第479話 紹介3


 ボノフさんに天琉や剣風、剣雷を預けて1週間後。


 天琉の翼は元通りとなり、剣風、剣雷の盾も修復された。

 さらに剣風、剣雷の装甲には竜麟が貼り付けられ、真っ白な装甲の表面はスケイルメイルのような外観へと変化していた。


 また、天琉の軟性装甲である白い貫頭衣に水色のラインが薄く浮き出ている。

 これは以前秘彗のローブ強化に使った、臙公である学者の白衣の残りを利用した装甲の強化。

 秘彗のように模様は変化したりはしないが、防御力と攻撃力を強化するものであるらしい。


 これはボノフさんの好意によるおまけ。

 孫には甘い祖母みたいだなと少し思った。



 そして、俺の元に届いた1機のストロングタイプと1台の整備専用車。


 ここに我が『悠久の刃』は新たな体制を以って活動することができるのだ。





「今から新しい仲間を紹介する!」


 

 パチパチパチパチパチパチパチッ!!



 街を少し離れた荒野にメンバー達の拍手の音がこだまする。


 まだ日が昇ったばかりの早朝。


 隠蔽陣を張った中での新メンバーのお披露目会。


 皆の視線が集まっているのは、俺の左右に並ぶ機械種2機。



 一方は四足獣の形をした重量級。

 黄金色に煌めく装甲、サラブレッドのごとく均整の取れたフォルム。

 紅姫の巣で見つけた聖獣型の上位と言われる神獣型。

 瑞獣と呼ばれる麒麟の名を冠した機械種。

 

 

 もう一方は可憐な少女型。

 作業着に身を包んだ高校生くらいに見える容姿。

 白翼協商が俺の為に手配してくれたストロングタイプ。

 しかもこの辺境では大変珍しい『ダブル』。



「まずはこちらから。機械種オウキリンの『輝煉(キレン)』だ」


 

 俺の紹介に一歩前に出る輝煉。

 全高4mはある位置から頭を下げ、皆へと無言の挨拶。


 

 パチパチパチパチパチパチパチッ!!



 輝連は悠然とした態度で皆の拍手を受ける。

 全ての獣達の王に相応しい振る舞い。

 ただ残念なことに輝煉には会話機能が付いていない。

 人型ではない重量級以上は会話機能が無い機種が多いので仕方がないが。


 だが、その戦闘力、機動力には目が見張るモノがある。

 攻防バランスの良いステータスを持ち、電撃、重力、空間を操る。

 また重量級故のパワーと耐久力に優れ、障壁系の防御系マテリアル制御も得意。

 今まで俺のチームにいなかった高機動の前衛盾としても役に立ってくれるであろう。



「次だ! ストロングタイプ、機械種トラッパーミストレス/マシンテクニカのダブルである『胡狛(こはく)』!」



 黄色の髪をショートにした秘彗より少し年上の13,4歳の少女に見える外見。

 頭にはゴーグル、腰には工具をぶら下げた作業着姿。

 まるで工業校で機械工学を学んでいそうな理系女学生。


 その髪の色から琥珀を連想。

 少しだけモジって『胡狛』と名付けた。



「皆様、ただいまマスターからご紹介にあずかりました『胡狛』です! 特技は罠外しと機械弄りです。マスターのお役に立つ為に全力を尽くします! よろしくお願いします!」



 胡狛はハキハキとした態度で皆に向かって挨拶。

 よく透る声でしっかりと自分の特技を主張。

 明るい色の髪と同じく、本人も明るい性格であるようだ。


 

 パチパチパチパチパチパチパチッ!!



 鳴り響く皆の拍手に、ペコリとお辞儀する胡狛。

 

 

 これで新人達の挨拶は終了。



「では、授与式に移る!」



 まずは剣風に出来上がったばかりの竜鎧砲を授与。


 七宝袋から取り出し、前に出てきた剣風へと授ける。


 形状は縦1,5m、横1mの巨大な盾。

 真ん中に竜を模した口があり、そこが砲口となって粒子加速砲や弾丸をぶっ放す。

 これで剣風の攻撃力と防御力は跳ね上がる。

 若干機動力は失われるものの、元々相手を受け止める役目の前衛だから、そこまで影響はでないであろう。



 そして、次に剣雷へとプラズマ投射剣を授与。


 これまた巨大なグレートソードではあるが、先端がU字となっている。

 この間にプラズマ球を発生させ、投射することができるのだ。

 しかも投射後にもプラズマ球を操作できるという機能も持つ。

 剣雷なら、これを決定力の高い切り札として使いこなしてくれるだろう。

 


 

「よし! 次はスキルを授与するから並んでくれ」




 ヨシツネ、剣風、剣雷、毘燭へと運転スキル(上級)を投入。


 これで車両を運転できる機種が増えた。

 機械種だけではなく、車両の運用まで気を遣う必要があるからこれは必須。


 街から街への移動や巣への遠征の為には車が欠かせない。

 ここまで成果を上げ続ける俺が車1台しか保有していないのは在り得ないこと。

 不審に思われない為にも、これからは3台とも表に出して活動しなければならないだろう。

 

 

 さらに毘燭には杖術スキル(上級)を投入。



「これでお前もある程度前衛がこなせるようになったかな?」


「そうですな。中量級以下の敵でしたら時間稼ぎくらいはできそうです」



 俺からスキル投入を受けて後、杖を振るって自分の動きを確かめていた毘燭。

 傍目からもその動きは熟練の戦士にも勝るとも劣らない。

 毘燭の機体は前衛向きではないが、戦闘系の上位スキルを入れれば、後衛職でも1、2ランク下程度の前衛職並みの動きができる。

 自衛だけであれば全く問題の無いレベルだ。


 まあ、俺のチームは前衛が豊富だからそんな機会はあんまりないと思うけど。



「あとは………、ベリアル。お前、スキルは要らないんだよな?」


「うん、さっきも言ったように、スキルよりも我が君の私物が欲しい」



 今回の巣で活躍したこともあって、ベリアルの欲しいモノを聞いてみたのだが、帰ってきたのは『俺の私物』。


 俺と同衾したいとか言ったら、一発殴ってやろうかとも思っていたから、意外な希望に少々驚いた。


 まあ、金がかかるモノじゃないし、それでベリアルの気が済むなら構わないか。



「これでどうだ? 俺の使っていたハンカチだけど……」



 胸ポケットから俺の部屋にあるハンカチを取り寄せて、ベリアルへと見せる。


 

「うん、これでいい。ありがとう、我が君。大事にさせてもらうから」


「何に使うか知らんけど、変なことに使わないでくれよ」


「変なこと? 例えばどんな? 頬ずりしたり舐めたりするのは変なことの中に入る?」


「当たり前だ!」



 やっぱりあげなきゃよかったかも。



「残念………、では、懐に入れて、マスターの温もりを感じるだけにするよ」



 それもちょっと嫌だけど、ハンカチを返せとも言いにくい。

 まあ、実害はないから、これくらい我慢するか。



「よし、これで授与は終了!」

 

 

 堅苦しい儀式が終われば、皆は銘々に雑談に興じる。


 白兎、天琉、廻斗、浮楽のお騒がし組は早速、輝煉の所に集まり、その背に乗せてもらおうと交渉中。


 ヨシツネ、森羅の真面目組は胡狛の元へ。

 また、同じストロングタイプである秘彗、毘燭、剣風、剣雷も。


 豪魔は皆の様子を眺めながら『ウムウム』と満足そうに頷き、ベリアルはつまらなさそうな顔で傍観者に徹している。

 

 

「さて、俺はどっちに行こうかね………」



 人数的に輝煉の方が少ないな。

 多分、皆が白兎に遠慮した………というかお騒がし組に巻き込まれたくなかっただけなのかもしれないが。

 まあ、俺は関係ないし…………



 輝煉がいる方へと足を向ける。


 すると、天琉と廻斗が輝煉の周りと飛び回ってグルグル旋回しているのが見えた。

 なにやら飛びながらワイワイと話しかけているようだが、輝煉は何の反応も見せず無視している様子。



「白兎、アイツ等何やってんだ?」


 パタパタ


「はい? 乗せてくれないから、一緒に飛ぼうと誘っている?」


 フリフリ


「ふんふん………、自分で認めた者しか背に乗せないってか。まあ、四霊の長である麒麟らしいプライドだな」


 

 そもそも麒麟が背に乗せるのは仙人か聖人、徳高き王だけだと言われている。

 生半可なモノではその足元にすら近寄ることはできないという。


 だが、マスターである俺であれば……… 



「輝煉! 俺を背に乗せてくれないか?」



 俺が声を張り上げると、先ほどまで誰が話しかけても無視していた輝煉は、ゆっくりと俺の前まで移動。

 恭しくその前脚を折って屈み、俺が乗りやすい体勢を取った。



「あい~! マスターだけ狡い!」



 上から天琉の声が飛んでくるが無視。



「うむうむ、良い心がけじゃ」



 何となく雰囲気に乗せられた俺。

 聖獣にその力を認めさせた仙人みたいな感じ。



「よっと!」



 輝煉が屈んでもその高さは1.5m以上。

 だが、俺にとっては軽く一飛びするだけの高さでしかない。


 

「よっこらせ………」



 乗馬なんてしたことが無いから、見よう見まねでその背に跨る。


 ロボットだけあって、一応その背は人が乗れるような形になっている様子。

 首の後ろにも掴めるグリップのようなモノがあり、手綱や鐙が無くても問題なく乗ることができそうだ。


 輝煉の全高は4m。

 肩までの高さは3m強。

 通常の馬の約2倍。

 

 おそらくあの有名な拳王様の馬よりも大きいかもしれない。



「さあ、輝煉! お前の走りを見せてくれ!」


 

 もし、俺が輝煉を乗りこなせるなら、空中戦闘ができるようになる。

 そうなれば次なる暴竜戦でも役に立つに違いない。




 グンッ!!



 突如俺の身体に圧し掛かる重圧。


 それは急上昇する際に発生する加重。


 輝煉は前脚を大きく跳ね上げ、そのまま空中へと飛び上がり………




「ちょ、ちょっと! ストップ! 止まれ! 待って! 高いの怖い! 」




 俺の悲鳴を聞いて、すぐに急降下、緊急着陸。




「ふええぇぇぇ………」



 輝煉から降り立つと膝がガクガク。

 そのまま跪いてしまう俺。



「こ、怖かった………」



「ますたー、大丈夫?」

「キィキィ?」

「ギギギギ……」


 天琉と廻斗、浮楽が心配そうに声をかけてくる。


 パタパタ

 

 また、白兎も俺を気遣うように耳を揺らし、


 フリフリ


「……………んん? なるほど、瀝泉槍か、莫邪宝剣を持てば、高い所も怖くなくなるな」


 ピコピコ


「サンキュー、白兎。もう一度挑戦してみよう」



 高い所は怖いが、制空権を取る為には必要なこと。

 こんなところでくじけてたまるか!




 七宝袋から瀝泉槍を引き抜き、腰に構えて輝煉へと飛び乗る。




「さあ、今度こそ! 俺は空を支配する! 行くぞ!」




 グンッ!




 輝煉の蹄が空中を叩き、その機体を空へと跳ね上げる。


 瞬く間に大地を離れ、俺達は太陽が照りつける空に向かって急上昇。




「行ける! これならイケる!」



 左手で輝煉の首の後ろにあるグリップを握り、右手には瀝泉槍を持つ。


 今の俺は正しく天馬の騎士………、いや、麒麟の騎士か!

 白兎にはちょっと悪いけど、絶対こっちの方がカッコ良い!


 

 すでに下を見ても皆を見つけられないほどの高高度。

 上を見れば、あともう少しで雲に手が届きそうな距離。




 パタパタッ


「おお! 白兎か?」



 気がつけば、白兎がいつの間にか隣に並んで平行飛行。



 フリフリ


「はははははっ、どっちが早いか勝負って? 面白い!」



 空中戦の動きを試してみるのも良いだろう。

 白兎相手に肉薄できれば、どんなスカイフローターも怖くない!



 パタッ! パタッ!


「ふむふむ、白兎が縦横無尽に空中で逃げるから、それを追いかけるってか」



 ドッグファイト………

 いや、この場合はラビットファイトと言うべきか!



「よし! 受けて立った! 輝煉、筆頭の白兎に遠慮なんてするなよ!」



 俺の言葉に輝煉からの返事は無い。

 だが、跨る機体の震えから、俺の言葉に深く頷いたことだけははっきりと分かった。



「さあ、どっちが勝っても恨みっこ無し! 行くぞ!」




 俺の筆頭従属機械種にして、俺の宝貝 宝天月迦獣 白仙兎。

 

 VS


 神獣型と言われるディバインビーストタイプの機械種オウキリンの輝煉。



 果たして、その勝者は………











「おええええええええぇぇぇぇ!!」



 地面に降り立ち、腹からせり上がるモノを口からぶちまける俺。


 

「おええっ、おええぇ………」



 両手をついて地面に蹲り、ひらすら下を向いて嗚咽を続ける。



「主様、しっかりなさいませ」

「マスター、お水をお持ちしました」



 ヨシツネが俺の背中を擦り、森羅が水を持ってきてくれた。




 白兎と輝煉の勝負はドロー。


 両機の飛行しながら錐揉みを繰り返す空中戦に、俺の三半規管は完全にノックダウン。

 せり上がる吐しゃ物に耐えきれず、輝煉を再び急降下させて、今のこの有様。



 俺って、乗り物酔いしやすいんだよな………



 こればっかりは闘神スキルでもどうにもならない様子。

 どうやら俺には空中戦は難しいようだ。



「おええええっ! おえっ!」



 地面に向かい合いながら、もう二度と空中戦はしないと心に誓った。


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