闘神と仙術スキルでアポカリプス世界を駆け抜けろ！

第111話 推察

　俺は地面に横たわる雪姫をしばらく眺めていた。

　殺したことに後悔は無い。

　元々、俺へ無茶な要求を突き付けてきたのが原因だからだ。

　宝貝を渡す選択肢はありえないし、そもそも他の人間が宝貝を使用できるかどうかも分からない。

　雪姫と争いになるのは逃れられない運命だったのだろう。

　しかし、殺してしまっても良かったのかという思いは消えることが無い。

　まるで俺の為に用意されたかのような容姿と能力。

　性格は良いとは言えなかったが、それも許容範囲内くらいだ。

　俺はこれ以上のスペックを持つヒロインと出会えるのだろうか。

　今後、女性と会う度に雪姫と比べてしまいそうだ。

　どうやら雪姫の命を奪ったことで、俺の未来も影が差してしまった様子。

　はあ、とため息をつく俺。

　未来を悲観してのため息と、もう一つ。

　俺が思いのほか、ショックを受けていないことにショックを受けたからだ。

　ネット小説でも、ドラマでも、映画でも、自分が好きだった女性を自分の手で殺しておいて、ショックを受けない主人公っているのだろうか？

　確かに、『俺の中の内なる咆哮』に突き動かされて相手を殺害した後、罪悪感や後悔を感じたことはほとんどない。

　チームブルーワの中学生くらいの少年達を惨殺した時も、そんなことになってしまったことへの苛立ちは感じていても、自分を責めるような罪悪感に駆られることはなかった。

　俺は自分では普通の性格だと思っていたけど、実はクズで、最低で、冷血漢な人間だったのだろうか。

　チラリと横たわる雪姫に目を向ける。

　ひょっとして、君の失敗は、俺みたいなクズな人間に関わってしまったことかもしれない。君と僕は出会うべきではなかったのだろう。

　もし、俺という人間に出会わなかったら、彼女は今まで通りスラムで探し物をしていたはずだ。それが聖遺物のことなのか、それとも違うものなのかは分からなかったけど。

　そういう意味では俺が彼女の人生を狂わせてしまったに違いない。

　そのせいで、まだ年若い少女が１人命を失ったのだ。

　初めて俺の胸に痛みがこみ上げてくる。

　ごめん。俺みたいな人間に関わらせてしまって。

　ごめん。俺みたいな人間が君を好きになってしまって。

　ポロポロと俺の目から涙が零れてくる。

　別に、今になって殺してしまったことを後悔しているわけじゃない。

　俺は、多分、雪姫にフラれてしまったことに悲しんでいるだけだ。

　俺は自分のことしか考えない利己的な人間だ。

　だからこれは君の死を悲しんでいるわけじゃないんだ。

　しばらくの間、俺は嗚咽を堪えながら雪姫の亡骸の隣で立ち尽くす。

　それはこの世界に来て、初めて人の死を悼んだ時間だった。

　ようやく落ち着いた俺は、雪姫の機械種の残骸を回収することにした。

　置いておいても仕方がない。

　売るのか再利用するのかは分からないが、とりあえず七宝袋の中へ入れておこう。

　もし、再利用した場合、これまでの記憶はどうなってしまうのか。

　雪姫が従属している時の記憶が残っているなら、即、俺に襲いかかってくるだろう。

　しかし、以前、ザイードに聞いた話だと、頭を切り離された従属している機械種は数時間のうちに初期化してしまい、記憶や覚えたスキルを失ってしまうらしい。

　俺の白兎が壊されて、頭だけになってしまった場合、数時間のうちに新しい胴体をくっつけてやらないと俺との記憶を失ってしまうということだ。

　だから雪姫も頭を刎ねられたキキーモラやウルフを見て、家族を奪われたと表現したのだろう。

　どう考えても、数時間のうちに２体の首をくっつける為に、街へ戻るのは不可能だからな。

　まずはキキーモラの胴体を七宝袋に回収する。

　そして、その横に転がっている変形する槍を手に取る。

　長さは１．３ｍ程。俺には少し短いが、身長の低いキキーモラにはちょうど良い長さなのだろう。

　色々いじってみるが、傘や棍への変化のさせ方は分からなかった。

　そう言えば、初めに俺にかかってきた時は棍の状態だったな。

　なぜ、槍の状態でかかってこなかったのだろうか。

　明らかに槍の方が殺傷能力は高いだろうに。

　少し離れた所に落ちていた頭の部分を拾い上げる。

　白髪ショートヘアから白い犬耳が飛び出している。

　犬耳を除けば、小学生くらい少女の生首にしかみえない。

　いたたまれなくなって、俺の視界から隠すように七宝袋へ投入する。

　白いウルフも回収した。

　コイツも初めは足元しか狙ってこなかったな。

　ひょっとして最初は俺のことを殺すつもりではなかったのか。

　『白き鐘を鳴らす者』を僭称したから、殺すといった感じだったが、あれは建前だけだったのかもしれない。

　次は破損状態が激しいワーパンサーだ。

　上半身はほとんど粉砕しているようなものだから頭の部分くらいしか価値が無いだろう。

　ふと、ワーパンサーの手の部分が目に入る。

　俺の２倍はありそうな大きさで、指には鋭い爪が装備されている。

　思えば、コイツは爪を使わずに殴りかかってくるだけだった。

　やはり、雪姫は俺を痛めつけようとはしていたが、初めから殺そうとしているわけじゃなかったようだ。

　では、俺を殺そうとしたのは、このワーパンサーを破壊してからか。

　いや、その前にラットの群れをけしかけられた。

　あの大群に襲いかかられたら骨も残らない。

　分からない。雪姫がどういう意図だったのか。

　彼女は俺をどうするつもりだったのだろう。

　ラットの群れの残骸は焼け焦げてしまってどうしようもない。

　この様子では晶石も晶冠も残っていそうにない。

　まあ、正直、ワーパンサーや上忍よりも、ラットに襲われた時の方が危機感が強かったからな。金鞭で焼き尽くしたのは正解だろう。

　あれだけの群れに飲み込まれるところ想像するだけでゾッとする。

　これが白兎みたいなラビットだったらもう少しマシだっただろうが。

　何十体もの白兎が連なって跳ねる光景を想像してみる。

　意外に良いのかもしれない。女子供には受けそうなシチュエーションだ。

　んん？ひょっとしてこれは使えるかも・・・

　少しアイデアを煮詰めてみるか。

　上忍の残骸は原型を留めていない。

　俺が調子に乗って１６分割とかやってしまったせいだ。

　いや、１７分割だっけ？

　おまけに頭も踏みつぶしているからどうしようもない。

　俺！何やってるんだよ！

　・・・自分相手に怒っても空しいだけだ。

　コイツが一番高そうなのに。

　しかし、コイツだけ名前で呼ばれていなかったな。

　しかも、雪姫は家族と呼んでいた機械種の中にコイツは入っていなかった。

　コイツだけ新しく従属させたヤツなのだろうか、それとも違う理由があるのか。

　そう言えば、コイツの戦い方だけ、雪姫らしくなかったな。

　急所を狙ったり、目を潰しを仕掛けてきたり。

　もしかして、コイツは雪姫の従属している機械種じゃなかった？

　では何で雪姫の護衛をしている？

　彼女が言っていた組織、教会からつけられた護衛役なのだろうか。

　であれば、コイツだけ飛びぬけて上位の機械種であることにも説明が付く。

　では、雪姫はその教会から護衛役を付けられるほど、重要人物であったと言える。

　結局、雪姫の個人的なことは何一つ分からなかった。

　彼女の本来の性格も、趣味も、好きな食べ物も分からないままだ。

　いや、一つ方法がある。

　俺が選ばなかった方の未来を見れば済むことだ。

　もし、彼女と敵対しない道があったのなら教えてくれ。

　俺はどうやったら彼女と親しくなれたんだ？

　知りたい。彼女がどのような人間だったのか。

　どんな考え方をして、どんな趣味があって、どんな食べ物が好きなのか。

　彼女と違う出会い方をしていたならどうなっていたのかを見てみたい。

　俺は祈るような思いで未来視を発動する。

　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　それは俺が人を探して夜の街を彷徨っていたところから始まった。