第391話 武装


「こりゃあ、また、トンデモナイ物を持ってきたね……」


 藍染屋のボノフさんから漏れた、ため息交じりの感嘆。

 秘彗の亜空間倉庫からポンっと目の前に出てきた発掘品の戦車を見ての一言。


「武装も装甲もついていないので、その辺りを見繕ってもらいたいのですが」


 白兎、天琉、秘彗の3機を連れ、ボノフさんの藍染屋へと向かい、今は隣接する車両置き場で今回の成果の一つである戦車を見分してもらっているところ。

 

「そりゃあ、ありがたい話だけど、ここまでのデカブツなら武装もそれなりになるよ。予算は大丈夫かい?」


「金に糸目は……、いや、マテリアルは十分に稼ぎましたので、最高のモノをお願いします!」


 懐が温かいので、俺の気分も最高潮だ。

 やはりお金の余裕を持つということは、心にもゆとりを与えてくれるのだろう。


「そこまで言うなら、こっちも最高のモノを用意しようじゃないか。後で顔色変えても遅いからね」


「あははははは、覚悟しておきます」








 で、並べられたカタログには何種類かの戦車の主武装。


 まずは戦車の主武装と言えば鉄板の『キャノン砲』。

 マテリアル錬精器付だから、マテリアルを補給するだけで何発も砲弾を放つことができる。

 打ち出す砲弾は幾つか種類があり、主なモノは以下の通り。

 

 貫通能力に優れた徹甲弾。

 当たると爆発する榴弾。

 対重装甲用の成型炸裂弾。


 これ以外にも焼夷弾や発煙弾、信号弾、曳光弾、拡散弾、葡萄弾等が存在するが、キャノン砲に備え付けられたマテリアル精錬器に予め登録された砲弾しか運用できない仕様だ。

 だいたい1~3種類登録されていることが多く、登録された砲弾の種類が多い程高額なモノとなる。


 また、マテリアル精錬器に登録されていない砲弾を装填し、打ち出すことのできるキャノン砲も存在する。

 これをキャノンランチャー砲と呼び、主に蒼銀弾や蒼破弾を打ち出す為に使われるモノだ。

 当然、他のモノよりもさらに希少で高価。

 

 しかし、空間制御を使用する高位機種を撃破しようとするならば必須の武装となる。

 発掘品や高位機械種を使わずに、空間障壁をぶち抜く手段はそれしかないからだ。




「うーん………やっぱり、戦車の主砲と言えば、キャノン砲ですよね」


「最もコストパフォーマンスが良いからね。でも、命中させるなら砲手にそれなりの技量が必要となるよ」


「射撃なら森羅が………、あ!でもこの場合は『射撃』じゃなくて、『砲撃』のスキルがいるんでしたね」


「まあ、射撃でも代用はできるけど、精度は落ちてしまう。特に150mm以上のキャノン砲は当てるのが難しいからね。命中率なら粒子加速砲の方が高いよ」



 そう言ってボノフさんが差し出してくるのは、戦車用の粒子加速砲の一覧。





 キャノン砲と並び、粒子加速砲も戦車の主要武装として使われることが多い。

 

 特徴としてその速度と命中率の高さ。

 亜光速で飛ぶ粒子加速砲を避けられる相手はそうはいない。

 

 その威力もキャノン砲に劣ることも無く、高出力の熱エネルギーは機械種の分厚い装甲をぶち抜くには十分以上。

 さらに気流障壁や重力障壁に対しても高い貫通力を秘める為、超重量級相手には必須の武装と言える。


 ただし、その燃費は非常に悪く、マテリアルを馬鹿食いすることでも有名だ。

 また、雨や霧などで著しく威力が減衰し、相手が偏光膜を纏っていると威力の大部分を反らされてしまう。




「砲弾を使い分けられるキャノン砲と違って、明確な弱点があるんだよなあ……

拡散メガ粒子砲にはロマンを感じるけど」


 相手が飛行種であれば、弾速に勝る粒子加速砲が有利だ。

 また、拡散で撃てば面制圧が可能だし、威力を絞れば貫通力を増したり、晶石部分だけを避けて貫くこともできる。

 精密な射撃で、乱戦においても有用なのが粒子加速砲なのだ。


 

 どっちも甲乙つけがたいメリットとデメリットがあるけれど……

 

 


「どっちをつけるかは、戦車乗りの永遠の課題だね。一応、主武装と副武装があるから、どっちもつけることができるよ。それでも、主武装をどっちにするかという課題は変わらない。精々悩みな」



 うーむ……

 副武装というのもあったな。

 

 キャノン砲も粒子加速砲も両方あった方が良いに決まっている。

 しかし、主武装と比べ、副武装の威力は3分の1程度。


 さて、どちらを主武装として選ぶべきか……


 だいたい俺が戦車で相手をするのって、野外でうろつくレッドオーダーか、野賊なんだよな。

 そう超重量級がその辺をウロウロしているわけもないし。

 であれば、ここは使い分けができてお財布にも優しい方を選ぶか。

 

 やはりオーソドックスが一番だ。

 主武装をキャノン砲、副武装を粒子加速砲……



「はい、ここで副武装のカタログを投入~」



 俺が決断しようとした時、様々な副砲が記載されたカタログでインターセプトしてくるボノフさん。

 なぜかとても楽しそうだ。



「え?ここでですか………あ!ミサイルポッド!チェーンガン!ガトリングガン!」

 

 せっかく俺の頭の中で決まりかけた戦車の武装選択が一瞬で霧散。


 ここでそんなの出されたら、全部ほしくなるじゃん!

 一体何をつければいいんだよ!



「ああああああああ!!!どうしよう!!決められない!」



 思わず頭を抱えてうめき声あげてしまう。


 

「あはははははははははは!」


 そんな様子の俺にボノフさんは腹を抱えて大笑い。


 ピョン!ピョン!


「あい!あい!あい!」


 釣られて白兎が飛び跳ね、天琉が俺を真似して騒ぎ出す。

 

 急に騒がしくなった藍染屋の店内で、ただ秘彗だけが困ったような顔で立ち尽くしていた。


 


 

 

 




「酷いですよ、ボノフさん!あんなのがあるんなら最初から出してくださいよ!」


「あははははは、ごめんごめん。若い子を見ているとついからかいたくなってね。その分値引きしてあげるから、許しておくれ」


「むう……」


 これだから年寄りは………


 まあ、俺も元の世界では40歳だったから、その気持ちも分からないではない。


 入ってきたばかりの初々しい新人をからかってしまいたくなる……

 まさか自分の身に返ってくるとは思わなかったけど。

 

 

「あ~い~?ますたー!何を決められないの?」


「うん?天琉か……」


 俺とボノフさんのやり取りの最中、天琉がトコトコと近くにやって来て質問。


 リュックを背負い、フードをすっぱり被ったカタツムリスタイルだから、外見からはほとんど人間の子供と見分けがつかないレベル。

 お父さんに仕事場に連れて来られた子供みたいな感じになっている。


「戦車の主武装をキャノン砲にするか、それとも粒子加速砲にするかが決められないんだ」


「あい?りゅうしかそくほう………、それ!テンルが使えるよ!」


「いや、それは分かっているが……、戦車に取り付ける主砲をだな……」


「せんしゃ!だったらテンルがしゅほうの代わりをする!だってりゅうしかそくほう使えるもん!」


 自信満々にのけ反って自分の胸をポンっと叩く天琉。

 

 その気概は大したものだが、代わりをすると言われても……


「あのせんしゃの上にてんるが乗る!バンバン撃つよ!」


「うーん……、戦車の上は結構揺れるからな。戦場で走り回ると落ちてしまうぞ」


「じゃあ、ロープでグルグル巻き!浮楽みたいに!そうすれば落ちないよ!」


 どうやらブルーオーダーした時の浮楽の姿を言っているようだ。


 思わず天琉が戦車の砲台に縛り付けられている光景を想像。


 戦車の上に立てられた十字架に磔となった天琉。


 どう考えても幼児虐待だろう。


「ヒスイもりゅうしかそくほうが使えるから、ヒスイも一緒にロープでくくる!」


「え!私もですか?」


 思わぬ飛び火にビックリ仰天の秘彗。


「マ、マスターのご命令でしたら……たとえ戦車の上に縛り付けられても……」


 秘彗が決死の覚悟を見せるが、それは流石に止めてほしい。


 子供にしか見えない天琉と秘彗が戦車の上で十字架に縛られている光景なんて、どんな世紀末な世界観なんだ?

 それじゃあ『マッドマ○クス』か『北斗○拳』だ。


「いや、それは無いから…………『ピコッ!ピコッ!』……なんだ?白兎」


 フリッ!フリッ!


 耳を勢いよく揺らした白兎が必死に自分をアピール。


「自分が戦車の上に乗って白天砲を撃つ……って?まあ、天琉や秘彗を上に乗せるのに比べたら絵画は大分マシだが……………待てよ、粒子加速砲を撃つメンバー、結構多いな」


 白兎は置いておくとして、天琉、秘彗とも遠距離攻撃を得意とする砲撃型だ。

 どちらも強力な粒子加速砲を撃つことができる。

 わざわざ戦車へ粒子加速砲をつける必要は無いか。



「…………キャノン砲を主武装でお願いします」


「あいよ。キャノン砲ね」


 これでメイン武装は決まった。

 やはり戦車と言えば、爆音を轟かせながら、砲弾を放つのが美しい。

 これであとは副砲を決めるだけ……… 



「じゃあ、主砲はキャノン砲として、どのタイプにする?アタシとしては、砲弾が徹甲弾と榴弾の2種が登録してあるのがお勧めだね。それに砲の数も決めなきゃならないよ。単砲、双連砲、三連砲。この容量の戦車なら三連砲までイケると見たね。砲を増やせばその分消費も激しくなるけど、突破力が段違いになるから増やせるなら増やした方が良いね。それから口径も決めなきゃならない。小さいヤツなら120mm、標準なら150mm、大きいのなら200mmというのも………」


 

 おおう………

 まだありましたか……



 だが、ここまで来たら最高のモノを付けたくなるよな。

 できるだけ砲弾の登録数が多くて、砲もたくさんあって、口径がデカい奴を……

 

 でも、確か『徹甲弾』『榴弾』『成型炸裂弾』の主要3種を全て登録している砲はほとんどなくて、大抵そのうち1つか2つを登録しているのが精々らしい。

 


 最も一般的に使われているのは徹甲弾。

 弾速と命中率に優れるが、貫通以上のダメージは与えられない。

 また、命中しても角度によって弾かれることがあり、強固な装甲を持つ相手には不安が残る仕様。



 榴弾は着弾時の爆発によってダメージを与えることができる範囲攻撃。

 たとえ急所に直撃しなくても、ある程度のダメージが期待できる。

 だが、あくまで爆風によるダメージである為、相手が重量級以上だと効果が薄い。

 中量級以下を薙ぎ払う為の雑魚掃討用というイメージ。



 成型炸裂弾は装甲破壊に優れている砲弾。

 着弾時にメタルジェットを生成して吹き付け、高圧力で装甲へ浸徹し穴を開ける。

 そこへ爆発エネルギーを注ぎ込み、内部を破壊するという凶悪なモノ。

 大抵の敵に安定したダメージを与えられる仕様なのだが、弾速が遅く、命中率が悪いという欠点を持つ。

 また、重力障壁や気流障壁に阻まれることも多く、超重量級相手には最後のトドメぐらいしか出番がない。

 

 

 どれもそれなりに弱点を持ち、あらゆる場面に対応しようとするなら、1種類だけでは心もとない。


 できれば2種登録されているモノが望ましいのだけど。

 やはりここはあまりある金の力で………

 



「この藍染屋で一番高いキャノン砲ってなんですか?」



 ふと俺の口から出てきたボノフさんへの問い。

 『この店で一番高いモノを出せ!』とは、一度は言ってみたいセリフだ。



「ほう……、なるほど。流石はシュノーイの酒5杯分の価値がある男だね。随分と太っ腹じゃないか」


「今回の巣の攻略で荒稼ぎできましたので」


 俺が自信満々の笑みを浮かべると、ボノフさんもにこやかな笑顔を返してくる。


 しばらく両者笑顔を向け合いながら視線を交わし………


「よし!アタシのとっておきの秘蔵の品を見せてあげよう」


 と言って、車両置き場の奥へと進んでいくボノフさん。


 その後を追いかけて倉庫の奥の方まで足を進めると、そこにあったのは……


 


 

 4m近い砲身が2つ。

 それを支える直径5m程の砲塔。

 サッカーボールが入りそうな程の砲口。

 口径で言えば25cm以上……

 


「250mmキャノンランチャー砲………、これはドラゴンバスター?」



 魔弾の射手時代に見たことのある竜殺しの兵器。

 クソ高い超大型蒼銀弾を装填できるキャノンランチャー砲。

 超重量級相手にドンパチをする要塞級戦車につけられる武装の一部。



「良く知ってるね。こんな辺境じゃあ宝の持ち腐れ以外の何物でもないけどね」



 ボノフさんは神妙な表情で俺の質問に答えてくれる。



「中央帰りの猟兵が置いていったものさ。足回りをやられて動かなくなった戦車から引っぺがしたんだ。でも、これを乗せられる戦車なんてそうあるもんじゃない」


 まあ、要塞級の戦車って、普通は中央でしか見られませんからね。

 しかし、砲塔だけとはいえ、よくもまあ、これだけのモノを置いていったよなあ……


「あ……ひょっとして、潰走兵ですか?」


「ふうん……、ヒロは猟兵出身なのかい?」


「あ、いや、その…………、ちょっと詳しいくらいです」


 つい出てきてしまった猟兵が良く使う単語。


 潰走兵というのは、戦場で敗れ退散する敗残兵のこと。

 しかもただ敗れただけでなく、所属する猟兵団が壊滅の憂き目にあって、正しく持てるモノを持って逃げ惑う猟兵のことを言う。

 

 ここまで行くともう猟兵団としての再建は不可能。

 だから所属する猟兵も自分の身を守る為に、周りの品々を抱えて散り散りとなってしまうのだ。

 

「潰走兵は身軽になりたがるから、多分、ボノフさんが捨て値で買い取ったんですね」


「まあね。それでもストロングタイプを1機買えるだけの金額と引き換えたよ。あの時は私も若かったから、冒険し過ぎてしまったんだよ。あとで死ぬほど後悔したけど」


 今まで売れてないのだから当然だろうな。

 こんな辺境でここまでの大きさの砲なんて必要ないだろうし。


 だけど流石に砲塔だけで1,000万Mは高すぎるような………

 ボノフさんが今より若かったとしても、それはあまりにボラれ過ぎでは?

 


「フフフ、今、ヒロは高すぎるって思ったね?」


「え?いや……」


 俺が疑問に思ったことをが顔に出てしまったんだろう。

 

 ボノフさんは苦笑を交えて俺の疑問に答えてくれる。



「これはね、発掘品の戦車から引っぺがしたモノなんだよ」


「げ!発掘品の戦車………、俺のと同じ………」


 

 発掘品のモノであれば、1,000万Mは安すぎるくらいか。

 では、その性能も破格なのでは?


「主要3種の砲弾、それに焼夷弾と発煙弾も登録されているよ。おまけに蒼銀弾も装填可能と来ている。戦車の主砲としてはこれ以上ないくらいだよ」


「それは………正しく俺が求めていたモノ……」


 俺の発掘品の戦車に相応しい武装だ。

 たとえ倍の値段でも買う価値があるだろう。


 まさかこんなところでこんな出物に出会うとは………


 中央ですら発掘品関係の武装は、市場に出回ることは非常に少ない。

 その希少な品が今、俺の手元に……




 あれ?

 でも、これほどの戦車を保有している程の猟兵団が壊滅する相手って……



「………まさか、この戦車を保有していた猟兵団が挑んだ相手は……」


「多分、そのまさかだよ。機械種テュポーンに挑んだ愚か者達の残したモノさ。全く、馬鹿な奴等だよ。こんな戦車を10台そろえたって、何百年も空を支配する守護者に勝てるはずが無いのにさ」


 

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