第524話 死闘


 俺達の前に現れた緋王クロノス。


 1機だけでも俺達の手に余る強敵なのに、続いて現れた緋王に朱妃が5機。


 冥神ハデス。

 海神ポセイドン。

 豊穣神デメテル。

 炉の神ヘスティア。

 神々の女王ヘラ。


 いずれも神話ではクロノスの子供であった5柱。

 クロノスの助っ人として、この場に居てもおかしくない存在ではあるが………



「緋王と朱妃が6機もなんて………いつもながら難易度調整、バグってるだろ!」



 1機でさえ、あれ程苦戦していたのに…………



「クッソ! こんなところでやられるわけには………」



 苦々しい声が俺から漏れる。


 瀝泉槍からは『そうだ! 最後まで勝負を捨てるな! さすれば勝利を掴むことができる!』と励ましの言葉が飛んでくるが、精神論で勝てる程甘い相手ではない。


 何をするにしても勝算の低い賭けはできない。

 しかも白兎がいない中、この戦力差を覆す方法を考えなければならないのだ。

 

 緋王、朱妃とのなれば、当たり前のように空間攻撃を使用してくる。

 致死性の攻撃を回避しながら、1機ずつ潰していくのは至難の業。


 ベリアルと同等の力を持つ機種6機相手にどこまで善戦できるのか…………


 

「マスター! コイツ等は従機だ」



 俺があまりの敵との戦力差に悩んでいる中、牽制に徹していたベリアルが声をあげた。



「緋王や朱妃本体じゃない。戦闘力だって、せいぜい臙公や紅姫ぐらいだよ」


「何? 従機………………と言うことは、コイツ等、独立した機械種じゃなくて、緋王クロノスのオプションか!」



 高位機種が稀に保有している機械種型兵器。

 外見・能力は機械種そのものだが、その機体に存在するのは晶石ではなく、似て非なる疑似晶石。

 独立した機械種のように見えるが、常時本体と繋がっており、いわば操り人形みたいなモノだ。

 まあ、ガンダ○作品のファンネ○と言えば分かりやすい。



「……………だとすれば勝機は十分にあるな」



 緋王とその下の臙公や紅姫ではその差は歴然。

 緋王や朱妃6機を相手にするよりは天と地の差だ



 じっと目を凝らして俺達の敵を詳細に観察。



 緋王クロノス。

 そして、その前に並ぶ従機5機。


 いずれも超高位機種には違いないが、奥の緋王に比べれば、壁のように立つ従機5機の威圧感は数段落ちるように思われる。 

 赤く輝く目にレッドオーダー特有の人間への憎悪は見て取れるが、自ら発する強い意思が感じられず、どこかフィルターを通したようなぼやけた印象。



 なるほど、従機と言うのは間違いない様だ。

 

 ようやく見えてきた光明にほっと一息。



 時空神クロノスは、父である天空神ウラヌスを弑逆した後、母ガイアから同じように自分の子供に倒されると予言された。

 そこでクロノスは子供が生まれる度、その赤子を飲み込んでしまうという暴挙に出たのだ。


 それがハデス、ポセイドン、デメテル、ヘスティア、ヘラの5柱。


 即ち、緋王クロノスの中に居てもおかしくない存在。


 唯一、末子であるゼウスだけはクロノスの妻レアーによって逃がされ、やがて父を倒すまでに成長して、飲み込まれた自分の兄妹達を助けたという。

 だからゼウスのみがあの中にはいないというのも頷ける。



 あの5機が従機と言うなら、その力は限定的だ。

 

 実力が高いなら、必ず何かしらの制限が付く。

 数が多くても同様。


 以前、俺達と戦ったレジェンドタイプの機械種ダルタニャンが自機と同じレベルの従機を3機揃えていたが、その稼働時間は数分と短い。


 逆にベリアルが保有する小悪魔型の従機は数は多いが戦闘力が低い。

 

 そして、この緋王が繰り出した従機は5機。

 それでいて、実力は本機よりもやや劣る程度というのは大したモノだが、それでも、稼働時間が短いとか、能力に制限があるなどの制約が必ずある。


 この世界には緋王ポセイドンや朱妃ヘラがいるはずだろうが、間違いなくそれ等よりは能力が劣るはずなのだ。



 見れば緋王クロノスは後ろに下がり、従機5機だけが前に出てくる形となっている。

 明らかに従機を前面に押し出し、自分は安全な位置を確保した陣形。 



 後ろから遠距離攻撃をしてくるつもりなのだろうか?


 しかし、先ほど見せた攻撃はいずれも後ろから撃てば味方を巻き込みかねない広範囲攻撃ばかり。

 まずは従機を当てて、俺達の消耗を誘うつもりなのか………

 


 一気にかかってこないのはこちらも助かる。

 ならば、格下を早めに落として向こうの手数を削るとしよう。



「ベリアル、ヨシツネ、輝煉! まずはあの従機を片付けるぞ」



「了解。アイツ等なら容易いね」

「ハッ!」

 カツンッ!



 相手は5機で、こっちは俺を合わせて4体。

 

 しかし、相手が臙公、紅姫レベルなら個々の戦力はこちらが上。


 緋王が手を出してこないなら、負ける相手ではない!



 瀝泉槍を構え、ベリアル、ヨシツネ、輝煉とともに駆け出そうとした時、




 従機5機の中の1柱が動いた。


 緑色の簡素な服を着た艶麗な美女。

 服の上からでも分かる豊満なスタイル。

 20代とも30代とも見える円熟した魅力を持つ女神。


 豊穣神デメテル。

 大地の実りを司る地母神でもある。

 ゼウスの姉にあたり、オリュンポス12神でも重要な役割を持つ大神は、祈りを捧げるように、その手に持った松明を掲げた。




「なっ!」

「ぐっ!」



 突然、ベリアルとヨシツネの動きが止まった。

 まるで肩から重しを押し付けられたように身体を強張らせて立ち止まる。


 また、輝煉も同様にその歩みを止めた。

 何かに耐えるように機体を僅かに振るわせている。



「!!! どうした? 何があった?」


「……………マテリアル残量が急激に減少してる。多分、あの女郎だ!」



 俺の問いに憎々し気な口調でベリアルが吐き捨て、松明を掲げる女神を睨みつけた。



「主様! これは…………危険です!」


 

 苦しそうに声を絞り出すヨシツネ。



「このままだと、あと10分もしないうちに動けなくなります!」



 髪切を持つ右手がブルブルと震えている。


 急激なマテリアル残量の低下が機体に影響を与えているのだろう。


 

「あの豊穣神デメテルの仕業か!」



 敵、従機5機のうち、あからさまな動作を見せた女神に視線を移す。


 美術館に飾られた彫像のように、松明を掲げながらただ立ち尽くす優艶、且つ、端麗な美女。 

 ギリシャ神話ではゼウスからもポセイドンからも迫られたという美貌。

 その逸話通りの美しさを持つ機械種。



「……………そうか! 豊穣神デメテルの飢餓の呪い!」



 思い当たったのは、ギリシャ神話のデメテルに関するエピソードの1つ。


 デメテルが守護していた森を荒らした王への苛烈な罰を与えた。

 どれだけ食べても満たされず、飢えに苦しみ抜くという凶悪な呪いを。

 最終的には自分自身を食べ尽くすまで止まらなかったらしい。


 その逸話に基づいた能力なのであろう。

 俺達に消耗を強いる広範囲のデバフとしては最も有効な手段。



 マテリアル残量を強制的に減少させられて苦しむメンバー。


 

 そこへ突っ込んできたのは、槍を構えた大神2機。

 

 機械種ポセイドンが三又の槍トリアイナを振りかざし、ベリアルへと襲いかかり、

 機械種ハデスが二又の槍バイデントを手に、ヨシツネへと突きかかる。



 ボフォオオオオオ!!



「このっ! 舐めるな!」



 ベリアルが手から炎の壁を作り出してポセイドンを牽制。



 ガチンッ!



 また、ハデスの突きをヨシツネがギリギリで刀の背で受ける。



「我が君! 早くあの女を! この手の能力は近づくほど強まるから、僕達じゃ無理!」

「この2機は拙者達が抑えますゆえ!」



 ポセイドン、ハデスと激しくやり合うベリアルとヨシツネ。

 しかし、デバフを喰らっているせいか、戦況はやや劣勢の立場。


 ベリアルの炎熱攻撃の威力が明らかに減衰しており、ヨシツネの剣裁きも鈍い。


 

 だが、2機は苦戦しているのにも関わらず、俺へと元凶であるデメテルを仕留めるよう進言。

 ベリアルの言うように、デバフの発生源であるデメテルに接近すればするほど強まるのであれば、これは人間である俺にしかできないこと。



「…………分かった! すぐにアイツを仕留めてやる!」



 このままデメテルを生かしたままにすると、こちらがドンドン不利になっていく。

 たとえリスクがあろうと、今すぐ仕留めるべきだろう。


 俺の手持ちのマテリアルはまだまだあるが、強敵を目の前にして悠長に補給などできる隙があるわけがないからだ。

 時間が経てば経つほど、取り返しのつかないダメージを負うことになる。


 ここは真っ先に片づけてしまうべきだ。



 覚悟を決めて、俺がデメテルに向かって一気に駆け出そうとした瞬間、




 残っていた3女神のうち、豪奢な衣装に身を纏った女王のような風格を持つ機械種が動きを見せる。


 神々の女王ヘラ。

 黄金の冠を被り、王笏を持った最高位の女神。

 全能神ゼウスの配偶神でもあり、結婚や育児を司る華麗なる貴婦人。


 こちらを冷たく見下ろしながら、手に持った王笏を上に掲げると、




 ゴオオオオオオオオオオオオオッ




 その足元が輝き、鉄色もった巨大なナニカが地響きと現界しようとしてくる。

 

 まるで魔法陣での魔物の召喚。

 現れるのは、悪魔か、それとも幻獣か…………


 そして、その全貌が今、俺の目の前に…………




「え? ただの蟹?」




 その姿は紛れもなく蟹。

 2m近いハサミをもった全長15m近いジャイアントクラブ。

 その大きさは大阪の『か○道楽』の看板を務める動く巨大蟹よりデカい。



「いや、ヘラが呼び出したんだから、あれはカルキノスか!」



 ギリシャ神話の最大の英雄ヘラクレスの12の試練の1つ、ヒュドラ退治で出てきた大蟹。

 一説によればヘラクレスを暗殺しようとヘラが差し向けた怪物だと言う。


 

「ヘラクレスの一踏みで潰されたはずだけど…………」



 しかし、ヘラクレスが100m以上の身長を持たねば、アレを踏み潰すのは無理だろう。


 重装甲の甲羅を身に着けた超重量級。

 しかもカニ座の元となったビックネームでもある。

 ただデカい蟹だけであるはずがない。

 


 さらに……………



 機械種ヘラの足元の輝きは収まっておらず、




 ゴオオオオオオオオオオオオオッ



 

 地響きと共に2体目の重量級が現れる。



 その姿は長さ20m近い巨大な蛇。

 太さは直径1m以上。

 人間など簡単に一飲みしてしまいそうな金属で構成された大蛇。



「蛇? ……………ということはピュートーンか!」



 これも女神ヘラが使役されたとして伝えられる大蛇。

 アポロン、アルテミスの母である女神レトを追い詰める為に派遣した魔獣。


 その名を冠した蛇型機械種に違いない。

 おそらく自身の亜空間倉庫に収納してあったのだろう。

 


「従機なのか? 従機のクセに従機を持つとは…………、もしかしたら召喚特性を持っているのかもしれないけど」



 通常、亜空間倉庫に生存している機械種を収納することはできない。

 

 しかし、これには2つの例外がある。


 まず1つ目は、自分の従機であること。

 従機であれば自身の亜空間倉庫に収納することができるのだ。


 もう1つは亜空間倉庫を持つ機種が召喚特性を持っていること。

 

 これは非常に珍しい特性で、これにより自分のレベル以下(一部例外もあるが)の機械種を収納しておけるようになる。

 この特性を持つことで有名なのはジョブシリーズの召喚士系。


 また、デーモンタイプの一部や、超高位機種の中に持つモノがいるらしい。

 かつて緋王ロキが機械種フェンリルを亜空間倉庫から呼び出していたように。


 おそらく、この機械種ヘラはギリシャ神話における女神ヘラが遣わしたとされる怪物達を、自身の亜空間倉庫に収納しているのだろう。

 

 

「クッソ! 邪魔するな!」



 俺の前に立ち塞がろうとする超重量級2機。

 

 機械種カルキノスはその大きなハサミを振り上げて、


 機械種ピュートーンは口を大きく開けてその牙を突き立てようと襲いかかってくる…………

 


 バチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!



 そこへ雷を纏った輝煉が突っ込んでくる。


 

 ドガッ!!!



 超重量級である機械種ピュートーンの頭を蹴り飛ばし、



 バリバリバリバリバリバリッ!!!!



 竜のごとき角から電撃を放って、機械種カルキノスを牽制。



 カツンッ!!!


 

 大きな蹄の音を立てる輝煉。



 たとえ、言葉は話せなくても、その言いたいことは一目瞭然。



「すまん! 任せた!」



 相手は輝煉を上回る大きさの超重量級。


 しかし、輝煉は格においては負けてはいない。

 中国神話では霊獣の長として、君臨する五神の長。

 むしろやられ役の怪物でしかないカルキノスやピュートーンよりも格上であるはず。



 輝煉は雷をバンバン放ち、時には空間転移を交えながら前脚や角で攻撃を加えている。

 デバフのかかる中、構わず暴れ回る輝煉にタジタジと引き気味になっている怪物2機。


 重量級が超重量級を圧倒している珍しい光景。

 流石は神獣型、機械種キリンの上位機種であるオウキリン。



 この様子なら数分ぐらいは耐えてくれるだろう。

 その間に俺がアイツを倒してしまえば…………

 


 あとを輝煉に任し、俺は踵を返して大きく迂回し、再度デメテルへと向かう。



「あともう少し…………」



 瀝泉槍を構え、一刺しにしてやらんと突撃する俺の前に、




「むっ?」



 立ち塞がった1機の機械種。

 白い服を着て穏やかな笑みを浮かべている年端もいかない少女型。



「炉の神ヘスティア……………」



 輝くような金髪に男心をくすぐる幼げで可憐な容姿。

 小柄、且つ、細身でありながら、出ている所は出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる見事なプロポーション。

 男達の理想を詰め込んだような美貌の処女神。


 両手を広げ、まるでデメテルを庇うように俺の前に立つ。



 こんなあどけない少女の外見をした者を攻撃するのは、少しばかり気が引けるけど……………


 

 だが、相手は機械種で、さらに人間と敵対するレッドオーダー。

 さらには機械種本体ではなく、装備された兵器でしかない従機。

 

 

「ここは心を鬼にして……………」



 皆を守るためには必要なこと!


 覚悟を決めて瀝泉槍を振るおうとした瞬間、




 ボフォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!




 広げたヘスティアの両手から、真っ赤な炎をが俺に向かって噴き出された。




「こんなモノ!」




 ブルンッ!




 瀝泉槍を一振り、向かい来る炎を一閃。


 たったそれだけの動作で、噴き出された炎は火の粉となって散り散り。


 たかだが火炎放射ぐらいで俺は止められない。


 まあ、たとえどのような炎であろうと、俺が傷つくことは無いが…………



「んん?」



 瀝泉槍で払ったはずの火の粉がフワフワと空中を舞い、


 やがて、俺の周囲を囲むように集まって、





 ボフォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!





「なんじゃあああああ!!!!」





 いきなり俺の身体が燃え出した。

 体全体にガソリンをぶっかけられて火をつけられたみたいな感じ。


 

 バタッ! バタッ! バタッ!



 服を叩いて消そうとするも、全く消える様子は無く、



「あっ! そうだ。こういう場合は禁術で…………」



 右手の指2本をピンと立てて導引を結び、



「炎よ! 燃えることを禁じる、禁!」



 その瞬間、あれだけ燃え盛っていた炎は綺麗さっぱり鎮火。

 

 どのような仕組みであれ、燃えるという現象を禁じてしまえば、炎は存在できないのだ。



「ふう………、ちょっと焦った」



 別に被害があるわけではないが、身体が燃えたままでいると、生物としてどうしても危険を感じて萎縮してしまう。



「この服が仙衣でなかったら、ここで真っ裸になっていただろうな」



 このシリアスな戦場での全裸は勘弁してもらいたい。

 特に、機械種とは言え、女性が3人もいる前でなんて最悪だ。


 ほっと俺が一息ついたところで、




 ボフォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



 

 またも俺の身体が燃え出した。




「なんでじゃああああああああ!!!」



 慌ててもう一度禁術を行使するも、



 ボフォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



 一瞬、消えてそのすぐ後に燃え上がる。


 3度目もそれの繰り返し。


 何度消しても俺の身体が燃え出してしまう。



「イカンッ! こんなことをしている場合では…………」



 焦りがドンドンと強くなる。

 こうしている間にもヨシツネやベリアル、輝煉は苦戦しているのだ。

 早くデメテルを仕留めなければ…………



 消えない炎。

 おそらくはヘスティアの権能であろう。


 ヘスティアは炉の神であり、暖炉や家庭を守る神だ。

 また、オリンピックで有名な聖火リレーの聖火もヘスティアの炎と言われている。

 

 つまり決して消してはいけない聖火。

 この何度消しても燃え上がる炎はその権能を模したモノに違いない。



 まあ、そんなことが分かった所で今の状況はどうにもできない。


 消えない炎の理由は分かっても、なぜ消えないのかが分からない。

 打神鞭の占いが残っていれば、その謎も解くことができたのだが………



 燃え盛る炎に包まれながら、全く気にせず眉毛を顰めて思案する俺に、その元凶である機械種ヘスティアは戸惑いの表情を見せている。


 何千度の炎に巻かれながらも、全く痛痒を感じていない人間。

 もうそれは人間と呼べるのか? と言った所だろうな。



 しかし、そんなことは当然、俺には関係ないことで、



「…………………まあ、このままでもいいか」



 結局出した結論は気にしないこと。



 そのまま瀝泉槍を振りかぶり、



 シャンッ!



 ただの一閃をもって、機械種ヘスティアの首を落とした。


 

 ゴトッ


 バタンッ



 女神の首が地面に落ち、その後に身体部分が力を失って倒れ込む。



 ボロッ………



 次の瞬間、落とされた首も身体部もボロボロと崩れ去り、ただの砂鉄の塊に早変わり。


 

 これが倒した従機の末路。


 機械種では無く、あくまで本機に付属したオプションでしかないのだ。 

 稼働停止に追い込まれると、機体を維持する力を失い崩れ去る。

 

 この砂鉄の塊には価値が無く、従機持ちのレッドオーダーが嫌われる原因でもある。


 

 勿体ないなあ…………

 つい、こう思ってしまうのは悲しい男の性。


 外見はめっちゃ好みなのだが、従機である以上、本機である緋王クロノスを従属させなければ手に入れることはできない。


 今の状況でそれを求めるのは無謀。

 手に入れることができないから破壊するしかないのだ。

 


「残るはデメテルだけ…………」



 奥にいるデメテルへと視線を向けると、



「むむっ!」



 松明を掲げるデメテルの周りに、フワフワとした麦の穂のような物体が浮かんでいる。

 まるで女神の身体を守る結界のように。


 飢餓の呪いというデバフを繰り出してきた機械種デメテル。


 その身を守る結界にはどのような効力があるのか?


 人間である俺に対しての結界だ。

 間違いなく対人間用であるに違いない。


 どんなエゲツナイ効力を持つのかは知らないが………… 



「押し潰せ、降魔杵!」



 七宝袋から取り出した降魔杵をデメテルに向かって投擲。


 ここまで近づけば、万が一にも外さない。




 グシャッ!




 超重力に押し潰され、瞬く間に機械種デメテルはペシャンコ。

 身を守る結界など関係ない。

 豊穣神デメテルは俺の手によって見るも無残な姿へと早変わり。

 ゼウスやポセイドンを魅了した美しい容姿を持つ女神は、元の姿を微塵も残さない鉄くずと化し、その後すぐにただの砂鉄となった。

 


 これまた勿体ないと思ってしまう。。

 まあ、従機なのだから、どうしようもないのだけれど…………… 



 ふと、そんな感想を抱きながら、



 それにしても、あっさりし過ぎだな。



 といった少しばかりの疑問も湧いてくる。



 先ほどのヘスティアもそうだったが、あまりにも手ごたえが無さすぎる。

 ベリアルが紅姫レベルと言っていたが、中量級とはいえ、こんな簡単に倒せる程、紅姫は弱くない。


 確かにデメテルの飢餓の呪いは大したモノだし、ヘスティアの消えない炎の性能は凶悪なモノだった。

 しかし、ヘスティアは近接戦闘の構えさえ見せず俺の槍一閃で首を落とされ、デメテルも重力操作で対抗しようとする素振りを見せなかった。

 

 もちろん、たとえマテリアル重力器を持っていたとしても、俺の宝貝に対抗するのは生半可なことじゃない。

 臙公であった超大巨人でさえ、降魔杵の力に屈したのだ。

 中量級でしかないデメテルなど対抗できなかったであろう。


 だが、防ごうとさえしなかったのは一体どういうことか?

 紅姫レベルの高位機種ならマテリアル重力器は強弱はともかくほとんどの機種が搭載しているはずなのに。


 もしかしたらこれが従機ゆえの制限か?

 それぞれ得意な分野のみ再現されていて、それ以外は省かれているのかもしれない。


 だとすれば、戦い方次第で有利に勝負をもっていくことができるだろう。 

 得意分野では臙公、紅姫レベルの出力を持っているのだから、決して油断できる相手ではないけれど。

 だが、ある程度敵が知れたことでこちらの勝率が高くなったことは間違いない。

 


 従機の残りはあと3機。

 従機を全て倒せば、残るは緋王クロノスのみ。



 チラリと横目で奥に佇む緋王を見れば、我関せずとばかりの高みの見物。

 自分の従機が2機も倒されたのに、何の動揺も見せない涼しい顔。



 何でだ?

 何でアイツは手を出してこない?



 これまた、湧き上がってくる疑問。


 戦力の逐次投入は悪手。

 それを知らぬ緋王ではあるまい。

 

 大規模な攻撃は味方を巻き込むから避けるだろうが、牽制攻撃すら撃ってこないのがどういうことか?


 ここまで見物に徹しているのも不気味に感じる。

 何かを見落としているかのような気分になってしまうのだ。

 


 だが、それを考えても仕方がない。

 そもそも現在の状況が分からないことだらけなのだ。

 情報が少なすぎて検討するだけ無駄だろう。


 今は手を出してこない緋王クロノスより、ヨシツネ達への助太刀しなくてはなるまい。



「デメテル、討ち取ったぞ! 今からそっちに行く!」


 

 大きく勝鬨の声をあげ、瀝泉槍片手に駆け出す俺。


 討ち取ったデメテルを尻目に、未だ戦闘を続けるメンバーの元へと急ぐ。



「でりゃああああ!!!」



 まずは輝煉とぶつかり合う怪物2機へと駆け寄り、瀝泉槍を大きく振りかぶりながら、切りかかった。 

 

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