第457話 お披露目



 2日後の朝、ボノフさんのお店に森羅と秘彗を迎えに行く。


 俺のお供は天琉に廻斗。

 姿を消してステルス状態のヨシツネ。


 ヨシツネを連れて行くのは、俺の護衛とあるモノを運んでもらう為。

 今回秘彗がおらず、毘燭を表に出すのも躊躇われたから、消去法で小規模ながら亜空間倉庫を持つヨシツネを連れて行くことにした。


 そして、天琉と廻斗は…………




「あい! やっぱり人が多い!」


「キィキィ!」


「あいあい! あっちで何かやってる!」


「キィッ!キィッ!」



「コラッ! 走り回るな!」



 子供のようにはしゃぎまわる天琉と廻斗を抑えつつ、街中を進んでいく。



「ふう………、森羅がいないと天琉達を抑えるのが大変だな。毘燭あたりを連れてきた方が良かったか」



 天琉と廻斗を連れてきたのは、外の空気を吸わせてやりたかったから。

 ずっとガレージに籠りきりにさせるのは可哀想だし、久しぶりにボノフさんに天琉達の顔を見せてあげたかったということもある。


 なんか実家に孫を連れて行くみたいだな。



「そろそろ、毘燭や剣風、剣雷を公の場に出すことも考えなきゃ……」


 

 このまま成果を上げ続ければ、俺の戦力が森羅と秘彗だけでないことを勘づかれることになるだろう。

 いかにストロングタイプと言えど、たった1機で紅姫を倒せるわけがないから。


 それにガミンさんやミエリさんも、薄々俺が戦力を隠していることは気づいているはず。

 なら、見せ札として毘燭達を前に出すことも必要になってくる。



 俺が絶対に隠さないといけないのは、ベリアル、豪魔、浮楽、ヨシツネの4機だ。

 辺境では在り得ない戦力。

 保有しているとバレるだけで、俺の周りは大変なことになるだろう。


 白兎、天琉は力さえ見せなければ、その正体を見破られまい。

 

 白兎はただの機械種ラビット、あるいは、正体不明の聖獣型。

 天琉は人間の子供に装える間はそのままにしておく。

 翼さえ隠せば強い機種のように見えないしな。








「おはよう、ヒロ……おや、今日のお供はテンルちゃんとカイトちゃんかい?」


「あい、おばちゃーん!」

「キィキィ!」

 

 迎えてくれたボノフさんの胸に飛び込んでいく天琉と廻斗。

 帰省先で祖母に会えた孫そのものだ。


「お~、よしよし」


「あい! おばちゃん、ふかふか~」


 天琉の奴め!

 またボノフさんの胸に顔を埋めているな。

 全く、いつまで経っても子供みたいだ。


「ボノフさん、いつもすみません」


「いいよいいよ。可愛いものじゃないか」


 天琉のおかっぱ金髪を優しく撫でながら、嬉しそうな表情のボノフさん。

 時折、肩にしがみつく廻斗を指でつっつき、あやしている姿は本当に孫を相手にしている祖母のよう。



「こうやって頭を撫でてやれるのも、ヒロが中央へ行くまでだからね。どう考えてもあと半年もない」


「まあ、今のペースならそうでしょうね」



 2ヶ月連続で『最優』を取得した。

 あと4回『最優』を取れば、中央行の切符を手に入れることができる。



「あと………、今日はヨシツネも連れてきています…………、ヨシツネ」


「ハッ!」



 声と共に姿を見せるヨシツネ。

 片膝をついた状態で現れ、ボノフさんへ敬意を目礼で示す。



「おやおや、今日も益荒男ぶりに磨きがかかっているねえ。本当に素顔が人的表皮(ヒューマンスキン)じゃないのが残念だ。さぞかし美形だろうに」


 

 ヨシツネの清廉とした風采を見ての感想。

 確かにヨシツネが人間そっくりなら、間違いなく美形な武者であっただろう。



「御戯れを。ボノフ様もご壮健で何より」


「はははははっ、この歳でもまだまだ元気なのだけが取り柄だからねえ」



 終始和やかな雰囲気の藍染屋内。

 この街に来て最も良かったことはボノフさんと知り合えたことであろう。


 俺のメンバーとの関係も良好。

 未だボノフさんの世話になっていないのは、豪魔と浮楽、そして、ベリアルぐらいだ。

 

 いずれ機会があれば、浮楽も連れてきてやりたい。

 

 …………豪魔は大きさ的にちょっと難しいし、ベリアルは論外だからな。





 ピコピコ


 いつの間にか俺の足元に近寄ってきた白兎が耳をピコピコ。


「お、白兎か。どうだ? きちんと役に立てたか?」


 パタパタ


「そうかそうか」



 2日間俺と離れていた白兎は、ちょっぴり甘えた様に俺の足へと顔を擦りつけてくる。



「よしよし、よくがんばったな」


 フルフル


 軽く頭を撫でてやると、くすぐったそうに頭をフルフルさせる。

 こういったところはまるっきりペットの兎みたい。



「おやおや、ハクトも寂しかったようだね。今回、本当に頑張ってくれたよ………おっと、そうだそうだ。早速預かった子達のお披露目をしないとね」


 そう言ってボノフさんは事務所の奥へと消えていき、すぐに森羅と秘彗を連れてこちらに戻って来た。



「ほら! こっちが新しいヒスイちゃんだよ」


「マスター、この度の強化改造ありがとうございます」



 ローブの先を抓み、淑女のような華麗な礼を見せる秘彗。

 その姿は2日前のモノと些か異なっていた。


 いつもの味気ない藍色一色のローブの一部に、白い水滴を垂らしたような水玉と緩やかな白波模様が追加されたのだ。

 流線型を描く波とそれぞれ大きさの異なる水玉が散りばめられ、まるで海辺の波飛沫のようなデザインとなっている。



「これは…………可愛くなりましたね」


「アタシの芸術的センスもなかなかだろう?」


「はい、本当に素晴らしい出来栄えです」



 地味目な衣装が一変。

 秘彗の少女らしい外見を引き立たせる、さわやかな印象を与える様相だ。



「これはアタシの一大傑作でもあるね。何せ、このデザインはパターンが幾つかあって、変化させることができるんだよ」


「ほうっ! それは凄い!」


 

 その外装であるローブが装甲も兼ねている秘彗は服を着ることができない。

 毎日同じ服を着ているようなモノだ。

 年頃の少女っぽい所がある秘彗にお洒落させることもできず、少しばかり可哀想だと思っていたのだ。

 そのデザインだけでも変化できるとなれば、ちょっとしたお洒落を楽しむことができるのかもしれない。



「デザインだけじゃないよ。あの臙公の白衣は大したモノでね。ちょっとした操作でその性質を変化させることができるんだよ。熱、衝撃、電撃、冷気ってね」



 ボノフさんの話では、ローブの表面のデザインを変更することで、それぞれの属性に応じたマテリアル機器や耐久力を上げることができるらしい。

 今のデザインである『波飛沫』は収束制御を向上させるそうだ。

 他にも『揺らめく炎』であったり、『ジグザク模様』であったり、『氷晶』であったり………



「どういう仕組み何ですか?」


「あの白衣から繊維だけを取り出して、可変金属と混ぜ合わせたんだよ。あとは変動パターンを記憶させて、ヒスイちゃんのローブに流体磁気コーティングとして、塗りつけたのさ」


 

 うーん………、さっぱり分からん。

 まあ、とにかく秘彗が可愛くなったんだからいいか。

 


「ここまで素晴らしいモノに仕上げてくれるとは………ありがとうございます! ボノフさん」


「あははははは、ヒロの持ってきた材料が良かったのさ。アタシもいい勉強になったよ……………ほら、アタシのことよりも、ヒスイちゃんに言うことがあるだろう?」


 

 満ち足りた笑顔で俺を秘彗の方へと押し出すボノフさん。

 

 ちょっとつんのめりながらも、未だ立ち尽くす秘彗の前に移動。


 秘彗の姿を視界に収め、ゆっくりと視線を上下させて、一言。



「………うん、似合っているぞ、秘彗」


「あ、ありがとうございます………」



 うつむき加減ではにかむ秘彗。

 帽子を胸の前に抱え、恥ずかしがる姿は可憐の一言。

 古き良き魔女っ娘スタイルにポップな目新しさが追加されて良い感じ。

 


 うむ、良いな。

 我がチームの紅一点がよりグレードアップした。

 もう少し外見年齢が高めならヒロイン化があったかもしれない。



 そんな感想を抱きつつ、より可愛さを増した秘彗の姿に目じりを下げていると、




「ほらほら、いつまでもヒスイちゃんに鼻の下を伸ばしていない。次はシンラの番だよ」


「あ………、はい」


 

 ボノフさんは次の成果の発表に移った。



「よし、シンラ。光学迷彩を発動してごらん」


「はい」



 ボノフさんに促され、森羅が返事をしたかと思うと、次の瞬間、その姿をぼやけさせ、周りの風景に溶け込ませた。


 森羅の姿は完全に透明。

 足元を見ても影すらなく、その存在すら消え失せてしまったかのよう。



「これは………見事! 全くどこにいるのか分からないな」


「通常の視覚では捕らえられません。ただ、あまり激しく動くと処理が追いつかず精度が落ちてしまいます」


 何もない空間から森羅の声が返ってくる。

 透明なまま返事をされると何か落ち着かないな。

 


「その辺は仕方ないね。慣らしていけばそのうち上手くなるよ」


「そんなものなんですか?」


「新しい機能を追加した時はだいだいそうだよ。ある程度最適化されるまで時間がかかるね」



 ボノフさんがそう言うのならそうなんだろう。



「なら、帰ったら森羅は光学迷彩を使いこなす訓練をしてもらわないといけないな」


「はい、精進致します」



 すると、そこへ珍しくヨシツネが口を挟んでくる。



「光学迷彩についての細かい注意点は拙者がお伝えいたしましょう」


「おお、ヨシツネ殿。よろしくお願いします」


「森羅殿ならすぐに使いこなせますよ」



 メンバーに新たな力が追加され、ヨシツネも嬉しそうだ。

 それに我がチームの貴重な真面目組の一員だからな。

 同じ真面目組として頑張ってもらいたいのだろう。



 現在の真面目組とお騒がせ組の勢力関係は真面目組が些か不利。


 真面目組:ヨシツネ、森羅、豪魔、毘燭。

 お騒がせ組:白兎、天琉、廻斗、秘彗(NEW!)、浮楽(NEW!)。


 秘彗が転がり落ち、浮楽が当たり前のように参入してからお騒がせ組の優位が続いているのが現状だ。


 所属が決まっていないのはベリアル、剣風、剣雷の3機。


 だが、最近のベリアルを見るに、白兎の影響もあってかなりお騒がせ組に汚染されているような気がする。

 また、剣風剣雷も白兎から白兎道場に勧誘されているから油断もできない。


 このままでは我が悠久の刃はお騒がせ組によって混沌の坩堝となってしまうかもしれない。

 俺としてもこれ以上気苦労が増えるのは嫌だから、ぜひ、ヨシツネと森羅には頑張ってほしい。 

 







「ところで、ボノフさん。実は今日、手土産がありまして………」


「へえ? ああ、そう言えば、そんなことを言っていたね」


 

 今回の改造結果を確認し終え、一段落着いたところで、今回の2つ目の本題に移る。



「ヨシツネ、出してくれ」


「ハッ」



 ヨシツネが亜空間倉庫から出してくれたのは今回の手土産の1つ、赭娼メデューサの遺骸。



「これは…………」



 突然、出てきた赤土色の機体に驚きを隠せないボノフさん。



「以前、俺が倒した機械種メデューサ。見ての通り赭娼です」


「メデューサ………、聞いたことがあるね。毒や瞬間硬化剤を吹き付けてくる厄介な機種だ。過去、赭娼として機体が確保されたことがあったはずだよ」


 

 赭娼や紅姫の機種は様々だが、唯一無二で同じ機種は2つと存在しないと言う訳ではない。

 通常のレッドオーダーと同じく、同機種が何体も同時に存在することだってある。


 ただ、高位機種ほどその数は少なく、滅多に被ることは無いと聞く。

 それにそもそも赭娼や紅姫を修理できる状態で確保できる狩人は少ないのだ。

 せいぜい中央にいるような一流の狩人ぐらいであろう。



「中量級だし、噴射口さえ抑えれば、ストロングタイプを複数当てて抑え込むことができたみたいだね」



 ボノフさんは機械種メデューサの口辺りを指さし、説明してくれる。



 確かに、秘彗と毘燭、剣風剣雷が揃えば、難なく倒せそうな感じもする。

 それに中央での激戦区、赤の死線で活動しているような超一流なら、赭娼、紅姫クラスの機械種を従属させていても不思議ではない。

 


「それでも、この辺境でこの機械種メデューサを従属させている者はいないだろうね。少なくとも表立っては」



 基本赭娼や紅姫、橙伯や臙公を討伐したら秤屋に提出するのが基本だ。

 一流ともなれば話は別だが、辺境で活動している狩人が従属させて連れ歩くにはそれなりの理由がいるだろう。


 若しくは、強い後ろ盾か、有無を言わせない実力が。



「で、ヒロはこのメデューサを修理して従属させたいってことかい?」


「いえ、修理ではなく、メンバーを強化するのに使えないかと………」


 いかに美女とはいえ、頭が蛇では近くに置きたいとは思わない。

 豊満な胸は魅力的だが、生理的嫌悪を覆すほどではない。


 秤屋に提出してマテリアルに換えると言う方法もあるが、折角秤屋に提出しなくても良い赭娼の機体なのだ。

 メンバーの為に有効活用できるのであれば、それに越したことは無い。

 

「うーん…………、コイツをかい?」


「はい、ボノフさんなら何か良い知恵がないかと………」


「うーん……………」



 機械種メデューサを前にボノフさんは腕組みをしながら考え込む。


 そして、2,3分経ってから。



「いくつか案は浮かぶけど、コレをマテリアルに変換することに比べると、どうしても見劣りしてしまうねえ。何せ、滅多にない状態が完全に近い赭娼だ。秤屋に提出したら、2,500万Mは固いだろうし………」



 最低25億円か。

 俺の今の手持ちが約4,600万M、46億円だ。

 ただ、ここから四鬼の修理代が最大1,000万Mかかるとすれば、3,600万Mと見ておいた方が良い。

 

 この機械種メデューサを秤屋に持って行けば資産が60億円を超える計算。

 ストロングタイプをもう1小隊揃えることができそうなくらい……

 まあ、この辺境では手に入らないけど。


 有効活用は諦めて、秤屋に提出するしかないのだろうか…………


 

「ふう………、仕方が無いか」


 大きく息をついて秤屋へ持って行こうと決めかけた時、ボノフさんが呟いた言葉が耳に入ってきた。



「ヒロがこの赭娼の機体を最大限に活かしたいんであれば、秤屋を通さずブラックマーケットに出すという手段もあるけどねえ………」



 え? 何ですか、それ?

 もう少し詳しく…………



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