第315話 幸せ2


 ミランカさん、ミレニケさんと一緒に隊商の護衛依頼を受けた俺。

 途中で野賊の奇襲を受け大ピンチに陥るも、俺がチートスキル、そして秘匿していたヨシツネを出したことにより、無事切り抜けることができた。

 

 しかし、姉妹には俺がただ者ではないことがバレてしまった様子。

 さて、これからどうするべきか、未だ決められない状況。 


「ふう…」


 運転席で移り変わる外の景色を眺めならがため息が漏れた。


「・・・なるようにしかならないだろうけどね」


 ピコピコ


 小声でコソッと呟いた俺の独り言を受けて、助手席の白兎が同意とばかりに耳をフリフリ。

 

 ミランカさん達は今は後部座席で色々と作業中。

 俺が倒した野賊達の所有品から価値のあるモノを選別してくれている。


 何も役に立てなかったから、これくらいは任せてほしいとのこと。

 

「そういった細々した作業って苦手だから、助かるのは助かるんだけど・・・」





 予定通り街へと辿り着き、約束通りの報酬を貰って初仕事は終了。


「野賊を壊滅させたのに、報酬が変わらないって、ちょっと損した気分だ」


「そうね。だけど、あの人達も荷物が減って大変みたいだから。でも、臨時収入があったでしょ」


 ミランカさんが言う臨時収入とは俺が倒した機械種から集めた晶石のこと。

 本当は残骸ごと七宝袋に収納したかったのだが、人の目があるので諦めるしかなかった。

 それでも野賊の死体から集めた所有品と合わせれば、十分に一財産だと言える。

 


「ヒロ!私達の知っている商会の秤屋があるから、そこでマテリアルに換えてもらえるよ!行こう!行こう!」


 俺の腕を掴んで無理やり腕を絡ませてくるミレニケさん。

 ちょっとばかりスキンシップが多くなった気がする今日この頃。

 美少女に纏わりつかれて悪い気はしないけど。


 その後、秤屋でマテリアルに換えてもらい、数年は楽に暮らせるだけのモノを手に入れた。


「ヒロってば、裕福になっちゃって。私達に幸せの御裾分けしてくれてもいいんだぞ♡」


「まあ、それくらいいいですけど。どこか高級レストランでも・・・」


「ヒロ君・・・」


 しなだれかかるミレニケさんを適当にあしらっていると、突然、ミランカさんが小声で呼びかけてきた。

 

「少し雰囲気がおかしい。周りの目が・・・」


「え?・・・そう言えば、何か注目されているような・・・」


 何人かがこちらに視線を飛ばし、俺達のことを噂でもしてそうな様子。


「ミスったかな。アイツ等が・・・」


「ミランカさん?」


「ごめん、ヒロ君。多分、私達が護衛してきた隊商の奴等・・・ヒロ君が今回の護衛でかなり稼いだっていう情報を売ったのかも。それに発掘品を持っているとかの情報も・・・」


 あ・・・

 確かにその可能性は十分にある。


「早く街から出た方が良いわ。いくらヒロ君が強くても、相手はどんな手を使って来るか分からないし・・・」


 ふむ。

 そうしようか。

 車を護衛させているヨシツネも心配だし。


 パタパタ


 んん?何だ?白兎・・・・・・何々、向こうからたくさんの人間が向かって来るって!

 イカン!

 こんな街中で襲われたら、俺はともかくミランカさん達が危ない。


「ラン姉さん、ニケ姉さん。ここはひとまず逃げましょう!」






 急ぎ街を脱出する俺達。

 そして、そのまま中央へと向かう道を進んでいく。

 

 幾日も車で寝泊まりを繰り返し、幾つかの街を経由して、中央への入り口であるバルトーラの街に着いた。


 そこで腰を落ち着けて狩人活動を始める俺達。

 中央へ行く為には、バルトーラの街で一定以上の成果をあげないといけない仕組みらしい。

 

 俺とミランカさん、ミレニケさんの3人でチームを作り、付近に出没するレッドオーダーを狩り、近隣の巣を攻略して名を上げていく。




「抜刀隊!前へ!」


 ヨシツネの号令にて隊列を組んで進むジョブシリーズ、ノービスタイプの前衛系達。

 もちろんヨシツネは先陣を切り、敵へと真っ先に突撃していく前衛隊長。


 レジェンドタイプであるヨシツネは、ミレニケさんの改造によりジョブシリーズ、侍系のストロングタイプ、機械種サムライマスターに偽装された。

 ヨシツネの隠身スキルもあり、一目で見抜くのは至難と言ってもいい具合の仕上がりだ。

 おかげでようやくヨシツネを表に出すことができるようになり、俺達を舐めてかかる奴はいなくなった。


「魚鱗の陣!突撃!」


 今まで七宝袋の中で待機していることが多かったヨシツネだ。

 表に出るようになってからは戦場では常に一番槍、街中ではミランカさん達の護衛と大活躍。

 空間転移等の大技は使用を制限されているものの、機械種の中でも最高峰と言える剣技を振るい、俺達の大いなる力となってくれている。






 ピコピコ


 ガチャ

 ガチャ

 ガチャ

 ガチャ


 白兎の指示により、一斉に銃の撃鉄を上げる様々な種類の軽量級機械種達。

 機械種ハーピー、機械種インプといった空戦銃兵。

 機械種コボルト、機械種ゴブリンといった陸戦銃兵。

 

 奇襲での一斉砲撃や追撃を任せる遠距離攻撃部隊。

 同じく銃を構えた白兎が率いる射撃兵達。


 フリフリ


 一糸乱れぬ部下たちの動向に対し、機嫌良さそうに長耳が震えている。

 自分が鍛え上げた兵達の熟練具合に満足しているようだ。


 かくいう白兎は後衛部隊隊長。

 テンガロンハットを被り、片目には黒い眼帯、頬にはどこかの海賊の様なサンマ傷。

 顎の下に付け髭を蓄え、口元には煙草を模した木の枝を咥えた有様は、もうすでに混ざり過ぎて何が何やら。

 おまけに左腕に書かれた『さいこがん』の文字、右腕に書かれた『XYZ』の文字が全く持って意味不明。

 一体何がお前をそうさせてしまったのか・・・


 ミランカさんからお遊び半分で渡された銃をなぜか気に入ってしまい、そのまま銃手になってしまった白兎。

 今では百発百中の腕を誇る辺境最高の銃手と言えるようになった。

『ラビットファイアの白兎』と言えば、この街では早打ちナンバーワンとして俺よりも有名だったりするのだ。


 なんでそうなったのかは・・・語るには長過ぎる。


 古びた機械種ガンマンとの出会い。

 発掘品の銃を賭けた決闘。

 そして、バルトーラの街に巣くう悪党達との大乱闘。

 幾つものトラブルとイベントを切り抜けた大長編ドラマに匹敵する物語。

 機会があればどこかで語る日が来る・・・かもしれない。

 




 また、ミランカさん達から貰ったモノを宝貝にすることもできた。


 宝貝 混鉄木(こんてつぼく)


 これはミランカさんから貰った鉄棍を宝貝化したモノ。

 大変悪目立ちする莫邪宝剣以外の近接武器というと、俺の手持ちでは鉄パイプしかないというのが現状だった。

 それはあまりにもということで、見るに見かねたミランカさんが俺にプレゼントしてくれたのだ。


「ヒロ君は力持ちだから特に頑丈なモノを選んだつもりよ。絶錬鋼を混ぜた超合金製なの。これならいくら振り回しても折れないと思う」


 1.5m程の黒い鉄棒。

 形状的には未来視での魔弾の射手ルートにおいて、手に入れた如意棒に近い。

 

 まあ、それもそのはず。

 混鉄木は西遊記に登場する中ボス(話によってはラスボス)牛魔王の武器なのだ。

 あまり知られていないが、西遊記の主人公である孫悟空と牛魔王は義兄弟の契りを交わした間柄。だから持ち武器も似た様なモノになるのは良くあることだと言える。


 混鉄木の能力はその頑丈さ。

 ヨシツネに言わせれば空間攻撃にすら耐えうる強度を持つらしい。

 如意棒は空間攻撃で真っ二つになったこともあったから(伸ばしたら元に戻ったけど)、強度の上では混鉄木の方が上なのであろう。

 決して壊れない武器と言うのはそれだけで価値がある。

 俺が普段使いするにはもってこいの武器だ。




 宝貝 勒甲玲瓏獅蛮帯(じんこうれいろうしばんたい)


 これはミレニケさんから貰ったガンベルトを宝貝化したモノ。

 獅子が描かれたバックルに煌びやかな装飾がついた男心をくすぐる一品。

 

「アタシの趣味は細工物だから、ちょっと凝ってみたのよ。カッコいいでしょ」


 ウエストポーチのように腰にグルリと巻くタイプ。

 銃を見えやすい位置に装備しておくことが、周りのモノへの牽制になるそうだ。


 宝貝化してもあまり形状が変わらなかったのは非常に助かった。

 せっかくのミレニケさんからのプレゼント。

 いつもきちんと装備していることをアピールしなければ。


 この勒甲玲瓏獅蛮帯というのは三国志における最強武将、呂布奉先が締めていたという帯のこと。

 これは宝貝ではなく、倚天の剣と同じように英雄の遺品が昇華されたモノだ。

 その能力は人中の呂布と呼ばれた無双の武をその身に宿すというスキル付与。

 つまりこれを俺が装備すると呂布と同等の武を振るえるということなのだ。


 元々最強の肉体スペックを持つ俺が、呂布の武を備えることで正に無敵。

 しかもこれを付けていると武人の威圧感が周りに迸っているらしく、俺に絡んでくるヤツはほとんどいなくなったほど。


 さらに俺の銃の腕まで上がるというオマケ付き。

 これはおそらく呂布が弓の腕も超一流であったことが原因であろう。

 



 2つの宝貝を手に入れたことで、俺の戦力も大幅アップ。

 その勢いのまま、出世街道をひた走る俺達。


 なんやかんやでバルトーラの街で注目されながら成果を上げ続け、そして、1年足らずの活動で一定以上の成果を上げて中央へ切符を手に入れた。


 また、その頃には俺達の関係も大きく変わってしまっていた。



「ヒロ君、私のことはランと呼んでねって言ったでしょ」


「いや、ずっと『ラン姉さん』で通して来たので、まだ言い慣れないと言いますか・・・」


「ヒロったら照れちゃって可愛い!私のこともニケでいいのに」


「徐々に慣らしていきますから・・・」


「ホントにホントだからね!」

「ふふふ、姉妹共々よろしくね」


 左右の手をしっかり姉妹で抑えられながら、耳元で甘い言葉を囁かれる。


 はははは、姉妹まとめて手を出してしまいました。

 だって、しょうがないよ!

 一緒の車で寝泊まりしたり、同じ部屋に泊まったりで、ずっと一緒にいたんだもん!


 それに俺が不思議な術を使えることや現代物資召喚のことも言ってしまった。

 だって、水とか食料とか、これが無いと不便この上ないから!


 女の子2人が何日も風呂に入らないのを見ていたら、そりゃあ仙術でも何でも使って野外に風呂でも作ってしまいますがな!

 あのクソマズイシリアルブロックとか、ずっと食べ続けるのは我慢ならないし!


 あと、簡易トイレも作ったさ!

 俺の部屋から材料を少しずつ取り寄せて組み合わせ、木々を切り倒して板を作り、重ね合わせた公衆電話ボックスみたいなモノ。


 まあ、俺は材料を提供しただけで組み上げてくれたのはニケだけど。


 普段は七宝袋に収納していて、使用する時は外に出す仕様。

 苦労したのは便壺の底に設置した汚物を消し去る陣の作成。

 どのような物質も触れれば一瞬で陰と陽に分解されるというモノ。

 実に無駄に高度な仙術で作りましたよ!

 

 

 もうこの2人とは離れられない。

 すでに俺の秘密は知られてしまったし、俺の心も掴まれて雁字搦めにされている。

 



 でも、俺は後悔していない!



「ヒロ君、今日はどうします?私ならいつでもオッケーですよ」

「えー!次はアタシだよ!ずっと我慢してたもん!」



 いつもは厳しく見えるけど、実はとっても優しいミランカ。

 切れ長の目に細面。『綺麗』という言葉が似合う和風美人といった風情。

 艶やかでいつも濡れているような滑らかな黒髪。

 前は肩までの髪の長さだったが、今は背中くらいまであるロング。

 俺が長く伸ばした髪が好きだと言ったから、伸ばしてくれているのだ。

 背が高くてプロポーションも抜群。

 胸が大きくて、腰が細くて、お尻が大きいというモデル体型。

 機械種使いで、冷静沈着。

 うっかり屋さんの俺をしっかりとサポートしてくれる俺の恋人兼パートナー。



 いつも子供っぽくて騒がしいけど、実はとっても寂しがりやなミレニケ。

 お姉さんより少し丸顔の可愛い感じ。いつも表情がクルクル変わる五月晴れ系女子。

 少し茶色が入った黒髪を後ろでくくったお団子頭。髪を解くとセミロングくらいの長さになる。

 背は俺より10cm以上低く、体形は細目で胸もやや小ぶり気味。

 本人は姉よりも小さいことを気にしているが、俺は大も小もイケる派だから気にしない。

 感情豊かで、場を明るくしてくれるムードメーカー的存在。

 青指の技術を持ち、陰日向に俺達を支えてくれるエンジニア。

 優柔不断な俺の背中を押してくれる俺の恋人兼相方。


 

「ふふふ、じゃあ、今日は2人でしましょうか?」

「あっ、それいいね。今夜は2人がかりで寝かさないぞ!」

 

 

 幸せを2つも手に入れてしまった。

 あとはこの幸せを守り抜くための力を手に入れるだけ。


 さあ、中央へ行こう。

 俺達の幸せを確実なモノとする為に。




*********************************




「ヒロさん!どうしました?」


 俺を呼ぶ声がする。

 いつも聞いている声のはずだけど少しだけ違和感が・・・


「ヒロさん!」


 あれ?俺のこと、さん付け?

 そんな他人行儀な・・・


「ヒロさん!」


「起きているよ、ラン姉さん。そんなに何回も呼ばなくても・・・」


「え!」


「へ?」


 ビックリしたミランカ・・・さんの顔が目の前にあった。

 目をまん丸に見開いて、唖然とした様子。


「あ・・・・・・」


 しまった。

 なぜだか分からないけど、ミランカさんのこと『ラン姉さん』って呼んでしまった。

 これは恥ずかしい。

 授業中に女先生を『お母さん』って呼んでしまったみたい。


「す、すみません。ちょっと寝ぼけてしまったようで・・・」


「いえ、別に気にしていませんから」


 俺の慌てぶりをニッコリ笑ってサラリと流してくれる。


「フフフ、良かったらこれからもそう呼んで頂いても構いませんよ。私も頼りがいのある弟ができて嬉しいですから」


「あはははは・・・、勘弁してください」


 とりあえず笑って誤魔化しておこう。

 

 しかし、何でいきなり『ラン姉さん』という呼び方が出てきたんだ?

 寝ぼけていたのかなあ。

 でも、なぜか良い夢でも見ていたような気分・・・


 それになぜかミランカさんが近くにいるのが当然のように思ってしまっている。

 さっきまで気まずいと思っていたのが嘘のよう。

 まるで何年も一緒に過ごしていたような落ち着き具合。


 なんだろう、この気持ちは・・・



「・・・・・・ヒロさん、お疲れのようですね。そろそろ休憩に入られては?」


 俺がまだ、ぼーっとしているのを見て、ミランカさんが休憩を提案してくれた。


「ああ、そうですね。そろそろお昼になりますし・・・」


 自動運転とはいえ、ずっと車に乗りっぱなしでは疲れも溜まってくる。

 潜水艇に居ればそんなことはないのだろうが、車を動かすためには誰か人間が乗っていないと駄目なのだ。

 機械種が乗り物を動かそうとするなら『運転』系のスキルが必要となる。

 残念ながら俺が従属する機械種にその系統のスキルを持っている機種はいない。

 バイクであればヨシツネの持つ『騎乗』のスキルで操作できるのだが。



「では、後ろのエンジュさん達に連絡を入れておきますね」

  

 そう言ってミランカさんは助手席からマイクで潜水艇に休憩する旨を連絡してくれる。


 相変わらずよく気の利く人だ。

 多分、心情は妹の為に出来る限り急ぎたいのだろうが、俺の疲れを心配してくれて、焦りを抑えてくれているのだろう。 


 野賊のアジトに到着すれば、おそらく戦闘になるのは間違いない。

 身体を暖めておく為に、休憩中は少し身体を動かすことにしよう。

 エンジュの訓練にでも付き合うことにするか。

 

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