第175話 選別
2階食堂を覗くとピアンテとイマリに遭遇。
何やら自分達のラビットを前に話が盛り上げっている様子。
気になって、俺も話に入らせてもらうことにする。
話題は従属したばかりのラビットの衣装?ついてだった。
「ラビーにはピンクのリボンを結んであげることにしましたの」
ピアンテのラビットはフリフリしたピンクのリボンを耳に付けており、メルヘンチックな仕上がりとなっている。
「私のトッシュはマフラーを巻くことにしたんですよ!ほら、カッコ良いでしょ!」
イマリのラビットは首に紫色の布を巻きつけて、首輪の代わりとしているようだ。
このチームに20体ものラビットがいるんだから、個体識別が必須となるのだろう。
皆が自分だけのラビットを飾るのに夢中になっているようだ。
娯楽の少ないスラムだから、ラビット達はおあつらえ向きの着せ替え人形といったところか。
白兎と、ラビット2体は耳をパタパタさせながら、お互いの鼻を突き合わせてじゃれ合っている。
ピアンテとイマリのラビットは、リボンやマフラーがワンポイントとなってお洒落に見えるな。
対して白兎だけが何の装備もしていないので、全くのノーマル仕様のように見えてしまう。
白兎にも何かオプションパーツみたいなものを装備したいぞ。
俺の筆頭従属機械種なんだから、できれば特別感があるような装備をつけてあげたい。
ミサイルランチャー的なモノがいいか、それとも、ビームサーベルのような牙や爪みたいのモノが良いか。
・・・いっそ、高級感を出すように全身金色に染めてみるとか?
スーパー野菜人みたいでカッコ良いかもしれない。
「ヒロさんのハクトは、何かトレードマークをつけませんの?」
考え込みながらラビットの様子を眺めている俺に、ピアンテが声をかけてきた。
ピアンテの手には幾つかの布が用意されている。
聞けば、これは彼女が所有していた服の切れ端らしい。
裕福な実家から飛び出すときに持ち出した衣服は、体の成長とともに着れなくなってしまい、このような形で再利用しているとのことだ。
彼女はこういった私物をチームに寄付し、それを皆に分け合う形で貢献することにした様子。
「私だけが持っていたって、楽しくは無いですから。こうやって皆と分け合えば、可愛いラビットが増えていきますし」
そういって照れ臭そうにはにかむピアンテ。
彼女なりにチームのメンバーと仲良くなるために色々考えているのだろう。
まあ、白兎の改造計画はさておき、ピアンテは俺が『招幸運の術』をかけてあげる最後の一人に相応しいだろうか?
出会った頃の彼女はとても褒められた性格ではなかったが、白兎の時の騒動の後、心を入れ替えてチームに貢献しようとしている。
それはそれで立派なものだが、すでに俺は彼女の願いを叶えてあげてしまっている。
その上で『招幸運の術』をかけてあげるのは、少しばかり甘やかし過ぎではないかと思う。
イマイチ決定打にかけるな。
他のメンバーを差し置いて、優先するだけの理由に乏しい。
かといって、イマリを対象とするのは、さらに理由が無い。
ほとんど接点がなかったし、会話したことも数えるほどだ。
サラヤの次のリーダー候補としての自覚は大したものだが、俺との関わりが少なかったこともあり、俺の彼女への思いがほとんど無いことがネックとなる。
うーむ。なかなかに難しいな。
腕を組みながら、少しばかり考え込む。
「ここにいたのか?ヒロ!」
「やっと見つけた!」
「あー!女の子とイチャついてる!」
この騒がしい声はデップ達だな。
最後の人のセリフについては心外だ。
女の子と話しているだけで、そう表現するのは小学生くらいまでだぞ。
「げー!デップ達!うるさいのが来たなあ」
イマリはデップ達を見てうんざりした顔。
これは悪戯問題児を相手にしている委員長的なアトモスフィアか。
「あら、デップさん達のラビットに色が・・・ちょっと可愛いかも」
ピアンテはデップ達が連れているラビットを指さしながら呟く。
見ると、デップ達のラビットにそれぞれ青、緑、黄色の帯が引かれている。
流線型の身体部分に沿って鮮やかな原色で染められており、まるで元の世界でよく見る商用車のカンパニーカラーのよう。
帯の部分も単純な直線ではなく、ラインを這うように波や風を表現したようなデザイン。
なかなかセンスある仕様に仕上がっているな。
皆の説得もあり、何とか全身を原色で染められる事態は回避できた模様。
あと、デップ達のラビットの額には、Vの字の飾りが付けられている。
それぞれ身体のラインに合わせた色にそろえてある。
まるでガン○ムの額飾りみたいな実用性が低いオプションパーツだな。
「うーん、身体のライン帯はカッコイイだけど、その頭に付けてるのは何?ちょっとダサい!」
イマリからの駄目だしが入る。
やはりロボットもの風のデザインは女の子の受けが悪い様子。
「何おう!これがカッコイイだろ!」
「そうだ!これは俺達が考えたヤツだぞ!」
「これをつけるとパワーとスピードが50%アップするんだ!」
最後の人、それは絶対にないから。
でもちょっとだけ気持ちが分かる。俺も男の子だからな。
「ほら、ヒロもカッコ良いって言ってるぞ!」
「女には分からないんだよ!このセンスが!」
「男の世界だ!夜空を流れるほうき星だぞ!」
すみません。俺にも最後の人の言っている意味がわかりません。
ウーッといがみ合うデップ達とイマリ。
ピアンテはどうしたら良いのか分からず狼狽えている。
この歳の男女ってこんなものかな。
もう少し年を取れば、お互い性を意識し始めるから、今とは違った関係になるだろうと思うけど。
「はいはい。みんな落ち着いて。それぞれセンスは個人差があるので、ラビットのデザインについてはお互い尊重し合いましょう」
しょうがないので、俺が割って入る。
「それより、先輩方。こんな時間に食堂へ何の用です。お昼にはまだ先だと思いますけど」
「あ、そうだ!ヒロを探してたんだ」
「そうだよ!プレゼント!俺等が作ったの」
「半分以上ザイードに手伝ってもらったけど・・・イテッ!」
余計なことを言った最後の人に、ツッコミが入るまでがお約束。
いつもの一連のやり取りの後、デップ達が差し出してきたのは・・・
黒いV字の形をしたラビット用の額飾り。
「ほら、やっぱり俺達って仲間だろ!」
「ヒロも仲間外れにしちゃ可哀想だからな」
「色もヒロがいつも着ている服に合わせたんだぞ」
おずおずと受け取る俺。
ちょうど手の平くらいの大きさのブーメランみたい。
金属を曲げたり削ったりして作ったようだけど。
うーん。俺も何か白兎に付けようかと思っていたけど、この黒いV字のパーツをつけるのかあ・・・
白兎を呼んで、衣装合わせならぬ、パーツ合わせをしてみると・・・
「ぷっ」
後ろでイマリが噴き出したのがわかった。
白い白兎の顔に黒いV字パーツをつけると、ちょうど繋がった眉毛みたいになってオモロイ感じに。
イマリは口を手で押さえて笑い出すのを我慢している。
そっとピアンテにも目を向けると、さっと顔を背けられた。
デップ達に視線を戻すと、何の悪気も見られない100%善意のキラキラした純粋な目。
「これで俺達とお揃いだな」
「ヒロが遠くに行ったって、仲間なのは変わらないぞ」
「このV字が俺達の絆の証!」
うわあ、これは断りずらい。
しかし、こんなラビット連れて歩いたらお笑い芸人と間違えられそうだ。
うぬぬ。何と言って断るべきか。
先輩達の期待を裏切るのは申し訳ないのだけれど・・・
『招幸運の術』の対象として、デップ達はどうだろう?
彼等は俺をこのチームまで連れてきてくれた恩人でもある。
そして、俺を無条件で慕ってくれているし、先輩として初期の狩りの仕方なんかを教えてくれたりもした。
しかし、デップ達への恩はすでに返しているとも言える。
仙丹で傷を癒したこともそうだし、機械種使いの才能も与えることもした。
十分恩以上のモノを返しているはずだ。
なにより、デップ達は3人いる。
このうち一人だけ幸運を与えるのは、彼等の友情を壊してしまう可能性がある。
やはり、術の対象とするのは難しいし、必要も薄い。
そんなモノが無くても、きっと3人で仲良く狩人を続けてくれるだろう。
いや、それよりも、今はどうやってコレの装着を回避するか?
受け取る自体は構わないが、白兎に装着するのは勘弁してほしい。
指でつまんだ黒のV字パーツを見つめながら、使い道について考えてみる。
せっかくデップ達が作ってくれたお揃いの品。
魔弾の射手から貰える車のエンブレムにでもしようか・・・
その時、パーツを抓んでいる指を通して、俺に何かを訴えてくるような薄い気配・・・これは?
何かを貰う度に感じてきた・・・新たな宝貝の気配。
しかし、宝貝に変化をさせるには少しばかり気配が薄い。
このようなケースは初めてだな。
素材の差なのか、それとも、何か別の理由が・・・・・・・・・
これ単独での宝貝への変化は難しいだろう。
何かを組み合わせる必要があるのかもしれない。
「そのパーツはザイードの所で接着してくれるぞ」
「ああ、そう言えばザイードがヒロを呼んでいたな。何かの修理が完了したって」
「今から行って来たらどうだ?」
俺がV字パーツを見ながらウンウン唸っているのを見て、デップ達は何かを勘違いしたようだ。
いや、どうやって取り付けるのを悩んでいるわけでは無くですね・・・
・・・修理?、あっ!ひょっとしてコボルトか?
ジュードと一緒に持って帰ってきたヤツ、ザイードに預けっぱなしだったな。
完全に忘れていた。修理が終わったら従属させようと思っていたんだけど。
よし、これを幸いとして、この場から脱出しよう。
先輩、このパーツはありがたくいただいておきますけど、白兎ではなく別の用途で使ってみることにします。
場合によっては原型を留めていない可能性もありますから、それはご勘弁を・・・
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