第108話 強敵


 フラフラと無規則に体と足を動かし、移動しながら踊るように、上忍の攻撃を躱そうとする。


 全く事情を知らない奴が見ていたら、奇妙な動きで踊り狂う変人としか見えないだろうな。


 たまにパンチやキックを出鱈目に放ってみるが、当たる気配はない。


 まあ、当てようとも思っていないし、あくまで牽制だ。


 一撃で破壊したワーパンサーを見ているはずだ。俺の攻撃力は脅威に感じているに違いない。こうやって、万が一当たるかもしれないくらいの攻撃を放つだけでも十分な効果だろう。



 さて、どうしようか。見えない敵への対処は、踏んだら音の鳴るようなもの地面に撒くか、小麦粉のようなものを辺りにまき散らすかだけど。


 ある程度目星がつけば有効だろうが、この戦場では範囲が広すぎる。

 俺が召喚できる量ではカバーできない。


 あとは、俺が唐突に心眼に目覚めるとか、気配を読むとかだけど、これも望み薄かな。

 そもそも機械種に気配とかあるかどうか分からない。




 ビュン!!




 目の前の空気が切り裂かれる。


 おそらく目測を外した上忍の手刀か何かが通り過ぎたのだろう。

 風圧だけでフードが捲り上がりそうになる。

 

 居そうな場所へ前蹴りを放ってみるが、手ごたえは無し。

 逆に蹴り上げた足にカウンターの一撃をもらう有様だ。


 こちらにダメージは無いが、いい加減にストレスが溜まってくる。

 




 コイツは出鱈目に移動する俺を追いかけながら、ヒットアンドアウェイを繰り返しているのだろう。

 ただし、ワーパンサーの二の舞を演じない様に、俺との距離は余分目に取っている様子。

 10m程の距離を一瞬で詰めてきて、数発攻撃を入れたら、即離脱を繰り返そうとしているようだ。


 見えない敵に慎重な行動をされると、なかなか攻略法を見つかられない。


 こういった敵には強力な範囲攻撃が一番なんだが。


 俺の手持ちで範囲攻撃というと


 金鞭の電撃   前方30mくらいの扇形

 降魔杵の超重力 半径5m程


 くらいしかない。


 精々有効そうなのは金鞭くらいだが、これもせめて方向くらい分からないと攻撃範囲内に捉えるのは難しそうだ。

 それに発動までのタイムラグもあるから、こうやって攻められている間は使いづらいし、万が一奪われてしまったらと思うと、迂闊に使用できない。




 ズン!!



 背中に攻撃を受ける。

 当たった感触から手刀を突きこまれたようだ。

 

 思いっきり腕を後ろに振り回してみるが、すでに離脱していた模様。



 イカンな。このままだと勝負がつかない。

 向こうの攻撃は俺に効果は無いし、俺が相手に攻撃を命中させることができない。


 このまま時間切れの引き分けを狙うか?

 しかし、その判定を受けるまで、俺が攻撃を受け続けないといけない。


 いっそ、雪姫が諦めるまで風吼陣を張って中に引き籠るという選択肢もあるな。



 んん?陣か・・・



 

 確か、十絶陣にアレがあったな。

 一度試しているのもいいかもしれない。




 七宝袋からダイアウルフの残骸の足の部分を取り出す。

 

 これくらいの長さでいいか。長さ的に鉄パイプが一番良かったんだけど、あれは倉庫に置いてきたからなあ。


 ウルフの足を棒代わりに地面に突き立てて、そのまま走り出しながら円を描くように地面に線を引いていく。


 その間も、俺に何回か攻撃が命中するが、意にも介さず、ひたすら円を描くのに集中する。



 なんか懐かしい。昔、こういう遊びをしたなあ。



 そして、直径30m程の円を描くとその中央へ向かい、ドンと円の中心を足で踏みしめる。



 準備完成!



 両手を合わせて、仙骨からエネルギーを吸い上げる。


 そして、使用するのは・・・



「敵を照らせ!十絶陣が一つ、金光陣」





 俺の描いた円周に光が灯り、辺りと包む朧光の膜を作り出す。

 膜の中の空間は明滅を繰り返しており、現実とは隔絶した夢幻世界を映し出している。

 やがて光は円内の一ヶ所に集まりだして、陣への侵入者を照らし出した。



 そこに現れる180cm程の人間型の機械種。

 純白の忍び装束に頭巾を被ったような装甲。

 正しく忍者のようなスタイル。


 これがストロングタイプ、上忍か。


 

 ようやく敵を見つけることができて、舌舐めずりをする俺。



『金光陣』は前に俺が使用した『風吼陣』と同じ、截教の高弟、十天君の使用する十絶陣の一つ。効果は侵入者を光で照らして溶解させるという凶悪なものだ。


 今回も線で描いただけのインタントの陣だから、溶解させるほどの効果はなさそうだが、光学迷彩をはぎ取るくらいの効力はあったようだ。


 さらに、光で照らされている上忍は動作不良でも起こしたかのように、緩慢な動作で苦しむような動きをしている。


 金光陣の発する光が機械種の内部へなんらかのダメージを与えているのかもしれない。



 よし!成功。

 今のうちだ!



 上忍へ飛びかかり、手刀を構え、喉元に狙いを定める。


 コイツはできれば手に入れたい。ブルーオーダーするのに、何級の蒼石が必要になるか分からないが、これほどの上位機種を取り逃すのは勿体ない。


 できるだけ損傷を少なくして、七宝袋の中へ入れておきたい。




 サクッ


 


 俺の繰り出した手刀は上忍の喉元を抵抗なく貫通する。


 


 え、柔すぎないか?


 俺の闘神スキルがあるとはいえ、まるで抜け殻を突いたような・・・



 あ、これは・・・



 俺の目の前の上忍の姿がポロポロと崩れ去っていく。



 身代わりの術、若しくは空蝉の術か!


 

 それに気づいた瞬間、俺が貫いた上忍の後ろから、全く同じ姿の上忍が飛び出す。



 そして、俺の顔面向けて突き出してくる手刀。





 ザグッ





 俺の右目に上忍の指が突きこまれた。




「がああああああああくぁあ!!!!」




 突然の痛み。右手で目を抑えながら、左手を反射的に振り回す。




「ああああああああああ!!!!」




 右手で押さえていても、右目からはポタポタと液体が零れ落ちているのが分かる。




「あ、あ、あああ、あああ、あ」




 片方の視界が塞がった。右目に痛みが走り、液体が溢れてくる。




 俺の右目が・・・ああ、俺の目が・・・




 奪われた。




 ウバワレタ!




 俺の中の内なる咆哮が、これまで聞いたことが無いくらいの叫び声を上げた。




 アアアアアアアアアア!!!!!


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