第419話 襲撃2



 スタスタスタスタスタスタ


 トコトコトコトコトコトコ



 人気のない深夜の街中を白兎と一緒に進む。


 交流会が終わり、今は車が置いてあるガレージへ帰る途中。 



 あの騒動の後、レオンハルトに酒を注がれたり、ガイに絡まれそうになったり、アスリンにブツクサ文句を言われたり………

 アルスやハザンが間に入ってとりなしてくれたりと色々あった。


 そして、つつがなく交流会は終了。

 一旦解散となり、残りたい者だけが残って未だ会場で交流を続けている。

 アルス達はまだ残るとのことだったが、俺は用事があると言って、一足先に帰らせてもらうことにした。



 もちろん用事と言うのは、帰り道に襲撃してくるはずのカーミラを迎え撃つこと。



 おそらくある程度の人数を連れてくるだろう。

 それはタウール商会の面々なのか、それとも、自分と同じ街に隠れ住むレッドオーダーなのかは分からないが。




 スタスタスタスタスタスタ


 トコトコトコトコトコトコ



 薄暗い夜道に俺と白兎の足音だけが響く。


 夜分遅くとあって、周囲は閑散としており、人影は見られない。

 まあ、こちらがあえて人通りの少ない道を選んでいることもあるけれど。



 スタスタスタスタスタスタ


 トコトコトコトコトコトコ



 向こうも人前では襲撃しづらいだろうし、俺も力を振るいにくい。

 こうやってわざと人が少ない道を選んでいけば、どこかしらのタイミングで襲撃をかけてくるはず。

 だからここは………




 スタスタスタ……ピタッ


 トコトコトコ……ピタッ



 俺が立ち止まると、白兎も足を止める。

 首を動かさず目だけで周囲を見渡し、口元に軽く笑みを浮かべながら一言。

 


 


「そろそろ出て来いよ。いるのは分かっている」


 



 俺が呟いた言葉は、無音の闇に薄く広がり消えていく。

 辺りは夜の闇に染まり、静まり返った裏通り。

 襲撃してくるのであれば絶好の場所。

 

 俺と白兎はしばしその場で待ち構える。

 どこから何が飛んできても対応できるように。

 

 白兎は後ろ脚で立ち上がり、俺は七宝袋からいつでも宝貝を出せるように準備。

 






 そして、数分が過ぎ………








 スタスタスタスタスタスタ


 トコトコトコトコトコトコ



 再び、足を進める俺達。

 

 何事もなかったかのようにガレージへの帰途へと戻る。






 スタスタスタ……ピタッ


 トコトコトコ……ピタッ



「もういいだろ? 出て来い! いい加減うんざりしたきたところなんだ」


 

 また、適当な所で立ち止まり、先ほどと同じようなセルフを宣う。



 ……………………



 スタスタスタスタスタスタ


 トコトコトコトコトコトコ


 

 しばらく待って何の反応もなければ、これまた何事もなかったかのように歩き始める。


 そして、これを何度も繰り返す。




 スタスタスタ……ピタッ


 トコトコトコ……ピタッ



「隠れても無駄だ。お前達の行動は御見通しだぞ」




 ……………………




 スタスタスタ……ピタッ


 トコトコトコ……ピタッ



「どれだけ身を潜めても血の臭いは誤魔化せはしない。来いよ、化け物(フリークス)」




 ……………………




 スタスタスタ……ピタッ


 トコトコトコ……ピタッ



「俺は闇を払い邪を切り裂く悠久の刃………、人の世を荒らす悪は見過ごせない。さあ、表へ出ろ!」




 ……………………




 スタスタスタ……ピタッ


 トコトコトコ……ピタッ



「ヒュー! 俺も有名になったモノだ。ファンに待ち構えられるなんてね。でも、悪いがサインはしない主義なんだ。デートのお誘いなら大歓迎なんだがね」




 ……………………





 スタスタスタ……ピタッ


 トコトコトコ……ピタッ



「……………もう駄目。心が折れそう………」


 ピコッ!ピコッ!



 その場でガクッと跪く俺。

 慌てたよう耳をパタパタさせ『大丈夫?大丈夫?』といった感じの白兎。



「おかしいな……、絶対に襲ってくる思ったんだけど……」


 フリフリ


「でも、周りに反応は無いって? アイツは高位機種なんだから、警戒を潜り抜ける術ぐらいもってるかもしれないだろ……」



 何回かそういう素振りを見せていたら、向こうから必ず出てくると思ったんだけど、完全に当てが外れてしまった。

 ここまで挑発を繰り返し、無防備な姿を見せつけているのに、何の反応も無いってことは、やはりここにカーミラはいないのだろう。



「仕方が無いか。ガレージへ帰ったら打神鞭で…………おい、どうした、白兎?」



 跪く俺の隣で耳をピクピク、ナニカを受信しているかのような仕草を見せる白兎。

 

 やがて、ピョンピョンと跳ね始め、耳を振り回し、一大事とばかりに俺へと急報を知らせてくる。


 その内容は、廻斗から何者かがガレージを襲撃してきたとの報告だった。


 







 

「やられた……、まさかガレージを狙われるとは………」



 白兎を通じて廻斗からもたらされた情報にしばし呆然と立ち尽くす。

 予想外の展開に頭が回らず、呻き声にも似た悔恨の言葉だけが漏れた。



 確かに油断があったのかもしれない。

 狙われるのは俺だと思い込んでしまったいた。


「タウール商会が俺のガレージに侵入したのは分かっていたのに……」


 ガレージ内に仕掛けられた監視カメラ。

 打神鞭の占いによれば、アレの仕掛け人はタウール商会。

 この交流会前から俺はマークされていたのだ。


「こんなことならヨシツネをガレージに残しておくべきだったか?」


 自分の身の安全を優先して最強の3機を自分の傍に置いていたのが仇となってしまった。



 白兎、ヨシツネ、ベリアルの3機がいないあのガレージには、たった9機しかいないのだ!



 赤の死線にしか現れない、地獄の門番。

 堅牢無比な装甲と圧倒的なパワーを秘める蒼白の大悪魔。

 たった1機で一軍を壊滅させる破壊の化身。

 機械種グレーターデーモンの豪魔。


 

 純白の翼と可憐な容姿を持つ、中央では出逢えば確実な死をもたらすと言われる人類の大敵。

 空を駆けながら地上へと粒子加速砲の雨と光の槍を降らせる大天使。

 高機動高火力、さらに光の盾による高い防御性を持つオールマイティー機種。

 機械種アークエンジェルの天琉。



 巣やダンジョン、時には街中にも現れるというワンダリングモンスター。

 千技千術の多彩な技を以って人間を狩り、一晩で街を全滅させたという逸話を持つ希代の殺戮者。

 無尽蔵の武具、拷問器具を作り出し、冷気や酸、毒、果ては空間をも操る死の道化師。

 機械種デスクラウンの浮楽。



 そして、人類最強の盾であるストロングタイプの4機。


 魔法少女系の機械種ミスティックウィッチの秘彗。

 僧侶系の機械種ビショップの毘燭。

 騎士系機械種パラディンの剣風と剣雷。


 連携さえ取れば赭娼すら葬ることができるバランスの取れた戦力。

 相性が良ければ紅姫にすら届くかもしれない戦闘パーティ。



 あとは、竜麟を装備した機械種エルフロードの森羅と発掘品の巨大戦車、軽量級モンスタータイプの最下級でありながら不可思議な力を身に着け、破壊されても9度までは自動で蘇る力を持つ廻斗しかいない。

 


 襲ってきたのが紅姫クラスなら撃退、緋王クラスであっても持ち堪えられる程度。

 この街の全戦力と真正面からやり合えるくらい。


 ………たったそれだけの戦力しか………

 



 んん? ちょっと待てよ………




「これはひょっとして………」


 

 ピコピコ



「あ………、やっぱり。もう片付いてるってか」











「あい! ますたー、おかえりなさい!」

「お帰りなさいませ」

「ギギギギギギッ!」

「キィキィ!」



 ガレージへと帰ってみれば、メンバーからのいつもと変わらないお迎えと、微かに匂う血の香り。

 奥には積み上がった人間に見える死体の数々。

 その中にはあれだけ異色の存在感を放っていたカーミラの姿も………



 

「ぐえぇ……」



 

 あの美しかった容姿の面影は何処にも見えない。

 首を断たれ、ゴロンと床に転がる頭部には幾つもの鉄杭が突き刺さっている。

 黒い礼服を着た胴体部分も同様。

 血に塗れ、ズタズタにされた惨殺遺体。

 艶めかし白い肌が破れた服の合間から垣間見えるが、そこにエロチックさは感じられず、ただ血の気が引くような凄惨な印象しか抱けない。



「…………人間だった? 白兎は機械種だと言っていたが………」


「いえ、この者はブラッドサッカータイプの機械種ヴァンパイア、それもおそらくはその上位種ではないかと思われますな」


 俺の疑問に答えてくれたのは機械種ビショップの毘燭。


「彼等の機体はナノマシンの集合体によって構成されております。人間の血を吸い、それを全身に張り巡らせることによって極めて人に近い性質を持つ機体に偽装し、倒されてもしばらくは人間の死体にしかみえない形で留まります」


「それは………厄介だな」


 俺のあの時の判断は間違ってなかったか。

 あの場でコイツを切り殺していたら、間違いなく殺人者として捕まっていたかも。


「人間社会に侵入し、様々な謀略や工作を行う機種ですので、これも防諜対策の一環なのでしょう。しかし、これだけの数がいるとはなかなかの驚きですな」


「コイツ等、全員そうなのか………」


 積み上がった死体の数は20人近い。

 この全てがブラッドサッカータイプ。

 俺の記憶でもほとんど聞いたことが無い機種だ。

 精々、都市伝説か怪談っぽく人間に偽装したレッドオーダーがいるらしいという冗談めかした噂話レベル。

 チームトルネラのボスの話を聞いていなければ、その存在すら疑っていただろう。

 

「大半はブラッドサッカータイプの最下位、レッサーヴァンパイアですな。その上位である機械種ヴァンパイアは3体。少々手こずりましたぞ。事前に襲撃を察知できて、こちらが奇襲できなければそれなりの被害を受けておりましたでしょう。廻斗殿のお手柄ですな」


「キィキィ!」


 毘燭の言葉に空中で胸を張る廻斗。




 聞けば、俺達の帰りをずっと外で待っていた廻斗がまず最初に襲われたらしい。


 ガレージの屋根の上に座っていたところを、音もなく重力破砕で粉微塵に潰されたようだ。

 しかし、その後、屋根から落ちた、唯一無事だった廻斗のネクタイである宝貝 八卦紫綬衣を起点にすぐに復活。


 こっそり換気扇からガレージへと戻り、仲間へと誰かから襲われた事を報告。

 報告を受けた森羅はすぐに迎撃体制の準備を皆へ指示。


 秘彗と毘燭はまず俺の大事な資産である車と潜水艇、発掘品の戦車を収納。

 豪魔は自分が座っている隠蔽陣の中に籠り、侵入者へ奇襲することを提案。






「うむ………、これが上手く嵌まりました」


 頭上からの豪魔の重々しい声。


 普段、豪魔はガレージ内に展開した隠蔽陣の中に座っている。

 この中にいれば、陣の外から見えることは無く、どのような警戒スキル、レーダーであれ発見されることは無い。






 窓をぶち破って雪崩れ込んできたブラッドサッカータイプの襲撃者達。


 彼等が見たモノは、何も置いていないガランとしたガレージの中。


 しばらく戸惑うような様子を見せた彼等だったが、最後に入ってきた女性、カーミラが登場すると、直立不動となって見たままの状態を報告したそうだ。



『…………おかしいわね。さっきまで確かに複数の機械種の反応が……』



 不審に思うカーミラを狙って、まず浮楽が空間転移を以ってその背後へと飛び、死神の鎌を振るった。

 加害スキルを持つ浮楽であれば、たとえ人間であっても即殺の攻撃を繰り出すことができる。



 斬ッ!!



 一撃のもとに切り飛ばされるカーミラの首。



『グッ、何者!』



 血を吹き出しながら宙を舞った首は、ピタッと空中で静止。

 口から血を流しながらも声を発し、下手人である浮楽を睨みつける。

 その目は黒い瞳ながらも、レッドオーダーに通じる人間への憎悪が見て取れたそうだ。


 この時点で、この女性は人間ではないことが分かった。



『ギギギギッ!』



 そして、さらに振るわれる浮楽の死の息吹。



 ブフォオオオオオオオオ!!!



 浮楽の口から吐き出されたのは濃縮された二酸化炭素。

 それは閉鎖空間においては人間を即昏倒……若しくは即死させる毒ガスと化す。



 しかし、周りの人間達は怯まない。

 まるで生物のようでありながら生物で無いように……



『看破! その者達は人間ではありません!人間に偽装したブラッドサッカータイプです!』



 隠蔽陣の中より毘燭が叫ぶ。


 これで皆のロックは外れた。

 ここに攻め込んできたのは人間ではなく機械種なのだ。

 であれば、たとえ白鐘の恩寵下においても攻撃できる。




 ゴオオオオオオッ!!!




 その直後に、隠蔽陣の中から豪魔の剛腕が振るわれ、侵入者のうちの4分の1が粉砕。


 

 ドドドドドドドドドドドドッ!!!

 ガガガガガガガガガガガガッ!!!

 ビシュッ!ビシュッ!ビシュッ!!



 さらに森羅、天琉、秘彗が銃弾と粒子加速砲の雨を叩きつける。


 中から外へ攻撃したことで、隠蔽陣の効果は失われてしまったが、これで侵入者の集団は半壊。

 その後に剣風、剣雷が敵陣へと踏み込み、右往左往する残敵を切り伏せていく。


 

 しかし、ブラッドサッカータイプの最下位機種である機械種レッサーヴァンパイアはあっという間に殲滅するも、中位機種である機械種ヴァンパイアの力はストロングタイプに近い実力を持ち、たとえ機械種パラディンと言えど一筋縄ではいかない。

 

 3機のうち1機は豪魔によって潰されたが、残る2機はまだ健在。

 剣風剣雷を迎え撃ち、互角の戦いへと持ち込もうと奮戦。


 このガレージ内では、これ以上豪魔が攻撃するのは難しい。

 下手をすればガレージが崩れ去り、味方を巻き込む可能性もある。


 敵が減り、乱戦状態となれば誤射の危険性があるので射撃は行えない。

 介入するにはそれなりの腕を持つ近接戦能力を持つ機種でなければ………



『あいあいあいあいあいあい!!!』



 そこへ、天琉が光の槍を振り回しながら突撃。

 新たに備えた槍術スキル上級と光子制御の力を以って、高位機種同士の肉弾戦の最中に介入。



『あいっ!』

 ザクッ!



 鍔迫り合いをする剣風剣雷と機械種ヴァンパイアの間に飛び込み、隙を突いて敵1機の胸元へと槍を差し込み動力部を破壊。


 

『隙あり! 焼き尽くせ! バーンアウト! 』



 残る1機は秘彗による火炎攻撃をまともに喰らい、炎上。

 その機会を逃さず、剣雷が頭上から切りつけ、頭から真っ二つ。


 これで残す敵は親玉とみられるカーミラのみとなった。 






 

『コイツラ! なんでこれほどの高位機種が揃っている! 罠か? わざと主戦力を連れて来ずに、ここで待ち構えさせたのか?』


『ギギギギギ!!』



 浮楽はカーミラと一騎打ち。

 お互い空中を舞いながらの高速戦闘。


 縦横無尽に錫杖を振るい、鎖や鉄杭を飛ばして、逃げ惑うカーミラを追い詰める。

 カーミラは首だけになりながらも、胴体を遠隔操作で動かし、浮楽の怒涛の攻撃をギリギリでしのいでいく。

 


『空間転移が阻害される? おのれ! そこの僧侶系だな!』


『ふむ、ご名答。侵入者は一人も逃すわけにはいきませぬゆえ』



 毘燭はガレージを包むように空間転移を阻害する結界を発動。

 逃げ道を塞ぎ、確実に相手を仕留める為。



『!!! こうなったら………』



 一瞬、カーミラの胴体がぼやけ始めた。

 空中に浮かぶ首とは独立して稼働する機体は、霞がかったように輪郭を失っていく。



『ム! これはマズいですな。ブラッドサッカータイプ上位の切り札である『霧化』! これをされると物理攻撃が無効に……』


『ギギギギギギッ!!』



 毘燭からのアドバイスを受け、浮楽は背中のファンを回し空気を気嚢へ送り込む。

 機体の中のマテリアル生成器から粘着剤を生成し、口内にある噴射機へと供給。


 

 ボフォオオオオオオオオッ!



 口から噴霧状にして吹きかけた。



『コ、コイツ!』



 霧化しようとした機体を包むように無色透明な膜を形成。

 即座に凝固してその胴体の稼働を拘束する。



『ギギギッ!』



 さらにマテリアル精錬器を稼働させ、周囲に無数の鉄杭を錬成。

 宙に浮かぶカーミラの首を完全に囲い込む360度を包囲網を敷く。



『ま、待て!』


『ギギッ!』



 カーミラの制止の声も一顧だにしない浮楽。

 過剰ともいえる攻撃は、復活したとはいえ、仲の良い廻斗を破壊された怒りもあったのだろう。

 

 

 ザクザクザクザクザクザクザクッ!!!!



 何割かは展開した重力壁で防御するも、時間差をつけて飛びかかってくる鉄杭をいつまでも首だけの状態では防ぎ続けることもできず、ハリネズミ状態となって床に落下。

 いかに機械種ヴァンパイアの上位機種と言えど、晶冠まで傷つけられるほど穴だらけにされてしまっては稼働を停止するしかない。


 こうして、街に潜み今回の交流会に対して何らかの謀略を企んでいたレッドオーダーはここに滅した。

 

 







「まさか、あれだけ意味深に出てきたキャラがあっという間に退場か。どこかのラスボスかと思っていた感応士を思い出す……」


 野賊の頭目であった感応士も俺と出会う前に森羅に射殺された。


 そして、今回のカーミラもほとんど接点無しに浮楽に滅ぼされた。


 向こうもストーリー展開を気にして、討ち取られているわけではないから、こういったこともあるのだろうけど………


 この辺りは俺の持つ戦力が過剰過ぎるからであろう。

 襲ってくる敵に比べて戦闘力が高すぎるのが原因だ。

 あのカーミラもそこそこ高位機種だったのであろうが、俺の持つ手札のうちの4番手以下のメンバー達でも相手にならなかったのだ。


 カーミラがこの街でどのような立ち位置にいたのかは分からないが、あの意味ありげな登場シーンからして、それなりの強者の位置にいたはず。


 だが俺と関わってしまったことで、この世から退場してしまった。

 


「ああいった敵側の幹部っぽい美女って、割と最後の方まで残るモノだけどな」


 途中で改心して仲間になったり、最後まで敵であったり色々だが、物語に華を添える為に登場が長めになるのが普通だ。

 できれば、なぜ交流会の参加者を皆殺しにしようとしたのかを聞きたかったが……

 

「まあ、それは打神鞭の占いで調べれば良いか」


 俺を狙おうとしている敵なんて、早めに片づけるに越したことがない。

 ずっと隠れたまま陰謀を張り巡らされるとかならなくて良かった。

 これはお留守番組のおかげだな。



「皆、よくやってくれた。ほとんど損害を出さず、敵も逃さず仕留めきったのだから、100点満点だな」


「はい、お褒め頂き光栄です。これも皆の力を合わせた結果かと」


 皆を代表して森羅が答える。


 戦力的には1番下だが、メンバーの中では白兎、ヨシツネに次いで古株。

 安定したバランスの良い指揮をするので、俺か白兎、ヨシツネがいない間の処理はだいたい森羅に任せることが多い。

 所謂家宰的な役割を担ってもらっているのだ。

 

 もちろん能力で言えば、ストロングタイプである秘彗、毘燭の方が高いし、こと戦闘になれば豪魔の方が上。

 それを分かっているから、森羅はあくまでまとめ役に徹しきり、参謀としての秘彗、毘燭の意見を重視し、戦闘時の指揮は豪魔に頼ることもある。



「………そう言えば、廻斗。お前に渡した自動浮遊盾は大丈夫だったのか?」


 廻斗の胸の星傷9つのうち一つが消えている。

 これは廻斗の復命が使用された証拠。

 機体を粉々にされたのだから、廻斗がいつも背負ってた自動浮遊盾も粉々に……


「キィキィ!」


 俺の心配の声を聞いて、廻斗は自分の背の半分程もある自動浮遊盾をどこからともなく取り出してこちらへと見せてくる。


「おお、無事だったか。それにしても良く壊れなかったな」


「キィキィ」


「え? 八卦紫綬衣に収納してた?」


「キィ!」


 廻斗が言うには、八卦紫綬衣には小規模ながら亜空間倉庫のような機能があるらしい。

 タタミ1畳くらいの広さで色々と物が仕舞っておけるそうだ。


「………確かに八卦紫綬衣は仙人の服だし、仙人は袖の中に色々な宝貝を収納しているという話だが………」


 貴重な仕様だが、七宝袋がある俺には無用。

 しかし、廻斗の復命の能力と実に相性の良い性能。

 正しく廻斗の為に生まれたような宝貝………


「元々が廻斗のネクタイだったから、ありえるといえばありえるな」


「キィキィ!」


 自慢気にネクタイを顎に当てて関羽のポーズを取る廻斗。

 白兎とは別方向で色々とできることを増やしているような気がする。


「まあ、無事で何より。お手柄だったぞ、廻斗」


「キィキィ!!」


 空中に飛び上がって喜びを表す廻斗。


 そんな様子を見ながら、他の面々の顔を見渡し、


「うむ。皆も繰り返すが本当に良くやってくれた」

 

 俺の手放しの称賛に皆がそれぞれに歓喜。

 

 天琉は廻斗と一緒になって宙を舞う。

 森羅はビシッと返礼。

 秘彗もそれに倣うように帽子を取って一礼。

 豪魔はその巨体から首を上下させるだけの会釈。

 毘燭は誇らしげに胸を張り、剣風、剣雷も剣を前に構えて騎士らしいポーズ。

 


「ギギギギギッ」



 浮楽はタップダンスを踏むように小躍り。

 まだ血が滴る自分が倒したカーミラの生首を戦利品のごとく掲げて……



「コラッ、浮楽! そういうグロいのやめろ! 夢にまで出てきそうだ」



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