第503話 鏡



「ふう………、今日はイベントが集中し過ぎだ」



 1人潜水艇の寝室へと戻った俺。

 ベットの端に腰を下ろしてため息一つ。



 本当に今日は色々あり過ぎた。



 朝、秤屋で鐘守の少女、白露と邂逅。


 その後、白露を追いかけた先で未来視発動。

 

 未来視の中で出会った白風と白花、そして、トールとの再会。


 剣戟と銃声、血と硝煙が混じった惨劇。


 白の教会との全面戦争という最悪の結末。


 未来視を終え、白露との対面。


 白露から課せられた試練としてメイドとの一戦。


 さらに白露から告げられた暴竜討伐。


 最後にはベリアルが久々に見せた魔王としての業。



 たった1日でここまで濃密なイベントが次々と起こった。

 できればもう少し間隔を開けてほしいと切に願う。


 今日はもうお腹いっぱいだ。

 流石にもう夜なのだから、これ以上のイベントは起こらないと思いたい。

 


「暴竜戦の準備については、白兎達に任せよう」


 

 今、白兎を含めたメンバー達は俺が持ち込んだ厄介事について打ち合わせをしてくれている。

 戦闘だけでなく智謀にも優れたメンバー達だから、朝には暴竜討伐戦についての具体案を作成してくれるはず。

 

 俺は出来上がったソレを追認するだけの楽な仕事だ。


 まあ、最終的に責任を負うのは俺なのだから、リーダーという者はそういうモノなのだろう。 


 

「俺ができないことは、できる奴に任せれば良い。俺は他のメンバーができないことをするだけだ」



 これぞ適材適所。

 人材配置の妙であろう。



「俺だけができることと言えば…………」



 闘神スキルを以って暴れるか、仙術スキルを使って摩訶不思議な現象を起こすしかない。



「…………打神鞭の占いだな。あともう少しで零時だし、今のうちにやっておくか」



 壁にかかった時計を見ながら、七宝袋から打神鞭を引き抜いた。




 

 






「やはり、暴竜相手に通用しないか…………」



 まず占ったのは、白露が持つ感応増幅器を使用しての感応士の技が、暴竜テュポーンに通用するかどうか。

 白露が暴竜テュポーンを抑え込めれば、一番楽な展開になるのだが、流石にそこまで甘くは無い様子。


 占いの結果は、白露の負け。


 折り紙でトントン相撲用の力士を2つ作り、それぞれ『手歩音山』と『白露富士』と書いて、勝負させたところ、浴びせ倒しで『手歩音山』が勝ったから。


 どうやら我が悠久の刃と空の守護者、機械種テュポーンとの再戦は避けられないようだ。



「まあ、これは元々予定通り」



 初めから鐘守など当てにできないと分かっていたこと。

 そもそもたった一人の感応士でどうにかなる相手ではないのだから。



「よくもまあ、白の教会は白露1人に押しつけたな。どういう理由があるのか知らないけど…………」



 白露の様子から何か事情があるのは分かっている。

 しかし、それを知ったからといって、俺の行動が変わるわけではない。


 とりあえず白露が暴竜に辿り着き、感応増幅器を使って仕掛けるまでは付き合う。

 当然、通用しないだろうから、その後すぐに俺達と選手交代。


 白露はラズリーさんに任せて後ろへと引っ込んでもらい、我が悠久の刃の全戦力を以って暴竜を仕留める。


 

「課題はどうやって白露とラズリーさんを退却させるかだな。俺達の全力は見せたくないから、できるだけ離れてもらわないと」



 おそらくは『ここは俺達が食い止める! 2人は先に逃げてくれ!』的なことをやらなくてはならないだろう。

 場合によっては『別に倒してしまっても構わんのだろう?』のセリフを言うチャンスかもしれない。

 男であれば一度は言ってみたいセリフだ。



 そして、暴竜を倒した後はその遺骸丸ごと七宝袋へ収納して、知らぬ存ぜぬを突き通す。

 遺骸さえ無ければ倒した証拠も無いからな。

 まさかあの超絶巨体が収納されてしまうとは誰も思うまい。


 切り離された尾の先だけでも横倒しになった超高層ビル程の大きさがあるのだ。

 機体全てなら標高1,000m級の山1つ分くらいあるだろう。



「そう言えば、回収したあの尻尾。本体を倒せば、もう動くことは無いという話だったな。晶石や機体は無理でも、あの尻尾だけでも換金できないかなあ…………、運良く落ちている所を拾いましたって誤魔化して」



 機械種テュポーンがトカゲのように切り離した尻尾の先。

 七宝袋に入れているが、未だ何の活用もできていない。


 ヨシツネの話では、機械種が自発的に切り離した体の機体の一部は、本体が稼働していれば何かの拍子に動く可能性があるらしい。

 別に仕掛けとか罠とかではなく、本体と切り離された部位が誤作動を起こすようなモノだそうだ。


 文字通り切り離されたトカゲの尾のごとく、突然ビタンビタンと動き回る。


 横倒しになった400m級のビルがいきなり蛇のようにしなりながら、そんな動きをされたら辺りは大惨事。

 完全に破壊したら動かないだろうが、それだと有効活用できなくなる。



「暴竜を倒したら、機体と一緒に何かの使い道を考えるとするか………」



 捕らぬ狸の皮算用的な考えだが、すでに捕まえる準備は整いつつあるのだ。

 あとは行動に移すことと、その後始末に頭を捻るだけ………



「そうだよな。守護者が倒された後のこと………、一体どんな影響があるのか未知数なのが厄介だ」



 特に気になるのは、守護者を倒したことによる赤の帝国の反応だな。

 暴竜が暴れただけで臙公を派遣してきたくらいだ。

 もし、倒されたことが分かれば、緋王を派遣してくるだろう。


 それも1機とは限らない。

 場合によっては複数………


 


 カチッ




「んん? もう零時を越えたか…………」




 時計の針は12時を指し、日付が変わったと同時に、先ほど使ったばかりの打神鞭の占いが回復したことを意味する。


 すぐにこの場でもう一度占いを行えるのだが、安全を考えれば次の使用は今日の零時前にするのが一番なのだが…………



「……………やっぱり気になるな。白露のこと」



 守護者を倒したことによる影響も気になるが、今は白露の不可解な言動が気になって仕方が無い。


 天真爛漫な子供のように見えて、急に大人びた様子も見せるアンバランスさ。

 独り言を盗み聞きした時に語っていた『罪』。

 おそらく雪姫が関係する過去の話のはず。



「調べておくか。ひょっとしたら意外な落とし穴があるかもしれないし………」



 少し悩んだが、結局、白露について占うこととする。

 どうせ、まだ出発までには10日間あるのだ。

 気になることは次に占えば良い。


 今、知りたいのは鐘守の幼い少女、白露について。

 


 数時間会話しただけの相手だが、悪い子ではなかった。

 第一印象程我儘でもなく、無茶なことも言って来ない………


 いや、暴竜討伐を振られた時は、無茶苦茶だと思ったが、それでも白露は随分と俺に配慮してくれていたと思う。

 口では生意気なことを言うが、内心、かなり俺に気遣ってくれているのはよく分かった。



「さて、打神鞭。占うのは『白露がなぜ暴竜討伐に挑まなくてはならないのか?』だ」



 手に持った打神鞭に仙力を注ぎ込む。


 そして、占いの結果として現れた現象は…………










 寝室に備え付けられた洗面所の鏡の奥に映る少女の姿。


 白いローブを着た銀髪ツインテールの女の子。


 それは間違いなく今日………、いや、昨日会ったばかりの鐘守の少女、白露。 



「これは…………、もしかして、この鏡に映った白露が占いの結果を答えてくれるのか?」



 まるで白雪姫に出てくる魔法の鏡みたい。


 このパターンは予想外だ。

 しかし、占いの結果としては最上なのかもしれない。

 何せ本人の口から教えてくれるのだから。

 

 だが、一つ問題があるとすれば、その鏡の中の白露はなぜか床にペタンと座り込み、シクシクと泣き崩れていることか。



「えっと…………、白露…………さん、何で泣いているんですか?」



 つい、『さん』付けで呼んでしまう。

 あのお転婆娘な白露ならもう一度『クソガキ』呼ばわりしたかもしれないが、目の前で悲し気に泣いている子供にそのような乱暴な言葉はかけられない。



『……………悲しいからです。私のせいで、1人の狩人を危険な目にあわせてしまうかもしれないから』



 鏡から返ってきた言葉は、あの白露とは思えないほど小さくか細い声。


 多分、1人の狩人というのは俺のことであろう。

 つまり俺を巻き込んでしまったことを気に病んでいると。


 表面上は鐘守に従って当然!みたいな態度であったが、中身は随分と繊細な女の子なんだな。

 やはりあの子供染みた言動はそれを隠すための演技か。


 なんでそんな演技をしているのかは分からないけど………


 いや、今質問しないといけないのはそんなことでは無くて………

 


「………………そもそも、白露さんがどうして『守護者討伐』に挑まなくてはならないんですか?」



 鏡の中の白露に向かって本題の質問をぶつけてみる。

 

 そして、帰ってきた答えは、



『ユキちゃんを救う為です。私がこの使命に挑まないと、ユキちゃんは今度こそ重い罰を与えられるかもしれません』


「ユキちゃん…………、ゆ、雪姫のこと? …………いや、白雪のことか?」


『はい。罪を犯して、辺境の地へと追放された白雪のことです』


「…………なぜ? 白雪は罪を償っている最中だろう? なんでさらに重い罰が下されることになるんだ?」


『それは新たに白雪が犯した罪が明らかになったからです』


「はあ?」



 鏡の前でポカンと大きく口を開けた面を晒してしまった。


 








 雪姫の犯した罪。


 それは資格の無い者への発掘品の授与。


 ここから先は未来視での雪姫ルートにて、直接雪姫から聞いた話だ。




 雪姫は中央の孤児院に慰問で訪れた際、ある少年少女のグループと仲良くなった。


 彼等は貧しいながらも希望を抱き、いずれ有名な狩人チームになるという意欲に満ち溢れたグループであったらしい。


 しかしながら、有名な狩人になる為には元手が必須。

 装備を整えていなければ、凶暴なレッドオーダーに立ち向かうことなんてできない。

 孤児院育ちの少年少女達が揃えられる武器防具だけでは、最下位機種を狩るのがやっと。

 それですら、いつメンバーの誰かが大怪我を追うかもしれないというリスクを背負っている。

 このままだと近いうちに運の悪い者から脱落していくのが目に見えていた。



 そこで雪姫は禁忌を犯した。

 自分の管理する発掘品の幾つかを彼等にこっそり授与したのだ。


 

 白の教会は全ての発掘品を白色文明の遺産と捉え、その後継たる自分達が管理するモノだと公言している。

 だから鐘守は発掘品を持つに相応しくない者から取り上げ、それを相応しい者へと授与することを公然と行っているのだ。

 未だ赤の帝国に脅かされている人類の生存圏を守るための術として。

 

 戦闘用の発掘品は持つ者の戦闘力を何倍にも引き上げるという。

 故に弱い者の戦力を底上げするよりも、強い者をさらに強化した方が効率的なのだ。


 巣の攻略には絶対に強い人間が必要となる。

 たとえ何体のもの機械種を従属させていようと、紅姫のいる最奥には必ずその機械種のマスターが一緒にいなくてはならないのだ。


 そのマスターが殺されたら、どれだけの数の機械種が残っていてもそこで終わり。

 だから機械種のマスターである人間の戦力を強化する為に戦闘用の発掘品が不可欠。


 その貴重な戦闘用の発掘品を、よりにもよって実力の伴わない孤児院卒の少年少女達に授与したのが雪姫の罪。



『あの子達には才能があった。早いか遅いか、先か後になるかだけ。だから先に渡しておく方が効率的だと思った…………、その時はそれが正しいことと思った……………』



 雪姫がポツリと漏らした本音。

 もちろん、私情がかなり入っていたとは思うが、気持ちは分からないではない。


 事実、雪姫から発掘品を受け取ったその少年少女たちのチームはそこから大躍進を果たす。


 半年も経たずに力を示して秤屋と契約、それなりに有能な新人チームとして活躍していった。


 そのチーム名は『チーム白雪』。


 もちろん、恩のある鐘守の名をあやかった名前。

 中央では信望する鐘守の名を冠した狩人チームはそこそこあるから、別におかしいことではない。


 また、雪姫もこれまたこっそりそのチームの一員として名を登録。

 本来の名である鐘守の『白雪』ではなく、『雪姫』の名で。


 おそらく雪姫が一番楽しい時期であったに違いない。

 一緒に行動したわけではないが、名を連ねることで、ともに狩人チームとして活動した気分になっていたのだろう。

 定期的に彼等の本拠地を訪れ、相談に乗ってあげたり、狩りの話を聞いたりする、そんな仲であったという。


 そして、いつも雪姫がそばに控えさせている機械種3機。


 機械種ウルフのルフ。

 機械種キキーモラのモラ。

 機械種ワーパンサーのパサー。


 これ等は『チーム白雪』から雪姫への奉納品であったらしい。

 大きく稼いだ時に、雪姫へのお礼の品としてチームから贈られたそうだ。




 だが、そんな楽しい日々も長くは続かなかった。




 身の丈に合わない発掘品を持つ彼等はだんだんと傲慢になっていた。


 同じ境遇だった人達を見下し、時には横暴な振る舞いを行うようになった。

 これは彼等の稼ぎが大きくなり、そのお零れにあやかろうという人間が増えたせいでもあるだろう。

 だが、明らかに行き過ぎた行為が何件も重なり、雪姫が取りなすケースもあったという。


 また、いつの間にか狩りの成果も頭打ちになっていく。

 急激な成長を遂げた彼等であったが、一定の所まで到達するも、それ以上先へと進めなくなってしまったのだ。

 

 その原因は彼等の変わらない狩人スタイル。


 戦闘用の発掘品は種類によって消耗が少ないモノがあり、それを多用することで、他のチームと比べるとその収入に隔絶した差をつけることができる。

 銃や機械種を使えば、弾代や修理代に費用がかかるが、消耗が少ない発掘品に頼ればコストは最低限。


 彼等は易きに流れ、実力を伸ばそうとせず、発掘品に頼り切りになっていってしまったのだ。


 雪姫も何度か忠告を行うも、彼等がそれを聞き入れることは無かった。

 表面上は従っても、行動には移そうとしなかった。


 ちょうど雪姫が忙しくなり、あまり顔を合わせることができなかった時期と合わさり、雪姫とチーム白雪との間がギクシャクし始める。

 

 そして、雪姫が遠方への出張任務の最中、彼等は無謀にも自分達の力量には合わない巣へと挑み…………



 『チーム白雪』は全滅した。



 そこで雪姫の罪が白の教会へと知れることとなったのだ。


 さらには綿密な調査が入り、新たな事実も判明。


 それは雪姫が授与した発掘品の何点かが闇市へと横流しされていたこと。


 それも『チーム白雪』の手によって。








『これは私の責任。私が彼等に発掘品を渡してしまったから。もし、私が渡していなければ、彼等は今でも狩人として活躍していたかもしれない』



 表情を変えずに昔話を終え、自身の行いについて述べる雪姫。



『資格の無い者に渡すべきでは無かった。実力も無いのに持たせるべきでは無かった。結果、彼等は成長の機会を失い、自分達の力を過信した』



 雪姫は淡々と後悔とも取れる言葉を続けていく。



『分かっていたのに………、あの時、取り上げてしまえば良かった。そうすれば一からやり直すチャンスもあった…………』



 雪姫の目に涙は見えないけど、きっと心では泣いているのが分かった。



『私は馬鹿だった。あんな高価なモノを貧しい暮らしをしていた彼等に渡したら、どうしても誘惑に駆られてしまうのは避けられない………、そんなことが分からなかった』



 雪姫はポンと足元のルフに触れながら語る。

 もう彼女に残った楽しい日々の残り香は、傍に控える機械種3機と、『チーム白雪』の名と、自身が名乗る『雪姫』の名だけ。



『次は間違えないと誓った。やっぱり強い発掘品は持つに相応しい者が持つべき。実力と強く正しい心を持った強者だけが持って良いモノ。それ以外の者が持てばきっと不幸になる…………』


 

 透き通るような蒼氷の瞳に強い意思の光を灯す雪姫。

 もし、俺が彼女のお眼鏡にかなっていなければ、きっと行動に移したに違いない。

 そんなことにならなくて良かったと心底思った…………未来視の中では。











「質問いいか? 白雪の犯した罪は発掘品の不正授与だろう? それにその不正授与した発掘品が闇市に横流しされてしまったこと。この2つのはず………」



 記憶に残る雪姫とのやり取りを底浚いした後、鏡の中の白露へと齟齬が無いかを確認。

 


『はい、そうでした』


「では、その新たに判明した白雪の罪と言うのは一体何だ?」



 その上で、今回の件の大元となった事案について質問を行う。


 本来であれば外部へと漏らせるような情報ではないだろう。

 だが、打神鞭の占いによって顕現させられた鏡の中の彼女は白露であって白露ではない。


 だから躊躇いなく俺の質問の答えを口にする。


 

『白雪が不正授与した発掘品の一部が、闇市を通して鐘割りの手に渡っていたことです』



「はあ?」




 またも馬鹿みたいに口を大きく開けて間抜け面を晒してしまった。


 誰が聞いてもそうなるかもしれない。

 それほどまでにこの話はトンデモナイ状況に至ってしまっている。



「そ、それは…………、絶対にヤバいだろ? なんでそんなことに……」



 軍の将校が自国の武器を横流しして、それが敵対するテロ組織の手に渡ったみたいなもんだ。

 意図しなかったことにせよ、それは反逆罪に等しい。



『横流しした者もそんなつもりは無かったと思いますが………、ことは非常に大きな問題となったようです』


「そりゃあそうだろ。それで白雪に更なる罪が追加されるわけか………、運が悪いな」



 『チーム白雪』の面々も雪姫を陥れるつもりでしたわけではないだろうが、横流しした発掘品が回り回って鐘割りの手に渡ったというのは、あまりにも運が悪すぎる。

 


『そうですね。本当に運が悪い。今回、発覚した経緯も初めは白雪を守る為に動いた結果なのです』


「んん? 何で白雪を守ろうとして、その新たな罪を暴いてしまったんだ?」


『事の始まりは、白雪が滞在している街、行き止まりの街に鐘割りが現れたという情報が入ってきたことです。鐘割りはほとんど中央での活動が主ですから、わざわざ辺境の最果てに現れる理由なんて、白雪を狙う以外ありません。だからすぐに情報を集める為に強襲部隊がシティの近くにある鐘割りのアジトへ突撃しました。元々、泳がせる為に放置していたアジトだったそうです。そこで運悪く雪姫が不正授与した発掘品を見つけてしまって…………』


「はあ…………、なるほど、そういう理由か。なんとまあ、不幸な偶然が積み重なったことで………」


『唯一、幸いであったのは白雪の身が無事であったことだけです。報告によれば、鐘割りに見つからぬよう身を隠したようですので』


「…………………」



 鏡の中の白露が見せる安堵の表情に、些か居たたまれない想いが横切り、思わず顔を逸らしてしまう。



 もう、雪姫はどこにもいないんだけどな。

 俺が殺してしまったから。


 

 どうしてこんなことになってしまったのか?


 何度も頭の中で問いかけてきた質問だ。


 それに対する答えは一つしかないのは分かっているけど。



 結局、色々と廻り合わせが悪すぎたのであろう。


 俺との出会いも、そして、孤児院の少年少女のチームとの出会いも………


 そして、不幸な廻り合わせにより発覚してしまった新たな雪姫の罪。


 元は雪姫の行動が原因だが、雪姫が目をかけたチームの行いの結果であろう。

 鐘割りに繋がってしまったことは正しく最悪の結果を招いてしまった。


 さらには行き止まりの街に鐘割りが現れたなんて情報さえなければ………



 あれ? 

 どこかでそんな話を聞いたことが…………




 ああ! 

 アデットとの作り話!


 俺と雪姫が争ったことを誤魔化す為に、無理やり鐘割りと話をつなげて、そんなストーリーを作り上げた記憶が…………



 ええ? 

 ひょっとして、今回の原因………

 また、俺が絡んでしまっているのか?


 もしかして、鐘割りに罪を押し付けてなければ、雪姫の新たな罪は判明しなかった可能性も………… 



『ど、どうしました? 顔色が悪いですが…………』



 鏡の中の白露が心配そうに声をかけてきてくれる。



「いや…………、大丈夫。ちょっと、自分の運の悪さを思い知っただけ………」



 ごめん、雪姫。

 俺がいらないことをしたことで、君の罪を増やしてしまったみたい。



 心の中で雪姫に向かって謝罪。

 謝って済む問題ではないが。

 

 

 本当にこの現実ルートでは俺と君とは色々と廻り合わせが悪すぎる。


 ほんの少し歯車がずれていたら、もっと違った道………、未来視での雪姫ルートのような親密にならなくても、今の白露との関係みたいになっていたかもしれない。

  


 もう少しトールと分かり合っていれば………

 

 もう少し早く雪姫と出会っていれば………


 もう少し俺が自分の実力を把握していれば………


 

 何度も後悔した自分が選んだ選択肢。

 ゲームと違ってリセットもセーブもロードもできない、現実かどうかも分からないアポカリプス世界。


 この世界は俺に対して厳し過ぎる。

 あえて俺を狙い撃ちしているのではないかと思ってしまう程。

 


 まるで誰かの手の平の上で踊っているかのよう………


 そんなことを考えてしまうのは、俺の考え過ぎだろうか………


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る