第107話 窮地2
「押しつぶせ!降魔杵よ!」
降魔杵を左手に持ち、自分を中心として、その効果を発動させる。
ミシミシミシミシ!!!
俺を中心として半径5mの地面が、見えない重石に押しつぶされるように沈下していく。
ぐっ!なかなかにきつい。
当然、中心にいる俺が一番重力がかかってしまうが、そこは闘神パワーで耐える。
重力がどんどん強くなっていく中、俺の前方右斜め前、2mくらいの位置に大きな凹みが発生した。
ほら、俺の方にかかっている重力の方が強いが、体重はそちらの方が何倍も重いはず。後はどちらが力が強いかだが、これは俺が負けるはずがない。
周りの風景のほんの少しのずれが、薄っすらとワーパンサーの今の体勢を形作る。
どうやら膝立ちで高重力に耐えているようだ。
動けないなら今がチャンス!
さっきから散々好きに殴りかかってくれたな。
これはそのお礼だ!
未だ動きの取れないワーパンサーへ中腰からの正拳突きを叩きつける。
ドン!!
俺の正拳突きをまともに喰らったワーパンサーは装甲の破片らしきものを散乱させながら後方へ吹っ飛んた。
ふう、スッキリした。
おっと、降魔杵を解除しなくては。
ん?どうやら光学迷彩とやらも解けてしまったようだな。
5m程吹っ飛び、姿を見せたワーパンサーは右胸から肩までの部分が綺麗に無くなっている。拳が当たった部分を中心に、半径20cmくらいを粉砕したようだ。
頭を狙ったつもりだが、肩に当たってしまったか。
しかし、もうこれで戦闘不能だろう。
「パサー!!」
雪姫の焦った声が廃墟に木霊する。
初めて聞く雪姫の動揺した声。
思わずワーパンサーから視線を外し、雪姫の方に目を向けた。
そこには表情こそあまり変わらないものの、その目に怒りを湛えて俺を睨みつけている雪姫姿があった。
「もう許さない。絶対」
それほど大きい声ではなかったが、その中に込められた激しい怒りが俺に伝わってくる。
許さないって、どうやってだ。自分の最大戦力はたった今無力化したぞ。
残っている機械種は、ワーパンサーよりも格下の2体のみのはずだ。
これで勝てる見込みは無くなったはず。
何かここから逆転できる手段でも持っているのか?
それとも・・・
ゴン!!!
その時、俺の首へ衝撃が走った。
何か固い物を超高速で真後ろから叩きつけられたような一撃。
そのインパクトだけで周辺の空気が弾け飛んでしまったような威力。
おっとっと。
前につんのめりそうになる俺。
え、何?
振り返ってみるが、誰もいない。
周りを見渡してみても、先ほどの衝撃の元が何か分からない。
え、なんだよ?さっきのは?
見えない攻撃?
俺が吹き飛ばしたワーパンサーに目線を飛ばすが、こちらは倒れたままだ。
ひょっとして、光学迷彩を使う機械種がもう一体いたのか?
「そ、そんな・・・ジョウニンの首狩りが効かないなんて・・・」
俺の耳に届いた、雪姫から漏れる擦れたような声。
その顔は驚愕の一色で染まっていた。
ジョウニン?
じょうにん?
情人!!
え、愛人がいたの?ビッチか?雪姫はビッチなのか?
いや、待て。確か首狩りって言ってたな。首を切り飛ばすってことか。
思い当たるのは、一撃必殺のクリティカルヒット。
敵にされたらこれ以上腹立たしいものはないだろう。
それを得意とするRPGゲームキャラの職業があったな。
忍者。
ジョウニンとは、もしかして忍者の位である上忍のことか?
エエ!!ニンジャ?ナンデ?
忍者なら姿を消してもおかしくないが、なんで忍者がいるんだよ。
世界観がおかしいだろ!
「おい、雪姫!なんで忍者がいるんだよ!」
「ニンジャなんて・・・知らない。それよりどうしてストロングタイプ、ジョウニンの一撃を喰らって生きているの?」
雪姫は絞り出すような声で俺に問いただしてくる。
と聞かれても、仙衣に守られていたとしか言いようが無い。
真後ろからの攻撃だったから、パーカーのフードが守ってくれたのだろう。
もちろん言うつもりはないが。
それよりも、さっき雪姫はストロングタイプって言ってたな。
前に総会で、フンババに挑んだチームはストロングタイプの機械種を手に入れたから、調子に乗ったんだという話があった。
調子に乗りたくなるくらいに強い機械種ってことか。
おそらくはヒューマノイドタイプより上位の機械種だろう。
なるほど。雪姫はワーパンサーが切り札だって言ってたが、さらにその奥の手として、そのストロングタイプの上忍という機械種を用意していたのか。
やるな。切り札と見せたのはブラフでさらに奥の手を用意した2段構えだったということか。
ストロングタイプ、上忍の機械種か。ほしいな。何とか手に入れられないかな。
その為には、何とかして姿を消している上忍を見つけないと。
周りを見渡して、上忍を探してみるが影も形も見当たらない。
先ほど後ろから首に一撃を貰った時も、すぐに振り返ったが、全くその姿を見ることができなかった。
ワーパンサーの光学迷彩であれば、薄っすらと周りの風景とのズレを発見することができたが、上忍のそれは完全な不可視となっていると思われる。
おそらく、俺への一撃の後、すぐに俺から離れたのだろう。
ワーパンサーを仕留めた重力攻撃を警戒しているのかもしれない。
ひょっとしたら、俺のすぐ近くで俺の隙を狙っている可能性もある。
なにせ完全に透明なんだから目の前にいても分からない。
とにかく顔だけは守らないと。
そう思ってフードを深めに被りなおす。
これで顔面への攻撃を防げば、致命傷は無いはず。
あとは動き回って、的をずらせるくらいしか対策がないぞ。
ドン!!
右腿の辺りに強烈な一撃が入った。
俺の足元が十数センチ、地面にめり込むほどの威力だ。
ビシビシと衝撃波が周りの空気に伝染する。
どうやら蹴りだったように思う。
かなり激しく動き回っている俺に、こうも正確に命中させてくるなんて。
どうやら上忍の格闘スキルもかなり上位のものなのだろう。
くそっ!
上忍がいそうな辺りへ裏拳を放ってるが、不発に終わる。
ドン!!
裏拳のお返しとばかり、次は腰へ一撃を入れてくる。
今度もまた、蹴りだったようだ。
俺に命中する度に空間を破かんばかりの衝撃をまき散らす。
地面が渇いていたら砂埃がひどく舞い上がっていただろう。
威力はワーパンサーなんて比較にならない。
仙衣が無ければ俺は一瞬で爆砕されていたかもしれない。
仙衣のおかげでダメージは無いとはいえ、このままでじり貧だ。
バシッ!
次は左腿だ。
俺がちょうど動いてたところだから、少しばかりかすった程度。
さっきから下半身ばっか狙いやがって・・・
ひょっとして、コイツ。俺の急所、金的を狙いに来ているんじゃなかろうな。
・・・ありうる。
首への一撃が効かなかったから、他に弱点になりそうな部分を狙っていても不思議ではない。
雪姫め。そんな鬼畜な攻撃を従属させている機械種にさせるなんて。
意外だったな。そこまで下品な攻撃を指示するように見えなかったけど。
仙衣の上からだからって、急所に一撃を入られたらどうなるんだ?
その痛みを想像したら、ちょっとだけヒュンっとなってしまう。
ヤバいな。早く対策を考えなくては。
これはヘルハウンドとダイヤウルフの時以上の強敵かもしれないない。
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