第347話 エンディング・後日談


 放浪編の選択ルート



 1.エンジュ ルート : 難易度 イージー

  

 貴方はスラムから出て、隊商の元で下働きをする赤毛の少女に出会った。

 

 彼女はこの辺境では忌み嫌われる赤毛である為、周りの人間から虐待に近い扱いをされている様子。

 それでも、与えられた自分の仕事を一生懸命にこなそうとする彼女が気になり、時間を見つけては、周りの人間に分からないように話しかけ、彼女の事情を聞くことができた。


 彼女の名はエンジュ。

 1年程前、彼女はダンガ商会から割り振られた渡りの仕事に失敗。

 その責任を負わされ、多額の借金を背負うことになってしまったらしい。

 今は隊商の車の整備や雑用をして、少しでもその借金を返そうとして頑張っているようだ。


「へへっ、大丈夫、大丈夫。このくらいアタイは平気だから」


「・・・ありがとう。こんなに優しくしてくれたの、アタイ、初めてで・・・」


「もし、良かったら、いつでもアタイを使ってね。それも仕事のうちだから・・・」


「アタイにそんな資格は無いよう。だって、アタイはこんな赤毛だし・・・」


 

 過酷な仕事、理不尽な立場にもめげず、懸命に頑張る彼女に惹かれ、貴方は彼女に手を貸すことにした。

 彼女が抱えた借金は膨大だ。しかも、本当に返済できるのかどうかも分からない程、雪だるま式に膨らむ利子。


 そもそもその契約は適法なモノなのか?

 彼女が仕事で失敗したからといって借金を負う必要があるのか?


 一つの商会を相手にするには、ただの旅人では分が悪い。

 君が築き上げたコネの中で商会の伝手はないだろうか?

 まずは商売や契約に詳しい人の協力を得よう。

 

 それとも、問答無用に借金を返すだけの博打を打つか?

 近くには攻略難易度の高い巣があるという。

 巣に眠る発掘品、ボスである紅姫を倒せば、借金を全て返しても余る程の財が手に入る。


 さあ、健気に辺境を生き抜く赤毛の少女を救え!


 

 ヒロイン:エンジュ

  体力 : B

  知力 : C

  技術 : B

  特技 : 黄手(車両整備)






2.ユティア ルート : 難易度 ノーマル


 貴方はピルネーの街で、男達に絡まれる女性を助けた。


 頭からフードをすっぽりと被った女性。しかし、一目見て女性と分かる程のスタイルの良さ。

 フードを取れば、黄金が流れるような金髪。

 この辺境では場違いな気高い美貌。

 その表情に浮かぶ翳りは神秘的とも言える雰囲気を醸し出す。


 それほどの美女と出会い、貴方は即一目惚れ。

 この辺境の街で女性1人は危ないと護衛を申し出ることとなった。


 彼女の名はユティア。

 近隣の開拓村の住人であったが、数年前から村の経営状態が悪化。

 1ヶ月程前についに限界を迎え、開拓村は崩壊してしまった。


 村長が何とか村の住人を逃がそうと奮闘するも、迫りくる機械種の群れに飲み込まれ、皆は散り散りに。

 彼女を守ってくれていた兄代わりの男性もこの街へ辿り着く前に倒れ、彼女だけがこの街に辿りつくこととなった。


「私だけ生き残ってしまった。村長も、ベネルさんも・・・死んでしまったのに・・・」


「でも、私は帰りたいんです。故郷へ・・・ポラントの街へ」


「お願いです。私を故郷まで連れて行ってくれませんか。お礼は・・・何でもします。どんなことでも・・・だから・・・私を・・・」


 

 貴方は彼女の願いをかなえる為、ポラントを目指すこととなる。

 しかし、普通にポラントという街を探そうとしても見つからない。


 彼女が故郷を離れることになったのは10歳の頃。

 果たしてその街の名前はポラントで間違いないのか?

 それとも、街の名が伝わらないほど遠くの場所なのであろうか?


 彼女の僅かな記憶と辿り、微かに残った手がかりを探し回ろう。

 また、手がかり自体は、彼女の手の中にあるかもしれない。

 彼女と信頼関係を深め、その秘密を打ち明けてもらえれば、道筋が見えてくるだろう。


 だが、彼女の故郷に辿りついたら終わりとは限らない。

 更なる問題が貴方に降りかかることだってある。

 それは単に彼女一人の問題ではなく、ひょっとしたら街全体の・・・


 

 さあ、悲しき運命に振り回された美女を故郷まで送り届けよ!

 


 ヒロイン:ユティア

  体力 : D

  知力 : A

  技術 : B

  特技 : 緑手(スキル・晶冠)、青指(機械種整備)、機械種知識






3.ミランカ ルート : 難易度 ハード


 貴方はピルネーの街で、女兵士から依頼を受けた。


 美しい黒髪の女性は、最近辺境でも有名になりつつある野賊に攫われた妹を助け出したいらしい。


 その野賊は全員が機械種使い、且つ、ジョブシリーズを何体も保有しているという。

 到底野賊とは思えないほどの大戦力を持ち、何度も討伐軍を撃退。

 その中には中央でも名の通った猟兵団も含まれていると聞く。


 聞くところによると、彼女自身もしばらくその野賊に捕まっていたそうだ。

 しかし、何とか隙を見つけて脱出することに成功。

 今は妹を救出する為の戦力を集めているようなのだが・・・


「相手は中央の猟兵団をも壊滅させる程の集団。正面から勝てるとは思えません。でも、妹1人を救い出すことくらいはできるはずです。貴方の力を貸してください!」


「もう1年も妹に会えていないんです。あの子は・・・今でも無事でいるんでしょうか?」


「私にできることなら何でも言ってください。妹を助ける為だったら、この命だって!」



 妹を助け出す方法は3つ。


 ①その野賊を壊滅させる。

 ②野賊の本拠地に忍び込んで救い出す。

 ③取引を持ち掛けて妹を引き渡してもらう。


 壊滅させるのは困難だ。

 表に出てきている情報だけでも、ストロングタイプが複数存在すると言う。

 さらにはもっと上位の機種がいるとの噂も・・・・・・

 たとえ貴方がレジェンドタイプを従属させていたとしても、正面から相手にするのは難しいだろう。


 壊滅させることに比べたら、まだ救出作戦の方が現実的だ。

 幸い、ミランカの手元には、妹がいる方向を指し示す晶石がある。

 野賊の本拠地まで辿り着くのは難しくないが、果たして無事に忍び込むことができるのか。


 取引を持ち掛けるにしても、向こうが欲しがっているモノの情報が無い。

 それを得るためには、その野賊の頭目の情報が必要だ。

 最近になって、ようやく野賊討伐に白の教会が重い腰を上げたと言う。

 白の教会と接触することで、何か情報が得るができるだろう。


 ただ、得られるのは情報だけではないかもしれないが・・・

 

 また、その野賊への復讐に燃える少年がいるという話もある。


 青く染めた髪に、稲妻を放つ剣を持った少年猟兵。

 彼と組めば、野賊討伐への新たなる道が開ける可能性がある。

 幾つかの猟兵団で挑むいう選択肢も浮上するかもしれない。



 いずれにせよ、難易度は最高ランク。

 しかも、敵の情報は完全ではなく、さらに強敵が待ち構えていることも考えられる。

 そして、その裏に潜む真の脅威の存在も・・・・・・



 さあ、黒髪の女兵士を助け、その妹の救出せよ。

 敵は手ごわい。あらゆる方法を探り、味方を増やして対処しよう。

 

 

 ヒロイン:ミランカ

  体力 : B

  知力 : B

  技術 : B

  特技 : 銃、剣、機械種使いの知識






第二章 放浪編クリア


 キャラクター名:ヒロ

 選択ルート:???????

 ヒロイン:獲得できず?


 エンディング:中央と辺境の境目の街へ出発



 ????????ルートの回収フラグ状況



  エンジュルート回収フラグ1:ダンガ商会  合計200P Bランク 


   ①借金の完済                    無し

   ②ダンガ商会へ賠償金請求無効を認めさせる      無し

   ③ダンガ商会のピレネー支店を壊滅させる     200P



 エンジュルート回収フラグ2:エンジュ愛用のバイク 合計100P Bランク


   ①故障したバイクを修理               無し

   ②新しいバイクをプレゼント           100P

     


  ユティアルート回収フラグ1:故郷の名前  合計  0P Eランク


   ①ユティアの短刀に仕込まれた手がかりを発見    無し

   ②メルテッドの街で緑学会への問い合わせ      無し

   ③ユティアから自身の素性の説明を受ける      無し



  ユティアルート回収フラグ2:機械種関連の授業 合計 200P Aランク


   ①晶冠、晶石についての基礎講座・応用講座    100P

   ②スキルについての基礎講座・応用講座      100P

   ③機械種使いについての基礎講座          50P

   ④赤学についての基礎講座             50P




  ミランカルート回収フラグ1:野賊への対応    0P Eランク


  ①かつてミランカを逃がした男2人バンデル、パネルタとの接触 ??

  ②復讐に燃える猟兵、夜駆けの雷の生き残りヨシュアとの接触  無し

  ③白の教会から派遣された鐘守との接触            無し

  ④ルトレックの街の領主からの依頼を受ける          無し


 

  ミランカルート回収フラグ2:ボスである感応士 100P Cランク

 

   ①感応士の素性を調べる              無し

   ②辺境に訪れた原因を発見           100P

   



 特別回収フラグ1:堕ちた街の探索 300P


   ①機械種エンジェルの発見              100P

   ②機械種グレーターデーモンの発見          200P

   ③堕ちた街を統べるボス 機械種ケルベロスを撃破     無し



 特別回収フラグ2:橙伯、臙公、??の討伐  3100P

    

   ①橙伯 機械種デスクラウンの撃破 600P(服従の為、ポイント2倍)

   ②臙公 機械種アトラスの撃破   500P

   ③緋王 機械種べリアルの撃破 2000P(従属した為、ポイント2倍)



 特別加点フラグ 合計1600P


   ① エンジュへの招幸運の術  200P@1

   ② ユティアへの招幸運の術  200P@2

   ③ ミレニケへの精神的ケア  100P@3

   ④ ミランカへの機械種贈呈  100P@4

   ⑤ プーランティアへの手紙の配達

    (最速・超強機械種兼宝貝+打神鞭を派遣) 500P@5

   ⑥ 猟兵団『夜駆けの雷』の壊滅回避   100P

   ⑦ 野賊から女性達を全員救出+アフターフォロー  300P

   ⑧ ブルソー開拓村の崩壊を回避  100P



 減点フラグ 合計-60P


   ①事実とは異なる主人公の噂が東部領域の一部で広がった  -10P

   ②メルテッドの悪党連中生き残りからの敵意        -50P



 総合計 5540P Sランククリア


  上記に加え、@1~5を回収したことにより?????ルートエンドへ。



【?????ルートエンド】


 『東部領域 プーランティアの街にて(ユティア視点)』





「ユティア様!お願いですから取材させてください」


「・・・・・・もう話せることは話しました」


「ええ?だって!まだ、ユティア様を助けた少年のことって、全然詳細を聞けていません!」


「・・・・・・話したって、どうせ信じてもらえませんよ」


「ええ?今、なんと・・・」


「いえ、ただの独り言です!」


 

 目の前の女性記者から目線を外し、テーブルの上のティーカップに手を伸ばす。

 

 ここは東部領域、プーランティアの街の私の自宅。

 

 今の私はこうやって取材を受けている真っ最中。


 もうこの街に帰って来てから1年と1ヶ月経つと言うのに、私の話を聞きたがる人がまだ残っているなんて。

 10年も前に攫われた領主の娘が無事に帰ってきたというのだから、話題性があるというのは分かるけど。


「ユティア様が10年程過ごしたという開拓村については、色々な雑誌で語られてますけど、その村から出た後のことにあまり触れられていませんよね」


「村から出て、迎えに来てもらった街、ルトレックに着くまでにかかったのは2週間くらいですよ。時間的に考えれば触れるのが少ないのは当たり前じゃないですか?」


「いやいや~、ユティア様。私が知りたいのは、その2週間のことですよ。堕ちた街の探索で莫大な宝を発見したり、街で襲ってきた悪党をやっつけたり、野賊を壊滅させて女性達を救ったりした・・・ほら、噂にもなっている、『剣士と妖精、天使と悪魔を従えた黒髪美少年の機械種使い』とのラブロマンス的な?」


「はあ・・・」


「ど、どうしたんですか?ユティア様。盛大なため息なんかおつきなって?」


 いやあ・・・

 もし、ヒロさんがご自身がどう噂されているかお知りになったら、なんと思われるか・・・・・・


 剣士はヨシツネさん、妖精はシンラさん、天使はテンルちゃん、悪魔はゴウマさんのことですね。

 ハクトちゃんやカイトちゃんの名前が出ないのは、語呂の問題でしょうか?

 戦力じゃなくてマスコットと思われたのかもしれませんね。


 あと、美少年と言うのは・・・・・・



 少し目を瞑って彼の姿を思い出す。


 ヒロさんと別れたのが、1年と3カ月前。

 まだまだ思い出と言うには新し過ぎる。


 黒髪だけど、彼は普通顔だ。美少年と言えるほどではない。

 貧弱そうな体で、とても強そうに見えないけど、その活躍は今でもはっきりと目に焼き付いている。

 

 槍を振り回して、人間や機械種をも容易くなぎ倒す隔絶した技量。

 機械義肢を装着しているか、ブーステッドを飲んでいるような人間離れした身体能力。

 たとえ相手が自分の何倍も大きくても恐れる仕草さえ見せない度胸。

 

 英雄という者がいるのなら、彼は間違いなくその名に相応しい。

 

 だけどその精神性は、極めて普通の人というのが私の印象。

 世間知らずだけど、特定分野へ深い知識を持ち、時には人の心を読んでいるのかと思うくらいに鋭い。

 でも、抜けている所は抜けていて、危なっかしい所もあって・・・

 だけど慎重な時は、とても用心深く、ひょっとして小心者じゃないかとも思う程。

 

 即ち、よく分からない人。



「ねえ、教えてくださいよ。私、知っているんですから。その彼は、ユティア様の為に凄腕の猟兵と決闘までしたんですよね。憧れちゃうなあ。自分の為に決闘までしてくれるなんて・・・」


「ううう・・・・・・・」


 それはそれで事情があって・・・・・・

 間違ってないんですけどね。


 多分、情報の出所はヒロさんが助けた彼女達ですね。

 ようやくこの街に馴染んできたところでしょうし、リハビリも一段落して社会復帰に取り掛かっているみたいでしたから、街の人間とも会話する機会が増えたせいでしょう。


 まあ、こちらも口止めしていませんでしたから咎めはしませんが・・・



 何ヶ月も一緒にいて、世間話をする仲になれば、私達とヒロさんの出会いを話す機会がありました。

 エンジュが語る熱っぽいヒロさん像が、いつの間にかヒーローチックに彼女達に伝わってしまい・・・・・・

 

 あのルトレックの街で、ヒロさんも一緒に2か月半過ごしましたが、あまり彼女達とは接点を持たなかったことも原因です。

 

 助けられたという恩と、恩返しができないというジレンマが、彼女達の中のヒロさん像を理想化させてしまったのでしょう。


 事実、ヒロさんはあの家では極めて理性的にされていました。

 妙齢の女の園の中で、最も権力者でありながら、彼女達には誰一人手を出すこともなく、紳士的に振る舞われてましたから・・・・・


 でも、どこからヒロさんが美少年と言う話が出てきたんでしょう?


 彼女達はヒロさんの顔を見ているはずだから、わざわざ美少年と付け加えないでしょうし・・・・・・


 これは何人もの伝言ゲームと、ヒーローは美しくあってほしいという大衆願望の結果なのかもしれませんね。怖い怖い。



「あと、聞いた話では、その彼はスリーパーだという噂も・・・・・・」


「・・・・・それ、都市伝説の類ですよ。公共の場でその話をしたら笑われますからね」


 女性記者の口から出た『スリーパー』という言葉に思わず苦笑いしてしまう私。


 ヒロさんをスリーパーとエンジュの前で呼んだけど、それはあくまでエンジュを諦めさせることが狙いだった。

 だって、あのままヒロさんを好きになっても、絶対にエンジュは幸せになれないと思ったから。


 レジェンドタイプやグレーターデーモンまで従属するヒロさんが、そのままただの狩人で居続けるわけがない。

 必ずどこかの権力者が誘いをかけるだろうし、白の教会だって動くはず。

 

 ヒロさんの隣に居続ければ、きっと普通の女の子であるエンジュは傷ついてしまう。

 場合によっては、ヒロさんを手に入れようとした権力者がエンジュを狙ってくるかもしれない。


 あの時はそう思って自分でも信じていないようなことを言ってしまったけど・・・



 結局、恋する乙女は止められなかった。

 エンジュはヒロさんに相応しくあるために、自分を鍛え上げる道を選んでしまった。


 私のしたことって、傍から見たら、エンジュに嫉妬して嘘をついた悪役令嬢みたいですね。もちろん、そんなつもりは欠片もありませんが。


 ヒロさんのことは恩人として尊敬していますが、エンジュとの仲に割って入ろうなんて気はこれっぽっちもありません。

 

 IFの話ですが、エンジュよりも先に、ヒロさんと出会っていたら・・・・・


 私を開拓村から連れ出して、故郷まで送り届けてくれていたなら・・・・・・

 

 もしかしたら、ヒロさんに恋い焦がれる自分があったかもしれない・・・・・


 ふと、そんなことを考えてしまったことはありましたけど。




「ユティア様!ユティア様のご親友であられるエンジュさんとの、彼を巡っての恋の鞘当てなんかの話も聞かせてもらえませんか?」


 ムカッ!!

 このタイミングで、そんなことを聞きますか!!


 図々しくお願いしてくる女性記者に思わず紅茶をぶっかけたくなりましたが、ここは我慢のしどころ。


「コホンッ・・・、恋の鞘当てなんかありません。貴方が望むような三角関係なんてありませんから!」


「ありゃ?そうでしたか?では、エンジュさんのライバルは、最近、見習いから正規の兵士になられたミランカさんの方で?それとも領主軍の工房に入られた妹さんの方ですか?」


「・・・・・・あの方は、ずっとエンジュしか見ていません」


「・・・つまり最初から勝負にならなかったと?エンジュさんもお綺麗で、カッコ良いですし。何よりユティア様より若いですから、負けるのも仕方が無いかもしれませんね」


「・・・・・・・」



 喧嘩を売っているなら買いましょうか?


 私をタダの深窓の令嬢と思ったら大間違いですよ。

 伊達に辺境を何年も生きていませんし、潜った修羅場は数知れず・・・・・・大抵、ヒロさんの後ろで隠れていただけですが。


 それでも比較的平和な東部領域の噂雀には負けません!

 辺境帰りの暴走娘とは私のことです!

 こんなに早く、私の稲妻ストレートが火を噴く機会があるとは思いませんでしたけど!



「そう言えば、エンジュさん。また、機械種に襲われた人を助けたそうですよ」


 私が拳を握って立ち上がりかけたところで、話題を変える女性記者。

 

 フン!私の殺気を呼んで、私が気に入りそうな話題を提供するとは・・・


 まあ、今回は勘弁してやりましょう。次はありませんからね!



「ふう…、エンジュってば、本当にヒロさんに影響を受けちゃって。エンジュに怪我はありませんでしたか?」


「それはもちろん。何せ『狼使いのエンジュ』ですからね」


 エンジュが従属している機械種はコボルトのボルト、ダイアウルフのディア、キキーモラのキキ。

 どれも狼っぽい所がありますから、そう呼ばれても不思議はないですけど。


「とても軽量級とは思えないほど強いらしいですね。特に機械種コボルトは単独でオーガを狩ったそうですよ。それも無傷で圧勝。こんなことってあるんですね。やはり原因はユティア様がご調整されたスキルの効果なのですか?」


「・・・・・・・・『テントリュウ ブシュウジュツ』」


「ええ?今何とおっしゃいました?それになんだか表情が虚ろになられて?」


「・・・・・・・・・知りません」


「はあ・・・、そうですか。ユティア様がそうおっしゃるなら・・・」



 ボルトちゃんの強さの秘密を知るのは諦めました。

 もう意味不明なんですから!

 しかも最近はキキちゃんも回転蹴りできるようになってきてしまって・・・


 これはやっぱりあのハクトちゃんの影響でしょうか・・・・・・



 あれ?


「・・・・・・その・・・貴方が付けているキーホルダー・・・、機械種ラビットですか?それにしては角が・・・」


「ああ!ユティア様。お目が高い。これぞ最近街で流行っているマスコットの『ホーンラビット』ですよ」


「マスコット?ホーンラビット?」


「おや?ユティア様の無事を知らせた手紙を運んだという角付きの機械種ラビットをご存知で無い?」


「知ってます。でも、角付きって初めて聞いたような・・・」


 お母さまから帽子を被った機械種ラビットが手紙を届けに来たと聞いた時は、思わずハクトちゃんのことを思い出してしまいましたけど。


 でも、流石にハクトちゃんと言えど、ヒロさんの従属範囲を飛び越えて、あの距離を超えるのは不可能。

 だから、ヒロさんが感応士に依頼して、その感応士が従属する機械種ラビットが届けたのだと思っていたのですが・・・


「1年と少し前くらいに、街中で角付き機械種ラビットの目撃情報が多発したんです。たった3日間という短い期間なのですが。ちょうどユティア様からの手紙が届いた頃と一致しますね。これまた、不可思議なことばかり起こってまして・・・・・・」


「不可思議?例えばどのようなことですか?」


「はい、角付き機械種ラビットに助けられたという話です。ご老人の荷物を持ってあげたり、道に迷った子供を親まで連れて行ってあげたり、けんかの仲裁をしたり、悪い奴に襲われていた女性を助けたり・・・・・」


 はははははは・・・・・・・・・・・どうしましょう?

 どう考えても、ハクトちゃん以外に考えられないような・・・


「犯罪組織を壊滅させて囚われていた人達を解放したり、迷宮入りになりかけた殺人事件を解決したり・・・・・・」


 あれ?

 今、トンデモナイことを聞いたような・・・

 ええ?それって本当にその角付き機械種ラビットがやったことなんですか?


「他にもあるんですよ。あの隣国で・・・です。我がポラントに嫌がらせするばかりか、ユティア様の誘拐の黒幕であった、あの国のことなんですが」


「・・・・・・・・・」


「ちょうど、角付き機械種ラビットが姿を見せていた期間に、同じように隣国でも姿を見せたそうなんです。ただし、行動は全く異なっていまして・・・・・・なんと、軍が保有する機械種を軒並み破壊していった・・・という噂です」


「はあ?」


「あくまで噂ですよ。でも、信ぴょう性が高いんです。その頃くらいから急に勢力を落としましたので。だからユティア様を早くお迎えにいけたそうです。でなければ、半年以上もお迎えが遅れたでしょう」


「そうですか・・・・・・・」


 私をポラント・・・いや、プーランティアの使節団が迎えに来たのは、ヒロさんが出立してから1ヶ月後のこと。

 まさかここまで早く迎えに来てくれるとは思わなかったのは事実。

 これには本当に色々と運が良いことが重なったと、兄様はおっしゃっていましたが・・・


「だから、この街にとって、角付き機械種ラビットは幸運の証なんです。ユティア様も部屋や研究所に籠ってなんかいないで、外に出られた方が良いと思いますよ」


「はあ…、そうですね。たまにはエンジュとお買い物に行くも良いかもしれませんね」


 私が帰還してからこの1年、バタバタのしっぱなしだった。

 エンジュとも週に1回で会えれば良い方。

 同じ家に住んでいるのに、エンジュは渡りの仕事を見つけて、外に出ていることが多いし、私は学会への復帰申請や、街の上層部への挨拶回りで家に帰れない日々。



 少しは羽根休めをして、久しぶりにエンジュとお茶でもしましょうか?


 あの、波乱万丈の2週間、そして、穏やかな日々だった2ヶ月半を思い出して、エンジュと語り合いましょう。


 そして、私達にとっての英雄であるヒロさんとの思い出を・・・




「あれれ?ユティア!今日は家にいるんだ?久しぶり!」


「エンジュ!ちょうど良い所に帰ってきましたね。お茶にしましょう」


「ああ、これはまたとないチャンス!ユティア様、エンジュさん!ぜひともお二人並んだところを取材をさせてください!」








放浪編・・・完。


次回は狩人編へ。


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