第481話 確認
輝煉、胡狛との交流が終われば、あとは新しく納車された整備専用車の確認だけ。
七宝袋から、コンテナを積んだ運送用大型トラックの形をした車両を取り出す。
「マスター、ありがとうございます。私の工房まで用意してくださって」
「胡狛が長年使っていたモノなのだろう。使い慣れた作業場の方が絶対に良い仕事をしてくれると思ったからな」
素直にお礼の言葉を口にする胡狛。
すでに俺がポンポンとどこからともなく重量物を取り出していることについては何も言わなくなった。
最初に豪魔や輝煉を取り出した時は随分と驚いていたのだが。
「さて、車の説明をしてくれるか?」
「はい! お任せを」
胡狛の誘導により、車両の後ろに連結するコンテナの中へと入る。
そこはバスケやバレーボールの試合ができそうな広いホール。
所狭しと機材が並んでおり、金属加工工場のような風景が広がっていた。
「なるほど。空間拡張機能が付いているのか。これなら重量級でも大丈夫だな」
「流石にゴウマさんは難しいですが………」
超重量級は専用ドックに入れる必要がある。
そんなモノ、中央の街でもそれなりの所でないと置いていないことが多い。
そもそもこの工房の入り口はコンテナの扉だ。
その間口は高さ、幅ともに4m強。
輝煉が余裕を持って潜れるくらいだが、豪魔ではどれだけ身を縮こまらせても無理。
「でも、整備自体は工房に入れなくても可能です。ただ効率だけの問題ですので」
「まあ、その辺は白兎と相談してやってくれ。腕はベテラン藍染屋のお墨付きだ」
「はい、少しお話を伺いましたが、ハクト先輩は『黄脚』に『青肉球』だそうで………」
少しばかり困った顔の胡狛。
自分の大先輩、且つ、筆頭の座に着く白兎に意味不明な段位を言われて戸惑っているようだ。
確か、『黄脚』が『黄腕』、『青肉球』が『青手』に該当していたはず。
人型以外の機種が整備スキルを得ることは皆無だから、胡狛が戸惑うのも無理はない。
当の白兎は、天琉や廻斗、浮楽達と一緒に工房内に備え付けられている設備の見回り中。
台座や『金床』『型抜き』等のマテリアル機器、機体を吊り上げる為の小型クレーンや部品庫等を見て、ワイワイと物珍しそうに騒いでいる。
「ちなみに胡狛の段位は何なんだ?」
「スキル上では機械種整備(最上級)、車両整備(最上級)ですが、段位で言いますと『青肩』『黄肩』でしょうか………」
「それは………、凄いな」
『肩』の段位を持つ者に会ったのは、未来視内のことを合わせても数えるほど。
ほぼ名誉職に近い『首』を除けば最高段位だろう。
ボノフさんは『青肩』『緑肩』『黄腕』と聞く。
機械種ゆえに『緑学』は収められないから、胡狛の腕前は一流の藍染屋に匹敵する。
ちなみにボノフさんの弁では『黄学』も『肩』までの技術を習得しているが、ワザと『腕』の段位で抑えているらしい。
黄学まで『肩』の段位を取ると、『青』『緑』『黄』全てが『肩』となり、『三肩主』の称号が与えられてしまうそうだ。
そうなると色々と面倒臭いことが多くなり、のんびりと自分の好きな仕事ができなくなるので、あえてそのままにしているとのこと。
「………この街にはお世話になっている藍染屋がいるんだ。白兎も弟子入りしていて、メンバー達もだいたいがその人に面倒を見てもらっている。今度、胡狛も連れて行ってやろう」
「それは楽しみです。技術者同士、色々と知識が交換できそうですね」
胡狛はまだ見ぬ藍染屋との談義を想像しながら微かな笑みを浮かべる。
その笑みは技術者としての喜びと自信に満ち溢れていた。
「さて、どうだった? 白兎?」
ピコピコ
「そうか………、どちらとも上手くやっていけそうか」
街に戻ればもう夕方近く。
ガレージ内の潜水艇の寝室で、白兎との打ち合わせを行う。
今回増やしたメンバーに問題は無いか?
既存のメンバー達との間に不和は起こることは無いか?
今後、俺達が進むであろう道に着いてこれそうか?
そういったことを確認するのが筆頭である白兎の役目。
ヨシツネは口下手だし、森羅では押しが弱い。
豪魔は普段表に出ないし、毘燭はまだ新参者。
天琉と廻斗は論外。
会話機能を持たない浮楽、剣風、剣雷も同様。
もちろんベリアルもだ。
「これだけ増えると、多少なりとメンバー間で好き嫌いが出て来るからな。それが心配だったんだ」
機械種と言えど、相性が存在する。
全方位で没交渉を貫いているベリアルは除くとして、メンバーの中で仲の良い組み合わせとそうでない組み合わせができてしまっているのだ。
例えば、剣雷は森羅のことを軽く見ている様子が見受けられる。
実力差からすれば、剣雷の方が上だが森羅の方が先任。
しかし、騎士系のプライドなのであろうか、森羅を先任として敬うことに少しばかり抵抗を感じているようなのだ。
俺の目からはそう感じなかったが、白兎からするとそう見えたそうで、一度剣雷に注意を促したことがあるらしい。
逆に剣風にはそれが無い。
森羅については普通に先輩として敬うことに抵抗が無い様子。
その代わり剣風は天琉のことが若干苦手だそうだ。
纏わりつかれるとどうすれば良いのか分からなくなるらしい。
ヨシツネは毘燭に対して少し厳し目の対応をすることが多い。
率直な物言いを好むヨシツネに対し、毘燭はやや迂遠な物の言い方。
とりあえず力で解決とばかりに最短距離を走ろうとするヨシツネに対し、毘燭は安全重視で回りくどい方法を取ろうとする。
この辺は武官と文官の対立にも似た構造。
同じ真面目組なのだが、良く意見がぶつかり合うそうだ。
例として、この3つの組み合わせを挙げたが、特段深刻になる程の問題ではない。
それぞれ表立って喧嘩するようなことは無いし、遺恨が残るような争いでもない。
あくまで好き嫌いレベルの話なのだ。
これ等がチームの運営に影響を与えることはゼロに等しい。
「まあ、白兎が居てくれるからな」
やはり絶対的な力を持つ筆頭がいることが大きい。
たとえ魔王であっても一歩も引かない白兎の存在が皆を結束させていると言える。
一番最初に俺の従属機械種となり、どのような敵にも対処できる戦闘力を持ち、あらゆる分野に精通した万能機種。
あのレジェンドタイプであるヨシツネも、デーモンタイプ最上位である豪魔も、白兎には大人しく従うのだ。
普段はおちゃらけてお調子者の様相を見せるが、締めるところはきちんと締めるチームの大黒柱。
あのプライドの高そうな機械種オウキリンの輝煉も空中戦で白兎に肉薄され、最終的には敵わないと頭を垂れた。
現時点で白兎の整備の腕を上回る胡狛も、ベリアルの言いがかりから守ってくれたということもあり、白兎に対して上位者として敬う姿勢を見せている。
「いつもありがとう。やっぱり頼りになるな。流石は白兎」
ピョンッ! ピョンッ!
「あはははははっ! これからもよろしく頼むぞ」
一しきり白兎とじゃれ合い、癒しの時間を過ごす。
そして、軽く夕ご飯を食べた後、寝室でゆっくりプライベートな時間を満喫。
文庫本を片手に2時間ほどの読書タイムの後、
「んん? そろそろ夜か…………、今日は占いはどうしよう?」
ちょうど零時前。
今から使用すれば、数分後には日を跨ぎ、1日1回制限がすぐに回復する。
できるだけ打神鞭の占いを使い切った時間を少なくしようと思えば、今の時間帯に使用するのが一番効率が良い。
「今日はいいか。あまり頼り過ぎるのも、それはそれで問題だ」
いつも打神鞭の占いばかりに頼っていては、俺自身の情報収集能力も情報分析力も磨かれない。
本来情報と言うものは、自分の手足を使って、断片的に集まる欠片から知りたいことを抽出していかねばならないのだ。
それを疎かにすれば、いずれ打神鞭の占いを使い切った後に後悔することになるであろう。
「それに………、知りたいことは街に戻って来てからの1週間でだいたい知り終えているからな」
**********************************
まず真っ先に行った、①【俺の髪が生えてくるか】についての占い。
占いを行使して現れたのは、見たことはあっても使ったことは無いある物体。
それは誰がどう見ても『黒髪のかつら』であった。
非常に分かりやすい占いの結果。
誰がどう見ても、将来にそれが必要になると暗示されたとしか思えない。
その瞬間、俺は膝から崩れ落ち、待ち受けるであろう絶望の未来に落涙。
さめざめと涙を流す俺の背中を、白兎が前脚でポンポン。
慰めてくれているのかと思いきや、白兎が指差したのは放り出された『黒髪のかつら』の内側に貼られた一枚の紙。
『驚いた? でも、抜けたらまた生えてくるから心配しなくても大丈夫だよ』
あの時、白兎が止めなければ打神鞭をその場でへし折っていたであろう。
とりあえず打神鞭は天琉と廻斗に丸一日預ける刑とした。
翌朝、俺から打神鞭を受け取った天琉は『ホームラン! ホームラン!』と大声を出しながら、廻斗と一緒にガレージを飛び出した。
打神鞭の泣き叫ぶ声が遠ざかっていくのを聞きながら、俺は満面の笑みで見送ってやった。
ちなみに天琉と廻斗はその日の夕方遅くまで帰ってこなかった。
その次に占ったのは、②【前回と今回の巣の攻略において、なぜここまで難易度が高かったのか】について。
打神鞭の指示に従い、俺の部屋に置いてあったタロットカードを取り出して3枚引く。
出てきたのは、『力』、『節制』、『正義』。
『力』が『戦力』、『節制』が『バランス』、『正義』が『ルール』と解釈して良いなら、意味は分からなくもない。
おそらくは過剰な戦力で攻め立てたことが原因であろうか?
攻め込まれた方の紅姫としては知恵を絞って、絶対に敵わない戦力を持つ俺達に対抗しようとした結果なのかもしれない。
だが、もしそうだとするならば、今後の巣の攻略の仕方も変更せざるを得なくなる。
ヨシツネや豪魔、ベリアルを出さず、ストロングタイプのみで行うことも検討しなくてはならない。
ただし、これは占いの解釈が正しいという前提の話だ。
結論を出す為には、もう少し他の狩人への情報収集が必要だろう。
③【俺が見つけた白式晶脳器は半年間、誰にも見つからないか?】
この占いを行うのは、秘彗達に職業を追加することができる白式晶脳器の確保の為。
半年間と区切ったのは、○×で占いの結果が出るようにする為だ。
前の占いでもそうだったが、答えが複雑なモノになると占いの結果も曖昧になりやすい。
最も確実に答えが分かるのが、この○か×で回答できる2択の質問。
おそらく俺はあと3ヶ月と少しで試験を達成することができる。
街を出て中央へ向かう前に白の遺跡へと向かう予定なのだ。
念の為、余裕を見て半年間、誰にも見つからなければ大丈夫。
もし、見つかってしまうようなら、直ちに何かしらの手段を講じねばならない。
そして、その結果は………
打神鞭の先で白兎の頭をコツンと叩くと、にゅっと飛び出てくる旗が一つ。
白兎の頭から生えた旗には大きく『○』。
つまり誰にも見つからないということ。
これでとりあえず白式晶脳器は大丈夫。
あとはできるだけ秘彗達に経験を積んでやることにしよう。
**************************************
「あとは、胡狛を調べるのに使って……………、あっ! そう言えば、人間型の紅姫がどこにいるのか調べるのを忘れていたな」
これは直ちに占いで調べなくてはなるまい。
さっき、あんまり頼り過ぎるのも良くないとか思っていたけど、これは非常に重要なことなので緊急性が高い。
何せ俺のモチベーションがその情報如何で極端に左右されるからな。
「今度こそ手に入れてやるぞ! 次に俺に攻略される巣はどこだ?」
④【完全に人間の形をした中量級の紅姫はどこにいる?】
バルトーラの街の周辺の巣の地図を広げながら、打神鞭の占いを行使。
出てきた結果は、
「ゼロだと!」
地図の上でさんざんと輝くゼロの文字。
浮かび上がった立体映像が描くゼロは、何度見直してもゼロのまま。
「……………マジか。本当にいないのか」
バルトーラ周辺の巣の数は20以上。
そのうち紅姫の巣は7つ。
その紅姫の巣のうち5つは攻略難航エリアのモノだ。
つまり残る紅姫の巣はいずれも重量級以上、若しくは非人間型ということが確定してしまった。
「これはテンションが下がるなあ………」
7つも紅姫の巣があるのに、完全に人間の形をした中量級の紅姫が全くいないとは、俺はなんと運が悪いんだ。
俺が主人公だというならば、俺がこの街に滞在する期間だけでも用意しておいてくれよ!
まあ、愚痴ってもどうしようもないのだけれど…………
「…………この際、紅姫でなくても………、赭娼なら…………」
赭娼の巣の数の方が多い。
ならば、完全に人間の形をした中量級もいる可能性が高い。
調べようと思えば、打神鞭の占いを使えばすぐに判明するだろう。
「むむっ………」
銀色に輝く打神鞭を手に少しの間思案。
すでに時刻は零時を過ぎ、先ほど使ったばかりの打神鞭の占いはもう復活している。
だからもう一度占おうと思えば、すぐにでもできるのだが………
「占おう。でないと悶々として寝れないかもしれない」
打神鞭の占いは俺の最後の頼みの綱で、できるだけ温存しようとか言っていたクセに、欲望が絡むとすぐに意見を翻す。
全く、俺はなんと堪え性の無い、流されやすい人間なのか…………
⑤【完全に人間の形をした中量級の赭娼はどこにいる?】の占いを行使。
すると俺が先ほどまで読んでいた文庫本の栞が輝き出し、本から抜き出してみると、そこにはいくつかの数字の羅列。
じっとその数字を読み込んでみると、どうやら先ほどの地図の位置番号を示してくれている様子。
地図を凝視し、その場所を特定してみると該当する場所は4つ。
しかし、そのどれもが狩人達が集まる人気スポット。
時には人間同士で争いも発生するという修羅場と化している。
「…………そりゃあそうか。誰だって重量級よりは中量級の方が戦いやすいと思うわな」
巣の攻略は長期戦だ。
中には巣の最奥まで辿り着き、赭娼の姿を見てすぐに逃げ出した狩人チームだっているはず。
むしろ赭娼や紅姫の前情報無しに攻略する方が無理筋なのだ。
「しかし、俺がこの中に混じって巣の攻略に挑むとなると…………」
赭娼とはいえ、当然、俺1人で挑戦するわけではない。
しかし、人目があると俺が普段隠しているメンバーを目撃されてしまう可能性がある。
「こっちはこっちでリスクが高い。さらに俺が戦っている所を見られたりなんかしたら…………」
機械種達の攻撃を受けても平然としている人間。
光の剣を振り回し、たった一人で軍団規模を蹂躙する狩人。
すでに悪目立ちしているのに、これ以上噂になったらどうなってしまうのか。
幸い、白兎が記憶消去の技を覚えてくれたから、目撃者の1人や2人なら何とかなるが、大勢に見られて逃げられでもしたら非常に厄介。
それに偵察用の機械種の存在もある。
できるなら他の人間が入り込む巣は避けたいところ。
グルグルと寝室の中を歩き回り、しばらく葛藤を続けた後、
「はあ…………、ここで無理して赭娼を仲間にする必要も無いか」
ため息交じりの結論を出す。
すでに女性型は2機揃えた。
できればもう少し大人っぽい機種が欲しかったが、あれはあれで良い目の保養になる。
ドンっとベッドに仰向けに横たわり、じっと天井を見上げる。
視界に入るのはいつもの見慣れた光景。
そのままの体勢で右手をゆっくり上に上げ、手の平を天井に向けて一言。
「手に入れるなら最高のモノが良いよな」
赭娼ではなく、紅姫を。
もし、可能であるならば朱妃を。
そして、朱妃ならば……………
「ダンジョンの最奥にいるはずだ。あの朱妃、西王母と同じように」
俺は何かを掴むようにぐっと右手を握りしめた。
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