第526話 融合


 空の守護者テュポーンの中に作られた異界。

 どこからともなく現れる襲撃者達を発掘品の巨大戦車でなぎ倒しながら進み、辿り着いた曰くありげな神殿。

 

 白兎、ヨシツネ、ベリアル、輝煉と共に侵入。

 そして、最奥の扉の奥で俺達を待ち受けていた強敵。

 ギリシャ神話での神々の父、時空神、時の翁等の名を持つ機械種クロノス。


 次元を断つ防御不能な空間攻撃を雨霰と飛ばしてくる超高位機種であり、紅姫・臙公並みの従機を5機も従えた緋王。

 さらには時間すらも操り、防御不能な時乱流を幾十も生み出し、破壊された従機を倍の数で蘇らせた理不尽の権化。


 こちらは白兎が離脱し、ヨシツネは片腕を失った。

 激戦に次ぐ激戦で、こちらの戦力は目減りするばかり。

 度重なる危機の連続に俺の精神も疲弊しきっていたところ。


 蘇った従機達をベリアルが近接戦モードに変身して、ただ1機で抑え込んでくれているが、肝心の緋王本体への攻略方法が見つからないでいた。


 もう破れかぶれで特攻するしかないかと腹をくくろうとした時、


 俺とヨシツネ、輝煉の前に現れたのが……………




 ピコピコッ!



 いつも通りユーモラスな仕草で耳を揺らす白兎。

 ヨシツネを救う為に無理やり因果を食べて、グッタリと消耗し尽くした姿はどこにも見当たらない。



「白兎! もう大丈夫なのか?」


 パタパタ

『宝貝の皆が僕に少しずつ力を分けてくれたんだ。もう大丈夫』


「そ、そうか…………、宝貝達が…………」



 俺が縁のある品を元に作り上げた宝貝は単なる道具ではなく、確固たる己の意思を持つ神秘。

 それぞれに蓄えられた『力』を白兎に融通してくれたようだ。


 ほんのり心が温まるのを感じる。

 

 俺の仲間は従属機械種達だけではないのだ。

 七宝袋の中の宝貝達も俺を支えてくれる…………


 

 フリフリ

『【クラウドラビットファンティング】に協力してくれたお礼として、ウサギ型のワッペンを貼ってあげると言ったら全員から断られた。地味に凹む………』


「…………それは果てしなくどうでもいい」



 宝貝達にもウサギの魅力を広めようとしたようだが、失敗したらしい。



「お前、宝貝達の間じゃあ、立場低いな…………」



 従属機械種内なら筆頭の立場の白兎も、宝貝内だと中堅だからなあ。



 少しばかり落ち込んでいる雰囲気の白兎に一言を添えながら、宝貝内の序列を思い出す。



 宝貝になった順番で言うと白兎は10番目でしかない。


 宝貝ヒエラルキーでは最も早く俺の宝貝となった莫邪宝剣と七宝袋がトップ。

 

 ただし、莫邪宝剣はあんまりそういうことに興味が無くて、実質宝貝達を統制しているのは七宝袋。

 白兎を除く宝貝は、全て七宝袋の中に収納されているのだから当たり前。


 俺に対する貢献度からしても七宝袋の立場は絶対。

 何しろ七宝袋がいなければ、俺の今の狩人家業が成り立たない程だ。


 それなりの広さを亜空間倉庫を持つ秘彗や毘燭はいるけれど、収納できる量は文字通り桁違い。

 何しろ俺がお宝だと認識しているなら、7つの海さえ収納できる。

 さらにはスリープさせていれば生存中の機械種をも収納可能。


 故にベリアルや浮楽、豪魔等の決して知られてはならない機械種を従属させたままでいられるのだ。

 もう七宝袋がいないと、この先まともに社会生活が営めるかどうかも怪しい。




「…………それはともかく、今の状況は分かるか?」



 8機の従機達を相手に暴れるベリアルと、近づかなければ何もして来ようとしない緋王クロノスへ目を配りながら白兎に尋ねる。



 フリフリ

『もちろん! 【時の嵐】に【時の結界】。どっちも時間制御が無いと突破できない……………、いや、【時の嵐】だけならヨシツネでも何とかできるだろうけど、【時の結界】は難しいね』


「やっぱりそうか。見えないモノは切れないよな。でも、時間制御を持つ白兎なら……………」


 パタパタ

『多少はマシになるかもしれないけど、相手の方が時間制御の等級はずっと上みたいだし、出力も桁違い。僕だけだとかなり厳しい」


「え……………、マジか?」



 白兎でも厳しいという、非常に聞きたくない話を聞いてしまって、少しばかり動揺する俺。

 

 だが、俺の信頼する相棒は更なる案を俺に提示してくる。



 フルフル

『僕だけじゃ足りないから、『力』を足す』



 蒼く澄んだ瞳で俺をじっと見上げてくる白兎。

 


 ピコピコ

『僕が瀝泉槍と融合して、それをマスターが武器として使えば、きっと【時の結界】でも乗り越えられる』


「融合!! おい! それは…………」



 白兎は元々、ただの機械種ラビットだった。

 宝貝の気配を滲ませたパーツと融合することで、宝貝を兼務するようになったのだが…………


 

「あの時、今のお前のままの姿でいられたのは奇跡みたいなモノだぞ! 確かに融合すれば力は増すだろうが…………」



 宝貝同士が融合すれば、その存在がどうなるか全く分からない。

 意識も融合するのか、共存するのか、それとも一方だけが残るのか………


 宝貝未満のパーツと融合しただけでも、その危険性があったのだ。

 どちらも宝貝として独立した存在である白兎と瀝泉槍が融合すれば、最悪どちらの意識も消え、全く新しい宝貝として生まれ変わることだってありうる。



 フルフル

『でも、アイツを倒すにはそれしかない。これは時の属性を持つ僕にしかできないことだ』


「馬鹿を言うんじゃない! お前や瀝泉槍を失うかもしれない選択など取れるわけが…………」



 俺が白兎の提案に対し、感情論からすぐに拒絶の言葉を発した時、



 ズンッ!



 右手に握る瀝泉槍から流れ込む清流のごとき波動。



『汝が成すべきことを躊躇うな! このままでは全滅の憂き目に遭うぞ!』



 瀝泉槍からの強い勢いでの叱咤。



『我等とて、必ず犠牲になると決まった訳ではない。我等が其方をを信じているように、其方も我らのことを信じよ!』


 パタパタ

『どんな姿になっても僕等は僕等だよ。ずっとマスターと一緒なのは変わらない』


「…………………………」



 白兎と瀝泉槍からの言葉にしばし沈黙する俺。



 視界の端では未だ戦場ではベリアルが異形の姿で戦い続けている。

 機械種ヘラが召喚した超重量級の怪物相手に一歩も引かず、あえて自分に注目を引きつける戦い方で、俺が緋王を仕留めるのを待ってくれているのだ。


 ヨシツネ、輝煉は万が一、俺の方に攻撃が飛んできても対処できるような位置で構えている。

 俺が判断を下すまでこの場を守り抜くつもりだろう。


 この神殿の外では、竜牙兵の軍隊相手に豪魔達が奮戦してくれているはず。

 倒しても倒しても現れる軍勢にどこまで耐えることができるのかも分からない。


 さらに地上では俺達の帰りを待つであろう廻斗に浮楽、そして、白露とラズリーさんもいる。


 俺がこの場で倒れてしまえば、ここまで辿り着いた意味すら無くなってしまうのだ。


 

 俺がここで取るべき選択肢は一つしかない……………

 

 

 

「分かった。頼む……………」



 

 自分の感情を押し殺しながら、ただ短く答えた。


 あの白兎がそう言い切ったのだ。

 さらに瀝泉槍もそう判断した。

 なら、それしか手が無いのは間違いない。

 

 今はもう白兎と瀝泉槍に頼るしかないのだ。 



 パタッ!パタッ!

『うん、ありがとう。任せておいて…………、あっ! でも、マスターには一つ、お願いがあるんだ』


「なんだ?」


 フリフリ

『僕がどんな姿になってしまっても……………、従属機械種筆頭のままでいさせて』



 それはきっと白兎が白兎でいる理由。


 一番最初に従属させた機械種。

 一番長く一緒にいた機械種。

 そして、俺が一番頼りする機械種。

 

 その全てが詰まった白兎だけの役職。



「!!! ………………ああ! 俺の従属機械種筆頭はお前だけだよ、白兎…………」



 ピコッ! ピョンッ! ピョンッ!

 

 耳を嬉しそうに震わせ、ピョンピョン跳ねながら全身で喜びを表す白兎。


 それはいつも俺の目を楽しませてくれた愛嬌一杯の白兎の表現。


 ひょっとしたら、もう二度と見ることができなくなるかもしれない光景。




 フルフルッ!

『じゃあ、行くよ!』



 白兎は元気よく耳をフリフリ、俺の手の中にある瀝泉槍に語り掛ける。



 フワ………



 白兎の言葉に答えるように、瀝泉槍はゆっくりと俺の手から離れて、空中に浮かび上がる。



 

 機械種と宝貝の融合機、且つ、俺の霊獣も兼ねる宝天月迦獣 白仙兎。


 霊泉に住みし大蛇の化身、古の大英雄の愛槍 瀝泉槍。


 この二つが融合して新たなる宝貝が誕生する。



 

 ピョンッ!!




 白兎が跳ね、空中に浮かぶ瀝泉槍と交差。




 ピカッ!!!




 眩い光が放たれ、兎と槍が一つの影となり、




 コオオオオオオオオオオオオオオオ…………




 霊気が立ち込め、混沌を含んだ風が巻き起こり、この世非ざる神秘が降臨。




 それは幾多に存在する並行世界を合わせても、ただ一度も現れたことのない原初武器。



 『兎』

 『槍』

 『機械種』

 『英雄』

 『宝貝』

 『忠』

 『混沌』

 『鵬』

 『時間』

 『武窮』

 『舞蹴』



 これ等が混じり合った、俺の為に創り上げられた武装。





「こ、これが………………、白兎と瀝泉槍の新たなる姿……………」





 光が消え、俺の前に顕現した1本の長物。

 





 瀝泉槍の矛先の根元に、自分の機体を『宝貝 梱仙縄』でグルグル巻きで固定しただけの白兎の姿。




 ………………………




 ピコピコ

『準備オッケー!』



 当の白兎は瀝泉槍にしがみつくような体勢で耳を振っている。




 準備オッケーじゃねえ。

 どこが融合だ。

 コアラみたいにしがみついているだけじゃないか!

 俺の苦渋の決断と葛藤を返せと言いたい。


 ……………いや、まあ、確かにほっとしたのは事実だけれど。



 しかし、これを武器と呼べるのだろうか?



「……………まさか、この状態で戦えと言わんだろうな?」


 フルフル

『そのまさかです。これが僕と瀝泉槍が融合した姿!』


「それを融合と言うのか? もうちょいマシなデザインはなかったのか?」

 


 瀝泉槍に抱きついた白兎の機体がちょうどハンマーの部分のような形になっているのだが、これを武器と言われると…………


 確かに白兎の機体を構成するのは宝貝の材料にもなる神珍鉄。

 仙人の武器にも使われる強靱な金属だから、機体そのものを武器にしてもおかしくはないが。

 


 パタパタ

『ちなみに名前は【ラビットンハンマー】』


「瀝泉槍の要素はどこに? 少しは残そうとは思わんのか!」



 相変わらず自己主張が激しい奴だ。

 そうやって自分だけ目立とうとするから、宝貝達がウサギに対して拒否感を示すんだぞ。



「よっと………………、ふむ。一応バランスは取れているんだな」



 手に取ってみれば、意外と武器としては悪くないように思える。

 矛と鎚をくっつけたポールウェポンみたいなモノだろうか。



「つーか、『ラビットンハンマー』は却下だ。俺がもっと良い名前を付ける」


 フリ…………

『可愛さと力強さを上手く表現した名前だったのに…………』



 白兎は残念そうに呟くが、瀝泉槍からはあからさまに安堵した感情が流れ込んでくる。

 鎚の部分は白兎ではあるが、それ以外は全て瀝泉槍なのだ。

 名をウサギで全て占められてしまうのは面白いはずがない。



「…………これであの『遅延結界』を抜けられるのか?」



 白兎と瀝泉槍が一体となった長物を肩に掲げながら緋王へと目をやる。

 

 直径20m以上はあろうかという巨大な晶石を背に、40以上もの時乱流を纏わせ、さらに周りを遅延結界を展開。

 遠距離攻撃を封じてきて、時間という対抗しずらい能力で身を守る時空神。


 時間が経過すればするほど、その機体にかけられた制限が解除されていくということから、積極的に攻めて来ず、相変わらず従機に任せて守りを固めている様子。


 しかし、見かけこそ悪いが、時間と空間を操る白兎と、無窮の武を秘めた瀝泉槍が合わさったこの武器であれば、かの緋王を仕留めることができるはず。



 フルフル

『【時の結界】は問題ない。でも、この武器に蓄えられた【力】は無尽蔵じゃないよ。振るう度に消耗していくから、使い所は考えて』


「むっ! ……………それだとあの時乱流をどうするか。近づけば絶対に襲いかかってくるだろうし…………」



 多頭の蛇のごとく揺らめく時乱流。

 うねるように伸びて、その牙を剥き出しに飛びかかってくるに違いない。


 その数が40本ともなれば回避だけで切り抜けるのは不可能だ。

 この鎚で蹴散らしていけば、緋王まで辿り着くまでに『力』を消費尽くしてしまうかもしれん。



「主様! あの時乱流は拙者と輝煉殿が対応いたします!」



 思案する俺にヨシツネからの申し出。



「まずは拙者達が先行しましょう! 囮となって出来うる限り時乱流を削りますので、その隙に緋王へと向かって頂ければ…………」



 随分と食いつき気味の提案だ。

 内に籠る意気込みが半端じゃない。

 先ほど死にかけたこともあるから、ここで挽回しておきたい気持ちも分からないではないが。

 

 どうやら背後にいる輝煉も同じ考えの様子だし、任せるのやぶさかではないけれど…………


 今のヨシツネは片腕一本。

 さらにあの数相手にどこまで奮戦できるのだろうか?


 輝煉と組んだとしても、あの時乱流に有効な武器はヨシツネの『髪切』のみ。

 果たして俺が問題無く突撃できるまで持ち堪えられるのかどうか………



 一瞬過った俺の不安に、ヨシツネはさらに言葉を付け加える。



「ぜひ我等にお任せください。輝煉殿との合わせ技。すでに完成しております」


「!!! …………そうか、分かった」



 ヨシツネは真っ直ぐ俺の目を直視しならが報告。

 言葉こそ静かだが、裏打ちされた自信は相当なモノ。


 ヨシツネがここまで言う以上、任せても問題無さそうだ。



 今まで使い機会の無かったヨシツネの騎乗スキル。

 その等級は世間では最も高いとされている最上級を上回る特級。

 

 極技とも言える騎乗の技術と、ヨシツネの熱心な要請により、プライドの高い輝煉は俺以外の者にその背を許した。



「では、頼むぞ」


「ハッ! お任せあれ!」


 カツンッ!



 ヨシツネの返事と輝煉が蹄を鳴らす音が重なり、



 

 フッ…………




 ヨシツネの姿がかき消えたと思うと、すでに輝煉の背に跨っており、




「さあ、輝煉殿! 我等の力をマスターにお見せしましょうぞ!」


 カツンッ!!!



 

 輝煉が一際高く蹄を鳴らしたかと思うと、






「『無限 八艘飛び…………麒麟撃』!!!!」






 その瞬間、輝煉とヨシツネの姿が無数に分裂。

 騎馬状態のまま、飛び上がると同時に、上下左右に飛び散るように。


 連続した瞬間転移を絶え間なく行うことによる分身攻撃。

 それを輝煉に騎乗した状態で発動したのだから、まるで騎馬軍団が突然現れ、空から奇襲を敢行したかのようだ。


 

 上空から怒涛の勢いで迫りくる騎馬武者の集団に、緋王の周りと取り巻く時乱流はすぐに反応。

 餌に喰いつく蛇のように身をしならせながら迎撃を行うも………




 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ!


 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ!

 



 騎馬状態のヨシツネ達は少なく見ても20機。

 以前ダルタニャン戦で見たヨシツネの『八艘飛び』は8機程だったが、それと比べて倍以上。

 ヨシツネと同じく空間転移を得意とする輝煉の力が合わさっているせいなのかもしれない。




 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ!


 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ!




 ヨシツネが『髪切』を振るう度に散り散りになっていく時乱流。


 騎乗する輝煉の機体は通常の馬と比べれば倍以上の体格。

 馬上から刀を振るうには些か向かない状態。

 

 槍ならばともかく1mそこそこしかない『髪切』では馬上から振るっても敵には届きにくいはずなのだが………


 しかし、白刃が煌めくごとに、その刃は確かに敵に到達し、時属性を含ませた煙状の塊を削り落とす。


 まるで見えない刃が刃先から伸びているような斬撃。

 その名の通り『髪』を『切る』がごとく時空神から伸びる蛇を狩りつくしていく。

 


「今だ!」




 ヨシツネと輝煉によって本数を激減した時乱流を見て、今がチャンスとばかりに駆け出す俺。

 肩に瀝泉槍+白兎を抱えながら猛ダッシュ。



 フリフリ!

『マスター! 気をつけて、前に空間障壁がある!』


「チィッ! 用意周到だな」



 新たなる武器の威力を試しても良いが、ここで『力』を消費するのもよろしくない。

 さらに今の俺の切り札となったこの武器の威力はギリギリまで秘匿しておきたい。


 何しろ相手は空の守護者と同調する緋王。

 隠し玉の数はまだまだあるかもしれないのだ。


 俺の突撃を、血迷ったマスターの破れかぶれと思ってもらう方が都合が良い。


 

「虎爪弾!」



 ドンッ!

 ドンッ!

 ドンッ!



 白兎+瀝泉槍を素早く持ち変え、レッグホルスターから『高潔なる獣』を抜き打ちで連射。


 空間障壁を破壊する『虎爪弾』を以って、立ち塞がる障害を破壊。




「ほう?」




 緋王の目がほんの少し細められ、俺の持つ銃に注がれる。



 発掘品の銃の中でも最高峰である『高潔なる獣』。

 その存在は緋王であっても目を引くようだ。



 

 フフン!

 あの野郎、この『高潔なる獣』を俺の切り札と見たな。


 非常に珍しい空間を破壊する銃弾だ。

 そう思ってもおかしくはないが…………



  

「虎爪弾!」



 ドンッ!

 ドンッ!



 空間障壁を破壊しながら緋王へと迫り、




 ヌル…………




 一瞬囚われそうになった遅延結界を、手にした白兎+瀝泉槍の力で強引に抜け、




「む?」




 俺が遅延結果を何事も無く抜けてきたことで、ようやく構え始めた緋王クロノス目がけて…………




「猿握弾!」



 ドンッ!



 それは空間固定剤で触れた者の動きを阻害する特殊弾。

 破裂時間を短く、範囲を広めに設定して撃ち放つ。


 俺の腕では直撃させるのは難しく、せいぜい近くで破裂させて空間固定剤をばら撒くのがやっと。


 もちろん、そんなモノでは時空神は止められない。

 空間制御を最高レベルで保有する緋王クロノスにとっては大した障害にはならないだろう。


 しかし、ほんの僅かでも抵抗を感じさせただけでも十分なのだ。


 僅か零コンマ未満の秒数で、俺の足は時間と空間を飛び越える!




「縮地!」


 トンッ!

 



 そう叫んだ直後、俺の身体は緋王の至近距離へと迫っており、




「な!」




 切り札を銃と思っていた緋王は、まさか俺がここまで接近してくるとは思わず、




「轟け! 『白飛天槌』!!」




 右手に持ち変えた『白飛天槌』を大きく振りかぶり、




「光になれえええええええええええええええええええ!!!!!!」





 目を見開いて驚愕する間抜け面目がけて、力一杯振り下ろした。





 シュッ………………





 その手ごたえは無きに等しいモノだった。




 緋王クロノスが身に纏っていた多重空間障壁も、

 薄皮1枚を通すのに数時間を要するという時間障壁も、

 超重量級の一撃も受け流す流塵装甲も、


 その一切合切を無視して、『白飛天槌』は緋王の機体を粉砕。


 お湯に溶ける雪のように、全身をただ細かい粒子へと変換した。



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