第176話 機械種3


「おお、流石ザイード。完全に直っているな」


「首に穴が開いていただけでしたから、線をつなぐだけで済みました。でも、首辺りの装甲が薄くなっていますので注意してください」


 1階の整備室で、白兎と一緒にザイードから修理したコボルトを見せてもらう。

 今は晶石未挿入状態で床に座り込んでいるが、ザイードの手にある晶石を頭部へはめ込むと、活動を開始するようだ。

 ただし、まだレッドオーダー状態なので活動させるなら、すぐに蒼石を使ってブルーオーダーしないといけないらしい。


 確か俺の手持ちの蒼石は9級と8級が少しと、ピアンテから貰った6級が一つ。


「6級は勿体無さ過ぎです。8級ならコボルトを7割くらいの確率でブルーオーダーできると思います」


「なら8級でブルーオーダーをやってみよう」


「じゃあ、駐車場に移動させて、万が一の為の戦力をそろえないと・・・」


「いや、コボルトくらいなら俺1人で大丈夫だよ。たとえ暴れて簡単に抑え込める」


 俺の言葉を受けて、ザイードが俺に目を向けてくる。

 ザイードの目は相変わらず鋭い感じ。じっと目を向けられると、何か睨まれているかのように思ってしまう。




「はああああ、ヒロさん以外が言ったら、僕は機械種を甘く見るなって怒ってましたよ」


 大きくため息をついて、肩の落とすザイード。


「普通の人にとっては危険なんです。何せ腕を掴まれたら、万力で締めたように潰されかねないですからね。身体こそ小さいですが、近接武器を持った人間1人の戦力に匹敵するんですよ」


 座っているコボルトの大きさは精々130cmくらいしかない。

 しかし、身体は金属でできているから、体重は100kg近くはあるだろう。

 近接戦ではウエイトが重要な位置を占めるとすれば、大人以上の戦力を持っているとも言える。

 

「その人間って戦闘訓練をしていない一般人のことだろう。俺もジュードもダンジョンでコボルトを何体も倒したぞ」


 白兎はコボルトに近づいて、匂いを嗅ぐようにフンフンしている。

 ラビットと比較しても体積は倍以上だ。戦闘力は通常のラビットの倍ではきかないはず。

 これを一般人が倒そうと思えば、銃に頼る必要が出てくるな。

 まあ、俺とジュードは鉄パイプで倒したけど。


「だからヒロさんとか、ジュードさんは普通じゃないんです。自覚してください」


 ジト目のザイードに軽く窘められる。

 この辺りの常識とのすり合わせは今後の課題だな。

 もうザイードのようにツッコミを入れてくれる人もいなくなるし。


 ともかく、さっさとコボルトを従属してしまうとするか。





 



「ヒ、ヒロさん、早く蒼石を!」


「はいはい、えっと、これで・・・」


 カシャーン!!


「あああああ、駄目です。失敗です!早く次のを・・・ああ、危ない!」


「コラコラ、暴れるな。えー、これは9級だから・・・これも違う」


「ヒロさーん(泣)!」


「大丈夫、俺が押さえているから・・・あんまりオイタしちゃ駄目だろう。よし、これだ。えい!」


 カシャーン!!


「また、失敗!つ、次のを・・・、ヒロさん!さっきからコボルトが背中殴りつけているみたいですけど、大丈夫ですか?」


「お、本当だな。気づかなかった。まあいいや。えっと、これでもない、これでもない・・・あ、ザイード。白兎を抑えておいてくれ。何か飛びかかりそうだ」


「え、ちょっと!早くしてくださいよー!」









「白の契約に基づき、汝に契約の履行を求める。従属せよ」


 目の前の、ブルーオーダーされて白くなったコボルトの両目が青く輝く。


「じゅ、従属成功です・・・」


 ややゲッソリしたザイードが声を絞り出すように成功を告げてくれる。


「もう、絶対に次はありませんからね。次は絶対に駐車場でしてもらいますから!」


「ごめんごめん。あれだけ失敗するとは思わなかった。成功率7割って本当か?」


「7割だからとも言えますね。所詮確率ですから。通常、ブルーオーダーする蒼石は常に1ランク格上のモノを使うんです。そうすれば成功率100%になりますので」


 ザイードが言うのだったら、そうなんだろう。

 こういう機械種についての細かい話は、雪姫のルートでも、魔弾の射手のルートでもあまり聞くことはできなかった。

 雪姫はブルーオーダーするのに蒼石なんて使わないし、魔弾の射手はあまり機械種を従属している者は少なかったからな。


 ザイードがいるおかげで、機械種の知識がかなり深まったと思う。





「ヒロさん、従属したコボルトはどうします?何か装備をつけましょうか?」


「いや、戦闘用に使うつもりは無いから、装備は要らないかな」


 コボルトは俺の命令が無い為、待機中だ。

 じっと俺の方向に顔を向けて、指示を待っている。


 さて、コイツの扱いをどうしようか?


 戦闘力では、もう俺のレベルにはついてこれないだろう。

 ヨシツネはおろか、白兎にすら及ばないに違いない。


 白兎はコボルトの足元でウロウロしている。

 もし、白兎がコボルトにもスキルを伝授できれば、多少はマシになるだろうけど・・・


 白兎に目線を飛ばすと、白兎は俺に顔を向けフルフルと首を横に振ってくる。


 うーん。ちょっと無理そうだな。

 やはり同じラビットでないと難しいのだろう。

 まあ、普通はそんなことできないのだから、仕方が無いか。


 となると、コイツの使い方は雑用くらいしか残っていない。

 普段連れて歩くのも力不足だ。

 であれば、七宝袋の中に収納しておいて、必要時に取り出すことにしようか。

 




 さて、ザイードに話を聞けるのも今日が最後となれば、機械種について聞いておかなくてはならないことがある。


 それは七宝袋の中に入っている黒騎士2体とビショップのことだ。


 俺の夢へと近づくステップのうち、俺の身の安全を保障してくれる強い機械種をそろえるというものがあり、その候補として挙がっているのがストロングタイプだ。

 そして、ビショップは間違いなくストロングタイプであり、黒騎士2体もストロングタイプの可能性が高い。


 しかし、どちらも戦闘で破壊しており、従属する為には修理が必要な状態だ。

 流石に上位の機械種であるストロングタイプの修理は、設備的にも技術的にもザイードでは対応できないだろうが、修理についての意見くらいは求めることができるだろう。

 壊れた機械種を修理工場、ここでは藍染屋と呼ぶそうだが、へ持ち込む場合の注意点とか、修理先の選び方とか、聞かねばならないことが多い。


 ただ、ここでネックとなるのが、どこまで俺の情報を開示するかということだ。

 当然、ストロングタイプの修理方法を聞けば、ストロングタイプを保有していると思われるし、実物を見せないと分からないようなこともあるはず。

 ここで実物を見せるとなれば、俺の七宝袋の収納能力を見せる必要が出てくる。

 どこかの廃墟に置いておいて、そこにザイードを連れてくる等の小細工をしている時間も無いから。


 この街を出てしまえば、ザイードに聞くことはできなくなる。

 それに他の街でそういったことを教えてくれるような人に出会えるかどうかも分からない。

 これがそのような知識を教えてもらえる貴重な機会かもしれないのだ。


 ザイードとは2週間ちょっとの付き合いだが、ある程度信用がおけると思う。

 絶対ではないにしろ、俺にとって不利益となるような情報の流出はしないだろう。

 

 

 よし、黒騎士の方を見せて意見をもらうことにしよう。

 


「ザイード、ちょっといいかな?」


「はい、何でしょう?」


 俺は胸ポケットから、部屋に置いてある折りたたんだ状態の生地の薄いトートバックを取り出し、ザイードに見せる。

 七宝袋ではない。ただのトートバックに過ぎないが・・・


「その袋がどうかしたんですか?」


 ザイードの顔にハテナマークが浮かび上がっている。


「ザイード。実は俺、鐘守である雪姫さんから色々装備を預かっていてね。これもその一つなんだけど・・・」


 七宝袋から黒騎士の身体を取り出し、トートバックの口を大きく開いて、さもトートバックから出てきたように見せかける。

 口の大きいタイプのトートバックでよかった・・・いや、ちょっと物理的に無理があるかもしれないが。



 ゴトンッ!!



 床に置いた瞬間、重量物の奏でる接触音が響く。


 身長が2m近い黒騎士の遺骸。


 

「な、な、なんです?こ、これ?」


 ザイードは大きく目を剥いて、口をパクパクさせながら声を絞り出す。


「うーん、何かと言われると、多分ストロングタイプの機械種だと思う」


「ス、ストロングタイプ?人間型機械種!ジョブシリーズの最高峰。人類の最も頼れる盾、そして、人類最も殺した機械種・・・」


 虚ろな目をして、ブツブツとストロングタイプの情報を垂れ流すザイード。


 イカンな。ちょっと刺激が強すぎたか。

 これじゃあ、もしレジェンドタイプのヨシツネを見せたらどうなるんだ?



 しばらくザイードが落ち着くまで待つこととなった。


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