第415話 嘆き
この街の新人狩人が集まった交流会。
最初は何とかこなしていたが、だんだんと会話するのがしんどくなってきて、途中で離脱して休憩。
途中、喧嘩が始まり、介入のタイミングを見計らっていたら、いつの間にか収まっていた。
主要キャラ同士の重要なイベントっぽいのが勝手に始まり、完全に蚊帳の外状態。
だんだんこの場にいるのが嫌になって来て、抜け出して帰ろうとした所への謎の違和感の発生………
「おいおい、勘弁してくれ………」
誰に向けたわけでもない愚痴が漏れる。
いや、強いて言えば、謎の違和感に対してだろうか、それとも、俺をこんな状況に運命に対してか………
だが、無視するわけにもいかない。
たった今、このパーティー会場から抜け出すと言う選択肢は無くなった。
「俺が帰ると、俺にとって不都合なことが起こる? つまり、途中で帰ったことについて責められるということか」
状況的に考えてそれしかない。
与えられた任務を果たせず、大きなペナルティでも喰らってしまうのだろう。
確かに最短で中央を目指す俺にとって、ポイントの大幅減はかなり痛い話なのだが………
「…………本当にそれだけか?」
気になるのは、過去、謎の違和感が発生したバッドエンドはそれどころじゃないケースが多かった。
俺の親しい人の死。
または、俺が従属する機械種の大破。
若しくは俺が大きな心の傷を負う展開。
ほぼ確実に取り返しのつかない損害が発生している。
それを考えると、任務をほったらかしにしたペナルティごときで、謎の違和感が発生するのはおかしい気がする。
もっと、俺にとって致命的なナニカが………
「チッ……、やっぱり調べるしかないか。未来視で………」
見なければならない陥ったかもしれないバッドエンド。
間違いなく俺が不幸になった場面を見せつけられることになる。
だけど見なければ対処のしようがない。
さあ、俺に見せてくれ。
途中で交流会を抜け出してしまっていたらどうなっていたのか………
*************************************
「…………おかしい。なんか街中がざわついているような感じ………」
白兎、森羅、秘彗とともに秤屋へと向かっている最中。
ガレージから出て街の中心部へと進むにつれ、殺伐とした雰囲気が感じられるようになってきた。
まるで、街全体が警戒態勢を引いているような………
「前はこんなんじゃなかったようなあ………」
2日前、この街の新人狩人の交流会があり、その際に街中へと訪れたがこんな雰囲気ではなかったように思う。
「俺がガレージに引き籠っている間に何かあったのかな?」
その交流会にて些か失敗してしまったこともあり、ガレージに帰ってから丸1日間、ずっと潜水艇の中でゴロゴロとしていたのだ。
「ミエリさんにでも聞いてみるか?………交流会を途中で抜け出したから、少し気まづいけど………」
ガレージ内に入った時、いつものように俺へと視線が集中する。
ストロングタイプである秘彗を連れていくのはこれで3度目だが、未だに好奇の視線は収まらない………
いや、好奇の視線というよりは………
「む………」
「マスター……」
周りの視線の中に、驚きと戸惑い、疑惑と嫌悪、そしてなぜか強い敵意まで混じっている。
同僚であるはずの人達からの剣呑な眼差し。
危険を感じた森羅、秘彗が俺を庇うような位置取りへと移動。
「…………なんだ? なんか皆の視線が………」
まるで俺を幽霊、若しくは裏切り者でも見るみたいな目だ。
一体何があったというのだ?
「ヒロ君!」
「あ、ミエリさん………」
周りの反応に困惑する俺達へと駆け寄ってくるミエリさん。
そして、そのまま応接室まで引っ張って行かれ………
「よお、ヒロ。3週間ぶりぐらいか?」
「ガミンさん?」
応接間に座っているのはガミンさん。
この秤屋で一番最初に俺へと話しかけてくれた古株の先輩。
40年近く現役をやっているという大ベテラン。
「え? なんでガミンさんがここに?」
「俺がここいちゃあ、おかしいか?」
「いえ………、ミエリさんの剣幕から、この秤屋のお偉いさんが出てくるのかと………」
それにこの応接間は、未来視で白月さんと出会った場所だ。
普段、使われるのはそれなりの身分を持った人と会談する時ぐらいと思っていたが……
「ふむ………、それは間違ってねえな。自分で言うのも何だが、俺は結構なお偉いさんでね」
そう言って、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるおっさん。
人の良さそうな中年男性がそんな顔しても全く似合っていない。
「…………ガミンさんがお偉いさん? …………まさか」
これは毒にも薬にもならなそうなおっさんが実は………というパターンか?
ここまで俺を連れてきたミエリさんもすぐに応接間から退室してしまい、今はガミンさんとその後ろにいるジョブシリーズの盗賊系が1機。
おそらくはベテランタイプの機械種キャプテンシーフだろう。
ちなみにノービスタイプは機械種シーフ、ストロングタイプは機械種ファントムシーフ。
斥候と索敵、隠密や侵入工作に特化した機種で、要人の護衛にも使われる。
そのベテランタイプとなれば、光学迷彩も使用できるだろうし、索敵能力も高いはず。
今は姿を現しているが、その気になれば透明化して気づくこともなかったであろう。
浄眼を持つ白兎であれば見抜けたかもしれないが、察知能力は一般人レベルの俺には無理だ。
確か、この秤屋でベテランタイプは3機しかないと聞いている。
前に見たミエリさんを護衛していた機械種クレイモアナイト。
秤屋のロビーで不審者の見張りをしている付与魔術師系の機械種ハイエンチャンター。
そして、支店長の護衛をしているという………
「そのまさかだよ。俺がこの秤屋の支店長だ」
「!!! ………なるほど。前に紅石を提出した時、出てこられたのが副支店長だったので、その上は誰なのかなって思っていましたが………」
「だいたいの実務はアイツにさせてるからな。俺はお飾りの支店長だよ。白翼協商の秤屋のトップは代々狩人上がりが務めることになっていてね。まあ、妥協の産物というヤツだ」
「その情報は皆知っていることなのですか?」
「知っている奴は知っている………だな。でも、知らない奴の方が多いだろう。いつもは卒業する奴に正体を明かして、ビックリさせるのが俺の数少ない趣味だからな」
趣味が悪い。
しかし、普段、ロビーをウロウロしているおっさんが、この秤屋で一番偉い奴とは誰も思わない。
ひょっとして、支店長自ら狩人達のフォローみたいなものをしているのかな。
ああやって、無害を装って話しかけて、狩人が困っていることとかを聞き出しているのかも。
「…………それよりも、お前さんには確認しないといけないことがあるんだ」
「あ、はい。確認したいこと?」
突然、ガミンさんの雰囲気が変わる。
先ほどまで、いつもの緩やかだった様子から、こちらを品定めするようなやや厳しいモノへと。
まるでこちらを詰問するかのように………
なんだろう?
なんだかこのまま、叱られてしまうような流れだな。
このタイミングで叱られることなんて一つしかないけど………
「ヒロ。正直に答えてくれ。お前は交流会に参加したんだよな?」
「う………」
やっぱりそれか。
交流会を途中で抜け出していたことがバレたのか。
おそらく交流会の最後で点呼でもあったのだろう。
その時に俺がいないせいで、何か不都合が起きてしまったとかかな?
でも、途中で抜け出したくらいで、わざわざ支店長が出てくるなんて、そんなにヤバいことだったのか?
他の秤屋から俺が抜けだしたことへのクレームが入ったとか?
でも、あのヤンキーチームだって、途中で逃げ出していたぞ。
チラリとガミンさんの顔を覗き見れば、驚くほど真剣な表情。
どう考えても冗談で済ませるわけにはいかないような状況。
…………こういった時は素直に謝るか。
下手に言い訳をすれば、余計に信用を失ってしまう………
「……………はい。参加はしていました。でも、交流会であまり皆と打ち解けなくて……それで、居心地が悪くなって、つい………途中で抜け出してしまいました」
「……………途中で抜け出した?」
「はい。申し訳ありません」
「…………はあぁぁ」
大きくため息をついて、がくっと膝に手を置くガミンさん。
どうやら俺の責任感の無さに失望したのかもしれない。
ああ……、ロビーでの皆の俺を攻めるような視線は、この話が出回っていたからなのか。
新人のクセに、与えられた仕事をほっぽりだして帰ってしまう不届き者。
真面目に仕事に取り組んでいる人達から見れば、許されないことなのだろう。
これは結構なペナルティが与えられるのかもしれない。
覚悟はしておかないと………
「ヒロ、聞いてはいないのか?」
「………はい? 何をですか?」
突然のガミンさんの問い。
主語も無く、いきなり『聞いてはいないのか?』と。
一体何のことだ?
質問の意味が分からず、目を白黒させる俺。
そんな様子を見て、ガミンさんは苦虫を噛み潰したような顔をして……
「………お前の反応。多分、演技じゃないと信じているぞ。いいか、良く聞け……」
「あ、はい」
ガミンさんの随分と勿体ぶった言い方。
何を切りだそうと言うのか?
「お前と一緒に交流会へ参加した、アルスとハザンが死んだ」
「はい?」
一瞬、ガミンさんの言っている意味が分からなかった。
「それだけじゃない。交流会に参加した奴はほとんど死んだ」
「…………嘘」
「嘘じゃねえ」
「………いや、だって………トラブルも収まったはずで………なんで?」
「不明だ………とにかく会場は壊滅状態だった。まるで高位機械種が暴れたみたいにな」
こちらを見つめるガミンさんの表情は真剣そのもの。
その顔を見れば冗談ではないことくらい分かる。
だけど…………
あの主人公っぽいアルスが………
殺しても死ななそうなハザンが………
つい先日、仲良く会話をしていた2人が………
「そ、そんな………」
声が震えて上手く言葉が出ない。
そこまで親しくはなっていなかったが、間違いなく2人とも良い奴等だった。
困っていた俺を助けてくれたし、知らない人でも助けようとするほどの善人。
あの若さで死んでしまうなんて、とても信じられないほどに。
「………一体、誰が? その………高位機種が暴れたって?」
「詳しくは分からん。何せ襲撃者の痕跡が全く見つからず、さらに会場も荒らされまくった。さっきも言ったが、会場内にいたヤツはほとんど死んでしまったんだ。『ほとんど』と付けるのは、まだ身元の確認が全部取れていないからだ。実質、全員と言ってもいい」
「………あの場にいた人達全員が………」
まだ10代そこそこの若者達が………
夢と希望を抱えてこれから羽ばたこうとしていた若い命が………
つい、先日、仲良く……とまではいかないものの、それなりに言葉を交わした同期達が………
俺の知らぬところで………全員殺されていた。
あまりの衝撃でしばし思考が停止する。
僅かな邂逅でしかない仲だが、それでも一度見知った顔が皆、殺されたと聞くのはショックが大きい。
呆然とする俺を前にガミンさんは言葉を続ける。
「あの場には身元も分からないようなバラバラになった轢死体も散乱していた。初めはお前さんもそうなっていたと思っていたがね。それが、全く無事な姿でノコノコと現れたからこっちが驚いたぞ」
ややこちらを責める口調。
おそらく身元の確認で大変な思いをしたに違いない。
俺が途中で交流会を抜け出したなんて思いもよらないはずだろうから。
「すみません………」
「はあ………、この場合はお前さんには無事でなによりと言葉をかけるべきなのだろうな………アルスとハザンにもかけたかったのだが……」
「……………………」
俺より先にこの秤屋へ所属した2人だ。
きっとガミンさんとも交流が深かったのだろう。
だが、腑に落ちないのは、あれだけの人数が揃っていたのに全滅してしまったこと。
しかも、相手の痕跡が見つからなかったということは、襲撃者は1人、1機も欠けなかったということだ。
完全に一方的にやられてしまったのだ。
新人とはいえ、あの5人がいてなお一矢も報いることができなかった。
アルスもハザンも腕利きだ。
たとえ、機械種オークや機械種オーガが暴れたって、そう簡単にやられるような奴等じゃない。
それに、あの重量級の腕を出現させるアスリンも、機械義肢を装着したガイだっていた。
なにより……………
「………おかしいです。確かレオンハルトはストロングタイプを従属していました。それも剣士系、機械種ソードマスターを」
そうだ。
あの人類最強の盾であるストロングタイプの剣士系がいたんだ。
たとえ赭娼が乱入してきたって、中にいる人間を逃がすことくらいはできる……
「知ってる。ソイツも破壊されていた」
「そんな………馬鹿な………」
頭をぶん殴られたみたいにグラグラと揺れる。
信じられない情報の波が押し寄せてきて、もう何が何だかわからない。
「白鐘の恩寵が………あるのに、高位機械種が暴れられるわけが………」
「そうだ。だから、こっちは加害系のスキルを入れた機種がいるんじゃないかって線で調べているんだ。例えば、お前さんの魔法少女系………」
こんな精神状態でなければ、おっさんの口から『魔法少女』などという言葉に吹き出していたかもしれない。
だが、今の俺にそんな余裕なんてない。
それに先ほどの言葉は明らかに俺のことを疑っている。
「…………もしかして、俺が疑われていますか?」
「これからそう考えるの奴も出てくるだろうということだ。ストロングタイプを破壊するには、ストロングタイプを以ってするしかない。さらにお前さんがストロングタイプを保有しているのは、この秤屋の連中なら皆知っている。その魔法少女系に加害系スキルを入れて、こっそり持ち込み、会場でぶっ放して逃げ出したというのが一番分かりやすい。同じストロングタイプなら不意打ちでもすれば、機械種ソードマスターを葬ることができただろう」
「俺はやっていません」
「そうだな。俺もそう思いたい。だが、お前が無事だということを知れば、お前のことを疑う者が必ず出てくる」
「…………………」
「ほぼ全員が殺された交流会の場で、ただ一人、無事で逃げてきた人間。そして、ソイツはたまたま殺戮が始まる前に会場を抜け出していた。さらにこの街でも珍しいストロングタイプを保有している。お前さんなら、ソイツのことをどう思う?」
「…………………」
「それに、多分お前さんの従属する機械種は、そのエルフと魔法少女系だけじゃないはずだ。何せ超重量級の紅姫を倒したんだ。ストロングタイプを複数従属していて、さらにもっと格上の機種を持っていても驚かないさ」
「…………………」
「今回の件について、他の秤屋はすでに戦争の準備をしている。そりゃあ、金の卵を軒並み潰されたんだ。おまけに征海連合の幹部の息子まで亡くなった。もうどうやっても止まらねえ」
「どうすれば、いいんですか?」
俺の無罪を証明する為には何をすればいい?
秘彗のログを調べてもらう?
しかし、それも絶対じゃない。
緑学に優れた人なら改ざんだってできる。
それに、俺には隠さなければならない秘密が一杯だ。
もし、身体検査でもされたら、一体どのような結果が出てしまうのか……
完全に袋小路だ。
このまま拘束されて連行されてしまったら、どうしようもない。
もちろん、抵抗するのは可能だが、それをしてしまえば完全に俺が犯人扱いされてしまう。
打神鞭で真相を探ることもできるが、結果だけ分かっても信じてくれるわけがない。
ああ、どうすればいいんだ!!
絶望に染まる俺の顔を見て、ガミンさんは少しだけ表情を緩める。
だが、その口から出た言葉は無情にも………
「お前さんにできることは無い………ここは大人しくしておけ。もうすでにお前が無事だという姿は周りに見られてしまっているから、下手をすれば身内を殺された連中が怒鳴り込んでくる可能性だってある。当分はこの秤屋で身柄を預からせてもらう」
身柄を預かる………
この秤屋で軟禁されるということか。
支店長の立場では仕方ない事なのだろうが………
「………それは命令ですか? 」
「お前さんの身の安全を守るためだ。我慢しろ」
「……………」
俺の身の安全と言いながら、どこまで信用がおけるのだろう?
他の秤屋から俺を差し出せと言われたら、どの程度抵抗してくれるのだろうか?
………どの道、このままじっとしていてもロクな目に遭いそうにない。
一個人を守るために組織が犠牲になんてなってくれるわけがない。
ガミンさんは良い人だが、組織のトップとして、どのような判断をするかなんて明白だ。
ならば、取り得る手段は一つしかない。
スッと頭が冷静になった。
先ほどまでの混乱状態が嘘のように。
アルスやハザンが死んだことは悲しいが、俺が優先するのは俺自身のこと。
ならここで大人しく捕まる選択肢はない。
やることさえ決まったのなら、俺に迷いなんてない。
そっと、手を伸ばして足元の白兎の背に触れる。
ピコピコ
白兎からの了解の返事。
フリフリ
そして、こっそり後ろの森羅と秘彗へと白兎から指示を飛ばす。
カタッ
森羅が少しだけ足先の向きを変えた。
これも了解という合図。
あとは、俺が号令をかけるだけ。
立ち塞がる全てをなぎ倒して、この街から逃げ出す。
もうそれしかないんだ。
ぎゅっと膝に置いた拳を握り、口を開こうとした瞬間………
「……とまあ、ここまでは表向きの話だ」
俺の機先を制するようにガミンさんが先に口を開いた。
「ヒロ、さっさとこの街を出ていけ。そして、当分の間、身を隠せ」
「へ?」
思ってもみないガミンさんの俺に逃亡を進める言葉。
「『へ?』じゃない。このままだと無理やり犯人に仕立て上げられて処刑されるかもしれないんだぞ」
んん?
さっきと言っていることが違ってないか?
………ひょっとして、今までの言葉は表向き……組織のトップとしての言葉。
今はガミンさん個人として話をしてくれているということか。
「…………いいんですか? それに、もし、俺が犯人なら………」
「俺もこの40年間、色んな奴を見てきたが、とてもお前さんは大量虐殺できるような人間じゃない。どっちかというと狩人というよりは一般人に近いくらいだ」
まあ、それは間違っていないが………
「お前さんのような逸材を失うのは痛いが、これも仕方が無い。それよりもお前自身の命の方が大事だろう」
「あ、ありがとうございます。で、でも本当に? 他の秤屋には何と?」
「………拘束したが、逃げられたと言っておく。ストロングタイプの魔法少女系を従属しているマスターだ。空間転移を使う機種だっていてもおかしくないからな」
まさか、ガミンさんがここまで俺を庇ってくれるなんて………
やっぱり面倒見の良い人なのだろう。
「さあ、ぼーっとしていないで、さっさと脱出しろ。この秤屋の非常口から外に出るんだ。変装を忘れるな。一応、このキャプテンシーフに案内させるから」
「すみません、何から何まで………」
良かった。
これでお世話になったミエリさんやガミンさんに迷惑をかけなくても良さそうだ。
「気にするな。それより、街から出たら絶対に戻ってくるなよ。そうなったらもう庇いようが無いからな」
「…………はい。わかりました。あと、お世話になったボノフさんにご伝言をお願いしても良いですか?旅立つことになったって……もちろん、ご迷惑になるならやめておきますが………」
「ああ、了解した。任せておけ」
こうして俺は逃げるように街から立ち去った。
夢も希望も思い出も何もかもを置き去りにして。
「ごめん、エンジュ。もうヒロとしては会えないかも……」
姿も名前も変える必要がある。
それにこの辺境では珍しい森羅や秘彗の姿も。
「…………ごめん、アルス、ハザン。君達の仇も取ってやれず………」
きっと仲良くできるはずだった同僚。
ひょっとしたら一緒に巣やダンジョンを攻略する展開もあったかもしれない。
「すみません、ボノフさん。あれだけお世話になったのに………」
流石に別れの挨拶ができるほど余裕がなかった。
伝言をお願いしたけど、多分、がっかりされるだろう。
「…………ごめん、バッツ君。君にはもう依頼することができないや」
彼には伝言すら残すことはできない。
お尋ね者になってしまった俺との接点を悟られるわけにはいかない。
ボノフさんと違って、何の権力も身分も持たない子供なのだから。
「………はははは、何でこうなっちゃったんだろう?」
俺が交流会を途中で抜け出しただけで、全ての予定が狂ってしまった。
俺がもう少し我慢していれば、こんなことにはならなかったのに。
街がどんどんと遠ざかっていくのが窓越しに見える。
まるで俺が目指した夢がだんだん離れていくようだ。
ほろりと一筋の涙が俺の頬を伝う。
それは後悔と呼べるモノが溢れ出た印。
「やり直したい………もう一度最初から………そうしたら、きっと……」
でも、もう遅い。
遅いのだ。
何もかも………
「うう……、うううううう!!!ああああああ!!!」
嗚咽交じりの泣き声を車内に響かせながら、車は走る。
目的地の無いままに。
ただひたすら真っ直ぐに。
何かから逃げ出すように。
**********************************
「…………はあ、良かった。未来視だったんだ………」
力無くため息をついて、壁に手を置く。
安堵のあまり全身から力が抜けて、今にも倒れ込みそうだ。
フリフリ
「………ああ、大丈夫、大丈夫さ………」
心配そうに耳を揺らす白兎の頭を撫でてやる。
こんな所で倒れるわけにはいかないのだ。
「………今度は失敗しない」
顔を上げれば、まだ交流会は続いている。
アルスも、ハザンも、レオンハルトも………
3人とも楽しそうに歓談を続けている。
アスリンとガイは不機嫌そうな様子だが、それでも、アルス達の周りから離れていない。
あれはあれできっと交流会を楽しんでいるはずだ。
そして、それ以外の新人狩人達も同様に。
これから訪れる災厄のことなんて知らないままに………
「絶対に防ぐ! あんな未来はもう御免だ!」
※申し訳ありません。ストックが切れました。
もう少しキリの良いところまで進めたかったのですが。
少しの間書き溜め期間に入ります。
あともう少しで区切りなので、それほど待たせないとは思います。
できる限り早く投稿を再開致しますので、ご了承ください。
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