第477話 改造


「おばちゃーん!」


「おや? テンル…………、おっとっ!」



 ボフッ



 事務所の中に入るなり、ボノフさんへと駆け寄ってい天琉。

 

 その天琉の孫のように抱き留めるボノフさん。



「あい~! ふかふか~」



 ボノフさんの胸に顔を埋めて天琉はご満悦の様子。



「あははははっ! 相変わらずだね………、テンル、背中の翼はどうしたんだい?」


「あい! 中に入れてる!」


「なるほど、機体に収納できるとはね。流石は天使型だね」


「あいあい! テンルはテンシ!」


「コラッ! 天琉!」



 ボノフさんにしがみついたままの天琉を叱りつけながら引っぺがす。


 

「もう少し礼儀をだな…………」


「まあまあ、そこがテンルの良いところじゃないか。あはははははっ!」



 天琉の失礼な態度をボノフさんは笑って許してくれる。



「それだけ懐いてくれているんだ。アタシは構わないよ。ほらおいで」


「あ~い~!」


「よしよし………、ハクトも来るかい?」


 パタパタ トコトコトコ、フリフリ


「あはははは、本当に可愛い子達だね。孫に囲まれているみたいだよ」



 しがみつく天琉、足元で耳をフリフリする白兎に囲まれたボノフさんは嬉しそうだ。


 天琉にとっては甘えさせてくれる人間で、白兎にとっては2番目の師匠。

 これは慕われても当然か。



「いつもすみません」


「いいってことだよ。で、今日は何のようだい? テンルとハクト………、それに見覚えのある新顔さんを3機も連れて」


「実は……………」




 俺の背後に控えるストロングタイプの騎士系、機械種パラディンの剣風剣雷。

 ボノフさんに抱きついていく天琉。


 この3機の紅姫の攻略で負った損傷の修理を依頼する。



「ふむふむ、機械種パラディンがケンプウ、ケンライ」


 コクッ

 コクコク


「で、そっちの機械種ビショップがビショクだね」


「拙僧達の機体を修理してくれた御仁でしたな。その節はお世話りなりました」


「あはははは、アタシが直した機種から直接お礼を言われるなんて妙な気分だね。ブルーオーダー前なのだから覚えているわけないのにねえ」



 何気に剣風剣雷、毘燭とボノフさんは初対面だ。

 もちろんブルーオーダー後の話でのこと。

 

 これで俺のチームでボノフさんに顔合わせしていないのは豪魔と浮楽、ベリアルだけ。

 

 ベリアルはともかく豪魔と浮楽は一度ボノフさんに見てもらいたいと思うのだが、浮楽はともかく、豪魔のあの巨体では入庫させること自体が難しい。

 ボノフさんを俺のガレージに招くのが一番早いのだが、ボノフさんに街の外縁部まで足を延ばさせるのは流石に申し訳ない。 

 どこかで機会があればその時に頼むことにしようか………



「修理するのは、テンルちゃんの翼と、ケンプウ、ケンライの装甲と盾だね」


「はい、………あと、もう2つ依頼がありまして………、毘燭!」


「承知」



 毘燭が亜空間倉庫から1.2mの金属で構成された造形物を取り出し、床の上に置く。



 ゴトンッ



 見た目は巨大肉食爬虫類の頭を模した鋼鉄の造形物。

 突き出した2本の角と凶悪なまでに鋭い牙が並んだ口元。

 これぞ機械種レッサードラゴンの頭部。

 そして、一緒に尾の先端と肩の一部も並べる。

 これ等こそ俺達が竜討伐を果たしたという証。



「………………こいつは凄い。久しぶりにドラゴンタイプを見たよ」


「ヨシツネと天琉で倒しました。まあ、その戦いで天琉の翼が破損したんですが………」


「レジェンドタイプにアークエンジェルが揃うと、その程度の損傷でドラゴンを倒せてしまうんだね。全くもってトンデモナイ………」



 ボノフさんはレッサードラゴンの首を見ながら、ため息交じりに感想を漏らす。



「ドラゴンと言ってもレッサーですよ。格で言えばヨシツネや天琉の方が上ですからね」


「そうだね。これでヒロも竜殺し……、『ドラゴンスレイヤー』か」


「まあ、できればそう呼ばれるのは機械種エルダードラゴン以上を倒してからにしてほしいです。少なくとも中央ではそうだと聞きますから」



 今の段階でそう呼ばれるのはかなり気恥ずかしい。

 第一、俺自身の手は全く使っていないのだから。

 やはり竜殺しを名乗るのは、自分の手で狩ってからにしたい。


 

「じゃあ、本当の竜殺しになる為に、このレッサードラゴンの遺骸を使って従属機械種を強化しないとね」


「はい、よろしくお願いします」


「あいよ、任せておきな。さて、コレを使った強化案だけど………」



 ボノフさんから提示されたのは、剣風剣雷の竜麟を使用した装甲と盾の強化。


 それとレッサードラゴンの頭部を利用した武器の作成。



「『竜砲』…………ですか? 確かドラゴンの頭部に備わったマテリアル機器を利用した大型の重火器ですよね」


「そうだよ。元はドラゴンの頭部だから、攻撃力も申し分ない上に、防御力も抜群。銃や砲でありながら盾としても利用できる」


「……………でも、銃を使える機種は俺のチームでは森羅だけなんですよね」



 森羅が巨大な重火器を装備するのは難しい。

 ヨシツネだって無理だろう。

 持とうと思えば持てるだろうが、アイツの持ち味である高機動を殺してしまう。


 豪魔であれば肩や腕などに装着できるだろうが、レッサードラゴン程度では力不足。

 当然、俺が使うのも論外なわけで…………



「いやいや、違う。さっきも言ったように、盾としても利用できるのさ」


「??? というと?」」


「形状をできるだけ盾に近くすることで、重火器を備えた盾が出来上がる。これをケンプウ、ケンライのどちらかの盾として使うんだよ。」


「おおっ! それはひょっとして竜鎧砲ってヤツですか? それは良い! 『ドラグナースタイル』ができるかも!」



 

 『竜鎧砲』とは攻防一体となった重火器のことだ。

 砲でありながら鎧、又は盾となって使用者を守る。

 主にドラゴンの遺骸を利用して作られているから『竜鎧砲』。

 そして、それを用いた戦闘方法を『ドラグナースタイル』と呼ぶ。


 『竜鎧砲』を装備した者は圧倒的な攻撃力と堅牢な防御力を秘める動く砲台と化す。

 縦横無尽に動きながら最前線で敵を抑え、重火器をぶっ放す役目を担う。

 

 中央の猟兵団で稀に見ることができる。

 ただの人間では重すぎて使いこなせないから、使用者は機械義肢を装着した改造人間であったり、全身機械種へ換装済の機人であったりする。


 もちろん人型機種が使うこともある。

 この『竜鎧砲』を装備させた機械種オーガを『ドラグナースタイル』で複数運用しているのが中央で有名な『鬼面団』。

 『竜鎧砲』の元になっているのはドラゴンタイプの下級が大部分らしいが、それでもその突破力はかなりのモノ。

 砦攻略でレッドオーダーの群れに突撃していく頼もしさは今でも覚えている。



「ただし、レッサードラゴンの頭部は一つだけだから、1個しか作れないよ。それでもいいかい?」


「あ、そうでしたね。うーん…………」



 どちらか1機だけに渡すと言うのも不公平感を感じてしまう。

 今回剣風剣雷ともに頑張ってくれたし、できれば両方に形に残るモノを渡してあげたい…………



 あ、そう言えば、プラズマ投射剣があったな。


 プラズマ投射剣とこの竜鎧砲を剣風剣雷それぞれに授与しようか。


 どっちをどっちに渡すかについてはまた後で考えよう。




「ボノフさん、竜鎧砲の作成をお願いします!」


「毎度あり。で、あともう一つの依頼って何だい?」


「それはですね…………、前来た時にお話を伺った『黄式晶脳器』のことなんですけど…………」



 昨日、秤屋で注文を入れた整備専用車。

 

 これで俺のチームに車が3台揃ったことになる。


 俺の普段の生活の場である『小型貨物車+潜水艇』。


 危険な荒野を進み、巣の中では簡易コテージとして利用する『発掘品の巨大戦車』。


 メンバーが損傷を負った時の為に傍に置いておきたい『整備専用車』。



 使用目的が異なる車両が3台も揃うとその運用が難しくなってくる。


 車を運転できるのは、俺を含めてちょうど3名。

 運転スキルを投入している森羅と浮楽だ。


 しかし、森羅は運転以外にも砲手の役割も持っているし、浮楽も斥候や潜入任務を任せたりすることがあるかもしれない。

 一応、剣風、剣雷、毘燭、ヨシツネにも運転スキルを入れようと思うが、それぞれに役割を持っているので運転席に座らせておくだけのは勿体ない。


 ここで思い出したのが、人間や運転スキルを持つ中量級が居なくても、ある程度車が自分で行動することができるようになる『黄式晶脳器』の存在。

 これを発掘品の巨大戦車に装備すれば、自分の意思を持つようになり、運転席や砲手席に専用スキルを持つ者が座る必要が無くなるのだ。


 さらに性能も向上するというおまけ付き。

 何億Mするか分からない程の発掘品の戦車だ。

 どれだけ特別装備を追加してもその価値があるだろう。

 


「発掘品の戦車に取りつけたいと思いまして」


「ふんふん。ということは、あの大きい臙石を黄式晶脳器に変換するんだね。でも、前にも言った通り、あの巨大戦車には少し大き過ぎるかもしれないよ。あれ程の大きさの臙石なら船団や巨大施設の管理もできるだろうから………」


「いえ、そっちではなく………別のを………」


「え? 別の?」


「はい………、これです」



 空間拡張機能付きバッグから取り出したのは、俺が一番最初に手に入れた紅石。


 行き止まりの街のダンジョンの最奥で倒した超重量級、紅姫カーリーのモノ。


 ずっと死蔵していたが、やっと使い道ができたのだ。



 俺の手の平に置かれたボウリングの玉程の大きさの紅石は、ギラリと赤い輝きを放ち始める。

 ずっと仕舞いこまれていた鬱憤を晴らすように。

 

 事務所内に赤い光が舞い、煌々とした輝きが辺りを照らす。

 それは熱を伴わないのに、なぜか熱さを肌に感じる幻想的な光。


 これが狩人が追い求める秘宝。

 紅姫を討伐した証。

 この世で最も価値のあるとされる紅石。



「これを『黄式晶脳器』へ変換をお願いします」


「……………」


「?? ボノフさん?」



 返事の無いボノフさんに俺が再度声をかけた時、ボノフさんの身体がグラリと揺れた。



「ちょ、ちょっと!」



 慌てて駆け寄り、崩れ落ちようとしていたボノフさんを支える俺。



「だ、大丈夫ですか?」


「…………少し休ませておくれ」


「あ、はい…………」



 しばし、ボノフさんが落ち着くまで待つこと3分少々。




「ふう…………、本当にヒロがアタシの死因になりそうだね」


 

 椅子に座りながら、やや疲れた様子のボノフさん。

 全身に気だるさを感じさせながら、俺を前に話し始める。



「す、すみません!」


「全く…………、紅石や臙石がシュガードロップみたいに出てくるねえ………、アタシの常識なら赭石で数ヶ月に一つ、紅石なら年に一つって所さ。この辺境最大の街でもそんなペースなのに、ヒロと来たら…………」


「今でだいたい月1ペースですね」


「はあ………、何で街の狩人全員より、ヒロ個人の方が上なんだか………、アタシの常識の方がおかしいのかねえ」



 ボノフさんは天井を見上げて、ナニカを諦めたような口ぶり。

 またもどっと疲れたような様子を見せる。



 うーん………

 あんまり刺激の強そうなモノは見せない方が良さそう。

 

 俺が原因でポックリ逝かれてしまったら申し訳ない。

 次からもう少し手加減することにしよう。



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