第416話 ヒーロー
中央への登竜門と呼ばれる辺境最大の街バルトーラ。
この街に訪れ、中央への切符を手に入れる為に白翼協商の狩人となってから1ヶ月近く。
俺と同じような境遇である新人狩人を集めた交流会の最中でのこと。
突然発生したトラブル。
それに悠然と立ち向かい、首を突っ込んだ新人狩人4人。
連花会所属の重量級使い『押し潰す(スクワッシュ)アスリン』。
鉄杭団所属の改造人間『ぶん殴る(ビートアップ)のガイ』。
俺の同僚であり、発掘品使いでもあるアルス。
そして、その相棒のような強化人間のハザン。
この4人を『いずれこの街に名が響き渡る』と称賛し、自分もまたそうだと自信満々に宣った、ストロングタイプを従属する征海連合所属の『指揮者(コンダクター)レオンハルト』。
互いの武威を称え合いながら杯を交わす5人。
それに混じることができず、傍観者として眺めることしかできない俺。
イベントを逃したことで意気消沈し、交流会を途中で抜け出そうと思った所で、謎の違和感が発生。
慌てて未来視で確認すると………
俺が途中で抜け出した場合、この交流会の参加者全員が何者かに殺されるという最悪の未来が待ち受けていることが分かった。
思い出されるのは、離れていく街を見ながら後悔に苛まれる自分の姿。
「あんな思い、二度としたくはない! 必ず皆を守ってみせる!」
IFの未来を覆す。
今まで何度もやってきたこと。
闘神と仙術スキルを駆使して、俺が幸せとなる未来を掴み取ってやる!
「瀝泉槍…………」
俺の目の前に立てかけられている瀝泉槍に呼びかける。
入り口の傍の傘立てのような置き場へと突っ込まれ、何重にも鎖が巻かれた状態。
盗難防止の為だが、鍵自体はスタッフが持っているので、鎖を外したければ渡された引換券と交換してもらう必要がある。
「これくらいの鎖だったら引き千切る方が早いけど………」
親指と人差し指で軽く瀝泉槍の柄を掴む。
俺の闘神パワーにかかれば、ケーキに突き立てられた蝋燭を引き抜くより容易い。
このまま引っ張るだけで、簡単に瀝泉槍を解放できる。
「ただ、今はその時じゃない………」
これを引き抜くのは、この場で起きる災厄を見つけてからだ。
その前にすると、スタッフの人に怒られてしまう。
「ちょうどこの場からならパーティー会場内が良く見えるし……それに……」
瀝泉槍を抓んだ指から、俺の乱れがちな思考を落ち着かせてくれる波動が流れ込んでくる。
これで何が起ころうと、冷静に判断を下せることができるだろう。
念の為、白兎には会場の反対側へ回ってもらっている。
たとえ高位機種が殴り込んできても、俺か白兎が対応できるという布陣だ。
「本当に高位機種が殴り込んでくるのか分からないが………」
パーティー会場の中央で歓談を続けるアルス達に目をやる。
アルスもハザンもそれなりの腕前だ。
特にハザンはブーステッドを飲んだ強化人間。
ちょっとやそっとではやられたりはしない耐久力をもっているはず。
それに、重量級を控えさせているアスリン。
そして、機械義肢を装着した改造人間であるガイ。
なによりストロングタイプの剣士系、機械種ソードマスターを従属するレオンハルト。
この5人が揃っていて、1人も生き残れないというのがなかなかに信じられない。
そして、機械種ソードマスターでさえ破壊されていたということも。
「機械種ソードマスターを破壊………やはりガミンさんが言っていたように、加害スキルを用いての不意打ちかな?」
俺が従属する秘彗であれば、加害スキルを入れた上で、不意を打つなら十分に可能だ。
今のようにレオンハルトを護衛しているという状況という条件が付くが……
ジョブシリーズの剣士系は騎士系に比べ、攻撃力と俊敏性に優れるが、防御力に欠ける。
これはストロングタイプであっても同じこと。
さらに機械種ソードマスターは他の近接戦闘型ストロングタイプと比較すると、空間制御を苦手とし、空間攻撃への抵抗力が薄いのだ。
と言っても、秘彗が普通に空間攻撃を飛ばしたなら、機械種ソードマスターはあっさりそれを回避してしまうし、不意を打ったとしても躱される可能性が高い。
だが、今のように白銀の恩寵下にて、周りに人がいる状態でマスターを護衛しているのなら話は別。
周りに人がいることで、動きが制限される。
つまり、周囲にいる人を傷つけるような回避ができない。
さらに諸共に真っ二つになるしかないと分かっていても、マスターの傍から離れられない。
この状況下であれば、加害スキルを持ち、空間攻撃を使用できる高位機種さえ用意すれば機械種ソードマスターを葬ることができる。
若しくは、回避できる余地が無いくらいの飽和攻撃を連発すれば可能なのだ。
それは一体どのような高位機種なのであろうか?
なぜここに襲撃をかけてくるのか?
そもそもどのような手段で白の恩寵を掻い潜っているのか?
「打神鞭を使うしかないか………」
昨日の夜、零時前に行った占い、『交流会にて俺はトラブルに巻き込まれるのか?』についての答えは『対応による』だった。
その通り、俺が途中で抜け出すという対応をすれば、この『交流会』でトラブルに巻き込まれることはなかった。
ただし交流会後にきっちりトラブルに巻き込まれたのだから、全く意味の無い占いであったと言える。
やはり不確定な未来を占いのは注意が必要なのだ。
だが、これから占うのはほぼ確定的な未来の事柄。
今から数時間以内に起こるはずの襲撃者の正体くらいは探れるだろう。
今回の件は予期せぬ突発的なアクシデントではなく、おそらく事前に計画されてものであるはず。
でなければ、全く痕跡を残さずにこの場の者全員皆殺しなんてできるわけがない。
それに、レオンハルトが何度も口にしていた『予想外のトラブルを抱えて……』『先ほどからトラブルが続いていて……』のセリフ。
これが襲撃者のお膳立てということも考えられる。
スタッフや護衛の機械種が少ないのもこれが原因なのかもしれない。
ならば占いで問うのは、現時点でこの交流会に仕掛けようとしている襲撃者のこと。
周りの視線を気にしながら、七宝袋から打神鞭をこっそり引き抜いた。
結果は…………
テーブルに並べられた各種様々なブロック。
手に取りやすいように棒が差し込まれており、まるでアイスキャンディーのように手で持ちながら齧れるようになっている。
打神鞭の指示で右から2つ目のテーブルに赴き、並べてあるビーフブロックとオニオンブロックが交互に刺さった牛串……の1番右端のを手に取って齧り付く。
「はむはむ………」
ミートブロックよりもさらに肉っぽい味わい。
噛むと肉汁が口いっぱいに広がり、芳醇な牛の香りが漂ってくる。
「モグモグ…………かなり旨いな。ビーフブロックより上のハラミブロックとか、カルビブロックじゃないか、これ?」
高級レストランで食べたコウベギュウブロック程ではないが、なかなかの品揃え。
流石は征海連合が用意した食材。
「………ふう、旨かった………いや、そうじゃなくて、確か食べ終わった後の棒を見ろ、だったな」
齧りつくした後に残った30cm程の棒……と言うよりは串。
その表面に薄っすらと書かれている文字………
「アイスの当たり棒かよ!……………何々?………『カーミラ』……って誰?」
棒に書かれた文字は明らかに人名。
それもおそらくは女性と思われる名前。
「『カーミラ』………、なんか悪女っぽい名前。アニメや漫画でも出てきたことがあるな」
この『カーミラ』という女性が襲撃してくるのか?
それともこの襲撃計画の首謀者なのであろうか?
「どちらかというと後者っぽい。機械種の個体名という可能性はあるけれど………」
ストロングタイプの魔女系あたりにマスターが『カーミラ』と名付けているということも考えられる。
どのみち、襲撃者についての情報を知るというには、あまりにも的外れな占い結果だけど。
せめて襲撃してくる機械種の機種名ぐらいは知りたかったが……
「まあ、仕方ない。襲撃が来ることが分かっているだけでも十分だ」
何せ、この場で待機していれば向こうから来てくれるのは確定しているし、俺がここにいる以上、大抵のことは何とかなるのだから。
「いざとなれば、七宝袋からヨシツネ、ベリアルを出すこともできる」
もちろん、これは最後の手段だ。
コイツ等の姿を誰かに見られたら、後々この街で俺は過ごしづらくなるに違いないから。
出さずに済ませれば一番良いが、どうしようもなくなれば躊躇うつもりはない。
「…………一つ気になるのは、なぜ、このタイミング何だろう? あんな大惨事が起きたのは?」
俺の口から出たのは、先ほどから胸につっかえていた疑問。
「わざわざ俺が参加する交流会で、前代未聞の殺戮が起こるなんて……」
ネット小説であれば、主人公が街に訪れたタイミングでたまたま大事件が起こるのは良くある話。
何十年、何百年に1回のスタンピードが発生したり、反逆事件やテロ、魔王復活や王女様の誘拐事件が起こったり……等。
滅多に起こるようなことでもないトラブルが、主人公がいる時を狙って頻発する。
これ等は物語の構成上で用意された必然のイベント。
たとえ主人公が偶然のトラブルで2,3日街への到着が遅れたとしても、それに合わせてスケジュールが組み直される神の手の所業。
しかし、俺には主人公補正もなく、俺だけに都合のよいご都合主義も存在しない。
なのに、俺が街にいる間にこれほどの大事件が起こるというのは………
「ひょっとして、俺の仕出かしたことが原因じゃないだろうな?」
思い出すのは行き止まりの街でのダンジョンの異変。
初めはただの偶然と思いきや、俺が魔狼部隊を殲滅したのが原因だった。
そして、連鎖的に出会った超高位機種についても、大抵が俺の行動の結果であったり、俺が起こしたフラグが連鎖的につながったことが原因だ。
俺がこの街に来てから起こしたフラグは大きなもので2つ。
空の守護者である機械種テュポーンを撃退したこと。
何十年も攻略できていなかった紅姫の巣を攻略したこと。
どちらも今回の原因になり得ないとは言い切れない。
「………俺が原因であろうとなかろうと俺のすることに変わりはないか」
最終的にはそう結論付けるしかない。
襲撃者をぶちのめせば、その辺りも判明するだろう。
「さあ、いつでも来い、未知なる殺戮者よ。俺の未来と、皆の命は必ず守る!」
そして、入り口付近で待ち構えた20分後…………
それは起こった。
「死ねえぇぇ!! クソ女! 」
突然、会場内に響き渡る怒声。
見れば、アスリンに脅され、逃げ出したヤンキーチームの1人が、手にした銃をアルス達の方………アスリンに向け、その引き金に指をかけていた。
え? アイツ、あのヤンキーチームの?
もしかして、アイツの名前が『カーミラ』とか?
いや、そんなことよりも………
アレは………スモールの銃の中級だ!
なんであんなチンピラが中央で使われるような高級品を………マズイ!!
俺の視界が少女の危機を捕らえた時、
一瞬で目の前の光景が急に色を失った。
そして、今まで流れていた喧噪も消え、まるで映像を一時停止したかのように動きが止まる。
極限にまで思考が加速され、俺の頭の中だけが外の世界の時間から切り離される。
辺りの時間が静止する中、思考をフル回転させ、俺が取るべき行動を思索。
スモールとはいえ、中級であれば、アスリンが着ているコンバットスーツなんて布きれ同然。
中量級機械種の装甲に穴をあける程の威力だ。
少女の身でその銃弾を受ければ掠っただけでも大怪我。
まともに命中すればほぼ即死となるだろう。
とても性格は良いとは言えず、助けに入ったアルスに散々なことを口にしていた少女ではあるが………
『婦女子は助けるべし! 弱きを救え!』
抓んでいる指から流れ込む瀝泉槍の波動。
それは俺の義侠心を刺激し、僅かな迷いも押し流す。
もちろん、分かっているさ、瀝泉槍!
ガキンッ
瀝泉槍を握りしめ、拘束する鎖を引き千切って解放。
その勢いを以って、会場の中央へと駆け出し、未だ時間が遅延されている空間へと飛び込んでいく……
まるでぬるぬるとした液体の中を無理やり押し通っているような感覚。
空気の動きが俺の加速に対応できず、水をかき分けるような抵抗を生み出しているようだ。
加速した思考からすれば、もっさりとした動きなのだろうが、実際は目にも止まらぬ超スピードで動いているはず。
間に合うか?
俺とアスリンとの距離は20m。
そして、今、引き金が引かれ、銃身の中でマテリアルが銃弾へと変換されている最中。
引き金が引かれて、銃口から銃弾が飛び出すまで0.06秒。
銃口からアスリンまでの距離は10m。
銃口から放たれた銃弾がアスリンに届くまでの時間は0.02秒。
合わせて、0.08秒。
その0.08秒の間に、俺が身を滑り込ませればミッション成功。
間に合わなければ、ミッション失敗。
俺の闘神と仙術スキルを以ってすれば、0.08秒など十分過ぎるほど……
まあ、秒とかメートルとか、俺が考えた適当な数字だけど。
ドンッ!
縮地!
立ち尽くす人達の合間を見つけ、縮地を発動。
刹那に進んだ5m。
さらにもう一歩、踏み込んで……
ドンッ!
縮地!
またも風景が一瞬で切り替わり、棒立ちとなっているアスリンを視界に捉えた。
ちょうど銃を放った少年との間に飛び込む形で。
しかし………
あ!
イカン!
銃弾が結構進んでる。
このままだと間に合わない!
俺の視界の中でゆっくりと進む銃弾。
今の俺の動きだとほんの僅かに届かない位置。
あと、もう1,2メートルが………
いや、イケる!!
瀝泉槍を思いっきり伸ばして持ち、上に大きく振りかぶる。
そして、そのまま俺の前方数メートルを横切ろうとする銃弾を………
瀝泉槍の穂先の腹で思いっきり上から叩きつける!!
ちょうど蝿叩きのようにガツンと!!
バンッ!!
……………………………
そこで加速した思考は終了。
再び色と音が戻り、時間が動き出す。
「わああああ…………あれ?」
「な、なに?どうしたの?」
「たしか、アイツが銃で……」
「あそこにいるの………誰?」
周りから見れば、銃が発射された途端、いきなり俺が現れ、何かを槍で叩き落したような動作をした………だ。
「え? 何? どういうこと? 当たってない……」
アスリンが自分の身体を手で確認しながら呆然と呟く。
撃たれたはずなのに、撃たれていない。
そして、銃の射線を切るように槍を振るった俺の姿。
この2つを繋ぎ合わせれば、正解に辿り着くのは容易だが、なかなか信じられるモノではない。
それは銃を撃った本人も同じこと。
「へ? な……何が………」
銃をこちらに向けながら、放心状態で声を絞り出すヤンキー少年。
「何が起こったのかって? それはな…………」
会場中の視線が集まる中、少年の質問に答えながら、槍を持ち直し、床にめり込んだ銃弾を穂先でほじり返して跳ね上げる。
ポンッ
「よっと……」
跳ねあがた銃弾を空中で指で抓んでキャッチ。
それを見せつけるように前に出す。
「こういうことだ。俺も殴り合いの喧嘩なら手を出すつもりはなかったけど、銃を出すなら話は別だ。お遊びじゃすまなくなるからな」
努めてニヒルに応えてやる。
内心は飛び上がるくらいに喝采をあげたい心境。
やった!
今のセリフってナイスじゃね?
つまり、俺が手を出さなかったのは、あくまで喧嘩だったからなんだよ!
でも、銃を出したら殺し合いになるから、俺は介入したんだ!
決して、タイミングを逃した訳じゃない!
自分の口から出た上手い言い訳を自画自賛。
ヒャッハー!
アルス達の行動を踏み台にして、強キャラ感を出す。
なんという格上ムーヴ。ヒーローそのものじゃないか!
これで一般モブから卒業できるはず!
ようやく俺も主要キャラ入り間違いなし!
緩みそうになる顔を必死で固定。
ここは何としても良い恰好をする為に我慢しなければ………
「コ、コイツ! よくも邪魔をしてくれたな! 死ね!」
再びヤンキー少年は銃を構えて引き金に手をかけて、こちらへと銃口を向けてくる。
どうやら俺の先程の神技を理解できなかった模様。
酔っぱらっているのか、そこまで頭が回らないのか……
飛ぶ銃弾を槍で横から叩き落とした俺にどうやって当てると言うのか?
まあ、4,5mという至近距離からの銃撃だ。
確かに普通であればどうやったって躱しようもない距離。
だが、瀝泉槍を手にした俺であれば、弾くのは容易い。
しかし、ここで槍で弾いて跳弾でもしたら危ないからここは………
バンッ!
バンッ!
カンッ!
カンッ!
銃口を向けられたと同時に七宝袋から自動浮遊盾を取り出して起動。
見事飛んできた銃弾2発を瞬時に動いて防ぐ。
自動浮遊盾に当たった銃弾は威力を極限まで削がれ、力無く床へと落ちていく。
もちろん、スモール中級の銃で撃たれても俺自身が傷つくことはあり得ない。
しかし、それを人前では見せたくないから、こういった場合には自動浮遊盾はカモフラージュとして非常に便利だ。
「ひっ! 何だよ! それ!」
流石に銃弾をものともしない俺に、ようやく怯えを見せるヤンキー少年。
「さてな、それより、そろそろお仕置きの時間かな?」
そろそろコイツを大人しくさせないと危ないな。
周りの群衆も銃に手をかけはじめているし、これ以上暴れるのを放置したら銃撃戦が始まりかねない。
「く、来るな!」
震える手で、又も銃をこちらに向けるヤンキー少年だが………
これ以上、好きに撃たせるつもりはない。
腕の一本ぐらいはへし折ってやろう。
そう思いながら、一歩足を進めた時………
グシャッ!!
「ぎゃああああああああああああ!!!!!」
ヤンキー少年の背後から誰かがその腕を掴み上げた。
しかも、掴み上げた腕は関節とは逆の方向へと向いている。
「ああああああああああああああ!!!!」
ヤンキー少年は腕を抑えて転げまわる。
すでに銃は取り落とし、半狂乱になりながら叫び声を上げている。
そんな醜態を晒すヤンキー少年を冷たい目で見下ろす少年が1人。
ヤンキー少年の腕を背後からへし曲げた人物。
年齢は俺と同じか、少し下くらい。
浅黒い肌、黒い短髪、ピッチリとした迷彩服を着こんだ少年兵のような装い。
その東南アジア系のエキゾチックな顔からは感情の色が見当たらず、どこか機械めいた印象すら感じられる。
「……………誰?」
「タウール商会所属……ルーク。我が商会の者が迷惑をかけた」
俺の問いに感情の籠らない平坦な声が答える。
のたうち回るヤンキー少年とは対照的に酷く落ち着いた印象。
俺と同じ黒い瞳は表情と同じく感情が全く感じられない。
ルーク………
これまた、主要キャラっぽい名前。
何かしらの一芸に特化し、誰からも一目置かれていそうなイメージ。
コイツ、会場にいたっけ?
チラッと見たような気はしないでもないけれど………
でも、話はしていなかったはず。
まあ、タウール商会所属と言うなら、参加していてもおかしくは無いが。
「…………我が商会ってことは、コイツもタウール商会所属なの?」
「そうだ。同僚の暴挙は見逃せなかった。事前に止められず申し訳ない。許せ」
一方的に淡々と事情を語っていくルーク。
「許せと言われてもなあ………」
撃たれそうになったのは俺じゃないし………
いや、俺も撃たれたっけ?
こういう場合はどうなるんだ?
賠償問題とかになるのだろうか………
「後でタウール商会から賠償について話があると思う。こういった話は商会同士話をつけるのが慣例」
悩む素振りを見せる俺に説明してくれるルーク君。
感情の籠らない平坦な声にポツポツとしたしゃべり方。
それにまだ声変わり前の幼さを感じる声調が、どこか雪姫を思い出させる。
慣例と言われると弱いな。
商会同士のやり取りには詳しくないぞ。
まあ、俺も騒ぎが収まれば良いと思っているし、大事にするつもりもない。
これ以上、このルーク君を問い詰めてもしょうがないかな。
「うーん………、じゃあ、それでいいよ。それから、喚いているソイツを連れて早めに退散してくれ」
「分かった。感謝する」
ペコリと頭を下げて、自分の後ろに控えていたヤンキチームの残りの2人に指示を飛ばし、負傷したヤンキー少年を抱えさせて退室させる。
「あああああ! いてえよおぉぉぉ」
「おい、しっかりしろ」
「暴れるなよ」
ほうほうの体で、会場の外へと向かう3人。
その姿は完全なヤラレ役そのもの。
残り2人も会場に戻って来ていたようだが、果たして今回の件は個人の暴走なのか、それとも何かしらの陰謀だったのだろうか………
俺が防いだ銃弾の1発。
もし、アレが命中していればアスリンは即死していただろう。
そうなればアスリンが従属していた重量級が、マスターロストの設定によっては暴れ出したかもしれない。
俺が未来視で見た交流会参加者の全滅はこれが原因なのか?
うーん………ちょっと腑に落ちない。
あのアスリンが『イバラ』と名付けた亜空間倉庫に収納されている重量級機械種。
ジャイアントタイプの最下級、若しくは下級だとしても、ストロングタイプである機械種ソードマスターを倒せる程ではない。
それに、この交流会を襲う『カーミラ』も現れているように見えない。
まだ、襲撃は終わっていないのか、それとも俺が介入したことで不発に終わってしまったのか………
「では、これで。詳しい話はまた後日」
「ああ……」
言葉少ないルークからの別れの挨拶。
俺から追及されるのを避けるように会場から退出しようとしたルークは………
「ちょっと待ちなさいよ!」
背後からかけられた不機嫌そうな少女の声に制止された。
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