第478話 職業3



 天琉の翼の修理代         50万M

 剣風剣雷の装甲と盾の修理代    80万M

 剣風剣雷への竜麟装備       40万M

 竜鎧砲の作成          180万M

 紅石の黄式晶脳器への変換    500万M

 上記を発掘品戦車へ設置      50万M

 四鬼の修理代          800万M



 ついでにスキルを購入。


 運転スキル(上級)を4つ    200万M

 杖術スキル(上級)を1つ    100万M


 運転スキル(上級)はヨシツネ、剣風、剣雷、毘燭用。

 杖術スキル(上級)は毘燭が欲しがっていたので購入。



 これで合計は2,000万M。


 残りの俺の資産は3,000万Mとなった。

 日本円にして30億円程度。


 この街に来てから稼いでいたマテリアルはあっという間に目減りした。

 俺が爆買いしたせいもあるが、やはり狩人家業は金……マテリアルがかかる。


 修理代に、装備の新調。

 戦車の改造に新しいスキル。


 もっと稼いでいかないと、元の貧乏生活に戻りそう。


 車の駐車場代が気になったり、生活用品を我慢したり………

 もう爪に火を灯すような生活は御免だ。

 そうなる前にマテリアルを稼がなくては!



「…………明日、ちょっと出かけて適当な赭娼の巣でも潰してこようかな?」


「ヒロにとっては、赭娼の巣の攻略もピクニックに行くみたいものだね」


「いや! ちょっとした冗談ですから!」



 よく考えなくても30億円も持っていて、金の心配をするのはおかしい。


 だいたい、マテリアルで買い物をしたからといって、消えて無くなったりしない。

 マテリアルという流動資産が機械種という固定資産に代わっただけ。

 多少の目減りはあるかもしれないが、別に俺が持っていた100億円という財産が激減した訳ではない。

 

 財布の中の現金が少なくなると、不安になって来て銀行口座からお金を降ろしたくなる現象であろう。

 


「しばらくは街でゆっくりする予定です」


「まあ、それが良いだろうね。攻略を終えて帰ってきたばかりなんだろ。2週間くらいは休みな。いかにヒロが凄腕でも、疲れが溜まれば万が一のことがあるんだから」


「そうですね。帰ったら部屋でゴロゴロしますよ」


「あはははは………、おっと! 帰る前に依頼の優先順位を決めてくれないかい? 今回は依頼がたくさんあるからどれから手をつけるか悩ましい所なんだよ」


「そうですね…………」



 優先すべきはまず天琉、及び剣風剣雷の修理。

 あと、竜麟装備と竜鎧砲の作成。


 これは1週間後に新しく仲間となる機種のお披露目があるからだ。

 その時に褒美の授与式もまとめてやっておきたい。


 黄式晶脳器への変換と戦車への取付はもう少し後でも構わない。

 しばらく休みに入るつもりだし。


 四鬼の修理は元々数ヶ月と聞いていたから、全然急がない。

 豪魔がランクアップして、重量級の機械種オウキリンも手に入ったから、今のところ戦力は足りている。

 いきなり仲間をたくさん増やすと管理するのが大変になるから………



 おっと、そう言えばストロングタイプを新しく購入したことをボノフさんに言わないといけないな。


 ソイツはストロングタイプの機種名を二つ持っていた。


 『機械種トラッパーミストレス/マシンテクニカ』


 このストロングタイプの『ダブル』というモノについて、ボノフさんに尋ねないと。











「うーん………、白翼協商も随分と張り込んだもんだね。そこまでヒロを特別扱いするとはね」


「やっぱりボノフさんもそう思いますか?」


「ストロングタイプの『ダブル』がこの辺境に回ってくるなんて、聞いたことが無いよ。まあ、戦闘系じゃないからということもあるんだろうけどね」


「その…………、『ダブル』についてなんですが、前にボノフさんが言ってたストロングタイプの強化方法と何か関係がありますか?」


「ふう…………、せっかく偶にはアタシがヒロを驚かしてやろうと思ったのに、秤屋に先を越されるとは思わなかったよ」


「では、やっぱり………」


「そう! これはジョブシリーズが『ジョブ』シリーズである所以さ。文字通り職業を重ね持つことができるんだよ。遺跡に残る白式晶脳器を司書スキルを持つ機種が使うことによってね」




 ボノフさんから語られた秘密。

 

 それは白の遺跡に残る白式晶脳器を転職神殿とし、司書スキルを持つ機種を司祭としたジョブシリーズの転職の秘儀。

 実際には職業が変わるわけではなく、新たに1個追加されるだけなのだが。


 これによりジョブシリーズは1段上の能力を持つようになり、さらに追加された職業の特性も持つようになる。


 つまり、魔法少女系である秘彗が剣士系の職業を追加すると、魔法少女でありながら剣士としても活躍できる。


 ただし、ベースとなっている機種の機体性能もあるから、あまりかけ離れた職業を追加すると、その性能の上り幅が抑えめになるそうだ。



「その例で言うと、ヒスイちゃんに剣士系を追加すると『機械種ミスティックウィッチ/ソードマスター』になる。剣を持たせて近接戦もできるようになるけど、機体の大きさが変わるわけじゃない。武装や装甲の一部が変化するぐらいだよ。今のままの軽量級の貧弱な機体では、とても本職には及ばないのさ。」


「なるほど。機体自体が大きく変化する訳じゃないんですね。武装や装甲の一部と、中身……、スキル、マテリアル機器が追加されるだけ……と」


「もちろん弱点を補うという意味ではありなのかもしれないけどね。でも、同じ魔術師系を追加した方が強みを伸ばせる。魔術師系でも別系統であれば、使える技も増えるし」



 これは悩み所だな。

 魔法剣士というのも憧れるが、中途半端になっても困る。

 単独で何でもできる機種は有用だが、それはすでに白兎がいるし。


 ならばやはり強みを伸ばす方向で行くべきか………



「逆に近接戦闘型のゴツイのに魔術師系を追加しても出力が弱い。マテリアル機器が機体内に生まれるけど、元から持っていたのとは性能が落ちるんだよ。だから精々、サブウェポンくらいの扱いだね」


「ぬぬぬっ! 近接戦闘型に攻性マテリアル機器を備え付けるのは夢があるんですけど!」


 

 近接戦闘型にも一応攻性マテリアル機器が備わっている。

 機械種パラディンが持つマテリアル収束器であったり、機械種ソードマスターが持つマテリアル重力器であったり。

 それぞれ剣からビームを放ち、重力斬を飛ばす力を持つが、それだけだ。

 秘彗のように状況に応じて様々な攻撃方法、射撃、放射、範囲、誘導等の複雑な操作はできず、ただ真っ直ぐ飛ばすだけの単純なモノ。



「まあ、剣風剣雷にはそれぞれ射撃武器を持たせる予定だし………」



 だとすると、射手系なんかが良いかもしれない。

 状況に応じて剣と盾と銃を扱う、遠近両方に対応できるオールラウンダーになってくれるだろう。



「毘燭には近接戦闘型が良さそうだな」


「そうですな。杖術スキルの上級をご購入頂きましたゆえ」


「でも、魔術師系を入れて黒魔法と白魔法を両方使える賢者に興味があるんだよな」


「はて? 賢者とはなんでしょう? 学者系ならジョブシリーズにありますが………」



 毘燭が俺の発言を聞いて疑問を口にする。



「あ~、毘燭、その辺りは気にするな」


「はあ……、そうおっしゃるのでしたら」


 

 実際にどうするかは、またその時に決めれば良いか。

 それよりも今は、そのやり方を聞かなくては。



「えっと、ボノフさん。その転職………、というか職業の追加なんですけど、従属機械種に『司書』スキルを入れて、白式晶脳器のある場所に行けば良いのでしょうか?」


「ふうん………、その言い方だとヒロはすでに、その2つを手に入れる目星が付いているみたいだね」

 

「はい。幸いにも『司書』スキルは保有していますし、未発見の白式晶脳器にも心当たりがあります」



 『司書』スキルはチームトルネラのボスから貰った物だ。

 そして、白式晶脳器はエンジュ達と見つけた白の遺跡にあった。

 ただし、かなりこの街から離れているから、おいそれと向かうことはできない。

 それなりの準備をするか、事前に秤屋へと話を通さないといけないだろう。



「そうかい。それはもうそういう運命なんだろうね。特に『司書』スキルなんて滅多に手に入るモノじゃない。それを偶然にも手にれることができたヒロはまさに運命に愛されているんだろうね」


 

 目に見えない概念に愛されてもなあ…………


 まあ、確かにこの世界に来てから、そういう星の元に生まれてしまった感はある。


 でも、苦難の道のりばっかりで、その報酬が少なめに思えてしまうのは一体なぜなんだろうね。

 財産的には恵まれているのかもしれないけど。


 具体的には潤いがほしい………、できれば巨乳………



 黄昏る俺に構わず、ボノフさんは話を続けてくる。



「やり方は簡単だよ。対象のジョブシリーズと白式晶脳器を繋いで、司書スキルを入れた機種に操作させるだけさ。晶脳器の画面にそのジョブシリーズが追加できる職業の一覧が表示されるからそれを選ぶそうだよ。あと、白式晶脳器を操作する機種は知能に優れた機種にした方が良いね」


「知能が優れた機種………、俺のチームだと毘燭か秘彗かなあ………」



 森羅だとちょっと格が足りないし、豪魔は機体が大きすぎる。

 白兎の前脚ではキーボードを操作しにくいし、ベリアルは晶脳器自体を叩き壊しそう。

 ヨシツネは似合わないし、天琉に任せるのは無謀すぎる。


 やはり、ここはストロングタイプである毘燭や秘彗に………



「あ、しまった。司書スキルを入れたら、その者に職業を追加できなくなってしまう」



 毘燭も秘彗もストロングタイプ。

 職業を追加して強化する対象だ。

 司書スキルを入れてしまったら、誰が白式晶脳器を操作するのか。

 司書スキルは1個しかないんだぞ。



「うーん………、どうしようか………」


「ははははっ、よーく考えて決めるといいよ。多分、今すぐに決める必要はないからね」


「へ? それはどういう意味………」


「職業を追加する機種は長年経験を積んだモノでないと駄目だと聞いたことがあるね。晶石合成を何度も行い、パワーアップを繰り返した機種でないと現れる候補が少なくなるらしいね。従属したばかりの機種だと、候補が一つもなかったりするそうなんだ。だから従属したばかりのそっちのストロングタイプ3機は今すぐは難しいと思うよ」


「ええ! マジですか………」



 確か、ゲームでも転職するには一定以上のレベルが必要だった。

 理屈は分からないが、それと同じことなのだろう。


 つまりここにいる剣風、剣雷、毘燭はすぐに新たな職業を追加することはできないかもしれない。

 さらには秘彗だって、従属してからまだ3ヶ月。

 それなりに経験は積ませているつもりだが、必要な値が分からない以上、こちらもどうなるか不明。

 積んだ経験によって、追加できる職業一覧が増えるのなら、増やした方が良いに決まっている。


 それに白の遺跡に向かうにもかなり時間と手間がかかるから、結局無駄足になってしまうのはできるだけ避けたい。

 とすれば、もう少し時間を置いてからの方が良さそう。


 どうやら今すぐにストロングタイプを強化するのは難しいみたいだな。


 

「仕方ないですね。今は下積みさせておくことにします」


「それがいいね。でも、気を付けな。白式晶脳器のジョブシリーズに職業を追加できる回数には限りがあるんだ。ヒロが目星をつけている白式晶脳器が誰かに見つからないようにしておきなよ」


「回数制限! それは厄介な………」


「回数はそれぞれで違うみたいだけど、使い切ると何年も回復しないらしいんだよ」


「なんだ、回復するんですか。それなら待てば何とかなるんですよね」


「何を言っているんだい! だから白式晶脳器のある遺跡は厳重に管理されているんだよ。名のある猟兵団や狩人チーム、近くの街の領主や白の教会がね」



 あ………、

 つまり、他の人間が使えないように自分達で独占していると?



「白式晶脳器はその場から動かせないからね。結構街から離れた遺跡でも、囲い込みしているケースがあるよ。白式晶脳器はそれ以外にも使い道が多いからね」



 うーむ………

 俺がエンジュ達と見つけた白の遺跡はかなり街道から離れていたし、一応、白式晶脳器の部屋は分からないように隠してきたけど………


 今から向かっても意味が無いかもしれないし………


 これは後で打神鞭で白式晶脳器が見つからないかどうかを調べてみるしかないか。








「これで聞きたいことは全部だね」


「はい、ありがとうございます」


「では、アタシはこれから作業にとりかかるよ。まずはテンルと騎士系の修理、それから竜麟装備。悪いけど、竜鎧砲は外注させてもらうよ」


「その辺はボノフさんのお好きに」


「それなら1週間もあれば十分だ。あと、白兎は置いていってくれるんだね?」


「もちろん、またお世話りなります」


 ピコピコ  ペコッ

『よろしくお願いします』


「あははははっ、本当に頼もしいね。もし、ヒロが新しく注文した罠師系と整備士系のダブル、こっちに連れてきてくれたら、アタシが少し調整してあげよう。そうしたら、ヒロはこんな婆さんの藍染屋に頼る必要が少なくなるからね」


「いやいやいや! ボノフさんにはこれからもお世話になりますので!」


「あははははっ! 楽しみにしてるから、また1週間後おいで!」



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