第346話 エピローグ7(終)


「到着!」


 ピョンピョン


 車から降りて、うーんっと伸びをする俺。

 

 白兎も外へと飛び出し、俺と同じように大きく体を伸ばす。


「うーん、あの2ヶ月半前の激戦が嘘のようだな」


 フリフリ


 ルトレックの街から出て2日。

 ようやくたどり着いた目的地。


 俺の目の前に広がるのは、俺達が暴れ回った野賊の本拠地だ。

 当時は建物内の探索をする余裕もなく、救出した女性達を潜水艇に乗せてこの森から脱出した。

 だからこの建物内にまだまだ残されたモノがあるはずなのだ。

 


「流石に死体は残ってないな。この当たりは非常に助かる。死屍累々の場所なんて探索したくないからな。」


 少なくとも何十人もこの場所で死んだはず。

 それなのに骨の一つも見当たらない。

 しかし、それはこの世界では何の不思議ではないこと。

 街中でも、白鐘の恩寵が薄い外縁部では、死体を放置すれば腐る前に消えていく。

 


「おまけに機械種の残骸も消えてしまっているし」


 2か月半も放置すれば当たり前だが。

 たとえインセクトも近づかないスポットでも、こうなってしまう。


 超軽量級と呼ばれる機械種インセクトが最も小さい機械種と言われている。

 しかし、あまり想像はしたくないが、やっぱりこの世界には・・・


 やめておこう。

 今の俺では確かめようもない事だ。


「でも、装備品やマテリアルカードは残るんだよな」


 おそらくこの世界の仕様なのであろう。

 地面を見渡せば、死体があったと思しき場所に銃やナイフ、マテリアルカード等が落ちているのが目に入る。


 流石に衣服などは風で飛ばされてしまっているようだが、こういった装備品を拾っていくだけでもそれなりのマテリアルにはなるだろう。


「戦場の後だから壊れてしまっているモノも多いけど・・・・・・」


 豪魔が暴れ回り、迎撃の為に出撃した機械種達と激しい戦闘を繰り広げた。

 また、『橙伯』や『臙公』も出てきて、破壊活動を行った。

 

 それでも探し回れば、無事なモノもある程度は見つかるはず。



「さて、気を取り直して・・・おっと、その前に陣を解いておかないとな」


 ピコピコ


「んん?そうだぞ。エンジュ達と一緒に前線基地まで帰った後、こっそりお前とここまで来て展開した陣・・・『万仙陣』のことだ」



 万仙陣は封神演義において、截教のトップである通天教主が展開した陣。

 太極陣、両儀陣、四象陣の3つで構成された大掛かりな陣だ。

 効力は意外と地味で、足をもつれさせたり、進行方向を逆向きにしたり、ぐるぐる回転させたりなど、行動阻害に特化した陣とも言える。


 ただし、陣を3つも合成しているだけあって、その効果は絶大。

 高位の仙人でさえ、この陣を破るのは困難だ。

 何せ3つの世界を重ね合わせているようなモノ。

 常人なら絶対にこの中への侵入は絶対不可能。


「その分、発動するには大変だったけど。時間も無かったから、設置したらすぐに退散したしな」」


 いつ戻ってこれるか分からなかったから、触媒には俺の血を大量に使うこととなった。

 俺の血を染み込ませたハンカチに仙力を注ぎ込み、それを3枚用意して、白兎に建物の周り3か所に埋めさせたのだ。

 

 そこまでして発動させた『万仙陣』。

 俺達が戻ってくるまで、この建物への侵入を防いでくれているはず。


「さあ、お宝探しと行きますか!」









 車に残すのは、森羅、豪魔、天琉、廻斗。

 万が一、俺達が探索している間、誰かが入ってこないようにする為と、辺りに落ちているかもしれない無事な状態のマテリアルカードを回収してもらう為。


 そして、俺と白兎、ヨシツネで野賊の本拠地を探索する。


 宝貝 墨子を使い、まずは感応士が居たと思われる部屋へと直行しよう。


 ミレニケさんの話では、あの日あの時間、ボスである感応士の部屋で相手をさせられていたそうだ。

 そして、豪魔の襲撃の報を受けて、感応士はガウンと幾つかの装備品を持っただけで迎撃に出てしまった。

 その後、しばらくして突然5人の男達が感応士の部屋へ雪崩れ込み、部屋の中の貴重品を荒らし回った。

 自分もその場で捕まってしまい、車に押し込まれたらしい。



「確か4階の一番奥の部屋だったよな」


 頭の中に浮かぶ地図を思い出しながら、階段を上がっていく。

 

 カコン、カコンと俺の靴が鳴る音だけが無人の建物内に響く。


 誰も居なくなって、たった2ヶ月半だが、人が居なくなった建物と言うのはここまで、おどろおどろしくなってしまうのか。


 そんなことを気にせず、俺の前をズンズンと進んでいく白兎がとても頼もしく感じてしまう。


「主様、あの野賊の頭目の部屋を目指しておられるようですが、すでに貴重品は持ち出されているのではなかったのですか?」


 俺の後ろを歩き、後方を警戒しているヨシツネからの質問。


「ああ、持ち出されたらしいが、それが全部ではないと思う。特に機械種があれだけ集う場所なのに、絶対に必要なモノがあの中にはなかったからな」


「絶対に必要なモノ・・・ですか」


「そう、たとえ感応士でも、保険として必ず持っておきたいモノだ」








「ここか・・・」


 4階の一番奥の部屋に到着。

 ものの見事に扉ごとぶち破られた部屋。


「まあ、当然、感応士は鍵をかけていくだろうし、ここへ侵入した奴等はその鍵を持っているわけないよな」


 中に入るとそこは、高級ホテルのスイートルームのような部屋。

 そんなお高いホテルには泊まったことが無いから、想像でしかないけど。


「では、早速手に入れたばかりの宝貝を・・・と」


 七宝袋から取り出すのは、ミランカさん、ミレニケさんがくれた装飾品を宝貝にした一品。



「宝貝、掌中目よ!隠された物を暴き出せ!」


 

 両手に一つずつ握りしめ、その効力を発動。


 そして、その万物を見通す神眼は、この部屋の壁にかかるタペストリーの裏側に、隠されたモノがあると看破。


「よし、ここか!」


 勢いよくタペストリーを引っ剥がすと、そこはただの壁。


「あれ?」


 おかしいな。

 確かに掌中目からはココにあると出たはずなのに。



 ピョンピョン



「んん?何だ白兎?・・・・・・えっ!やっぱりこの壁に間違いないって?」


 白兎の浄眼はある程度の透視力も秘めている。

 掌中目も白兎もここだというなら、この壁に何かあるに違いない。


「ふむ、この辺か・・・・・・」


 掌中目で反応が出た辺りに手を置いて、ゆっくり力をかけていくと・・・



 ズボッ



「おお!突き抜けた!」

 


 壁の一部が空洞になっており、その中に俺が予想していた灰色の袋があった。



「よし、これで間違いない」



 その壁に開けられた穴の奥に手を突っ込もうとした時、



 ピピッ



「おう?・・・・・・掌中目?」



 突然、手の中の掌中目が反応。

 

 壁の穴の隅にある出っ張りを指摘してくる。



「うん?何だこれ?」



 何気なしに手を近づけていくと・・・・・・


 

 ギュンッ

 ガチンッ


 突然、壁の隅の出っ張りが無数のトゲトゲに変化。

 海栗の針のごとく俺の手を串刺しにしようとして・・・・・・貫けずに折れた。



「主様!ご怪我は?」


「・・・・・・・罠か。これは俺が不用心だったな」


 慌てて寄ってくるヨシツネを片手で制し、そのまま奥にある灰色の袋を引っ張り出す。


「登録の無い者が不用意に手を伸ばすと、針に変化して攻撃する仕掛け罠のようです。彫刻やボタンに偽装しているケースがありますので、ご注意を」


「なるほど、偽装ね。これも隠れているということだから、掌中目が反応したのか」


 ヨシツネが見分した内容の報告を聞き、先ほどの掌中目の反応の理由が分かった。


 つまり、掌中目は隠されたモノを調べるアクティブ能力と、俺の周りの隠されたモノを発見するパッシブ能力もあるということか。


 多分、パッシブ能力は俺の周囲限定。あまり広い効果範囲ではないのだろう。

 ただし、罠の感知ならばこれで十分。かなり便利なのかもしれない。

 ただ、隠されているという条件についてはもう少し調べる必要があるな。



「まあ、それは後でも良いか。今はこの袋の中身を確かめねば・・・」



 灰色の袋に手を突っ込み、中にあるモノを取り出す。


 それは9.5cm程の蒼く透き通った宝石。

 

「この大きさは・・・多分、準1級の蒼石」


 適正等級で言えば、レジェンドタイプをブルーオーダーできるモノ。

 これ一つで500万M。日本円にして5億円。


「これで俺の手持ちに蒼石1級と準1級がそろった・・・・・・」


 準1級であれば、あの緋王ロキですら、7割でブルーオーダーできる。

 もちろん失敗すれば5億円が吹き飛ぶから、そんな度胸はないけど。


「あはははははっ、やっぱり俺の勘は正しかった!あると思ったよ!等級の高い蒼石が!」


 絶対にあると思った!

 レジェンドタイプ、ストロングタイプ等の高位機械種を従属しているなら必ず!


 エンジュ達が仕留めた野賊の残党達は、5級以下の蒼石しか持っていなかった。

 だから、おそらく見つけられなかったのではと思っていたのだ。

 


「お、もう一個入っているな。これは・・・多分、準2級かな?」


 準2級は100%の確率でストロングタイプをブルーオーダーできる。

 これ一つで20万M。日本円で2000万円。

 

 残念ながら準1級を手にしたばかりで感動は薄いが、それでも高位蒼石に違いない。


 これで俺の高位蒼石の手持ちは『1級』『準1級』『準2級』の3つ。

 これ等を売り払うだけで人生を何回も遊んで暮らせるだろう。



「なるほど、主様が探しておられたのは、等級の高い蒼石であったのですね」


 納得がいったとばかりのヨシツネ。


「確かに、何かあった時の為に、必ず蒼石は近くに置いておきたいものですね」


 機械種使いのとって、自分の従属する機械種が万が一レッドオーダー化した時の対処の為、できる限り準備しておきたいモノなのだ。


 たとえ感応士でも、レジェンドタイプ、ストロングタイプともなれば、一瞬でブルーオーダーするのは難しい。

 そのイザという時の為に用意していたモノであろう。


「よし、これで探索終了。さあ、帰るか・・・・・・まあ、その前にもう一度、確かめておかないと」


 再度、掌中目を両手に持ち、その能力の範囲を広げて発動させる。



「掌中目よ!この建物に隠されたモノが無いか調べ上げろ!」


 

 両手の中の掌中目が輝き、その深遠を見通す目を以って、この建物全てを網羅していく。

 それはアリの巣に水が注ぎこまれるように隅々へと探索の目が広がっていき、やがて一つの隠された部屋を暴き立てる。



「むむ?下の方か?」



 流石に離れていては漠然とした反応しかわからない。

 

 ここは宝貝墨子で以って詳細を確かめねば。


 

「1Fの端の倉庫?」



 反応があった場所は、1Fの端っこに位置する体育館ほどの大部屋。

 場所的に倉庫かと思っていたが、掌中目によると隠されているのは間違いないらしい。


 

「ふむ、行ってみるか。お宝が残っているかもしれないし」



 

 




 




 辿り着いたのは、一見行き止まりにしか見えない場所。

 

 ただし、宝貝墨子ではこの先に部屋があるのは間違いない。


「隠し扉ね。堕ちた街にもあったなあ」


 以前は禁術を使って白兎の浄眼で反応を探ったが・・・


「掌中目よ!隠されし扉を暴き出せ!」



 ビカッ



 俺の目にだけ映る輝き。

 正しく隠された扉の形。


 対象が視認できればこちらのモノ!


 

「隠されし扉よ、閉まることを禁じる、禁!」



 バタンッ!



 壁の一部が開き、隠し部屋への入り口が露わとなる。



「よし!行くぞ!」



 俺、白兎、ヨシツネで踏み込んだその場所には・・・





「祭壇?」



 正しく神を祭っている祭壇のような部屋。

 

 ただし部屋の至る所にパソコンじみた機械が転がっている。

 まるで実験室を兼ねているかのような光景。


 部屋の中央にはキラキラと輝く光の檻が存在しており、その中にうっすらと見える人影が・・・



「おや、78日と16時間24分ぶりの人間だね」


「え?」


 突然投げかけられたボーイソプラノ。

 柔らかさの中に鋭さを含む、聞くだけで背筋がぞくぞくするような美声。


「主様!」


 ヨシツネが俺の前に出て、庇うような姿勢を取る。

 そして、白兎も俺の前に出て、いつでも飛びかかれる戦闘態勢。


「へえ?レジェンドタイプか。なかなかだね、お兄さん。それほどの高位の機械種を従属しているなんてね」


「・・・・・・」


 目の前の存在が認識しているのは、俺とヨシツネだけのようだ。

 所詮、軽量級の機械種ラビットということで、白兎のことは目に入っていない様子。



 そんな中、じっと目を凝らして光の檻の中を見ていれば、ゆっくりと浮かび上がる人影が垣間見えてくる。

 光の檻を通して朧げに見えている形から、人間とほぼ同じ大きさの存在。

 背格好から俺と同じ年くらいの少年のようにも見える。



「ふーん、前衛系かな?それも高機動戦を得意とするタイプと見た」


「主様、お下がりください。コヤツ、緋王です!」


 緋王!

 あの機械種ロキや、機械種バルドルと同じ!

 それほどの超高位機種がなぜここに!!



「緋王・・・ね。その呼び方よりも、魔王って呼ばれる方がボクの好みだよ」



 魔王!

 ユティアさんが言っていた魔王型!

 まさかこんな所で会おうとは・・・


 この光の檻は、この魔王を閉じ込めているのか。

 では、ここはこの魔王を封じるための部屋・・・



「お兄さん。先ほどからなぜ黙っているの?名前を教えてはくれないかな?」


 蕩けるような魅力を秘めた声変わり前の少年の声。

 別に少年を愛でる趣味など欠片も無いが、それでも無条件にその声に従ってあげたくなる程、俺の心へと浸透してくる。


 以前、やり合ったロキの声も魅力的だと思ったが、あの声は純粋に綺麗と思うだけ。

 しかし、こっちの声は明らかに俺を誑かそうという意思が感じられる。


 その意思が分かっていても、耐えがたいほど魅力的に感じてしまっているが。


「・・・・・・・・・」


「あれ?答えてくれないのかな?」


「・・・先に名乗ってくれないか?」


 何とか、その質問だけを絞り出す。


 名乗れと言うならそっちが先に名乗れ!と言いたいが、向こうが醸し出す異様な雰囲気に飲まれてしまってそれが精一杯。



「へえ、そうきたか。別に名乗って構わないけど・・・どうしようかな?」


 こちらを揶揄うような響きを含ませて、考え込む素振りを見せる魔王。


 そうしている間に、光の檻の一部が揺らぎ、俺の目にその魔王の姿を捉えることができた。



 一言で言うなら俺と同じ年くらいの絶世の美少年。

 

 黄金の冠を被っているようにも見える美しい金髪。

 美少女にも見える中性的な美貌。

 貧弱と呼ばれた俺よりも細い身体。

 その体を包む豪奢な貴族風の服装。

 

 ただ、人間と違うのはその緋色ともいうべき色の目。

 そして、頭に張り出した牡牛ごとき角。

 

 頭の左右から弧を描くように捻じれた角が飛び出している。

 金髪美少年を彩る装飾品にしては、あまりにも怪異過ぎるモノであろう。

 しかし、その異様さが返って少年の美を引き立てているようにも見えた。



 これを『異界の美』とでも言うのだろうか・・・



 

 俺達とを隔てる光の檻から少し距離を取った位置に、悠然と立つ絶佳の美貌を持つ少年姿の魔王。


 

 ああ、コイツは間違いなく強者だ。

 しかも、ラスボスよりも強い隠しボス。


 この超然とした雰囲気。

 透き通るような美声。

 絶対的な自信に裏打ちされたような自然な態度。

 どことなく似たようなシチュエーションから、同じ緋王の機械種ロキを思い出してしまうが・・・


 あれも外見は少年のようだったが、俺の目の前にいる存在は、それよりも物静かな感じ。

 機械種ロキの方は騒がしい悪戯小僧みたいな奴で、こちらは穏やかな優等生みたいなイメージ。

 ただし腹に一物抱えて良そうな所がよく似ているとも言える。

 

 機械種ロキの元ネタは悪神で、こっちは魔王なのだから、どちらもアライメントで言えば間違いなく『悪』。

 

 さて、魔王との折衝は、一体俺に何をもたらすのか・・・・・・

 




 再び光の檻が瞬いて、少年の姿を朧げとする。


 その姿を確認できたのはほんの数秒だったが、その姿は瞼の裏に焼き付いたかのよう。


 そして、再び光の檻の向こうから、魔性の響きが俺へと投げかけられる。 



「うん、こうしよう。ボクの名前を当ててみせてよ。そうすれば、お兄さんの仲間になってあげるよ」


 唐突に、トンデモナイ提案をしてくる少年魔王。


「どう?ボクは魔王だよ。そこのレジェンドタイプよりも遥かに強い。もしボクがお兄さんの仲間になれば世界の王になれるかもしれないよ」



 世界の王!

 


 いや、そういうのには興味は無いけれど。

 しかし、魔王を仲間にできると言うのは魅力的だ。

 それもレジェンドタイプを上回る魔王型。

 魔王を仲間にするなんて、正しく男のロマン!



「ふふふ、目の色が変わったね。さあ、頑張って見せてよ。でも、機会は1回だけだからね。失敗したら・・・イターイ仕置きが待っているかもね」


 光の檻の中から、こちらを挑発するような物言い。

 絶対に分からないと思っているのだろう。


 何の情報も無しに名前を当てろと言うのは不可能に近い。

 しかし、この世界の高位機械種が俺のいた世界の神話に語られる存在であれば、外見等でもある程度絞り込むことができる。


 しかも今回は自分で魔王と名乗ってくれているのだ。

 俺の知識の中で、当てはまる魔王を虱潰しに検索していけば・・・・・・

 

 



 アカン!

 結構数が多いかも・・・・





 魔王といってもその数は膨大だ。

 メジャーで言えば、キリスト教で出てくる魔王だけでも十体くらいは存在するはず。

 他の神話を含めば、それこそ百を超えるかもしれない。


 先ほどチラッと見えた姿だけでは対象を絞り込むのは困難だ。

 

 角の生えた魔王なんて、それこそ腐るほどいる。

 

 名前を割り出すにはせめて条件を絞らなくては・・・



「質問、いいかい?」


「質問?・・・ボクの名を聞いても教えてあげないよ」


「そりゃあそうだろ。名前じゃなくて、君の友達の名前を教えてくれないか?」


 もし、俺の知っている魔王の名が出れば、系統がある程度絞り込めるはず。

 そうでなくても、その響きから東洋系か西洋系がはっきりする。

 

 さあ、どんな名前が出てくるか・・・



「友達かあ・・・・・・・うーむ。その質問には『友達はいない』と答えよう!」



 はあああ?

 コイツ!!!!



「ははは、残念だったねな。ボクはボッチだったのだ!!ははははっはは」



 完全に俺を揶揄ってやがるな!

 馬鹿にしやがって!

 


「ちなみに質問は3回だけだよ。今、ボクが決めたからね。だから残り質問は2回だけ」



 クソッ!

 さらに制限してきた。

 

 このままでは情報が少なすぎる。

 少しでも情報を得ないととても正解までは辿りつかない。


 たった2回の質問で正解を導き出せることができるか・・・

 


 ・・・・・・・・・・・



 こうなったら番外で勝負するか。




「白兎、ヨシツネ。先にこの部屋を探索しよう。何かお宝が眠っているかもしれない」


 ピコピコ


「ハッ、承知致しました」


「え?ちょっと待ってよ。ボクの名前を当てるのは?無視しないでほしいな」


 光の檻の向こうから、少しばかりこちらにおもねる拗ねたような声。


「んん?別に無視している訳じゃないけど。この部屋にヒントがあるかもしれないだろ」


「酷いなあ、お兄さん。幼気なボクを放って置くなんて」


「おいおい、魔王にのクセに急に子供になるな。そもそも、こんな所に閉じ込められているのって怪し過ぎる。どうせ、あの感応士に捕まったんだろう?」


「・・・・・・ふん、あんな奴に捕まるモノか。ボクは413年215日前からここにいるのだから」


 つまり白色文明時代からここに封印されているということか。

 一つ、情報GET。


 長年こんな所に閉じ込められているならば、多少なりとも会話に飢えていてもしょうがない。

 向こうは大した情報とは思わなくても、こちらにとっては貴重な判断材料になる。

 後は、もう少し揺さぶりをかけて、断片的でも情報を口滑らせてくれることを期待しよう。



「何で逃げ出さないんだよ。魔王だろ。こんな檻、破れるなんて朝飯前じゃないのか」


「無茶言うなよ。これは忌まわしい白の民の設備。いかにボクでもそう簡単には出られないよ」


 魔王すら閉じ込める白色文明の封印ってところか。

 だとすると、コイツを仲間にする為にも封印を解く必要があるのだろうが・・・


「おい!ここから出られなければ、俺の仲間になれないだろうが!」


「だからそれをお兄さんに依頼しようと思ったのさ!」


「ちっ、しゃーない。どうすればいいんだ?ここからお前を出そうとすれば」


「・・・・・・この光の檻は多重次元牢と言って、普通の次元牢とは訳が違うんだ。通常の手段ではどうしようもない。たとえ、そっちのレジェンドタイプでもこの檻は破れない」


 それを聞いて、後ろに控えるヨシツネに目配せ。


「・・・この者の言う通りです。拙者のマテリアル空間器でもこの檻は破れません」


 ヨシツネがそう言うならそうなんだろうな。

 じゃあ、一体どうやって破るのか。


「可能性として高いのは、この建物自体を完全に破壊することかな。この建物のどこかにこの檻へとエネルギーを供給している設備があるはず。それを破壊すれば、この檻は消える・・・・・・かもしれない」


「それは・・・ちょっとばかり難儀だな。この大きさの建物を完全破壊って」


 俺の降魔杵や莫邪宝剣を繰り出しても、この建物を完全に破壊するにはかなり苦労しそう。


 それより、俺の倚天の剣でこの光の檻自体を切り裂く方が早いだろう。

 たとえ何十の多層空間障壁でも、俺の倚天の剣なら一太刀のはず。


 だいたい、こんな巨大な建物を完全破壊するなら、それこそ超重量級の機械種が何体も無いと・・・


 

 あれ?

 これは、ひょっとして・・・


 一応、話題に挙げてみるか・・・


「・・・そう言えば、2か月半前、この建物をバンバン殴っている超々重量級機械種が居たんだけど。あれ、多分、『臙公』だったような・・・」


「ああ、それはボクが呼んだんだよ。でも、すぐにいなくなったけど。全く役に立たないヤツ!」


 お前かい!

 あのデカブツを呼び出したのは!


「ボクを何とか従属させようとしていた感応士が死んだみたいでさ、その助手がここへ来てボクを解き放とうとしたんだよ。でも、結局、この多重次元牢は解除できなかった。でもね、思念を封じていた結界だけは解除できたから、この建物を潰せるくらいの近くにいる大物を呼び寄せたのさ」

 

 ・・・・・・結構、ヤバい話だったんだな。


 あの感応士がここに拠点を構えていたのは、この白の遺跡に封印されたこの魔王を手に入れる為か。

 しかし、感応士の力によってブルーオーダーしようにも、この多重次元牢を解除できず試行錯誤を繰り返していたのだろう。

 もし、あの感応士がコイツを従属していたらと思うと・・・



「それからずっと外へ向かって呼びかけているけど、一向に誰も来ないんだよ。かなり遠くまで届かせるようにしているんだけれどなあ・・・」


 光の檻で遮られて見えないが、おそらく困ったような顔をしているのだろう。

 その憂鬱さを湛えた声を聞くだけで、命を張って助けようとする人間が出てきそう。

 


 思念が届かない理由は簡単だ。

 俺がこの建物の周りに万仙陣を展開していたからに決まっている。

 3つの世界を重ね合わせて展開している多重陣だ。

 たとえ魔王の思念とて、世界を3つも超えては届くまい。





 んん?

 まてよ・・・


 1回目の未来視では、建物ごと異空間にぶっ飛ばしたな。

 つまりコイツごと異空間へ飛ばしたから、あの『橙伯』も『臙公』も出てこなかったのか。


 2回目は・・・・・・

 その助手がコイツの思念を封じていた結界を解除できなかったからかな。

 若しくは、ヨシツネが暴れた際に、その助手も殺していたかだな。



 そして、本番である3回目。

 その助手が思念を封じている結界を解き、コイツは思念で近くにいる『橙伯』、『臙公』を呼び出すことができた。


 あの超大型巨人の『化け物』と、あの道化師の『髑髏』は、少なくとも空間転移で飛んでこれるくらいに近くにいたということで・・・・・・・


 ・・・・・・・あれ?

 ひょっとして、打神鞭が描いた最初の地図。

 俺が無視した『化け物』マークと『骸骨』マークはあの『橙伯』、『臙公』を意味していたのかも・・・・・・


 まあ、今更のことだが。

 

 いや、それよりも、確か、『橙伯』である機械種デスクラウンが言っていた『炎の王』に呼び出されたと言う言葉。



 ・・・・・・・・・・・

 

 

 魔王、角つき、炎の王。


 そして、俺に持ち掛けてきた仲間になるという『取引』

 それが悪魔の誘惑というものであれば、コイツは交渉術に長けた魔王である可能性。



 これ等のワードから連想される存在に思い当たるモノがあるのだが・・・


 ふーむ。どうしたものか・・・


 もし、俺の想像通りの魔王なら、コイツは・・・





 ・・・ヤバいな。

 

 たとえ、名前を当てようと戦闘になる可能性が高い気がする。

 

 魔王型ともなれば、以前、ユティアさんが言っていた強化外装を召喚するかもしれない。


 あの『臙公』の超大型巨人並みの強化外装を呼び出して大暴れされたら、俺や白兎、ヨシツネ、豪魔はともかく、外の天琉や森羅、廻斗の身が危険だな。


 ならばここは・・・・・・




 俺は少年魔王から少し離れてしゃがみ込み、足元の白兎へと手で触れて、その背中に指で指示を書く。


 廻斗と同様、俺と白兎の間であれば、これで十分。


 白兎は耳をピコピコ揺らして了解の合図。


 そして、白兎はそのままヨシツネに近づき、足をトントン。

 それから身体全体を使った、いつものボディランゲージ。


 それを見たヨシツネはしばらく逡巡した顔を見せていたが・・・・・・



「では、主様。少々席を外します」


 俺に声をかけて退出するヨシツネ。



「んん?ソイツは何処へ行くの?マスターを放って置いて」


 またも、光の檻が揺らいで、少年魔王の姿が露わになる。


 血よりも赤い緋色の目を瞬かせて、不思議そうな顔をしている少年魔王。

 目の色と頭に張り出した角がなければ、本当にただの人間に見えてくる・・・

 いや、その人間離れした美貌を除けば。


 

 ほお…、また見えなくなった。


 もし、ずっとその姿が見えている状態だったら、俺の精神状態がヤバかったかも。

 美少年に興味は無いが、それでも、垣間見えるその美しさには目が眩みそうになる。


 それにある程度距離が空いているのも幸いだな。

 あの美貌を間近で見るのは心臓に悪い。 


 交渉事には平常心が必要なのであれば、多分、この魔王を相手にするなら、姿は見えてなくて、離れている方が良いだろうな。



「ボクが話している最中に、席を立つとは失礼な奴だなあ」


「ああ、悪いな。少し用事を思い出してね。すぐに帰ってくるよ」


「へえ、用事か・・・・・・、いいの?頼れる護衛がいなくなったよ」


「大丈夫。ここに俺の頼れる筆頭従属機械種がいるからね」


 フリフリ


 俺の紹介に機嫌を良くした白兎が、耳を揺らしながら後ろ脚で立ち上がって胸を張る。


「・・・・・・ボクを馬鹿にしているの?それはただの機械種ラビットだよ」


「お前こそ遅れてるな。最近のラビットは凄いんだぞ。何せ炎を吐くくらいだ。白兎!」



 ボフォオオオオオオオ!!



 白兎の口から斜め上に炎が吐き出される。

 小さな兎から10m程の炎の帯が放射されるという奇妙な光景。

 それは少年魔王にも感銘を与えると思いきや・・・


「はあああ?なんという無駄な改造。しかもそんな矮小な炎・・・」


「そうは言うけど、これで敵を蹴散らしたこともあるんだ。炎を纏いながら相手に突撃する『火の戦車』のごとくね。相手にとっては肉を焼いて血を焦がす『地獄の炎』だったよ」



 さて、これらのワードに喰いついてくるか。

 これで反応するようなら・・・・・・・



「・・・・・・お兄さんは本当の地獄の炎を知らないようだね」



 口調に僅かながら苛立ちが混じる。

 どうやら先ほどの俺の言葉の中に、魔王として看過できないモノがあったのだろう。


 さて、苛つくポイントは『火の戦車』だったのか『地獄の炎』だったのか・・・

 こんな機械種ラビットに自分の権能を例えられては、機嫌も悪くなろうというモノ。


「へえ、そんなモノがあるのなら見てみたいものだな」


「お兄さんがボクの名前を当てるのを失敗したら見せてあげるよ」



 よし!これでコイツの行動をある程度誘導できた。

 万が一、こちらへ攻撃してくるとしても、まず火炎系を繰り出そうとするはず。

 できる限り空間系の先制攻撃は回避したいからな。


 また、コイツの口振りから、ここからは出られないが、ある程度檻の外へ自分の力を振るうことができるのだろう。

 それができるようになったのは、ここへ来た助手とやらが結界の一部を解除してからなのだろうか?

 そして、結果的に多重次元牢を解除できなかったその助手の運命は・・・



「・・・・・・もう一度確認だ。俺がお前の名前を当てたら、仲間になるんだな」


「まずここからボクを出すという条件がつくけどね」


「俺の仲間になるんだな?」


「・・・・・・ああ、約束するよ。ボクの名に誓って!君と出会えたのは、運命だと思う。その幸運を引き寄せる力が英雄の条件だよ。君こそ世界の王に相応しい!」



 そう宣言する少年魔王。

 その声だけで人間を蕩けさせる魅力を秘める。

 もし、美貌も加算されていれば、人間に魂を捧げさせることも可能だろう。



 だが・・・・・・・



 失言だな、魔王。

 人の心を揺さぶる言葉だが、凡人を自称する俺には響かない。 


 俺は自分のことを英雄だなんて思ったことが無いし、他人からもそう思われることなんて絶対に無い!


 そんな男に魔王ともあろうものが自ら頭を垂れるわけがない!


 俺が幸運を引き寄せるだと!


 英雄願望を持った少年なら、その言葉で浮かれたかもしれないが、俺の運が良いわけあるか!


 世界最強の存在となる『闘神』スキル。

 数多の仙術を行使できる『仙術』スキル。


 この2つを持っていてなお、俺の欲しいモノは手に入らないんだ!

 どれだけ俺の運が悪いと思っているんだよ!

 

 そんな凡人でしかない俺の仲間に入るだと!

 しかも、名前を当てただけで!


 さらにコイツ、自分の名前に誓いやがった。

 信ぴょう性を高めようとしたのだろうが、俺から言わせれば胡散臭すぎるんだよ!

 

 この嘘つきめ!

 お前の嘘は英雄や賢者、賢王や聖人にしか通じない!

 凡人の俺には、ただの妄言にしか聞こえないんだ!






 さあ、これからがクライマックス。


 ヨシツネは無事に終わらせただろうか。

 

 あと、白兎はどうしよう。この様子だと、運が悪ければコイツとの戦闘は避けられない。

 果たして白兎の実力は、この魔王に対抗できるモノなのか・・・


 

 ピコピコ



 俺に分かるように耳を振るって、白兎は自分の意思を伝えてくる。



 そうか。

 お前には空間制御も、燃焼制御もあるから大丈夫か。


 

 なら、始めようか。

 魔王を仲間にするミッションを!



 

 光の檻の方へと一歩前に足を踏み出し、少年魔王との距離を詰める。


 禁術を行使するなら近づく必要がある。

 

 パッと見、光の檻を挟んで、少年魔王との距離は15m強。

 禁術を行使するなら少し遠い。

 できれば確実に影響を及ぼせる5mまで近づきたいところ。


 その為には、まずこの光の檻が邪魔だ。




「へえ…、ボクの名が分かったのかな?」


「・・・・・・・・・」


 少年魔王の問いには答えず、俺は右手を七宝袋の中に入れた。


 そして、怪訝な表情を見せる少年魔王に向かい、左手でビシッと指差して、宣言。



「お前の名を告げよう。お前の名は機械種べリアル。そして、お前をここから解放しよう。この倚天の剣によって!」



 右手で七宝袋から倚天の剣を抜き出して、一閃。




 スィン!!




 斜めに走った倚天の剣の閃撃。


 空間障壁を幾層も重ねた多重次元牢は、その一振りによって切断。


 

 パリンッ!!



 ガラスが壊れるような破砕音が鳴り、俺と少年魔王を隔てていた光の檻が砕け散る。



 

「おお!!これは・・・・・・」



  

 自分を400年以上も閉じ込めた多重次元牢がいともあっさりと崩壊。


 信じられない現象への驚愕と、長年の戒めから解き放たれた歓喜とが、声の中に入り混じる。



「どうだ?当たったかな」


 役目を果たした倚天の剣を七宝袋へとしまい込み、感動に打ち震える少年魔王・・・いや、機械種べリアルへと声をかける。

 そして、さりげなく歩みを進め、12m程の距離まで接近。


 焦って走り出せば怪しまれる。

 口訣だけではなく、手の平を相手に向けるという導引も必要なのだ。

 攻撃動作と取られれば、即、苛烈な反撃が飛んでくるだろう。


 チャンスは1回。

 それを逃せば、相手が空間転移する可能性もある。

 できれば隙を見つけたいのだが・・・


 

「・・・・・・・ああ、当たったよ。ボクの名はべリアルだ。感謝するよ、お兄さん」


「んん?そこはマスターと呼べよ。名前を当てたら仲間になるんだろ」


「そうだね。本来なら、そう呼ぶべきなんだろうけどね・・・・」


 こちらへと顔を向けた機械種べリアル。

 

 その顔に映るのは『悪魔ごとき微笑』


 契約を逆手にとって召喚主を殺す時、

 契約後の代償を求め、契約者を破滅させる時、

 与えるだけの幸福を与え、それを引き剥がして絶望に叩き込む時、


 正しくそんな時に悪魔が見せる表情。

 その表情はとてもマスターになる者へと向ける表情ではない。

 


「残念だったね。あれは嘘なんだ」


「・・・・・・・・自分の名に誓ったんじゃなかったのか?」


「うん、誓ったよ。でも、ボクの名の意味は『無価値』。だから自分の名にかけた誓い等何の意味もないのさ」



 知ってる。


 魔王べリアル。

 ソロモン72柱の1柱にして、地獄の公爵。7大魔王の一人とも言われ、7つの大罪の内、『傲慢』を司っているとも言われている。


 本人も言う通り、名前の意味は『無価値』、又は『邪悪』。

 神の名に誓わせなければ、召喚者に対しても嘘をつくという。

 そんな奴の言葉なんて何一つ信じられるわけがない。


 その異名も『偉大なる公爵』、『虚偽と詐術の貴公子』、『炎の王』、『敵意の天使』、『隠されたる贈賄と暗殺の魔神』と割と酷いモノが並んでいるくらい。





 一歩俺に近づく機械種べリアル。

 

 俺も歩みを止めず、8mまでの距離。

 

 ここまで近づけば、あと数歩で縮地の範囲だ。

 後ろに回り込んで、術を行使すれば、5秒から10秒程度行動不能にてきる・・・



 しかし、解き放たれた機械種べリアルは、俺の思惑を他所に、その繊手を伸ばし・・・



「さあ、お兄さんは地獄の炎を見てみたいと言っていたね。希望通り見せてあげるよ。貯まりに貯まった400年分の怒りを・・・」



 その手の平を俺の方に向けて、何かを握る込むような仕草。

 

 手の平の中には何もなかった。

 いや、存在していたのは空気だけだっただろう。


 そう、空気だけだったのだ。





 そして、それは『弾けた』





 ピカッ





 俺の視界が一瞬にして白に染まり、辺りに閃光と放射熱が吹き荒れた。


 

 体全体に浮遊感が漂い、まるで空中に浮かんでいるような気持になってくる。



 部屋全体に広がった白は、やがて部屋に収まり切らずに外へ溢れ出す。


 

 そのままドンドンと広がっていき、やがて建物を飲み込み、周りの森にまで影響を及ぼす。


 

 おそらくそれは範囲を限定した核爆発に等しいモノ。


 手の中にあった物質が弾けて核熱と衝撃をまき散らしたのだ。


 その中心温度はいかほどであったのだろう。


 多分、数万度とか、数十万度、いや、それ以上なのかも。


 正しく太陽を超えた神の怒り・・・いや、地獄の炎だったな。


 それほどの現実離れしたエネルギーを至近距離で受けてしまった。


 何物をも蒸発させる核熱を、全てを破砕する衝撃を。


 それらが俺に与えた影響は・・・・・・・














「クシュンッ」




 鼻がムズムズして思わずくしゃみ。


 いや、寒い所から急に暖かいに入ると、鼻がムズムズするんだよな、俺。





 目の前には、惚けた表情の機械種べリアル。


 本来なら、生身の人間など影も形も残らず焼き尽くすはず。

 しかし、自分の前の存在は、全くの無傷。


 余りの信じられない状況に、俺に手を伸ばした状態で固まっている。


 まあ、隙だらけだけど、念の為にスタスタと近づき、禁術を行使。



「緋王にして魔王型、機械種べリアルよ。動くことを禁じる、禁!」



 間抜けな表情のまま、動きを止める機械種べリアル。

 ただし、それでも美しさは変わらない。

 微動だにしない様は、美術館に飾る美の化身と名をつけた彫像のようだ。


 

 その美しさには脱帽するしかないが、流石にこの状況では俺も惚けるわけにはいかない。


 七宝袋へと手を突っ込み、その中から取り出すのは・・・




『蒼石1級』




 これまでずっと秘蔵したしいたモノ。

 ひょっとしたら一生使わないかもしれないと思っていたが・・・

 準1級でもいけるかもしれないが、ここは確実性を取っておこう。





「えい!」




 カシャーン!!




 蒼の衝撃が広がり、機械種べリアルを染め上げていた赤の威令が浄化され、残ったのは・・・・・・




 両目を青く点滅させる角突き金髪の美少年。




「おっしゃあ!ブルーオーダー成功!」



 最高等級だから、大丈夫だとは思ったけど、実際にやってみないと分からないところがあるからなあ。




「それと・・・・・白兎!大丈夫か?」




 ピョン




 崩れた床板から飛び出してくる白兎。


 神珍鉄で構成される白兎の装甲は、核熱であっても耐えられる仕様のようだ。

 俺が未来視で持っていた神珍鉄製の如意棒も、それに近い温度でも耐えたから大丈夫だとは思っていたけど。


 それとも燃焼制御で炎を無効化したのか、又は、異空間に避難していたのか・・・



「しかし、まあ・・・・・・、見晴らしがよくなっちゃって・・・」



 あの核爆発により、一瞬で建物は吹き飛んでしまい、完全な更地状態。

 さらには周りの森まで被害は広がっている。


「まさか核爆発が来るとは思わなかった」


 あと数歩のところだったが、間に合わなかった。

 いきなり爆裂攻撃が飛んでくるとは予想外。


 ただ、本当の核爆発というには範囲が小さすぎると言わざるを得ない。

 威力は相当なモノであったが、何かしらの手段で範囲を限定しているのか、それとも、核爆発に似た何かなのか・・・・・・


 発掘品の中には『反応弾』と言われるモノが存在する。

 一発で街を壊滅させることができる兵器だが、なぜか白鐘の恩寵内だと不発となり、また、外で爆発させても中までの影響を及ぼせない。

 だが、野外であれば、これ以上ない一撃必殺の秘密兵器であるのは間違いない。


 ただし現存する数はほんの僅か。

 これを保有するのは、白の教会と大陸有数の大国のみ。

 当然、隠し持っているモノはいるのだろうし、その超小型バージョンなら超一流の猟兵団が保有していることもある。

 


「反応弾を使用する機械種・・・・・・、伝説には残っているけど」


 俺の想像では、神話にある巨大な火の戦車を呼び出して、俺達を蹂躙しようとするというものだったけど、まさか人型の状態で反応弾に近い威力を出してくるとは・・・

 400年の怒りと言っていたが、ただの比喩なのか、それとも、そのエネルギーを400年貯めての威力であったのか・・・



「ヨシツネを走らせて、避難させておいて良かったな」


 森羅達と合流したヨシツネは、今頃は森の外で待機しているはず。

 その空間大転移により、車ごと離れてもらっていたのだ。

 

「さあ、コイツを従属して、ヨシツネ達と合流するか!それから辺境と中央の境目の街、バルトーラへ向かうぞ!」


 ピョンピョン


 従属契約を結ぶため、立ち尽くす機械種べリアルに近づく。


 これが、スラムから出て、バルトーラの街に辿りつくまでの行程の中、俺が手に入れる最後の仲間となるだろう。



 


 今回の旅で、俺が手に入れた機械種は・・・・


 エルフ、小悪魔、天使、大悪魔。


 魔法少女に、道化師に、魔王・・・



 あれ?ここってロボと銃が溢れるアポカリプス世界じゃなかったっけ?


 いつからファンタジー世界になったのやら・・・



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