狩人編
第348話 紹介2
「さあ!新メンバーの引き合わせだ!」
時刻は夜9時。
場所は人気のない荒野。
辺境と中央の境目の街バルトーラへと続く道の途中。
俺の周りに集うのは、いつもの悠久の刃のメンバー。
ピョン!ピョン!
興奮して辺りを跳ねまわる体長40cmの兎型ロボ。
ただし中身はこの世界で俺に次ぐ未知数の塊。
平東将軍にして、天兎流舞蹴術の伝承者。
我がチームの要にして、斥候、前衛、砲撃手、軍師、教導役、癒し枠も兼ねる万能選手。
口からレーザーブレスを放つ『白天砲』や、マテリアル燃料器を持たないのに炎を自由自在に操る理不尽の権化。
挙句の果てに空間転移もできるようになった成長する混沌。
俺の筆頭従属機械種、兼、宝貝でもある宝天月迦獣 白仙兎、略して白兎。
「誠に喜ばしい。これで主様のチームも益々戦力が強化されましたね」
群青色の若武者風ロボが涼し気な声で感想を漏らす。
身長は約180cm程。
戦国甲冑から華美な装飾を省き、実戦向きに改良したようなデザインの装甲。
目の部分だけに切り込みが入ったシンプルな仮面。
外見はジョブシリーズの侍系に近いが、その戦力はこの世界でもトップランク。
無双の剣技と卓越した空間転移を得意とする高機動近接型の極み。
次席従属機械種にして、人間が従属する機械種では最高峰であるレジェンドタイプのヨシツネ。
「確かに。これでマスター自ら戦闘に立つことも少なくなるでしょう」
ヨシツネの感想に相槌を打つ細面の華奢な人型ロボ。
一目には170cm程の麗人に見える外観。
性別を超えた美しさを湛える幻想的な容貌。
瑞々しい広葉樹の緑を写し取ったような新緑色の長髪。
その髪から覗く笹の葉のような尖った耳。
その姿は正しくファンタジー世界の妖精エルフそのものであり、この世界ではその名を冠した機械種エルフと呼ばれる中量級機械種の上位機種。
細々とした雑務や騒がしい面々のお目付け役を務め、神技とも言える狙撃を得意とする機械種エルフロードの森羅。
「うむ……うむ……めでたい」
うむうむと頷きながら、重々しい重低音を響かせる全高10mを超える大型ロボ。
青白い巨躯に複数の獣を組み合わせた異形。
恐竜ごとき鱗模様の装甲に、翼竜の翼を背中に生やした獣面の巨人。
隆々とした剛腕の先には、金属すら易々と引き裂きそうな巨大な爪を備える。
暴力と破壊に満ち溢れた外観からは想像できない程、落ち着いた理性的な一面を持つ我がチームの重鎮。
実弾を打ち消すアンチマテリアルフィールドと、堅牢な装甲により絶大な防御力を持つ要塞ごとき超重量級機械種、グレーターデーモンの豪魔。
「あい!あい!あい!」
跳ねまわる白兎の後ろを兎跳びで追いかける10歳程度の子供型ロボ。
キラキラとした金髪のおかっぱ頭。
美しく整った中性的な顔には無垢な満面の笑顔が浮かぶ。
背中でフルフルと揺れる白い翼。
見た目はまるっきり可愛い天使そのもの。
我がチームのトラブルメーカーにして、飛行ユニット兼砲撃手。
素種であり、今後の成長に期待できる大器晩成型。
高速飛行と粒子加速砲を得意とする機械種エンジェルの天琉。
「キィキィ!」
天琉の後ろをフワフワと浮かびながら、踊るように着いていく白い子猿型ロボ。
体長30cmの身体に小さな羽を持つ妖精のようなキャラクター。
パッチリオメメに愛らしい丸みを帯びたデザイン。
胸の前に垂らした紺色がネクタイが特徴の我がチームのマスコット。
しかし、その身に秘める理不尽さは俺、白兎に続いて第3位。
9つの命を持ち、1日に10回破壊されなければ幾度も蘇る不死鳥ごとき存在。
さらに通常機の10倍の能力を持つ特殊個体でもある機械種グレムリンの廻斗。
この6機のメンバーに追加となるのが、俺の隣に控えている2機。
野賊の残党から手に入れたストロングタイプ。
そして、野賊の本拠地に封印されていた魔王。
ちなみに白兎にボコられて降伏した『橙伯』機械種デスクラウンはまだレッドオーダー状態で七宝袋の中に収納したまま。
かの機体をブルーオーダーする為に必要な蒼石適正等級は2級。
俺の手持ちである準1級だと1ランク高くて、準2級だと1ランク低い。
1ランク低い準2級を使おうとすれば3割の悪魔に挑むこととなり、敗北したら日本円にして2000万円が吹き飛んでしまう。
また、1ランク高い準1級なら確実だが、適正級に比べれば4億円も損する計算になる。
どちらも相当なリスクやロスを負うこととなる為、一時ブルーオーダーは棚上げして、次の街で適正級である2級の購入を考えることにしたのだ。
だから今回の新人は2機のみ。
機械種デスクラウンの紹介は次の街についてからとなるだろう。
「では、まず、ジョブシリーズ、ストロングタイプ、機械種ミスティックウィッチの秘彗(ヒスイ)から!」
司会進行役の俺が手を向けると、深々とお辞儀で皆に挨拶をする美少女型ロボ。
「皆様。ただいまマスターよりご紹介にあがりました、機械種ミスティックウィッチのヒスイと申します」
頭部のアタッチメントである三角帽子を取り外しており、深い紫色の長髪が流れるように揺れる。
「若輩者ではございますが、精一杯マスターにお仕えすることを誓います。諸先輩方、どうぞご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
鈴を転がしたような軽やかに響く声。
声に含まれる感情の濃淡は薄いモノの、強い決意を感じさせる力強い口調。
皆の視線を受け止める小さな体は小動もせず、ジョブシリーズの最上位であるストロングタイプに相応しい堂々たる態度。
パチパチパチパチパチパチパチッ!!
皆から拍手で迎えられる秘彗。
その可憐な唇をほんの少し歪めて笑みの形を作る様子は、転校してきたクラスに暖かく迎えられ、ほっと安堵している美少女転校生のようだ。
うむ。
良いな。
これで我がチームにようやく1輪の花が入ってくれた。
俺が今まで熱望してきた美少女型機械種を仲間に入れることができたのだ。
惜しむらくは、俺の好みから外れていることくらいかな。
身長は天琉よりも少しだけ高い程度。
人間の年齢で言えば11、2歳程の外見。
子供の可愛さと少女の美しさがギリギリで同居する微妙なお年頃。
藍色のローブに包まれた身体に凹凸は少なく、年相応のスタイルでしかないのは明白。
美しく可憐な容姿であるのは間違いないが、俺が求める基準からは色々と足りないモノが多い。
もうちょっと外見年齢が高くないとなあ。
あれでは子供にしか見えないから、物足りないことこの上ない。
……………いや、足りていたからといって、何かするわけではないけど。
ジョブシリーズの女性型。それもストロングタイプともなれば、外見は非常に人間に近い造形。
顔や手足などの剥き出しとなっている部分は、手触りも人間の肌とほとんど変わらない仕様。
ただし、着ているように見える藍色のローブは胴体部分と一体化しており、当然脱がすこともできないし、無理やり剥がした所で肌色部分があるわけではない。
あくまで人間に見えるだけで、人間そのものではなく、当たり前だが女として抱くことは不可能。
性欲処理専用の機械種ウタヒメと違って、ジョブシリーズは人間の盾であり、もう一本の腕なのだ。戦闘とその他業務の補助が専門で、そういった機能は付いていない。
まあ、付いていたとしても、あの外見年齢ではそういった気分にもならないが。
やっぱり妖艶なボン、キュ、ボンの魔女系の方が良かったなあ。
魔女系と魔法少女系のどちらが良いかについては、機械種使いの男達の間で偶に湧き上がる話題。
魔女系を推す男達の理由はだいたい一つ。
魔女系の豊満な胸は柔らかいのだ。
それ以上の言葉はいらないだろう。
それに対し魔法少女系を推す男達の理由は多岐にわたる。
曰く、小さい方が被弾率が低い。
曰く、軽い方が移動の時に便利。
曰く、コンパクトで燃費が良い(ように思える)。
曰く、補助系の技が得意だからチームの戦術云々・・・
誰も本音は語らない。
別に聞きたくもないが。
「できればもう少し女性型の数を増やしたいのだけれど………」
白兎、廻斗は獣型なので未分類。
ヨシツネ、豪魔は明らかに男性型。
森羅、天琉は中性型。
秘彗は我がチーム初の女性型機械種だから、正しく紅一点と言えるだろう。
昔のアニメや漫画であれば、登場する主要メンバーのうち1人は女性というパターンが多かったのだが………
「今は女性の方が多いパターンや、女性オンリーの場合の方が主流………」
今の比率を女性に傾けようとすれば、意識的に女性型を増やさないといけない。
せめてあと5,6機は女性型を入れなくては……
できれば次こそ俺の好みのタイプを入れたい。
いや、ここは色々なタイプをそろえるべきか。
豊満なタイプ、スレンダーなタイプ、健康的なタイプ、お淑やかなタイプ……
おっと、まだ紹介の途中だったな。
妄想に耽溺するのは後にしよう。
次に紹介するのは、俺が貴重な最高級の蒼石1級を以って従属させた機械種。
俺が視線を隣に向けると、微笑を浮かべたまま彫像のように突っ立っている金髪美少年の姿が目に入る。
貴族のような豪華な装い。
金髪から生えた雄牛のような2本の角が無ければ、15歳程度の美貌の貴公子、若しくは、王子様と言ったところ。
身体自体は華奢だが、ひ弱な感じは全くしない。
むしろ内から活力が溢れるているような迫力すら漂ってくる。
まるで、宝塚の舞台で見る花型スターのような存在感。
赤の女帝に次ぐと言われる緋王にして、人類最悪の敵性機種と呼ばれる魔王型。
炎と核熱を操る最高位機種である機械種べリアル。
間違いなくこの中では最強と呼べる実力を持つ機種であろう……
「マスター、ちょっといいかな?」
突然かけられた機械種べリアルからの声。
顔をこちらに向けて首を傾げながらの問い。
ちょうどべリアルの方を向いていた俺と視線が交差する。
新雪のような白肌に青氷色の瞳。
男性型と分かっているのに、なお俺の心をかき乱そうとする魔性の美。
森羅も天琉も美しいが、この魔王の美貌は質が異なる。
あまりにも生々し過ぎるのだ。
機械でありながら、明らかに生き物の息吹を感じさせ、それでいて、人の手ではなく神の手で造られたかのように思える完成度。
機械種べリアルの元ネタである魔王べリアルは堕天使であったと言われている。
イギリスの詩人ジョン・ミルトンの『失楽園』は、『堕天使の中で、彼以上に端麗な者はいない』とまで、その美しさを称えていた。
そして、『彼以上に淫らで悪辣な堕天使はいない』とも・・・
コイツが女性型ならウェルカムなんだけど、俺に男色の趣味は無いからなあ。
たとえ女性に変身できたとしても、元が男性だと分かっていたら、起つモノも起たないと言いますか……
「マスター?」
「んん?ああ、すまん。お前の紹介の件だよな。それじゃあ…」
「違うよ。少しばかり提案があるんだけど……聞いてくれるかな?」
「提案?」
「うん。マスターの今後を想ってのボクの提案……」
俺に無邪気な笑顔を向けるべリアル。
まるで散歩でも行こうかと言うくらいの軽さで述べられた提案は………
「ここにいる半分くらいの機械種は明らかに力不足だよね。だからここで間引きしようよ」
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