第390話 提出
その後、受付からの呼び出しを受けて、ガミンさんとの話し合いは終了。
ミエリさんに連れられて前回より幾分広めの個室へ案内される。
「こちらへどうぞ」
「失礼します」
こういったやり取りは、元の世界のお客様への訪問を思い出すな。
上司同行で応接間へ案内されたような気分になってしまう。
奥側への席へと腰かけ、森羅と秘彗は俺の後ろ。
白兎は俺の足元といったいつもの定位置。
対するミエリさん側は、前回の機械種ファイターに、ベテランタイプの騎士系、機械種ナイトと思われる機種が護衛として増えていた。
おそらくこちら側の機械種が増えたので、向こうも数を増やしたのだろう。
別に俺達が暴れるのを警戒しているというより、これが秤屋としてのマニュアルなのだろうと思う。
「お疲れ様でした。どうやらお怪我も無いようで何よりです」
まずはミエリさんからの労いの言葉。
俺の無事を見て取れて、ほっと安堵している様子が見受けられる。
「はい。色々とサポートして頂いたおかげで無事帰還することができました」
「ふふふ………ありがとうございます。でも、ヒロさんの無事はヒロさん自身の実力と見識深さによるものです。私のしたことなんて、ほんのちょっとですからね」
そう言って、柔らかな笑みを浮かべるミエリさん。
質素で飾り気のない個室だが、ミエリさんが微笑んでくれるだけで、居心地の良い雰囲気が醸し出される。
「そちらがヒロさんご自慢のストロングタイプですか?随分と可愛らしい仕様ですね。それに機械種エルフ……の亜種でしょうか?」
「えっと……、亜種と言うか、上位機種のエルフロードです。こっちのストロングタイプはミスティックウィッチです」
「…………凄いですね。どちらも希少性が高い機種ですよ。それに2機とも美形で目の保養になりますね。こっちの2機は頼もしいんですけど、ちょっと威圧感が凄くて……。もっと女の子向けの可愛い機種を増やしてほしいって頼んでいるんですけど」
「いや、そちらの2機もカッコ良いじゃないですか。やはり前衛系は頼もしくないと」
本題前のちょっとした世間話。
お互いの保有する機械種をたがいに褒め合う社交辞令。
この辺りは実に元の世界の商談に近い流れだ。
しかし、これはただの雑談ではあるが、その中に秘める情報に価値がある場合も多い。
続くミエリさんの話を聞いていると、どうやらこの秤屋にはこの1体も合わせ、ベテランタイプが3機存在するらしい。
この秤屋の責任者である支店長の護衛として1機。
そして、秤屋内の揉め事に対応する為に待機している機種が1機。
残る1機がこの機械種ナイト……の亜種である機械種クレイモアナイトなのだそうだ。
通常の騎士系は盾を持つが、この亜種は両手剣が標準装備。
防御力は通常の機種よりも劣るモノの、全長1.6mもの両手剣から繰り出される攻撃は同レベルの中量級機種の中でも最上位の破壊力を秘める。
ちなみにこの系統のストロングタイプは機械種バスターナイト。
機械種パラディンがバランス型の騎士系等とすれば、こちらは完全な攻撃特化。
2m近い大剣を振りまわし、並み居る敵を薙ぎ払う破壊の旋風と化す完全前衛型。
逆に防御特化の方は、ベテランタイプのシールドナイトとストロングタイプのガーディアンナイトがある。
騎士系のノービスタイプ、機械種エスクワイアから派生する有名な3タイプは以下の通り。
エスクワイア ⇒(バランス型)ナイト ⇒ パラディン
⇒(攻撃特化型)クレイモアナイト ⇒ バスターナイト
⇒(防御特化型)シールドナイト ⇒ ガーディアンナイト
他にも遠距離攻撃に特化した機種や、速度を強化した機種等、騎士系は亜種が多いのが特徴だ。
うーん………
俺の七宝袋に入っているストロングイプの騎士系はどちらも機械種パラディンだったな。
遠近どちらの攻撃手段も備える万能機種だが、2機とも同じ仕様と言うのも芸が無い。
どちらか片方を改造してバスターナイトみたいに攻撃特化にしてみるか、それとも防御特化のガーディアンナイトに寄せてみるか……
「さて……ヒロさん、そろそろ本題に入りましょうか?」
ミエリさんは姿勢を正しながらこちらへ次のフェーズの進行を促してくる。
「この度の巣の攻略の成果はいかかだったでしょうか?」
目をキラリと光らせ、先ほどまでの緩やかさを一変させる。
その目の鋭さは、何年も荒くれた狩人達を捌いてきたベテランの風格。
いかに機械種が護衛に付こうと、女性の身で狩人を相手にするのは並大抵のことではない。
そういった意味ではミエリさんは修羅場を潜り抜けてきた猛者なのだ。
来たか!
ここからはお互いの主張を刃として鍔迫り合いするビジネスという名の戦場だ。
命のやり取りならともかく、ビジネスが絡んだ交渉事であれば俺の経験も役に立つ。
20歳過ぎの小娘なんかには負けないぞ!
………まあ、この戦いは俺の持ち駒が大きすぎて勝負にならないだろうが。
まずは、先手必勝といきますか。
ゴトッ
七宝袋からナップサック経由で取り出したのは、バスケットボール程の大きさがある鮮やかな紅色の宝玉、紅石。
机の上に置いただけで、部屋の室温が上がったように思えるほどの赤い輝き。
球状の内部は高エネルギー体が渦巻いており、その内に秘める莫大な力を感じさせる。
流石は狩人にとっての至宝と言うべき紅石。
ただそこにあるだけで目を引き付けられる………が。
うーん………
綺麗と言えば綺麗なんだけれど……
なんとなくだが、俺がダンジョンの最奥で手にれた機械種カーリーの紅石の方が、もう少し色艶が良かったような気がする。
同じ超重量級の紅姫だったが、あちらの方が格上だからだろうか?
しかし、ミエリさんにとっては、滅多に見られることのない紅石に違いない。
先ほどから、完全に硬直した状態で、視線だけが俺が取り出した紅石に釘づけだ。
白兎の演武や俺の力試しにも、穏やかな笑みを浮かべたままであったのに、目の前に紅石を出された途端、表情が凍り付いてしまった。
いかに歴戦の受付嬢であっても、いきなり出された紅石の衝撃には耐えられなかったようだ。
そりゃあ、驚いて当然だな。
一段低い赭娼から取れる赭石ならともかく、紅姫の紅石はこの辺境では極めて珍しいモノのはず。
中央でさえこれを手に入れることができるのは、狩人の中でもほんの一握り。
一流と呼ばれる腕利きの狩人だけなのだから。
ふと、ここで機械種カーリーの紅石、そして、緋王バルドルから手に入れた緋石を一緒に提出したらどうなるか……という悪戯心が湧いてくる。
続けざまに、これ以上のお宝を並べていけば、ただでさえ驚きのあまり固まってしまっているミエリさんはどうなってしまうのか。
椅子ごと後ろにひっくり返ってもおかしくは無いだろうな。
まあ、やらないけど。
そんなミエリさんが言葉を発したのは、俺が紅石を取り出してから30秒少々。
「……ヒロさん、『天秤』で確認させて頂いてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
「………では、失礼して」
ミエリさんの後ろに控える機械種ファイターがそっとミエリさんに近づき、以前と同じ晶石を調べることのできる最下級の天秤を差し出す。
ミエリさんは受け取った天秤を机の上に置いて、その皿の部分だけと取り外し……
「え?そういう風になっているんですか?」
「はい、こうやって取り外して皿の部分を晶石にくっつけるんです」
ちょうど聴診器を当てるような感じで皿の部分を紅石へと当てる。
皿の部分と天秤の本体はケーブルで繋がっており、まるで古い電話機を見ているような感じ。
この大きさの紅石だと皿の上に乗せられないから、どうやって調べるのかなと思っていたが、まさかそんな仕様になっていたとは………
俺の驚きを他所に、ミエリさんは手元の天秤をポチポチと叩きながら操作。
そして、10秒とかからず俺が手に入れた紅石の確認を完了させた。
「確認できました。この紅石は『紅姫ゴズ』のモノで間違いありません。こちらにある情報の通りですね。ヒロさん、長年手つかずとなっていました難易度の高い巣の攻略、ありがとうございます!そして、一踏一破の達成、おめでとうございます!」
「あ、はい……」
俺の右手がミエリさんの両手に包まれる。
ミエリさんから感極まったような感謝の言葉と柔らかい手の感触。
しかし、今回ばかりは美人からのお礼にドキドキするよりも先に、紅姫の機種名の方が気になってしまう。
あの紅姫………ミノタウロスクイーンじゃなかったのか?
牛頭の巨人だからてっきり……
しかし、ゴズって何?
ゴズ、ごず、五図、五頭、牛頭………
ああ!
地獄の獄卒である牛頭か!
牛の頭を持つ鬼の一柱。
なるほど、アレならば紅姫となってもおかしくは無い霊格だ。
牛頭というと、牛頭天王という神霊もいるが、あちらは明らかに男神だから、馬頭とセットで語られる牛頭で間違いないだろう。
しかし………
地獄の獄卒の方の牛頭も別に雌であるという説は無いけど………
いや、でも、地獄を扱った漫画で雌という風に書かれたことがあったような……
まあ、すでに済んだことだから今更どうでも良いことだけど。
紅石の見分を終えた後、それ以外の晶石の提出を行う。
巣の攻略の途中で倒した重量級機械種の数々。
そして、最後に押しかけてきた黒鬼の一団。
「これは…………重量級の機械種オニになりますね。こんなにもたくさん……、本当にどうやって倒したのか想像もつきません」
半ば呆けたような声がミエリさんの口から飛び出す。
地下8階に辿り着くまでに倒した重量級機械種の晶石が32個。
黒鬼……機械種オニの晶石が18個。
一部、晶石ごと破壊してしまって回収できなかったモノはあるけれど、これが今回の巣の攻略での成果の全てと言える………表向きの。
合わせて50機の重量級など、猟兵団を幾つも集めて対処をするようなレベルだ。
とても1チームが1回の討伐の成果とは思えないほど。
ちなみに俺を手こずらせてくれた黒鬼の上位機種4機は提出せずに保管しておく予定。
紅姫が牛頭、黒鬼達がオニというなら、あの水や風や金属を放ち、姿を消す能力を持つ黒鬼の上位機種も鬼系統の機種であるはず。
おそらくは太平記で出てくる藤原千方の四鬼。
水鬼、風鬼、金鬼、隠形鬼ではないだろうか。
天智天皇の時代に朝廷へ反逆した藤原千方が使役する鬼神。
また、平安初期にも現れ、坂上田村麿によって討伐されたという伝説もある。
重量級の人型、それも射撃能力も有する機種は希少だ。
特に姿を消す能力を持つ機種はぜひ手元に置いておきたい。
時期が来たら修理して配下に加える予定なのだ。
「ご提出は晶石だけでよろしいでしょうか?機体も回収をされているなら、まとめて清算致しますが?」
「えー、一応回収しています。今はこの秘彗……機械種ミスティックウィッチの亜空間倉庫に放り込んでいます」
「では、『台貫』が置いてあるホールに行きましょうか」
その後、ミエリさんと一緒に向かったのは、秤屋に隣接する大きな工場ような敷地内。
元の世界の産業廃棄物の処理場に似た施設。
狩人が回収した機械種の残骸をマテリアル化するマテリアル変換器『台貫』が3台ほど設置されている。
狩人と思しき人達と、機械種の残骸を運んできたターレットトラックが行き交い、非常に騒々しい雰囲気だ。
「では、出しますね。秘彗!ここにアレを出してくれ」
「はい、承知致しました」
秘彗が手に持った杖を掲げると、目の前に亜空間の裂け目が現れ、そこから紅色の金属ボディが次々と出現。
巨大なクレーン車のアームのごとき腕部分。
ドラム缶が何本もつながったような脚部。
ワゴン車くらいの大きさの胴体部分。
「おおおおおお!!!」
「赤い!まさか、アレは!」
「紅姫……、しかも、あの大きさは超重量級……」
周りの職員達からどよめきが起こる。
それもそのはず。
秘彗が取り出したのは、機械種ゴズの機体。
装甲は激しい戦闘によりほとんど剥がれ落ちているものの、正しく人類の敵対種の代表格である紅姫だ。
巣の攻略に勤しむ狩人とて、巣の最奥に潜む紅姫まで到達できるのはほんの僅か。
実際に目にした狩人など、この辺境ではほとんどいないだろう。
「………大破しているのにすごい迫力です。討伐した方が英雄と呼ばれるのも頷けます。これでヒロさんも英雄の仲間入りですね」
ミエリさんから手放しの称賛。
美女からの褒め言葉はそれだけで苦労した甲斐があると思わせられる。
ちょっとばかり勘違いしてしまいそうになる程。
「いやまあ……英雄とまでは行き過ぎです。運が良かったこともありましたし」
自分を戒める為の、何度目かの謙遜のセリフ。
今回の攻略に限って言えば、危ない場面は幾つもあった。
誰一人欠けることなく成果を手にすることができたのは、間違いなく運の要素も大きかったはず。
「うーむ、ここまで大破していると修理するのは難しいな。これはマテリアル化するしかないか」
紅姫の残骸を見ながら感想を述べたのは、ここの施設の管理人のおじさん。
「滅多に手に入らない超重量級の紅姫だけに、ただマテリアル化するのは勿体ないが……」
ため息とともに、そんな感想を述べてくれる。
ここに運ばれた機械種の残骸で状態の良いモノは、修理して再利用することもあるそうだ。
当然、台貫でマテリアル化するよりも高額で引き取ってくれるため、なるべく良い状態で引き渡すのが一番良いのだが……
まだ、赭娼くらいならなるべく機体を傷つけないように倒すこともできるが、紅姫相手にそんな余裕があることなんてほとんどない。
大抵は激戦を制して上での機体の回収なのだから、機体が無事であるわけがない。
俺だって電磁バリアを解除する為に金鞭による電撃に頼らざるを得なかったし、白兎やヨシツネ、天琉達が爆裂装甲を全て剥ぎ取ってくれていなければ、一撃で首を切り落とすのは難しかっただろう。
紅姫はボロボロだけど、他の重量級なら………
でも、今回の巣の攻略はメンバー達に任せていたから、割と壊してしまっている機種が多いんだよなあ。
ほとんど損傷が無いのは氷漬けにした機械種バジリスクくらい……
しかし、アレを出したら後のことが大変そうだ。
それに俺の方で使い道があるかもしれないし………
うーん……と悩む俺の表情を見たミエリさんが、怪訝な顔を向けて疑問を口にする。
「ヒロさん………、ひょっとして、まだ機械種の残骸があったりします?」
「え!ああ……はい。実はまだまだ………」
「ヒスイちゃんの亜空間倉庫の中ですか?」
「……………」
ここで少々返答を迷う。
秘彗の亜空間倉庫は、この紅姫を収納するので精一杯だ。
俺が今回の巣の攻略で手に入れた重量級機械種の残骸は50機を越える。
当たり前だが秘彗の亜空間倉庫に入る容量ではない。
秘彗が出したように見せかけて、七宝袋から取り出しても良いが、流石にそこまでの数だと不信に思われる可能性がある。
だからここは………
「ガレージの中に保管しています。かなりの量なので、後で何回かに分けて持ち込もうかと思っていたのですが」
「では、こちらで運び屋を手配しましょう!ぜひ、そうさせてください!」
幾分強めのミエリさんの口調。
向こうとしてもできる限り俺から残骸を回収したいのであろう。
俺としてもさっさと換金……マテリアル化しておきたい。
「では、ミエリさんにお任せします」
「お任せください!」
ターレットトラックに乗った運び屋達を引き連れ、ガレージへと戻る俺。
ガレージ前で運び屋には待機してもらい、俺だけが中へと入る。
「あ!ますたー!おかえりなさい!」
「キィキイ!」
主人の帰りを待っていた子犬のごとく駆け寄ってくる天琉と廻斗をいなしながら、ヨシツネ、豪魔、浮楽へと事情を説明。
「今から残骸を出すから、この辺に崩れないよう積み上げていってくれ」
言うなり七宝袋から今回の巣の攻略で手に入れた機械種の残骸を放出。
次々に取り出される残骸の山。
一部が欠けていたり、バラバラになっていたりするが、50機以上の重量級機械種の残骸の量は相当なモノだ。
それを秘彗が重力操作で重量軽減を行いながら、ヨシツネ、森羅、豪魔、浮楽が崩れないようにドンドンと積み上げていく。
冷蔵庫くらいの大きさの肩パーツや、タタミ1枚分はある装甲版、直径1m程の太さの脚部……
マテリアル化するだけなので、雑な感じで無造作に上へと重ねていく。
比較的小さな部品などは白兎、天琉、廻斗が回収して一ヶ所に集めてもらう。
大した量ではないが、数が集まればこれもそれなりのマテリアルになるはず。
そして、10分少々で作業は完了。
「よし!皆、お疲れ様。あとが………悪いが、森羅と秘彗以外は隠れておいてくれ。これも用心の為だ」
ヨシツネ、豪魔、浮楽には隠蔽陣の中で待機。
天琉はフードを被せて廻斗と一緒に潜水艇に放り込む。
「準備、整いました。あとはお願いします」
全て出し終えた段階でガレージのシャッターを全開にして、外で待つ運び屋へと声をかけた。
運び屋というのは、街の中の物流を一手に握る職業だ。
基本、街への車の乗り入れには許可がいる。
白鐘の恩寵範囲内という条件の元に成り立っている街なのだから、わざわざ車道スペースや駐車場を街のど真ん中に作る余裕なんてないからだ。
また、許可を得るにも条件が厳しく、街の外から来た旅人が持っているケースはほとんどない。
だから外から来た者達の車を止めるガレージは大抵街の外縁部にあり、荷物を載せた車もそれ以上街の中へは入れないようになっている。
しかし、当然のことながら荷物の中には重量物も存在する為、全てを人の手で運ぶのは不可能。
そこで人の手に代わって荷物を運ぶのが、この運び屋達なのだ。
ガレージへと入ってくる運び屋の人間と、その手伝いをする為の亜人型機械種。
ドワーフやゴブリンといった軽量級から、オーク、ホブゴブリン等の中量級。
また、獣人型であるワーベアやワーオックス等の力自慢の機械種も見受けられる。
運び屋の人間が指示を行い、それに従って機械種達がガレージ内に積まれた残骸を外のターレットトラックのコンテナに積み込んでいく。
街の中へは車の侵入は禁止されているが、このターレットトラックは車の範疇には入らず、車よりも緩い条件での許可での走行を認められている。
元の世界で卸売市場等で走り回っているターレットトラックよりも3倍以上大きく、その後ろにはワンボックス車程の大きさのコンテナが鎮座。
このコンテナは空間拡張機能が付けられており、見た目の何倍もの容量を積み込むことが可能なのだ。
ただし、コンテナの中は無酸素空間なので、荷物を積み込むくらいはともかく、中にずっと入っているのは不可能な仕組みになっていると聞く。
また、このターレットトラックは必ず許可を得た人間が運転しないといけないルールとなっている。
つまりこのターレットトラックを運転できるのは人間だけで、機械種は認めらていない。
ある程度の規制のある免許制にすることで管理しやすくなっているのだろう。
もちろん運び屋になるのも許可制だ。
大きな街にはそれなりの運び屋がいるから、その運び屋を束ねるギルドは秤屋、藍染屋に匹敵する街の有力団体であると言える。
積み込みが終わると、運び屋達は依頼主である白翼協商の秤屋へと向かう。
俺達もターレットトラックの端に乗せてもらい、一緒に秤屋へととんぼ返り。
台貫で重量級機械種の残骸をまとめてマテリアル化してもらった。
そして、その後は秤屋の副支店長との面会をさせられたり、俺の情報の扱いについて質問を受けたり……と色々あった。
つまり、長年攻略できなかった紅姫の巣を攻略した者として、名前を公表するかどうかということだ。
式典やセレモニー、紅石獲得のお祝いパーティー、紅姫の巣を一踏一破した者として街中をパレード………
とにかく、この街では滅多にない紅姫の討伐者として、大々的に俺の名前を拡散するかどうかについて問われたりしたのだ。
もちろん、これについては『絶対にNO!』。
どう考えても俺にとっては拷問でしかない。
多少有名になることは避けられないと思っていたが、こちらから積極的に顔と名前を売ろうとは思わない。
舐められない程度の武威を見せる程度で構わないのだ。
前人未到の大成果など大げさにぶち上げて、ここで変な奴等に目をつけられるのは御免だ。
だから対外的には俺の情報を隠してもらうようお願いする。
これについては白翼協商としても、希代の成果を上げた俺の希望に沿いたいとの話なのだが……
俺の情報は秘匿しても、長年攻略できなかった紅姫の巣を、白翼協商所属の狩人が攻略したという情報は流れてしまうらしい。
そしてその情報から、この街では滅多に見ないストロングタイプを従属した新人である俺に辿り着くのはそう難しくない。
確定はされなくても、おそらく俺ではないかと噂されてしまうのは避けられないそうだ。
まあ、それくらいは仕方の無いことなのだろう。
情報を隠すにも限界があるのは分かっているから、先ほどガミンさんにも打ち明けたのだ。
こちらとしては大げさにならない程度あれば構わない。
半年の間このペースで稼ぎ続けていれば、どの道、俺の名前はこの街中に広がるのは分かり切っていることだから。
「はあ………、めっちゃ時間がかかったな」
「はい……もう、夕方近いですね」
フリ…フリ…
俺のため息交じりの嘆息を漏らすと、隣を歩く森羅がやや疲れた口調で相槌を打つ。
また、俺の足元でピョコピョコ歩く白兎の耳も、いつもより力なく揺れている感じ。
秤屋で全ての手続きを終わらせて、街中を疲れた足取りで進んでいく俺達。
「はっきり言って、巣の攻略よりも手ごわいぞ。次は誰かに代わってもらおうかな?」
「ですが、マスター。ミエリ様のお話では、晶石のやり取りは必ず人間を通さないと駄目となっていたはずです」
「………分かっているよ、秘彗。言ってみただけ……」
続けて漏れた愚痴に、真面目に返してくる秘彗。
俺の隣で補佐をしてくれていた森羅とは違い、秘彗は積極的に周りの人間、特にミエリさんと随分親し気に話し込んでいたな。
最後の方は白兎を交えて、雑談に花を咲かせていたようだけど……
「ふう………、まあ、疲れたけど、その分成果はあったな」
ピコピコ
「おお、そうだな!予想より大分儲かったからな」
紅姫の紅石+機体の残骸=6000万M、日本円にして60億円。
重量級50体分の晶石+機体の残骸=1200万M、日本円にして12億円。
合計で7200万M、日本円で72億円の収入を得ることができた。
いきなり資産が50倍になったのだ!
しかも今回手に入れた発掘品は提出せずに、まだ七宝袋の中に入れたまま。
これらも処分すれば8000万Mにすら届いただろう。
さらにあの戦車も出せば、倍近くにはなったかもしれない。
まあ、発掘品は当分手放すつもりはないが。
一応、マテリアル重力器付のベットは俺が今使っている。
化粧台と衣装箪笥も寝室に備え付けるつもり。
また、あの戦車は護衛車両として運用する予定。
発掘品は機械種以上に貴重だから、当分保有し続けることになるだろう。
だが、これも俺の資産の一部として考えると、もう大金持ちと言っても過言ではない。
「今、考えると結構やべえな……、もう働かなくてもいいんじゃね?」
元の世界なら、この10分の1でさえ、一生無職でも悠遊楽々と暮らせるだろう。
もうこの街に家を買って、ずっと引き籠っていても100年以上は何不自由なく過ごすことができそうだ。
「憧れのスローライフ生活………、もうゴールしてもいいんじゃないかなって思っちゃうな」
『闘神と仙術スキルでアポカリプス世界を駆け抜け…………ようと思ったけど、やっぱり辺境で引き籠ってスローライフ生活始めます!!』
「なんかこっちの方が人気が出そう。皆でワイワイやりながら、危険の少ない仕事だけを偶にしてさ。のんびり暮らすのも悪くないんじゃないかなって……」
フリフリ
「『マスターの好きなように』………か。白兎は賛成してくれるんだな」
「マスターのお望みのままに」
「はい、私も同じです」
「森羅……、秘彗……」
白兎に続き、2機とも同じような返事を返してくる。
多分、他のメンバーに聞いても同じ回答のような気がする、
俺のスローライフ生活を反対するメンバーはいないだろう。
俺の従属する機械種だから、当たり前なのだけど……
でも………
「雪姫………、エンジュ………」
思わず俺の口から漏れた、俺にとって忘れられない大切な人の名前。
そして、同時に思い出す、彼女達と交わした約束。
いや、雪姫のは交わした訳ではなく、俺の一方的なモノなのだが。
この2人と出会ってなければ、俺の旅はここで終わっていたかもしれない。
だから、この2人と出会った俺は、ここで足を止めるわけにはいかないのだ。
「中央へ行く為には、もっと力をつけねばならない。こんな所で足踏みするつもりはない」
俺の口から出る覚悟の言葉。
それは曲げられない俺が俺であるが為の誓い。
ピコッピコッ
「マスターのお望みどおりに」
「微力を尽くします!」
俺が信頼する仲間からの頼もしい返事。
皆が俺の傍に居てくれるなら、俺は歩みを止めることも無く進んでいけるはず。
「よし!一旦ガレージに帰ってから、次はボノフさんの藍染屋へ行こう!戦力拡充の為に装備を買い込むぞ!」
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