第409話 仲間


「いいよ! 1回失敗したし、怪我も治してもらったし……」


「それはそれ、これはこれ。やり遂げた仕事に対して、報酬を支払わないと俺の気分が悪いんだよ」


 報酬を断ろうとするバッツ君に無理やりマテリアルカードとブロックを押し付ける。


 適正級である準2級と3級の差額は10万M。

 その5%で5,000Mをバッツ君へ支払う。

 日本円にして50万円。

 前回よりは少ないが、10歳そこそこの子供が稼ぐ額では破格だろう。


 確かに1回失敗してしまったが、それは十分に許容範囲内のことだし、元々想定していたことでもある。

 さらには怪我を治したのもこっちが勝手にやったこと。

 それを盾に報酬を支払わないのは違うと思う。



 それに、バッツ君には今後も依頼をする予定なのだから、割り屋は続けてほしいのだ。

 少なくとも俺がこの街にいる間はずっと。

 できるうるなら、他の依頼を受けずに俺の依頼だけをしてほしいと思っている。

 だから、他の依頼を受ける必要性が薄くなるくらいに報酬を渡しておかなくては。


 

 今回、やはり割り屋に依頼して良かったと再認識した。


 もし、自分でやっていたら1回失敗したことを当分引きずってしまっていただろう。


 しかし、今回失敗したのはあくまでバッツ君。

 それを俺はおおらかな気持ちで許してあげた。


 実に良い気分なのだ。

 3級の蒼石が1個無駄になったことも気にならないくらい。


 自分の良心を満足させ、さらには俺の心も傷つかない。

 なんと割り屋と言う存在は狩人にとってありがたいモノなのか………



 一方で、バッツ君の将来を思うと、俺も心穏やかには居られない。

 俺自身の目的の為にはバッツ君の割り屋の腕が必要だが、さっきの大怪我のように失敗すれば半殺しに遭う可能性がある危険な仕事だ。

 だけど、右手に欠損がある彼がまともな職場に着くことは不可能。

 もし、機械種使いの才能があれば別だが、そもそもそんなモノがあれば割り屋なんてやってないだろう。


 そして、俺は彼の抱える問題を全て解決する手段を持っている。

 仙丹を使ってバッツ君の指を再生させれば、それで全て完了。

 

 指は元通りとなり、おまけに機械種使いの才能にも目覚めるというおまけ付き。



 ………だけど



 果たしてそこまでやるべきなのかについては悩むところ。


 俺のチートスキルはこの世界にとって常識外と言える凄まじい力を持つが、その扱いには細心の注意が必要だ。

 万が一その力を周囲に知られてしまったら大変。

 あっという間に俺の力を求めて人間が殺到することになる。 

 


 奇しくも、未来視内での開拓村村長ルートのように………



 超常のスキルを持っているからと言って、無限に人を救えるわけじゃない。

 精々、俺の身近にいる親しい人の助力ができるくらい………


 それですら、本当に助力なったかどうか分からない。


 これも未来視の話だが、俺が余計なことをしたせいで、最悪の未来を引き寄せたこともあった。

 

 スラムでの闘争に俺が関与し過ぎて、皆が俺を頼りきりになり、俺がいなくなってからすぐに壊滅したチームトルネラ。

 また、街同士の戦争に加担したせいで、英雄に担ぎ上げられ、結局、自分の手で滅ぼすこととなった街、プーランティア。


 もし、バッツ君の手を俺が癒したことで、何かの厄介事を引き寄せ、結果、彼が不幸になってしまったら………


 いつもで謎の違和感が俺を助けてくれるとは限らない。

 失われた命は俺でもどうにもならないのだから。



「それに………上手くやったつもりの今のルートですら、本当に上手くいったのかどうかなんてわからないんだ」


 チームトルネラの皆は笑顔で俺を送り出してくれた。

 そして、エンジュ達も同様に。


 だが、今でも笑顔でいてくれているか、そして、未来でも幸せでいてくれているかは不明だ。

 ひょっとしたら、今は俺のことを恨んでいるのかもしれない。

 中途半端な状態で放り出してしまった俺を………

 俺が余計なことをしたせいで不幸になってしまったと………


 未来視でトールが俺へ投げかけた言葉が頭を過る。


 

『お前が余計なことをしたせいで!! 』



 ………怖い。

 俺が仕出かしてしまったせいで、皆が不幸になり、俺が責められるのが怖い。

 自分の無償の施しが仇となり、憎悪となって返ってくるのが堪らなく怖い。


 だから、俺が超常の力を振るうのは、ナニカと引き換えにすべきなのだ。

 無制限ではなく、それなりの筋が通った理由があるべきだ。

 

 『恩』であったり、『友情』であったり、『お礼』であったり………


 デップ達を癒したのは、虫取りを指導してくれた『恩』だ。

 ジュードを癒したのは、一緒に戦場を共にした『友情』。

 テルネの病気を治したのは、宝貝混天綾の元となったハンカチの『お礼』。


 『愛情』であったり、『お返し』であったり………


 ダンガ商会んて、花瓶を投げつけられ、額を怪我したエンジュを治したのは『愛情』。

 ミレニケさんを機械種使いにしてあげたのは、掌中目の元となった銀細工の『お返し』。



 バッツ君とはたった2回仕事を依頼しただけ。

 出会ってまだ1ヶ月も経っていない。

 

 彼のことを知るにはまだまだ時間が足りない。


 俺がこの街の試練に合格して、中央へ旅立つ時までに、彼を治してあげるかについては、まだ保留。

 このまま良い関係が続くようであれば…………








 バッツ君を見送り、こっそりヨシツネに孤児院まで護衛させる。

 

 これも依頼者としてのアフターフォローの一環だろう。

 そろそろ俺に注目する人間が出てこないとは限らないからな。

 こちらの事情に巻き込んでしまうわけにはいかないし。



「さて、残り2機のブルーオーダーもやってしまうか。剣風、すぐにお前の同期を増やしてやるからな」


 コクッ


 無言で頷く白の甲冑姿の機械種パラディン。

 目に映える鮮やかな白は、正しく聖騎士を体現したような色合い。

 

 優美、且つ、流麗なデザイン。

 それでいて力強さを感じさせる重厚な装甲。

 磨き上げた1本の聖剣のごとき真っ直ぐな威容。


 強く正しく美しく。

 3拍子揃ったストロングタイプのベストオブベスト。


「よし、まずはもう1機の機械種パラディンから始めよう」


 七宝袋から準2級の蒼石を取り出しながら、ブルーオーダーの準備に取り掛かった。


 

 









「皆様方、拙僧は機械種ビショップ。恐れ多くもマスターより頂戴致しました名は毘燭と申します。そして、こちらの機械種パラディンは剣風、剣雷。会話機能を持たない為、拙僧が代弁致しております」


 コクッ

 コクコクッ

 

 同期である毘燭の紹介に相槌を打つ機械種パラディン2機。



 ヨシツネの帰還後、ガレージ内で新たに従属した面々といつもの顔合わせさせる。


 メンバー達が囲む中、物おじせずに滔々と自己紹介を始める毘燭。


 流石はストロングタイプの機械種ビショップ。

 よどみなく、自分の、そして、剣風、剣雷の性能・得意分野を語っていく。


 司祭帽に真っ白な法衣。

 顔は仮面だが、口らしき切れ込みから紡ぎ出される声は、実に聞き取りやすく、耳に残る美声。

 まるで一流の演説者のような語り口。

 若しくは、人望の厚く、信者を多数抱える聖職者のよう。

  



 パチパチパチパチパチパチパチ



 

 皆の盛大な拍手を持って、顔合わせは終了。

 続いて、こちら側の紹介タイムとなり、メンバー達が思い思いに新人に対して話かけていく。

 

「テンルだよ! よろしくね!」


「ほほう? 機械種アークエンジェル? これは貴重な………」


「キィキィ!」


「ふむふむ、こちらこそよろしくお願いしますぞ」


「機械種エルフロードのシンラです。こちらが機械種デスクラウンのフラク殿」


「ギギギギギッ」


「ほう……、寡聞にして機械種デスクラウンとは聞かぬ機種名ですな。良ければ仕様をお聞かせ願えても?」



 

 新人側の主なやり取りは毘燭が行っている。

 剣風、剣雷は隣で頷いているだけ。


 まあ、これは仕方がないだろう。

 ジョブシリーズとはいえ、前衛近接戦タイプは会話機能が無いモノも多い。

 その分を戦闘力に振っているからだというが、本当の所は情が湧かないようにしているからだという話もある。

 

 近接戦闘タイプは消耗が激しく、損傷して廃棄する場合も多いのだ。

 敵の攻撃を一番に受け、撤退の場合は殿を務める。


 損耗率で言えば、後衛の5倍以上違うとも言われる。

 文字通り消耗品として使い潰される可能性が高いから、わざわざ会話を交わして交流を深めてしまい、イザという時に判断を間違えてしまうことを避ける為。


 もちろん改造によって会話機能をつけることもできるが………


 それについては、もう少し様子を見てからだな。

 会話機能をつければ、その分戦闘分野へのリソースが減ってしまうし。



 それに………



「機械種ミスティックウィッチの秘彗です。同じストロングタイプとして、一緒にがんばりましょう」


 コクッ

 コクコクッ


 秘彗に話しかけられている剣風、剣雷を見れば、それほど不自由は感じていない様子。

 元々前衛近接型は寡黙な機種が多いのだ。

 特に騎士系は自己主張が薄いと聞く。




「うむ………、我……豪魔である。頼もしい仲間が増えたようで、真に喜ばしい……」


「ほお………、超重量級とは、マスターの従属容量は大したものですな。それも機械種グレーターデーモン。こちらこそ御身の巨体は頼もしく感じますぞ」


「拙者は次席を務めるヨシツネと申す。貴殿達の入団を頼もしく思う」


「おお! こちらこそ、人型では最高位機種であるレジェンドタイプにそうおっしゃって頂けるとは誠に恐縮………しかし、ヨシツネ殿が次席とは? では、筆頭はどちらに?」


 そう毘燭が問うた時、ガレージの壁際から至高の楽器が奏でられたような美声が飛ぶ。




「ふうん………、ストロングタイプねえ……」


 気だるげな、それでいて魂に浸みこむような圧力を感じる響き。

 


「流石は我が君。僕の意見を取り入れてくれたんだ。やっぱり最低でもこれくらいの格は欲しいよね。僕の露払い程度だとしても………」


 さほど大きい声ではないが、誰もが振りかえざるを得ない魅力を伴う声。


 今までガレージの端でつまらなそうに佇んでいた魔王がこちらへと歩いてくる。



 カツン


 カツン


 カツン



「機械種パラディンに、機械種ビショップ。まあ、一応合格としてあげようかな?ふふふふ……」



 足音を響かせ、微笑を湛えながら仲間の品定めを行うベリアル。 


 その氷蒼の瞳で見つめられた剣風、剣雷、毘燭の3機は、それだけで機体を硬直させる。

 まるで邪眼によって石化の呪いをかけられたかのように…………


 せいぜい160cm程度の身長しかない少年の形をした機械種。

 しかし、全身から溢れる威圧感は超重量級の豪魔さえ上回る。

 

 ただ、そこにいるだけで、3機の高位機種が気圧されているのだ。

 人類における最強の盾と言われるストロングタイプとて、魔王の前では赤子同然………




 いや…………



「………御身はどちら様で? ただ者では無い雰囲気をお持ちですが……」


 絞り出すようにベリアルの名を問う毘燭。

 魔王の瞳に見据えられて、なお口が開けるのはなかなかの胆力と言えるが………



「へえ? 先に僕に名を問うか? 君は?」


「拙僧達は先ほど名乗りましたゆえ………」


「それはコイツ等に………だろう? 僕は聞いていないね」


「……………拙僧は毘燭。こちらの2機は剣風、剣雷と申します」


「わかったよ、ビショップ。そして、そちらのパラディン2機」


「……………………」



 何?この圧力面接?

 なんで、俺のチームがブラック企業化しているの?


 白月さんと出会った未来視ルートで、同じように顔合わせした時はここまで露骨に言いがかりしてこなかったのに。

 あの時は毘燭達を白月さんがブルーオーダーしてくれていたから、その違いなのだろうか?

 最上位の鐘守が近くにいるから、警戒していたとか………




「拙僧達は名乗りましたが………」


「ふん! まあ、請われたら仕方が無いね。僕から直接名を告げられることを光栄に思え」


 一方的に告げるベリアル。

 魔王ベリアルのごとく、ただ傲慢に言い放つ。


「僕の名はべリアル、魔王型にして、我が君から最も寵愛を受けるモノ。そして、従属機械種の筆頭………『ガンッ!!!』」



 『筆頭』と言った直後に、ベルアルの顔面にぶつけられた金属片。


 それはベリアルの顔面を強打した後、ブーメランのようにクルクルと回転しながら、弧を描いていて元の場所に戻っていく。



 ガチャンッ!



 そう白兎の頭へと。

 何事もなかったように白兎の頭へと戻った金属片。


 つまり、ベリアルにぶつけられた金属片は白兎の片耳。


 どうやら、白兎は自分の耳を引っこ抜いて、妄言を吐いたベリアルに投げつけたようだ。




 ええ?

 白兎の耳ってそういう仕様なの?



 驚く俺だったが、俺以上に驚いているのが、新しく入団したばかりの毘燭達。

 何せ、自分を遥かに上回る超高位機種に、ただの機械種ラビットが歯向かったのだから。


 

 ギシッ!



 先ほどまで硬直していた剣風、剣雷が動こうとする。


 剣風が俺の方へと一歩踏み出し、剣雷が白兎の方へと体重を傾けた。


 きな臭さを感じて、マスターである俺の身を案じたのだろう。

 そして、同じくマスターの財産である白兎を守ろうと。


 毘燭がその手に錫杖を出現させた。

 イザという時の構えとして。


 

 


 だが、それらの動きを既存のメンバー達が止める。


 秘彗、森羅が剣風、剣雷を。

 ヨシツネが毘燭を。


 怪訝な様子の新人達に、先達者が諭す。


  

 『手出しは不要』………と。



 白兎への絶対の信頼、そして、俺への畏怖。

 さらにほんの少しだけ含まれる、ナニカを諦めた、悟り切った心情を以って……





 ベリアルは無表情で目の前の白兎へと問うた。


「おい、クソウサギ。今、何を僕にぶつけた?」


 何かを無理やり押さえつけた激発寸前の静かな声。

 まるで決壊寸前のダムのような緊張感が漂う。


 


 対して白兎の返答は………



 フリフリ

『お前の目はビー玉か?俺のファンシーでプリチィーな耳に決まっているだろ?』



 ただ、当たり前のように答える。

 そこには戦意も緊張感もない、至極当然のことを口?にしただけ。




「………お前とは決着をつけないといけないようだな」


 薄く微笑を浮かべるベリアル。

 しかし、目は完全に笑っていない。

 氷蒼の瞳からは溢れんばかりの殺気が漏れ始めている。

 


 ピコピコ

『また、地面を舐めたいってか?そんなに這いつくばるのが好きなら、次は地面を掘って埋めてやるよ』


 そう言うなり、片手(前脚)を突き出し、グイッと親指(?)を下に向ける白兎。

 実に咥え煙草が似合いそうなハードボイルドな所作。

 形状が兎でなければ、もっとカッコ良かったかもしれない。




 両者とも完全に喧嘩腰。

 どちらも譲るつもりは無く、どう考えても一戦をせずに終わる雰囲気ではない。




「埋められるのはお前の方だよ、クソウサギ。今度こそ容赦はしない」



 ピョンピョン

『こっちこそ、手加減はしてやらない。その角を引っこ抜いて、代わりにウサ耳を植え付けてやる』



 

 ベルアルの瞳が輝き、薄っすらとその周囲に燐光が立ち昇る。



 白兎はフワリと浮き上がり、機体全体に白いオーラを纏わせる。



 魔王ベリアル VS 宝天月迦獣 白仙兎



 地力はベリアルが有利だが、最近の白兎は成長著しい。

 さらには戦いの最中でも成長するから手に負えない。


 この勝負の行方は俺にも予想がつかない。

 果たして、どちらが勝つのか…………








 の前に………









「お前等、ここで喧嘩したら、全力でぶん殴るからな」


 俺の大事な戦車や車があるガレージでガチの喧嘩なんて、俺が許すはずが無い。



 俺の言葉がガレージ内に響くと、ビクッと身を震わせる2機。


 俺の素の口調にマジトーンを感じ取り、先ほどまでの殺気や闘気を引っ込めて………

 





 ピコピコ

『僕、悪いウサギじゃないよ。だから喧嘩なんて物騒なことはしないよ』


「そうだね、クソウサギの言う通り、喧嘩なんてするわけないね」



 俺の恫喝とも言える言葉に、クルッと態度を変えるやがる。

 

 俺に殴られたらただじゃすまないのは、どちらも良く分かっている。

 たとえ2機が力を合わせたとしても、全長何百mの守護者テュポーンを力負けさせる存在に勝てるわけがないのだから。


 いかに傍若無人な魔王と言えど、

 いかに自由奔放な混沌獣と言えど、


 『闘神』と『仙術』スキルを併せ持つ、明らかに自分達より強い存在、且つ、さらにマスターでもある俺に逆らうなんてできないのだ。


 

 しかし、まあ、ここでシコリを残すのは良くないから………



「………どうしても勝負をつけたいなら、力じゃなくて、別の方法にしろ」




 俺の提案に、ベリアルは一瞬虚を疲れたような顔をした後……



「じゃあ、我が君のお言葉に甘えて………」



 ベルアルが人差し指をピンと立てると、ガレージの隅に置いてある品物がフワッと浮き上がり、こちらに向かって飛んでくる。


 それは広げれば四方45cmくらいの折り畳みのプラスチック製の碁盤。

 そして、碁石が入った箱。


「グレーターデーモン達が打っているのを見てさ。なかなかに面白い遊戯だと思っていたんだよ。この『囲碁』というのは」


 碁盤を手に、挑戦的な笑みを浮かべるベリアル。


「ふふふ、前は殴り合いだったからね。今度は知恵で勝負といこうか? なあ、クソウサギ? 鼻クソより小さい晶脳でどこまで僕と勝負ができるか見ものだけど」


 フリフリ

『いいよ。金髪クソ野郎。晶脳の代わりにピンク色のゲロが詰まっている君になんて負けないからね』



「ふふふふふふふふふふふ」


 フルフル

『あはははははははははは』










「もうアイツ等はほっとけ。こっちはこっちでやっておこう」


 異様な雰囲気で相対している白兎とベリアルに背を向け、残るメンバー達の交流の再開を促す。


「………よろしいので?」


 心配してと言うよりは念の為の確認と言った感じのヨシツネの言葉。


「アイツ等がガチの殴り合いをしないのなら好きにさせとこう。どうせ、すぐには仲良くはなれないだろうし………さあさあ、お前等、お互いもっと話すことがあるだろう?」


「ハッ、では………」


 ヨシツネが新人達の代表である毘燭へと、先ほどの続きを話し始める。


 すると、他のメンバー達もようやく緊張を解き、交流が再開された。


 バチバチと碁を打ち始めた2機を他所に、お互いの情報を交換し合うメンバー達。


 

 ヨシツネが剣雷、剣風の剣の腕を確認。

 秘彗が毘燭とお互いが仕様できるマテリアル機器の情報を交換。

 森羅がチームの担当と役割を説明し、天琉と廻斗がワイワイと場を盛り上げる。

 豪魔はウムウムと頷き、浮楽も相変わらず少し離れたところで皆を見守っている。




 そして、皆から半分無視されながら碁を打ち合っている白兎とベリアルは……




「フン! やはり、知恵では僕の方が上のようだね。所詮は機械種ラビット。その程度の思考力では筆頭の座は任せられないな」


 ベリアルは満面の笑みで白兎を嘲笑う。


 対する白兎は俯きながら、碁石を片手にうーん……と考え込んでいる。


 どうやら、ベリアルの方が優勢のようだ。

 盤面を見るに、結構の差をつけられている様子。


「ほらほら、もうそろそろ投了してはどうだい? そして、僕に筆頭の座を譲りなよ」


 挑発を繰り返すベリアル。

 じっと盤面を眺めながら悩む白兎。


「フフン♪ 僕は少し前からこの囲碁については勉強していたからね。あのグレーターデーモンが持っていた碁の教本も全部読んだし、思考を加速させて、体感時間で10年ほどシミュレーションを繰り返した。対して、君はルールを知っているだけだろう? 君が碁を打ったことがないのは把握済みさ。将棋は何局か差していたみたいだけど」



 なるほど。

 ベリアルが囲碁を選んだのはそこまで計算してのことか。

 囲碁はある程度経験がモノをいうから、いきなりの挑戦で勝てるわけがない。



「10年、囲碁について学んでいた僕と、初めて碁を打つ君とでは勝負になるわけがない。さあ、そろそろいい加減に……」



 ピコピコ

『……………』


「んん? 何? 今、なんと言ったのかな? クソウサギ」


 フリフリ

『お前がたった10年間で偉そうに言うなら………』



 白兎がキッと鋭い目で対局するベリアルを睨みつける。



「え? 白兎の背に何か………」



 碁盤の前に座る白兎の背に白いオーラが固まっていく。


 それはやがて兎の形を取り始め…………



「何? おい、クソウサギ………お前の背後にいるソレは何だ?」



 白兎の背後に生まれたのは、白兎と同じ姿をした機械種ラビット……ただし、白い狩衣を身に付け、頭には立ち烏帽子を被っている。


 あの姿は平安時代の貴人。

 そして、囲碁と言えば、漫画で有名となった……




 フリフリ

『これが何かって? これは【藤原 兎佐為(ふじわらのうさい)】!』



 

 白兎の背後霊のように立つ、烏帽子を被った藤原 兎佐為は、手に持った扇子で盤面に差す。



 ピコピコ

『そして、お前が10年間で偉そうに言うのなら………』



 そして、白兎は碁を持つ手(前脚)を大きく振りかぶり………



 フリッ!!

『こっちは千年だ!』



 ビシッ!!



 藤原 兎佐為が指し示した点へと碁石を打つ白兎。


 それは盤面をひっくり返し、流れを変える神の……いや、兎の一手!




「な! この手は………」



 先ほどまでのベリアルの余裕が一気に崩れ去る。



 フリフリ

『ほれほれ、先ほどまでの余裕はどうした?」


「クッ!」


 ビシッ! バシッ! と白兎が碁石を打つ度、ベリアルが劣勢となっていく。


 それは練達の打ち筋。

 十年どころか、百年、千年積み重ねられて鍛えられた古豪の冴え。


 ベリアルは何とか凌ごうとするも、まるで先を呼んでいるかのように先回りされ、頭を抑えられる。


 白兎の手は盤上の敵を追い詰める狩猟者の手。

 ベリアルは逃げ惑う獲物でしかなくなった。


 そして、何十手目には、もうどうしようもない状態となり………




「僕の………負けだ」




 べリアルが投了し、白兎の勝利で囲碁の勝負は終わりを迎えた。






「おい………クソウサギ。さっきの帽子の兎は反則じゃないか? 明らかに助っ人だろう?」


 ピコピコ

『あれはラビットペルソナ。自らの心の一側面を呼び出す虚像。自分の一部だから問題ない』



 嘘つけ!

 多分、あの『藤原 兎佐為』はただのエフェクトだろうに。

 実情は白兎が新たにスキルを自分で追加しただけだと思うぞ。

 追加されたスキルは『囲碁(藤原 兎佐為級)』だろうな。



「クッソ! もういい! 我が君、僕は気分が悪いから寝るね」


 

 また、拗ねちゃったか。

 なんかずっとこの展開が続きそうだな。


 

 フリフリ

『またも勝ってしまった。敗北が知りたい』



 さっさとスリープ状態に入ったベリアルを悠然と見つめる白兎。

 またも勝利を積み重ねたことでご機嫌の様子。



 白兎、お前はもう少し自重しようか。

 最近、ちょっと調子に乗り過ぎだぞ。



 ピコピコ

『兎は獅子を狩るのも全力で………』



 やかましい、そんな兎がいてたまるか!



 屈んで白兎の頭にデコピンを一発かましてやった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る