第152話 群れ


「さて、次の任務だ」


「ハッ」


 トン


 直立不動のヨシツネ。

 泰然自若の白兎。


 我がチーム『悠久の刃』メンバー2名。


 人数こそ少ないが、少数精鋭の部隊とも言える。


 そんな自慢すべき優秀なメンバーに向けて、俺は次の任務の命を下す。

 

「これから行うのは『兎狩り』だ!」






「・・・兎狩り・・・ですか?」


 チラリと隣の白兎を見るヨシツネ。


 白兎は体をブルリっと震わせて、焦ったように耳をパタパタし始める。


「いや、違うぞ!白兎。お前のことじゃない。この草原に住む機械種ラビットをたくさん捕まえるんだ。それを片っ端から従属させていくつもりだ」


 危ない、危ない。

 危うく白兎の忠誠度が下がる所だった。


 白兎はびっくりしたのだろう。

 俺の足元に近づいてきて、縋るような仕草で甘えてくる。


 すまんな、驚かせてしまって。


 白兎の頭を撫で擦りながら、慰めてやる。

 こういう所は変わっていない。たとえ謎スキルが追加されていても、一番最初に俺が従属した機械種、俺の癒し枠である白兎に変わりは無いのだ。








 一しきり、白兎への慰撫をしたあと、改めてメンバーへ指示を与える。


「捕まえてくる目標の数は20体だ。ちょうどここに余裕を持ってブルーオーダーできるだけの蒼石がある。これで従属するラビットの群を作るんだ」


 俺の手にあるのは蒼石が詰まった灰色の袋。

 封灰布といって、外部から加えられるの衝撃から蒼石を守る効果があるようだ。

 いや、守ると言うよりも、この中に入れた蒼石は決して割れないようになるという。


 蒼石は一定の衝撃で自壊し、ブルーオーダーの波動を周囲にまき散らす仕様となっている。

 その為、使わない時はこの袋に入れておかないと、地面に落としたくらいで割れてしまうことがあるそうだ。

 

 アデットから貰った蒼石は8級と9級。

 ラビットに対して、8級ならほぼ100%、9級なら約70%の確率でブルーオーダーできるらしい。

 


「では、白兎は俺と一緒にラビットを探すぞ。ヨシツネは単独でも大丈夫だろう。蒼石を渡すから、これでブルーオーダーしてから連れてきてくれてもいいし・・・」


「主様、申し訳ありませんが、我々機械種は、蒼石の存在を感じることはできても、それを使用することはできません」


「へ?なんで?」


「機械種は蒼石を認識することができないのです。手に握ったとしても、その感触も感じることができません」


 ・・・そういえば、砂さらいの時にトールが、機械種は晶石、晶冠を見つけることができないと言っていたな。


 これもこの世界が決めた機械種の仕様ということか。

 まるで狩りに関しては、機械種に頼りきりにならない様に決められたような仕様だな。


 野外では機械種使いが機械種の近くにいないとレッドオーダーされてしまうように。

 狩りの成果である晶石を機械種が認識できないように。


 

「仕方が無いな。では、ヨシツネはラビットを捕まえて俺の前まで持ってきてくれ。それはできるな?」


「ハッ。お手数をかけまして申し訳ありません。主様の前まで拘束して連れてまいります」


「よし、ではミッションスタート!」









 あっという間に機械種ラビット20体が集まった。


 ヨシツネが短距離転移を繰り返し、俺の前に重量操作で宙に浮かせて拘束した械種ラビットを連れてくる。

 レジェンドタイプであるヨシツネにとってラビットの捕獲など、子供がバッタやコオロギを捕まえてくるより簡単なものであったのだろう。


 俺は従属させる文言をひたすら唱えて、片っ端から従属させていく。


 今回の任務は、俺が何体まで従属できるかの限界を知るという目的もあった。

 何体目かで、従属させたラビットが途中でレッドーオーダーされてしまうかもと思っていたが、結局20体を従属させても、その様子は見られない。

 

 良かった。俺が従属できるのが2体だけじゃなくって。



 未来視の雪姫ルートでは、俺が機械種を従属する機会はなかった。


 雪姫が従属させるなら、中央に行ってから良い物をそろえた方が良いと主張して譲らなかったから。

 俺的には、そこまで質を求めていなくて、とりあえず自分の言うことに従ってくれる召使のような物が欲しかったんだけど。

 従属させる機械種に拘りのある雪姫は、自分のパートナーである俺が粗悪品を従属させるのが我慢できないらしく、結局俺が折れる形となったのだ。


 魔弾の射手ルートでは、1体ノービスタイプを従属させて、俺の突撃時のサポートをさせていたんだが、すぐに戦場で破壊されてしまった。

 流石にノービスタイプでは超重量級の相手は力不足だったようだ。


 当時、厳選を重ねて購入し、手間暇かけてチューンナップした機械種だった。

 俺の新しい相棒だと、愛着を持って接していたから、かなりのショックを受けてしまい、それ以降、機械種を従属させることは無かった。



 それらと比べると、その点においては、今の俺は恵まれていると言えるな。


 俺の従属させている2体の機械種に目を向ける。



 ヨシツネは俺から少し離れた所で、周りに監視者がいないかどうかを警戒してもらっている。

 結構な大仕事を果たした後だが、疲労した様子は全く見られない。

 聞くと、目覚めたばかりなので、貯蔵しているエネルギーが満タン状態であるらしい。

 ダンジョン内では朱妃とぶつかり合い、この草原では連続空間転移を何十回も行ったにもかかわらず、エネルギー総量の5分の1も消費していないという。

 

 その貯蔵していたエネルギーが尽きた時に、その補給にどれくらいマテリアルが必要になるか、ちょっと怖くなってしまうな。

 まあ、その時は本人が必要分を申告してくれるらしいけど。



 白兎は従属させたラビット達に囲まれていて、白いモコモコの群れの一部と化している。

 全く同じ姿形だから、パッと見、紛れてしまってどれが白兎なのか分からなくなってしまうこともあるが、よく見ていると少しだけ他のラビットと挙動が異なる。

 おろらく備わっているスキルの差であると思うんだが。


 後で区別できるよう、何か印でもつけてやるか。

 なにせ『遊撃将軍』だからな。ラビット軍団を率いて戦うこともあるかもしれない。



「白兎、とりあえずお前がまとめ役だ。拠点に戻るまでになるだろうが、しっかり指導して、従属される機械種の心得ってのを教えてやってくれ」


 白兎は俺の方を向いて、了解とばかりに耳をパタパタさせる。

 そして、自分の周りを囲むラビット達に何かを伝えているような仕草を取り始める。



 うん。何匹か残しておいて、白兎の部下にしてもいいかもしれないな。

 ある程度数が必要になってくることもあるだろうし。




 俺がこれだけの数のラビットを集めた目的は2つ。


 チームトルネラの戦力拡充とピアンテのお願いを叶える為。

 

 俺が従属させたラビット達を、チームトルネラのメンバー1人ずつに譲り渡す予定なのだ。

 そうすることで、チームトルネラの戦力が向上し、課題であったピアンテだけにラビットを渡すことができないという問題も解決できる。


 そう、全員に渡してしまえば、贔屓でも特別扱いでもないということだ。


 俺がこれを思いついたのは、雪姫がラットの群れをけしかけてきたのを思い出した時。

 雪姫が弱い機械種でも数がそろえば脅威となることを教えてくれたのだ。

 

 ラットじゃなくてラビットというところがポイントだな。

 女の子にも喜んでもらえるだろう。





 ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、

 ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、

 ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、

 ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、



 白兎が何か指示をしたのか、ラビット達が一斉にその場で跳ねはじめた。

 そのあまりの数に、地面から砂埃が立ち始める。 



 う、流石に20体の数は多いな。



 それにしても意外だった。5,6体くらいで限界かなと思ったけど。


 これがラビットだから20体までいけたんだろうか?

 もっと上位の機械種、例えばストロングタイプでも20体まで従属できるのだろうか?


 

 もし、ストロングタイプの機械種を20体もそろえることができるのなら、もう俺を止められる奴はいない。

 中央の一流猟兵団でも、その下位機種であるベテランタイプを数体そろえているぐらいだった。


 それぐらい集めることができたのなら、俺の安全は確保できたと言ってもいいはずだ。たとえ、チートスキルが急に無くなったとしても、俺の安全を脅かされることはない。


 俺の七宝袋には1体のストロングタイプ、2体のストロングタイプと思われる機械種が眠っている。


 これらに準じるくらいの機械種を、あと、17体集めよう。

 それで俺の異世界生活の安全を確保する。


 よし!これが俺の次の目標だ!

 

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