第486話 選択
「美味しかったね、まさか『カラアゲブロック』があるとは思わなかったよ」
「調理系ブロックは味が薄いから、俺はあまり好きではなかったが、アレは旨かったな」
夜の街を歩きながら、アルスとハザンは先ほど食べた『カラアゲブロック』にご満悦の様子。
「でも、ヒロは調味までできるんだ? まさか『カラアゲブロック』にマヨネーズドロップなんて想像もしなかった」
「うむ! マヨネーズドロップはベジタブルブロックの苦みを消すモノだと思っていたが、あそこまで『カラアゲブロック』に合うとは………、まさに目から鱗だな」
「ははははっ、ちょっとばかりレストランに務めていたことがあってね………」
未来視のことだけど。
それに俺がオーナー兼調味士、さらに店長も兼ねていたが。
アルスとハザンと俺。
この3人で繁華街で飲み食いして店を出た所。
前から食事を誘われていたので、先の赭娼の巣の踏破の祝勝会も兼ねて付き合うことにしたのだ。
夕方6時くらいから2時間程飲んで食べて、時には馬鹿話をしながらそこそこに盛り上がった。
俺もハザンもあまり話が上手い方ではないが、アルスがとにかく会話をスムーズにつなげてくる。
共通の話題を見つけ出し、話が詰まればさりげなく話題を変える。
アルス自身も話題が豊富で、嫌味にならない程度で中央での経験を話してくれた。
また、この街での出来事や、狩人についての噂話など、この飲み会の中で仕入れることができた情報は多岐に渡る。
同僚との付き合いを避けている俺だが、考えを改めるべきかもしれないと思った程。
まあ、アルスに渡した白兎の愛弟子の1機、白志癒が最近ダンスを覚え、その踊りを見るとなぜか次の日怪我が治っていたり、体調がすこぶる良くなっていたりするという話は聞きたくなかったが。
「僕は『カラアゲブロック』にはソルトドロップとブラックペッパードロップを合わせたモノが一番だと思っていたけど、ヒロのおかげで世界が広がった感じ。あと、『レモンブロック』の粉末をかけるとか………、普通、そんな発想、出てこないよ」
「アレも良かった。さっぱりして。本当にヒロは色々知っているんだな」
「まあ、それほどでも………」
アルスもハザンも手放しで褒めてくれる。
未来視での経験であるが、俺が頑張って身に付けた知識だ。
悪い気はしない。
俺はアルコールで上気した頬を歪めて、ニコニコ顔。
「でも良かったの? あの店主、ヒロのアイデアをそのまま自分で使いそうだったよ」
「いいんじゃない。別に気にしないさ。美味しい食べ方が広がるのは良いことだ」
こんなアポカリプス世界にアイデア料とか、著作権とかを期待するのは無理だ。
なら、気にしない方が良い。
それよりも調理系ブロックの中で俺がそこそこ気に入っている『カラアゲブロック』を扱っている店が見つかったことの方が重要。
酒に酔っているからかもしれないが、今はおおらかな気分で許してあげられる。
「それも、辺境では珍しい『鍋』を店に『直置』している店だからな」
「そうだね、『卸売市場』にマテリアル精錬器『鍋』を預けてないなんて、確かに珍しいね」
俺の言葉にアルスも同意。
この世界の食料を作り出しているマテリアル精錬器の1つ、『鍋』。
作り出すことのできる食料ブロックの種類は、大きく分けて2つ。
『素材系ブロック』と『調理系ブロック』だ。
まず、俺にとって馴染み深い『素材系ブロック』。
これは一番最初に食べた『ミートブロック』や『シリアルブロック』なんかが該当する。
肉や米など、食材のそのものの名を冠したブロック状の食料。
どうやら分類が大まかな方が下位で、詳細になるにつれて上位になる模様。
つまり、『シリアル(穀物)』が最も低く、その上が『ライス(米)』。
さらに『ライス(米)』の上が『コシヒカリ』や『ササニシキ』になり、最上位になると『ウオヌマサンコシヒカリ』………、いや、他にもあるみたいですけどね。
『ミートブロック』だと、その上が『ビーフ』『ポーク』『チキン』。
そして、『ビーフ』系等であれば、その上が『ワギュウ』、さらにその上が『コウベギュウ』と言われている。
また、牛肉系だと、『ビーフ』から『ワギュウ』の途中で枝分かれする亜種が存在し、それぞれ『ハラミ』『ロース』『カルビ』『モツ』等々。
これ等素材系ブロックは前述の『鍋』によって作成されるが、その仕様は様々。
たった1種類しか作れない『鍋』もあれば、1系統複数の種類を作り出すことのできる最高級の『鍋』もある。
その場合、『鍋』とは呼ばれずに違う名前が付くことになる。
例えば、牛肉の素材系ブロックを作り出せる『牛牧場』。
もちろん『養豚場』『養鶏場』なんかもある。
他にも、魚の素材系ブロックを作り出せる『生簀』。
野菜の素材系であれば『菜園』。
果物の素材系であれば『果樹園』。
これ等が一つでもあれば喰うには困ることは無く、莫大なマテリアルを稼ぐことができる。
次に調理系ブロックだが、これはあまり辺境で目にすることは少ない。
文字通り調理されたモノがブロックの名となっており、『ブレッド(パン)』や『ピザ』、『コロッケ』、『ギョーザ』、『ミートスパゲティ』みたいなモノまである。
ただし、味は微妙なモノが多く、俺からすれば薄味過ぎる。
美味しく食べようと思えば、調味ドロップで味付けする必要があり、それなりの上流家庭でないとまず食卓には出てこないのだ。
しかし、そんな調理系ブロックでも、それなりに美味しいと思えるモノがあり、その一つが『カラアゲブロック』。
表面はサクッと、中はふんわり鶏肉の味がほのかに香る。
塩コショウが効いていれば、十分に美味しくいただくことができる。
これは中央でも人気が高く、それを作ることのできるマテリアル精錬器『鍋』は、かなりの貴重品であると言える。
それを店に『直置』しているのはなかなかに勇気がいること。
なぜなら1台何万Mもする高額品で、且つ、使い方次第でいくらでもマテリアルを稼ぐことのできる金のなる木。
セキュリティーを厳重にしておかないと、あっという間に盗まれたり、強盗が押し入ってきたりしてしまう。
普通はアルスの言うように、通常は『卸売市場』に預けているケースがほとんどなのだ。
食料ブロックを作ることのできるマテリアル精錬器『鍋』を手に入れた者は、大抵『卸売市場』と呼ばれる『鍋』を大量に管理している施設に預けに行く。
『鍋』を預かった『卸売市場』は責任を持って管理し、その『鍋』から作り出される食料ブロックを一般へと売りに出す。
その儲けの中から一部手数料を引いて、『鍋』の持ち主へと払う。
もちろん、『鍋』の持ち主がその『鍋』から食料ブロックを作り出すのは自由だし、一般に売りに出す際の条件を決めることもできる。
ただし、『卸売市場』まで食料ブロックを取りに行くのは面倒ではあるし、一般に売り出せば他の店でも提供されてしまう。
『卸売市場』に『鍋』を預けて他には売らせないということもできるが、それだとかなり保管料を高く取られてしまうらしい。
だから、店によっては『鍋』を店舗内に『直置』し、その店でしか食べられない貴重な食料ブロックとしてメニューに出す場合があるのだ。
「どうする? ヒロ、ハザン。もう1軒行くかい?」
「それはいいな。俺としては少し飲み足りない。ヒロは?」
アルスからの2件目の提案。
ハザンも乗り気のようだ。
「いいぞ。俺もまだまだイケる!」
アルスに親指を立ててみせ、オッケーの合図。
酔っぱらってはいるが、俺の限界はまだまだ遠い。
というか、どれほど酒を飲もうとも、俺が飲み過ぎで倒れることはなさそうだ。
もちろん『闘神』と『仙術』スキルのおかげ。
摂取したアルコールは血液から脳に周り、脳の組織を弛緩させる。
その結果、『心地よく』『陽気になり』『判断が鈍くなる』。
これが『酔い』だ。
しかし、摂取したアルコールはやがて体内で分解され、毒性の強い『アセトアルデヒド』となり、顔が赤くなったり、動悸や吐き気、頭痛の原因となる。
おそらくこの段階で俺の『闘神』と『仙術』スキルが作用し、毒を無効化させてしまう。
だからどれだけ飲もうと『ほろ酔い』気分が続くだけで、二日酔いになることがない。
元の世界での俺は酒に弱く、すぐ顔が真っ赤になって気持ち悪くなってしまうので、あまり酒が好きでは無かった。
だが、いくら飲んでも心地良い状態だけが続くのであれば嫌う理由も無い。
「じゃあ、3人で2件目に行こう! さて、どの店にしようか………」
「確かあっちの方に度数の高い酒を置いている店があったな」
「あそこはちょっと品が悪いから、遠慮したいなあ………」
「なら、向こうの店にするか? ビールがたくさん飲める店」
「うーん………、どちらかというと………」
俺の賛意を聞き、アルスとハザンが店を選定し始める。
俺はこの繁華街に来たのは初めてだから、店は彼等に任せることにして………
白兎達に遅くなると連絡しておかないと。
アルス達からちょっとだけ離れて、隠れるように胸ポケットから『宝貝 掌中目』の片方を取り出す。
トランシーバーのように口元に近づけて、白兎への伝言を呟く。
「すまん、今日は帰るのが遅くなりそうだ。場合によっては朝になるかもしれん」
フルフル
『宝貝 掌中目』から白兎が耳をフリフリしている映像が伝えられる。
もう片方の『宝貝 掌中目』はガレージで留守番している白兎が持っており、こうすると、この世界では非常に珍しい無線遠距離通信として利用できる。
赤の威令にも白の恩寵にも邪魔されない、白兎と廻斗の人馬一体に次ぐ、我がチーム2つ目の通信手段。
しかし、『宝貝 掌中目』からの送受信ができるのは俺だけで、辛うじて白兎と廻斗だけが受信のみ可能。
俺から繋ごうとしないと通信が発動しないことがネックと言える。
『あい! マスターの声が聞こえた! ヤッホー! テンルだよ!』
『キィキィ!!』
『あ、駄目ですよ! テンルさん、カイトさん! 今、ハクトさんがマスターとお話しされているんですから………』
『それ、どういう仕組み何です? ちょっと分解させてもらえませんか?』
『コハクさん! これはマスターの大事なモノですので………』
『宝貝 掌中目』の向こうから何やら騒がしい声が聞こえてくる。
どうやらガレージの残した面々が俺の声を聞きつけ、ワイワイと騒いでいるようだ。
今回の飲み会はチームからは俺1人での参加。
メンバー達はほとんどガレージに残してきている。
白兎くらいは連れてきても良かったのだが、アルスも1人での参加と聞いたので遠慮した。
偶には単独行動も良いモノだ。
念の為に七宝袋にはヨシツネとベリアルは入れてあるけど………
今日はただの飲み会だ。
この2機を引っ張り出す必要があるようなトラブルなんて早々あるわけが…………
「あれ? ヒロ兄ちゃん!」
「んん? ………………バッツ君?」
突然かけられた声に振り向くと、そこにはもう夜の8時過ぎであるのに、未成年のバッツ君が夜道で1人立っていた。
当然、この時間帯で子供がうろついて良いようなところでもない。
まさか彼の歳で繁華街で飲み歩いている訳ではないだろうに。
今の俺も元の世界で言えば未成年ではあるが、一応この世界では15,6歳くらいで成年と見做されることが多い。
まあ、そもそも飲酒年齢なんて基準は無く、当然規制なんて存在しないのだけれど。
流石に10歳未満で酒を飲む子供は少ないが、それでも世の中不良ぶりたい子供なんてたくさんいる。
バッツ君がそんな子供だとは思わないが、保護者であるマリーさんも知り合いである身の上としては、一応確認しておかないと。
「こんな遅くに何しているんだ? 」
「何って…………、仕事だよ」
「仕事?」
「客引き」
なるほど。
元の世界でも繁華街でよく見た客引きか。
物怖じせず声をかけるだけなのだから子供でもできる仕事なのだろうけど。
「ひょっとして、ヒロ兄ちゃん。お店を探しているの?」
「ああ、そうだ」
「それじゃあ………」
バッツ君の顔が喜色に染まる。
客引きと言うのだからお客を連れて行けば報酬を貰えるのであろう。
俺としてはバッツ君のお勧めのお店でも構わないが、アルス達が何と言うか………
「ヒロ? この子は? 知り合い?」
俺とバッツ君の会話にアルスが口を挟んでくる。
「ああ、俺が贔屓にしている割り屋だよ」
「………割り屋?」
俺の答えにアルスは一瞬嫌悪感を滲ませた顔。
しかし、俺とバッツ君の間に流れる気安い雰囲気を見て、すぐに納得したような表情を見せる。
どうやらアルスは割り屋を利用する狩人を良く思っていないようだ。
蒼石によるブルーオーダー失敗の責任を、弱者へ押し付けているようにしか見えないから、潔癖な人間からするとそう思われても仕方がない。
だが、一方では裕福な狩人が施しとして弱者へ依頼することもある。
成功しても失敗しても報酬を支払うことで、弱者救済の一手段とするのだ。
おそらく俺とバッツ君の関係をそのように捉えたに違いない。
「なるほどね、ヒロが贔屓にしているなら、次のお店はこの子のお勧めにしよう」
「うむ、そうだな。これも何かの縁だろう」
「本当! ありがとう! ヒロ兄ちゃんの友達だけあって優しいなあ」
どうやらアルスは俺に気を遣ってくれたようだ。
最近、バッツ君に割り屋としての依頼をしていない。
そんな義務が俺にあるわけではないけれど、気にはなっていたところだった。
アルス達もそう言ってくれることだし、ここはバッツ君おすすめのお店で一杯やることにしよう。
さて、バッツ君がお勧めする店はどんな…………
「俺のお勧めのお店はね、『魅惑の蝶々』さ。シャワーもついていて衛生的だし、オプションで各種器具も取り揃えているよ。時間内なら何発でもOKで、延長も可。3人以上の団体様なら30%の割引もつくし、今の時間はサービスタイム中だからさらにお得!」
堂々とお勧めのお店を紹介してくるバッツ君。
立て板に水のごとく、子供が知るべきでない言葉の羅列。
おい!
それって、飲み屋じゃなくて、風俗店だろ!
そんなお店の客引きを子供にさせるな!
「え? それって…………」
バッツ君のお勧めのお店を聞いてアルスは困り顔。
「あの………、そういうお店じゃなくて、僕達は一杯やるお店を探しているんだ」
「大丈夫! お酒も出るよ!」
「いや、だからね、僕達3人で飲む所を………」
「3人まとめて………、うん! それもイケる! 乱交もオプションにあるから!」
「全然違うって…………」
どうにも話が通じないバッツ君にアルスはややタジタジ。
「どうしよう? ヒロ、ハザン………」
俺とハザンの方に振り返って助けを求めてくるアルス。
それに対し、俺とハザンの回答は………
「いいねえ! 俺はそっちでも全然オッケー!」
「うむ! 俺もだ」
諸手を上げて歓迎の意を示す。
普段ならここまでぶっちゃけるのを躊躇したかもしれないが、今の俺は酒の勢いもあって些か自制心のタガが外れている。
羞恥よりも欲望が表に出てきてしまっているのだ。
この世界に来て、未だ風俗店を利用したことなんて無い。
今までそういった経験は、エンジュと野賊から助け出した女猟兵のフラウさんの2人だけ。
最後にイタシテから、すでに3ヶ月以上が経過している。
そろそろ俺の欲求不満も限界に近い。
もちろんこの街にそういったお店があるのは知っているが、元々出不精だからなかなか切っ掛けが掴めずにいたのだ。
この酒の勢いで風俗店に行くのも悪くない。
しかし、一見固そうに見えるハザンが即同意したのは意外だったな。
割とムッツリなのかもしれない。
まあ、男である以上、そういった事情から誰も逃れることはできないのだから、悪いことではないけれど。
「ほら、偶には命の洗濯もいいんじゃない?」
「ヒロの言う通りだな。精神を充実した状態に保つのも狩人の仕事だ」
「2人がそう言うなら…………、僕も興味が無い訳じゃないし………」
俺とハザンの勢いにアルスやや戸惑いながら頷く。
さあ、これで俺達の意思は統一された。
あとは足並みそろえて桃源郷へ向かうだけ。
ああ、久しぶりの女性との濃厚な一夜。
今夜はじっくりと一晩限りの逢瀬を楽しむことにしよう。
「じゃあ、バッツ君。早速お店に案内してくれ…………、おっと、そのお店って、いくらぐらい?」
「一晩で50Mだよ」
「安!」
50Mって、日本円だと5,000円くらいだろう。
本番アリ、一晩5,000円って、格安店どころじゃないぞ。
俺も詳しい訳ではないが………
「おい………、その店って、下層向けじゃないだろうな?」
ただでさえ、この世界の衛生状況は元の世界に比べると低いのだ。
さらに女の子の美容なんかの知識もかなり劣る。
高級店ならまだしも、下層向けのお店なんて、出てくる女の子のレベルもお察しだ。
そんなお店で俺の心が癒せるわけがない!
しかし、俺の訝しむ目を気にすることも無く、バッツ君はケロリとした表情で事情を語る。
「そりゃあ、一見で入れる店だから、それなりに決まってるじゃん。何百、何千Mするお店って、紹介を何回も重ねていかないと入れないよ」
「ぬぬぬ!」
これは江戸時代の遊郭みたいなモノか!
………いや、昔からこういう高級風俗はどこの国でも似たようなシステムになっているな。
現代日本のように治安や秩序がしっかりしていないから、大事な金蔓である娼婦の安全を確保する為には、一見さんお断りを採用しているのだろう。
「金………、マテリアルはいくらかかっても構わないから、できるだけ質を求めたい! 何とかならんのか?」
バッツ君の両肩に手を置いて、必死の懇願。
もうなりふり構ってはいられない。
期待に高まった俺のリビドーは、もう発散しないことには収まりがつかない。
何としても今夜はスッキリしたいのだ!
その為には何万M払ったって構うもんか!
「ヒロ………、いくらかかっても構わないって………」
「俺も………、質は高い方が良い」
俺の剣幕にアルスも呆れ顔。
だが、その隣のハザンは俺の言葉にポソリと呟く。
「ハザン?」
「むっ…………、俺は一般論をだな………」
「まあ、昔に比べて余裕は出てきているけど………」
ハザンは俺と同意見。
アルスは渋々ながら俺達の意見に合わしてくれそう。
だが、肝心のバッツ君は首を横に振ってくる。
「無理言わないでよ。客引きの俺にそんな力あるわけないでしょ。ヒロ兄ちゃんだったら秤屋の偉いさんのコネを使った方が早いんじゃない?」
お手上げとばかりに両掌を上に上げてヒラヒラするバッツ君。
その意見はもっともなのだが…………
白翼協商、バルトーラ支店の支店長であるガミンさんに頼めば何とかしてくれるだろう。
しかし、それは俺の弱みを握られることにもつながってしまう。
第一、あのガミンさんの性格なら、絶対にその事で揶揄ってきそうだ。
一生のネタにされるのは勘弁してもらいたい。
当然、ミエリさんにも頼めない。
そんなことを知られたら、もう二度とミエリさんに会うことができなくなってしまいそう。
「どうにかならないものか………」
歯を食いしばって頭を捻る。
しかし、酔いが回っているせいか、良いアイデアが浮かばない。
俺の見栄を守りつつ、なお且つ、俺に優良な風俗店を紹介してくれそうな人物なんて思いつかないぞ。
「ペンドランさんに頼んでみるのはどう?」
「アルス、止めとけ。弛んでいる! と一喝されて朝練に付き合わされそうだ」
「確かに言いそう………、でも、他にコネなんて無いし………」
アルス達も考えてくれているようだが、良いアイデアは浮かんでこない様子。
そんな俺達を見て、バッツ君は何かを思いついたような表情を浮かべ口を開いた。
「あ、そうだ! ヒロ兄ちゃんなら『停留所』の方がお似合いかも……」
「『停留所』?」
バッツ君から飛びだした意味不明な言葉。
いや、意味は分かるのだが、この話の流れで出てくる単語ではない。
何かの暗喩なのだろうか?
思わず後ろを振り返るが、アルス達も心当たりが無いらしい。
「ヒロ兄ちゃんは凄いって知っているけど………、そっちの人も狩人なんだよね? 優秀なの?」
「ああ、そうだ。若手の中では抜き出ているぞ」
俺は別格だが、アルスもハザンも若手の中では十分にトップを張れる能力を持つ。
躓きさえしなければ、1年半以内に中央行の切符を手に入れるのは間違いない。
「じゃあ、条件に合うから紹介できるよ」
「何だ、その『停留所』って?」
「それはね………」
バッツ君から語られたのは、この町独自の特殊な事情。
この街は中央へと行って、一旗揚げようとする人間が集まる街だ。
その中でも一流の狩人を目指す男性は若い女性にとっては理想の相手。
『停留所』とは、中央への切符に挑戦している男の狩人と、容姿に自信のある女性を引き合わせるマッチングを行っている所らしい。
故にこの『停留所』を利用できるのは、それなりに稼ぐことができる狩人と、一定以上の若さと美しさを持つ女性のみ。
ここで男は自分だけを愛してくれる美しい女性を得て、女は自分の面倒を見てくれる頼もしい男性を見つける。
所謂出会い喫茶のような場所であるらしい…………
「いや、俺は別に恋愛がしたいんじゃなくて、ヤリたいだけなんだけど?」
「ヒロ兄ちゃん…………、ぶっちゃけ過ぎてるね。顔は全然赤くないけど、かなり酔ってない? イメージが狂うなあ………」
「たわけ。男とは皆こんなもんだ。普段は世間体があるから取り繕っているが、一皮剥けたら皆、女の子とヤリたいんだよ!」
俺の魂からの叫び。
これは揺ぎ無いこの世の真理の1つだ。
まあ、確かに酔ってるけど………
「ヒロ兄ちゃんくらいの凄腕だったら、女の子もすぐ受け入れてくれるよ。『停留所』は女余りだから、機械種使いというだけでヤレるんじゃないかな」
「でも、ヤッちゃうとその子と恋愛関係にならないといけないんだろ?」
「そうだよ。ヤリ逃げは禁止ね。手を出したなら少なくともこの街にいる間は面倒を見てあげないといけない」
「それは………、なかなかにヘビーだな」
「でも、レベルはピカイチ。なにせ容姿自慢の女性が集まっているからね。しかも、最近飛び切り可愛い子が入ってきたらしいよ」
「ほう?」
「どうやら機械種使いの優秀な狩人を探しているみたいでさ。ヒロ兄ちゃんなら条件にピッタリだし、その子を紹介できるかも?」
うーむ…………
飛び切り可愛い子か、少々気になるな。
でも、システムがまるで愛人バンクみたい。
ここで定期的に俺の性欲を発散できる可愛い女の子を確保できるのは大きいが………
しかし、契約で縛られるのはかなり重い話だ。
そこまで重要な決断はなかなかに勇気がいる………
もし、お互いのフィーリングが合わなかったらどうなるんだろう?
「もし、その子と途中で関係を切りたくなったらどうするんだ?」
「その場合は女の子が納得するだけの手切れ金を渡せばいいよ」
『手切れ金』!
そういうモノがあったか!
それで解決できるなら、ためらう理由は無いな。
たとえ、その場限りの関係でも、手切れ金1億円くらい払えばどんな子も納得してくれるはず。
「アルス、ハザン………、俺は『停留所』に決めたぞ」
「うむ! 俺も行く!」
「あははは、まあ、これも経験かな」
ハザンは大きく頷き、アルスは苦笑い。
我らの進む道は決定した!
いざ行かん! 『停留所』へ…………
ザザッ…………
俺の全身を這い回るゾクゾクっとした震え。
それは俺を何度も救ってきた………
え…………、
まさかここで『謎の違和感』ですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます