第353話 道中2


 メイド型を手に入れると固く心に誓った後、早速、辺境と中央の境目の街、バルトーラへ向けて出発。


 未来視内を除けば、おそらく今まで俺が訪れた中では最も大きい街のはずだ。

 人口も多く、品ぞろえも豊富と聞く。

 そこであれば、俺が求めるモノも容易く手に入るかもしれない。



 運転席の窓からは、外の景色がどんどん後ろへ流れているのが見える。

 今の車の速度はだいたい時速40km程度。

 この調子なら、あと数日でバルトーラの街に到着するだろう。



 街に着いたら何を買おうかな。


 運転席にもたれ掛かりながら、欲しいモノを頭に浮かべてみる。


 家事のできる機械種

 機械種デスクラウンをブルーオーダーする為の蒼石

 メンバーを強化する為の緑石

 俺の生活環境をグレードアップする為のマテリアル精錬器……



「それよりなにより入手しないといけないのは、中央への紹介状だ」


 

 中央に行って狩人をする為には、バルトーラである程度の実績を残さないといけないらしい。

 辺境と違い、中央の街は誰彼無しに中に入れるわけではないのだ。

 

 街の多くは外壁に囲まれて、入場門からしか入ることができない。

 門には当然門番がいて、街に入る人間のチェックを行っているという。



「魔弾の射手に居た頃は、その辺は全て他人任せだったからなあ……」



 もちろん蛇の道は蛇と言うことで、街へと忍び込む手段は幾つかあるが、その場合は不法民としてスラムで生活するしか選択肢が無い。

 底から這いあがるのは至難の技と聞く。

 いくら獲物を取ってきても安く買い叩かれて、永遠に搾取されるだけの存在にしかなれない。


 そうならない為にもバルトーラで実績を上げ、中央への街に入ることができる紹介状を貰う必要がある。


「その為には、どこかの秤屋に所属しないといけないんだよな」


 秤屋は狩人や猟兵が狩った機械種をマテリアルに換えてくれる両替商のような存在。

 また、狩人達に巣の情報を教えたり、狩人から買い上げた晶石を街の白鐘に供給したりと、街の運営には欠かせない施設でもある。


「言ってしまえば、良くある異世界ファンタジーの冒険者ギルドみたいなモノか」


 そう言ってしまうと身も蓋も無いが、その役割は正しく冒険者を管理するギルドに近い。

 違う点があるとすれば、統一されたモノではなく、商会や組織団体がお互いに連携を取りながら独自に経営している組合のような構造ということ。

 そして、テンプレートの冒険者ギルドと違って、コネが無いと所属するのが非常に難しいこと。書類一枚を書いて即一員になれるわけではないのだ。


 ミランカさんは5年以上、秤屋の下働きのようなことを続け、ようやくその実績を以って所属できたと言っていた。


 何のコネもなければ、それくらい苦労をしないとお墨付きは貰えないということらしい。


「一応、コネらしきモノは2つばかりあるけれど……」


 一つは開拓村のブルソー村長から教えてもらった藍染屋。

 その藍染屋から秤屋につないで貰うことは可能だろう。


 もう一つはミランカさんが所属していた秤屋のコネ。

 ミランカさん曰く、こちらはあまり強いコネではないので、期待しないでほしいとのこと。


「うーん……、まあ、この場合は先に藍染屋の方に行ってみるか。もし、駄目だったらミランカさんの方に行けばいいし」


 ブルソー村長は『指令』と呼ばれる程腕利きだったと言うし、そんな人のコネであったら、向こうも無下にはしてこないだろう。


「良さそうな所だったら、七宝袋で貯蔵している機械種の修理を任せてみよう」


 修理自体は宝貝 五色石で一瞬だが、使ってしまえばしばらくの間クールタイムに突入してしまう。

 万が一、我がメンバーが傷ついた時のことを考えれば、藍染屋で修理できる程度の破損なら、ある程度は任せた方が良い。


「どうせ最低でも6カ月はバルトーラの街に滞在する必要があるのだから」


 これも街の仕組みなのだそうだが、短期間で人の何倍もの大成果を上げても、中央への紹介状を貰えるわけではないらしい。


 必要なのは一定期間に一定以上の成果を上げ続けること。

 正確には1ヶ月ごとに決められた基準を達成すること。

 達成できなければ大きく減点され、且つ、基準以上を超えても次の月への持越しは無し。


「優秀な狩人は長くこの街にいてほしいという思惑が透けて見えるよな」


 実際、この仕組みはそれが目的で間違いないだろう。

 優秀な狩人がどんどん中央に行ってしまえば、それだけ街を支える人材が流出してしまうわけだから。

 バルトーラの街に滞在する期間をできるだけ長くして、たくさん稼いで来てほしいということか。


「抜け道とか無いのかなあ。俺が保有している紅石や緋石を渡したら、6カ月の滞留期間を免除してくれるとか……」


 可能性は無くは無いが、そんなことをすれば、確実に目をつけられてしまう。

 場合によってはずっと監視の目がつくことだって考えられる。


「ふう…、まあ、気長にやっていくしかないか。幸い戦闘力には申し分のないメンバーが増えたし、成果を上げることについては何の問題も無いのだから……」


「お任せください!戦闘であれば、今朝のような無様は晒しませんので!」


 俺の言葉に、助手席で語尾強めの宣言をする秘彗。

 膝の上で両の拳をぎゅっと握り締め、緊張した面持ちの硬い表情。


「……まあ、戦闘の面では任せるつもりだ。頼んだぞ」


「はい!」


 思いのほか元気の良い返事が返ってくる。

 初対面ではクール系なのかと思いきや、意外と感情豊かなタイプなのかもしれない。



 トントン


 後部座席からのソファを叩く音が響く。



「はい!ハクトさん。ありがとうございます。がんばります!」


 

 『期待しているから!』との白兎の激励に秘彗が答える。



 ポフポフ



 そして、続けて聞こえる白兎がソファを前脚でポフポフする音。



「は、はあ……」


 困惑した秘彗の声。

 ちょっと困った顔で俺の方へと視線を移す。


 白兎が次に秘彗へ伝えたのは『そんな貴方にぴったりなのが、天兎流舞蹴術の体験コース3日間。これで貴方も即戦力間違いなし!今なら兎マークのワッペンがついてくる』・・・


「コラ、白兎。怪しい訪問販売みたいなのは止めろ。秘彗は表に出して俺の護衛をするんだから、あんまり突飛な技を覚えられても困るんだ」



 ピョンピョン


『大丈夫。天兎流舞蹴術には【バーチャファ○ター】や【鉄○】みたいなリアル系の技もあるから!』って……



 具体的な格闘ゲーム名を出すな!

 ついにネタ元を隠さなくなってきたな!

 あと『○拳』はリアルじゃない技も多いから!


 ……全く、コイツの知識の源泉は一体どこにあるのやら。



「んん?そう言えば、天琉はどうした?さっきから随分と静かだけど?」


 今、車の方にいるのは、白兎、天琉、秘彗の3人。

 白兎はいつものポジションだし、秘彗を隣に座らせたのは、新人とコミュニケーションを図る為だ。

 決して女性型を近くに置いておきたいとかの理由じゃない。


 天琉は偶には車に乗りたいとか言いだして、白兎と一緒に後部座席に座らせたはずだけど。


「えっと、テンルさんなら……、窓から出て外に……」


「はい?天琉が外へ出たって?」


 秘彗からの申告に、思わず聞き返してしまったところへ……



「あい!ますた~、呼んだ~?」



 目の前のフロントガラスの上から天琉がにゅっと顔を逆さまに出してくる。



「わあっ!ビックリした!」


「あははははは!!」


 俺が驚いた様子に面白がって笑う天琉。

 

「く…、コラ!天琉。何で屋根の上にいるんだよ!」


「あい?うーん……………」


 一瞬、キョトンとした天琉だが、すこしばかり神妙な顔で悩んだ後、


「テンル、高い所好きだから!」


 無邪気な笑顔で出てきた言葉。

 二パッとした夏の向日葵が咲いたような笑顔。

 こちらも元気になるくらい気持ちの良い明るさ。


 だが、あまりの天琉の能天気さに俺は思わず頭を抱えてしまう。



 クッソ!

 相変わらず頭の悪いセリフを言いやがって!

 『戦術スキル(中級)』を入れたのに、全然頭が良くなっていないぞ!



「あと、見張りもやるよ~!悪い奴等が来たら、ズビッとピチュンしちゃうから!」



 その『ズビッとピチュン』が粒子加速砲をぶっ放すことだったら、もはや見張りとは言わない。それは『サーチ&デストロイ』だ。



「見張りって言っても、杏黄戊己旗があるから襲われることはほとんどないと思うぞ」



 杏黄戊己旗の効力もそうだが、今の俺達の面子で5乗の法則に引っかかるのは、俺とヨシツネ、森羅くらいだ。

 白兎、天琉、廻斗、秘彗は軽量級なので、よほど数が揃わないと襲われる確率に影響しない。

 

 

「まあ、襲ってくる奴がいたら、秘彗の能力を確認するのにちょうどいいけど……」



 ガタッ


 助手席の方から何やら物音。


 チラリと横目で隣を見ると、こちらへと身を乗り出し、期待の籠った目で見つめてきている秘彗の姿が目に入る。



 うわあ……

 めっちゃ、やる気マンマンの表情。

 どうやら俺に良い所を見せたくて堪らないような感じ。



 うーん……

 秘彗の能力を確かめたいし、天琉に入れた収束制御(上級)の効果も見たい。

 仲間の戦力把握は早いことに越したことはない。

 

 だが、このまま車を走らせていても、レッドオーダーが襲って来る確率は皆無。


 だとすれば、ここで頼るのは……



「白兎、この近くにいる適当なレッドオーダーの釣り出しを頼めるか?」



 ピョン!ピョン!


 

 後部座席を振り返れば、車の屋根に頭が当たりそうになるくらいに飛び跳ねる白兎の姿がそこにはあった。


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