第154話 懺悔


「ホント、もう、ヒロには最後まで驚かされっぱなし!」


 ちょっとプリプリした雰囲気のサラヤ。



 その感想は心外だ。


 これが最後の驚きであると誰が言ったのかな?

 フフフ、まだ俺には驚かすネタがあるのだよ?


 まあ、パンを作る、もとい、ブレッドブロックを作るマテリアル精錬器のことだけど。

 俺には必要なさそうな物だし、これはチームトルネラに置いていく方が良いと思っている。

 多分、チームトルネラの方が有効活用してくれるだろう。





 『この子カワイイ!』、『こっちにしようかな?』、『あー、それ僕の!』、

 『先に見つけたのは私!』、『この子にするー』、『私はどれにしようかな』、

 『ウルフが良かったけど』、『おれ、コボルトがいい』、『・・・メイド型』


 聞こえてくる賑やかた子供達の声・・・いや、最後の方はデップ達だ。


 ロビーでは皆が集まって、どのラビットと契約するかを選んでいるようだ。

 どれも一緒だと思うんだが・・・



 さて、そろそろ俺も移動するか。

 できればトールに会っておきたいんだけど。

 チームブルーワの件の詳しい情報とか、指の治療の件とかあるし。



 ロビーを離れて、男子部屋に向かうが、誰もいない。



「うーん。ここじゃないとすると2階か?サラヤに聞いておけばよかったな」



 俺が独り言を呟いていると、後ろから声がかかる。



「ヒロさん!」



 んん?

 ああ、ピアンテか。


「ありがとうございます。私の我儘を聞いていただいて」


 今までのピアンテとは思えない程の殊勝な態度。

 皆がラビットにかまっている中、わざわざ追いかけてお礼を言いに来るなんて、人間って変われるものだなあ。


「別に君だけの為ではないよ。チームトルネラの戦力拡充の為には必要なことだったからね」


「それでも、私の願いをかなえてくれましたから・・・」


 ピアンテの少しだけはにかんだような笑顔。


 うん。女の子は笑っているのが一番可愛い。


 ちょっとありふれていて、カッコつけた言い方だけど、その笑顔だけで報酬は十分だ。

 実際に口に出して言ったら、引かれるかもしれないから言わないけど。



「あの、ヒロさん。これをお礼に受け取ってもらいたいんです」


 そういって両手を自分の首の後ろに回すピアンテ。


 あ、それは・・・


 ピアンテの両親が残してくれた6級の蒼石が入っているペンダント。


「え、流石にそれは・・・、君の両親が残してくれたものだろう?」


 確か1万M、日本円にして100万円くらいの価値があったはず。

 いくらなんでも、ちょっと貰い過ぎのような気が・・・


「構いません。これはヒロさんに持って行ってもらいたいんです」


 ピアンテは俺の左手にペンダントごとぎゅっと押し付けてくる。

 


 おいおい、そんな強引に。


 おや?随分と思いつめた表情。

 何か理由があるようだけど・・・



「ヒロさん・・・お話したいことが・・・あります」


 俺を見上げるその顔は、何かを決意したような表情。

 ピアンテは俺の顔を正面から見つめ、ゆっくりと話し始めた。



「私・・・ヒロさんがハクトを連れて帰ってきた時、どうしてもラビットが欲しくて・・・この蒼石で奪ってしまおうかと考えていました」


 

 ウバワ・・・『知ってた。だから黙ってろ』!!


 吼えようとした『俺の中の内なる咆哮』を先持って抑えつける。


 ふう、最近は反射的にできるようになってきたな。

 実際に行動に移らなければ抑えるのも容易い。



 さあ、ピアンテの話の続きを聞かなくては。

 これは大人である俺の役目だ。



「あの時、ヒロさんが私に話しかけてくれなかったら、私・・・取り返しのつかないことをしていたかもしれません。私がこのペンダントを持っていたら、また悪いことを考えてしまいます。だからヒロさんに持って行ってもらいたいんです。きっとヒロさんなら私と違って、良いことに使ってくれるはずだから・・・」



 俺に縋るようなピアンテの目。

 彼女は俺に懺悔を求めているかのようだ。

 自分の醜い部分を告白するのは勇気がいることだっただろう。


 狩人の獲物を横取りする奴は、殺されても文句は言えないという。

 彼女はそれくらいの覚悟を持って、俺に告白してきたに違いない。


 

 さて、どうするかな?

 まあ、最初から結論は決まっているが。


 

 俺は左手でペンダントを握ったまま、右手を彼女の頭に伸ばす。


 するとピアンテは目を詰むって俯く。

 怖がっているのではなく、全てを受け入れるような、そんな表情。




 ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ


 ピアンテの頭を撫でてやる。

 アテリテ師匠達が俺にそうしてくれたように。



「あの・・・ヒロさん?」


 頭を撫でられているピアンテは、不思議そうな顔で俺を見上げる。


「俺の白兎を狙おうとしたことは悪いことだけど、実際に行動に移さなかったんだから、それはノーカンだよ。でも、自分からそれを告白したことは・・・自分の悪い所を認めるのは良いことだ。良いことをしたのだから誉めてあげないとね」



「ヒロさん・・・」


 少し潤んだ目で俺を見つめるピアンテ。


 この子は成長したなあ。初めは悪役令嬢なんて思ったけど、もう別人のようだ。


「このペンダントと蒼石は俺が預かっておくよ。何年か経って、このペンダントを持っても大丈夫なくらいに強くなっていたら、これを返そうと思う・・・いや、もっと良い物をプレゼントしよう」


 蒼石は多分使っちゃうから返せないし。

 その頃にはもっと稼げるようになっているから、倍にして返してあげよう。

 ペンダントの方は両親の形見みたいだから、これは返さないといけないだろうな。


 さて、何年後になるのやら。その時ピアンテはどうなっているのか。

 多分、この子がもっと成長したらいい女になっていそう。

 それを一目見る為だけでも、もう一度会いに行く価値がありそうだ。



「ヒロさん、ありがとうございます・・・」


 ピアンテの目から涙が零れる。

 そのまま、すすり泣きし始めたので、慌てて慰めに入る。


 誰もいない部屋で、年端もいかない少女を泣かせてしまっている。

 誰がどう見ても有罪判決を受けてしまうだろう。


 ピアンテが泣き止むまで、誰も来るなよと祈りながら、慰め続けた。











 泣き止んだピアンテを送り出し、男子部屋に残る俺。


 手にはピアンテから受け取ったペンダント。

 

 ロケットの中の蒼石は七宝袋へ収納している。

 だから、俺の手の中のペンダントはただのアクセサリーに過ぎないはずなのだが、何か気になってしまう。

 

 銀色のシンプルなデザイン。

 ロケットの部分にほんの少し装飾がある程度。

 おそらく隠し財産を収納する為だけのものだから、あまり目立つようなデザインにしなかったのだろう。


 でも、このペンダントから感じるピアンテが込めた思い。

 それは俺の中の何かを刺激してくる。


 この感覚は、過去何回も感じたことのある・・・新しい宝貝の気配だ。




 チラリと横目でドアに目を向ける。


 この男子部屋の出入り口であるドアには鍵は付いていない。

 たとえ深夜でもトイレに行く奴もいるから、毎回鍵の開け閉めなんかできるはずがない。



 まあ、念の為だ。

 急に誰かが入ってきたら困るしな。


 右手をドアに向けて禁術を行使する。



「ドアよ。開くことを禁じる。禁!」



 これで戸締りは完璧。

 誰かがドアを開けようとしても開かないから、びっくりするだろうが、これからすることを見られるよりはマシだろう。



 では・・・



 左手にペンダントを握りしめ、ペンダントに籠る思いと俺の仙骨からのエネルギーを混ぜ合わせる。


 

 そして、俺の口からその宝貝の名が発せられた。



「宝貝 九竜神火罩」



 俺の手の中のペンダントが輝きを放ち、その姿をほんの少しだけ変えた。


 銀色から派手な白金色へ。

 5cmくらいのロケット部分が、2cm程大きくなり。

 簡素な装飾が、複雑な模様を描く華美なものへと変化する。


 ロケット付ペンダントの形状はそのままだ。

 

 鎖の部分を手に持って、目の前にぶら下げてみる。



 九竜神火罩。

 

 それは、封神演義において、崑崙十二仙の1人、太乙真人の持つ宝貝だ。

 普段はお椀くらいの大きさだが、敵に向かって投げつけると、巨大化して相手を捕獲、そのまま中から炎を出して焼き殺すという凶悪なもの。

 しかし、どうやら巨大化して相手を包み込むだけで済ませることもできるようなので、捕獲用の宝貝として利用できそうだ。



 うん?

 どうやら、コイツはちょっとプライドが高いらしい。

 悪役令嬢風に言うなら『私を使いこなせるかしら』ってなことを言ってきているような気がする。


 うーん、何かコイツはツンデレ、ポンコツのイメージがするような・・・




 あ、しまった・・・

 このペンダントはピアンテの両親の形見だから返そうかと思ってたのに・・・



 ・・・うん。

 似たようなのをどこかで作ってもらって、誤魔化そう。

 最悪、俺の変化の術でどうにかなるし。




 素直に謝ったピアンテと違い、何て俺は悪い大人なんだろう。

 ピアンテは大きく成長したみたいだけど、多分俺は成長できなさそうだ。


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