第153話 驚愕
スラムに戻り、拠点に向かって足を進める。
俺の肩にはお土産であるマテリアル精錬器が入ったナップサック。
そして・・・・
トコトコトコトコトコ、ピョン、トコトコトコトコトコトコトコトコ
トコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコ
昼前には拠点に着くだろう。
ヨシツネのおかげで予想以上に早く帰ることができた。
トコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコ
トコトコトコ、ピョン、トコトコトコトコト、ピョン、コトコトコト
ヨシツネはもう七宝袋の中に入ってもらっている。
目立たない様にする為だったんだが・・・
トコトコ、ピョン、トコトコトコトコトコ、ピョン、コトコトコトコ
トコトコトコトコト、ピョン、コトコトコトコトコトコトコトコトコ
立ち止まって後ろを振り返る。
ピタッ、ピタッ、ピタッ、ピタッ、ピタッ、ピタッ、ピタッ、ピタッ、
ピタッ、ピタッ、ピタッ、ピタッ、ピタッ、ズルッ、ピタッ、ピタッ、
ピタッ、ピタッ、ピタッ、ピタッ、ピタッ
一斉に立ち止まって、俺を仰ぎ見る白兎+ラビット20体。
あ、1体ずっこけてる・・・
周りを見渡すと、俺を遠巻きに眺めている群衆。
その目は俺達を恐れているような・・・、奇異な物を見ているような・・・
うーん。20体を従属した時は、ちょっとテンションが上がっていたから、気がつかなかったけど、これはちょっと恥ずかしい。
しかし、こればっかりは七宝袋に入れて運ぶわけにもいかない。
チームの皆に七宝袋からラビットを取り出す所を見せるわけにもいかないし、きちんと周囲にチームトルネラの戦力が増えたことをアピールする必要があるから。
俺が歩き出すと、ラビット達もまた、俺に追従してくる。
トコ、ピョン、トコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコ
トコトコトコトコトコトコトコトコトコト、ピョン、コトコトコトコ
21匹うさちゃん大行進ってとこか。
これがウルフなら軍用犬を引き連れている感じで、カッコ良かったんだけどなあ。
「おーい。帰ったよー」
玄関には珍しく誰もいなかったので、白兎達を玄関前で待たせて、俺だけロビーへ入る。
お、大分汚れが無くなってきたな。
ひび割れの部分もベニヤ板なんかで隠しているようだし。
「あ、ヒロ。おかえりなさい」
・・・この声は?
振り返れば、ちょうどサラヤが2階から降りてきたところだった。
久しぶりのサラヤから『おかえりなさい』だ。
その姿は俺の記憶にあるサラヤと変わらない。
スラリと伸びた褐色の手足、年齢にしては発育の良いスタイル、茶色の髪をショートにした活発そうな雰囲気。
そして、明るいはしばみ色の瞳からは、強い意思が満ち溢れている。
俺がこの異世界に来て最初に好意を持った女の子。
そして、最初に振られた女の子でもある。
何年ぶりだろう。『魔弾の射手』ルートでは、サラヤに全く出会うことは無かった。
その時の俺の認識は、ジュードの恋人という記号でしかない。
アテリナ師匠のこともあって、あまり好意的な印象を持てなかった。
もし、ジュードがサラヤを連れて帰ってきていたなら、どうなっていたかな?
ふと、そんなことが頭をよぎる。
多分、魔風団でスタッフ的な仕事を割り振られたと思う。
全体的に能力が高めのサラヤだ。きっとすぐに仕事も覚えたことだろう。
アテリナ師匠とは、どうなっただろうか?
多分、ジュードがアテリナ師匠に靡くことは無いだろう。
でも、アテリナ師匠が諦めるとは思えない。
なんとなく、『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』って感じで、アテリナ師匠はサラヤのお姉さん立ち位置を狙うのではないだろうか。
そうして2人の保護者的立場から、徐々に妥協案を引き出していくような気が・・・
俺との関係はどうなったかな?
ジュードの恋人という位置が確定しているなら、俺が好きになることは無いと思う。
同じ猟兵団の仲間として、今の関係のように仲良くなれただろうか。サラヤを取り戻すことで、ジュードの性格が元に戻れば、そういった未来も在りえたかもしれない。
そうなればアテリナ師匠も、俺も魔風団を離脱することは無い。
魔風団は万全の体制のまま、進撃を続けることができたはず。
今思えばアテリナ師匠が抜けてからの魔風団は、色々と無茶をしていた。
アデットは失った物を取り戻すかのように、物事を性急に進めていったのだ。
結局、皆がそれに付いてこられずに次々と脱落していき、俺も耐えきれなくなって離脱を求めた。
きっとアテリナ師匠がアデットの重しとなって、ちょうど良いスピードになるよう調整してくれていたのだろう。
そのアテリナ師匠が抜けた時点で、魔風団の崩壊は避けられないモノだったのかもしれない。
それを考えると、もう少し早くサラヤを助け出すことができていれば、魔風団はアデットの目指す大陸一の猟兵団に辿りつけたのではないだろうかと思ってしまう。
不幸にも、そんな光景を見ることはできなかったけど。
あの未来視での君は、どんな道を歩んで、どのようにその道を絶たれてしまったのか。
ほんの少し胸が痛んで、顔をしかめてしまう。
「ん?どうしたの?あ・・・、もしかして・・・」
俺の表情を見て、何かを悟ったかのように悲し気な顔をするサラヤ。
「ヒロ・・・、元気を出して。まだ1回振られただけでしょう。雪姫さんも、きっとヒロの良い所を分かってくれるから・・・」
「いや・・・ちょっと待って!振られたわけじゃないから!」
慌てて否定する。
そうか。サラヤから見れば、そういう話のまま止まっていたな。
「結局、そういった話にならなくて・・・その、依頼を受けたんだよ、雪姫さんから!それが用事だったんだ」
「え、そうなんだ・・・、そっか。でも、まだチャンスはあるってことね。次を頑張りましょう!」
両手の拳をぎゅっと握る頑張れのポーズ。
相変わらずリア充陽キャラっぽい前向きな考え方だ。
うーん。これは元祖、幼馴染系、元気応援型ヒロイン。
まあ、俺のヒロインではないけれど。
「サラヤ。それより、見てほしいものがあるんだ。ジュードにも伝えていたけど、お土産があるんだよ」
俺のその言葉を聞くと、サラヤはちょっとピクッと反応し、体を硬直させるが・・・
自分の頬を、気合を入れるように両手でパン!と叩く。
「うん!大丈夫。ジュードから聞いていたから、覚悟はできているわ。もう絶対驚いたりなんかしないんだから!」
眉をキリリと引き締めて、覚悟を決めたようなサラヤの表情。
いや、そんなに警戒しなくてもいいのに。
そんな驚くようなものじゃないって!(嘘)
「こっちだよ。外に待たせてあるんだ」
サラヤを玄関外までエスコート。
ここまでくるとオチまで見えてくるな。
「・・・たとえヒロが、コブリンやオークを連れてきてても、驚いたりなんか・・・」
さあ、どうぞ。
目の前は白いモコモコに埋め尽くされている。
チームトルネラの玄関前に並ぶ、機械種ラビットの20体の群れ。
それは俺達が現れた瞬間、こちらを見上げてきた。
「ひっ!」
想像を超えた光景に絶句しているサラヤ。
「ラビット達よ。こちらが君たちがこれからお世話になるチームのリーダーだ。ほら、挨拶!!」
俺の号令を受けて、白兎がその場でピョンと一飛び。
それに遅れて、20体のラビットが一斉に跳ねる。
ビョンッ!!
ドンッ!!
うお、一瞬、地面が揺れたような・・・
流石に20体分の衝撃は大きいな。
「どお?サラヤ。これが俺からのお土産。チームの皆に一体ずつ従属してもらおうと思っているんだけど・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
サラヤから返事がない。
「サラヤ?」
ラビット達を見て、硬直していたサラヤは大きく口を開けて・・・
「・・・なんで??!!ラビットがいっぱあぁぁぁぁい!!!」
サラヤの悲鳴じみた驚愕の声が周辺に響き渡った。
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