第400話 物語2 結(上)



 ドカンッ!!



 先方からの『討ち取らせて頂く』宣言を受けてすぐ、講堂の壁をぶち破り、外へと飛び出す俺と白兎。


 狭い室内では人数の多い方が有利だ。

 数で押しつぶされないよう脱出するのがまず先決。


 そして………



 ブオンッ!



 七宝袋から莫邪宝剣を引き抜き、光の刃を生成。


 さらに………



「ヨシツネ!」


 

 七宝袋からヨシツネを取り出して起動。

 


「ハッ、ヨシツネ、ここに!」



 颯爽と身を翻し、俺の傍で戦闘態勢を取るヨシツネ。



「俺の身を守れ!敵はレジェンドタイプの重量級、及び、ストロングタイプ10機、それに………」



 見上げれば、今まで中にいた講堂の屋根に鎮座する、巨大な鳥を模した機械種が1機。


 全長8m以上の重量級。

 白を基調とした美しい流線的なフォルム。

 所々にオレンジのラインが引かれ、煌びやかな印象を受ける。

 羽根の先は炎のような揺らぎを模したデザイン。

 言うなれば鳳凰のような………


 

「あれは……ひょっとして………」


「ほう、レジェンドタイプも従属しているのですか。それに発掘品の剣……光の剣とは……素晴らしい!流石は『白き鐘を打ち鳴らす者』。やはり間違いではなかったようですね」



 鳳凰の口から出たのは先ほどまでの高圧的な女性の声。

 白月さんと会話している時とは違い、俺に対しては言葉こそ礼儀正しくしているが、その口調にはこちらを侮るような響きが感じられる。



「従属している緋王は出さないのですか?それ1機で我らを滅ぼすのは容易いはずですよ」



 挑戦的な言葉をぶつけてくる鳳凰。

 その機械種自身が話しているというより、まるで誰かが鳳凰の口を通して喋っているようだが………



「………おい、一体なぜ、俺を狙う?俺はお前らの言う尊き御方で、お前らの敵である赤の帝国を倒す者のはずだろ?その俺を殺せば、利するのは赤の帝国だけ!………それともなにか、お前達白の教会は、赤の帝国と繋がっているのか?実は白の教会は赤の女帝の傀儡なのか!」



 貯まりに貯まった疑問をぶつけてみる。

 

 意味の分からないことが立て続けに置き過ぎて、俺の頭はパンク寸前。

 少しでも情報を得ておかないと、この先何もわからないまま流されるだけだ。



「ほう?尊き御方は、我らの献身をそんな風に受け取られておいででしたか?それは残念。ここは、冥途の土産に………とでも言うと思いましたかな?この世には知らぬ方が良いこともございますよ。ご自身が殺される理由も知らず、あの世へと行って頂きたい」



 俺の疑問に対して、馬鹿にしたような返事。

 どうやら俺の安い挑発に乗るようなタイプではなかった様子。



「クッソ!なら、お前らをぶちのめしてから、こっちで勝手に調べてやるよ」



 打神鞭を使えば、全て丸裸だ。

 白の教会の目的、その裏事情。

 お前の名前から素性まで調べ上げてやる!




 ドカンッ!!




 先ほど俺達が飛び出してきた講堂の壁がまたブチ破られ、中から機械種ベオウルフとストロングタイプの群れが飛び出してくる。



「ハハハハッ、強者よ!儂と立ち会え!思う存分、ぶつかり合おうじゃないか!」



 機械種ベオウルフからの暑苦しい言葉。

 見かけ通り脳筋っぽいセリフ。

 大剣を構え、すぐにでもこちらへ襲いかかってきそうだ。


 また、後ろのストロングタイプ達も戦闘態勢へと移行。

 

 敵は、レジェンドタイプ1機に、ストロングタイプ10機。

 講堂の屋根にいる鳳凰のような機械種が1機………



「主様!危ない!」



 ギンッ!!



 突然、ヨシツネが動き、俺の傍で刀を振るった。


 衝撃が走り、何かが弾けた音が響く。


 何やら飛んできたモノをヨシツネが迎撃したように思えたが……



「主様!狙撃です!あの塔の天辺から狙われました。相当な威力、それも空間破砕弾です」


「げ!空間攻撃……」



 白の教会の敷地内にそびえ立つ、一際高い塔。


 ここからの距離は数百m。

 遠距離型にとっては絶好の配置。


 しかも、俺にとって弱点とも言える空間攻撃。

 それを扱えるともなれば、相当な高位機種……



「そうか!門番のレジェンドタイプ!」



 白月さんが言っていた、奥への侵入者を撃退するというレジェンドタイプ。

 まさか、遠距離で狙撃してくるタイプだったとは………


 ヤバい!

 敵が1機増えた。


 こちらの戦力は、俺、白兎、ヨシツネの3機。

 抑えなくてはならないのは、レジェンドタイプ2機と鳳凰型1機、そして、ストロングタイプ10機。


 鳳凰型の戦闘力は分からないが、空を飛べるともなれば、俺では対処できない。

 

 また、この中では格下であるストロングタイプであっても10機という数は、集団の戦力で見ればレジェンドタイプを超える。

 紅姫ですら何の不安なく狩れてしまう程。

 緻密な連携でもされたら、とてもヨシツネだけでは相手をするのは難しい。


 

「皆を連れて来ていれば………」



 豪魔、天琉、秘彗、森羅、廻斗。

 そして、剣風、剣雷、毘燭達は皆、ガレージで待機中だ。

 寄付を納めに行くだけなのに、ゾロゾロと連れていくわけにもいかなかったから。


 だが、俺の手元には最も信頼する従属機械種、白兎とヨシツネ。

 そして、戦闘力では最強であるアイツがいる。

 


「なら、ここはアイツを出すしか………」


 さっきの鳳凰型の『緋王を出さないのか』の言葉は気になるが、どうしても手が足りない。

 ここはもうこの手段しかない。



「ベリアル!」



 七宝袋からベリアルを取り出して、即起動。


 雄牛の角を持つ金髪の美少年がゆっくりとその蒼眼を開けた。



「おはよう、我が君。いつもながら、目を覚ませば騒がしい場所ばかり……」



 俺に流し目をくれつつ、薄っすらとした笑みを浮かべるベリアル。



「たまには愛を語り合えるような静かな所に呼んでもらいたいな」


「やかましい!今はそれどころじゃねえ。さっさと戦闘準備に入れ」



 毎回、起こす度に戯言を述べてきやがる。

 コイツの頭の中は俺を誘惑することしかないのか?


 俺に言われて、ベリアルは少々不服そうに周りに一瞥をくれていく。


 その酷薄な蒼氷色の瞳を向けられただけで、俺達と敵対する機械種達に緊張が走ったのが分かった。



「ふうん……、僕を呼んだだけあって、なかなかに危機的な状況だね。レジェンドタイプ……2機に、ストロングタイプの群れ。そして、あの鳥型は、ホーリービーストタイプの機械種フェニックスか……」


「げ!ホーリービーストタイプ!、聖獣型かよ!やっぱり高位機種か……」



 しかもフェニックスと言えば、聖なる鳥、不死鳥、火の鳥、鳳凰として、様々な文献に記載される幻想種。

 炎を司る精霊として見られていたり、神の代理人として人々を導いたりする高位存在。

 ならば、その名を持つ機械種フェニックスも相応の力を持つ飛行型であるに違いない。

 聖獣型の中位機種でも、その格はストロングタイプ同等。

 聖獣型の上位機種であれば、赭娼に匹敵する格を持つ。


 おそらくフェニックス程のメジャーな存在であれば、聖獣型上位と見るのが自然だ。



「でも、僕にかかれば大したことは無いさ。全員まとめて吹き飛ばせば……」



 ベリアルの目が怪しく光る。

 そこに俺への異様な執着心以外の感情が感じられない。

 俺を除いた有象無象の存在など、塵芥に等しいのだろう。


 だが、ここは街中だ。

 しかも街の中心部であるここで核爆発でも起こされたら、間違いなく街は壊滅。



「おい!周りに被害が出そうな攻撃は禁止!……1体1体潰していけ!」


「ええ~、僕、ちまちました攻撃は苦手なんだけど?」


「それでもだ!」


「ちぇっ、つまらないね!………ふんっ!」




 ボオフォオオオオオオオオオオ!!!




 突然、ストロングタイプの群れの中に火柱が上がった。


 慌てて散開するストロングタイプ達。


 だが、逃げ遅れた1体がその場で炎柱に巻き込まれてドロドロに融解。



「相変わらず、とんでもない威力だな。味方で良かった……」



 思わず安堵の言葉が俺から漏れた。


 不意打ちとは言え、ただ、睨んだだけで人類の盾ともいうべきストロンタイプ1体を瞬殺。

 これがレジェンドタイプを上回る緋王の実力。



「よし!ベリアルがいるなら、戦力的に負けは無い……」


「あはははははっ!!緋王を呼び出したね!どうやら頭が回らない御方のようだ。切り札を先に見せるなんてね!」



 突如、笑い声とともにこちらを馬鹿にしたセリフが響く。


 その声の元を辿れば、講堂の屋根に立つ機械種フェニックス。

 鳳凰のごとき煌びやかな翼を大きく広げ、こちらに向かって………



 フリッ!フリッ!

「ぐっ!これは!」

「ちっ!感応士か!」



 突然、苦しみだす白兎、ヨシツネ、ベリアル。

 全身を震わせ、何かに耐えるように身を固くしている。



 まさか、感応士の技か!

 しかし、この距離で!

 しかも、相手の感応士は姿を見せていないのに!



「さあ、今だ!討ちとれ!」



 機械種フェニックスの号令により、一斉にこちらへと向かって来るレジェンドタイプとストロングタイプ。



 ヤバい!

 流石に俺1人では支えきれない!

 もし、空間攻撃でも飛んできたら……



「お前等に我が君の手を煩わせはしない!」




 ボオフォオオオオオオオオオオ!!!



 

 苦痛に顔を歪めるベリアルが大きく腕を振るう。

 すると、俺達と襲いかかろうとするレジェンドタイプ達との間に炎の壁が立ちはだかった。


 吹き上がる猛炎を前に、一瞬足を止める機械種ベオウルフとストロングタイプ。



 さらには、火柱から小悪魔なような物体が飛び立ち、辺りを飛び回り始める。

 

 その数は数十機。

 

 大きさは廻斗ほどではあるが、形状はもっと細身で鋭角。

 灰色の機体にイエローのラインが入ったスタイリッシュなガーゴイルとでもいった造形。

 


「ぐう……、お前等、飛び回って、攪乱しろ!」



 ベリアルは苦し気に火柱より生み出された小悪魔たちへと命令を下す。


 どうやらベリアルが亜空間倉庫に保有する従機の使い魔達なのであろう。

 流石は魔王といったところか。




「良くやった、ベリアル!今のうちに………」



 ベリアルが稼いでくれた時間を持って、莫邪宝剣を片手に地面へと大きく円を描く。



「この円の中に入れ!」



 皆が俺が描いた陣の中へ入ったことを確認して……



「守れ!十絶陣が一つ、紅砂陣!」



 俺達が避難した陣の外側に、赤い砂粒がフワリと舞う。

 視界を遮らない程度の砂埃。

 だが、それは………


 

 そこへ小悪魔の攻撃を掻い潜り、炎の壁を迂回したストロングタイプの1機が突っ込んでくる。


 俊敏性に優れた斥候型のストロングタイプ。

 機械種ファントムシーフに違いない。


 先陣を切るべく剣先をこちらに向けて、紅砂陣の中に一歩足を踏み入れた瞬間。




 ザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!!!!




 舞い踊る紅砂が纏わりつき、その機体を覆い隠す。

 そして、中から聞こえる何かを削ぎ落す音。


 僅か数秒にも満たない時間で、金属の人型は紅砂に削られ消えていく。

 武装も、装甲もお構いなく、ただ鑢で擦られたように鉄紛となって……



「な、なんだ!コレは!」


 

 小悪魔を無視して、炎の壁を突破してきた機械種ベオウルフも、目の前で消えていった仲間の惨状に二の足を踏む。


 当然だろう。

 剣や銃弾で破壊されるならともかく、こんな訳の分からない壊れ方などしたくは無いと思うはず。



 これぞ、いつもの俺の十絶陣の一つ、紅砂陣。

 十天君が1人、張天君が使用した侵入者を紅砂にて粉砕する凶悪な陣だ。

 高位仙人である燃灯道人をして、『福人を用いて百日かけて弱体化させなければ破れない』と評された程の防御性能の高い仕様。

 この世界の存在には決して敗れるようなモノでは無い………

 

 


 ザシュッ!!



 その時、陣の外側で何かが削られる音が轟く。


 上の方に赤い砂が集まり、飛んできた何かを補足し粉砕した様子。


 どうやら先ほどの狙撃手がこちらをまた狙ってきたようだ。

 紅砂が発動したことから、おそらく矢か弾を飛ばし、着弾時に空間破砕が起動するという仕掛けなのだろう。

 起動する前に削り切られたら、空間破砕も発生しない。



 ビシッ ビシッ ビシッ ビシッ

 ビシッ ビシッ ビシッ ビシッ



 機械種ベオウルフの後方では、ストロングタイプ達が飛び回る小悪魔達と戦闘を開始。


 遠距離攻撃を持つ後衛職達が空に向かって粒子加速砲を放っている。


 流石に躱し切れず、次々と打ち取られていく小悪魔達であるが、炎の壁からは更なる数の小悪魔達が飛び立つ。


 それはまるで地獄の門が開いたかのような光景。

 一体ベリアルは何体ぐらい従機を保有しているのだろうか?

 1機1機は大したことが無い戦闘力だが、それでも飛行する機種の大群は厄介だ。

 また、前衛職ならともかく後衛職だと防御力も薄いから、一瞬の隙を突かれると小破、中破もありうる。



 また、時折、こちらへ攻撃が飛んでくるが、全てが紅砂に阻まれて届かない。


 紅砂の薄いヴェールが光の粒子を散らし、 実弾は瞬く間に粉砕。

 空間攻撃だとどうなるか分からないが、あの小悪魔達が攪乱している間は、その心配はなさそうだ。


 戦闘状況を見るに、もうしばらくは時間が稼ぐことができるだろう。


 ただ、ずっとこのままという訳にもいかない。

 所詮は即席で敷いた陣でしかないから、地面に描いた円が大きく削られると効果を失ってしまう可能性がある。

 大火力の集中飽和攻撃でもされたら、地面ごと円を破壊されかねない。


 その前にどうにかして感応士からの影響を取り除く必要があるのだが……

 

  

「流石は我が君………だけどこの状況はマズくないかい?これをどうにかしないと………」



 ベリアルは苦しそうな表情で現状の打開を求めてくる。

 だが、感応士の技なんて、一体どうやって解除すれば……


 禁術で感応士の技を禁じようにも、何を禁じたらよいのか分からない。

 せめて、感応士に詳しい人がいれば……



「主様、白月殿がこちらに……」

 


 苦痛に耐えるような声でヨシツネから声がかかる。

 

 指し示す方向を見れば、こちらへやって来ようとする白月さんの姿。

 しかし、先ほどの惨状を見て立ち往生している様子。


 俺からすれば、それは天の助け。


 白月さんが俺の味方なのであればなのだけれど………


 

 ピコピコ


 

 戸惑う俺に白兎が足元に来て耳を揺らす。

 機体の半分が宝貝である白兎は、降りかかる感応士の技にもある程度抵抗がある様子。

 


「大丈夫……だって?確かに………」



 機械種フェニックスとのやり取りでも、俺の味方をしているような素振りだった。

 あれが演技だとしたら、当分女性が信じられなくなるぐらいに。



「………では頼む。白兎」



 現状では打開策はそれしかない。

 もう白月さんの俺への好意に縋るしか……



 トントン



 いつもなら一跳ねして応えるところだろうが、今の体調だと足を鳴らすのが精一杯のだようだ。


 しかし、その身を作り出した亜空間トンネルへと沈ませ………


 その次の瞬間には少し離れた所にいた白月さんを何事もなく連れて戻ってくる。

 流石は俺の一部とも言える宝貝でもある白兎。



「キャッ!あ、あれ?ここは……ヒロさん!」


「白月さん………」



 炎の壁の残り火が辺りを赤く染める中、向かい合う俺と白月さん。


 白月さんと過ごした日々は『狩人』と『鐘守』、そして、ただの少年少女としての1ヶ月であった。

 では、今、白の教会から『白き鐘を打ち鳴らす者』として狙われる俺との関係は、一体何なんだろう?


 聞きたいことはたくさんある。

 だが、この状況下で優先しなければならないのは……



「白月さんは俺の味方ですか?」


「………はい、私の勧誘はまだ終わってませんから」


「『打ち手』になれば助けてくれると?」


「いいえ。その前に私とヒロさんは友人同士です。それにヒロさんの力は必ず人類の為になると信じています。こんなところで終わってよい人ではありません」


「それはありがたい評価ですが……白の教会を敵に回してしまいますよ」


「ひい様は鐘守を束ねる地位にはありますが、独裁者ではありません。彼女のやりようは私の目に余ります」


「…………助かります。俺の従属機械種にかけられた感応士の技を解いてもらいたいのですが、可能ですか?」


「はい、問題ありません。ひい様………白陽(しらひ)は遠隔干渉を得意としています。あまねく照らす日光のように、感覚を共有する機械種を起点として感応士の技を振るうんです」


「遠隔干渉……、それは厄介な」



 従属する機械種が感応士の技を振るうって、それは反則だろ!

 感覚を共有するということは1機に限られるのだろうけど、感応士であれば、その従属範囲は広大。

 自分は安全な場所にいつつ、移動速度に長けた飛行型を使えば、大陸中をカバーできそうだ。



「それにここは彼女の領域です。白の教会の敷地内ともあって、その効果は何倍にも増幅されています。ですが、私の『レジストアップ』で抵抗力を上げれば問題無く防ぐことができるでしょう」


「なるほど………、では、それをお願いします……」


「白月!お前は何をやろうとしているのか分かっているのか!」



 俺の依頼の言葉を遮る怒声。


 それは講堂の屋根に立つ機械種フェニックスから響いてくる。


 白月さんの話では、鐘守のトップである白陽の声なのであろう。

 その声は普段の俺であれば震えあがるくらいの威気が込められていた。



「白の教会への反逆だ!ただでは済まないぞ!揺り籠に放り込んで、『覚めない眠り』につかせてやる!」


「ひい様。貴方の決めつけには我慢なりません!いかにヒロさんの力が強大でも、必ずしも白き鐘を打ち鳴らそうとするとは限らないでしょう!話せばきっと分かってくれるはずです!」


「お前………、そうか、ソイツを旗印に自分の派閥でも立ち上げようと言うのか?権力など、全く無頓着に見えて、まさかそんなことを企んでいようとは……」


「何を馬鹿なことを!そんなことより、私達鐘守にはやらなければならないことが……」



 炎の壁を挟んで、鐘守同士の口論。

 聞いていると、鐘守の中にも色々な勢力があるのだろう。

 

 やや部外者みたいな気分で二人の言い争いを聞いていた俺に……



「『白き鐘を鳴らす者』よ。貴方は知っているのですか?」


「うん?何をだ?」



 突然、俺に話しかけてくる白陽。

 いきなり話を振られた俺は戸惑いながらも疑問で返す。

 


「その白月の力のことですよ」


「白月さんの力?感応士のことか?」


「いいや、違う………いや、違わないですね」


「白陽!止めて!!」



 突然、叫び声をあげる白月さん。

 その声は今までに聞いたことの無いくらいに動揺した声。


 一体何を、この白陽は言おうとしているのか………

 白月さんはなぜ動揺しているのか………

 ここまで嫌がっているなら、俺はここで耳を塞いだ方が良いのではないか?



 しかし、無常にもその秘密は白陽………感覚を共有する機械種フェニックスの口から暴かれ、俺の耳に届いた。





「白月は人間の心が読める。貴方の情報を流していたのはソイツということです」





「え?」




 

 思わず、白月さんの方へと振り返る。

 

 俺の目に入ったのは、今にも泣きそうな顔をした彼女。


 そんな馬鹿なことと否定してもらいたかったのに、確かめられたのは白陽の言う情報を彼女が否定しないということだけ。



 白月さん…………

 それは…………本当なんですか?



 心の中で彼女へと呼びかけてみる。



 すると………



「ごめんなさい…………本当です」



 消え入るような声が彼女から返ってきた。






 ああ、もう疑いようがない。


 あああああ………

 

 今思えば、そんな気がしていた。


 道理でおかしい反応が多いと思った。


 俺の心を読んでいたんだ。


 俺の考えていることを全て。


 白月さんを見て、俺は何を考えていた?


 色んな事を考えていたな。


 男が綺麗な女性を前にして、考えることなんて一つしかない。


 それは全部筒抜けだったのか。


 あんなことも、そんなことも、あれも、これも、それも………


 全部、全部、知られていたのだ。



 あはははっ……



 あはははははっははははははっはははははっははははっははははっははっははっははははっはっはははははhaっはhhhhhaっはっはははははははっはあははっははははははははははhhaっはははははははははははっはあはっはははははははははははははははははははha…………


 

 カタッ



 俺の手から莫邪宝剣が転げ落ちた。






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