笑みを浮かべ、
「知らなかったの? 魔王型は変身するんだよ」
ズルッ………
ベリアルの着る豪奢な衣装。
その背中が破れ、現れたのは白をベースにオレンジが混ざった翼。
さらに臀部部分から爬虫類のような尾が飛び出す。
さらに少女のような美しい繊手から棘が生え、肩から二の腕にかけてサメのヒレに似た突起物が現れる。
また、脚もどうように痛々しい棘があちこちに生えそろい、ベリアルの機体が一回り大きくなったような外見となった。
「できれば、我が君には見せたくなかったけど…………」
そう呟くベリアルの顔は、皮膚を突き破った金属の鱗が顔面を覆い、牙が伸びて鬼のような狂相となってしまっている。
金髪の貴公子、絶世の美少年とは呼べないが、どことなくスタイリッシュなメカが混じったダークヒーローのような印象。
例えるなら天使と悪魔を混ぜ合わせた異形の機械戦士。
少年漫画に出て来そうな主人公チックな改造人間。
俺的にはカッコ良いと思うが、ベリアルにとってはその姿を見られるのは屈辱なのであろう。
目に怒りの炎を灯し、未だ動かない従機8機を睨みつけ、
「お前等、よくもこの醜い近接戦モードを晒す羽目にしてくれたな…………」
地獄の底から響くような低い声。
「全員まとめて磨り潰してやるぞ!」
血の吐くようなドスの利いたセリフと共に、異形と化したベリアルは、残り8柱の神々へと躍りかかった。
ドガアアアアアアアアアアアン!!
爆音が響き、8機の内の最前衛にいた海神ポセイドンの機体が吹っ飛ぶ。
冥神ハデスの腕を無造作に掴み、そのまま握りつぶす。
逃げ遅れた炉の神ヘスティアの頭を手刀で真っ二つにする。
僅か数秒で2機を中破、1機を破壊に追い込んだベリアル。
「があああああああああああああああああ、この程度かあああああああああ!!」
両腕を振り回し、狂乱状態で暴れ回る魔王。
ようやく体勢を整え、魔王を囲もうとする従機達。
形勢は不利なように見えるが、ベリアルは圧倒的なパワーでねじ伏せようとしている。
これならば従機達はベリアルに任せても問題無さそうだ。
あとは、俺達が緋王を仕留めるだけ。
「………………行くぞ! ヨシツネ、輝煉。ベリアルの心意気を無駄にはできん」
カツンッ!
俺の言葉に輝煉が大きく蹄を鳴らす。
俺に対してほとんど肯定的な態度しか取らない忠誠心の高い輝煉。
しかし、同じく俺に忠実なヨシツネは、俺の身を案じて懸念を現す。
「しかし、主様。我等ではあの遅延結界を越えられませんが………」
「分かっている! だが、このまま時間が経てばこちらが不利になるだけだ。何としてもここで仕留めないと…………」
緋王に目をやれば、相変わらず傍観者を気取っているだけ。
その機体の周りには40本以上の即死効果を持つ時乱流。
さらに強制的に動きを遅くさせる遅延結界。
これ等は全て時間の流れを利用したモノ。
対抗するには時間制御を持つ機種を用意するのが最も効果的なのだが、
我がチームで唯一、時間制御の使い手たる白兎は力尽きて七宝袋の中……………
ピコッ!
「え?」
ピコピコッ!
「主様、どうなされました?」
「いや、白兎の声…………いや、耳? ………とにかく白兎の気配が…………」
その時、
ピョンッ!!!
七宝袋を入れてある俺の胸ポケットから飛び出したのは、
パタパタッ!
いつもの白くて丸くて面白い…………
「白兎!!」
俺の筆頭従属機械種にして、宝貝を兼務する白兎だった。
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